2023年3月
祝祭奇妙な音程の歌が煉瓦造りの城館に響き厳かに着飾った小人たちは靴を踏み鳴らして敬礼する狂った時計はばらばらに鐘を鳴らし詠み上げられる詩は意味のない繰り返し壁に塗られた黄ばんだ漆喰には不気味な古代文字が浮かび上がる背後に拡がる石だらけの谷を六つの目と角を持つ巨大な疫神が歩いていく手足や顔が欠けた眷属たちを引き連れて黒い痘痕だらけの太陽は中天に留まって動かない豊かに腐乱した祭りは何十年も続く第990日祝祭
岩岩には長い月日の記憶が染み込んでいる人間が来る以前の日々も陽に照らされるとその記憶は蒸気のようにあたりに発散するそこは異秩序の空間になる岩にもたれて転た寝をすればその濃厚な時に夢で触れられるかもしれないいや油断をすると取り込まれ永遠に閉じこめられてしまうかも私は少し恐くなって岩に背を向ける第989日岩
胃カメラ硬い管が喉を通って侵入しピンクの粘体を映し出していくこんなものを私は抱えているこんなものが私を支えている私は体を所有していない作ることも保つことも意のままに操ることもできないそれでもこのぬめぬめした管が毎日私を養ってくれていると思うとまあ戸惑いつつ感謝するしかない第988日胃カメラ
神秘主義神秘主義とは内的体験である内的体験は人に伝わることはないけれども内的体験の表現はなにがしかの人々を惹き付ける彼らは同じ内的体験を望むそして幾ばくかは似た相貌の内的体験をするそこにある種の共通言語が生まれる内的体験の表現がいくら存在論を語ってもそれは存在論ではない内的体験において外部は存在しない内的体験は真理の開示かもしれないあるいは単なる錯覚かもしれない曖昧なままその表現は世を漂う第987日神秘主義
あがきこうやって思索して言葉を紡いでいるのははたから見れば阿呆のようだろうけど私には一番しっくりくる時間意味はないかもしれないいいことですらないかもしれない自分でも至極楽しいわけではないでもいいのさ私はただ何かを見ようとしている何かを探しているそれは間違いないそれははっきりと現われないかもしれない虚しいあがきかもしれないそれでも私には必要なこと第986日あがき
枷唯物論者にも人格者はおり信仰者にも歪んだ人格はいる世界観と人格は関係ないのかうわべの飾り物に過ぎぬのか宗教が強い国々でも普通に犯罪は起こる宗教は枷にならぬのかもっと悪いはずのを救っているのかよき世界観がよき人間を作るなどという願いは虚しいのかよき世界観などないのか何が人を光に向かわせ闇に足を踏み入れさせるのか実はわれらはまったく知らない第985日枷
金色の風金色の風が吹いてくる時を超えた彼方から形象を無化し愛着を無化しもう思い出をまさぐるなその向こうにある香りをただ抱きしめろその震えだけを受け取れ思いも捨てこころも捨てその震えと一つになれそこにすべての答えがあるそここそが向かうべきところただそれに震えろ第984日金色の風
天使気高い天使たちは恐ろしい存在われらのつましい希望など事も無げに踏みにじるけれどわれらの恥ずかしい罪も彼らは問いただしなどしないかすかに憐れみの微笑を浮かべるだけ彼らの美とはわれらには理解できぬその光芒の前にわれらは崩壊するわれらは恐れて逃げ隠れるけれどそのまなざしと囁きは忍び寄るそしてわれらを至上の恍惚で充たす第983日天使
家族家族というのは私的領域なのか公的領域なのか公に対しては私になり私に対しては公になりのらりくらりと相を変える人は家族の前でも本当の裸になることはないけれども人は家族の宿命を自分のものとして担う昨今の世では家族は公になりつつある同意なしでは妻と性交できず子供を叩けば警察が介入する居心地よくもあり悪くもありその濃厚さと曖昧さは現代のひ弱な人間には重すぎるかもしれぬ第982日家族
均衡低い次元でも均衡は作られる問い掛けの矢は均衡の中に閉じ込められる均衡が破られるためには必要なのだ渇望や悲嘆がわれらには常に与えられる渇望や悲嘆が均衡に閉じないようにたとえ高次な次元にあっても渇望や悲嘆は消えることはないだろう常に均衡は破られねばならぬから第981日均衡
陰謀論何かに騙されているのかもしれないという疑惑は時折よぎるものだこの世は何者かが創った仮想世界という壮大な陰謀論もあるそこには一縷の真実があるわれらの魂は本源の世界を離れこの世の狭い秩序に押し込められているそしてこの世の秩序は大想念が創っている真の実在ではないものを実在と想わされているそれは確かだけれど皆それを納得してこの世に来ている陰謀論は仕掛ける者が得をするためにあるがこの仕掛けはわれら皆が得をするためにあるらしいまあ信じることは難しいけれど第980日陰謀論
聖なるもの聖なるものは存在する隔絶したものとして無益なものとしてこの世の秩序とは無縁なものとして個によって実現されつつ個を超えたものとして体験され創造される輝きは伝わり続ける個の存在を救わないが個の魂を救うものとして聖なるものは存在する第979日聖なるもの
禍福今日一日は幸福な日を過ごした楽しく街を歩き美味しいものを食べ夜には詩作に向かったそんな一日があってもいいけれども毎日はそうではないいくばくかの不幸な日と多くのどちらでもない日そうしたこととは全く別に織られていく何かがあるそれが真の私なのかもしれず織られていくものを明らかに見られれば幸も不幸も受け入れられるのだろうがそんな目を私はまだ持てない第978日禍福
七色の果実七つの色の果実がある青い実は禁欲赤い実は官能緑は慈愛黄は孤高金色は求道銀色は智慧そして紫は創造の光七色の果実を結ぶのだ一つの茎からそれが全人性への道この物質の世に魂として生きることその矛盾の豊かさを生きるのだ第977日七色の果実
悪夢濃厚な悪夢を見た後は頭が痺れて動かない混沌として臭気の強い灰色の靄が頭を充たして心の強い創造力が脳の乱脈回線と絡まり埋もれている情動を引っ張り出して奇矯な物語や情景を作り出すのか悪夢は警告なのかこういうことは考えなくていいということを教えているのかそれともどこかから侵入してくる悪魔の想念を受け取っているのか悪夢は恐いがその謎は面白い第976日悪夢
流行り流行りについていく気はないけれど流行りは時々勝手に入ってくる普通のものを買ったつもりが「お、流行りだね」などと言われるのは困る流行りは奇矯なもののほうがいいその時代の狂気を表わすようにそしてやがて過ぎ去っていき次の時代の人から奇異の目で見られるのがいいけれど時折流行りが生き残り後の時代に呪いを掛ける背広やネクタイもそんなものだろう最も害の大きかった流行りは「神の国の接近」だったかもしれないそれは二千年も呪いとなった第975日流行り
上昇上昇すればするほど人を支配できる世ではしばしばそう思われているけれど魂の世界では上昇すればするほど人に奉仕することになるというのが真実らしい先に進んだ者は後の者に手を差し伸べる魂の群全体が先に進むために私もいつの日か群の仲間に手を差し伸べられるのかそうであるならそれは大きな希望だ第974日上昇
2023年3月
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