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  • 第335日 蓮華の園

    蓮華の園風の代わりに音楽が流れ雨の代わりに香りが降り光は極彩色を含んで柔らかく夕べには潤いの鳥が安らぎを振り撒く寒さ暑さも飢えもなく性愛の相手を求める焦慮もない愚劣も野蛮もなく叡智を学んでいく喜びだけがあるそれが浄土神の国ではなく人間の天界われらはそこから来てそこに還るそこで何をするのかわれらは知らないただそこがあることを朧に感じるだけ第335日蓮華の園

  • 第334日 世は回る

    世は回る世の中は回っている小さなつっかえはあってもどうにかこうにか回っているこんなに複雑な仕組みなのに誰もが一所懸命回そうとしているさぼったり邪魔したりする奴はいてもそれでもこれだけ巨大な仕組みが回っているのは不思議だ集団の意志とか見えざる神の手とかそんなものがあるのか私はまるで貢献していないけれど回ってくれているのはありがたいけれどどう考えても不思議だ第334日世は回る

  • 第333日 家族

    家族「家族とセックスするっておかしくね?」古い友が唐突に言う。「ん?……まあそりゃな」「だからカミさんとするってのも変だろ?」女遊びばかりしている彼の自己弁護とはいえ少しばかり真実はある恋人が妻になり家族になるとむにゃむにゃ通い婚が最善というのは至極妥当な結論だろうが実践しようとする人は少ない首輪を外すと男はどこかへ行ってしまうからかまあそうかも第333日家族

  • 第332日 ふるさとの星

    ふるさとの星ふるさとの空に光っていた星はこの都会に光る星ではない人は同じものを見ることはできないそしてふるさとの空はもうない人はふるさとを追われるもの荒ら野を彷徨うもの星は心の内にしか輝かないこの空にあるのは星ではないふるさとにあった時人はまだ天と繋がっていたあの星の輝きはその印荒ら野の果てまで行ったらその向こうにあの星があるだろうかそれは儚い夢だろうか第332日ふるさとの星

  • 第331日 火

    火火は化学現象などではないそれは創造の聖霊の一つ炎はわれらが見る姿に過ぎぬ幼い頃私は焚き火で紙箱を燃やすのが好きだった母親は将来私が放火魔になるのではと恐れただろうあれは火の聖性への讃仰だった形あるものを消滅させていく大いなる力への火の破壊がなければ世は瓦礫でうずもれるわれらは火を取り戻さねばならぬ第331日火

  • 第330日 手繋ぎ

    手繋ぎ世と手を繋ぎ続けることが私にはできなかったそれが私の過ち手の力を保ち続けられずあるいは自ら振り放したくさんのものが遠ざかっていった私はあまりに弱かったのかこらえ性がなかったのかわがままで傲慢だったのか周りにはもう親しいものはないその索漠は私への罰しかし世を去るには好都合かもしれぬ第330日手繋ぎ

  • 第329日 遠い光

    遠い光時の岸辺に佇み私は遠い光を見る来し方も行く末もなくただ何者かの微笑みがそこにある無限の風景が金銀の織物を作り芳香となった思いは荘重な和音を奏でる星々の描く図形は一つの道を示し響き渡る波音の向こうには尖塔がそそり立つそれは一瞬の恩寵やがて荒波が私を巻き込むけれど光と微笑みは私の中に残り続けるそれは私の唯一の救い私の唯一の故郷私の唯一の存在理由第329日遠い光

  • 第328日 梅干し

    梅干しうむむこの梅干しというものは本当に食べ物なのだろうか漬け物でも香辛料でも薬でもないうむむ酸っぱい珍妙な顔をしてしゃぶっていた母親の顔を見て若い私は思ったこんなものを食べる日本人はおかしいと年をとって私も同じ顔をしてしゃぶっているおかずにはなるまいと思っても案外ご飯が食えるお結びやお茶漬けなら充分上等とはいえやっぱり変なものこんなものを食べる日本人はおかしいうむむ酸っぱい第328日梅干し

  • 第327日 笑い

    笑い笑いとは子供に接するために生まれたのだ変なことをしても怒らないよう楽しいことを共に楽しむよう傷つきやすい心というものを人は持って生まれるそれが血だらけになって死なぬよう笑いは暖かにくるみ込む笑いは人を安らがせる共に笑うと人は子供になる大人になっても笑いは暖かいけれど人は嘲笑という悪を発明した罵倒よりも恐ろしい凶器を何とたちの悪い生き物なのか第327日笑い

  • 第326日 夕暮れ

    夕暮れ夕暮れはいつも淋しく哀しいどんなに楽しい昼を過ごしてもどんなに胸躍る夜が待っていても夕暮れはいつも淋しく哀しい夕暮れはいつも淋しく哀しい小さい頃から老いた今まで共に過ごす人がいてもいなくても夕暮れはいつも淋しく哀しい昼の暮らしが好きだというのではないむしろ夜の夢想を好む人間なのに昼の終わりはなぜか淋しく哀しい遠い昔に何かあったのか生き物としての本性なのかこの淋しさの拠ってくるところはわからない第326日夕暮れ

  • 第325日 質量

    質量目の前に拡がる海を質量として感じられるか前の前に聳える富士を体積として感じられるか人間の目は薄っぺらく表面を捉える体積と重さが物質の本質であることを忘れている土木や農業をやらない限りはでっかいのだこの世は重たいのだこの世は人間なんてちっちゃなもの人間が増長して世を汚したとしても地球がくしゃみ一つすれば跡形もなくきれいな世に戻るさ第325日質量

  • 第324日 モーツァルト嫌い

    モーツァルト嫌いモーツァルトは嫌いだなんか馬鹿にされているようで「ほれほれ」みたいでベートーベンみたいに深刻ぶればいいというわけではないけどなんかなあ軽くてまあ美は好き嫌いがあるものイデアは万人に等しく映るわけではない流派とか系統とかがあるらしい音楽の秘密はまったくもって謎だでもモーツァルトはいかん第324日モーツァルト嫌い

  • 第323日 時空のほつれ

    時空のほつれ幼い頃の記憶に友達に連れられていつも遊んだ場所とは違う妙に心に残る景色を見た覚えがあるけれどもそれが誰でどこだったのかまったく思い出せない近くにそんな場所があったとも思えないあれは現実の出来事だったのだろうか幼い子供は時々この世とは少し違う世に行ったり来たりするのだろうかまたそんなことが起こってくれないだろうか誰かはっきりしない友達が来てこの世とは少し違う景色を見せてくれないだろうか第323日時空のほつれ

  • 第322日 紫

    紫紫は異常な色青へと傾いていく光の先になぜ赤がまた蘇るのかなぜ対極の色が混ざり合うのか紫の花はみな美しい藤、桔梗、竜胆、三ツ葉躑躅、松虫草どれもがこの世ならぬ風情を持っている天上の高貴さを漂わせている紫のさらに先の光紫外線を見ることができればもっと高貴な色になるのだろうかわれらの目は粗雑だけれどそれでも色彩は神秘を見せる天上の存在はどんな豊かな色を見ているのか第322日紫

  • 第321日 会いたい

    会いたい春の宵は切々と誰かに会いたくなるけれど一体誰に会いたいのかまったくわからないおそらく会いたいのはあの時のあの人物もうどこにもいない今いるあの人ではない人間関係をぼろぼろにしてきて今は切々と会いたい人はいない会ってくれる人もいないけれどもあの時出会っていた輝きは失われることはない悔恨と悲嘆の向こうに輝き続ける第321日会いたい

  • 第320日 十二人の賢者

    十二人の賢者世界をよく保つのは十二人の賢者だと古い宗教は言ったしかも彼らはその任にあることを誰にも知られてはならないとこの話には味わいがある真の賢者というのは十二人とは言わずともほんのわずか名もない街に名もなくいるのかもしれない彼らは目立った活動は何もしていないただその姿と思いだけでこの世界の崇高さを保ち続けている何人かそれに近い人に私は遭った気がする彼らの凛とした姿と言葉は私の心の奥に静かに光を放っている第320日十二人の賢者

  • 第319日 上機嫌

    上機嫌機嫌が良ければ儲かります機嫌が良ければ愛されますうまく生きるためには機嫌良くいることだ機嫌良くいられるのは天性なのか何という恩寵だろうもし後から努力して獲得したならその人は恐ろしく偉大だ鈍感不感というわけでもない傷つき悩みながらも機嫌良くいるそんな奇跡をどうやったらできるのか一隅を明るくするのだからそれは間違いなく人間の正道私のような仏頂面は地獄へ行くしかない第319日上機嫌

  • 第318日 縄文

    縄文縄文土器の目の眩むような紋様はどうやっても理解することができない意味があるのかないのかすらわからないそれを描いている心のリアリティも何万光年を隔てた宇宙人のようだ彼らはまったく違う波長で事物を見まったく違う感情を紡ぎまったく違う会話をしていたのだろうけれど彼らの血がわれらの中にもかすかに流れ彼らの作り上げた文明の残響が今の文明の奥底に響いている思い出せない誕生からの記憶が人を作っているようにわれらもわれらの文明も思い出せないものからできているその壮大な神秘を土器たちは突き付けてくる第318日縄文

  • 第317日 ふくらはぎ

    ふくらはぎ時折女のふくらはぎは思わず射精してしまうのではと感じるくらいなまめかしい絶妙な曲線を描いていたり二つに割れてほのかに膨らんでいたりそれは女性の美であると同時にケダモノの生命の華優美で繊細な女性の美とケダモノの生命とのアンバランスがこちらをそそるのだそっと撫で回したくなったりかぷっと噛み付きたくなったりふくらはぎは実に危険な存在である第317日ふくらはぎ

  • 第316日 通勤電車

    通勤電車三千人の憤懣を呑み込んで今日も電車は疾走する七百万の憤懣は街にぶちまけられあちこちで小さな火花を散らすそうだよこの都会は怒っているのだそれをスーツの下に隠しマナーと曖昧な笑顔で押さえているがマグマはいつ噴き出すかわからない恐ろしいマグマの上に薄い地表がある地割れが起こると大噴火が起こるくわばらくわばらだがもっと憂うべきは深いマグマが冷えていくことだ地表は固まって死んでいくだろう第316日通勤電車

  • 第315日 発心

    発心もう生まれ変わりたくないそう思うことが最初の発心だ叡智を得て輪廻の苦から脱けることが仏教の始源のテーゼなのだからそれが叶うかどうかはわからないだが願わなければ始まらない傲慢ではないそれが切実な願いであるならばそれは安楽への願いではない菩薩への道は厳しく菩薩の道はさらに厳しいだろうこの世の汚濁と桎梏を脱けて菩薩への道を歩みたいそれは至純な祈りではないか第315日発心

  • 第314日 風光り

    風光り五月の強烈な陽光に石楠花の赤や黄はどぎつく季節の変わり目に見る悪夢をどこか思い起こさせる他愛もない嫌悪感や不安に心はみっともなく揺れ動く暑さ寒さに体が疲れているのだと私は自分に言い聞かせてみる乱れ濁ることを定めと受け入れてもやはり心は乱れ濁る澄むのは生の終わりなのかけれども緑の風が私を清めるいのちはふくよかな匂いを立てるものだと私に微笑みかける第314日風光り

  • 第313日 山道

    山道何メートルか進んだだけで風景ががらりと変わるそんな道が山にはたくさんあるだから山歩きは楽しい一番苦しいのは取っ付きの登り何も見えない樹林の岩道をひたすら高度を上げていくその後の素晴らしい尾根歩きを楽しみに突然足下の眺望が開けたり隠された花畑に出くわしたりどこまでも続く山並みを見渡せたり人生もそうであってほしいけれどなかなかそうなりはしないしょっちゅう崖から落ちたりする第313日山道

  • 第312日 名付け

    名付け「これはこういう名前」そこで考えることが終わる。レッテルを貼ることで、解明したと思ってしまう小洒落た名前を付けるのが評論家のお仕事人々はそれを持て囃し解明したつもりになるいやいやそこで終わりじゃねえよその奥に手を突っ込まなきゃなどと言っても無意味名前をつけて安心すればオーケー解決することなぞ無理そうやって世は進んでいく第312日名付け

  • 第311日 装飾

    装飾棒を穴に入れるそれだけのことを人は何と限りなく装飾してきたことか隠しておいてちらりと見せたり代わりのものを作ったり装飾を無限に拡げたり何と厖大な労力が注ぎ込まれてきたかけれどその装飾もネタ切れかもう棒も穴も関係ない斜め上のものが生まれはびこり本丸から人がいなくなりさて世はどうなるかさあわかりませんね第311日装飾

  • 第310日 古参のエイリアン

    古参のエイリアン昆虫が死滅しつつあるこの地球はもうすぐとてつもない破局を迎えるのか虫なんかいなければいいという人間の願いは結局自分の首を絞めることになるのか自然な進化の帰結とはとても思えぬその精緻な仕組み虫は宇宙人が作ったのかもしれぬ生物たちを複雑に発展させるためにけれど昆虫は様々な害をもたらすそしてなぜか人間にとっては気持ち悪い何か一筋縄ではいかない意図がそこにはあるしかしわれらは悔い改めて虫を崇めるほかはないのかもしれない食糧危機を昆虫食で乗り越えるためにも第310日古参のエイリアン

  • 第309日 五日市にて

    五日市にて神社の脇に聳える大杉は何を見てきたのか優しく微笑んでいるのかつまらぬと渋い顔をしているのか石段脇の民家の庭で老人はデッキチェアにすわり微笑んでいるのか渋い顔をしているのか足下の渓谷は影に沈み流れる水の音もなく魚を釣る人の影もない鳶がゆっくりと輪を描くこの風景の中で彼と私が腹を減らしているらしい第309日五日市にて

  • 第308日 藤

    藤藤の花の色は藤の花の色でしかない色この花の色であるものは他になく何ものもこの花の色ではない人生の夕暮れになって初めてそのことが心に響いた幼い頃遊んでいた公園にいつもその美はあったのにこの清楚で繊細な色の花がこの国固有の自然なものであるとは何とありがたく神秘的であることかいにしえから日本人は静かにこの花を愛してきたその静かさもこの花に似つかわしい第308日藤

  • 第307日 端午

    端午端午の節句は取り立てて遊びもないのになぜか深く心に残って今も五月になると何かがうずく鯉のぼりや五月人形は変なものだし菖蒲湯の香りもとんでもない味噌餡柏餅に至っては何をか言わんやだがそれらの奇矯さが趣を作る祭りを奇矯なものにするのはいにしえ人の知恵なのだろうその時と季節を強く刻むために澄んだ空とかぐわしい風にいにしえ人の遠い想いが忍び込むそして祭りは時の幻となる第307日端午

  • 第306日 讃歌

    讃歌この愛は天のひとしずく光の中に幾万の情景を籠めて悠久の時を旅して降ってくる無限に拡がれ汚れなく万象を潤し澄んだ輝きを放てそして美しい歌を歌え私のためでなく人のためでもなくただ流れ降る光の渦として万象は移ろい消えていってもこの讃歌は響き続けるそしてやがて天へ還っていく第306日讃歌

  • 第305日 商売

    商売儲かりもせず成長もしないそんな商売はくそだと誰もが思いがちだがそれは毒されているんだよごく最近の神話にねアメリカンドリームかなハイパー資本主義かな日々の仕事があってそれを求めている人がいるそれだけでも大したことだ儲けとか拡大とかに熱狂するのはごく一部の人だけでいい世には別の夢がたくさんあるさ第305日商売

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