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  • 第274日 墓碑銘

    墓碑銘一片の詩句を得るために七十年の悪戦を戦うそれでいいではないか悪戦の果てには必ず一片の詩句があるそれは「我見出せり」かもしれないし「主よ憐れみ給え」かもしれない「帰りなんいざ」でもいい私は私なりの一片がほしいでも残念ながらもぞもぞとした繰り言か無言で終わるかもしれないいやそれならば叫びがいい端正に澄み透った叫びどこまでも渡っていくような第274日墓碑銘

  • 第273日 解放

    解放職を辞め三ヶ月したある日突然それはやってきた至福無上の解放感それは三日しか続かなかったけれどもその喜びは深く心に刻まれたつきまとう貧窮の不安を圧倒して私は「何もない」という幸福を味わったたぶん私はその数百倍の幸福を味わうことができるだろうこの肉体の死の後に私は死に憧れるその大いなる解放にその先に更なる難関があるにしても第273日解放

  • 第272日 春還らず

    春還らず静かな寺にはおみなごの姿もなくわが身の影を立てる柔らかな日差しもなく流れる花びらは心にさざ波を起こすこともなく麻痺した昼下がりの中を春はただ過ぎていくいにしえの歌々はくぐもって響きおぼろな光の絵はゆらめいて消え色のない伽藍が無表情に佇む私の耳に響くのは緩やかな崩壊の音もうあでやかな春は還って来ない第272日春還らず

  • 第271日 幻を見る人

    幻を見る人幻を見る人はただ通り過ぎていくいくばくかの混乱を後に残して人非人としてあるいは殉教者としてまた単なる世捨て人として彼らはさながら異星人彼らには幸不幸など意味がない地上での報酬も問題ではないただ幻といかに深く格闘するかだけだ世の人は当惑し時に石を投げるしかし彼らがいなければ地上は腐った沼となるだろう第271日幻を見る人

  • 第270日 育苗

    育苗何だかわからない種を植えて何だかわからない苗が育って何だかわからないけど風情のある木になるそんなものだろうおいしい実がなる木ができる時もあるけれどそういう木ばかりではない花の咲かない木もまた美しい森は多様だから森になる何だかわからないまま黙々と種を植えて苗を育てるのだそして創造主に返すのだ高慢も卑下もなくただ大切に育てたということを唯一の誇りとして第270日育苗

  • 第269日 極楽往生院

    極楽往生院三千院極楽往生院はヴァーチャル・シミュレーション死の際にお迎えが来る魂の光景を巧みに物質化している青く彫り込まれた天井から弥陀と菩薩が降りてくる勢至菩薩の手には私のための蓮華座があり観音菩薩は私に合掌してくれる弥陀の顔は澄み透って気高く内壁には無数の仏菩薩が蝋燭の光に揺らめいて踊る声明の響きが渦を巻き香煙が身に染み通る無上の喜びに満ちた旅立ちがそこにある第269日極楽往生院

  • 第268日 オールトの雲から

    オールトの雲からもしかするとこの宇宙は太陽系だけなのかもしれないその向こうは書き割り人に謎を掛けるための作り物オールトの雲はこの宇宙の果て神々の住み家そこからの指令がすべてを動かしているビッグバンもブラックホールも銀河団も超新星も神々の囁く謎に満ちた詩全宇宙の八五パーセントを占めるダークマターとは神々の体なのかもしれぬ第268日オールトの雲から

  • 第267日 就眠至福

    就眠至福さあ眠ろう柔らかで暖かい私の寝床で何という至福毎晩私はそれを味わっているすぐ眠ってしまうのはもったいない睡魔に引きずられながら心地よさを味わおうそして最後は諦めて意識を失おう眠りは嬉しいご褒美だ私は私から解放される何とありがたいことか起きる時はつらいけれどそれは後払いの請求書今は忘れて溶けていこう第267日就眠至福

  • 第266日 真実

    真実われらが掴んだ真実の欠片をいくらつなぎ合わせても真実はその向こうに逃げていくよりたくさんの疑問を撒き散らして真実はわからないそれでいい苛立たしく淋しいがそれでいい生まれ変わり死に変わり長い長い旅の果てにその光を見ることがあるのだろうか憧れ続けるしかない道に迷い途方にくれながらかすかに望むしかない第266日真実

  • 第265日 夜更かし

    夜更かし夜更かしは楽しい祝祭だ様々な思いが頭の中を駈け巡る私ははるか古代まで遡航し地の果てまで旅をする祝祭の後には地獄が待っている寝不足の朝は呪いの言葉の乱舞昨夜の輝きはどこへやら重い足と胃を抱えて私は駅へ向かう夜更かしをやめれば人生は楽になるだろうけれどそんな日々はつまらない人生の耐え難さを軽くしてくれるけれど同時に耐え難さを増してくれるそれが夜更かしのパラドックス第265日夜更かし

  • 第264日 雨の休日

    雨の休日雨の休日は優しいどこかへ行かねばという圧力もなくほの暗い室内に時の神は腰を降ろし一服する私もコーヒーを飲み煙草を吸う束の間の平和だ穏やかな退屈で日々を埋められたら世はもっと平和で幸福になるだろうなぜか神様はそれを許さないが私は神様に逆らってもっと退屈を楽しむようになろうそれができたら神様より偉くなるのかも第264日雨の休日

  • 第263日 内なる階段

    内なる階段心の中には階段がある降りていくことも昇っていくこともできるだから心は自由を持ち創造力を持つ降りていく時そのほの暗さは甘く苦い昇っていく時その明るさはひりひりと痛い深い闇の豊かさと高い光の清冽さを心はともに必要とする降りては昇り昇っては降りる心はそうやって育っていく第263日内なる階段

  • 第262日 嗅覚

    嗅覚においというものほど大切でかつ厄介なものはないとてつもなく原始的でそしてとてつもなく繊細で臭いものがなければ幸せだが美味しいという感覚も消え失せる愛しい人の切ない香りも嗅げないなら人生の喜びも半減する記憶と絡まり愛と絡まりそして醜悪とも手を結ぶこの不思議な感覚機能をわれらは四苦八苦して操るそれは恩寵なのか悲劇なのか第262日嗅覚

  • 第261日 舟歌

    舟歌時は旅という天からの贈り物われらは幾億もの景色を眺めるのだこの巨大な大河にゆったりと棹さしていこう焦る必要はない焦ってはいけないわれらは自身を生きるけれどそれを取り込みながら大河は流れ景色は移ろうはるか未来に旅は終わる大河は消えわれらは岸辺に着く時の外にあって時を我がものにする第261日舟歌

  • 第260日 よしよしと

    よしよしと雲が私に向かって拡がっている頭を撫でてくれるようにあまりにも大きな手に私ははにかむ陽も雲も山も水もごく時たまだけれど私をよしよしと撫でてくれるそのおかげで私は生きていられるたぶんそうなのだ生き物は皆苦しくて倒れそうになりながら何かに撫でられて命を取り戻すふと居合わせた人の微笑みもまた私を撫でて生かしてくれるその温かさが私を生に繋ぎ止める第260日よしよしと

  • 第259日 堪泣

    堪泣泣き出したくなるのを必死にこらえている小さな子供が私の中にいるふとそんな気がするどこかの糸をぱちりと切ればたちまち大声で喚き立るだろう何と叫ぶのか「帰りたいよ」「もう助けて」か人は誰もそんな悲痛な叫びを胸の中に押さえ込んでいないだろうかその叫びが解き放たれる時がやがて来るのだろうかそれは歓喜の瞬間でもあるかもしれない第259日堪泣

  • 第258日 寿命

    寿命いつまで生きるつもりなのさ何の病気で死ぬつもりなのさ一分一秒でも長く生きて何をするつもりなのさ何が体にいいと聞くと色めき立って店に買いに行き何が体に悪いと聞くとパニックになって遠ざける右往左往しても仕方がないよこんなことを言うと激怒されるけど寿命は神様が決めるもの大事なのは皿を大きくすることじゃない何を盛るかということだ量ではなく美しさを求めて第258日寿命

  • 第257日 ぼろぼろベルト

    ぼろぼろベルトベルトはかわいそうに私の見栄と肉体の実態の間でいつもぼろぼろになる腹がたるんで出っ張るのは獣としても人間としても断じて失格であるが腹筋運動すらしないこの堕落貫禄が出るなどというのは惨めな誤魔化し悪魔の囁きええいいっそこの腹を掻っ切ってだらしなく溜まった脂肪を抉り出したいううむ痛そうだからやめておこう第257日ぼろぼろベルト

  • 第256日 闇部

    闇部「女なんていいもんじゃないよ」と奥様はどす黒い微笑でおっしゃったぞっとしてかつ妙に心にこたえたとはいえ男としては女の体は好きであるしたまにいる温かい女らしい女も素晴らしいそれは致し方ないいいものではない女というのは何に起因するのか魂は肉体に歪められてしまうのかいやいやわかりませんわかってはいけませんきっとそんなものはないのでしょう第256日闇部

  • 第255日 熱浄

    熱浄歳を取って風邪を引かなくなったそれはありがたいけれども丈夫になったのではなく衰えたのだ風邪は掃除だ熱を出して悪いものを焼き体に鞭を打って奮い立たせるそれで健康になる風邪を引かなくなって悪いものがどんどん溜まっていくやがて何かが爆発するだろうしかしそれでいいのだ自浄不能となり崩壊するそれが老いた体の定めなのだ第255日熱浄

  • 第254日 おっぱい

    おっぱい女性たちは顔をしかめるかもしれないがやはりおっぱいの魅力は抗いがたい触りたいし顔をうずめたい乳房は尻を模すことで男を刺激するよう進化したそう生物学者は言うまあ始まりはそうかもしれないしかし形状の絶妙さも手触り肌触りもお尻のイミテーションをはるかに超えているその誇らしげなたたずまいもやはり柔らかさなのだ女性性の至上の魅力は柔らかさなのだ所有者たちがどう思おうともそれは否定できない第254日おっぱい

  • 第253日 宇宙線

    宇宙線見えない光が差し抜いているすべてをそしてわれらの体をはるか天空の彼方からこうしている一分一秒の間にも逃れられる場所などないいつも晒されているのだこの大宇宙の呼吸にそれは地球のすべてを密かに動かすそれが怒りの炎となったらわれらは瞬時のうちにひねり潰される築き上げた文明も瞬く間に崩壊するそうなっていないのはそれが慈愛の光だからだ存在の肯定と保障だからだ第253日宇宙線

  • 第252日 娯楽

    娯楽「盆よ盆よと春から待ちょて盆が過ぎたら何ょ待ちょる」(新野盆唄)昔の人の暮らしは楽しみがなかったのか鬱々と生きていたのだろうか今の世は楽しみに溢れているテレビからゲームから酒場から旅から生きることは楽しみだらけだいいことか悪いことかは知らない楽しむために生きるのではないなどとしたり顔で言うつもりもないたくさんの娯楽に囲まれて生きることの耐え難さは果して軽くなったのだろうか第252日娯楽

  • 第251日 引っ越し

    引っ越し引っ越しは楽しいどんな街だろうかどんな人々と出会うだろうかそこは新たな私の居場所になるだろうか迷子になりかけたり隠れた宝石のような店を見つけたり突然茫洋とした風景が現われたりそうやって土地の名前になじんでいくできれば二年に一度くらい引っ越したいしょっちゅう家財道具をまとめていれば使いもしないものが溜まることもないでも一番いい引っ越しはこっちからあっちへ引っ越すことそれは引っ越しではなく帰郷だ第251日引っ越し

  • 第250日 毒

    毒あれこれ考えるそれは仕方がない考えるのは人間の特権考えなければ魂は育たない考えてもどうにもならずぐるぐると堂々巡りをするそれもまた仕方がないそれは何かの糧になるけれどもあれこれ考える中で発生させた毒を全身に回してはいけないそれは病気の巣になるだろう体を蝕み心を壊しやがて世を毒していくだろう第250日毒

  • 第249日 エルゴ・スム

    エルゴ・スム存在しないものが自分は存在しないなどと言うというのは少しおかしくないか我とは何かと思っている我はあるコギトの単純な真理に戻るべきではないか人はあれこれいちゃもんをつけてそれを貶めようとするけれども我があるというのは謎だ荒波にすぐ呑まれてしまう危うい岩礁のようなものけれどこの現実と謎に人はすべての武器を捨てて向き合わなくてはならぬこの居心地の悪い恩寵に立ちつくさねばならぬ第249日エルゴ・スム

  • 第248日 燻香

    燻香ウイスキーのグラスを傾けて今日を振り返り明日を思い描く顔が渋くなるのも仕方がないそうではなく大創造の叡智に驚嘆し命の神秘に思いを馳せれば顔は渋いままでも心は深くなる塵のような我が身であるなら思いだけでも天翔らせようウイスキーの香りがあたりに拡がるように明日の朝は悲惨になってもこの解放の時間は貴い解放であるなら極限まで思いを解放しよう第248日燻香

  • 第247日 厭離穢土

    厭離穢土「厭離穢土」よくも真正面から言い切ったものだそしてそれを真正面から受け取った魂もおそらくたくさんいたに違いない悪政や飢饉のせいだと現代人はしたり顔で言うけれどこれはお釈迦様も言ったこと裕福な王子として生まれたあの天才が厭離穢土はとてつもなく巨大な思想だアジア宗教の底にはこれがあり西洋一神教はこれを頑なに拒否する「穢土」であることは真実だけれどなぜそれがあるのかどうやったら厭離できるのかは未だに謎だ第247日厭離穢土

  • 第246日 諍い

    諍いこのところ幾夜も続けて愛した女たちと諍いをする夢を見る私の心の中にはかすかな未練はあっても恨みつらみなどないはずなのにそのかすかな未練をも消し尽くせと心は自身に命じているのだろうかそれとも実は彼女たちへの押し殺している恨みがあるのかいやこれは心の悪ふざけ私を混乱させて喜ぶ悪魔何が面白いのか知らないが忘れるなと言っているのか忘れろと言っているのか私としてはその中間にしておこう第246日諍い

  • 第245日 笑み

    笑み人の笑みを糧にすればよかったそれを心の内に貯めていけば幸せでいられただろうに私はそれに背を向けた笑みから逃げ笑みを忘れた愚かなヒロイズムだったのか単なる勘違いだったのか戦士になることはできず旅人になることにも失敗し私はただ焼け野原に立ちつくすもう私は人の笑みを見ることもないそして笑うこともない私は独り佇む第245日笑み

  • 第244日 貧乏

    貧乏貧乏というのは三畳間でバレエを踊るようなものだあっちにつっかえこっちにぶつかりいろいろ意のままにならぬその日の飯に困るわけではないけれどおかずを追加する手を引っ込めたり景色を見に行くことを諦めたり多少は顔も渋くなる貧乏を逆手にとって清貧だなどといきってみても煩悩は簡単に消えないので困るしかし暴れて抑えがたい煩悩を物理的に踏みつぶしてくれるのだから貧乏には感謝しなくてはならぬ第244日貧乏

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