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2023/04/10

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  • サスペンス・ユーモア短編集 -44- 太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件

    四方波(よもなみ)署の刑事課では、ああでもない、こうでもないと状況調べが続いていた。謎を秘めた事件まがいの一件で、捜査員達を梃子摺(てこず)らせていたのである。「害者が右折したときは晴れていたんだったね?」「ええ。そのときは、ですが…」「辺(あた)りに誰もいないのに押し倒されたと…」「はい。目撃者がいないですから、誰もいなかったことになりますね」「太陽に目が眩(くら)んで倒れたとも考えられる…」「はい。ただ、その日は風が強かったですね」「強い風に押し倒されたか…」「はい。ただ、害者は背中に衝撃があったとも言ってます」「なるほど、風に押し倒されたのなら衝撃はないな…」そのとき、刑事が一人、署へ戻(もど)ってきた。「警部、害者の意識が戻り、証言が取れました。太陽は雲に隠れたそうです」「そうか…」「ところが、風...サスペンス・ユーモア短編集-44-太陽とネズミの童話のような事件まがいの一件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -43- 遵法(じゅんぽう)占拠

    コトは公園に屯(たむろ)するホームレスへの突然の退去命令で発生した。甘谷署である。役所に出動を要請された機動隊長と署長の会話である。「一端、退去したホームレスが一日ごとに塒(ねぐら)を変える頭脳作戦に出たようです!」「なにっ!?どういうことだ?」「公園にいること自体は都市公園法違反にはならないからです」「…だが、6条があるだろう」「いや、それが彼らは衣服の一部だとして、帽子部分を大きくした衣服まがいの寝袋[シュラフ]で眠るようです」「そんな複雑な服を作る金がホームレスにあるとは思えんが…」「聞き込みによれば、福祉ボランティア団体の寄付による配布だそうですが…」「そうきたか…」憲法25条[健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した条文]⇔都市公園法の目に見えない長い難解な訴訟合戦が始まろうとしていた。...サスペンス・ユーモア短編集-43-遵法(じゅんぽう)占拠

  • サスペンス・ユーモア短編集 -42- 偶然の一致

    物事にはサスペンスタッチで進行していても、必ずしもサスペンスにはならない事件も多く存在する。縦走(たてばしり)署では起きた傷害事件の取調べが行われていた。殴(なぐ)ったのは登坂(とさか)で、殴られた相手は登坂の友人の下山(しもやま)である。二人は場末(ばすえ)の屋台でおでんを肴(さかな)に酒を飲んでいた。「下山さんとは古い友人だそうだが?」傷害事件を専門にしている刑事の寝袋(ねぶくろ)は、不思議そうな顔で対峙(たいじ)して椅子に座る登坂を見た。「はあ、会社に入ったときからの付き合いで、かれこれ30年になります…」「そんな仲のお前が、なぜ殴ったんだ?」「殴ったんじゃないんですよ。私と下山は叩(たた)き合いをしていたんですよ」「叩き合い?どういうことだっ!」「いや、私も下山もかなり酔ってたんですが、酔いもあっ...サスペンス・ユーモア短編集-42-偶然の一致

  • サスペンス・ユーモア短編集 -41- 事件にしたくない一件

    松ノ木(まつのき)署では、とんでもない告訴が発生していた。訴えたのは松ノ木村の村長、小宇多(こうた)である。「あの木はずっと昔からある由緒(ゆいしょ)…由緒はないが、我々の子供時代からある馴染(なじ)みの木だっ!誰が切り倒したのかは知らんが、私に一言(いちごん)もなく無断で切るとは許せん破壊行為である!是非、署の方で調べていただき、犯人を引っ括(くく)ってもらいたいっ!」「はっ!村長みずからお出ましとは、かなりご立腹のご様子ですな」署長の御地(おんち)は小宇多のご機嫌をとりながら窺(うかが)うように言った。なんといっても村では一番の長者である御地が言うことは、村のすべての者を右に倣(なら)え・・させるだけの重さがあった。「無論だっ!君には期待しておるから、よろしく頼むっ!」「ははっ!」どちらが警察なのか分...サスペンス・ユーモア短編集-41-事件にしたくない一件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -40- 状況捜査

    物は傷(いた)むものである。目有(めあり)家では、主人の目有が物干し台から柿を採ろうとしていた。毎年、収穫しているのだが、今年はよく出来たせいか、たいそう手間取っていた。ほぼ半ばほど採ったとき、うっかり置いた高枝切り鋏(バサミ)を落としてしまった。当然、鋏(ハサミ)は地上へ数mほど落下した。そのとき、カチン!という音がするのが聞こえた。目有はしまった!とばかりに下へ降りた。鋏を拾おうとすると、取っ手の部分が割れて傷んでいた。一番重要な部分で、この取っ手が欠けては鋏は無用の長物となり、開閉が出来ないから切れない。もう少し慎重に採ればよかった…と目有は悔(く)やんだが、時すでに遅(おそ)し・・だった。これが人なら…と刑事の目有はゾォ~っとした。人なら、明らかに過失傷害の事件捜査となるからだ。鋏には申し訳ないが...サスペンス・ユーモア短編集-40-状況捜査

  • サスペンス・ユーモア短編集 -39- 考えすぎ捜査

    朝の出勤ラッシュで駅構内は人の波であふれ返っていた。事件はその中で起こった。ホーム階段で一人の老人が足を滑(すべ)らせ転倒したのである。その余波で数人の一般乗客が巻き添えを食らったが、幸い、命に別状はなく、軽い軽症でコトは済んだ。ただ、そのときの状況は複雑で、転倒した乗客の前の夫婦は、激しく口論しながら階段を下りていた。そして急に夫婦は階段途中で停止して激しく言い合った。夫婦が停止すると思っていなかった老人は二人に追突し、転倒したのである。当然、老人の後方を降りていた数人の乗客も巻き添えを食らって倒れ、軽症を負った・・となる。事件を担当した所轄警察の十月(とげつ)署は事故、傷害の両面から捜査を開始した。現場検証が念入りに行われ、この一件はサスペンス的な展開に発展しようとしていた。「いや!そうともかぎらんぞ...サスペンス・ユーモア短編集-39-考えすぎ捜査

  • サスペンス・ユーモア短編集 -38- ピアノソナタ騒音傷害事件

    コトの発端は、どこでもよく起こる楽器の演奏練習による騒音トラブルだった。この事例の楽器はピアノで、弾き手が上手(うま)ければ、それはそれで苦情を警察へ申し出た相手方も納得して聞き惚(ほ)れていたのかも知れない。ただ、騒音傷害の告訴があった今回の事件の弾き手はお世辞にも上手(じょうず)とはいえず、かなり下手(へた)だった。そこへもってきて、輪をかけて拙(まず)かったのは、練習する弾き手が下手と認識していないところにあった。そんな弾き手だったから、賑やかに弾き続けるのは当然である。家族はさすがに苦情は言えず、練習時間になると全員が耳栓(みみせん)をした。「難儀な一件ですな…」平松署の伊井はアングリとした顔で上司の課長、吉忠に言った。「さて、どうしたものか…」吉忠も同じようなアングリとした顔で、頭に手をやり掻い...サスペンス・ユーモア短編集-38-ピアノソナタ騒音傷害事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -37- ゴマすり激怒事件

    馬糞(まぐそ)工業の総務課である。課長の毛並(けなみ)は課員の蹄鉄(ていてつ)に今朝も、ゴマをすられていた。ゴマをすられることに馴れている毛並は、そろそろ蹄鉄のゴマすりが鼻についていた。そして、この日、ついに毛並の怒りが爆発したのである。まさか、ゴマをすって怒られるとは思っていなかった蹄鉄はアタフタとした。このときの毛並の激怒が事件の引き金になることを誰が予想しただろう。毛並にゴマをすって怒られたことが蹄鉄の心の蟠(わだかま)りになった。蹄鉄は今後、どのように毛並と話せばいいのかが分からなくなっていた。次の日の朝、突如として蹄鉄は会社に出勤しなくなった。いや、それだけではない。蹄鉄は世間から姿を消し、完全に消息を絶ったのである。蹄鉄は独身で一人暮らしだったことから、他に蹄鉄の行き先を知る者はなく、会社から...サスペンス・ユーモア短編集-37-ゴマすり激怒事件

  • サスペンス・ユーモア短編集 -36- 雨夜の通報

    高島田(たかしまだ)署の取調室である。通報のあった日の夜は雨が降っていた。害者は祝(いわい)という中年男だった。捜査一課の老刑事、文金(ぶんきん)は手持ちの鏡と櫛(くし)で頭髪を撫(な)でつけながら、参考人で呼ばれた目撃者の和式(わしき)と対峙(たいじ)していた。「害者が転んだのを見られた訳ですね?」「はい。ものの見事にスッテンコロリと…」「ということは、本人の過失による事故だと言われるんですね?」「はい。まあ…。なにぶん距離があったもんで、しかとは断言できませんが、ご本人以外、人影はなかったと記憶しております…」「そうですか!いや、お手間をおかけいたしました。今日のところはお引取りいただいて結構です。また、なにかありましたらご連絡を差し上げます」文金は櫛で髪の毛を撫でつける仕草を止めることなく、器用に語...サスペンス・ユーモア短編集-36-雨夜の通報

  • サスペンス・ユーモア短編集 -35- 天秤(てんびん)小僧

    現代でも怪盗はいるものである。天秤(てんびん)小僧参上!という格好いい時代劇風の張り紙を残し、天秤小僧は世の中で動き、そして流れる邪悪な資金を根こそぎ奪い取り、今日か明日か…と切羽(せっぱ)つまった中小零細企業や工場に振り込む・・という、ある種、振り込め詐欺の逆バージョンをミッション・インポッシブルで実践(じっせん)する者として全国民的アイドルになりつつあった。警察も盗られた金を調べると、賄賂(ワイロ)、不正資金、騙(だま)し金・・などといった邪(よこしま)な金の流れが分かり、盗られた!と通報した側を逮捕する・・といった事例が目立っていた。そうなると、次第に邪悪な資金を世で動かしたり流している側は、盗られたあとも盗難届を出しにくくなっていく。実は、天秤小僧の真の狙(ねら)いはそこにあった。まさに現代の救世...サスペンス・ユーモア短編集-35-天秤(てんびん)小僧

  • サスペンス・ユーモア短編集 -34- 微妙な落雷

    不審火による火災が発生し、梶北署の捜査員が現場へ出動した。家は廃家で、幸いにも誰も死傷者は出ていなかった。「消防は火元から見て不審火としか考えられないとの結論でしたが…」組立(くみたて)刑事は体育(たいいく)主任の顔色を窺(うかが)った。「ああ、漏電、その他の原因はなかったそうだからな…」体育は、少し威厳のある声で返した。「立ち去った少年の目撃情報が取れましたが…」「坂立(さかだち)が洗ってるそうだな」「はい!今回はスンナリ捕(つか)まりそうです」「そうなればいいがな…。さあ、署へ引き上げるとするか」「はい!」体育と組立は覆面パトカーへ向かった。数日後、少年は簡単に捕まった。それも当然で、逃げていなかったからである。少年は署へ連行されるとき、キョトン?とした顔で警官を見た。自分がなぜ逮捕されるのかが分から...サスペンス・ユーモア短編集-34-微妙な落雷

  • サスペンス・ユーモア短編集 -33- 歩いた財布

    欠伸(あくび)が出るような春の昼下がり、象野池交番の水面(みなも)巡査長はウトウトと眠るでなく眠っていた。詳しく言えば、表面張力で水面を漂(ただよ)う一枚の紙のように、沈まず浮かずの状態で、際(きわ)どく残っていたということだ。完全に眠らせないのは、水面の脳裏に潜在している『自分は警官だ…』という意識だった。「す、すいません!私のさ、財布、届いてませんか?」一人の紳士が交番へ飛び込んだのは、そんなときだった。水面はハッ!と瞼(まぶた)を見開いて前かがみに倒れていた姿勢を直立に正した。紳士はそんな水面の顔を頼りなさそうな顔で見た。「いや、届いてませんよ。どこで落とされたんですか?」「いや。ここのすぐ近くなんですが…」「色と形は?」「黒の皮です」「ほう!それで、中にいくらぐらい入ってたんですか?」水面はいつの...サスペンス・ユーモア短編集-33-歩いた財布

  • サスペンス・ユーモア短編集 -32- 有難い交番

    交番に日参しては土下座し、交番前の片隅で半時間ばかり平伏する男がいた。交番の高科(たかしな)巡査は、始めは見て見ぬふりをしていたが、その男が雨の日も風の日も休まず日参するものだから、半月ほど経ったある日、ついに交番椅子から重い腰を上げた。「あんたね!こんなところで風邪をひくよ。礼拝かなんか?」高科の言葉に、男は相変わらずひれ伏したまま首を横に振った。「違うのか…。じゃあ、なにか訳でもあるの?」「有難いんです…」ひれ伏したまま、男は小さな声で呟(つぶや)くように言った。高科には男の言った意味が分からなかった。それに少し事件性がなくもない…と思えた。「どういうこと?」「この交番が有難いんです…」「交番が有難い?…」高科は益々、分からなくなった。「よく分からないからさぁ~中へ入って聞くよ。まあ立ち話・・いや、座...サスペンス・ユーモア短編集-32-有難い交番

  • サスペンス・ユーモア短編集 -31- 真実

    取調室である。「はっきり見たんですねっ!」「ええ、それはもう…。ただね、私もここの虎箱でお世話になった口ですから、しかとは断言できませんが…」泥酔した挙句、蒲畑(かばはた)署で一夜を過ごした角鹿(つのじか)は、私服の馬皮(うまかわ)に事情聴取されていた。角鹿が何も語らなければ、そのまま何事もなく蒲畑署を出ていたはずだった。だが、角鹿は語ったのである。というのも、角鹿が泥酔してフラフラと暗闇の裏通りを歩いていたとき、とんでもないものを見てしまったのだ。そのとんでもないものとはUFOが円盤へ人を吸い込む瞬間だった。馬皮は半信半疑で小笑いしながら角鹿の顔をジィ~~っと凝視(ぎょうし)した。「ははは…、警察を舐(な)めてもらっちゃ困りますな。どうせ深酒(ふかざけ)で夢でも見られたんじゃないですかっ?!」馬皮は角鹿...サスペンス・ユーモア短編集-31-真実

  • サスペンス・ユーモア短編集 -30- コトのなりゆき

    島国(しまぐに)は今年、猫川署に配属された若者である。同時に赴任した国境(くにざかい)とは、私的には友人だったが、署内では何かと意見が対立するライバル関係にあった。ようやく暖かくなり始めた早春の朝、梅が綻(ほころ)ぶ盆梅展で丹精込められた樹齢数百年の老梅の大鉢が何者かによって持ち去られるという奇怪(きっかい)な盗難事件が発生した。奇怪というのは、警備の係員がいたのだから、展示中は盗られることはまずない…と考えられるからである。盗られるとすれば閉館から開館までの間だが、島国と国境の懸命の聞き込みにもかかわらず、コレ!といった確実な情報は得られなかった。二人から捜査報告を受けた課長の海上(うみうえ)は、訝(いぶか)しげに首を捻(ひね)った。「…まあ、そのうち足が付いて、何か掴(つか)めるだろうがな…」「私もそ...サスペンス・ユーモア短編集-30-コトのなりゆき

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