【通りすがりの怪談】怪其之十一 ~道連れ~
初老の男は深い森の中にいた。男は自分が誰なのかがわからなかった。だが男は自分が何故ここにいるのかは知っていた。 鬱蒼とした森の中を、木漏れ日の微かな光が、こちらに近づいてくる人の姿を浮かび上がらせる。それは若い男だった。若い男は何かに気づいたように初老の男の方を見た。そして驚いた様子を見せるがそれも一瞬のことで、すぐに平然となると頭を軽く下げた。挨拶をしてくれたようだ。若いがなかなか礼儀正しい人のようだ、と初老の男は思った。若い男はあたりを見回すと、「この辺りでいいか。」とつぶやいた。そして一本の大木に近づくと何かを確かめるように木の表面を数回力を入れて叩いた。それで納得したのかうんうんと頭を…
2024/08/25 23:34