受付でアポを取ってらっしゃいますか?と訊(たず)ねられた村雲は、いいえ…と返さざるを得なかった。どうもアポを取ってないとダメなように瞬間、村雲には思えた。ところが、そうですか、まあ、いいですよ…と返されたのには驚かされた。それなら初めから訊(き)くなよ…という雑念が村雲の脳裏を掠(かす)めた訳である。しばらくすると、村雲が連絡したのは携帯で、直接、本人と話していたから、すぐ会える…と村雲は軽く考えていたのである。ところが、受付での厳しいチェックが待っていた。村雲は、受付が内線で連絡している間、カンファレンスのロビーに置かれた長椅子で借り物の猫のように小さくなって座って待った。「お待たせしました…」しばらくして、エレベーターで降りてきたのは、この会社の会長で93才のおばあさんだった。どうも耳が遠いらしく、村...雑念ユーモア短編集(57)連絡