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2023/04/10

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  • 涙のユーモア短編集 (78)時差

    なにも悲しいそのときに涙が出るとは限らない。それは恰(あたか)も、鋭利(えいり)な刃物で深い切り傷を負ったときによく似ている。浅い剃刀(カミソリ)傷なら、すぐ血が噴き出るが、深く鋭い傷の場合は、しばらくしてから血が激しく出る訳だ[静脈の出血であり、動脈なら、たちまち激しく噴き出る]。そのときは悲しくなかったものが、あと後(あと)になって時差を経て涙に暮れることもある訳だ。今日はそんな時差で流す涙のお話です。^^不慮の出来事でご夫人が身罷(みまか)られた、とある家庭のその後である。葬儀も過ぎ、四十九日を経てお骨納めも過ぎ、そろそろ悲しみも薄れる頃のある日である。「ぅぅぅ…」家族を囲んで楽しい夕食が始まろうとしていた矢先、それまで気丈で涙すら見せなかったご主人が突然、嗚咽(おえつ)を上げて泣き出した。それも特...涙のユーモア短編集(78)時差

  • 涙のユーモア短編集 (77)混合型

    笑いながら泣くという混合型の涙の出方もある。むろん、笑いながら怒るという特技をお持ちのお方もおられようが、そこはそれ、今日の場合は笑いながら涙を流すお方のお話です。これが天然ではなく、特技で笑いながら流される涙なら芸能方面にお向きで、一般社会でお暮しというのはもったいないと言えるでしょう。^^とある市役所の生活環境課である。血相変えて庁舎へ飛び込んできたのはこの課の職員、平藤(ひらとう)である。苗字のとおり平藤は定年間近い万年ヒラ職員で、出世の見込みはない、と自他ともに認める天然の男だった。^^「どうしたっ!?」「課長、豚が子豚を産みましたっ!」平藤は課長の凧坂(たこさか)に笑いながら涙を流し報告した。「そ、そうか。それはよかったじゃないか、ははは…」毎度のことだったから、凧坂は適当にあしらって笑った。平...涙のユーモア短編集(77)混合型

  • 涙のユーモア短編集 (76)泣いて…

    泣いて馬謖(ばしょく)を斬る・・という故事が中国にはある。斬りたくはないのだけれど、やむを得ず涙して斬る・・という辛(つら)い決断を意味する。今日はそんな泣いて…涙するお話です。^^とある物流会社、豚足(とんそく)物産である。会社の業績が前年度より半減し、会社は経営規模を縮小し、多くの事業からの撤退を余儀なくされていた。「会社の方針で君には誠に申し訳ないんだが、早期退職をしてもらうことになってね…」課長の山羊岡(やぎおか)は社員の牛田(うしだ)に言い辛(づら)そうに小声で告げた。「分かりました…」牛田は頷(うなず)くと、言い返しもせず素直に自席のデスクへと戻った。会社が飛ぶ鳥を落とす勢いの頃は稼ぎ頭(がしら)と呼ばれた牛田だったが、斜陽の会社ではその実力を発揮できなくなっていたのである。山羊岡は牛田の後ろ...涙のユーモア短編集(76)泣いて…

  • 涙のユーモア短編集 (75)怒られる

    怒られる事態となれば、誰だって青菜に塩となる。反発して怒り返せば事態はさらに深刻となり、トラブルあるいは口喧嘩へとエスカレートするから注意が必要だ。怒られることで、ぅぅぅ…と涙が出る事態は子供時代が多く、大人になって涙を流す場合は、怒られる内容が本人にとって非常に辛(つら)い場合に相違違ない。今日は怒られるときに出る涙のお話です。^^(74)に引き続き、とある町役場である。課長の蒲田(かばた)は次長昇進が見送られたのが堪(こた)えたのか、すっかり落ち込んでいた。「課長、最近元気がないな…」「ああ、そうだな…」大船(おおふな)は隣のデスクに座る太秦(うずまさ)に小声で呟(つぶや)いた。その声は敏感な課長の蒲田の耳にも当然、聞こえていた。蒲田はどういう訳か無性に腹が立った。大船と太秦ではなく、ショボい自分の心...涙のユーモア短編集(75)怒られる

  • 涙のユーモア短編集 (74)影

    表立っては見せないものの、影で流す涙というのがある。グッ!と我慢して抑えた涙である。辛抱してトイレへ駆け込み、用を足してホッ!とした気分に似ていなくもない。^^今日は梅雨前の薄墨色の空を見ながら、そんなお話をしようと思います。^^早春のとある町役場である。春の人事異動が近づき、誰もが浮足立っていて、心が地に着いていない。「蒲田(かばた)課長、どうも次長らしいぜ…」「そろそろ、だからな…」課員の声が小さく耳に入り、課長席の蒲田は満更(まんざら)でもない気分でデスク上のパソコンのキーを叩いた。数年に一度は異動がある・・というのが通例になっていたから、職員全員が保身に身を窶(やつ)す時期でもあった。「大船(おおふな)君!ちょっと!」蒲田は小声で呟(つぶや)いていた二人のうちの一人、大船を呼んだ。「はいっ!なんで...涙のユーモア短編集(74)影

  • 涙のユーモア短編集 (73)法律

    法律で涙された方も最近の世の中では多いことだろう。法律で涙した者が多い…はて?と、訝(いぶか)られると思うが、ズバリ言えば労働者派遣法である。誰がお考えになった法律かは知りませんが、戦後最悪の労働法制と巷(ちまた)で囁(ささや)かれるほどの悪法のようだ。人権を物件と同じようにエクスペンタブルズ[最近、観た三大巨頭ご出演のハードアクション外国映画^^]、要するに派遣社員などと称して消耗品扱いする労働者泣かせの法律なのである[この文面は左に傾いていますが、事実だから仕方ありません]。ということで、でもありませんが、今日は法律で涙する一労働者のお話です。^^とある市のハローワークである。一人の男がハローワークの係員と対峙(たいじ)し、涙している。「ぅぅぅ…そんなっ!それじゃ、うちの家族が食べていけませんっ!」「...涙のユーモア短編集(73)法律

  • 涙のユーモア短編集 (72)見えるもの

    同じものを見ていても人の目はそれぞれ感覚が異なり、違って見えるようだ。例えば青空にポッカリ浮かぶ雲の形一つとってもそうで、ある人はアンパンに見えるかも知れないし、またある人はホンワカ湯気(ゆげ)を立てる肉饅(にくまん)を想像するかも知れない。今日はそんな視覚で涙した人のお話です。^^とある河川敷の草原(くさわら)に座り、二人の老人が青空に揚(あ)がったゲイラカイトを見上げている。風も適度に吹いていて、凧(たこ)揚げには絶好の凧日和(たこびより)である。「時代も変わりました。洋風凧ですか?ずいぶん高く揚がりましたな…」「そうですなぁ、私も凧はよく揚げたものですが…」頷(うなず)いた老人の目には涙が光っていた。「どうかされましたか?」「いや、なに…遠い昔を、ふと想い出したもので…」その老人の想い出は、子供の頃...涙のユーモア短編集(72)見えるもの

  • 涙のユーモア短編集 (71)思わず

    思わず、ぅぅぅ…と涙することがある。それは突然、感極まったときが多い。今日は、そんな涙のお話です。^^とある田舎の役場である。「餅肌(もちはだ)君、言っといた資料は出来てるか?」「はい、議会用の資料でしたね…」「ああ、そうだ。見せてくれっ!」課長の井路目(いろめ)は餅肌にそれとなく小声で言った。明日のことだから、餅肌も用意周到に準備はしていた。餅肌が井路目に言われた資料を取り出そうとしたとき、突然、餅肌の携帯が鳴った。「はい、餅肌ですが…。えっ!はいっ!すぐにっ!ぅぅぅ…」突然の電話に、餅肌は思わず涙した。「どうかしたのかね、餅肌君?」「妻が出産したらしいです…」「ええっ!そりゃ目出度いじゃないかっ!おめでとう!!すぐ病院に行ってあげなさいっ!」「はいっ!しかし、明日が議会ですし…」「議会は議会だけのもん...涙のユーモア短編集(71)思わず

  • 涙のユーモア短編集 (70)涙を出す成分(せいぶん)

    涙を流し、それが頬(ほお)を伝って口へ入ればショッパい。薄々ながらも、涙には塩分が含まれてるな…くらいのことは、思うでなく誰もが感じることだろう。事実はそのとおりで、検索結果によれば<98.0%が水で、その他は約1.5%のナトリウム・カリウム・アルブミン・グロブリンなどと、0.5%の蛋白質が含まれている>とある。感じるショッパさはナトリウムの成分(せいぶん)によるものらしい。では、涙を出す成分とは?今日はそんなお話です。^^とある大学の研究所で、とある実験が行われている。「先生っ!!」「どうした、丸禿(まるはげ)君っ!」「め、目から涙が…」「ああ。それは見りゃ分かるよ…」「どうして出るんですか?」「んっ!?どうしてって、君。そのフラスコに入れた物質の成分じゃないか?」「でも、先生は涙を流してませんよね?」...涙のユーモア短編集(70)涙を出す成分(せいぶん)

  • 涙のユーモア短編集 (69)赤ちゃん

    赤ちゃんは、よく泣く。そんなに泣くことがあるの?と首を傾(かし)げたくなるほど、よく泣く。声が大きい割に涙の量は少ないようだ。理由は、赤ちゃんに直接、訊(き)いていないから分からない。^^今日は、そんなお話です。^^とある産院である。生まれたばかりの赤ちゃんに会おうと、父親が役所を抜け出して駆けつけた。生まれたばかりの赤ちゃんは母親の横でスヤスヤと寝息を立てている。「ちょっと、抜けてきたよ…」「明日は忙(いそが)しいって言ってたでしょ。夜でいいのに…」「ははは…初めての我が子だぜ。そんな訳にはいかないさ…」「そおう?」「おおっ!よく眠ってるなっ!」そのとき、父親の動きで目覚めたのか、赤ちゃんが目を開けた。「あっ!起きた起きたっ!」父親は興奮ぎみに声を少し大きくした。その途端、赤ちゃんは涙を浮かべ大声で泣き...涙のユーモア短編集(69)赤ちゃん

  • 涙のユーモア短編集 (68)悪役

    悪役というのは難しいようだ。憎々(にくにく)しげに演じなければ主役が引き立たないのである。まあ、私では喜劇になってしまうから無理なようです。^^とある撮影所である。「ええいっ!出会え、出会えいっ!!」場面は最高の見せ場で、主役がバッタバッタと悪役の家老に命じられた家臣達を斬り倒していくシーンだ。「どうの(どうたら)…こうのっ(こうたらっ)!」主役が決め台詞(ぜりふ)を言いながら一人、また一人と家臣を斬り倒していく。次第に悪役は後(あと)ずさりしながら身を守る。それでも一人、また一人と家臣達を斬り倒し、主役は悪役に迫っていく。そのとき突然、監督の大声が響いた。「カット、カットっ!!君ね、憎らしくないんだよっ!それじゃ、ただの怖がりじゃないかっ!」「どうも、すいません…」悪役は青菜に塩となる。「全部やり直しっ...涙のユーモア短編集(68)悪役

  • 涙のユーモア短編集 (67)見えない涙

    涙は目から出るだけのものではない。見えない涙もある訳だ。とある家庭の台所風景である。日曜で腕を振るっているのか、パパさんが台所中を散らかしながら、とある料理を作っている。事も無げにタマネギを刻みだしたものだから、さあ、大変!出るわ出るわ、パパさんの目からは大粒の涙が雨のように降り出した。最初は小雨だったものが、10分もするうちに本降りへと変化した。「ぅぅぅ…!」パパさんは料理する手を止め、包丁を握ったまま片袖(かたそで)で止めどなく流れる涙を拭(ぬぐ)う。そこへ、様子を見に、居間からママさんが現れた。「どうしたのっ!!」まるで戦場の爆撃を受けた現場に出くわしたかのようにママさんは叫んだ。それからしばらく、勉強部屋にいた子供達も借り出され、台所の整理と後片づけが行われた。料理はどうなった?かと問われれば、む...涙のユーモア短編集(67)見えない涙

  • 涙のユーモア短編集 (66)BGM

    BGM…すでに和製英語になっている言葉である。敢(あ)えて詳しく書かせて戴(いただ)くと、BackGroundMusicの略であることは誰しもお分かりのことだろう。このBGMが流れれば、周(まわ)りの雰囲気が様変わりするのは不思議と言えば不思議な現象である。芸能方面でも現実の社会においても、このBGMが物事の潤滑油の役割を担(にな)っていることは変わりがないだろう。今日は、そんなお話です。^^とある普通家庭である。中年のご亭主が風呂上りの冷酒をチビリチビリと美味(うま)そうにやりながら、テレビの時代劇ドラマを観ている。肴(さかな)は昨日の残りもののコロッケだ。^^『お母さまっ!ぅぅぅ…』『私はいいんですよ。お前は、これからじゃないか…』旅の途中、病(やまい)に倒れた母親の看病をする娘に、旅籠(はたご)の布...涙のユーモア短編集(66)BGM

  • 涙のユーモア短編集 (65)煙(けむり)

    誰だって煙(けむり)が目に染(し)みると涙が出る。涙を出さないためには、煙が出るような状況に関わらなければいい訳だが、本人の意に反し、そういう場合に出くわす場合もあるのが人の世なのである。^^深夜、とある温泉のとある有名旅館で火災が発生した。観光客達は、美味(おい)しい料理に舌鼓を打ち、美酒に酔い、さらに気持ちのいいお湯に浸(つ)かって満足げにグッスリ寝込んでいた矢先のことだった。「…んっ!?…なんか焦げ臭(くさ)くないですかっ!?」煙が辺りに充満し始めた矢先だった。旅館のひと部屋で熟睡していた団体客の男が、隣で寝ている男に声をかけた。「そういえば…」人の鼻は敏感に臭(にお)いを感じるものである。気づいた男二人は部屋の襖(ふすま)を少し開けた。すると、たちまち煙が二人を襲った。二人は煙に咽(む)せ、涙を流...涙のユーモア短編集(65)煙(けむり)

  • 涙のユーモア短編集 (64)片思い

    好きになった相手が別の相手とイチャイチャしていたとき、思わず『ああ無情…』と思ったことはありませんか?^^私などはその一人で、人生を通じてそればっかりでした。^^要するに、片思いに涙した・・というやつです。まあ、私の話はともかくとして、今日のお話をさせて頂きたいと存じます。男性Aは女性Bにぞっこんだったが、その女性Bは男性Cに惚れていた。ところが上手(うま)くいかないもので、その男性Cは女性Dが死ぬほど好きだった。しかし、女性Dは男性Aにすっかり絆(ほだ)されていたと、まあ話はこうなる。A、B、C、Dの男女四人は全(すべ)てが片思いだったことになる。片思いはその事実が発覚しなければ慕情としていい訳だが、一度(ひとたび)発覚してしまえば、これはもう悲劇と言う以外、なにものでもなく、一人寂しく涙することになる...涙のユーモア短編集(64)片思い

  • 涙のユーモア短編集 (63)涙腺(るいせん)

    涙腺(るいせん)が緩(ゆる)いと、ほんの小さな出来事でも涙することになる。水道の蛇口なら、スピンドルとかケロップ、パッキンなどといった部品を交換すればいい訳だが、涙腺だけは硬(かた)く閉じる部品はつけられない…としたものだ。^^だが、よく考えれば、そうとも言えないのだ。メンタル[心理]面の鍛(きた)えようによっては、そうでもなくなるのである。今日はそんなお話です。^^どこにでもありそうな、とある街の喫茶店である。座席に一人座ってコーヒーを飲む中年の男が突然、大粒の涙を流して泣き出した。それまで、これといった変わった事もなくろ、他の客達は訝(いぶか)しげにその男をチラ見した。とはいえ、それは飽くまでも部外者として観望する程度だった。「ぅぅぅ…ぅぅぅ…」だが、その泣き声は次第に大きくなっていった。見かねた女店...涙のユーモア短編集(63)涙腺(るいせん)

  • 涙のユーモア短編集 (62)間に合う

    間に合えば涙を見なくても済む。その逆で、気づいたとき遅過ぎれば、間に合わないから涙を見ることになる。今日はそんなお話です。^^とある病院の集中治療室である。数分前、ベッドサイド・モニターの心音が停止していた。医師は患者を取り囲む遺族を前に患者の脈を確認して言った。「…お亡くなりになりました。午前、二時八分でした…」遺族にそう告げ、軽く一礼すると、医師は女性看護師を伴い病室から静かに立ち去った。その直後、ドアを開け、バタバタと駆け込む一人の遺族がいた。「ぅぅぅ…。間に合うと思っていたのにっ!」他の遺族達は駆け込んだ遺族を白こい目つきで垣間見(かいまみ)た。白こい目つきとは、間に合うようにくればいいだろっ!なに言ってんのよ、馬鹿みたいっ!などという目つきである。「くそっ!渋滞さえなけりゃ!!ぅぅぅ…」間に合わ...涙のユーモア短編集(62)間に合う

  • 涙のユーモア短編集 (61)追憶

    追憶・・要するに過ぎ去った想い出を脳裏(のうり)で辿(たど)るものだ。楽しかった想い出を巡れば、自然と楽しい気分になり、笑顔にもなろうというものである。その逆も当然ある訳で、悲しかった想い出を巡れば、自ずと涙に暮れることになる。ただ、人の頭脳はよく出来ていて、悪かったり悲しかったりした想い出は、深層心理の倉庫のような場所に格納され、余程のことがない限り想い出さないようになっているから便利だ。時には、すっかり忘れさせ、倉庫から出して消滅させてしまうのだ。要するに、人は都合のいい生き物という結論が導ける。今日は、そんな都合のいい人が想い出す羽目になってしまったというお話です。^^原居(はらい)は都合のいい男で、どんなことでも自分の都合にいいように解釈する癖(くせ)があった。そんな原居が友人の石嶺(いしみね)と...涙のユーモア短編集(61)追憶

  • 涙のユーモア短編集 (60)名作

    名作と呼ばれる作品は、他と比べ、呼ばれるだけの大きな違いがある。名作はいろいろな分野に存在するが、中でも本と呼ばれる名作は、読む人をして思わず涙させる場合がある。今日そんなお話です。とある市立図書館である。一人の女性が涙でビッショリ濡れたハンカチを片手に本を読み耽((ふけ)っている。図書館だから静かに読むのは当然で、会話する人すらいない。そんな中、その女性は、また涙を流し始めた。しかもそれは、雨に例えるならドシャ降りのような泣き方で、嗚咽(おえつ)の声を交えて、である。その声だけが館内に響き始め、図書館司書は声に気づいて席を立った。そしてしばらく館内を歩きながら、その声の出どころを探していたが、ようやく泣く女性に気づき、静かに声をかけた。「あの…すみませんが、静かにお読みいただけますか?他の方の迷惑になり...涙のユーモア短編集(60)名作

  • 涙のユーモア短編集 (59)泣きの涙

    泣きの涙で頼み込む・・という言葉がある。平身低頭、手を合わせて相手に懇願する表現の一方法である。とある中小企業の社長が銀行の応接室で銀行の行員、牛頭(ごず)と話し合っている。「ぅぅぅ…そこをなんとかっ!融資を断られた日にゃ、私ら、首を括(くく)るしかありませんっ!なんとか、もう半年っ!」「馬鹿言っちゃいけませんよ、豚尾(ぶたお)さんっ!半年半年で、あなたの会社にゃ、もう六回、三年も融資してるんですからっ!これで七度目じゃ、うちの銀行もちませんっ!」「ぅぅぅ…、ですから、そこをなんとかっ!」「なんとかしたいのは山々なんですよ、うちも…。なにも、あんたの会社を潰(つぶ)したいなんて思っちゃいません。思っちゃいませんがねっ!業績がこれじゃ…」牛頭の豚尾への呼び方が、あなたからあんたになった。牛頭は業績を示す折れ...涙のユーモア短編集(59)泣きの涙

  • 涙のユーモア短編集 (58)予測

    天気予報は飽(あ)くまでも予測である。予測は確実にそうなるという性質のものではないから、行動の目安(めやす)になる・・という程度に留め置く内容だ。予測を信じれば、違った結果に涙することもあるだろう。今日はそんな、つまらないお話です。^^一人の老人が物憂(ものう)げに空を眺(なが)めている。そこへ、息子の嫁が茶盆を手に現れた。「お義父(とう)さま、どうかなさったんですか?」「んっ!?ああ、未知子さんでしたか…。いやなに、今日の天気具合が…」「どこかへ、お出かけになられるんですか?」この日は遠い過去、恭之介が連れ合いと初めてデイトした記念すべき日だった。そのことを息子の嫁の未知子は知る由(よし)もない。未知子が去ったあと、恭之介は思わず涙した。小粒の雨が降り出したのである。「あの日も、こんな日だったなあ…」小...涙のユーモア短編集(58)予測

  • 涙のユーモア短編集 (57)真相(しんそう)

    それまで知らなかった事実の真相(しんそう)を知った途端、ぅぅぅ…と涙を流すことがある。今日は、そんな話をしたいと思う。^^どこにでもあるような、とある普通家庭である。なにやら問題が起こったのか、居間は家族中で激論が交わされている。「お父さんは、そう言われますが、正也がダメだったのは確かなんですから…」「なにを言うかっ!儂(わし)の孫だっ!!ダメな訳がないっ!何かの間違いだっ!」「私の息子でもありますっ!」珍しく父親は祖父に反発した。「なにっ!!」「まあまあ!お義父(とう)さまもあなたも…」そのとき、妹が学校から帰ってきた。「なんか、よく分からないけど、お兄ちゃん、受かったみたいだよっ!」「ぅぅぅ…そうだろ、ろうだろっ!みろ、お前っ!」「…」コトの真相は正也の受験校の不始末で、結果発表が番号間違いだったとい...涙のユーモア短編集(57)真相(しんそう)

  • 涙のユーモア短編集 (56)願いごと

    願いごとをして、その願いが実ればいいが実らなければ涙することになる。深夜、地方のとある神社である。一人の女性がお百度参りをしている。お百度参りの願いごとが実るのは、お参りする姿を人に見られないのが条件とされている。誰がそのような条件を決めたかは定かではないが、まあそのようだ。^^国営放送の某テレビ番組のように、女性の心境に分け入ってみよう。^^『どうか、戻(もど)りますように…』何が戻ればいいのか?までは分からないが、何かの良からぬ変化があったようだ。女性は裸足(はだし)で祈りながら、神社の境内(けいだい)を行ったり来たりしてお参りをしている。そして時折り、涙するのが、見るからに哀(あわ)れを誘う。ただ、神社の境内は深夜だから漆黒の闇に閉ざされ、哀れむ人影すらない。やがて女性は、お百度参りを踏み終え、神社...涙のユーモア短編集(56)願いごと

  • 涙のユーモア短編集 (55)雨

    雨が降っていた。まあ、こんな日もあるさ…と、いつもなら思う五年生の太(ふとし)だったが、この日ばかりは事情が少し違った。運動会当日だったのである。去年、四年の学級選抜で走った50m走で、隣のクラスの細男(ほそお)に追い抜かれて負けたのだ。その悔(くや)しさがこの一年、堪(たま)りに堪っていた。よし、今年こそ勝つぞっ!と、太は練習に励んだ。『太!もうやめて帰りなさいっ!』随分前になるが、放課後の夕暮れ、体育教師の長居に注意されたことが、昨日(きのう)のことのように思い返された。細男に負けて悔しかった雪辱の思いが、日々の練習を続けさせていた。その甲斐あってか、ストップ・ウオッチのタイムは1秒以上縮まっていた。よしっ!これなら勝てるぞ…そんな思いが太の心を掻きたてていた。そして、いよいよ明日は運動会当日となった...涙のユーモア短編集(55)雨

  • 涙のユーモア短編集 (54)蝉(せみ)

    今年、四才になった冴姫(さき)は蝉(せみ)の幼虫を神社の境内で見つけ、家へ持ち帰って虫籠で大事に育てていた。大事に育てるといっても、ただ籠に入れていただけだが、それでも砂糖水を入れたお皿は籠の中へ入れておいた。しばらくすると、その蝉の幼虫は動かなくなった。成虫への羽化が始まったのである。最初、冴姫は死んだのかも知れない…と思った。「ははは…そうじゃないよ冴姫、これから脱皮して成虫になる準備をしているのさ」父親の満男はそう言って涙する冴姫を慰(なぐさ)めた。「ぅぅぅ…そうなの?」冴姫は半信半疑ながらも、父親が言うことを納得した。しばらくすると、虫籠の中の蝉の幼虫は脱皮し、一匹の蝉の幼虫へと変化していた。それに気づいたのは、冴姫が朝、目覚めたときだった。冴姫は嬉(うれ)しくてはしゃいだ。そうこうして、しばらく...涙のユーモア短編集(54)蝉(せみ)

  • 涙のユーモア短編集 (53)涙量(るいりょう)

    涙量(るいりょう)の限界とは、いったいどれくらいのものなのか…?という疑問を皆さんはお持ちになられたことはないだろうか?私は、ふと、そんな疑問を抱いてしまった暇人(ひまじん)の一人である。^^涙量とは、涙が出る量だが、その限界とは?という素朴な疑問である。もちろん、内容や人によって涙の出る量には個人差があるだろう。ということで、今日はそんなお話である。深夜、一人の女性が公園のベンチに座り、よよと泣き崩れている。幸い、辺りに人影はない。深夜だから当然といえば当然だが、深夜に公園で泣いている・・という構図が、フツゥ~に考えれば尋常ではない。そのとき、警邏(けいら)中の巡査が自転車で通りかかり、ベンチで泣く女性に気づいた。「ど、どうされました?」「ぅぅぅ…」泣く女性が手にしたハンカチはすでに涙でビショビショであ...涙のユーモア短編集(53)涙量(るいりょう)

  • 涙のユーモア短編集 (52)思い出す

    思い出し笑い・・という言葉があるが、思い出す内容は、何も楽しかったことばかりではない。悲しかったことを思い出すこともある訳だ。悲しかったことを思い出したとき、その悲しさが深ければ、当然ながら涙が頬(ほお)を伝うようなことになる。今日はそんなお話です。^^とある講演会が、とある市の会場で開かれている。講演しているのは、とある大学のとある有名大学教授である。「で、ありまして、そのようなことになる訳であります。そのようなことにならないためには、そのようにならないような対応が政府に求められるのでありますが、そのような内容は閣議に上(のぼ)らず、財源として手当てされることはない・・という結果になります。これは国際的にどの国においても同じ傾向がありまして、結果として人類に衛生的な危機を招く恐れがあるのであります。衛生...涙のユーモア短編集(52)思い出す

  • 涙のユーモア短編集 (51)突然

    突然、泣き始める涙の訳は、当事者以外には理由が皆目分からない。とある地方を走る古い蒸気機関車の車内である。二人仕様の向かい合った席に四人の客が座っている。四人とも知らない他人同士だから、これといって話すでもなく、車窓で変化する景色を時折り眺(なが)めたり本を読んだりしている。また、一人の客はウトウトと首を項垂(うなだ)れながら半ば眠っている。残りの一人は、駅で買った駅弁を無遠慮にパクついているといった構図だ。しばらくすると列車は少しずつ速度を下げ、駅ホームへ滑り込むように停車した。と、そのときである。ウトウトしていた客が突然、涙を流して泣き出した。他の三人の客は泣く訳が分からないから戸惑うばかりだ。『牛の角(つの)ぉ~~牛の角~~です。豚尾線は乗り換えです…』静かに駅構内にアナウンスが流れる。「ぅぅぅ…」...涙のユーモア短編集(51)突然

  • 涙のユーモア短編集 (50)サンマ

    サンマを七輪で焼いた懐(なつ)かしい時代・・昭和三十年代の話だが、今から思えば、想像もつかない。というのも、家の外で消し炭(ずみ)を七輪(しちりん)の底に忍ばせ、その上に炭(すみ)を置き、そして火種(ひだね)を入れ、団扇(うちわ)で扇(あお)ぐ。すると、七輪から煙が立ち上り、まず涙が少し出る。そして消し炭は赤々と燃え、炭も燃え移って赤くなり始める。まあ、これくらいか…と思いながら七輪の上に網(あみ)を置き、その上に生(なま)のサンマを置く。しばらく焼いていると、サンマの脂(あぶら)が滴(したた)り始め、炭の中へジュジュ~~っと落ちる。すると、必然的に涙が流れ出る。それを拭(ふ)きながらサンマを裏向け、反対側を焼く。するとまた、サンマの脂が滴(したた)り始め、炭の中へジュジュ~~っと落ちる。と、また涙が必然...涙のユーモア短編集(50)サンマ

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