地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
僕の部屋にある白い紙を、父が取りに来る。使わせてもらえないか、と訊く。僕はだめだと答える。この紙にはカップ麺の絵を描くのだ。 カップラーメンなら商店街に売ってるよ、と母の声が言う。買いに行けばいいじゃない。 お前、絵なんて全然描いてないじゃないか。父は言う。 夏休みになったら描くんだよ。そもそも紙を何に使うの? いや、熱湯を注いで3分待とうと思ってな。 ...
タクシーの料金は、5万円だった。地球の裏側まで乗っても、定額、5万円なのだ。階段の下で、そのタクシーは待っていた。君と僕は、乗り込んだ。 5万円だけ払って、行き先は、告げなかった。 道に、「エース」が倒れていた。黒い、スペードのエースだ。手に、携帯電話を握っている。僕たちは、代わりばんこに電話をかけた。ハワユー・エース。 誰に、捨てられたんだい? 動物園を、ゆっくりと...
洗濯物を止めていた洗濯バサミを任務から解放すると、それは次々と宇宙に帰った。 それは宇宙船だったのだ。 V字型の小さな宇宙船は空に舞い上がって、渡り鳥のように船団を組んだ。 次の洗濯は3日後だ。僕は空にテレパシーで指令を送る。 ...
影が、コンサートのチケットを買いにきた。影は、誰に雇われたサクラなのか。前売をほしいと言うのだが、影にそんなものは売れない。 当日券で充分ですよ、どうせガラガラですよ‥‥ 影は、僕の影だ。それは、僕のコンサートだ。影は、肩を落として帰っていく。 ...
カップラーメンの写真を渡された。じっと眺めているとそれは本物のカップラーメンになった。 携帯電話の写真も渡された。それも眺めているうちに本物になった。 誰かから電話がかかってきた。それは写真のカップ麺を食べた人からの苦情だった。 本物とは少し味が違うと言うのである。 ...
川辺に下りて行った。川は流れていた。 流れの方向に歩いていくとテントがあった。そこで大人たちが銀行強盗ごっこをしていた。本物の紙幣と、本物の拳銃を使って。銀行だけが「ごっこ」だ。それはただのテントだった。 ...
その女の人の膝から、糸が出てきた。 糸って、言わないで。 わかった、紐と呼ぶ。 僕はその紐を引っ張って、どうなるかいろいろ試した。 彼女のもう1つの膝は、何キロメートルも離れたところにあった。そちらからも紐が出ているのか、ここからは見えない。 ...
部屋の明かりを点けて、殺人者が来るのを待った。しかしその晩は、誰も来なかった。もしかしたら来たのかも知れないが、よくわからない。朝になっても、僕たちは殺されてなかった。 明るい場所では、殺人者は仕事をしないのだろう。次の晩僕は、明かりを消すことを提案した。が提案は受け入れられなかった。失望した。僕はマンションの別の部屋に移り、明かりを消して、1人で眠った。 ...
待っている間、僕は自分の足が気になっていた。僕は靴下を履かず、素足にドクターマーチンを履いていた。みんなは裸足だった。 僕もみんなに合わせて、靴を脱ごうとした。しかしみんなは、その必要はないと言う。 みんなは、出かけると言う。裸足のままで。僕も出かけようとした。僕は靴を履いているし。念のため、もう1足を探した。 下駄箱に入れておいたはずの靴はなかった。「何を探しているの?」...
君は部屋で、糸を紡いでいた。糸は、糸巻きに巻かれた。その仕事が一段落すると、風力で動く車がやってきた。どこへお連れしましょう、と車は言った。 君の答えを、風の音がかき消した。気づくと僕は、3歳の子供だった。電力で動く車が、僕のところへやってきた。この車もまた、どこへお連れしましょう、と言った。 ...
エスカレーターの隣の階段を歩いて上がった。その先に動く歩道があったけどそれも使わなかった。悪態をつきながら動く歩道の上をスケボーで滑っているやつが1人いた。しかし僕たちの沈黙はその悪態を飲み込んで揺るぎなかった。 ...
明るい廊下で、僕は紙に数字を記入していた。暗い部屋に移り、そこでも数字を書いた。数字は、動いていた。意志を持って、逃げていたのだろう。僕が数字を追いかけて、また部屋の外へ出たとき、そこは暗かった。数字だけが、明るく輝いていた。紙もペンももうなかった。廊下の先まで逃げて行き、こちらを振り返って、途轍もなく大きくなった数字は笑った。 ...
帰ろうとして靴を探したけど見つかりませんでした。僕が靴を入れておいたはずの棚には本が入っていました。大きな画集や、重そうな図鑑など。1冊の写真集を取り出し見てみました。人物を写したものでした。外国の、都会でのスナップです。誰も靴を履いてない。 ...
僕はテレビに出て、見た夢の話をした。番組を見た父が、僕を訪ねてきた。「あれはオレに向けた、メッセージなんだろ?」 「違うよ」と僕は答えた。 部屋は散らかっていた。酒と、酒のつまみ。読みかけの本と雑誌。ここは本当に僕の部屋なんだろうか。僕は酒じゃない飲み物を探した。 「テレビ、もう消していいかな?」父に訊いた。 テレビの中には父がいて、まだ話し足りないと不満げに‥‥ ...
隣の男がトイレに立った。座席に戻ってきたときには女になっていた。裸になっていたのでわかった。 顔だけが男だった。酔っているかのようにふらふら。座席に倒れ込んだ。ひどく汗をかいている。 飛行機は僕だけを上空に残し、道路に着陸して、そのまま走りつづけた。道に車はない。道路では子供たちが遊んでいる。飛行機は幽霊のような彼らの間を通り抜ける。 空からそれを見ている僕。 ...
僕たちに子供が生まれた。エメラルド色の背中、6本の細い手足。人間ではなく甲虫の姿をしていた。生まれたときから自分でトイレができた。偉いのねぇ、と女房は褒めた。 女房は子供にルルという名前をつけた。僕はルル子と呼んだ。返事はなかった。開いた窓から外へ出て行ってしまったのだ。「ルル」と呼んでも「ルル子」と呼んでも帰ってこなかった。 ...
僕は王だ。オリンピックの代表選考会を見ている。僕の弟がトラックを走っている。弟は遅い。弟はビリだ。弟に勝った選手の1人が「僕は王よりも速く走れるぞ、僕が本当の王だ」と大声で叫びだす。 ...
道を歩いているのではなかった。 僕は横たわった巨大な牛の脇腹の上を歩いているのだ。足下は柔らかくて歩き心地は悪くない。 しかしこの町全体を覆うほどの大牛が目を覚まして体を起こしたらどうなるのだろうと思った。 町には人っ子ひとりいない。 遠くに「机」が見える。近づいていく。 机の上には君の服と旅行鞄がある。そして歯ブラシが置いてある。気づくとホテルの一室だ...
その上の階は、デパートのようだった。僕がやって来た方向へ行こうとして、たくさんの人が行列をつくっている。酷い混雑。だが僕が「そこ」から来たことを知って、並んでいる人みんなが笑顔になった。 1階には少年たちが、2階には少年たちと少女たちが、3階には少女たちがいて、双六のようなボードゲームをしていた。僕は2階まではエレベーターで、そこからは階段を上がっていった。3階の少女たちは、5分に...
体育の授業の前に、パンを買って食べた。今日は跳び箱を跳ぶ。生徒は僕の他に3人しかいなかった。 みんなオリンピック選手のように、跳び箱に手をついて、クルクル回転する。 床には、マットの代わりに、1ドル札が敷き詰めてあった。テロリストを支援するための資金だ、と言って君はそれを集めた。全部でいくらになるの、と僕は訊いた。 ...
キリンの背中に、図形が書いてあった。正八角形だ、と僕は言った。正六角形でしょ、と君は言い返した。僕は図形の角を数え直したが、やはり八個ある。 キリンの群れの中に、一軒の家が建っていた。三階建てだと思っていた。だが数え直してみると、家は二階建てだった。鉛筆のように細長い家で、外に梯子がかけてある。家の中には階段がない。その家を買おうか迷った。 ...
家を見に行った帰り道、イスを見つけた。こんな道端に落ちているとは。この間イヌに盗まれたやつだ。小雨が降っていた。イスを両手で抱えてしまうと、傘がさせない。 隣を歩いていた男が、こちらを見て何か言った。そして、駆け出す。すると突然、雨は強くなった。川の流れる音が、大きくなった。僕の抱えていたイスが、倍の大きさになった。 ...
寝て起きると顔の表面積が大きくなっていた。鏡を見て気づいたのである。手で触れても顔が大きくなった実感はない。しかし鏡で見ると毛穴と毛穴の距離が数十メートルに広がっている。毛穴自体は大きくなっていないし、数も増えていない。 毛穴からは毛が伸びている。僕はそれを抜く。そして数十メートル隣の毛穴まで移動して、そこに生えている毛を抜く。すべての毛を抜き終わるころには何キロも移動している。僕は知...
寝ている間に、腕を1本盗まれた。腕の付け根には、カブトムシの絵が描かれていた。それは何かの合図だと思うが、何の合図なのかはわからない。犯人は子供だろうか? シャワーをあびると、その絵は消えた。カブトムシの絵が消えると、そこから新しい腕が生えてきた。そういうことだったのか、と思う。いや、どういうことなのか、さっぱりわからないけれど。 ...
その路線バスには、大きなスーツケースを抱えた外国人が多数乗っていて、いつもと雰囲気が違った。 前の席にいた地元の通勤客が僕を振り返って、「このバス、どこ行きでしたっけ?」と訊いた。初め韓国語で、それから思い直して英語で、僕は答える。 バスの左手には、古いソウルの町並み。 右手には、それを再現した映画のセットのような光景。 ...
ソファに寝そべっていた2人の若い女は、身を起こし、ただ「カッコイイ」と口に出した。 その本に、格好いい文章が書かれた、1枚の紙が挟まっていた。僕はその紙を抜き取り、ポケットに入れた。 もちろん、そのことは誰も知らない。だが僕が、みんなのいる部屋に戻ると、みんなが僕を見る目が変わっていた。 ドレスを着た女たちは、格好いい人を、あるいは独身の大金持ちを見る目で、僕を見た。 ...
弁当箱の中の、食べ残したご飯を、空港のゴミ箱に捨てた。飛行機に乗る前に、まだ捨てるものがないか見てみた。すると僕のスーツケースの中身が、全部食べ物になっていることに気づいた。いつの間にか中身は、入れ替わっていた。食品は保存のきくものばかりではなく、痛みかけているものもあった。 上空から見た川は、赤ワインのようだった。照らす光もないのに、輝きながら流れている。飛行機はさらに夜空を...
中身は僕自身知らない。どうやって開けるのかもわからない。誕生日のプレゼントとして僕が君に渡したのは、卵型のケースに入った「何か」だった。ところがみんなはそれを見て、「とても綺麗な花だね」と言ったり、「何の本なの?」と訊いたり。 ...
ゴキブリを手でつかまえた。どうすればいいかわからなくて混乱した。電子レンジの中に投げ入れて扉を閉め加熱した。そしたらもっとどうすればいいのかわからなくなった。 そんなとき。自分は変われるかどうか調べる試験があって、僕はみごと合格した。そんな気分だ。他の誰が課したのではない、自分自身が課した試験に、僕は。 ...
僕たちの乗るマイクロバスは車道を1列になって歩く馬とすれ違ったときも、動物園の中に入ったときも、速度を落とさなかった。まっすぐ、コアラの元へ向かい、止まった。僕たちはバスを下りて、コアラに触った。バスは、発車した。僕たちの戻りを待たなかった。 ...
鳥の仮面を付けた男が、ベッドに横たわるマネキン人形を優しく撫ででいる様子を、遠くから僕は見ている。 すると路の先から、同じ仮面を付けた男たちが、何人もやってきた。僕とすれ違い、‥‥あのマネキンの寝ている部屋へ向う。 振り返らず、僕は歩いた。‥‥いつの間にか隣に、あのマネキンのように白く、すべすべした巨大な女がいた。 ...
列車には窓がなく外の様子がわからないが、乗り合わせた僕たちはみんなで晴れていると思い込むことにする。僕は更にその思い込みに季節を付け加えることにした。「夏」。気持ちのよい朝だ。隣の席の若い女性グループが食堂車から僕にもジュースとクロワッサンを持ってきてくれる。 ...
待ち合わせた地下鉄の出口は、番号ではなく「うんこ」と名付けられていて、僕たちを気まずくさせるのです。 「ちんこ」の前で待ち合わせるよりは、まだマシですけど。 それでも「うんこの前で待ってるね」とは言いづらい。 ぶんこの前で、文庫本で、などと言い換える君。絶対に僕が先に着いていなければと思うのです。 ...
新幹線の「舳先」と言っていいのか、カモノハシのクチバシのような先端部分の上に、僕ら選ばれた幸運な乗客のための席はあって、時速300kmを体感するのですけれども、鉄道オタクのような1人の大男が、アルコールを持ち込んだ若い女性たちのグループに、それはジェットコースターに乗りながら、あるいはスカイダイビングをしながら、酒を飲むようなものでしょう、と反語的な苦言を呈しました。 ...
真夜中に僕は目を覚ました。もう眠くはなかった。そのまま起きることにして1階に下りた。歯を磨いてトイレに行きたかった。だが1階は僕の家ではなかった。 居間と台所の明かりがついている。そこにはいないはずの人たちがいた。双子の妹たちと、お手伝いさんの女性。彼女らには僕の姿が見えないようだ。 父と母が帰ってくるらしい。彼女らはその支度をしているのだ。 この家には息子がいただろう、と...
2階の僕の部屋の、床は透明だった。高所恐怖症の君は、それを怖がる。服を次々と脱ぎ捨て、床を覆った。 黒かった君のシャツや下着は、床に置かれると白くなり、光った。君はその上を歩いて、僕に近づいてくる。僕は靴と靴下だけを脱ぎ、待った。 ...
白くて丸い、光るデザートを買い、写真を撮った。その画像を、誰にも見せずに、ずっと保存していた。違法なポルノを、隠し持つようにして。 1人部屋に戻ってから、その画像を見た。すると今日の君の演奏が、感覚的に理解できた。スマホの発する光が、僕を包んだ。 終演後に君と話す機会はなかった。君のピアノは素晴らしかった。それをそのときに伝えたかった。 ...
電車は鉄橋の手前で線路から外れてUターンした。怖じ気づいたのだろう。台風で川が氾濫しそうになっている。川の向こう側の県に僕は住んでいて、雨がひどくなる前に家に帰りたかったのだが。 鉄橋の手前の駅で僕たちは下ろされた。川を渡ってくれる電車が来るのを待った。 自分でもよくわからない理由で僕はホームのいちばん前、「舳先」に立つ。そのとき川は決壊した。濁流が押し寄せて来るのを見た。駅のホ...
スマホを見ていたら乗り過ごしてしまった。いちども下りたことのない駅で僕は下りた。反対側のホームで引き返す電車を待った。 その間もスマホをずっと眺めていて、行き先を確認することもなくやって来た電車に乗った。 車内は混んでいたが1つだけ空いた席があった。お年寄りや身障者が座るためのシートだ。僕はよく確かめもせずその席に座った。 まだ熱心にスマホを見ていた。結局終点まで乗った。僕...
「どこへ行こうとしてたのだ?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。 「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。 「君は何しにうちへ来たの?」 「私もわからなくなってしまったのだ」 「私は階段だ」と悪魔は言った。 「階段‥‥」 「私は飛躍したい」。私は悪魔ではないのだ。 その言葉を聞いて僕は一段抜かしで上がった。 ...
そのとき僕は時間よ止まれと思った。お前は美しい。実際に口に出して言った。でも悪魔はやってこなかった。 そういう契約をしていなかったから‥‥「どこへ行こうとしてたの?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。「君は何しにうちへ来たの?」「私もわからなくなった」 ...
僕は裸足だった。靴はいつの間にか脱げていた。靴の中に入れておいたはずの僕の足の指はなくなっていた。 靴を探した。指か。指はいらないだろう。だが指だけが見つかった。指はとても黒かった。人体の一部のようには見えなかったが、これは僕のものなのだろうか。 ...
庭のサボテンが成長して普通の木になった。高さは数十メートル、もうトゲはない。上の方はどうなっているんだろう? 見に行くと天辺にちょこんとサボテンは乗っかっていた。 ...
住宅街の道の真ん中に僕の便器はいた。 だが本当に僕の便器なのかはわからない。彼はその場に固定され動けなくなっているようだ。 「みんなに見られるのが恥ずかしいです」彼は訴えるので、周りを薄い木の板で囲った。そうすると簡易トイレのようになった。 用を足して扉を開けると、外にはたくさんの人が並んでいる。僕は全員に意味もなく謝った。 ...
広間にいた僕たちの頭上でベトナムの国旗が振られた。僕たちは立ったまま君の演奏を聴いているところ。次の公演はベトナムなんだな。アンコールはベトナムの民謡だ。 電気機関車と線路と山が描かれた大きな皿を僕は手に持っている。今日のコンサートの記念にと渡された皿だ。ベトナムにはこんな汽車は走っていないかも知れないが。 ...
極度乾燥した果物。ただしドライフルーツではない、ただ乾燥した果物。食べ残すべきではない、とその人は言う。口の周りに、子供のように、食べカスをつけて喋る。口の中は、カラカラだった。 ...
恐ろしいヒヨテリ菌(実在しません)に感染した患者が床に直接寝かされていた。治療と称して僕たちは彼の顔を足で踏んだ。すると患者の鼻の穴から茎が伸びてきて紫色の花が咲いた。 ...
木星の衛星にいました。君と木星を見に来たのです。空に浮かぶ木星。太陽系最大の惑星。 そして足元の水槽の中にも、「木星」はありました‥‥ 水槽に手を入れ、木星をまさぐる僕に、君は訊きます、「木星に生物はいる?」 「探してみるよ」 木星の大きな渦を、ぐるぐるとかき混ぜていたのは僕です。 ...
みんな小走りでした。1人として歩く者はなかったです。僕も小走りしました。疲れると停止して、体力が回復するのを待ち、そしてまた小走りし始めます。決して歩きません。みんなで誓ったのです。 ...
バルコニーに出ました。僕の目の前を蝶が高速で過ぎていきました。あんなに速く飛ぶ蝶を初めて見ました。 次から次と蝶は飛んできます。ここは蝶たちのハイウェイになっていたのです。僕は蝶に撥ね飛ばされそうになりました。 クラクションは鳴らされませんでした。蝶たちは上手に僕を避けていきます。 バルコニーの先でさらにスピードを上げた蝶たちが、空の彼方で虹と一体化するのが見えました。 ...
突然寝室の明かりがつき、人の気配がして僕は目を覚ました。起き上がって確かめようとしたが体が動かなかった。黒い布で目隠しがされていて、目を開けても何も見えなかった。 耳には栓がしてあって、何も聞こえなかった。 誰かがゆっくりと近づいてきて、僕の胸に手を当てた。その手が僕の体内に入ってくる。手は僕の心臓の位置を、正しい場所に置き直しているのだ。 だが心臓の位置がちょっと動くたび...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...