地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
人形が履くような小さな靴下。どうしてそんなものを持っているのかわからない。 それは僕が履く靴下だ? 着ていたTシャツを脱いだ。シャツは縮んで人形が着られる大きさになった。 家のあちこちに裸の人形が置いてある。 人形たちは手に持ったスマホを見ている。 空は雲っている。降ってはいなかったが降り出しそうだ。 ...
着信があった。携帯から曲が流れた。チャイコフスキーの交響曲の悲劇的な部分だけを切り取ったような曲だ。弦楽器が、わざとらしいくらいに悲痛な叫び声を上げている。 今の状況にふさわしい曲ではなかった。心はかき乱されていった。しかしその曲がどう展開するのか知りたくて、僕はずっと電話に出ないでいた。 ...
「私は集合時間に遅れました。みんなから非難されました」。彼女の手紙の最後にそう書いてあった。 その手紙を肌身離さず持っていた。僕のお守りだった。 僕もよく遅刻をした。そのたびに手紙を読み返した。 すると僕よりもさらに遅れて彼女はあらわれるのだ。 ...
起きるとベッドの上に洗うべき衣類が置いてあった。僕はそれを抱えて1階に下りた。風呂場で誰かが手で洗濯をしていた。その横で洗濯機が静かに回っていた。やっとなぞなぞの答えがわかった。僕は着ていたシャツを脱いだ。空は曇っていた。 ...
職業を訊かれた。発電家だと答えた。僕は雷をつくっている、そう言っておならをした。尻が閃光を発した。ゴロゴロ、と雷の音がした。 ...
料亭、ユーミンの曲が流れている。相変わらず、何を歌っているのかわからない。歌っているのは、男のようだ? 料亭の廊下は、坂になっていた。坂を上がっていく。屋根の上に出た。黄色い花が一輪、置いてあった。 花びらから、湯気が出ていた。 ...
体育館には、畳が敷いてあった。今日の体育は柔道だ。真っ先に体育館に行った。午後の最初の授業。先生もまだ来てなかった。 僕は柔道着を忘れてきた。 畳のマットが動かないように、テープで止めている人がいる。よく見るとクラスの女子だ。 体育館の中は冷房が効きすぎていて寒い。温度計を見た。40℃だった。僕はエアコンをいじって‥‥ 温度を上げようとする。 ...
雨がやむと君は自転車をおりる。履いていた虹色の長靴を投げ捨て。 降りしきる雨を気にする様子もない。ゆっくりペダルを漕いでいる。 ...
手話の合唱コンクールだった。歌は聞こえなかった。僕はたった1人の審査員だ。 ...
戦闘機のパイロットは、1機撃墜すると、アイスクリームを1つもらえる。 僕も欲しい。 撃墜できなかったら、自分で買うのだ。 アイスクリームが嫌いな人には、何をくれるの? アイスが嫌いな人にも、アイスだ。というか、 お前、パイロットじゃないだろう? 隣国の人間です。 お前の国でも、褒美はアイスなのか? ...
座席の横には靴箱があった。その舞台を僕は靴を脱いで鑑賞した‥‥。そしてそのままだった。 何日間か、裸足で過ごしたあと、突然僕は、靴を履いてないことに気づいた。 あのコンサートホールに、1人戻った。靴は靴箱に、一足だけ残っていた。 真夜中だった。僕の他にも何人かの人はいて、何かを探しているようだった。 ...
地元のアマチュア演奏家たちが、1列に並んだ。国境までつづく、長い長い列だ。 楽器が用意されていて、歌と演奏が始まった。僕はいちばん右端の、電子ピアノを弾く男性の前にいた。 遠い向こうから、女の人の歌が聞こえてきた。 ピアノはそれとは、全然違う伴奏を始めた。男性は目の前の僕に、歌えと促した。 ...
キワドいコスプレをした女の人のペッタンコの胸を必要以上に長く見ないようにしながら平面的に描かれなかった服はするりと落ちたが僕は意地になって立体を描きつづける。 上の方に描いたんだけど全部落ちてしまったよ‥‥画面の下の方が立体的な女の下着や何かの残骸でいっぱいになった。 ...
激しい雨の音がした。ガラスが割れ、天井や壁が崩れる音もした。顔を上げると、女はハングル文字の形に似てきていた。男だったのかも知れない。もう思い出せない。 すぐに雨は止んだ。夢のように一瞬だった。日が射した。それなのにハングル文字が再び人間に戻ることはなかった。僕は本を閉じた。 ...
22時にスーパーは閉店した。店内にはまだ多くの客が残っていた。誰も焦る様子はない。 のんびり買い物をしている。大音量で鳴らされる「蛍の光」を聞いても。 そのうちに「蛍の光」の放送も終った。出入り口は施錠された。もう何の音楽も聞こえない。店員もいない。消灯した。 どこからともなく、黒いスーツを着た大男があらわれた。「この店は午前3時に開店します」店内に残った客に、そう告げた。...
現実を鏡に映した。何もかもがはっきりと見えた。メガネをかけたみたいに。 鏡の外側では、世界はぼやけて見えた。曖昧で、重さがなかった。僕も宙に漂い、印象派の絵画のような世界の中を、流れていく、流されていく。 みんなが流されていくのとは、反対の方向に。 辿り着いた先に、大きな鏡があった。自分の姿が、その鏡に映った。すると、顔だけが、その鏡の中に吸い込まれた。 頭部を失った...
その質問票には愛国者かどうかを問う項目があり僕は戸惑ってしまった。 他の質問は税関でよくあるすべて「いいえ」で答えておけばいいものだ。 愛国者か? 僕は「いいえ」にチェックを入れ、署名して提出した。 するとまた新たに質問票を渡された。 そちらには「愛国者か?」という質問だけしかなかった。 誰が? 僕が? 主語が抜けている。 ...
その若くて綺麗な女性は僕の友達だ。彼女は上半身裸だった。恥ずかしがる様子もなく、町を歩いている。周囲の人々の反応も普通だった。それは最新のファッションなのだろう。僕も彼女の胸をじろじろ見るような恥ずかしいマネはできなかった。けっして胸を視界に入れないよう、触れんばかりの至近距離に位置し、彼女の目だけを見て話をした。 少しでも離れると、胸が目に入ってしまう‥‥見たくてたまらなかった。他に...
下半身を露出した男性が、エレベーターを待っています。彼の同僚と思われる、スーツを着た男性と一緒に。エレベーターが来ました。僕はフルチンの後から乗り込みました。同僚は手を振って去って行きます。何の罰ゲームでしょうか。エレベーターの中で、僕はフルチンと2人きりになってしまったのです。 ...
「部屋をもう少し片づけてもらえる? 私も手伝うから」 住み込みのお手伝いさんが僕の部屋に来てそう言った。 「えっ?」 けれど確かに部屋は中身のわからない大小の箱でいっぱいだ。 「いつの間にこんな‥‥何が入ってるんだろう?」 中を見てみた。 「これ妹のだよ。あ、待って、本棚の本もそうだし‥‥クローゼットの服も‥‥」 「全部返そう」と言って僕はお手伝いさんと一緒に...
司会者の男性が、君にしたのと同じ質問を、僕にもする。「お互いをどう思っているのか? 彼女は(彼は)あなたにとってどういう存在なのか?」 ラジオ番組に出演した。前回で懲りた僕は、通訳をつけてもらっている。 君は僕のことを「おもちゃ」だと答える。楽しく遊ぶために必要な道具。 (本当に正確な訳語なんだろうか‥‥?) 「僕はおもちゃなんてなくても遊べるよ」と僕は答える。 「そ...
人混みの中、しかし誰にも触れないようにして歩くのは簡単だった。時間が止まっていたからだ。2階から階段を下りた。1階でも人々は停止していた。クラシックのコンサートが終ったところだ。ロビーに出てきた演奏者が、ファンに囲まれている。記念写真とサインに応じている。 ...
カーテンを開けようとしたら、レールから外れてしまった。勢いよくやり過ぎた。血のように赤い光が寝室に射し込んできた。液体の光だった。光は同じく液体だったシーツやカーテンと混じり合い、部屋の床にこぼれた。 ...
キワドいコスプレをした女の人の胸を必要以上に長く見ないようにしながら立体的に描かれなかったロケットは落ちたが僕は意地になって平面的なロケットを描きつづける。 紙のいちばん上の方に描いたんだけど全部落ちてしまったよ‥‥画面の下の方が平面的な女の下着とロケットの残骸でいっぱいになった。 ...
僕の心残りのある誠が中途半端に僕を責めた、と君に聞こえるようにそう呟くべきだったのです。 だが僕はそうはしませんでした。 外国語学習用に盗んだ小説。いま読んでいる本。ページの1枚1枚に透かしが入っています。よく見るとそれは誠という字を象った家紋のような模様でした。 ...
原稿用紙の世界の果てを覗いた心の奥を覗くとスネ夫アンドのび太の映画鑑賞会でいつも同じようにジャイアンは歌った。 ...
1階で出た料理の残りを誰かが2階の僕らのところに持ってきてくれた。1階ではパーティーをしている。 2階では誰も何もしていない。 食事を取ろうとすると、何人かがテーブルの下に潜り込み、お祈りを始めた。 白いテーブル、白いイス、白い床、白い壁。 さらに白い何か。 窓はなかった。天井は高かった。 この上に3階はあるのだろうか? ...
トラックの荷台に食料を積んで、僕たちは出発した。寺へ。テラへ。 寺では何も見なかったことにしければならない。僕たちはそう言われていたのだが、寺では本当に何も見なかった。 荷台の食料の様子を見ようとすると、食料は消えた。 驚いてトラックを運転してきた相棒の顔を見ようとした。見れなかった。突然彼の顔が消えたからだ。 ...
娘が「お化け屋敷に行きたい」と言い出した。 女房と息子は遠くのベンチに腰掛けている。 セピア色の陽光が2人を照らしている。 「これは中国のお化け屋敷だよ」と僕は言った。 「大人向けのお化け屋敷だよ、中国のお化けはものすごく怖いんだよ」 それでも娘は入りたいと言う。 怖いのが苦手な僕は娘を1人で行かせることにした。 ‥‥なんて父親なの、という目で女房は僕を...
電線に雪が積もっていた。ちょうど僕の頭上だった。つららのように雪は伸びてきた。その先端にピンク色の花が咲いた。花は僕に語りかける。「私の写真を撮って」 僕はスマホのカメラを向ける。そのとき巨大なカラスがやってきた。ホバリングで空中に停止した。僕は色々な角度からカラスを撮影した。 ...
終点でバスを降りる。目の前は大きな山だった。雪で真っ白になった山だった。富士山のように見えるがそんなはずはない。ただ「山」と呼ぶ。「やま」。返事はなかった。僕は踵を返した。今来た道を引き返す。 ...
赤ん坊をおぶって400cc のバイクに乗っていたら、危険だと指摘を受けた。 僕は、同じように赤子をおぶってバレーボールをやっている女子選手の動画を見せて反論した。 これが今のトレンドなんだ。 ...
地下鉄の駅は、気取ったバーの中にありました。1時間に1本しかない電車を、酒を飲みながら待っている人たち。バーは満席でした。 空いた席が、1つだけあります。ベトナム人たちが、その席を囲んで、ベトナム語で何か議論をしています。 席を指差し、奇妙な歓声を上げ、拍手をしています。 僕は何も注文せず、その席に座りました。 その瞬間、ベトナム人たちの議論(?)は、終ったようです。...
そのスーパーに入ると、まだ何も買ってないのに、料金を請求された。それは、未来予知である。渡されたレシートは、運命なのだった。僕はレシートを見ながら、予知されたとおり、全能の神に定められた買い物をする。 ...
「それ」が僕の視界に入ろうとして、僕の眼球の動きを追いかけています。 眼球は逃げ回り、ついには眼窩を飛び出しました。 そうすると「それ」は僕の眼球の代わりに眼窩に収まります。やっと僕は安心して瞼を閉じました。 ...
息子が唐突に、ふだんとは違う大人びた声で、「すべての欲望を肯定するのだ」と言い、地獄の底に落ちていきました。 彼の後を追い、慌てて僕もダイブしたのです。 地獄の底には、影のように平べったくなった息子が倒れていました。 僕が「エイ、エイ、エイ」とその体を満遍なく足で踏んづけると、息子の口や鼻からゼリー状の魂が出てきました。 その魂をコンビニのロゴが入った白いビニール袋に...
ピアノを弾いているうちに、何だか可笑しくなってきて、ゲラゲラ笑った。弾いている間中、笑いが止まらなかった。 大笑いしながら弾くと、ふだんは弾くのが難しい、リストやラフマニノフの練習曲でも弾けた。それが可笑しくて、さらに笑った。 ...
吊り橋の向こう側はデパートだった。橋にもたくさんの出店が出ている。 橋を渡ってデパートに向う人々は皆ローリング・ストーンズのTシャツを着ている。デパートではローリング・ストーンズのTシャツしか売ってなかった。ローリング・ストーンズのTシャツ専門店なのだ。 ...
「弾きながら笑ってた」 「えっ、笑ってないよ」 「終盤、ラフマニノフ弾きながら、ゲラゲラ笑ってた。笑い声、後ろの席まで聞こえたよ」 「そうだったかな‥‥あまりにも難しい曲だったんで、弾いてて逆に笑けてきたんだ。でも実際に声に出して笑ったりはしなかったはずだけど」 「それ見て、会場の僕らも笑けてきたんだ。最初はクスクス、そのうち腹を抱えて。みんな、大声で笑ってた」 「笑い声な...
何を見てるの、と金髪の美少女は訊く。落ちていたものを拾ったが、それじゃなかったんだ。手にした途端、違うものになってしまった。 それをまじまじと見つめている。自分が何を拾ったのか思い出せないんだ。 (泉はどこ? 見つけられない。泉の精はどこ?) 落ちていたのは、きっと錆びた鉄の斧。でも今、手にしているのは、金の斧じゃない。 ...
その夢の中でずっと歌を歌っていた。 「人間同志で魂を食べる、食べる」 「人間同志が魂を食べる、食べる」 「食べる、食べる」 メロディはもう思い出せないが歌詞は覚えている。 ...
気の狂うような暑さの中、浜辺で、若い女性たちが、毒々しい、水玉模様の、極太のパスタを茹でていた。 茹でれば水玉は消えてしまうだろう、と僕は思っていたが。消えてしまったのはパスタの方だった。水玉模様だけが残った大鍋の中を見て、彼女たちの1人は、「かわいい」と声を上げた。 ...
商品をレジに通してもらうたびに、マイナス9、マイナス5、などという数字が出る。この店で買い物をすると僕はお金を貰えるのだろうか。 レジの人も困惑している。 ...
僕は路線図を見ている。 何年前だろう、東北新幹線が上野まで開通していなかった時代のものである。 駅で乗りこんだ。 ものすごく長い車両だ。いったい何両編成なのか。車両は盛岡から大宮までの長さがある。 大宮から乗り込んだ僕は、車内を盛岡の方へ歩いて行く。 ほとんどの乗客は、動きもしない列車の中で、座ったままだ。 途中、テーマパークを見つけた。 そ...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...