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2023/04/10

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  • サスペンス・ユーモア短編集 -44- 太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件

    四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」「ええ。そのときは、ですが…」「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」「はい。ただ、その日は風が強かったですね」「強い風に押し倒されたか…」「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」「そうか…」「ところが、風...サスペンス・ユーモア短編集-44-太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -43- 遵法(じゅんぽう)占拠

    コトは公園に屯(たむろ)するホームレスへの突然の退去命令で発生した。甘谷署である。役所に出動を要請された機動隊長と署長の会話である。「一端、退去したホームレスが一日ごとに塒(ねぐら)を変える頭脳作戦に出たようです!」「なにっ!?どういうことだ?」「公園にいること自体は都市公園法違反にはならないからです」「…だが、6条があるだろう」「いや、それが彼らは衣服の一部だとして、帽子部分を大きくした衣服まがいの寝袋[シュラフ]で眠るようです」「そんな複雑な服を作る金がホームレスにあるとは思えんが…」「聞き込みによれば、福祉ボランティア団体の寄付による配布だそうですが…」「そうきたか…」憲法25条[健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した条文]⇔都市公園法の目に見えない長い難解な訴訟合戦が始まろうとしていた。...サスペンス・ユーモア短編集-43-遵法(じゅんぽう)占拠

  • サスペンス・ユーモア短編集 -42- 偶然の一致

    物事にはサスペンスタッチで進行していても、必ずしもサスペンスにはならない事件も多く存在する。縦走(たてばしり)署では起きた傷害事件の取調べが行われていた。殴(なぐ)ったのは登坂(とさか)で、殴られた相手は登坂の友人の下山(しもやま)である。二人は場末(ばすえ)の屋台でおでんを肴(さかな)に酒を飲んでいた。「下山さんとは古い友人だそうだが?」傷害事件を専門にしている刑事の寝袋(ねぶくろ)は、不思議そうな顔で対峙(たいじ)して椅子に座る登坂を見た。「はあ、会社に入ったときからの付き合いで、かれこれ30年になります…」「そんな仲のお前が、なぜ殴ったんだ?」「殴ったんじゃないんですよ。私と下山は叩(たた)き合いをしていたんですよ」「叩き合い?どういうことだっ!」「いや、私も下山もかなり酔ってたんですが、酔いもあっ...サスペンス・ユーモア短編集-42-偶然の一致

  • サスペンス・ユーモア短編集 -41- 事件にしたくない一件

    松ノ木(まつのき)署では、とんでもない告訴が発生していた。訴えたのは松ノ木村の村長、小宇多(こうた)である。「あの木はずっと昔からある由緒(ゆいしょ)…由緒はないが、我々の子供時代からある馴染(なじ)みの木だっ!誰が切り倒したのかは知らんが、私に一言(いちごん)もなく無断で切るとは許せん破壊行為である!是非、署の方で調べていただき、犯人を引っ括(くく)ってもらいたいっ!」「はっ!村長みずからお出ましとは、かなりご立腹のご様子ですな」署長の御地(おんち)は小宇多のご機嫌をとりながら窺(うかが)うように言った。なんといっても村では一番の長者である御地が言うことは、村のすべての者を右に倣(なら)え・・させるだけの重さがあった。「無論だっ!君には期待しておるから、よろしく頼むっ!」「ははっ!」どちらが警察なのか分...サスペンス・ユーモア短編集-41-事件にしたくない一件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -40- 状況捜査

    物は傷(いた)むものである。目有(めあり)家では、主人の目有が物干し台から柿を採ろうとしていた。毎年、収穫しているのだが、今年はよく出来たせいか、たいそう手間取っていた。ほぼ半ばほど採ったとき、うっかり置いた高枝切り鋏(バサミ)を落としてしまった。当然、鋏(ハサミ)は地上へ数mほど落下した。そのとき、カチン!という音がするのが聞こえた。目有はしまった!とばかりに下へ降りた。鋏を拾おうとすると、取っ手の部分が割れて傷んでいた。一番重要な部分で、この取っ手が欠けては鋏は無用の長物となり、開閉が出来ないから切れない。もう少し慎重に採ればよかった…と目有は悔(く)やんだが、時すでに遅(おそ)し・・だった。これが人なら…と刑事の目有はゾォ~っとした。人なら、明らかに過失傷害の事件捜査となるからだ。鋏には申し訳ないが...サスペンス・ユーモア短編集-40-状況捜査

  • サスペンス・ユーモア短編集 -39- 考えすぎ捜査

    朝の出勤ラッシュで駅構内は人の波であふれ返っていた。事件はその中で起こった。ホーム階段で一人の老人が足を滑(すべ)らせ転倒したのである。その余波で数人の一般乗客が巻き添えを食らったが、幸い、命に別状はなく、軽い軽症でコトは済んだ。ただ、そのときの状況は複雑で、転倒した乗客の前の夫婦は、激しく口論しながら階段を下りていた。そして急に夫婦は階段途中で停止して激しく言い合った。夫婦が停止すると思っていなかった老人は二人に追突し、転倒したのである。当然、老人の後方を降りていた数人の乗客も巻き添えを食らって倒れ、軽症を負った・・となる。事件を担当した所轄警察の十月(とげつ)署は事故、傷害の両面から捜査を開始した。現場検証が念入りに行われ、この一件はサスペンス的な展開に発展しようとしていた。「いや!そうともかぎらんぞ...サスペンス・ユーモア短編集-39-考えすぎ捜査

  • サスペンス・ユーモア短編集 -38- ピアノソナタ騒音傷害事件

    コトの発端は、どこでもよく起こる楽器の演奏練習による騒音トラブルだった。この事例の楽器はピアノで、弾き手が上手(うま)ければ、それはそれで苦情を警察へ申し出た相手方も納得して聞き惚(ほ)れていたのかも知れない。ただ、騒音傷害の告訴があった今回の事件の弾き手はお世辞にも上手(じょうず)とはいえず、かなり下手(へた)だった。そこへもってきて、輪をかけて拙(まず)かったのは、練習する弾き手が下手と認識していないところにあった。そんな弾き手だったから、賑やかに弾き続けるのは当然である。家族はさすがに苦情は言えず、練習時間になると全員が耳栓(みみせん)をした。「難儀な一件ですな…」平松署の伊井はアングリとした顔で上司の課長、吉忠に言った。「さて、どうしたものか…」吉忠も同じようなアングリとした顔で、頭に手をやり掻い...サスペンス・ユーモア短編集-38-ピアノソナタ騒音傷害事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -37- ゴマすり激怒事件

    馬糞(まぐそ)工業の総務課である。課長の毛並(けなみ)は課員の蹄鉄(ていてつ)に今朝も、ゴマをすられていた。ゴマをすられることに馴れている毛並は、そろそろ蹄鉄のゴマすりが鼻についていた。そして、この日、ついに毛並の怒りが爆発したのである。まさか、ゴマをすって怒られるとは思っていなかった蹄鉄はアタフタとした。このときの毛並の激怒が事件の引き金になることを誰が予想しただろう。毛並にゴマをすって怒られたことが蹄鉄の心の蟠(わだかま)りになった。蹄鉄は今後、どのように毛並と話せばいいのかが分からなくなっていた。次の日の朝、突如として蹄鉄は会社に出勤しなくなった。いや、それだけではない。蹄鉄は世間から姿を消し、完全に消息を絶ったのである。蹄鉄は独身で一人暮らしだったことから、他に蹄鉄の行き先を知る者はなく、会社から...サスペンス・ユーモア短編集-37-ゴマすり激怒事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -36- 雨夜の通報

    高島田(たかしまだ)署の取調室である。通報のあった日の夜は雨が降っていた。害者は祝(いわい)という中年男だった。捜査一課の老刑事、文金(ぶんきん)は手持ちの鏡と櫛(くし)で頭髪を撫(な)でつけながら、参考人で呼ばれた目撃者の和式(わしき)と対峙(たいじ)していた。「害者が転んだのを見られた訳ですね?」「はい。ものの見事にスッテンコロリと…」「ということは、本人の過失による事故だと言われるんですね?」「はい。まあ…。なにぶん距離があったもんで、しかとは断言できませんが、ご本人以外、人影はなかったと記憶しております…」「そうですか!いや、お手間をおかけいたしました。今日のところはお引取りいただいて結構です。また、なにかありましたらご連絡を差し上げます」文金は櫛で髪の毛を撫でつける仕草を止めることなく、器用に語...サスペンス・ユーモア短編集-36-雨夜の通報

  • サスペンス・ユーモア短編集 -35- 天秤(てんびん)小僧

    現代でも怪盗はいるものである。天秤(てんびん)小僧参上!という格好いい時代劇風の張り紙を残し、天秤小僧は世の中で動き、そして流れる邪悪な資金を根こそぎ奪い取り、今日か明日か…と切羽(せっぱ)つまった中小零細企業や工場に振り込む・・という、ある種、振り込め詐欺の逆バージョンをミッション・インポッシブルで実践(じっせん)する者として全国民的アイドルになりつつあった。警察も盗られた金を調べると、賄賂(ワイロ)、不正資金、騙(だま)し金・・などといった邪(よこしま)な金の流れが分かり、盗られた!と通報した側を逮捕する・・といった事例が目立っていた。そうなると、次第に邪悪な資金を世で動かしたり流している側は、盗られたあとも盗難届を出しにくくなっていく。実は、天秤小僧の真の狙(ねら)いはそこにあった。まさに現代の救世...サスペンス・ユーモア短編集-35-天秤(てんびん)小僧

  • サスペンス・ユーモア短編集 -34- 微妙な落雷

    不審火による火災が発生し、梶北署の捜査員が現場へ出動した。家は廃家で、幸いにも誰も死傷者は出ていなかった。「消防は火元から見て不審火としか考えられないとの結論でしたが…」組立(くみたて)刑事は体育(たいいく)主任の顔色を窺(うかが)った。「ああ、漏電、その他の原因はなかったそうだからな…」体育は、少し威厳のある声で返した。「立ち去った少年の目撃情報が取れましたが…」「坂立(さかだち)が洗ってるそうだな」「はい!今回はスンナリ捕(つか)まりそうです」「そうなればいいがな…。さあ、署へ引き上げるとするか」「はい!」体育と組立は覆面パトカーへ向かった。数日後、少年は簡単に捕まった。それも当然で、逃げていなかったからである。少年は署へ連行されるとき、キョトン?とした顔で警官を見た。自分がなぜ逮捕されるのかが分から...サスペンス・ユーモア短編集-34-微妙な落雷

  • サスペンス・ユーモア短編集 -33- 歩いた財布

    欠伸(あくび)が出るような春の昼下がり、象野池交番の水面(みなも)巡査長はウトウトと眠るでなく眠っていた。詳しく言えば、表面張力で水面を漂(ただよ)う一枚の紙のように、沈まず浮かずの状態で、際(きわ)どく残っていたということだ。完全に眠らせないのは、水面の脳裏に潜在している『自分は警官だ…』という意識だった。「す、すいません!私のさ、財布、届いてませんか?」一人の紳士が交番へ飛び込んだのは、そんなときだった。水面はハッ!と瞼(まぶた)を見開いて前かがみに倒れていた姿勢を直立に正した。紳士はそんな水面の顔を頼りなさそうな顔で見た。「いや、届いてませんよ。どこで落とされたんですか?」「いや。ここのすぐ近くなんですが…」「色と形は?」「黒の皮です」「ほう!それで、中にいくらぐらい入ってたんですか?」水面はいつの...サスペンス・ユーモア短編集-33-歩いた財布

  • サスペンス・ユーモア短編集 -32- 有難い交番

    交番に日参しては土下座し、交番前の片隅で半時間ばかり平伏する男がいた。交番の高科(たかしな)巡査は、始めは見て見ぬふりをしていたが、その男が雨の日も風の日も休まず日参するものだから、半月ほど経ったある日、ついに交番椅子から重い腰を上げた。「あんたね!こんなところで風邪をひくよ。礼拝かなんか?」高科の言葉に、男は相変わらずひれ伏したまま首を横に振った。「違うのか…。じゃあ、なにか訳でもあるの?」「有難いんです…」ひれ伏したまま、男は小さな声で呟(つぶや)くように言った。高科には男の言った意味が分からなかった。それに少し事件性がなくもない…と思えた。「どういうこと?」「この交番が有難いんです…」「交番が有難い?…」高科は益々、分からなくなった。「よく分からないからさぁ~中へ入って聞くよ。まあ立ち話・・いや、座...サスペンス・ユーモア短編集-32-有難い交番

  • サスペンス・ユーモア短編集 -31- 真実

    取調室である。「はっきり見たんですねっ!」「ええ、それはもう…。ただね、私もここの虎箱でお世話になった口ですから、しかとは断言できませんが…」泥酔した挙句、蒲畑(かばはた)署で一夜を過ごした角鹿(つのじか)は、私服の馬皮(うまかわ)に事情聴取されていた。角鹿が何も語らなければ、そのまま何事もなく蒲畑署を出ていたはずだった。だが、角鹿は語ったのである。というのも、角鹿が泥酔してフラフラと暗闇の裏通りを歩いていたとき、とんでもないものを見てしまったのだ。そのとんでもないものとはUFOが円盤へ人を吸い込む瞬間だった。馬皮は半信半疑で小笑いしながら角鹿の顔をジィ~~っと凝視(ぎょうし)した。「ははは…、警察を舐(な)めてもらっちゃ困りますな。どうせ深酒(ふかざけ)で夢でも見られたんじゃないですかっ?!」馬皮は角鹿...サスペンス・ユーモア短編集-31-真実

  • サスペンス・ユーモア短編集 -30- コトのなりゆき

    島国(しまぐに)は今年、猫川署に配属された若者である。同時に赴任した国境(くにざかい)とは、私的には友人だったが、署内では何かと意見が対立するライバル関係にあった。ようやく暖かくなり始めた早春の朝、梅が綻(ほころ)ぶ盆梅展で丹精込められた樹齢数百年の老梅の大鉢が何者かによって持ち去られるという奇怪(きっかい)な盗難事件が発生した。奇怪というのは、警備の係員がいたのだから、展示中は盗られることはまずない…と考えられるからである。盗られるとすれば閉館から開館までの間だが、島国と国境の懸命の聞き込みにもかかわらず、コレ!といった確実な情報は得られなかった。二人から捜査報告を受けた課長の海上(うみうえ)は、訝(いぶか)しげに首を捻(ひね)った。「…まあ、そのうち足が付いて、何か掴(つか)めるだろうがな…」「私もそ...サスペンス・ユーモア短編集-30-コトのなりゆき

  • サスペンス・ユーモア短編集 -29- 落としどころ

    ベテラン刑事の舟方(ふなかた)は、このところ持病の神経痛に悩まされていた。なんといっても困るのは、張り込み中にジワ~~っと痛み出すやつだ。「舟さん、いいですよ。私が見てますんで、車で待機していてください」若い底板はそう言って舟方をフォローした。「おっ!そうか、すまんな。動きがあったら知らせてくれ」舟方は、こいつも、ようやくモノになったな…と思いながら、助かった気分で覆面パトへ移動した。犯人のトマト泥棒が捕まったのは、それから数日後である。その犯人は妙なヤツで、トマト好きが通り越し、一日中、トマトを食べていないと体調が悪くなるという、ある種の病気体質の男だった。「さっさと吐けっ!お前が食べながら走り出たのを生産農家の一人が見てるんだっ!」「いえ、私はそんなことはしやしません…」男は頑強(がんきょう)に犯行を...サスペンス・ユーモア短編集-29-落としどころ

  • サスペンス・ユーモア短編集 -28- 重いような軽い話

    正直なばかりに損ばかりして、かろうじて世を渡っている、時代に取り残されたような男がいた。男の名は我道(がどう)進という。「お前なっ!もう言い逃(のが)れは出来んぞっ!悪いことは言わん。ここらが年貢の納め時だ・・と思って吐けっ!」「あの…お言葉ですが、僕はきちんと税金は払ってます」「…屁理屈を捏(こ)ねるやつだ。たとえ!たとえを言ったまでだっ!」刑事の糠漬(ぬかづけ)は重石(おもし)をさらに乗せるかのように我道を責めつけた。「でも、僕はそんなことは一切、やってません!」正直者の我道は真実を言っていた。どう考えても三軒隣の漬物石を盗む必要など自分にはない…と我道には思えた。あんなもの盗って、いったいどうするというんだ…と我道は取調室の椅子に座りながら、また考えた。「しらばっくれるなっ!!お前を見たという確実な...サスペンス・ユーモア短編集-28-重いような軽い話

  • サスペンス・ユーモア短編集 -27- 食フェチ

    係長の立花は、どこにでもいる普通の青年サラリーマンである。ただ一つ、立花は異常なほど食に拘(こだわ)りを持っていた。それがまさか、事件まがいの警察沙汰になろうとは、露ほども思っていない立花だった。半年前の昼どき、立花はいつものように屋上へ上がり、自分で調理した手作り弁当を楽しみながら食べていた。会社の連中も立花の食フェチを知っていたからか、遠慮して誰も屋上へは上がらなかった。そんな暗黙の申し合わせが社内にできていることを知らない立花は、一人のんびりと屋上で昼の休憩を取っていた。そのとき一羽の鶴が音もなく屋上へ飛び降りた。その鶴は別に恐(おそ)れるでもなく、おやっ?どこかで見た人だな…みたいな顔でジイ~~~っと立花の姿を見続けた。立花の方も、おやっ?どこかで見た鶴だな…と不思議にもそう思え、鶴を見続けた。立...サスペンス・ユーモア短編集-27-食フェチ

  • サスペンス・ユーモア短編集 -26- 浮世坂(うきよざか)の謎(なぞ)

    世の中には妙な事件もあるものだ。事件といえば犯人による犯行と被害者・・とするのが相場だが、浮世坂(うきよざか)で起きた事件はその常識をうち破る事件となった。コトの発端(ほったん)は、毎日、同じコースをジョギングで歩き続けている絵師(えし)という男が出合った偶然の不思議な出来事だった。その日も早足で絵師は歩き続けていた。外は次第に夕闇を濃くしようとしていた。絵師が浮世坂の橋近くに近づいたときだった。「あのう…もし」絵師は気味の悪い浮浪者風の男に声をかけられた。立ち止まった絵師は近づく男の顔をジィ~~っと凝視(ぎょうし)した。その男はやつれた風体(ふうてい)で、顔の色といえば蒼白く、とてもこの世の者とは思えなかった。季節は秋深く、瞬く間に辺りはとっぷりと暮れ、月明かりもなく、街灯以外の明るさは何もなかった。「...サスペンス・ユーモア短編集-26-浮世坂(うきよざか)の謎(なぞ)

  • サスペンス・ユーモア短編集 -25- 死なず池生き返り事件

    この話は人類にとって夢のようなパラダイス事件である。「なに?!んっな馬鹿な話があるかっ!ガセ[デマカセ]だ、ガセっ!!そこなら俺も一度行ったことがあるが、そんな池はなかったぞっ!」『はあ。確かに私も行きました。しかし、そこからもう少し奥の山村なんですよ、この池は…』「俺には信じられん!そんな話が成立するなら、科捜研はいらんわっ!」デカ長の細井は横山からかかった携帯に怒りを沸騰させていた。『いや、ほんとなんです、ホソさん。死んだ人の遺体をその死なず池に浸(つ)けると、仏さんが生き返るんですっ!』「ははは…冗談は休み休み言え!死なずの池・・そんな便利な池なら、明日、葬儀の釜土(かまど)先輩を生き返らせたいわっ!」まったく信じられない細井は怒鳴りぎみに言った。釜土は細井の先輩刑事で、すでに退職していたのだが、二...サスペンス・ユーモア短編集-25-死なず池生き返り事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -24- 間違い

    室下(むろした)は平凡な市職員である。その室下が妙な事件に巻き込まれた。事件といえばサスペンスを連想しがちだが、室下の場合は、ただの間違いから出来事が発生して大きくなった・・という一件である。「そうすると、あなたがその家へ行ったのですね?」「はあ、まあ、仕事ですから…」生活環境課の室下は刑事の天童に堂々と返した。室下は普通に仕事をしたと思っているから別に悪びれていなかった。「通報は、安川さんからいつあったんです?」「朝方でしたか…」「安川さんは、どう言われたんです?」「家の前で二匹の大型犬が喧嘩(けんか)してるから出られない。何とかしてくれと…」「ほう!それで行かれたんですね?」「はあ、まあ…。仕事ですから」「それで行ってみると、別に何も起こっていなかったから帰ったと」「はあ、まあ…。いや、私もそのとき確...サスペンス・ユーモア短編集-24-間違い

  • サスペンス・ユーモア短編集 -23- 天下な裁判

    法廷である。検事の笹山(ささやま)と弁護士の南宮(なみや)が対峙(たいじ)して民事裁判に臨んでいた。裁判長の子早川(こばやかわ)は初めて裁判長を受け持つことになった若手で、左右の老練な裁判官はその不手際な発言のたびに、裁判長の顔を見て咳(せき)払いで間違いを指摘していた。弁護席の前の被告席には被告の関原(せきはら)が座っていた。関原は大欠伸(あくび)をしながらどうでもいいような顔で証言席に立つ原告側証人、浮田(うきた)の証言を聞いていた。「そうすると、被告は大根を齧(かじ)ったんですね?」「はい!ボリボリと…」「尋問(じんもん)を終わります!」笹山はしたり顔で自信ありげに南宮を見て、検事席へ座った。「弁護人、質問は?」眠たそうな声で子早川は弁護席の南宮に言った。「はい。…その大根は現場では発見されてません...サスペンス・ユーモア短編集-23-天下な裁判

  • サスペンス・ユーモア短編集 -22- 野菜盗難捜査

    厄介(やっかい)な一件に関(かか)わったもんだ…と、ボリボリ頭を掻(か)きながら、三課の刑事、鶏冠(とさか)は、アアァ~~!とひと声、けたたましく鳴いた、いや、大声を出した。署内の一室で、幸い誰もいなかったからよかったが、なぜ俺だけがこんな捜査担当なんだっ!と鶏冠は少なからず頭にきていた。他の刑事は、けっこう格好いい聞き込みに回っているというのに、一人取り残された鶏冠にお鉢が回ったのは、この手の捜査だった。「頼んだぞ、鶏冠」「はい!課長」上司にそう言われては仕方がない。内心はともあれ、鶏冠は快(こころよ)く立ち上がった。鶏冠が捜査に出向いた先は、取り分けて変わりがない一般家庭だった。「野鳥(やとり)署の鶏冠です」鶏冠は電話があった尾長(おなが)家の玄関前にいた。「態々(わざわざ)、ご足労かけて済みません…...サスペンス・ユーモア短編集-22-野菜盗難捜査

  • サスペンス・ユーモア短編集 -21- 皮毛(かわげ)公園・環境保全事件

    菜飯(なめし)は最近、売り出し中の新進作家である。締め切り作の切りがついた次の日の朝、今日は一日、のんびりと過ごすか…と近くの皮毛(かわげ)公園に出かけることにした。皮毛公園は市営で、多くの動物が飼育され、運営費は市税で賄(まかな)われている。市外の人の場合は入場料がいるが、当然、一般市民は市民証の提示で無料開放されていた。けっこう珍しい動物も飼育されていて、市職員の獣医、飼育員の建物も併設(へいせつ)されていたから、全国の有名動物園と引けを取らないと国内でも有名になっていた。そうなると、それを目当ての観光客やら何やらと市は賑(にぎ)わう。事実、経済効果も馬鹿にならず、市の商業観光課はホクホク顔だった。ただひとつ、大きな問題はあるにはあった。観光客のポイ捨てゴミなどによるマナーの悪さで起こる生活環境の悪化...サスペンス・ユーモア短編集-21-皮毛(かわげ)公園・環境保全事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -20- 落ちていた落ちてない事件

    交番の警官、平林は難解な一件に遭遇(そうぐう)していた。といっても、その一件は事件と呼べるほど深刻ではない、ほんの些細(ささい)な出来事だった。その出来事とは、遺失物の届け者と紛失者との言い分の食い違いである。普通の場合、遺失物は拾った者が警察署とか交番へ届け、落とした者は届けがなかったか交番に尋(たず)ねに行く・・という過程を辿(たど)るのが相場としたものだ。それが、平林が受けた一件は違ったのである。どう違ったのか?といえば、確かに拾った者は交番へ遺失物として届けた。モノは紙袋に入った三本の矢ならぬ三本のサツマイモだった。モノがモノだが、百歩譲(ゆず)ってそこまではよかった。だが、そのあとがいけなかった。落とした者が交番へ届けたのは遺失物届けから小一時間も経っていなかった。「どうされました?」「置いてお...サスペンス・ユーモア短編集-20-落ちていた落ちてない事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -19- 自然な流れ 2

    岸川は名刑事として知られていた。だが、別に彼の犯人検挙が辣腕(らつわん)で上手(うま)かったからという訳ではない。岸川は自然な流れで犯人を自白へ追い込む名人と言っても過言ではなかった。警察の剣道仲間は、滅法弱い彼の流儀を自然流と呼んだ。そして、事あるごとに、剣の腕と逮捕は別だな・・と岸川の稽古ぶりを見ながら自然な流れで言い合った。ある日、岸川は事件に遭遇した。とある町の有名な土産漬物の製造会社、遠州漬物の漬物石が何者かによって盗まれたのである。数多くある石の中の数個なのだが、被害届が出された現場に岸川が出向くと、間違いないと製造責任者で工場長の森松(もりまつ)は答えた。「もう一度、お訊(たず)ねしますが、数え間違いということはないんでしょうね?」「ええ、そりゃもう…。なあ?」「はい!」森松に促(うなが)さ...サスペンス・ユーモア短編集-19-自然な流れ2

  • サスペンス・ユーモア短編集 -18- 名コンビ

    田村は犯人、通称・戸仲井(となかい)の潜伏先を特定できないまま追っていた。「この男なんですが、知りませんかね?」田村は一枚の写真を見せた。「さあ…」家人は首を横に振った。「いや、どうも。もし見かけられたら、ここへ一報ください」不特定に訊(たず)ね回っていた田村は、その家の玄関前で礼を言って頭を下げると、『ここも駄目か…』と思いながら外へ出た。犯人、戸仲井は普通の中年男だったが、ただ一つの特徴は、トナカイの被(かぶ)りもので頭を覆(おお)っている点だった。その男の容疑は単純窃盗だが、窃盗にしては今一、釈然としない疑問が戸仲井にはあった。盗られた物は複数だったが、不可解なのは、どの盗難現場にも、サンタがあとで支払う・・というメモ書きが残されていた点である。普通の窃盗犯ならそんなことは絶対にしないから、妙といえ...サスペンス・ユーモア短編集-18-名コンビ

  • サスペンス・ユーモア短編集 -17- 狒狒山(ひひやま)牧場転倒事件

    狒狒山(ひひやま)牧場で従業員の一人、河馬口(かばぐち)が馬糞(ばふん)で滑(すべ)り、転(ころ)んで死んだ?近くの警察、牛淵(うしぶち)署の署員は、ただちに現場に急行し、他殺、事故死の両面で捜査に入った。「揚(あげ)さん、馬糞で滑るもんなんでしょうか?」刑事の鹿尾(しかお)は、警部の揚羽(あげは)に小声で訊(たず)ねた。「さあ…俺に訊(き)かれてもな。検視の先生、遅いな。えっ!事故で今日は無理って?困ったもんだ。ともかく…現にこうして仏さんは死んだんだっ…だろう?」「はあ。まあ、そうでしょうね…」二人は馬糞の臭気(しゅうき)に顔を歪(ゆが)めながら沈黙して横たわる河馬口を見つめ、訝(いぶか)しそうに首を捻(ひね)った。そこへ現れたのは別の刑事、猪野窪(いのくぼ)である。「揚さん、どうも害者(がいしゃ)は...サスペンス・ユーモア短編集-17-狒狒山(ひひやま)牧場転倒事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -16- 自然な流れ

    彦川(ひこかわ)はすごく偉(えら)い…と自負する県警本部長である。どんなときでも誰にでも、県警本部長の肩書きが書かれた名刺を手渡すのが常だった。その名刺の肩書き印刷がまたすごく、名前の方が返って遠慮しているように見えるド派手な名刺だった。「県警本部長の彦川です…」本部正面玄関で部下を従え出迎えた彦川は、今日も肩書きを強調して名刺を手渡した。[警察本部長・警視監…]と実に偉ぶった名刺である。「阿形です…」警察庁の役人、阿形(あがた)は、彦川の挨拶を聞き、同期の俺だっ!そんなことは分かってるわ!…と内心で少なからず怒りながらも、顔では笑って彦川の名刺を受け取った。そして、真逆(まぎゃく)に自分の名刺を楚々(そそ)と返した。世間で相場とされる日本人的名刺交換の一場面である。「いかがですかな?最近は?」「ははは、...サスペンス・ユーモア短編集-16-自然な流れ

  • サスペンス・ユーモア短編集 -15- 雨の夜

    雨の夜、一人の男が忽然(こつぜん)と消えた。その男は三日後、とある川の岸辺で水死体で発見された。残されていた免許証から、その男の名は梅干(うめぼし)塩味(しおみ)と判明した。梅干は殺されたのか?いや、そうではなく単なる事故死なのか?いやいやいや…そうでもなく自身による自殺なのか?署内の捜査一課は意見が割れ、騒然としていた。「まあ、いいさ…」警部の紫蘇塚(しそづか)は眠そうな目を擦(こす)りながら欠伸(あくび)をし、さもどうでもいいように言った。それもそのはずで、紫蘇塚は明日で定年退職する身だったから発想が甘くなっていた。内心では、この一件さえなければ、皆に笑顔の祝福を受け、薔薇(ばら)色の気分で…と思え、描いていた筋書きが泡と消えたことにガックリしていたのだ。その潜在意識が、さもどうでもいいような投げ槍な...サスペンス・ユーモア短編集-15-雨の夜

  • サスペンス・ユーモア短編集 -14- 疲れても…

    すでに定年近くなった刑事の盛岡正は犯人を追っていた。それも数十年という長い期間である。そして今もお札(ふだ)の写真一枚を手がかりに追っていた。盛岡はお札の神社で聞き込んだが、どうも偽(にせ)のお札らしかった。追っている相手は捜査本部が開かれるほどの重大事件ではないただの窃盗犯である。だが、盛岡は追っていた。手がかりとなるのは犯人が落としていった一枚のお札だけだった。今の事件捜査をしているときも、必ず最後にその窃盗犯が落としたお札の写真を見せて訊(たず)ねた。「そうですか…どうも。あっ!それから、このお札、見たことありませんかね?」盛岡は背広の内ポケットから、お札を撮った写真を見せた。「さあ…?見ませんね」訊(き)かれた店の主人は軽く否定した。「いや、どうも…」そう言われては仕方がない。まあ、盛岡も余りアテ...サスペンス・ユーモア短編集-14-疲れても…

  • サスペンス・ユーモア短編集 -13- 闇の狩人(かりうど)

    警視庁・捜査1課の元刑事だった久松は退職後、悠々自適(ゆうゆうじてき)の生活を送っていた。なんといっても、捜査が絡(から)む不規則な生活から抜け出したことが久松にとっては大きかった。そんな久松が、朝遅く冷蔵庫を開け、おやっ?と思った。ブランチ[朝食と昼食を兼ねた食事]の惣菜にと冷蔵庫の中へ入れておいた刺し身パックと丹精込めて調理した楽しみのムツ[メロ]の味噌焼きが消えていたのである。これは偉(えら)い事件が起きたぞっ!と、長年の刑事癖が出たのか、久松はそう思った。まずは状況把握、そして聞き込みである。ここはまず落ちつこう…と久松はキッチン椅子へ腰を下ろすことにした。座ったあと、はて?と、考えれば、家族の者は出払っていないことがまず頭に浮かんだ。妻の美土里と娘の愛那は観劇に出かけていた。状況を思い返せば、昨...サスペンス・ユーモア短編集-13-闇の狩人(かりうど)

  • サスペンス・ユーモア短編集 -12- 時空盗賊・田崎屋誠兵衛

    田崎誠は時を駆ける時空盗賊である。当然、時空警察の指名手配を受けていた。厄介なのは時代を行き来するため、現れた時代の者達による捕縛(ほばく)はまったくといっていいほど無理な点にあった。要は、時空警察による直接逮捕以外、手出しが出来なかったのである。田崎を捕らえようと時空警察の警部、堀田は必死になっていた。彼は部下の崎山警部補を手助けとして今日も捜査していた。「潜伏している時代はココしかないですね…」「他の時代にはすでに存在しないと本部から連絡があったからな」堀田は手の平に映し出したタイム・マップ[時空地図]を見ながら崎山へ返した。「この時代は…。そうだ!確か過去に一度、ヤツが現れてます!」崎山は堀田の手の平に映るタイム・マップを見ながら言った。「そうだったか?」「ええ、田崎屋誠兵衛として…」「ああ、そうだ...サスペンス・ユーモア短編集-12-時空盗賊・田崎屋誠兵衛

  • サスペンス・ユーモア短編集 -11- ざわつく風

    いやに今日は風が強いな…と思いながら、刑事の大川は犯人、小舟を潜伏先のアパートの通路で見張っていた。その横で大川付きの若い刑事、浅瀬はさっき買った焼き芋を美味(うま)そうに頬張(ほおば)っている。よくこんなときに食えるな…と腹立たしく思えた大川だったが、まあ、若いから仕方ないか…と、見て見ぬふりを決め込んだ。昨日(きのう)の深夜、小舟がアパートに戻(もど)っていることは、すでに調べがついて分かっていた。あとは取り逃がさず手錠をガチャリとやるだけだった。それが踏み込もうとしたとき、浅瀬が芋を食べだしたから、中断したという訳だ。世の中、一瞬の隙(すき)というのは恐ろしい。その僅(わず)かな間に小舟は裏の窓からアパートのベランダを伝って逃げ出していたのである。「…もう、いいかっ!」大川が浅瀬にそう告げたとき、小...サスペンス・ユーモア短編集-11-ざわつく風

  • サスペンス・ユーモア短編集 -10- そうか…

    三神は風呂上りにテレビドラマを観ていた。長官官房付きでなに不自由なく働くエリート審議官の一人として、将来をほぼ100%約束された三神だったが、局長と課長の間に位置するポストで繰り返されるなおざりな日々に少し煩(わずら)わしさを覚えるようになっていた。「三神さん、大変です!」部下の一人、神輿場(みこしば)が血相変えて審議官室へ入ってきた。「どうした!」「ぅぅぅ…日傘(ひがさ)が閉店するらしいです!」「そうか…えっ!なんだって!あの日傘がっ!」日傘はウナギの専門店で三神達の行きつけの店として公私共に重宝(ちょうほう)されていた。ときには職員間の懇親会、またあるときは極秘裏の公務の打ち合わせにと活用されていたのである・・というのは建て前で、実は日傘のウナギ料理は、どれも頬(ほお)が落ちるほど絶品で美味(うま)く...サスペンス・ユーモア短編集-10-そうか…

  • サスペンス・ユーモア短編集 -9- ツマミ

    珍味(ちんみ)は追われていた。自分が犯人ではないことは珍味自身が一番よく知っていた。だが、刑事の冷酒(ひやざけ)は珍味を食い逃げ犯として追っていたのである。実は追っている冷酒自身が真犯人だということを彼以外には誰も知らなかった。まさか!の事実はあり得たのである。話は一年前に遡(さかのぼ)る。休日の日、珍味は山の尾根伝いにある峠の茶屋にいた。腹が減っていた珍味は具も何も入っていない葱(ねぎ)だけのかけうどんを注文し、啜(すす)っていた。そこへひょっこりと現れたのが刑事になったばかりの冷酒だった。美味(うま)そうにうどんを食べる珍味を見ながら冷酒は珍味の横へ座った。冷酒は笑顔で軽く珍味に会釈(えしゃく)をした。そこへ年老いた店の主(あるじ)が盆に茶の入った湯のみを乗せて現れた。「なににされます?」「そうだな…...サスペンス・ユーモア短編集-9-ツマミ

  • サスペンス・ユーモア短編集 -8- 捜索願

    花川戸(はなかわど)署に棚田(たなだ)家のひとり息子が行方不明になったとの電話が父親から入り、署の刑事達は俄(にわ)かに色めきたっていた。なんといってもここのところ事件らしい事件が起こらず、ふてくされぎみの刑事達は鼻毛を抜く者、新聞を読み漁(あさ)る者、ウツラウツラする者・・といった具合で、すっかり箍(たが)が緩(ゆる)んでいたのである。「おい!事件だっ!」捜査一課長の虫干(むしぼし)は、鼻毛を一本一歩抜いて机に植えつけている鋤畑(すきはた)の顔を見ながら叫んだ。お前は植えるものが違うだろう!と思う心も、その叫びの中に含まれていた。虫干が叫んだ途端、鋤畑の植える手がピタリ!と止まった。それも当然で、他の刑事達も鋤畑と同様、いっせいに身を正した。虫干はすでに事件と断じていたが、よくよくあとから考えてみれば、...サスペンス・ユーモア短編集-8-捜索願

  • サスペンス・ユーモア短編集 -7- 寂しい善人

    魚住流清(るせい)は今どき男子の新任刑事だ。イケメンの彼はけっこう女子には人気があり、それが返って捜査の足手纏(まと)いになっていた。いいところまで見つからず張り込んでいたつもりが、通りかかった若い娘数人にキャァ~~!と黄色い声で騒がれた挙句、犯人を取り逃がしてしまったことも度々(たびたび)あった。今売れ筋の若手歌手に似ていた・・ということもある。そんな魚住は、署へ戻(もど)ると上司の警部補、鱧煮(はもに)から睨(にら)まれたが、取り分け気にせず、無頓着(むとんちゃく)に♪~♪とハーモニカを吹くように軽く受け流す性質(たち)だった。上司の鱧煮も、署内の婦人警官達に人気が高い魚住には面と向かって怒れず、伸びた顎鬚(あごひげ)を掻(か)き毟(むし)る以外なかった。魚住はあるとき、駆けつけ警護に出かける途上、厄...サスペンス・ユーモア短編集-7-寂しい善人

  • サスペンス・ユーモア短編集 -6- 正義の味方

    多山は今年で35になる町役場の中堅職員だ。税務課に配属され、幸か不幸かその人当たりのよさを買われ、税金未納の徴収を一手に引き受けている。全職員が嫌がる仕事の3本の指に入るその1つの仕事だ。多山は払えない貧しい家庭には自腹を切って当てていた。これは無論、多山にとっては経済的に大損失で身を切る辛(つら)い決断だった。決してゆとりがある給料はもらっていない多山だったから、それも当然といえば当然だった。「どうしても、無理ですか?」「…」やつれた外見の中年女に多山は小声で訊(たず)ねたが返答はなかった。この家へ足を運んでいるのは、今日で5度目だった。家の中の荒れようからして、これは無理だな・・・とは思えていた多山だったのだが、一応、訊ねたのだ。「いいでしょう!…ここに、これだけあります!」多山は背広のポケットから財...サスペンス・ユーモア短編集-6-正義の味方

  • 世相ユーモア短編集 -99- なごり雪

    若い頃、流行(はや)っていた♪なごり雪♪をネットで聴きながら、当時、ファンだった守宮は、やはりいい曲だな…と思った。あの子も年いったな…と思うでなく思った。^^世相はゴチャゴチャした振付を恰好よく踊りながら、ゴチャゴチャした激しい曲想が好まれる時代へと変化している。守宮は昔人だから、やはりシットリした曲想を、チビリチビリと生ピールでも飲みながら肴(さかな)を摘まみ、悦に入る・・という暮らし向きが好きな男だった。♪なごり雪もぉ~降るときを知りぃ~♪曲が流れる中、守宮は、ふと、『なごり雪は何を知ったんだろう…』と疑問に思った。長年、なんとなく聴いていたメロディーだったが、今まで少しも疑問に思わなかったのである。作曲者に訊ねたいものだ…と思いながら、俺も年いったな…と思うでなく思った。^^世相はどんどん変化して...世相ユーモア短編集-99-なごり雪

  • ◇特別寄稿◇ 徳川家譜代・石川数正公出奔 異聞

    徳川家の重臣、石川数正公が何故、豊臣家に出奔されたのか?その理由が歴史学者によって諸説、流布されている。私もその理由の異聞をいつやら聞かされた覚えがある。そう深く考えず、短慮に捉えれば、そりゃ、豊臣家の方が厚遇されると考えるだろう…と言う。私もそのように思っていたが、実はこの出奔の裏には隠された真実があったのだとさらに言う。そうなのか?と首を傾(かし)げると、さらにペラペラと語り始めた。その異聞を今日はお話しようかと思う次第だ。現代、我々が暮らす大手企業には競合企業に送り込む産業スパイのような存在が密かに養成されているそうだ。それと同様に、戦国の世でもそのような情報戦は展開されていたらしい。調略と呼ばれるそうで、今でいうミッション・インポッシブルの企業版だそうである。徳川家譜代の石川数正公は徳川家康公から...◇特別寄稿◇徳川家譜代・石川数正公出奔異聞

  • 世相ユーモア短編集 -98- 二択

    とあるテレビ局のクイズ番組である。「さて、ここで問題です。あなたはAかBのどちらを選びますか?」と、訊ねられた白岡は、自分を信じてAのボタンを押した。最近の世相は信じられないが、自分だけは信じられる…と自負する白岡にすれば、正解がAだろうとBだろうと構わなかったのである。このクイズ番組に出られたこと自体が正解だったのだ。白岡はこのクイズ番組に欠かさず応募していた。もし次に選ばれなければ、もう応募するのはやめよう…と心に固く誓っていたのである。それがとうとう選考され、テレビ局から出演依頼が来たことは、選考される選考から外れる・・という二択の好結果の方を出したのだった。白岡は二択に自信を持ち始めた。「先輩、昼、魚にしますか?肉ですか?」昼のチャイムが鳴り、今年、他の課から移動してきた若い桃崎が白岡に訊ねた。い...世相ユーモア短編集-98-二択

  • 世相ユーモア短編集 -97- サービス

    二年後には携帯が使えなくなります・・という電話会社からのダイレクト・メールを受け取った神城は怒りが心頭に発していた。故障しても修理出来なくなりますという脅し文句をつけてのメールだった。あなたの会社の寿命はあと二年です・・と言われたとき、お前ならどう思うっ!!と、神城は益々、怒りの炎がメラメラと揺らめき立った。ガブガブッとコップの水を飲み、神城の怒りの炎は少し下火になった。「最近はこの手のサービス低下が目立つな…」世相の変化だとは分かってはいたが、それでも疎(うと)ましく思えた神城は、ポツリと独り言(ご)ちた。今日、買物をしたスーバーも今月いっぱいで買物券サービスが終わると掲示されていた。何かにつけて世相が右肩下がりだ…と、神城には思えた。『しっかりしろっ!日銀総裁、政府っ!』神城は心の中で偉そうに叱咤(し...世相ユーモア短編集-97-サービス

  • 世相ユーモア短編集 -96- 天下人(てんかびと)

    昔も今も天下人(てんかびと)になれる人には、それなりの理由がある。その理由が、多くの人に賛同を得られれば得られるほど天下人への道をひたすら進むことになる。ただ、現代の世相は疑心暗鬼に満ちていて、戦国時代のような修羅めいてはいないものの、油断ならないのだ。ニコニコ笑っている人の顔の裏は、メラメラと燃え滾(たぎ)った憤怒の相なのである。要するに裏表があるのだ。豆腐にも裏表は確かにあります。ただ、濁っていない水や氷には裏表はありません。^^豚丘は起業家として天下人になろうとは思わず、気楽に中堅企業で働いていた。名字からしてダサい自分が天下人になれる訳がない…というのが、致命的な理由だった。ところが、である。豚丘には先々の世相の変化を読める先天的な才が備わっていた。ただ、本人はそのことには気づいていなかった。「豚...世相ユーモア短編集-96-天下人(てんかびと)

  • 世相ユーモア短編集 -95- 陽気

    -94-で陰気と題して書いたのだから陽気も書かねば陽気が気分を害するだろう。^^陽気だと当然、世相は明るく賑やかになるに違いない。-94-に登場した数日後の、とある町役場である。昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。ようやく引っ越し先の廃棄物対策課の前任者との引継ぎを終えた野崎が陽気な声で課長補佐の篠塚に声をかけた。「篠さん、しばらくでしたが、お世話になりました…」「ああ…引継ぎは終わったようだね」「ええ、まあ…」野崎は朴訥に返した。「俺にも、ひと言、言ってくれよ」「ああ、藤山さん。お世話になりました…」「ははは…二番煎じだな」「いやあ…」野崎は片手を頭に乗せ、悪びれながら苦笑した。「よしっ!三人で出るか…。今日は俺が奢ってやるっ!」「こりゃ、いい…。おい、野崎よかったな」「はい…」三人は笑いながら席を立っ...世相ユーモア短編集-95-陽気

  • 世相ユーモア短編集 -94- 陰気

    世相が陰気だと人々が暗くなる…と、会計課課長補佐の篠塚は思わなくてもいいのに思った。^^そして、どうすれば陰気が陽気に変化するのか?と、考えなくてもいいのに、また考えた。^^そのとき、チャイムが勢いよく響き、昼になったことを告げた。とある町役場である。「篠さん、昼、出ましょうか?」係長の藤山が、それとなくいつものように篠塚を窺(うかが)った。篠塚は無言で頷くと席を立った。陰気とも陽気とも言えないこの単調な繰り返しが二人の間に続いていた。ただ三月は少し状況が異なり、春の人事異動の内示がなかったからか、二人の間には少しホッ!とした安堵感があった。そうなると、いつものパターンながらも気分は自然と陽気になる。篠塚と藤山はそれで済んだが、二人の席から少し離れた野崎は廃棄物対策課への異動が内示され、バタバタと浮足立っ...世相ユーモア短編集-94-陰気

  • 世相ユーモア短編集 -93- 雨

    雨が降っていた。庭に落ちる雨滴をガラス越しに見ながら、田力はソファに座った。最近の世相は、雨の日が続いている…と田力は思った。田力はこの現象を天岩戸(あまのいわと)現象と勝手に名づけた。^^この現象が出現すると世相は暗くなり、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する陰湿な世界へと変貌するのである。世界では紛争や戦争が勃発し、国内では悪い法律[労働者派遣法や法改正etc.]や制度、規律、規則が暗躍し、人々は暮らし辛(づら)くなる。コンプライアンスが叫ばれ、人々の行動は委縮の一途を辿る訳だ。しかし最近、田力の力は弱まっていた。二毛作が一毛作となり、稲田の収穫が終われば田畑は草に覆われ、荒れ放題となっていた。『あの頃は菜種、胡麻、レンゲが…』田力は黄色い菜の花畑を脳裏に浮かべ、あの頃は自分も強かったな…と...世相ユーモア短編集-93-雨

  • 世相ユーモア短編集 -92- 中傷(ちゅうしょう)

    中傷(なかきず)ではなく中傷(ちゅうしょう)である。^^人を誹謗(ひぼう)、中傷するとかいうアレだ。中傷されれば、確かに心は傷つくから、中の傷・・とはいえるかも知れない。^^最近の世相はこの中傷する行為が多いから困る。まあ、それだけ平和な国だとは言えますが…。楽しみにしていた超有名芸人が中傷によりマスコミに干され、テレビ画面から姿を消したのを知った都呂々(とろろ)は、観たい番組の開始時間となりONにしたテレビのリモコンをOFFった。『芸は芸、プライベートはプライベートだと思うけどな…』これが都呂々のマスコミへの中傷に対する気持だった。『何かにつけて最近の世の中はザワつく…。敗戦直後の日本人なら考えられなかった現象だ。それだけ世の中が平和で浮かれているということか…』都呂々は、また思った。ラジオや新聞だけの...世相ユーモア短編集-92-中傷(ちゅうしょう)

  • 世相ユーモア短編集 -91- ジリ貧

    どうも世相はジリ貧傾向が大きいように思える…と、福崎は感じていた。そう彼が感じるようになったのは、スーパーで買物をする人々の姿が以前に比べて貧相になった…と思ったのが最初だった。それは人に限らず、レジ袋の有料化、人件費削減のセルフレジ化、トイレットぺーパーの巻き幅の減少、カップ麺の蓋の簡素化、袋入りチョコレートの個数減少etc.多くの変化が影響していた。『この国の経済もジリ貧だな…』福崎はポツンとそう思った。国際経済力がドイツに抜かれて世界第四位に低落したこともその思いを大きくしていた。福崎は原因を考えた。政治家が悪いのか?そう思いながら福崎は周囲に広がる景観に目をやった。春には菜種の黄色い花が咲き、小麦が勢い良く伸び始め、休耕地でも蓮華の花が咲き乱れていた田畑が今や雑草地帯となり果てていた。二毛作が一毛...世相ユーモア短編集-91-ジリ貧

  • 世相ユーモア短編集 -90- 人と機械

    実に機械の進歩が早い今の世相である。人とは違い、ほぼ100%間違いのない判断をするから、これはもう有難いと言わざるを得ない。だが、その機械でも人のような判断が出来ない場合がある。こんな場合は、困った、困った…と嘆く他はありませんが…。^^未来のとある裁判所である。いつ頃かは、敢えて書かない。^^人の形をしたAIロボットが裁判長席で静かな声を出し始めた。抑揚のない朗読調の判決文である。『ヨッテ、ヒコクニンハ、イトシテ、ソノコウイヲナシタカドウカハ、ヒコクニンノミガシリエルジジツデアリ、ゲンコクガワノシュチョウ、ヒコクガワノシュチョウトモ、ミトメラレナイ』「エッ?」「…?」原告席の検事、被告席の弁護人とも、裁判長席のAIロボットを一瞬、垣間見た。『ヒコクニン、マエヘデナサイ…』機械とはいえ、裁判長には逆らえな...世相ユーモア短編集-90-人と機械

  • 世相ユーモア短編集 -89- 戦争好き

    落久保がテレビのリモコンを押すと、報道番組が映っていた。番組のキャスターがゲスト数人の指揮者を招いて、アァ~でもないコォ~でもないと語り合っていた。そして時折映る映像は、燃え爛(ただ)れた戦車の残骸や爆撃されて崩れ落ちた住居や建物、さらに両陣営の地図が映し出された。ふと落久保は思った。人類は戦争好きなんだなぁ…と。まだ悲惨な画面を風呂上がりのカップ麺を啜りながらビールを飲み、こうして第三者として観ていられる。俺はなんて幸せなんだ…と落久保は、しみじみと思った。世界の世相は幾つかの地域で戦争が続く現状にある。落久保が暮らすこの国からは想像が出来ない争いだった。落久保はビルをグビッ!とひと口飲むとリモコンでチャンネルを変えた。映し出されたのはCMだった。とあるゲーム・メーカーの戦争ソフトが流れていた。そのとき...世相ユーモア短編集-89-戦争好き

  • 世相ユーモア短編集 -88- ややこしい

    ややこしい世相になってきた。世界情勢、景気、政治問題etc.どれ一つとっても、ああ、嫌だっ!と、世の中から逃げ出したくなる人々も多いに違いない。まあ、私はそこまで…とはいかないものの、それでも住みにくくなっていることに変わりはない。誰が悪いのか?は、変えてくれない、変えられない議員さん達だ、とまではは言わないが、ムニャムニャ…。^^とあるスーパーである。セルフレジばかりになり、多くの人の列が出来ていた。一人の男が、いっこう進まない列に業を煮やし、通りかかった店員に訊ねた。「おいっ!何とかならんのかっ、何とかっ!!」「す、すいません…。なにぶん、今日は特売日ですので…」「特売日だから」、どうだっていうんだっ!私は急いどるんだっ!おいっ、店長を呼べっ!」「そ、そう言われるあなた様は?」店員は恐る恐る訊き返した...世相ユーモア短編集-88-ややこしい

  • 世相ユーモア短編集 -87- やらねばっ!

    やらねばっ!と意気込まないと、最近の世相は、やり辛(づら)くなっている。それだけ世相が油断のならない社会に突入している・・と言っても過言ではない。機械文明が進み、AI[人工知能]化されたロボットが人間のように話そうと、人類は先が読めない殺伐とした世界に突入している。核戦争によって放射能汚染された地球に、全生命体は住めるのかっ!!地下ではどうかっ!!海底ではどうかっ!!が問われている。今後、人類がやらねばっ!と意気込まなければならない最も重要な課題はAIなどの科学技術ではないと考えられる。AIロボットが完成しようと、人類を含む全生命体が地球上で生きられねば無意味になる…と、鉾倉は偉そうに腕組みをしながら考えていた。テレビ画面には、器用に話すAIロボットの映像が映し出されていた。『死体の冷凍保存による治療も結...世相ユーモア短編集-87-やらねばっ!

  • 世相ユーモア短編集 -86- きっちり

    最近の世相は実に複雑だから物事をきっちりしないと収束しない方向に進んでいる。まあ、それだけ世の中の流れが早く、油断ならない世界になっていると考えれば納得もいく。人が動かず、車[機械]が動いてばかりの世界ではそうなるのも無理からぬ話である。では、どうするか?だが、そこはそれ、きっちりの逆に物事を大雑把(おおざっぱ)にやれば上手くいく・・と、話はまあこうなる。^^社会動静が複雑になり、どうにもならないと感じた世の人々が、『エジャナイカ、エジャナイカ』と唄い踊った社会現象に似ていなくもないのです。^^きっちり屋の十鹿(とじか)は、複雑になった世の中に嫌気がさし、物事を大雑把にすることにした。家計の出納の数合わせは、一人暮らしの十鹿にとっては複雑で日々、十鹿を悩ませていたから、『ああ、もう嫌っ!もう嫌だぁ~~!』...世相ユーモア短編集-86-きっちり

  • 世相ユーモア短編集 -85- 水と氷

    最近の世相を水として捉えれば、どうも濁っているように思える…と秀光は、はたと考えた。^^『では、どうすればいいか?という話になるが、織田信長公なら、何か策はあるかっ!とお訊ねになられるに違いない。策はあることはある。濁った水は元には戻せないから、濁っていない頃の水を凍らせた氷を融かす他はない。となれば、大量の氷を必要とするが、濁っていない頃の水を凍らせた氷を融かしたその一部を大量生産するしかないだろう。濁った水をどうするか?だが、汚染水として幾度も浄化することにより、元の濁っていない水に近い水にするしかない…』この発想が信長公に認められることとなり、秀光は近江坂本に知行五万石を与えられて織田家最初の城持ち大名になったということはなく、そこで秀光は夢から目覚めた。^^どうも最後の足利将軍家の頃の世相の夢のよ...世相ユーモア短編集-85-水と氷

  • 世相ユーモア短編集 -84- 紛(まぎ)らわしい

    最近の世相は紛(まぎ)らわしいことが多くなった。その弊害の一例がパソコンのメールである。いかにも関係がある内容で、よくよく思えば心当たりがないメールなのだ。うっかり読み込んでしまえば被害を被る・・といった手合いのメールで実に紛らわしいから困る。^^迷惑メールで消去すればいい訳だが、巧妙に釣り糸を垂れているのである。フィッシング詐欺…私は魚かっ!とついつい気分を害していたが、まあこれも世相の流れか…と、最近は右から左へ流しています。左から右の場合もありますが…。^^雲尾は朝からブツブツと呟きながら怒っていた。「どうしたの?」山の神的存在の妻が台所から居間にやってきて、ブツブツ言っている夫に気づいた。「いや、なんでもない…」「なんでもなかったら、ブツブツ言わないでっ!」「はい…」青菜に塩である。夫は山の神には...世相ユーモア短編集-84-紛(まぎ)らわしい

  • 世相ユーモア短編集 -83- 混乱

    アタフタと心を混乱させないためには、長年の心の鍛錬が必要となる。最近の心を惑わせることが多い世相だと、とくに鍛錬が必要だろう。その成果は目には見えず、一朝一夕にはいかないから、極めるのは実に難しいと言わざるを得ない。年老いた私でも、まだまだ混乱することがあるのだから、まあ鍛錬の完成を知るのは神様か仏様になってからだろう。いくら出来がよくても人は人なのである。私なんか、出来が悪いから尚更(なおさら)混乱している。^^とある町に住む豚丘は、混乱し、困り果てていた。今日、外出する服が決まらないのである。昨日の夕方には、アレにしよう…と決めていたのだが、朝になると気分が変わり、コレだな…と、思わなくてもいいのに思い始めたのである。^^予約の切符をすでに入手しており、出発予定の時刻は決まっていたから、豚丘の混乱は一...世相ユーモア短編集-83-混乱

  • 世相ユーモア短編集 -82- エネルギー

    ガソリンの高値が最近の世相に見受けられるが、すでに化石燃料に頼る時代は終わっているのではないか…と思える。電気自動車[EV]がすでに実用化されてはいるが、これとて電気エネルギーを作るにはそれなりにコストがかかるのである。光、地熱、風力、原子力などで電気を作ってはいるが、画期的な新エネルギーの発明や発見がない現状だ。何かいいエネルギーは?とアホな私が力んだところで、どうしようもない訳だが…。^^とある大学の新エネルギー開発研究所である。助手と教授が、訳の分からない装置を動かそうとしている。発明された機械の試運転が始まるのである。「豆崎君、確認はいいかね?」「はい先生。準備OKです…」「よしっ!これでプラズマが発生すれば、人類の新エネルギーとなるだろう…。秒読してくれ!」蕎麦教授は口ではそう言いながら、内心で...世相ユーモア短編集-82-エネルギー

  • 世相ユーモア短編集 -81- 結果

    最近の世相で感じられるのは、多くの人が結果を重視するという現実だ。確かに結果は重要で成果としてその後を左右するのだが、かといって何が何でも結果を求める・・という姿勢は話の流れを考える上で如何なものか…と、偉そうに思う訳である。まあ、結果が求められなかったから、一人寂しく老いているのだが…。お笑い下さい。^^一市五町立の広域行政圏一部事務組合である青雲苑の担当課長会が会議室で開かれている。広域行政圏一部事務組合…舌を噛みそうな実に言いにくい行政組合だ。^^「はい、奥目町さんのご意見は、よく分かりました。他には?…はい、皴深町さん」「私も専決処分を承認してもよいと考えます」「と言われますと、奥目町さんのお考えと同じですか?」「はい、私もこの施設を考えますと、夏や冬が特に居づらいと思われます。ですから、この猛暑...世相ユーモア短編集-81-結果

  • 世相ユーモア短編集 -80- 音楽

    昭和の頃に流れた音楽も、今ではすっかり様変わりしてしまった。世相の流れ・・と考えれば、これも仕方ないのだろうが、どこか寂しさを覚えるのは私だけだろうか。早い話、年老いた現象でそう思えるのだろうから致し方ない。単なる愚痴です。^^浜尾はアコギ(アコースティック・ギター)の有名奏者で作曲家でもあった。音楽の才に恵まれてはいたが、彼が自らの才を自覚したのは十代半ば過ぎだった。何もせず山々を眺めていると、自然とメロディーが浮かんだ。十代の頃は、まだ譜面が書けなかったが、それでも二十(はたち)を過ぎ、少なからず興味もあってか、努力して採譜出来るようになった。そして、運にも恵まれてか才能が認められ、音楽の道で生計を立てられるようになったのだが、浜尾の音楽家としての道が花開いたのは、三十路に入ってからだった。ひょんなこ...世相ユーモア短編集-80-音楽

  • 世相ユーモア短編集 -79- アチラとコチラ

    最近の世相は冠婚葬祭、特に婚と葬に敏感なように感じる。全然知らない人の不幸が写真入りで報じられても、それを見聞きした人々は、?…と思えるだけではあるまいか。まあ、マスコミでご活躍されている現場の諸氏が編集長から叱咤、指示されるノルマもあるのだろうが…。^^ポカポカ陽気の晴れた昼、二人の老人が公園のベンチに座り、コンビニ弁当を食べながら話をしている。「そろそろ、お迎えのことを考えておく必要がありますな…」「ははは…私はちっとも考えておりません。ただ、コチラからアチラへ逝けば、どういうことになるのか?を考えれば、少し怖いですが…」「科学的には消滅して別エネルギーへ置換するということですが…」「なかなか学問的ですな…」「私、こう見えても、以前は大学で教鞭をとる一方、研究室におりましたもので…」「失礼しました。学...世相ユーモア短編集-79-アチラとコチラ

  • 世相ユーモア短編集 -78- 鬱陶(うっとう)しい日

    鬱陶(うっとう)しい日は、何も天候が悪いという場合だけではない。職場の仕事上の問題、あるいは健康面の問題etc.と、様々な個人を取り巻く環境面の問題も付随する。新しい話を掲載しないと…と、編集者に迫られれば、これはもうノルマ的となり、鬱陶しいが、私の場合は出版社とは無縁の三文作家だから不幸中の幸いとでも言いましょうか、快適に浮かべば書き綴る兼好法師のような生活で、鬱陶しい日はまったくありません。^^超有名作家の荻窪(おぎくぼ)は、今日も朝から鬱陶しい日を迎えようとしていた。昨日から降り続いた雨も上がり、朝から気分のいい日差しが寝室に差し込んでいる。荻窪はテンション高めにベッドを抜け出ると両腕を広げ、大欠伸を一つ打った。そこへ、ベッド上に置いた携帯のバイブした振動音が響いた。「チェッ!」数年前の、しがない三...世相ユーモア短編集-78-鬱陶(うっとう)しい日

  • 世相ユーモア短編集 -77- 暖冬

    2023~2024年の冬は暖冬である。今期だけなのかどうかは分からないが毎年、冬の元気さが無くなっているように思える。冬将軍もそろそろ若い将軍に譲ってご隠居された方が…と老婆心ながらお勧めしたい気分である。今朝も、寒けりゃこの雨も雪だな…と思ったところだ。雪掻きの労が減り、老いの私には誠に有り難い暖冬だが、冬将軍の状況も少し気になるところではある。^^天界である。『先生、どうでしょうかな?』『こりゃ、いけませんな…。冷気を送らねば…と意気込まれ過ぎ、過労から来た風邪と思われます。点滴をさせて頂いて、お薬もお出ししておきましょう…』『はあ先生、なにぶんよろしく…』雲のベッドに横たわった冬将軍は、天界医者にそう言われ、弱い小声でひと声、ヒュ~と返した。天界医者は馴れた手つきで天界看護師に点滴を命じ、薬箱から効...世相ユーモア短編集-77-暖冬

  • 世相ユーモア短編集 -73- 元気

    元気という意味をユーモラスに考えてみた。元気とは元(もと)の気である。気が元の状態でなくなり、傷ついたりして病(やまい)に陥るという症状である。^^昨今の世相を見れば、どうも社会の流れが病気になっているようだ。元気が感じられないのである。早くお医者に診てもらわないと…という話になるが、この手のお医者は非常に少ない。処方箋が出し辛(づら)いことから治療が厄介になり、困る訳だ。^^とある上空である。冬将軍が俄かの病で天空のお医者に診てもらっている。「先生、私、どうでしょう?」「ははは…私、どうでしょう?と訊(たず)ねられても、あなたは冬将軍です、と答えるしかありますまい…」「しかしですな。どうも今年は熱がありまして、いつもの冷気を起こせんのです…」「元気が出ん訳ですか?」「はい…」「まあ、近々、解決するでしょ...世相ユーモア短編集-73-元気

  • 世相ユーモア短編集 -72- 適合品

    こう物資が豊かな世相になると、いろいろな種類が同等品として増えてくる。で、選択がややこしくなる・・と、話は、まあこうなる。^^さらに、選択する時間が必要だから、悩んだりして時を費やし、面倒なことになるという寸法だ。^^正岡は、とある眼鏡店で悩んでいた。欲しかった新しいサングラスを買おう…と、ルンルン気分でやって来たまではよかったのだが、余りの種類の多さに目移りし、どれにしようか…と悩んでいたのである。どれ一つ取っても適合品であることに間違いはなかった。間違いはなかったのだが、適合品の種類が多過ぎるのである。「お客様、コレなんか、よくお似合いになられると思いますが…」店員が笑顔で、適合品のサングラスの一つを勧めた。「どれどれ…」正岡は何げなくそのサングラスを店員から受け取ると、装着して鏡に自分の顔を映し見た...世相ユーモア短編集-72-適合品

  • 世相ユーモア短編集 -71- 過剰(かじょう)

    過ぎたるは及ばざるがごとし・・とは、古い格言である。物事の過剰(かじょう)は、どのようなことにしろ、しない方がよかった…と、なる訳だ。^^最近の世相を見れば、報道、法律、健康、暮らし、プライバシー、その他と、過剰による弊害が巷(ちまた)に溢(あふ)れているのは困ったことです。^^有名男優の中迫(なかさこ)は、自分を取り巻く過剰なまでの報道に窮していた。有名人になったばかりに…と、中迫は売れなかった頃の自分を思い出し、懐かしく思った。あの頃はよかった…と、心底から思えたのである。確かにあの頃は金には困っていた。困ってはいたが、プライバシーをマスコミから突(つつ)かれることもなく、生活は自由だった…と中迫は回顧した。売れないから金も入ってこなかったが、逆に突かれることもなかったのである。中迫は思った。それにし...世相ユーモア短編集-71-過剰(かじょう)

  • 世相ユーモア短編集 -70- 国力

    今日、流れたニュースによれば、日本の国力はドイツに抜かれ、世界第四位に下落したという。一時は世界第二位の経済大国と呼ばれた我が国も、今や四位か…と、ついつい老齢の私などは肩を落としてしまう訳だ。別に私がガックリ!と肩を落とすことでもないのだろうが…。^^穴吹は、美味しいウナギが食べられない物価高を怒っていた。怒ったところで、物価高が緩和されず、国力が強くなる・・という筋合いの話でもないのだが、怒れていたのである。^^だが、怒っている間に穴吹は、ふと、あることに気づいた。それは、国力が落ちた原因である。『そうかっ!国民一人一人が豊かさの有難みを忘れたからだ…』穴吹は、昭和三十年代の物資が少なかった時代を思い出した。あの頃は、皆が必死に支え合い、国を豊かにしようと頑張っていた…と穴吹は思ったのである。穴吹さん...世相ユーモア短編集-70-国力

  • 世相ユーモア短編集 -69- 姑息(こそく)

    姑息(こそく)の意味を検索すれば、姑[しばらく]+息[やすむ]から、その場しのぎという意味になるそうで、悪辣(あくらつ)な卑怯(ひきょう)という意味ではないらしい。今の世相では、その場しのぎを巧妙にしないと、どうも生きていけないようである。^^とある国会の予算委員会が開かれている。一般審議の真っただ中である。「農林水産大臣、釜尾進さん…」予算委員長が小学生の学級会のようにピュアな声を出す。釜尾農水大臣がヨッコイショ!と、座り心地のよさそうな椅子から立ち上がり答弁席へ近づく。「えぇ~…委員指摘の事実は、一切ございません!私が、そのような姑息な手段を取る訳がないっ!晴れた日に、自動車に隠れて動くようなことは致しませんっ!堂々と自転車で走りますっ!雨の日は別ですが…」そう言うと、釜尾大臣は座り心地のよさそうな椅...世相ユーモア短編集-69-姑息(こそく)

  • 世相ユーモア短編集 -68- 足の向くまま気の向くまま

    昨今の殺伐とした攣(つ)れない世相では、何をするにも抵抗が大きいから、生き辛(づら)い。さてそうなれば、大上段に構えるのではなく、足の向くまま気の向くままで軽く生きた方が楽でいいようだ。^^高岩は春の陽気に誘われ、これといった目的地もなく、足の向くまま気の向くまま旅に出た。目的地がないから、そこに辿りつくまでの行程は不必要となる。そんなことで、でもないが、気楽に高岩は家を出られた。とはいえ、懐具合だけは、ゆとりがないと何がどうなるか分からないから、一万円札を二十枚ばかり財布へ忍ばせておいた。天候を気にするでなく、駅の売店で、そそくさと駅弁、茶、飲料、みかんなどを買い求め、入場券だけで改札を抜けた。そして、プラットホームへ出るや、早そうな特急列車に脇目も振らず飛び乗った。しばらくすると、駅員が切符の確認で回...世相ユーモア短編集-68-足の向くまま気の向くまま

  • 世相ユーモア短編集 -67- 風評

    最近の巷(ちまた)では風評が闊歩(かっぽ)している。そのため被害に遭われる方々も少なくない。取り分けて芸能界の方々のご苦労は察するに余りある。有名というだけで、マスコミから異端児扱いされる報道は如何なものか…とも思える。業界の方々は一般人とは違う存在だから価値がある訳です。芸能や技能を生業(なりわい)とされておられるだけで、プライベートでは世間一般の私達とは少しも違わない。芸能は芸能、技能派技能、プライベートはプライベート・・ということを報道を生業とされている方々にもご理解賜りたいと苦言を申し上げる他はない。風評の報道は世間の関心を煽り、当期純利益も増すでしょうが、ほどほどに…。^^天常立(あまとこたち)様は、ここ最近の世は少し狂うておる…と雲の上で、お感じになっておられた。風評が幅を利かせて蔓延(はびこ...世相ユーモア短編集-67-風評

  • 世相ユーモア短編集 -66- 思い立ったが吉日

    最近の世相は、出来るときにしないと、後々(あとあと)出来なくなることが増えている。それだけ、世の流れが速まり、慌ただしくなったからに相違ない。後の祭り・・という事態が多くなったのである。立華(たちばな)は明日(あす)、旅に出ることを、ふと思い立った。かねてから思い描いていたのだが、その行為をいつ実行するか?までは深く考えていなかったのである。その行為とは、とある国宝の建造物の撮影だった。思い立ったが吉日…という発想が、メラメラと立華の心に芽生えた。『と、すれば、〇〇:〇〇の列車に乗らないとダメだな…』時刻表ネットで検索し、〇□:◆▲発→◎◇:△▽着という詳細な時刻をメモった。さらに現地へ到着後のゆとり時間を考え、×■:▼●には現地から列車に乗らないと、その日の明るい内には戻れない…と、詳細な計算を立てたの...世相ユーモア短編集-66-思い立ったが吉日

  • 世相ユーモア短編集 -65- 一日違い

    一日違いで物事は良くも悪くもなる。私達が生きる銀河系星雲・太陽系惑星の三次元地球では昨日(きのう)に戻ることは不可能なのである。タイム・マシーンはないから、どうしようもない訳だ。^^春まだ浅い三月初旬の朝、梅崎は膨らみかけた桃の蕾を見ながら、ふと溜息を吐(つ)いた。外は小雨が降っている。明日の朝しよう…と思っていた樹木の消毒は当然、この気候では出来ない。昨日、やっておけばよかった…と、後悔してもあとの祭りだった。「まあ、仕方がない…」梅崎は自己弁護のひと言をつぶやくと朝食にした。いつものように家庭菜園で育てたダイコンの温野菜、食パン一枚、そして温かいコップ一杯のミルクである。慎ましやかながら、ここ最近の増えた体重を思えば梅崎としては十分過ぎるほどだった。テレビのリモコンを押すと、能登半島地震のニュースが流...世相ユーモア短編集-65-一日違い

  • 世相ユーモア短編集 -64- 気になる

    最近の世相は気になることが多い。気にしなければいいのだが、これだけ情報社会が進んだ昨今の世相では、否応なしに社会問題が目や耳に飛び込んでくる。で、気になる・・と、まあ話はこうなる。^^よくよく考えれば、自分の生活とはまったく関係がない事柄が多いのだが、一端、気になり始めると止めようがないから困る。気にしなければいいのだが、気になるのだから、どうしようもない。^^とある最先端のウイルス研究所である。「先生っ!こんなウイルスが…」電子顕微鏡に映し出されたウイルスは、今まで見たこともない新種のウイルスに思えた。「気になるな…」所長の教授は、そう呟(つぶや)くと首を傾(かし)げた。そのウイルスは映し出されたのだが、数分経っても少しも動かなかった。「妙ですね…」「ああ。私が見てるから…」教授は腹が空いたのか、それと...世相ユーモア短編集-64-気になる

  • 世相ユーモア短編集 -63- 狭い

    世間は狭い・・などと、よく言われる。最近の世相は特に狭くなったように思える。その原因は、社会が以前より情報化が進んだ世相へと変化しているからと考えられる。良い報道ならともかく、悪い報道が世間に早く伝わるのは、いかがなものか…などと、偉そうに思ってしまう訳だ。^^とある年の国会である。テレビで衆議院の審議が中継されている。「底鍋議員の持ち時間の範囲内で、関連質問を許します。傘骨議員っ!」雨漏委員長の穏やかで陰気な声が響く。狭い委員会室の中だけに重苦しさが増す。「底鍋議員が申されましたように、食糧自給率が今のままでは益々、低下すると考えられますが、どのようにお考えでしょう?」「農林水産大臣、芋根植男さん…」「我が国の食料自給率は、カロリーベースで38%と40%を下回っておりまして、今後の増産への努力が必要とな...世相ユーモア短編集-63-狭い

  • 世相ユーモア短編集 -62- 投票率

    投票率が低いのは今に始まったことではないが、高まる気配は今の世相に感じられないのは残念なことだ。自分一人が投票しても、政治の現状は変わらないだろう…という深層心理が見え隠れする。そんな訳で、貴重な時間は自分のプライベートに…と思うのも無理からぬ話だ。与党以外の議員さんには猛省を促したい。^^とある市は、とある選挙の真っただ中である。『で、ありますからっ、かくかくしかじかなのでございます。なにとぞ、清きご一票を前回同様、この魚頭、魚頭に賜りますよう、よろしくお願いを申し上げる次第でございますっ!』街頭演説カーの上に立ち、魚頭候補がいつもの名調子で選挙演説をぶち上げている。それを聞く二人の市民が話している。「前の選挙と同(おんな)じこと、言ってるぜっ!」「ああ、どうしようもないな…」絶望感を露(あら)わにし、...世相ユーモア短編集-62-投票率

  • 世相ユーモア短編集 -61- 歩く

    最近は歩くにも注意が必要な世相である。人が起動する機械類が闊歩していて、実に危ういのである。馬鹿を絵に描いたような現実の世相には、ただただ恐れ戦(おのの)くしかない訳だ。困った世になったもんだ…と、怒る他ない訳だ。ああ、情けないっ!^^漆原は料理で足らなくなった醤油を買おうと家を出た。漆原の家からスーパーまでは車を使うほどの距離ではなく、せいぜい歩いても十分程度だったから歩くことにした。家を出てしばらくしたところに十字路がある。車が頻繁に通る道路だから当然、信号機があった。いつも通る道だったから、漆原には馴れがあった。ところが、この日だけは勝手が違っていたのである。信号機の前が工事中で、数人の作業者が工事していた。まあ、そんな光景はよくあることだが、この日は加えて事故があったのか交通課の警官二名がアレコレ...世相ユーモア短編集-61-歩く

  • 世相ユーモア短編集 -60- 正直者

    正直者が馬鹿を見る・・などと言う。昨今の世相は、特にこの傾向が顕著ではないか…などと、お大臣にでもなった気分で偉そうに筆を進めている訳です。お笑いをっ!^^とある市役所に勤めるこの男、原在(はらあり)平業(ひらなり)もそんな平安時代から抜け出たような穏やかな性格で、正直者だった。性格が穏やかということは、取り分けて自己顕示欲もなく、損をしたことすら柳に風と、すぐ忘れられたのである。「原在さん、部長がお呼びです…」「ああ、そうですか、どうも…」部下の課長補佐に告げられ、原在は部長室へと歩を進めた。「部長、何でしょうか?」「ああ、かきつばた、いや、原在君か。実は、二年前、君にお世話になったと一市民から私宛に手紙が届いてね…」「…はあ、二年前ですか?」「何か心当たりはないかね?」「いえ、別にこれといって…」原在...世相ユーモア短編集-60-正直者

  • 世相ユーモア短編集 -59- 同士討ち

    ━野党消え政策集団同士討ち━ここ最近の政治世相を皮肉った拙(つたな)い私の川柳である。^^要するに、同士討ちをしていたのでは、与党さんの独裁政治を許すだけですよ…という警鐘の意味を込めた一句だが、…まあ、そうでしょう。^^とあるテレビ局の政治討論会が二人の論客を招いて中継されている。「アメリカやイギリスのようにいかないのは、やはり民族性でしょう…」「いや、それを言っちゃ、お終いです。過去、幾度か二極対立の時代もあった訳ですから…」「しかし、そう長くは続かなかったじゃありませんか。やはり、この国の民族性ですよ」「いやいや、そう考えちゃ発展形がない。我が国の政治には見込みがないって言われるんですかっ!?」「いやいやいや、そこまでは言ってないでしょうがっ!政策の違いで同士討ちしてちゃ相手の思う壺(つぼ)ですよ、...世相ユーモア短編集-59-同士討ち

  • 世相ユーモア短編集 -58- 真似(まね)

    真似(まね)は、どこまで行っても真似であり、オリジナルではない。発明や発見ではなく、飽くまでも実用新案なのである。戦後日本の発展の歴史はこの手が実に多く、今までの世相を振り返れば、資源のない負い目を先進国の真似+実用新案で、ようやく先進国の仲間入りをした・・という経緯がある。ジョブ・シェアリング[イギリス]を真似して有り得ないワーク・シェアリングなどと国会でどぅ~たらこぅ~たら[どうのこうの]と論議された過去は真に恥ずべきであり、耳を覆うものがあった。反省をっ![お猿さんのように立って片手をつくポーズ]^^とある中堅会社に勤務する如月(きさらぎ)は、真似が上手い社員で副部長にまでのし上がった中年男だった。宴会芸が得意で、同期の社員達は全て課長で、この芸があったら副部長以上に成れたな…と、彼を羨(うらや)ま...世相ユーモア短編集-58-真似(まね)

  • 世相ユーモア短編集 -57- きな臭い

    きな臭い紛争や戦争が世界各地で起こる今の世相である。修羅道→人道への攻撃が激しさを増しました・・と、朝七時のニュースとしてお伝えすれば、このテレビ局のアナウンサーは何を言ってんだっ!とお叱りを頂戴するかも知れません。しかし、よくよく考えればその通りなんです。^^とある場末の屋台である。二人の中年男がラーメンを食べながら語り合っている。「ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…最近は、きな臭い世の中になっちまったなぁ~」「だな…。ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…そこへいくと、この国は平和だっ!」「それは言えるっ[?を啜るS.E{効果}音]ズルズルズル[?を啜るS.E{効果}音]…。だが、平和過ぎるんじゃないか?」「平和過ぎて、平和の有難みを忘れちまったんだぜ、たぶん。ゴクッ![コップの水を飲むS...世相ユーモア短編集-57-きな臭い

  • 世相ユーモア短編集 -56- 回りもの

    金は天下の回りもの・・とは、よくいうが、ちっとも私のところへ回って来ないのはどうしてだろう…などとは言わないが、^^回ってくる金額が少な過ぎ、貯えを取り崩す現実には、些(いささか)か怒れてしまう。^^今の世相を観望すれば、億単位のお金が議員各位の周辺を駆け回っているニュースを羨(うらや)ましく見聞きするが、住民税非課税世帯の私のところへは少しも駆けっ回ってくれないのは、どうしてだろう…と、思ってしまう訳だ。^^実に悲しい機械仕掛けの世相には、ただただ無常を感ぜずにはおられない。私事の愚痴はこの辺りにして、今日のお話と参ります。^^冬の寒気がようやく緩もうとしていた、とある年の春のことである。戸坂は陽気に誘われ、コケコッコ~~!と威勢よく、桜見物に出かけることにした。戸坂が毎年、桜を見る場所は決まっていて、...世相ユーモア短編集-56-回りもの

  • 世相ユーモア短編集 -55- レジ 2

    -17-レジと同じタイトルですが、別話です。^^最近の世相は全自動を心がけているのか?までは分からないが、機械化が進捗しつつある。まあ、機械化自体は悪くはないが、どうもスキンシップに欠けて味気ないから、私の好みではない。よくよく考えれば、全てをセルフで熟(こな)すというのは建前で、企業サイドの人件費削減が、どうも見え隠れする。^^雨が鬱陶しく降っていた。だが箱川は、そんなことにはめげず、とあるDIY専門店へ買物に出た。最初の店は類似品があることはあったが、それが適合するかどうかが箱川には分からなかった。しかし、そのまま買わずに帰るというのも…と思った箱山は一か八か買って帰ることにした。支払いはセルフの全自動レジだった。帰路、相変わらず雨が降り続いていた。帰ってその品を装填すると、動くことは動いたがどうも力...世相ユーモア短編集-55-レジ2

  • 世相ユーモア短編集 -54- 元気

    ここ数年の世相で感じられるのは、どうも人の動きに元気がない…と思えることだ。ということは、病気なの?となるが、どうもそうらしい。世界の二か所で争いが生まれていることは誰もが分かるはずである。そんなことを考えながら村尾は怒りながら歩いていた。別に怒りながら歩く必要もないのだが、村尾は怒っていた。村尾が怒っても世界の二か所で起きている争いが止まる訳でもないのに、村尾は偉そうに怒っていたのである。「やあ、村尾さん!」スクランブル交差点を通り抜けようとしたとき、知人の町前が近づいてきて後ろから声をかけた。「ああ、町前さんでしたか…」村尾は慌てて振り返り、返事した。「元気そうでなによりです…」「いや、あなたも…。今日は?」「ははは…孫の迎えで幼稚園まで…」「そうでしたか…。私は婆さんの代わりで買物を…」「では…」町...世相ユーモア短編集-54-元気

  • 世相ユーモア短編集 -53- 朝飯前(あさめしまえ)

    朝飯前(あさめしまえ)と表現される言葉がある。そんなことは朝飯前です・・などと遣(つか)われる言葉だが、分かりやすく言えば、そんなことをするのは簡単なことです・・というような意味になる。ただ、今の世相をよくよく見れば、朝飯を食べてからする人の方が多くなったように思われ、実に嘆かわしいことだ。^^中には朝飯を食べてからもされない食い逃げのような方が大勢おられるのは如何なものか…と思われます。政治家の方々は特に耳をかっぼじって、よくお聴き願いたいものです。^^いつやらも登場した、とある国会の衆議院本会議場である。白富士首相が一生懸命、施政方針演説の質問に答えている。とはいえ、大方は、議会対応をする省庁の職員が頭に鉢巻を撒いて練り上げた文面に違いなかった。^^「今、申し上げましたような経緯で現在、進捗しておりま...世相ユーモア短編集-53-朝飯前(あさめしまえ)

  • 世相ユーモア短編集 -52- 幸せ

    様々な災害や戦争、事件を見聞きする最近の世相には、ただただ目を瞑(つむ)る他ない…などと実(まこと)しやかな言い訳を思いながら、今朝は朝寝坊を致しました。^^いや、本当のところを言いますと、身体が疲れていたようですが…。しばらくぶりに快眠し、朝シャワーを浴びて英気を養ったところです。家庭菜園のダイコンを湯がいて温野菜にし、ポン酢+マヨネーズで食すと、まさにこれこそが小さな幸せだ…と思える朝になりました。^^舘花(たちばな)は新聞の震災記事を読みながら、幸せとはなんだろう?と小難しいことを偉そうに考えていた。記事には妻と三人の子を失くした夫の顔写真が一面トップに掲載されていた。『家族に恵まれなかった僕の方が幸せか…』そんな思いが舘花の胸中を過った。大きな幸せを得た分、失くした幸せの絶望感は、より深く辛辣(し...世相ユーモア短編集-52-幸せ

  • 世相ユーモア短編集 -51- 予約

    最近の世相は、何かにつけて予約が幅を利かせている。それだけ人と人とのコンタクトが取りにくくなった・・と考えれば、何故か寂しい気分になるのは私だけだろうか。今日、お話するこの男、篠口もそんなことを思う一人だった。朝の通勤電車である。篠口はいつものように地下鉄に揺られ職場へ向かっていた。篠口が勤める区役所の、とある課はここ最近、住民の予約に追われていた。「はいっ!次の方…」開庁と同時に、その日も大勢の住民が受付へ押し寄せた。「ええ~~っと…はいっ!予約票は?」住民が予約票を受付台へ置くと、篠口は馴れた手つきで予約票を確認して受理し、処理し始めた。それもそうで、篠口が予約の受付係になってから三年ばかりの月日が流れていたのである。不器用な者でも三年も同じ仕事をしていれば身体が自然と覚えるというものである。「はいっ...世相ユーモア短編集-51-予約

  • 世相ユーモア短編集 -50- 物価高

    最近、物価高の世相が続いている。「これじゃ、暮らしていけんぞ…」退職後、年金生活の身である中宮(なかみや)は、誰もいない部屋で思い悩んでいた。とはいっても、自殺するほどではない。^^「生活支援金が国から出たが、とてもこの額じゃ…」最近支給された生活支援金¥70,000は中宮にとって一時的な生活の潤いとはなったが、焼け石に水だった。物価高は年金生活者の中宮を直撃していた。『俺達を直撃しないで、政治資金収支報告書未記載の議員さんを直撃して欲しいよ、ったくっ!!』つい本音が中宮の口から洩れた。中宮は心で愚痴りながら、家庭菜園で育てたダイコンの温野菜を、ポン酢+マヨネーズで美味そうにモグモグと味わった。「なになに…ウクライナとロシアが…。こっちはパレスチナのガザ地区とイスラエルか…」新聞の紙面を読みながら、中宮は...世相ユーモア短編集-50-物価高

  • 世相ユーモア短編集 -49- 気分

    人は、そのときそのときの気分で行動変化を見せるが、私達が暮らす今の世相は気分を刺激する出来事が多く、どうも先々が読みにくくなっている。心を明るく刺激する世相ならともかく、どうも最近は心を暗くする世相が社会を取り巻いているように思える。暗いニュースや暗い事件物のドラマが横行している一因もあるが、実に悲しい世相である。いい気分で日々、暮らせる社会環境が望まれる。などと、偉そうに言える身の上ではありませんが…。^^植毛は悩んでいた。どうも、ここ最近、気分が晴れないのだ。その原因が判明しない以上、気分がよくなる解決策はない。植毛は、思い切って病院で診てもらうことにした。「鬱病ですね…」診断医は笑顔で優しく告げた。「治りますか??」「もちろん治ります。すぐに、という訳には参りませんが…」「あの…どれくらい?」「そう...世相ユーモア短編集-49-気分

  • 世相ユーモア短編集 -48- 科学

    科学の進歩が目覚ましい今の世相である。車が勝手に運転したりブレーキをかけたりするのだから空恐ろしい時代になったものだ。そのうち、運転席がいらなくなるんじゃないか?などと思ったりもする。西暦2100年のとある家庭である。『ゴシュジンサマ、イツデモ、デカケラレマス…』「そうか…。あと一時間ほどしたら出るから、よろしく頼む。暖かくしておいてくれ…」『ハイ…』自家用飛行車と会話を交わした天川は、家屋の駐車場から室内へと姿を消した。キッチンでは妻が自動調理器のボタンをゴチャゴチャとテレビゲームのように器用に弄(いじく)っている。「…もう食えるのか?」「えっ?ええ…。これでOKだわ」妻が最終ボタンを押すと、調理機械達はシャカシャカと自動で調理を始めた。「もう五分ほどで出来るから…」「そうか…」天川は眠そうな声でそう言...世相ユーモア短編集-48-科学

  • 世相ユーモア短編集 -47- 兜(かぶと)の緒(お)

    勝って兜(かぶと)の緒(お)を締めよ・・と昔からよく言われるが、物事は勝利したあとが緩(ゆる)めば、瓦解(がかい)するから気を引き締めなさいという訓示である。日本海海戦で勝利した東郷司令長官が艦隊を去るときの訓示が有名だが、最近の世相を見れば、与党がガタガタになっておられて実に嘆かわしい。ガタガタになったあと、兜を引き締めても、もう遅いっ!という訳だ。^^とある町役場である。「おいっ!ここに置いておいた万年筆、知らないかっ?」管財課の課長、横縞(よこしま)が前の席に座る課長補佐、砂尾(すなお)に小声で訊(たず)ねた。「さあ?見てませんが…」「そうか…怪(おか)しいな。確か、デスクに置いたんだが…」「はあ…」置いたんなら、あるでしょ…という顔で砂尾は小さく哂(わら)った。だが、そうとは言えないから、意味なく...世相ユーモア短編集-47-兜(かぶと)の緒(お)

  • 世相ユーモア短編集 -46- 人

    私の子供の頃を顧(かえり)みれば、捨てる人は少なく、拾う人が多かったように記憶する。今ではもう死語となったバタ屋さんとか鋳掛(いかけ)屋さんといった商いを見かけたものである。敗戦後の物が少ない時代で、大事に使わねば買えなかったからだ。それが今の世相は使い捨てが横行する時代となっているのは、私達の世代としては実に悲しい現象といえる。『部品の保有期間が過ぎました。買い替えて下さい』の時代なのだ。ぅぅぅ…実に悲しいですっ!^^豊かさは物と心が反比例[ユーモア時事川柳・百選より]^^とある中流家庭である。「弱ったわ…」「どうした?」「加湿器が傷んだんだけど、買い替えて下さいって、電気屋さんが…」「別に傷んだようには見えんけどな…」「10年以上前のだから部品がないんだって…」「ふ~~ん…」「どうしよう?」「どうしよ...世相ユーモア短編集-46-人

  • 世相ユーモア短編集 -45- 圧力

    サッカーでは、相手チームの選手にプレス[プレッシャー]をかける・・などと表現するが、要するに、ボールを蹴る相手チームの選手に圧力をかけて前進を阻(はば)む・・ことを意味する。どこにでもあるような、とある普通家庭の居間である。中年夫婦が語り合っている。「検察は政府上層部の立件を無理と見たようだな…」「まあ、それでも思い切ってやった方よ…」「過去の疑獄事件で、『検事総長を指揮します』なんてのもあったな…」「あった、あった!法務大臣が闇の圧力で指揮権発動したやつね。懐かしいわっ!」「今回は政治資金パーティの還流分が収支報告書へ記載されてなかった、というだけの話だが、大ごとになっちまったな…」「パーティ収入の還流自体は罪にならないのよね…」「そうそう。還流分を記載しなかったのが罪って話だ。検事もそう言ってる…」「...世相ユーモア短編集-45-圧力

  • 世相ユーモア短編集 -41- 計画的

    計画的を法学的に言えば心象作為と表現するらしい。実に堅苦しい表現だが、分かりやすく言えば、自分で考えて実行する・・となる。。計画的に先々を考えて行う行為はいいのだが、事件性のある悪い行為の場合は計画的犯行となり、心象作為犯と呼ばれるらしい。世相を見れば、この手の行為があとを絶たない[ポイ捨ても含みます^^]。物事を考える人の心理まで他人は見通すことが出来ず、防げないのは困ったことだ。まあ、政治面でも責任者のみが立件で起訴され、御屋形様はお咎(とが)めなし・・となる嘆かわしい世相なのである。指揮権発動…なんていう計画的犯行がお上で行われていたとすれば、小市民の私達は救われず、踏んだり蹴ったりだ。ぅぅぅ…私がやりましたっ!と名乗り出る議員さんが望まれる。シャキッ!としよう、シャキッ!とっ!^^とある家庭内の裁...世相ユーモア短編集-41-計画的

  • 世相ユーモア短編集 -40- コンプライアンス

    世相は残念なことに目に見えないコンプライアンス強化の方向へ少しづつ進んでいる。繰り返すが、実に残念な国の施政である。まあそれも、その方向を止めだてる組織が存在しないのだから、致し方ないといえばそれまでなのだが…。事件絡みの与党議員さん達も然(さ)りながら、それ以外の議員さん達にも猛省を促したいっ!などと偉そうに言える身の上ではない年金暮らしなのだが…。^^どこにでもいる中年男性の二人が、路地の片隅で寒さを避けながら話し合っている。「少しづつだぜ…」「コンプライアンス強化だろ?」「ああ、そうだ。俺はガスから電気にした…」「液化ガス取締法が強まったからな…」「点検、点検って、議員さんを取り締まりたいよっ!まったく嫌な時代になっちまった!」「だなっ!そういや、血圧基準の80~130が75~125になったぜっ!」...世相ユーモア短編集-40-コンプライアンス

  • 世相ユーモア短編集 -39- 天水(てんすい)

    他の短編集でもタイトルとしたが、天水(てんすい)とは、人の力ではどうすることも出来ない自然現象を指し、アレコレと画策するのは無駄なことを意味する。今の世相の一例を挙げれば温暖化が該当する。何年受験しても不合格となるのも天水だ。もう、やめなさい!と天が忠告しているのである。^^山室(やまむろ)は今年で五回目の大学受験に臨もうとしていた。^^「山室君、来年はやめた方がいいよ…」「先生、今年は受かりそうな気がするんですが…」「君は毎年そう言ってるじゃないか」「はあ、それはまあ、そうなんですが…」卒業した高校の進路指導を担当する教諭と、山室は今年も同じ教室の一角で話し合っていた。五年目である。^^「天水には逆らえんよ、山室君」「天水?先生、なんですか、それは?」「だから天水だよ。降る雨は止められんだろ」「ええ…」...世相ユーモア短編集-39-天水(てんすい)

  • 世相ユーモア短編集 -38- 貨幣

    最近の世相は貨幣を預けるにも手数料がかかる時代となっている。実に嘆かわしい世相だが、こればかりは、そう致しました…と、金融機関に告げられれば手の打ちようがなく、小市民にはどうしようもない。^^少額貨幣が貯まった禿川(はげかわ)は、とある金融機関の窓口で預けようとしていた。「あの…この枚数ですと手数料がかかるのですが…」「えっ!そうなの?前はいらなかったんだけど…」「前は前、今は今ですから…」「それはまあ…」窓口の係員にそうにべもなく言われ、禿川は返す言葉がなく撤収することをを余儀なくされた。「どうも、申し訳ありません…」「あなたに謝られても…。そういう決めになったんなら仕方がないです。他を当たってみます…」「おそらく、どの金融機関へ行かれても同じかとは存じますが…」大きなお世話だ…とは思えたが、そうとも言...世相ユーモア短編集-38-貨幣

  • 世相ユーモア短編集 -37- 取説(トリセツ)

    過去の短編集にも登場した取扱説明書の略語が取説(トリセツ)であることは、現代の世相なら明々白々な時代となっている。ただ、この取説は、かなり複雑化している点を見逃してはならない。フツゥ~程度の頭の良さの方でも分かり辛くなってきているのである。^^山毛は、とある電気製品を購入し、さっそく使おうと付属の取説を読み始めた。『なになに…?AをBに設定したのち、CをDに接続し、しばらく点滅状態を確認して下さい、だとっ!?』ここで、山毛は分からなくなってしまった。点滅状態を確認する時間が説明されていなかったのである。『どれくらい確認すんだっ!!』山毛は半分切れかけていた。切れたとしても誰に鬱憤を投げていいのか?も分からなかったのだが…。『まあ、いいか…』怒っても仕方ないか…と心を静め、山毛は、とにかく取説通りに動作を進...世相ユーモア短編集-37-取説(トリセツ)

  • 世相ユーモア短編集 -36- 黒くない灰色(グレー)

    最近の世相に感じることといえば、なんとも黒くない灰色が増えたということである。いい状況の灰色ならいいのだが、悪い場合の灰色、分かりやすく言えば黒に近い灰色(ダーク・グレー)が席巻する時代になっているのだ。パール・グレーとかホワイト・グレー、シルバー・グレーの類(たぐ)いならいいのだが、その手の灰色は目には見えず、いろいろと悪さをする。黒に近い灰色だから黒(ブラック)とも言えず、お灸をすえることも出来ないから手に負えない。^^人、物、事すべてに言える黒くない灰色である。^^ここは、とある時代の地方検察庁の内部である。特捜部は賑わって欲しくないほどガヤガヤと賑わっていた。黒くない灰色議員がワンサカと獲れた、いや捕れたのである。「こんな事件、過去にもあったな…」「はあ、私の若い頃です…」「ははは…今も若いじゃな...世相ユーモア短編集-36-黒くない灰色(グレー)

  • 世相ユーモア短編集 -35- 物価

    最近(2024/01現在)の世相を見れば、数年前より物価が高くなったことに気づかされる。政府は低所得者層に対し生活支援金を交付している。私も大層、助かっている訳です。^^鳥餅は正月の残り餅を焼いて食べていた。「これがあるから随分、助かる…」鳥餅が助かるとは、食費が助かる・・という意味である。家計の総支出に占める飲食費の割合を示す数値にエンゲル係数というのがあるが、世相は激しくエンゲル係数が高い鳥餅の家計を攻め続けていた。それでも負けまいと、土俵際の徳俵でしぶとく鳥餅は残っていた。その鳥餅に有り難い生活支援金が振り込まれた。年金生活者支援給付金の支給に関する法律に基づき市町村に交付する事務費に関する政令によってである。こんな令はいいな…と思う鳥餅としては、地獄に仏さま・・の気分である。^^『これで今月は、な...世相ユーモア短編集-35-物価

  • 世相ユーモア短編集 -34- 秋刀魚(サンマ)

    宮住(みやずみ)は、こんな夢を見ていた。今、焼いたばかりの美味(うま)そうな秋刀魚(サンマ)が皿から忽然と消えたのである。暖かいご飯を茶碗に盛り、熱湯を茶葉を入れた急須に注いで湯呑みへ流し入れ、さあ、食べるかっ!と意気込んだ次の瞬間、消えたのである。皿には添えられた大根おろしが、どこへ行ったのよっ!という怒り顔で消えた焼きたての秋刀魚を探すように見回していた。どうも秋刀魚の奥さんのようだな…と宮住は思った。すると突然、どこからともなく一面識もない一人の漁師が現れた。『いやねぇ~旦那っ!最近の温暖化で、さっぱり獲れなくなっちまいましてねっ!!』』宮住はボリボリと申し訳なさそうに頭を掻く漁師に説明され、忽然と消えた秋刀魚の訳を朧(おぼろ)げながら理解することが出来た。流石に惣菜が大根おろしだけでは…と宮住は思...世相ユーモア短編集-34-秋刀魚(サンマ)

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