地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
僕は手に、半分に切った日本の国旗と、同じく半分に切った韓国の国旗を持っていた。 ビルの屋上にいた。地上にはたくさんの人がいて、僕を見上げている。 僕はポールに、半分に切った日本の国旗を掲げた。 すると警官がやってきて、僕を逮捕した。 「所持品を見せろ」と警官は言った。半分に切った韓国の国旗を僕は見せた。 「これがいけなかったんですか?」 「もう半分はどこにあるん...
そこはどこなのか。深夜なのに明るい。太陽が出ている。太陽は白い。正気を取り戻したゴッホは何を描いたらいいのかわからない。しばらくの間僕と一緒に悩む。 僕の家があって、いつもよく行くスーパーがある。この間ショパンと行った食堂がある。食堂のおばちゃんとは顔見知りだ。しかし今日はいない。 この時間には必ずいるはずの常連客の姿もない。マスコット的な存在である黒猫もいない。代わりに子犬が寝...
ホール&オーツの曲でどれがベストかという話題になった。誰かの狭い部屋だった。座るところがなくて、僕は壁にもたれたままみんなの議論を聞いていた。 ラジオからは、ノンストップで昔の懐かしい音楽が流れた。なのにどうしてだろう、ホール&オーツの曲は1曲も流れなかった。「CDを聴こう」と僕は言った。ホール&オーツのベストアルバムがあるだろう。でも探したけどなかった。 ...
下半身を露出したホームレスの男が僕に箒を差し出した。早口の英語で何か言った。まったく聞き取れなかった。 オーケーだよ。僕はその箒で道を掃除した。 そうしろと言ったんだろ? 僕が掃き集めたゴミの中に、銀色に光る紙切れがあった。ホームレスの男はそれを宝くじだと言う。 「QRコードを読み取ってアクセスしてみろ、当たりくじかも知れんぞ」 そのとおりだった。当選金84億ド...
明達(明達と書いてアキラと読ませる)は僕たちの前で不正に入手した茶を飲んだ。「味は変わらないんだろ?」と僕たちは言う。「そうだね」と明達は答える。「何も変わらないよ」 「でもまぁ、決まりは決まりだから」。そう言って僕たちは、明達を通報した。 「早く逃げなよ。逃げないと‥‥」 だが、いつまでたっても警官はやってこない。 ...
ジャケットを脱いだけどまだ暑くて、結局僕は上半身裸になった。地下鉄の駅に電車が来た。ドアが開いた。ドアじゃないところも開いて、僕はそっちから乗り込んだ。 車内も暑かったが、女性の目が気になって、僕は上着を来た。手に持っていたはずのシャツはどこかでなくしてしまった。素肌に直接着たウールのジャケットは、汗でだめになってしまうだろう。 切符を3枚、地下鉄の路線図と一緒に持っていた。1枚...
縁日に皿を買った。友達が買えというのだ。縁日というのはそういうものだと。皿の縁は緑色だった。その友達は日本語があまりできない。きっと縁と緑を間違えたのだ。 ...
日本は2回戦で負けたが、決勝まで行くと思って買っていたチケットで次の試合も見た。知らない国同士の対戦だった。応援している観客はみんな外国人だった。観客席で悪目立ちしている自分を感じた。 何でこんなところにいるんだ? 観客の1人が僕に言った。みんなが待ってます。場内のアナウンスも僕を呼んだ。僕は選手なのだ。ゴールキーパーなのだ。チームは1点差で負けていて、これ以上の失点は許されなかった。...
クレジットカードは紙製で、ポケットに入れておいたらすぐに折れ曲がってしまった。失敗したなと思った。でも僕のカードじゃない。店で拾ったものだ。不正に使ってやろうと思っていたものだ。 外に出て、道を歩いていたら小さなブタ箱があった。フタは開いていて、ブタはいなかった。それで僕がその中に入れると思った。ブタの代わりに。でも入らなかった。明日入ろうと思った。明日でいいだろう。 ...
友達が「合格」した。僕はそれを讃える歌を歌った。パーティーだった。讃歌をみんなで歌い合った。天使の羽根を象ったケーキが出された。友達は一口だけ食べて言った。「本物じゃないか! 本物の天使の羽根だ!」そして僕に残りを食べていいと言った。 ...
君がバッハの「平均律」の最初のプレリュードを弾くのにかかった時間は、20秒に満たない。1音も抜かさず、どうやって弾いたんだろう。僕は席を立って、ピアノの側まで行った。 そこで見た、君が長い木の板を手に持っているのを。君は板で鍵盤を押しつけた。そして鍵盤から離した。その間10秒。フーガの演奏は終っていた。また新しい板が用意される。 ...
バスに乗ろうとして停留所まで歩く。すると停留所は蜃気楼のように遠ざかっていく。歩いても歩いても辿り着けない。結局僕たちは駅まできてしまう。(電車に乗ればよかったのさ。) 駅には大勢の人がいる。全員が同じ列車に乗る。全員がかなり太っている。僕たちは乗れるだろうかと思う。乗れなかったら抗議しよう、と君は言う。僕を相手に抗議の予行演習をする。すでに抗議する気でいるのだ。 ...
あてがわれたホテルの部屋には浴室しかなかった。バスタブにはすでに湯が張ってあった。そうやってフロに浸かったまま過ごしていると時間の感覚が失われた。記憶も溶けてしまったようだ。「そろそろ出発です、支度して下さい」、と言われても服をどこに脱いだのかわからなくなってしまった。 バスタブから出て大きな鏡の前に立った。いつの間にか体中に白い毛が生えているのを見た。まるでシロクマの着ぐるみを着てい...
モーツァルトの巨大な像がある広場に人だかりができていた。コマーシャルの撮影らしい。メガホンを手に女性が群衆に説明している。スーツを着て、サングラスをかけて、英語で。 「ここに車がやってくる。車はダンスする」 (モーツァルトの像はよく見るとロボットだ。目は赤い。) 石の段の上に乗って、そのダンスを眺めることに。前にいた金髪の少女が、こちらを振り返った。僕の顔を見上げて、は...
バスの停留所は僕が昔通っていた幼稚園のそばにあった。「あの辺はよく知ってるんだ」と僕は思った。 いちおう地図で確認した。幼稚園の北側は未開発地区、地図は見たことのない記号で埋め尽くされている。 南は都市の中心部だ。 南からやってきたバス。北へ向う、と見せかけてUターンする。北には行けないのだ。 僕はかまわずバスに乗り北にカメラを向ける。 すると窓にさっきの記号が...
私は黒いシーツをかぶる。 「シーツ?」 演技をするときには、ブラック・シーツを頭からかぶる。そうすることで、本当の演技力は鍛えられるのだ。 そう語る演技王が何を演じているのか、僕にはさっぱりわからない。 シーツのせいだ。 ...
コンビニで女性のファッション誌を見てみると、モデルは僕たちだった。僕たちは女の顔をして、女物の服を着て、男と腕を組み、大きく口を開けて笑っていた。僕たちはその雑誌を買った。 コンサートに行くと、ステージで歌っていたのは僕たちだった。僕たちは動物の着ぐるみを着ていた。どうしてそんなものを着て歌っているの、と訊いた。 これはリハーサルなんです、と僕たちは答えた。 本番では何...
メイク動画の生配信をしている最中に唇のある鸚鵡は逃げ出した。すぐに追いかけたが遅かった。唇のある鸚鵡は僕が本当は男であることを見抜いていて、それを日本中に暴露した。 僕の顔はまだ唇がノーメイクだった。その唇を僕が女のように震わせると、それが最後の配信になった。僕のアカウントは大炎上して閉鎖された。 ...
動物園に行くとサイの檻の前に立て看板があった。「サイに質問をしないでください」と書かれている。 「サイが質問に答えられなかった場合、危険です。わからないことがあると、サイは体当たりしてきます」 角で突かれた人間のイラストが添えてある。 ...
蝶がゴルフクラブを持って飛んでいた。ゴルフをやっているのだ。地面には小さなボールがあった。蝶はひらひらとその上に飛来して、何度かスイングを試みるのだが、風に煽られてうまくいかない。ギャラリーが「あぁ」というため息をもらす。 ...
待っていたエレベーターの扉が開くと、その向こうには1台の自動車があった。運転手は乗ってなかった。人の乗るスペースはほとんどなかったが、僕の隣で待っていた人は躊躇なく乗り込んだ。 なので僕もそのあとにつづいた。意外と乗れた。乗ろうと思えば、車の屋根の上にも乗れるではないか。 ...
顔中にピアスをした店員が僕に親し気に挨拶した。本当に知り合いだったのかも知れないがわからない。そこは洋服を売っている店だったが店内には書籍もあった。僕はそれを見て時間を潰すことにした。 コーネリアスの小山田圭吾の書いた小説が置いてあった。舞台は19世紀のニューヨークで、ある夏の暑い日、留置所にぶちこまれていた酔っ払いや、犯罪者たちが、物理的に「融合」してしまうという話だ。 ...
どうやってかホテルの部屋に入り込んだ2人の若い女が、僕の帰りを待っていた。遅かったのね、と言う。ずいぶんと散らかってるわこの部屋。 僕は最初申し訳ない気持ちで掃除を始め、自分で飲むために買ってきたジュースを彼女たちにあげるが、そのうちに腹が立ってきて、机や椅子を蹴飛ばす。昨日からこの女たちはいた。椅子の背にかけてあった女物の下着が落ちる。 ...
隣の保育園の人が、うちに来て、毎日うるさくないですか、と訊いた。 僕は隣が保育園だということも知らなかった。 「えっ、保育園なんてありましたっけ?」 「子供の姿なんて見たこともないし、声を聞いたことも‥‥」 ならいいんですけど、そう言ってその女の人は帰った。 気になって僕はその人の後をつけた。 ...
実家のテーブルの上の日に焼けた封筒の中身は旧紙幣だった。1/3を取って残りは妹たちに残した。妹たちはもう帰ってこないかも知れない。わかってる。思い直してもう1/3を取った。それでも全部は取れなかった。 居間にテレビがあった。梱包されたままの状態で埃をかぶっている。僕はそれを車に積み込んだ。もしかしたら売れるかも知れなかった。 ...
広間の床には何本かの直線が引いてあって、それは完全な二次元の線だったので僕らの目には見えなかったが、どこからかあらわれた子供たちがその線上を駆けていき、そしてまたどこかに消えていくのを見ると、存るということだけは信じていい気もして、1人子供たちの後を追うのだ。 ...
アイドルグループのメンバーの1人は、グループのマネージャーと結婚していた。それは秘密ではなかった。プロフィールにも記載されていた。なのに誰もそのことを知らなかった。メンバー以外で知っているのは僕だけだった。 メンバーの別の1人が、今日のステージで、結婚を報告した。大騒ぎになるだろう、と思った。しかし無風だった。 というかやはり‥‥ 結婚を発表したコが、バックステージで、僕の...
雷が鳴った。振動で窓ガラスが外れてしまった。外に出てそれを嵌め直していると、小学生の女の子が来た。 「誕生日おめでとうのプレゼントあげる」 「ありがとう」 「今から塾だから。あとでまた来る」 でれでれ。 部屋に戻ると、ベッドでホームレスが寝ていた。 「やれやれ。オレが昨日までここに住んでたんだ」 ...
曲名は、Auf dem wasser zu singen ドイツ語。 それを目にして、君は「この曲、コンサートで1回だけ弾いたことがある」 鼻歌で Auf dem wasser zu singen を歌い始め‥‥ 「パリだった」 「昨日のことみたいに話すのね」 「昨日まで雨が降ってた。パリは‥‥」 僕だけが韓国語で話している。君は笑った。その笑い声は何語でもない...
命令通り、逮捕したドイツ人の母娘を、フランスまで連行した。銃で脅した。ところがパリに着くと、僕の上官は、ひどく取り乱した。すぐに釈放しろと言うのだ。 僕は母娘を、駅まで引っ張っていき、そこで手錠を外した。「もう帰っていいよ」とぶっきらぼうに言って、金を渡した。その金で彼女たちが、ドイツまでの切符を買い、列車に乗るのを見て、踵を返した。 すると空から、爆弾の雨が降ってきて、いくつか...
娘たちが僕の部屋に来て『デザインの現場』や『美術手帖(BT)』のバックナンバーを見ている。 「貸してほしい」と言われたら貸すつもりだし 「ちょうだい」と言われたらあげるつもりだ(もちろん)。 でも誰も何も言わない。 よだれを垂らさんばかりに夢中になって眺めている。 娘たちが大嫌いなはずの雷が外で激しく鳴っている。 ドアの影に隠れて誰かがメンソールの煙草...
革靴に人間用の保湿クリームを塗った。すると革靴は人間になった。履いていく靴がなくなった。 「責任を取りましょうか」と保湿クリームは言った。 次の瞬間僕はバスに乗っていた(裸足だった)。 そのまた次の瞬間僕は旅館にいた。 「さぁ着きましたよ」と保湿クリームは言った。 どこに? 「一緒に大浴場に行きましょう」と保湿クリームは言った。 いいよ、と僕は答え...
森には危険がいっぱいだと言われて来た。とくに動物が危険だと言われて警戒していた。そんな僕の前に1匹の鹿があらわれた。鹿は喋った 「私の何が危険だというの?」 僕を誘惑した 美しい鹿に導かれて僕は歩き出した。森の奥へ奥へと進んだ。鹿は僕の心を読んで言った 「そんなに帰りたいの?」 反語的表現はもうやめてくれ 「私の、何がいけないというの?」 ...
寝る前に冷凍の肉を渡された。それを抱えて寝室へ行くと、ベッドの中で君も凍った肉を抱えていた。どうすればいいのかわからなかった。 ...
21日までソウル。一旦帰国して、また25日にソウル。しかし予報を見てみると、台風が来ている。25日に列島を直撃する。 「帰国するのやめれば?」と韓国の友達は言った。 21〜25日まで何をして過ごそう。ただの夢。 ...
旅の宿で布のバッグにお湯を溜めた。久しぶりに風呂に浸かりたかった。僕はカバンの風呂に入った。 蛇口から出てくる水がお湯になるまで時間がかかった。(一方で湯が冷めるのは早かった。) カバンにはタオルや着替えのシャツが入れてあった。全部濡れてしまった。一旦外に出すのを忘れてた。 蛇口は洗濯バサミだった。ハサミを閉じたり開いたりすると水が出た。水が跳ね返って部屋に干していた洗濯物...
すごく曖昧な夢。 どこかにいたな。 何かをしていた。 「何かって何?」 思い出せない。 「1人でしてたの?」 いや、誰かいた。その誰かは、僕のしていたことをしなかった。僕がし終えるのを待っていたんだと思う。 僕がそれを終えることはなかったけど、時間が来たか何かで、僕たちはその場を去った。 それでまたどこかに行って、僕はさっきまでしていたこ...
君の中にいる、10歳の少女が、表面に出てきて、僕のキスを拒んだ。 「私、まだ10歳よ」 毎晩。 家の前に停めた車の中で、ハンドルを握る僕は、君の帰りを待った。 最初に愛をほしがる、僕の口の中、そこに苦い味が広がった。 夏。 蛾が、口の中に飛び込んできたのだ。 ...
暗がりの中でスポットライトが僕に当てられたが、何をすべきなのかわからなかった。 台本があっただろうか? 覚えていない。僕は何もせず立っていた。 ステージには他にもいたのだが、光は僕にだけ当てられたので、誰もいないように見えた。 僕が突っ立っている間、彼らは何かをしていた。 けれど彼らにしてもそれを「し終える」ということは決してなく、状況はいつまでも変化しなかった。 ...
どれだけ歩いても先頭車両に辿り着けない。長い列車だ。 前に行けば行くほど、乗客の年齢は若くなる。 彼らは兄弟姉妹だった。ジャクソン5みたいに可愛らしい子供たち。 「君たちが、突原さんのところの‥‥?」 だが子供たちは否定も肯定もしない。 「写真を撮ってくるように言われているんだよ」 「誰に?」いちばん年嵩の少年が訊いた。 「だから、トツハラさんにさ」 ...
僕はおでこから愛を吐き出した。そこら中が愛でいっぱいになった。愛はピンク色のハートではなく、てんとう虫の姿をしていて、僕は草間弥生の絵の中にいるようだった。 ‥‥夢か。 「よくがんばったね」。僕よりも若い医者が、僕に向って言った。そして、僕のおでこの皮膚を縫い始めた。 手術が、終ったらしい。僕の肌より暗い、茶色の糸で、僕の額の傷は縫合された。 「2、3日で、糸は消...
そこは畑の中の一軒家だ。バスに乗って田舎の、君のおばあちゃんの家に行った。家に人間は誰もいなかった。その代わりに動物がたくさんいた。君と僕を迎えるために、兎を始めとする動物たちが全員家の前に出てきた。 兎が飛び跳ねて、歓迎の意を示した。僕たちも返礼のジャンプをした。ぴょんぴょんと家の屋根よりも高く飛び上がって、嬉しさを表現した。 ...
「ラーメンは不治の病だ」とその人は言った。 あぁ昨日のドラマでそんなセリフがあったな。 「違う」と医者は答えた。覚えてるままのクサいセリフを言ったよ。「ラーメンは治せる。一緒に頑張ろう」 「気休めはよせよ。オレはもう治らない。一生ラーメンとつき合っていくしかないんだ」 ...
手術は概ね終った。皮膚を縫合するのは助手に任された。麻酔から覚めた僕は、その様子を見ている。 僕の皮膚に、靴紐のような紐がついていた。それを固く結んで、手術は終わり。 ...
タイムマシンは、三輪車のよう。君を後ろに乗せ、重いペダルを踏んだ。ふっと、重力を感じなくなった。そうすると、過去だった。 もう、漕がなくてもよかった。三輪車は、自動で滑るように進んだ。君のおばあちゃんが子供のころ住んでいた、田舎の家だ。 畑の中の、一軒家。庭で鶏や、兎を飼っている。 兎たちが僕を見て、嬉しそうに飛び跳ねた。君も、真似して飛んだ。ぴょんぴょん。家の屋根より高く...
君が夜中に帰ってくる。歯も磨かずベッドに潜り込む。2人で眠るには狭いベッドに。 僕はもう起きることにした。ここは2人で暮らすには狭い部屋だ。 部屋にはたくさんのモニターがあり、1人で眠る人たちが映し出されている。 見張ってるわけじゃないのだが、スイッチはオフにできない。 天井の監視カメラで僕も見張られていると思い込んでいる。実際はどうなんだろう。 誰かが...
美術館の、広大な展示スペースに、たった1枚の絵が飾られています。何時間歩いても、歩いても、絵の近くに辿り着けない。気づくともう、閉館の時刻です。諦めて僕は、帰ろうとする。だが出口は、遥か後方です。出られなくなった僕は、翌日の来訪者の見る、遠い絵の中に閉じられてしまう。 ...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...