地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
気づいてみれば、僕が話しかけていたのは、レタスの葉っぱだった。何か、とても大事な話をしていたのだが、相手がレタスだとわかった途端、醒めてしまった。話の内容も、一瞬で忘れてしまった。「今からおまえを食べる」と僕は宣言した。「ドレッシングもつけずにな」 そいつからは、何の反応も返ってこなかった。午後7時のレタスは、午後の5時からレタスだったが、誰も気づかなかっただけなのだ。 ...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。 次はオマエの番、と小人は言った。 誰の番だって? じゃ、もういちどオレの番。エヘエヘヘ。 小人がレーザー光線の上に足を乗せ、体重をかけると、レーザーの光は消えた。。 ...
女たちは1人ずつ順番に、まったく同じ質問を僕にした。「私はどうすればいいの?」 僕は全員に、まったく同じ答えを返した。「横になるといいです」 「どうして横になるといいの?」 「あなたはもう死んでいるからです」 ふ〜ん、という顔をして全員が床に横になった。 だが彼女たちは眠るどころか、目を大きく見開いて僕を見つめている。 そして「あなたはもう少し起きていた方がい...
女ばかりだった。またそういう場所に僕は迷い込んでしまった。若い女がいて、若くない女もいた。ほとんど服を着ていないのもいたが、僕を気にする者は誰もいなかった。女たちはみんなとてもリラックスしているように見えた。そして同時に、とても疲れているようにも見えた。 ...
1人の訓練兵と、1つのウンコ、1台の便器がセットになっています。完成させなさい、というのです。すでに完成しているじゃないか、と思いました。それとも脱構築しろというのでしょうか。徴兵され、軍隊に入る夢を見ました。ポストモダンな軍隊です。1週間ほどの訓練の、最初の朝でした。 ...
朝、起きると僕は、知らない場所にいた。床に直接、たくさんの布団が敷いてあり、さっきまで誰かが寝ていたのだろうが、今は全部空だ。部屋の扉は開いていて、外に人の気配がある。気配は感じるのだが、誰もいない。 トイレに行った。便器が異常に小さい。人形の家のトイレみたいに。なぜだろう。僕の体が大きくなったのかも知れないが、よくわからない。あちこちから、水を流す音が聞こえてくる。シャワーを浴びる音...
猫が僕にカードを渡した。どうしろというのだろう。僕はそのカードにポイントを付与して返した。猫は僕の顔をパンチして鳴いた。 ...
手のひらで水をすくって、弱った猫に飲ませた。歯磨きのチューブから少し出して、水に溶かす。水はミルクのように白っぽくなり、薄荷の味がついて、猫は喜んだ。 その猫は、人間の言葉が喋れた。その猫は、銀行に口座を持っていた。大金を僕にくれると言った。ATMについて行った。列に並んだ。 僕たちの後ろに、体長4メートルのキリンが立った。キリンはスーツを着ている。その威圧感が半端なかっ...
「私の瞳、どこにある?」 「どこって‥‥そこに‥‥」 君が笑みを浮かべ、大きくまばたきをすると、君の瞳の中の輝く星は、100個にも200個にもなった。 「えっ‥‥」 君はもういちど、ゆっくりと目を閉じた。僕たちのいた部屋全体が、それに合わせて収縮した。僕たちの距離が縮まった。 君がまた目を開けても、何も元には戻らなかった。君の瞳の中に生まれた、すべての星が一カ所に集ま...
筒の中には巨大なポスターが入っていて重い。家一軒分の重さはあるだろう。 吉幾三の別荘よりは軽いだろうが、ホームレスのダンボールハウスよりは重い。 そんな「家」を抱えて飛行機に乗ったのだが、税関を抜けるときに捕まった。 「こちら拝見してよろしいですか?」 無理だと思う。 ...
僕たちの王が歌うのを、僕は聴かなかった。石を積み上げてつくった玉座に僕はいた。急な段を下りる。もちろん手すりなどない。足を踏み外して転げ落ちたら死んでしまうだろう。だがゆっくりと下りればいいのだ。 下界には人間たちがいて、ピラミッドのような玉座を見上げている。姿の見えない王は。 ...
その大きな車が運んでいたのはたった1枚のレコード。1人の男がそれを大事そうに抱えている。 車はノンストップでもう何日も走りつづけていて、どこまで行くのか知らない。 たまたま乗り合わせた僕ともう1人の男の、鞄の中にある音の出るものはすべて捨てさせられた。 僕が持っていたペンでコツコツとリズムを取っているのを見て(聞いて)、レコードを抱えた男はそれも捨てろと言う。 夜にな...
電話相手は僕に50億円をくれると言った。僕はもらうことにしてその人に会いに行った。川べりのホテルの一室で詳しい話を聞いた。 「本当にタダでくれるの?」相手は若い男だった。 「うーんと、まずワールドカップの得点王になってもらいたいんだ」 「得点王になったらくれるの?」 「そしてヨーロッパのクラブと契約してもらいたい」 「わかった」と僕は請け負った。 「そのとき代理人が要...
いい人が悪い人と一緒にいるとき、悪い人はワニに変身されられた。「この姿も悪くないな」と悪い人は思った。 いい人は人間のままだった。ワニに訊いた。「まだ人間の言葉が喋れるかい?」 返事はなかったが。 構わず「一緒に歌おう」と呼びかけた。そしていい人らしく「希望の歌」を歌った。ワニも口を大きく開けた。 ...
俳優としてのキャリアをスタートさせたのは60歳のときだった。あるドラマの中で僕は30歳の青年を演じて話題になった。たいした役ではなかった。いつも鏡を見て自分の顔を気にしている男の役だった。 その後200歳まで生きた僕は長い牙のある大きな動物に変身して劇に出た。若作りの二枚目役は卒業だった。ラストシーンだった。城の地下に閉じ込められた。王の家臣と一緒だった。「希望はどこにある?」フランス...
2隻の大きな宇宙戦艦があった。それよりも大きな若い女がいた。彼女は戦艦を蹴飛ばした。 僕は宇宙戦艦と同じ大きさだったが、慌てて彼女と同じ大きさになった。しかし彼女は僕も蹴った。 ...
集団登校中の小学生たちに向け、僕は両の手のひらから光線を発した。光を浴びた子供たちはゾンビになった。みんな僕の後をついてくる。 吠える2匹の大きな犬がいた。ソンビたちを差し向けると犬は大人しくなった。僕は犬に噛みついた。すると犬もゾンビになった。その様子を誰かが録画している。 ...
瞼の裏に刺青が彫ってあった。目を閉じるとその刺青が見えた。眠りに落ちるまでその刺青を見つづけている。夢の内容もその影響を受けた。すべての背景に透かしが入っているようだ。その透かしがだんだん濃くなる。すると朝だ。目を開ける前に5分間その刺青を眺める。 ...
小学校の地下から絵本が発掘された。タイムカプセルに入れられていたものだ。綴じられてはおらずバラバラだった。 ‥‥ゾンビが復活するという話だろうか。それともゾンビが死ぬという話だろうか。正しい順番はわからなくなっているが小学生が書いたとはとても思えない気味の悪いホラーだ。 その物語を読んでいた僕の友人の男(長身長髪の二枚目)が突然ゾンビに変身して死んだ。それで「これはゾンビが死ぬと...
でもなんだか怖くなって僕は逃げた。山の頂上から麓の方へ走った。途中何人もの登山者とすれ違った。登山者たちは喪服を着ていた。みんな無言だった。誰も僕に「こんにちは」と挨拶をしなかった。僕は小さな声で「さよなら」と言いつづけた。 山道の脇に石のバスタブがあった。友人がその中で寝ていた。よく見ると彼の体は水晶だった。バスダブも水晶で満たされていた。どこまでが彼の体なのか見分けられなかった。...
僕のコードナンバーは 08004500 だとその人に教えられた。これからは名前ではなくその番号を名乗らなければならない。そしてその人の番号は何番だったろう。その人の名前を知っている。でも僕はその人の名前を忘れなければならない。「その人」や「あの人」と呼ぶことも、記述することも許されない。 ...
僕たちがそんな話をしているところに警官がやってきた。「警官が来たぞ」と僕は思った。口に出してしまったかも知れない。一緒にいた友達が僕を見た。 警官は友達に用事があるようだった。友達は警官を無視して誰かに電話をかけた。「警官が来たぞ」とからかうような口調で話している。そして僕には同じ口調で違うことを言う。 ...
アクセルを踏み込もうとすると車道を逆走してくる白い商用車が見えた。慌ててブレーキをかけ、ぎりぎりのところで避けた。そんなことがあって僕は遅れた。仲間たちは先に行ってしまった。 そこで場面転換。白い商用車に乗っていたのは僕だった。運転者はわからない。「着いたよ」と彼は言った。だが車は走りつづけている。ひどく寂れた地区を‥‥ 最終的に車が停止したのはガス欠のせいだった。粗大ゴミの集積...
僕はその部屋で僕のアイドルがやってくるのを待ちました。刑務所のようなホテルでした。廊下は既に消灯していました。闇の中をロボットが巡回しています。彼女は本当に来てくれるだろうかと思いました。でも来てくれたのです。 僕は扉の影から急に飛び出して、アイドルの腕を掴み、驚かせようとしました。彼女はちっとも驚かなかったですが。部屋に招き入れました。そして「当然のことだ」という態度でキスしたのです...
僕たち暗殺専門の特殊部隊が突入したときには既に大統領の首はなかった。僕たちは大統領の体に尋問した(紳士的に)、「あなたの首はどこへ逃げたんですか?」 左手の指と右手の指が違う方向を指した。ばたばたする両足は無視して僕たちは二手に分かれた。僕が向った方角に大統領の首は転がっていた。目を開けたまま眠っていた。眠ったまま笑っているようだった。その笑い声は違う方向から聞こえてきた。 ...
エレベーターに、2階のボタンはなかった。僕は5階まで上がってから、階段で下りた。 そこは本屋だった。僕の友人は先に来ていた。本が棚から床に落ちていた。友人は床に座り込んで本を探していた。 突然向こうから大男がやって来た。大男は僕の友人を睨みつけた。 「もうすぐここに人が来る」と大男は言った。「お前はその人と会ってはいけない」 それを聞いて友人は姿を消した。 そして...
さっきから雨が降っていた。傘をさすほどではないが、酔いは醒めた。 女のコ2人と、道を歩いていた。2人とも、僕を好きだった。どちらとつき合うか、選ばなければならなかった。 向こう側に走って渡ろう。突然、僕は言った。車道を、僕たちは横切った。誰かを、車が撥ねてくれる。だが3人とも、無事だった。 ...
目覚めると夜のファミレスで、金髪を見かけた。無視しようと思ったが、向こうから声をかけてきた。 「何してるんですか?」 「勉強」 お前と話す気はない、という意味で言ったつもりだった。 「私も勉強してるんです」 「ファミレスで?」 「明日も同じ時間に来ます。勉強教えてください」 「うん、いいよ、わかった。一緒に勉強しよう」 厚底の靴を履いた背の高い女のコだった。 ...
パチンコ屋の前に、バスが到着した。ホテル前のはずだった。僕はそびえ立つ前衛的な建築を見上げた。看板にはかわいい女のコの顔。店の地下に通じる階段を、その写真のコが上がってきた。服装は違うが、道行く人も、みな同じ顔をしている。 ...
午前4時、1階の広い和室に、直接新聞が配達されていた。みんなまだ寝ている。僕は朝刊を拾い上げ、読んだ。先月の1日に起きた事件だ。それが今報道されている。 家人が起き出してくるころには、そのニュースは消えていた。紙面は、書き換えられていた。僕は和室の畳の上で、制服を着たまま、眠っていたらしい。 ...
暗闇の中に漂う白い霧が闇の色をグレーにする。僕は目が見えないのに部屋の明かりを点けているのはなぜか。みんなの言う通りだ。電気代がもったいないじゃないか。 けど真っ暗な部屋では何かに躓くのだ。床に何が落ちているのだろう? 手でそれに触れてみる。匂いを嗅いでみる。でも何だかわからない。 ...
役所に行った。バスに何時間も揺られて、やっと辿り着いた。持ってきた書類を受付で渡した。 次は健康診断だった。次はそうだと言われたわけではないが。‥‥健康診断の会場にたくさんの人が並んでいた。 待合室に問診票の記入の仕方を解説するおばあさんが1人いた。僕も自分の問診票を見せて質問した。「あんたのは少し違うねぇ」と彼女は答えた。 「こんなのは見たことがないよ」 おば...
僕の首筋に、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と猫が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に行った方がいいな」と別の猫が言った。 「人間の病院に?」 「おもしろいことを言うね、君は」 ...
その部屋には、大きなグランドピアノと、中くらいのグランドピアノ、小さなグランドピアノの、3台があった。 若い政治家は、大きなピアノ、その友人が、小さなピアノを選んだ。 大きなピアノの上には、サングラスをかけた人形が何体も乗っている。針金でできた人形だ(僕は人形のサングラスを外し、その茶色い瞳を見た)。 僕の選んだ中くらいのピアノの上には、貝殻が乗っていた(ヴィーナスが爆誕し...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。何の用だろう。用事はないのかも知れない。 老人と孫がいる。「写真を見せて」と孫が言う。老人は見当外れの答えを返す、「父からの電話を待ってるんだ」。満足しきった薄ら笑いを浮かべ。 ...
僕の白いベンツを追い抜いて行ったセダンが、僕の停めようとした区画に駐車し、中から7人くらい降りてきた。みんな若者だった。僕は駐車場をもう半周して、停める場所を探した。 偶然かも知れないが、駐車中の車は、全部同じ、白いセダンだった。車種は様々で、古い車もあれば、新車もある。そして全部の車が、サランラップで包まれていた。 僕が悪戯心から、1台のラップを剥がすと、空気より軽い素材ででき...
2人はいつも一緒、超仲良しだったが、その日は、一方の姿が見えなかった。 「もう1人のコは、今日はどうしたの?」 僕がそう訊くと、彼女は相方に電話をかけた。僕たちは2人でバスに乗っている。電話で、なぜか僕は怒られた。 「このバスは、どこへ行くの?」 その電話の後で、僕は訊ねた。彼女がもういちど相方にかけるのを見て、僕はまた怒られるんだなと思った。 ...
君の声に呼ばれて、目が覚めた。あたりを見回したが、誰もいなかった。僕は、何もない部屋にいた。広い部屋に、ソファだけがあり、僕は、服を着たまま寝ていた。 重力が、ひどく弱かった。空気が、軽くなっていた。空気が、いくつかの泡のようになり、部屋の天井付近にプカプカと浮いていた。僕もときどき空気を吸いに、浮かび上がった。 ...
スクランブル交差点を渡って、まっすぐ前、大きな公園に見えるのは、野生動植物の保護区だ。左に行くと、商業地区に出る。日本文化を紹介する「日本展」のポスターが見えた。 車道の幅は、何キロもある。歩行者用の信号は、いつまでも青。僕たちは人混みに紛れて、ゆっくり歩いた。雲の上を行くように、ふわふわと。縦横数百メートルはある、巨大な3Dポスターの前で、記念写真を撮った。 ...
それはミュージカルのような、手品ショーのような、前衛的な舞台で、観客席も、ステージの一部だった。青いドレスを着たソプラノ歌手が、口を閉じたまま歌う。ピアノで伴奏をしているのが、君だ。僕は呼ばれて、ピアノの脇に立った。それは右に行くほど、低い音が出るようになっているピアノだ。鍵盤のいちばん右端で、ト長調の和音を押さえた。すると、僕たちの体は膨らみ、宙に浮いた。 ...
彼の背中にはフタがついていた。フタを開けると赤いボタンがあった。僕は訊いた、「このボタンを押すとどうなるの?」 「死ぬよ」別の人が答えた。 「あなたには訊いてないよ」 僕はもういちど同じ質問をした。 しかし彼は永久に答えてくれなかった。 ...
母親は暑がりだ。息子はロボット。息子は暑さ寒さを感じない。そんなわけで息子の経営するカフェに冷房は入ってない。異常に暑かった。客として訪れた母は冷房を入れてほしいと思った。 息子は応じない。母親は息子のスイッチを切ることにした。リモコンで操作したが息子はなかなか停止しない。「時間がかかるんです」と僕は説明した。「緊急停止ボタンを押しますか?」 「アンタ誰?」 「それよりもブライ...
君は、先に出た。後から行くよ、と僕は言った。 歌を歌いながら。 ホテルの浴室で、君が長い髪を洗っている隣で、僕も髪を洗っている。 僕の短い髪の方が、乾くまでに長い時間がかかるのは、なぜだか知らない。 大理石の床が、水面のように煌めいて反射する。 ...
僕の家のドアは薄い1枚の紙でできている。ドアにはドアノブの絵が描かれている。ドアノブには鍵穴が描かれている。鍵の絵はまだ描けてない。ドアに鍵をかけることはできない。 家の中にはたくさんの人がいる。昼だ。1人がこれから出かけると言うので、僕はドアの絵をドア枠から外した。彼は車に乗ると言う。乗る直前まで風呂に入っていたい、と言う。外は寒いからな。 ...
赤い服が踊っていた。透明人間が服を着て踊っていたのか。 服自体が踊っていたのか、透明人間なしで。 踊りが終ると服は元の場所に帰った。透明人間が服を脱いで返したのだろうか。 ...
呼ばれた名前は、僕のものではない。それでも僕は立ち上がり、前に進み出る。名前は、小学校の同級生のものだ。とても珍しい名字。彼に会いたかった。 彼を呼び出した男が、僕を見て言う。「お前も、違うな?」 違います。 後から次々と、人は集まって来る。舞台に上がったみんな、彼ではない。席に1人残っている男も、彼ではない。 ...
地獄で僕はたくさんの嘘をついた。 僕は不死鳥、自殺が趣味。噴火する火山にダイブするタイプ。この間も活火山の火口で、それを試みた。それでも死なない。今日復活した。 ...
はっと目を覚ますと、ベッドの周りに、僕を見下ろす、複数の顔が。「来たよ」「来たよ」「来たよ」「来たよ」と順番に、同じ言葉を言った。 そして、‥‥僕の番になったようだ。「来たんだね」。僕は言った。来客たちは満足そうに頷き、1人、また1人と消えていった。 昨日見た夢の話です。来客があり、僕は部屋に掃除機をかけていました。床は埃だらけでした。 と思ったら違いました。埃の塊だと思っ...
機械の音声は、まず最初に、クレジットカードを入れるように言った。僕がそうすると、次に銀行のキャッシュカード。そしてスマホを持っているなら、スマホも入れろと言い、口を開けた。僕は入れたくなかった。長い時間ためらった。その間機械は、沈黙した。僕のうしろに並んでいる人たちが、ざわつき始めた。 ...
地下鉄の駅前、頭にタオルを乗せている人たちが列をつくって何かを待っていた。 雨が降ってきた。列の先頭にいた男が、「中止だ」と叫んだ。しかし彼の言葉に反応する者は誰もいなかった。 「中止だ、中止だ」男は繰り返した。彼が繰り返すたびに、雨は強くなった。同じロゴの入った白いタオル。 ...
掃除機で吸い取っていく。床に落ちているゴミは、美しい花の形をしていた。掃除すればするほど、部屋は汚くなった。 部屋の主が帰宅した。花束を持っていた。花瓶に活けた。僕はすかさず、掃除機で吸い取った。 ちゃんと確認はしたのだ、「これはゴミですよね?」 「そうよ」と彼女は言った。 ...
席の間に通路がなかった。僕たちは椅子の背を乗り越えて進んだ。 椅子は普通と比べてかなり立派なものだった。靴で踏んづけられてもいいように頑丈につくられているのだ。 背もたれの部分に僕の名前が書いた紙が貼りつけてあったので自分の席がわかった。 他のみんなはどうやって見つけたんだろう、自分の席を。 ...
煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 ...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...