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明治大正埋蔵本読渉記 https://ensourdine.hatenablog.jp/

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

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2022/01/13

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  • 『生首御殿』 山田旭南

    1910年(明43)小宮万次郎刊。おどろおどろしいタイトルから想像すれば怪談話だろうと思われたが、読み始めて江戸の剣術物だとわかった。雪の夜に軒先で行き倒れで死んだ巡礼女が抱いていた赤子を老夫婦が引き取って育てる。大きくなるにつれ、教えもしないのに剣術の真似事をするようになり、老道場主のもとで成長し、達人となる。物語の語り口は噺家のように滑かでリズムがあって心地よい。前半は道場主の娘をめぐる身柄の争奪戦、後半が掛川藩の領主の弟の屋敷で行われる悪辣な行状を諫める話になる。この作者旭南(きょくなん)には話のやり取りの口上を丁寧に書き綴る特長があり、その問答に迫真感があった。味読して楽しめた。☆☆☆…

  • 『恋の魔風』 秋葉生

    (こいのまかぜ)1913年(大2)日吉堂刊。作者の秋葉生は当時のある作家の別号ではないかと思われるが、誰なのかは突き止められずにいる。極悪非道な高利貸の親の遺した娘が清楚な美人であることはよくある悲劇小説の一パターン。実母も早くに亡くしており、継母とその情人の男が同居する家で育てられる。その継母が病死する際に遺言に書き残した理不尽な内容に納得できず、幼い弟を連れて家を出る。江戸から明治にかけては50代で親が死去するケースも多く、遺された子供たちが路頭に迷うことも多かった。生きる上では茶屋奉公などしかなかった。筋立てが巧みで、禍福はあざなえる縄の如く読み手を誘う。所々の有名観光地案内のような記述…

  • 『恋の怨』 武田仰天子

    (こいのうらみ)1917年(大6)樋口隆文館刊。武田仰天子(ぎょうてんし)は明治から大正にかけての新聞小説家として人気があった。版元の広告には《武田仰天子君の作には、此の人独特の一種の妙味が有りますので、それで多数者に愛好せられるのでありますが・・・》とあるように、その軽妙な文体には親しみやすさがある。深窓の華族令嬢が遊び人の姦策によって出奔した末に遺児を残して病死する。一方でその男に棄てられた女はその遺児を引き取って深謀の罠を仕掛け、恋の復讐をしようとする。維新後の旧士族の困窮ぶりなど不安定な社会の中で生活を模索する人々の姿に興味が惹かれた。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵…

  • 『二人探偵吃驚箱』 多田省軒

    (ににんたんてい・びっくりばこ)1895年(明28)銀花堂刊。多田省軒は生没年不明だが、明治中期の人気作家の一人で、黎明期の探偵小説を多く書いた。地の文は漢文調だが、会話部分は口語になって、慣れれば簡潔で読みやすい。夜中に隅田川に流された木箱の中に男児の死体が見つかったことから、推定される捜査方針が二通りあるので、署長は部下の探偵(刑事)二人に各々の線から捜査するように指示する。一人は老練、他方は新鋭である。二人の性格や行動の違いを書き分けながら、予期せぬトリックを交えて捜査が進むのを読むのは素朴な楽しさがあった。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。表紙絵は茂木習古。口絵は歌川延重、…

  • 『真景累ヶ淵』 三遊亭円朝

    (しんけい・かさねがふち)1888年(明21)井上勝五郎刊。三遊亭円朝の代表作の一つ。明治の早い時期から口演速記本を出しており、古風な漢文調から現代的な言文一致体に切り替わるお手本となった。古くから「怪談累ヶ淵」の話はあったのだが、円朝はその「後日談」としてこの作品を21歳で作っていた。これは怪談ではなく因縁話になっていると思う。冒頭に彼が話しているように、幽霊が出たと思うのはその人間の神経のせいだとして、当て字の「真景」を用いた。累ヶ淵は下総国羽生村、現在の茨城県常総市羽生町の鬼怒川辺にある。付近に法蔵寺もある。江戸の根津に住む高利貸の按摩の督促に腹を立てた御家人が彼を斬り殺した事から、悪因…

  • 『清水定吉:探偵実話』 無名氏(高谷為之)

    1893年(明26)金松堂刊。清水定吉は幕末から明治前期にかけて実在した凶悪なピストル強盗殺人犯だった。五十歳で逮捕されるまで捜査の網を巧みに潜り抜け、大胆な犯行を繰り返した。警察内部に取り入って情報を得るほか、遊興にふけることをせず、単独犯行を貫いた。また明治の警察組織でお粗末にも捜査情報の共有が行われなかったのが悔やまれる。作者の前職は警察官だったので、事件の細部にわたる丁寧な考証がなされている。長篇の探偵実話として、自身を含め大部分を匿名にして書き連ね、都新聞に69回連載し好評だった。当時第一級のノンフィクション作品だったと言えるだろう。☆☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。木…

  • 『流の白滝:毒殺事件』 橘屋円喬

    (ながれのしらたき)1893年(明26)日吉堂刊。橘屋円喬(たちばなや・えんきょう)は明治の落語家で、三遊亭円朝の弟子にあたる。語り口の名人ぶりは円朝に比肩するほどだったというが、速記本としてはこの一作しかデジタル・コレクションには見当たらない。これも江戸時代の物語だが、円喬の創作かと思われる。中山道の熊谷付近の街道筋で、駕籠かきとのトラブルで置き去りになった旅人と駕籠の中に大金を忘れた女、毒薬の包みを茶店に忘れた医者の三つの出来事から商人の毒殺強奪事件が発生する。話が動くのはそれから三年後の江戸で、その当事者たちが互いに関わり合って思いがけない仇討ちとなる。話の骨子は講談風だが、場面場面で落…

  • 『女優奈々子の審判』 小林宗吉

    1939年(昭14)紫文閣刊。小林宗吉(そうきち)は本来劇作家だったが、ほとんど唯一のミステリー短編集を読むことができた。表題作「女優奈々子の審判」は深夜の一軒家で起きた殺人事件で犯人に問われた奈々子の裁判をめぐる攻防。他の2作(「黒表の処女」「殺人嫌疑の花嫁」)も含め、トリックこそ幼稚だが、演劇風の軽妙なセリフのやり取りは昭和初期のレトロな時代風潮を感じさせる。「上海の女間諜」はすでに昭和12年から始まっていた日中戦争での女スパイの活躍と死を描く。軍部が中国側に難癖をつけて戦争の泥沼に入って行った過去の事実は反省すべきことだが、決して消し去れないのだと痛感する。☆☆ 国会図書館デジタル・コレ…

  • 『怪談山王之古猫』 松林伯知

    1902年(明35)三新堂刊。泥棒伯圓の弟子の一人、松林伯知(はくち)の講談筆記本。山王とは現在の都心にある山王日枝神社で、江戸時代は氏神として祀られていた。付近に越後村上藩の内藤氏の屋敷があった。ある時この地で怪猫に惨殺される事件が起き、家老の御曹司島田與三郎がそれを退治して名を上げた。奥女中のお千代は美人ながらも思いを募らせ、恋文を下男に託すが、それが不良侍の長田又十郎の手中に落ち、なりすましの文通が始まる。これだけでも十分な騒動話になるが、怪猫の復讐心が内藤の家来たちの上に襲いかかる。猫嫌いな副主人公でもある腹黒い又十郎の方がむしろ祟られるというのも可笑しい。後半は房総半島から三浦半島ま…

  • 『鬼が森』 堀内望天・訳

    1911年(明44)日曜世界社刊。タイトルと草履と和服の男の子の表紙絵から見て、日本の民話か何かだろうと思って読みだしたら、西洋の宗教訓話だった。作者はメアリー・シャーウッド(Mary Sherwood, 1775-1851) 19世紀英国の児童文学作家だった。年代的にはフランスの女流作家ジョルジュ・サンドに近い。原題は「小さな樵(きこり)と彼の犬シーザー」(The Little Woodman and his dog Caesar) である。明治期の翻訳物は原著者も書名も明記しない場合が多かったが、それは地名や人名を日本のものに置き換えて、場合によっては生活習慣も書き直すことが通例だったので…

  • 『憐なる母と娘』 橋本埋木庵

    1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。版元の広告文によると、日清戦争で戦死した軍人の遺された妻子の悲劇的実話に基づいているという。その美貌が仇となって、横恋慕された妻は義弟夫婦の姦策により金満家の男に凌辱される。明治の頃の小説には性愛に関する記述は省略されることが多いが、この事件に関しては言及するだけでも強い印象を与える。屈辱を受けた彼女は自刃する。後に残された娘は身売りされながらも、母の復讐を誓う。元上官として乃木大将一家の話が脇筋として入っているが、偉人扱い過ぎる当時の風潮を反映して描写はかえって平板になっている。作者埋木庵(うもれぎあん)が得意とする悪巧みの人物描写は、以前にも読んだ…

  • 『黒装束:大正奇談』 大原天眠

    1913年(大2)春江堂刊。文字通り「竜頭蛇尾」の作品だった。作者大原天眠の名前はこれ一作にしか残っていない。冒頭の東京の奥多摩の山中を迷った若い狩猟家と鄙には稀な謎の美女との出会いなどは伝奇的な香気があった。女は潜伏中の強盗団の一味だった。明治末期における青梅、入間周辺の風物や鉄道や道路事情も興味深かった。しかしながら物語の中心人物が次々に転移していく点と、その原因も結果も説明不足で、なぜそうなったのかが無くてはお手上げになる。ただし挫折せずに読み通せただけ、どこかに味わいがあったのだと思う。やはり土地勘に共感できたせいかもしれない。☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は川北霞峰。…

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