地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
夢を見た。ベッドの上で僕は「ヨシ! ヨシ!」と自分の名前を呼んでいた。その声で目覚めた。しかしその声は自分のものではなかった。この体も自分のものではなかった。 ...
息子がボール遊びをしている。そのボールは惑星なのだそうだ、息子によると。これが火星、これは冥王星‥‥ 冥王星はもう惑星じゃないんだよ、と指摘しようとして思い留まる。 冥王星と2人でお風呂に入ってもいいかな? と息子は訊く。 お母さんと一緒に入りなよ。 駄目だよ。お母さんは冥王星が大嫌いなんだ。 じゃあお父さんと一緒に入ろう。 お父さんも冥王星嫌いでしょ。...
死ぬ夢を見た。僕は涙を流しながら死んだ。死んでからもずっと涙は流れつづけた。明るい病室だ。そこらじゅうに死体はあった。彼らもみんな泣いていた。 ...
岩山で暮らす僕のところに、竜が舞い降りてきた。竜は僕の目の前で卵を産んだ。巨大な卵だ。僕に孵化するまでそれを温めるように命じた。 ...
そいつに近づいた。 踊りながら近づいた。そいつはまず踊ってない者を食べた。踊ってない者を全員食べてしまうと、次は踊りの下手な者を食べた。そいつの周りには、見事に踊る者だけが残った。そいつは次に、あまりにも見事に踊る者を1人食べた。僕たちダンサーの間で、激しい混乱が起きた。するとそいつは、混乱した踊り手を食べた。 ...
ピアノの音に誘われて、大広間に入った。そこには1台のピアノがあり、女性が演奏をしていた。ピアノの周囲には、着飾った人形が何体も立っていた。人形たちは等身大より少し大きく、服はどれも小さかった。 君と僕は手を取って歩いた。足音を立てないように静かに。人形の森をかき分け、そっとピアノに近づく。ピアニストは何も書かれていない楽譜から顔を上げた。 ...
野球をしていた。僕たちのチームの投手は車椅子に乗っていた。彼は5回まで投げた。その後で僕がマウンドに立った。チームは1点差で負けていた。 投げようとすると、つづきは明日にしよう、という声が上がった。みんなが同意した。マウンドを降りた車椅子の投手もその方がいいと言うので、仕方なくそうした。僕は家に帰った。 ...
ぬかるみの中を歩いていた。僕も女房も泥まみれだ。僕たちの子供は僕たちより少し先を歩いていた。ときどき転んだりもした。しかし彼は綺麗なままだった。彼の靴も服もまったく汚れてなかった。同じ道を歩いているはずなのになぜだろうと思った。僕の女房は嬉しさのあまり泣いていた。 ...
南へ旅行に行った。帰ってきてその話をすると、「私も行きたい」と君は言い出した。君を伴って僕はもういちど出かけた。僕は君を案内することができるだろう。 到着した。 町に出た。暑かったので水を買おうとした。しかし君のクレジットカードは使えなかった。僕のカードも使えなかった。どうしてなのかわからない。僕たちは現金をほとんど持ってなかった。 バスがやって来て僕たちの前で停まった。扉...
アイドルのコンサートを観ていた。僕の隣に、ステージで歌うアイドルとそっくりな女のコがいた。クローンなのだ。そのコと手を繋ごうとした。抱きよせようとする。抵抗はされなかった。彼女は本当は嫌がっていたのかも知れないがわからない。彼女に意志があるのかわからないという意味だ。僕はもうステージは観てなかった。 ...
スキーの板を持った男の人が、すれ違いざま私に、「パパ活は楽しいかい」と言った。目が点になった。 「冗談も通じないのか‥‥」 「スキーは楽しいですか?」と私は訊いた。 「わからない。スキーはやったことがない。今からするところさ」 「私もパパ活はしたことがありません。今からするところでもありません」 「そうかい」 ...
その背の高い女の人との待ち合わせ場所へ向う途中、別の背の高い女の人に出会ったのだが、その人は「自分こそがあなたを呼び出した女」なのだと言った。 僕はウソツキの女に話しかけた、「君が僕を呼び出したとして、何の用なの?」 女はウソを答えた。(ホントウだったのかも知れないが、僕はその話を信じない。) 女は1人で喋りつづけた。ピノキオの鼻がのびるように、女の背ものびた。 僕は...
野球をしていた。僕たちのチームの投手は車椅子に乗っていた。彼は5回まで投げた。その後で僕がマウンドに立った。チームは1点差で負けていた。 投げようとすると、つづきは明日にしよう、という声が上がった。みんなが同意した。マウンドを降りた車椅子の投手もその方がいいと言ったが、僕は投げたかった。無失点に抑える自信があった。やる気がみなぎっていた。なぜここで中断するのだろう。チームの裏の攻撃もク...
世界中の人間が、声を揃えて一斉に、お前のことが「好き」だと言うのと、 1人ずつ順番に、「好き」と言ってくれるのと、どっちがいい? どっちか選べ、と神様は僕に迫った。 1人ずつ順番がいいです、と僕は答えた。 というわけで、僕の人生は、そういうものになった。 僕の前に行列ができている。 ...
歩いている高校生が、自転車に乗った高校生とすれ違った。さらに僕ともすれ違った。駄菓子屋の前だった。髪を金色に染めた高校生ともすれ違った。全員女子だった。1人の男子もいない‥‥ 僕はやっと自分の家の玄関前に辿り着いた。家の周囲をぐるっと半周するのに半日かかった。とにかく大きな家だった。 ...
ひどく蒸し暑い夜が、前の方から来た。それとすれ違った。すると朝だった。 どこへ行くの、雨の朝が訊いた。 買い物だよ、コンビニまで、すぐ戻るよ、僕は答えた。 コンビニでは接着剤を探した。それが欲しかったわけではない。けど探した。 ...
僕は白い短パンをはいていた。ブリーフのように見えるデザインで恥ずかしかった。でもこれしかないのだ。長いジャケットを借りて着た。家にいた、知らない女のものだ。それから、膝まであるブーツをはいた。足には毛がなかった。まるで女のようだった。 ...
異常な夕焼けの中を歩いた。赤い光源は2つあった。東の空にも、西と同じ夕日が沈み、僕は天動説を信じた。太陽が動いているのでなければ、このようなことはありえない。地球は丸くない。地球は平らなのだ。大地の端まで行こう、と決めた。このまま、徒歩で。 ‥‥ひどく蒸し暑い夜が、前の方から来た。それとすれ違った。すると朝だった。 ...
ダイアナ妃が書店に来て、店中の本に自分の名前を書いていた。僕たちは茫然と見守るだけだった。 ダイアナ妃はペンを落した。誰も拾ってやろうとはしなかった。彼女がそれを拾うために屈めば、下着が見えるだろうと期待してのことだ。実際に思っていたとおりになった。 帰りませんか、と従者の1人は言った。もう充分でしょう。 ...
道を歩いていた。5円玉が落ちていた。ラッキーと思い拾った。 しばらく行くと、今度は50円玉が落ちていた。拾ってポケットに入れた。この先には500円玉が落ちているだろうと思ったら嬉しくなった。足取りは軽くなった。 ...
清原の豪邸の脇を2度通り過ぎた。道に迷った僕らは同じところを堂々巡りしているのだろうか。そうじゃなくて清原は日本中に家を持っているのかも知れない。清原って誰、と君は訊いた。 交差点を左折した。そのときまで僕らが運転していたのは車だった。今乗っているのは自転車だ。坂道を滑り降りる。そうすると僕らは歩いていた。 高速道路を歩いて横断した。サービスエリアの売店に入った。店内では...
地べたに座っていた見知らぬ人が、僕にそれを渡した。干物だろうか。それは臍の緒だという。誰の? えっ、まさか。そのまさかだよ、あんたのさ。 食べてごらん。食えるわけないだろ? いや、あんたは食べる。勝手に決めるなよ。 食べた者に、永遠の沈黙をもたらすのさ。は? それって死ぬってことだろ? わかってないな、これは言葉を必要としない世界へ行く鍵だよ。 喋れなくなるってことか? あ...
レダという名前の女性が待ち合わせ場所に指定してきたのは、レダという店の中にあるレダという星だった。どういう種類の星なのかは知らない。店の中にあるぐらいだから本物の星ではないのだろう。僕は『星の王子さま』に出てきた小さな星を想像した。王子さまの故郷の、わがままなバラが咲いている星を。そして煤払いをしなければならない3つの火山を。 レダはまだ来ない。店には誰もいない。店にはたくさん...
妹は今家にいない。そのガイジンの女のコは妹の部屋に泊まった。妹が知ったら怒るだろう。ガイジンさんが出発した後で僕は部屋を見てみた。綺麗に使ってくれていればいいのだが。 ベッドの上には下着が脱ぎ捨ててあった。あのガイジンさんのものなのか、妹のものなのかわからない。たぶんガイジンさんが忘れていったものだろう。確認のために彼女に電話をかけた。下着は洗濯機にかけた。 やっと電話がつながっ...
その家にはトイレがなかった。用を足すには少し離れたところにある別の建物に行かなければならない。 その建物のエントランスホールには、『重力の虹』が置いてあった。いつも誰かがそれを読んでいた。 挿絵入りである。文章がほとんどない。 絵ですべてが説明されている(とてもわかりやすく)。 「僕も読んだよ、その本」と言ってみる。 「どこで? トイレの中で?」 違う...
昼間、僕は歌を歌っていた。音楽としてではなく、運動として。運動をするための、準備運動として。すると、たくさんの人が集まって、中には僕と一緒に歌い出す者もあらわれた。困った、と内心僕は思った。僕は歌なんか知らない。 ...
最初に踊った人たちの顔には、数字や記号が大きく書かれていた。そういうお面をつけているようにも見えた。どっちにしろ表情はよくわからなかった。その踊りも何を表現したものなのか知れなかった。 その踊りが終ると美しい人が舞台にあらわれた。その人は踊らなかった。ただゆっくりと歩いていた。男なのか女なのかわからない。髪は長かったが男なのか‥‥ その人は去った。するとその後に、帽子をかぶった男...
道路脇に無人のブース。ピンク色の傘が捨てられている。 雨の中を歩いた。濡れた手に巻き尺を持っている。家から斎場までの距離を測ろうというのだ。 道路を渡る。その向こうが斎場だ。同行者と共に信号が変わるのを待っている。 この道の幅は測らなくていい、と同行者は言う。 どうして? 雨が強くなった。訊きたいことがたくさんあるのに。 同行者は手...
冥王星は寒いが、冥王星人は寒さを人に感じさせない。つねに薄着である。それがマナーだと考えられている。 冥王星人の肌は白かった。そこに1人茶色い肌の男がやってきた。冥王星人たちは男の肌に暖かい太陽を感じた。男は。 ...
僕は朝の頭に口をつけ、その長い髪の毛を少し食べた。 全部ではない。少しである。乱暴に抱き寄せても朝は拒絶しなかった。それはそうだろう。 アサは僕の指導する学生だった。懸賞論文に応募するのを手伝った。論文は実質的に僕が全部書いたと言っていい。 論文は見事入賞し、賞金の100万円を彼女はゲットしたのだから‥‥ 後日副賞の赤ワインが大学の研究室に送られてきた。...
トーク番組の司会者の質問に、僕の知らない外国語で答えている君。隣で僕は深く頷き、笑いが起きたタイミングで腹を抱えるゼスチャー。そんな僕を見て、君がにっこりと笑うから。僕はさらに調子に乗って、「ビアンシュー」などと相槌を打った。 ...
僕は殺された。僕はパトカーの中にいた。パトカーはサイレンを鳴らして、道路を逆走していた。後部座席で、僕は横たわっていた。寝ていた。そのときから既に犠牲者だった。 走行中のパトカーのドアが開いた。誰かが入ってきた。犯人だ。そいつは僕に手を触れずに、僕の首を締めた。 ...
白い蝶が階段を上がっている。歩いて上がっていた。 「何で歩いているの? 飛ばないの?」僕は訊く。 「思い出そうとしているんだ」 「何を?」と僕は訊いた。 長い階段を上りきったところにはレモン色のフェラーリが停まっていた。 近づくと助手席の扉が開いた。僕は乗り込んだ。 運転席には誰も乗ってなかった。 「待ってれば来ると思うんだ」 誰に言うとでもなく、...
高校生くらいの男のコが僕に訊いた。 「よじひきは使える?」 「よじひきって何?」と僕。 僕たちの後ろには修道服を着たシスターたちが並んでいる。 閉店後のスーパーだ。 レジ前に行列ができている。会計をしてくれる人はいないが、買い物カゴを持ったシスターたちは、静かに待ちつづけている。 出入り口は閉まっている。店員もいない。 客はまだ買い物をつづけてい...
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地方のスタジアムで、ルールのよくわからないスポーツの試合を僕は観ている。 とりあえず、青いユニフォームを着た選手の応援をすることにした。(ちなみに選手は数え切れないくらいいて、みんな違う色のユニフォームを着ている。) 観客席で撮った自撮り写真を友達に送り、これって何の試合なんだろうねとついでに訊く。 ...
ディーラーの握り拳の中に4つの数字がある。サイコロを転がして出した数字とは一致しない。友人たちはまた全部外した。 「いつかこれで大金を手にするんだ」いつも言っている、ギャンブル好きの彼ら。 もう帰ろう‥‥ 車に戻った。友人の1人が私と2人だけで話したいと言った。異議を唱えるもう1人の友人を、彼は殴って黙らせた。殴られた方はなぜか楽しそうに笑って‥‥ ‥‥ 「話っ...
バスを降りるときに3200万円を支払うのだ。僕じゃない。僕の友達が。彼はそんな金は持ってない。支払いは待ってやってくれ、と僕も運転手に頼む。 運転手は何も言わず、ずっとバスは停車したまま。 ...
地下のそのスペースにたくさんの人が集まっている。みんな友人だがもう誰が誰だか思い出せない。ある音楽が演奏されたのだった。その音楽は僕たちの記憶を洗い流していった。‥‥帰ろうかと思うが足が動かない。ここがどこなのかすらわからない。何か重大な目的があって僕たちはそこに集まったのだった‥‥ 会場の出口では記憶が売りに出されている。それは1点ずつ違うCDだったり紙の本だったりする。映像データで...
知らぬ間に宝くじが当たったようだ。きっとオンラインで買ったやつだ。大金が口座に振り込まれている。僕はその金を全部引き出し、宝くじ売り場へ向かい、そこで売られている宝くじを全部買う。そこで気づいたことがあるのだが、1億円分の宝くじの束は、1億円の札束より軽い。 ...
町の上空に浮かぶ雲のベッドで僕は目覚めた。寝ているうちにまた巨大化してしまったようだ。ベッドから足を下ろすとき住宅を一棟踏み潰してしまった。 いつまで寝ぼけているんだ、と町の住人から怒りの声が上がる。 ベッド下に落したティッシュの箱を取ろうとして暴れ回り、町の一区画を更地にしてしまったところで、完全に目を覚ました。 ...
東大生とは、東京大学の学生ではなくて、東京大学に連れていってくれる人のことだと、その人は主張し、5月のある日、東大を案内してくれたのだ。 東大は東京の大学というより寺院のようで、建物の中に入るとき、靴を脱がなければならなかった。 その日は休みなのか、構内に学生や教員の姿はなく、静かだった。 犬小屋があって、そこで白い犬が寝ていた。 ...
右側通行の道路、右ハンドルの日本車とすれ違った。赤いスポーツカー。運転していた女性が歩道の僕に手を振った。僕も振り返すと、それを合図に人が集まってきた。日本語が通じるか挑戦したい、という人たちだ。日本語を学んでいる学生たちだった。 ...
その家の玄関の前には大猫がいて、カメラを構えた僕が近寄ると後ずさった。そうか写真に撮られるのが嫌いなんだ。家に入るのに大猫が邪魔だった。どうすればどいてくれるだろうと思っていた。無事追い払うことができた。 ...
夕日を浴びて電車が走っている。電車には人は乗ってない。ジャガイモが積まれている。収穫したばかりのジャガイモだ。 線路はあるところで直角に曲がっている。電車はそこを上手く曲がれず、脱線してまっすぐに行ってしまう。まっすぐ行った先には車庫がある。まだ車庫に入りたくない、と電車は思う。 ...
陰茎は固く絞られた雑巾のようだった。僕だけじゃなくみんなのがそうなっている。ニュースでやっていた。みんなそうなってしまったなら仕方ない。 小便をするときはそれをさらにきつく絞る。残尿感があるならまだ絞れるってことだ。 ...
この写真家を僕はアラーキーという仮名で呼ぶことにする。つまり僕が拾ったのは普通のエロ本・エロ写真集ではなかったのである。後で見てわかったが、それはあるストーカーの日記だった。彼(おそらく男だろう)は複数の女性を追いかけていて、隠し撮りした写真の他に、標的の女性の利用するバスの時刻表や、訪れるカフェのメニューなども参考資料としてあり、その本を持っているのが僕は怖くなった。 ...
アイマスクの代わりに黒いタオルを巻いて寝ていた。電車の中だ。電車が駅に着いた。慌てて飛び起き、降車した。目的の駅の、1つ前だった‥‥ やってしまった‥‥降りたホームで、次の電車を待った。それはすぐ来た。先行する電車に追いつき、しばらく平行して走る。向こうの乗客たちが、僕に手を振っている。 ...
高速道路を僕は歩いている。険しい山を削ってつくられた道だ。時速300キロで走る透明な車が、僕の体を通り抜ける(逆なのかも知れないが、透明なのは僕の方で)。 路肩に男の子がいる。1人で遊んでいる。危険だ。僕は声をかけた。 親に電話してやるよ、迎えに来いって言ってあげる。 おうちの電話番号、覚えてる? 迷子の男の子が教えてくれた番号にかけると、それは僕の実家だ。死んだはず...
足元に酒瓶があった。隣のテーブルの方に蹴飛ばした。赤い酒が入っていた。僕は酒を飲まない。 隣りのテーブルで飲み食いしていたグループが僕に手を振って挨拶したのを見て席を立った。 店の外に出ると明るかった。朝だ。カネを払わずに出たことを思い出した。 僕はいろんなことを忘れていた。椅子の背には上着をかけたままだった。上着の内ポケットには財布が入っていた。 ...
僕は窓際に追いつめられた。窓から外に逃げようと思った。 しかし窓には鉄格子が嵌めてあった。 そいつは僕の体の中から「13歳の心臓」を抜き取ろうとした。 取っても死にはしないとそいつは言うが‥‥そもそも「13歳の心臓」って何だ? ...
愛する女に初めてキスしようとしたとき、私は自分が女になっていることに気がついた。 私がキスをすればこの女は男になるのだろうか、と考えながらキスした。目は閉じなかった。女の変化を観察していたが、何も起こらなかった。相思相愛の私たちの未来が、少し不安になった。 ...
女が「レストラン」と言っている。それを聞いた男が「レンタカー?」と返す。「レストラン」大声。「何借りるの?」さらに大声。「レンタルビデオ?」日本人の観光客だ、地下鉄の中。僕は用もない次の駅で降りる。 ...
怪獣の背中に生えているような刺が、道路に生えていた。車は走れなくなった。ある日突然のことだった。僕は茫然と見つめた。 刺は完全な等間隔で生えていた。人工物には見えなかったが、自然の物とも思えなかった。僕はスマホを覗き込み、世界を裏で牛耳る悪の組織の陰謀ではないかという説が、狂人たちの口から、説得力をもって語られるのを待った。 ...
ポケットから取り出した紙片、4つに折られていたのを開いて、約3分間、お湯に浸すのだ。 書かれていた文字が、お湯に溶け出して、紙が真っ白になったら、取り出すのだ。 文字が溶けたお湯を、僕は飲むのだ。知識が僕のものになる。 ...
手に大きなキャベツの葉を持ち、ゆったりと扇ぐ。冷房はなかった。あるのは大きすぎるキャベツの葉だけだ。暑がりの君に風を送った。 「それキャベツでしょ? 食べるものでしょう?」 君は問うたが、僕は返事をしなかった。 気づくと朝だった。詰所の夜警さんが、僕たちに言う。「もう1人の夜警と話し合ったんだがね、俺たちは、もう眠らないことにしたよ、1日中起きてるんだ、ずっとね」 ...
学校なのか仕事なのかはっきりしないが、休みたくて、布団の中から電話をしている。体調は良いわけではないが、寝てなければならないほど悪くもない。むしろ精神的なストレスからくる何かが、僕にそうさせるのだ。 無意識の内に僕は、自分の頬を洗濯バサミでつまんでいた。痛くはない。ちょっと違和感を感じるくらいだ。頬に何個か洗濯バサミをつけている。2階のバルコニーに立っている。手に色落ちした白っぽいジー...
トイレには3人の若者がいて、鏡の前で、髪を梳かしていた。 1人、凝った髪型をした男の頭蓋骨には、紐がついていた。仲間が2人、その紐を引っ張っていた。コルセットの紐を引っ張るようにして。 ...
僕の首筋には、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と大人が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に連れて行った方がいいな」と別の大人が言った。 「誰を連れて行くんだ?」ここからは大人同士の会話だ。大人の話を聞いていると眠くなる。 ...
雨の中、傘もささず、若者が行列をつくっていた。何に並んでいるのだろう。僕も最後尾につこうとした途端、「中止です」とアナウンスがあった。「中止します」。すると、ずぶ濡れの若者たちは、急に雨が気になり始めたようだった。 ...
「久しぶり」「お久しぶりです」たくさんの人が、僕にそう挨拶してきた。 中には、本当に久しぶりの人もいたが、大抵は初めて会う人だ。 僕が、相手の顔をよく見ようとすると、彼らは帽子や手で、顔を隠す。 そして、なぜかよくわからないのだが、僕は突然、空が飛べるようになった。 雲の上では、また見知らぬ人々が、「久しぶり」「お久しぶりです」そう挨拶してきた。 ...
いつの間にかデパートは閉店していた。出入り口に鍵がかけられてしまった。外に出られない。 途方に暮れていると、1人の男がやってきた。黒いスーツを着た、無口な男だ。どこから入ってきたのだろう。ここで何をしているのだろう。どこへ行くのだろう。話しかけても反応がないが、男についていけば出られるかも知れない。 後ろを歩いていくと、男の背丈は、どんどんと伸びた。僕の2倍〜3倍の長身になった。...
僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 匂いも味もしない煙草を、一口だけ僕は吸い、そうか、僕は流行りの風邪に罹ったんだな、と気づいて、けど、それも夢だ。 鍋を火にかけて、沸騰した水が、消えてなくなるのを見ている。何を料理するつもりだったのか、思い出すために、もうい...
光が熱を失うのと、明るさを失うのはどっちが先だろうと思う。まず冷たくなって、それから消えていくんだろうか。それともまず暗くなって、そこから冷めていくんだろうか。 ...
音が近づいてくる。近づくにつれて音は小さくなる。音は僕は目の前にやってくる。もう何も聞こえない。 僕は音が君だと気づく。僕は音を抱きしめる。音は音を出そうとする。僕は音が目に見えるとでもいうように、君を見つめる。 僕が話すことに決め、実際に話し出すまでにかかった時間が、話の内容を変えてしまうので、僕は、自分でも聞いたことのない話を、聞いたこともない声で、君にするのだ。 ...
僕は手に何かを持っている。自分の持っているものが見えない。何だろう? それは重くはない。だがずっと持っていると手首が痛くなる。 その痛くなったところに君はキスする。すると痛みは増す。君は何度も同じ場所にキスする。痛みに耐えられなくなって僕は持っていたものを手放す。 ...
テレビでロレックスを見せびらかしている若い女に対抗心を剥き出しにした。引き出しの中に白いロレックスが眠っていた。僕はそれを腕にはめた。そしてスーツを着て、ネクタイを締め、散歩に出かけた。並木道を1人で歩いた。誰ともすれ違わなかった。 暗くなってから家に戻り、もういちど引き出しを開けた。そこには別のロレックスがあった。家中の引き出しを開けていった。まだあるはずだった。 ...
雪の日、寒い朝、君の吐く白い息は千切れていくつかの幽霊のようになり、廊下へ出て、順に狭い階段を下りた。僕のその、いちばん最後の幽霊の後をついて行く。1階で、幽霊たちは僕のためのパーティを開いてくれた。そこでどんな歌が歌われるのか、君は知らないだろう。 ...
ある男性と一緒に、電車に乗っていた。彼は僕の父親だと言う。だがどう見ても僕より若いし、僕たちは全然似てない。 僕たちは、初めての駅で降りた。駅前にある、消費者金融に用事があった。僕は借りていた金を返すのだ。彼は金を借りるのだ。 駅前に、「お1人様専用のフランス料理店」があった。ひどく腹がへっていた。でも今は駄目だ。次回、1人のときに来よう。 ...
僕の夢の中で、彼は長身のイケメンに姿を変えていた。性格もすっかり明るくなっていたので、彼が誰だか、最初はわからなかった。画廊で絵を見せてもらったとき、やっと気づいた。画風は、昔と変わらなかった。 店は、閉店した。もう朝だった。最後まで残っていた僕は、店のスタッフと一緒に、掃除を始めた。女主人に、雑巾を渡された。あちこち拭いているいる内に気づいたのだが、鉢植えは造花だった。 ...
友人がバイトしている店で、無料のコンサートがある。それを聴きに行くと、店頭には、そのミュージャンの自伝が積まれていた。信じられないことに、日本語で書かれていたので、誰も読めない。誰も、手に取ろうとしない。 そういえば、僕は日本人だったっけ。だから日本語が、読めるんだっけ。夢中になって、頁をめくっている間に、自分が誰なのか、なぜパリに来てるのか、思い出した。 ...
韓国のどこか。「訓練」が始まった。僕は気分が悪そうにしていた妹を抱きかかえて隊長の前に整列した。ハングル語がプリントされたTシャツ(何て書いてあるのか読めなかった)を着ていた隊長は本当に韓国人だったのかと疑問に思う。いったい何の訓練だろう。僕たちは一言も韓国語を喋らなかった。 虹が子供を産んだ。そしてすぐに消えた。僕と妹。僕たちはその場所で空を見上げ、毎日虹を待った。大きくなったら虹に...
さっき降った雪が、もう溶けてる。車道は濡れて、凍っていた。スリップしたバスに、タクシーがぶつかった。次の瞬間には、パトカーが来ていた。やって来るのが、異常に早かった。サイレンも聞かなかった。 君の家の庭には、まだ雪が残っていた。ドアをノックすると、知らない人たちが出てきた。親と子供たち、家族のようだ。彼らは、町に出て行った。もう、夏だった。 ...
男2人と女1人、三角関係だった。1人の男が歌を歌った。歌詞は外国語でわからない。女はその歌を聴いて、2人のもとを去った。歌わなかった男が、彼女を追いかけた。歌った男は僕のところに来て、「どう思う?」と訊いた。 ...
寺で女の子が雑巾掛けをしながら僕に言う。「おならが出そうなの」 「出せば?」と僕は答える。そして僕も屁をこく。 ...