四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」「ええ。そのときは、ですが…」「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」「はい。ただ、その日は風が強かったですね」「強い風に押し倒されたか…」「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」「そうか…」「ところが、風...サスペンス・ユーモア短編集-44-太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件