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  • 彷徨

    * ゆかこというなまえとともに棄て去りぬわが青春の疵痕なども 木馬飛ぶ夢も醒めたり寝汗拭く長男ゆえのさみしさらしさ 花曇る街の静寂を駈けてゆく 罪や穢れのただなかにゐて 葉桜を手にとり給えきみの手でいずれ儚いわれの陥穽 ひとびとが河の姿で流れゆく未明の街の御伽噺よ たが母も腐れゆくなり鉄条網わが指刺さぬ一瞬のこと 世の光りわれを照らせと祈るのみ遙かな野火に癒されながら 救いなど求むる心勝るとき一羽の小鳥撃ち落としたり なだらかな地平の上を泳ぐ雲 われもいつか飛ばん ひとの死のもっとも暗い場所を掘る わが一生を忘れるために 森深くありたりひとり岩に坐すいずれ迎える臨終に寄せ 過去よりも信ずるもの…

  • たとえば夢が

    たとえば夢が足にからみつく整形外科の窓まで 跳びあがるくらいの勢いでおれは此処にやって来た 緑色の玻璃が砕け散った場所までやって来た すべてがそれらしいだけのつくりもの すべてがうわべだけの世界から あなたの心臓を突き抜け やはりだれもおれを理解しないという点で なし崩しの和解を交わした 真昼の月が眩しすぎるからというだけの理由で扼殺された男 かれの亡霊とともにひとびとが駅を急ぐなか たったひとつきりのあこがれを喪った いまだにその疵が癒えないのはぜんぶあなたのせいだ だからおれは水鉄砲で武装して病院の物干しを跳躍するんだ いつだったか、あなたがおれを指して嗤ったことやなんか、 古い屈辱のなか…

  • 歌誌『帆 han』第2号、オンデマンド先行販売

    謹啓、皆様へ。 歌誌『帆 han』をオンデマンドにて先行販売します。下記のリンクから発注できます。よろしくお願いします。 www.seichoku.com 歌誌「帆(han)」第2号 2023春 ★★★★★大人になんか解ってたまるものか──序/中田満帆(2)★特集○鷹枕可歌集(4)★★★めぐって、めぐって、/奏多めぐみ(18)ロゴス・スペルマティコスの生活と意見/安西大樹(22)救いを(ハイティーン短歌)/如月(27)光りになれない/中田満帆(31)鉄条網/帛門臣昴(42)リスキリング/佐野勉(45)詠み人知らず/高代あさ(48)物化生地/きのゆきこまち(51)★★★短歌の流行、流行の短歌/花…

  • 歌集準備稿(1)

    ヘンリー・ミラー全集 * わがための墓はあらずや幼な子の両手にあふる桔梗あるのみ いつぽんの麦残されて荒れ野あり わが加害 わが反逆 暴力をわれに授けし父老いる 赦さるることなきわれの頭蓋よ 青すぎる御空のなかをからす飛ぶ 去りぬおもいを飛びぬけながら 葉桜もちかくなるかな道のうえ鳩の骸をふいに眺むる 平鰤の刺身を友にして夜は輝くばかり女のように ひだまりのなかで瞑目する晌たしらしさにだまされていて 蛇泳ぎ毒撒く父のうしろにてもっともやさしいときを失う 母性といえば空箱おもうくらいの朝が来てひとりのギター爪弾くばかり 父権といえばわれを受け入れるもの ただしく去勢されてゆくわれも 愛語なきまま…

  • 供物狩り

    * 倖せという字を棄てる野辺に真っ赤な花が咲くとき 咎人のわれが触れよとするまたたきに鳥の一羽が去ってしまった 河枯れる陽だまりありぬ牛またぐ子供のかずを数える真昼 なみだぐむ玉葱姫よかなしみは心のなかにいつもあるべし 幼さがほまれとなりぬ少年は今宵カレーの王子さま 夕月の朧気なるを見つむるにひとはみな煙になるべし わが腿の火傷の痕よいままさに発光せし夜半の厨 なつのべに帰るところもなきがまま寄る辺を探すわれのさみしさ ゲートにて凭るるわれよ黒人の肩にゆれたる水瓶を見る 意志のないふりをつづけて文鳥の一羽が檻を飛びだしてゆく 国もなくなまえもあらじ一群の学名なぞを考える夜 自由欲しからば死ね─…

  • 世界の終わり

    * 暗がりの道で迷子にならぬようきみの手を引く幽霊の声 時にまたひとり裁かれながら立つ図書館まえの駅の群衆 チョコレートバー淋しく齧る午后の陽よいまだなにも了解せず 秋の水光れるなかを走り来て憂いを語る少年もゐる ジューサーのなかの果肉が踊りだす夜勤終わりの朝の食卓 声ならばここにあるぞといいかえす夜の隧道終わりが見えず 塩を甞める いつかの海をおもいたる寂しさばかりわれに与うる ああ、いつも≪城よ 季節よ≫と口にする秋のさむさがなんだかやさしい 歯痛とて季節の比喩か朝時にわれを慰むわれの手のひら 猫すらもゐない公園 遊具らのかげが鋭く光るゆうぐれ ひとびとの顔うらがえる陽のなかでいまだだれか…

  • たとえばぼくが鰊だったら

    error code:721 コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が 夜に発光するさまを12インチのフィルムが捉える ものがみな逆さにされた室で、 朱い内装のなかで男が、 朱いベッドのうえで泣いてる こいつはだれなんだ? やがて男の妻がやつをなだめる 「どうしてなにもかも朱いんだ」ってやつはいう でも、それはやつの内奥の色でしかない なにも逆さになどなってはない 欲しいままに切り取られた裸体をばら撒き、 キャベツ男の頭をぶち抜く 弾丸のうえを街がよぎる 38口径の夢の址で コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が 踊り狂う芒原に今年も鰊が豊作だ そう聞かされたのは朝の4時 突然の電話、そして盗聴…

  • 自由論・その後

    * 倖せという字を棄てる野辺に真っ赤な花咲くとき 咎人のわれが触れよとするまたたきに鳥の一羽が去ってしまった 河枯れる陽だまりありぬ牛またぐ子供のかずを数える真昼 なみだぐむ玉葱姫よかなしみは心のなかにいつもあるべし 幼さがほまれとなりぬ少年は今宵カレーの王子さま 夕月の朧気なるを見つむるにひとはみな煙になるべし わが腿の火傷の痕よいままさに発光せし夜半の厨 なつのべに帰るところもなきがまま寄る辺を探すわれのさみしさ ゲートにて凭るるわれよ黒人の肩にゆれたる水瓶を見る 意志のないふりをつづけて文鳥の一羽が檻を飛びだしてゆく 国もなくなまえもあらじ一群の学名なぞを考える夜 自由欲しからば死ね──…

  • EP「kaze-bungaku」、ディスクユニオンにて発売中です。

    18日より、EP「kaze-bungaku」、ディスクユニオンにて発売中です。 diskunion.net

  • 特別お題「わたしの2022年・2023年にやりたいこと」

    特別お題「わたしの2022年・2023年にやりたいこと」 #わたしの2022年 大したこともできないまま過ぎてしまった。映画はほとんど観てない。本も読んでない。くだらない消費行動の累積。そして金欠。ベッドをようやく買い、ガットギターを買った。あとはなにもない。秋になってCD–Rを発注したものの、ジャケットの発注がうまくいかず、余計な予算と時間がかかってしまった。本来なら、年内にあたらしいアルバムをつくろうと考えていたものの、上手くいかず、けっきょくは旧譜の再プレスしかできなかった。新曲もいくつかつくってはみたが、未成熟なままで終わってしまった。 文学についてはようやく歌誌『帆』をだせた。2月か…

  • 2022年に観た映画&見逃した映画

    *観た映画篇 シン・エヴァンゲリオン(再見/Amazon prime) www.youtube.com やくざの横顔(Amazon prime) 林檎とポラロイド(シネ・リーブル神戸) www.youtube.com あしたのジョー(ダイニチ映画版/Amazon prime) www.youtube.com コントロール(再見/Amazon prime) www.youtube.com 逢いたくて逢いたくて(Amazon prime) www.youtube.com 青い街〈ブルータウン〉の狼(Amazon prime) その壁を砕け(Amazon prime) www.youtube.com…

  • 汽笛もしない昼

    www.youtube.com 08/01 金が入る。朝起きてコンビニで買い食い。寝る。三宮へ。各種支払い。役所へ。賃貸更新料の領収書を提出。収入申告。終わって一旦帰る。それから業務スーパーで買いだし。 08/02 歌誌が届く。発送のために郵便局へ。KOHYOでハマチの短冊を買う。酒で記憶はぼろぼろ。ハマチを買ったことすら忘れてた。 08/06 数日泥酔状態。なんとか配信を済ます。三浦氏は最近のおれの曲が気に入らないらしい。折坂よりもブッチャーズを参考にした曲のほうがいいという。 08/07 膵炎の症状がでたので1日寝る。 08/08 残ってたスプリットを呑む。けっきょく、そのまま連続飲酒。 …

  • だれもいなかった夏 [’22/jun-jul]

    www.youtube.com 06/01 酒を呑む。悪酔いして10時に起きる。まだ眠い。森寺内科へ。ジクロフェナクをボルタレンに変えてもらう。蕎麦を買う。帰って業務スーパーに電話。鶏胸肉と本格オートミールを取り置き。酎ハイを呑む。 06/02 記憶がない。カーテンを剥がしてしまった。 06/03 元町映画館でやってた広末涼子「20世紀ノスタルジア」を見逃す。ついでに幸地クリニックにもいけず。 06/04 配信をすっ飛ばして眠ってしまう。 06/05 最期のつもりで酒。日曜だというのにお願いして配信。 06/06 不快感。また酒。幸地クリニックへ。薬を倍、服薬。ひどい気分で眠る。ごみだし。 0…

  • 仮面ライダーBlack Sunと悪についての考察

    www.youtube.com * この作品について、もはや重箱の隅を突くようなマネはしたくないから、総論として書く。そういった些細なところを論じたいひとは5chを見ればいい。このドラマにはあまりに悪が氾濫している、というよりも悪しか描かれない。ほんとうなら正義を描くための特撮ヒーローが、正義もヒーローも描かずに、悪とスカムのような人間たちしか描写できず、多くのパートでは現実世界の政治や社会問題が稚拙な写し絵のごとく描かれるのみだ。 果たして差別と反差別カウンターのお騒ぎを特撮を通じて見たいという人間がいるのだろうか。あきらかに安倍晋三や、麻生太郎、辻元清美を模した人物たちの政治劇を本来ヒーロ…

  • 化石の時代

    * 愛されてゐしやとおもう牧羊の眼のひとついま裏返る 流されて種子の絶滅見送れば秋の色さえ透き通るかな 足許を漂う季節いつかまた看板ひとつ降ろされてゐる 涙とは海の暗喩か岩場にて蟹の死骸を見つむる午後よ さらばさらばよ石くれの硬さをおもうわれの郷愁 暗がりの道で迷子にならぬようきみの手を引く幽霊の声 時にまたひとり裁かれながら立つ図書館まえの駅の群衆 チョコレートバー淋しく齧る午后の陽よいまだなにも了解せず 秋の水光れるなかを走り来て憂いを語る少年もゐる ジューサーのなかの果肉が踊りだす夜勤終わりの朝の食卓 声ならばここにあるぞといいかえす夜の隧道終わりが見えず 塩を甞める いつかの海をおもい…

  • ビートルジュースの喇叭呑み

    www.youtube.com * おもえばあのときはひどく酔っていた。──もちろん、そんなことはいいわけにならない。──けれども道中ずっと呑んでいたのはたしかだった。──おれは過去から逃れようとする一匹の鼡でしかない。──そしてかの女は遠くの土地で、きっとおれを軽蔑しているだろうとおもった。──でも、──かの女こそがわが藝術のミューズであり、──ファム・ファタールなんだ。──かの女がおれを拒絶したからこそ、──おれは詩をより多く書いたし、曲も書けた。──もしも、──もしもかの女がおれに好意的で、「いい友達でいましょう」などといわれていたら、──おれはいまごろ骨抜きになってなにも書けなかったに…

  • フットサルの現象学

    www.youtube.com * バー・ロウライフでの勤務時間は17時から24時だった。バーテン見習いとして年末から雇われ、凄まじい勢いで客をさばいた。仕事はきつかったが、物流倉庫のきつさとはちがい、多くの刺激があった。12月は客で溢れかえった店のなかを右へ左へ歩き回った。年内業務が終わったその日、森夫はほかの店員たちとともに正月の予定について話した。 「むかしの同級生に会うんです」──しかし、かれと相手とはまったく交流がない。5年まえのクラス会で一緒だっただけだ。小学校では2年と6年、中学校では2年時におなじだったが、大したつながりもない。ただ一時、相手は森夫の描く漫画の読者だったし、家へ…

  • 母子手帳

    * ゆうぞらへかえすことばもなかりかな一羽の鳥を放ちたるなら 母が逝くそらのひろさももろくありとりかえしなどつかない彼方 そしてまだ父まだ生きぬトーチカの暗き焔はやがて尽きぬる 知らずにておけばよいとぞおいぬる父母の家庭も姉妹の過去も 涙とて母の欺瞞に過ぎぬらな子供時代を葬るのみ 花いちりんの憾みばかりがよいすがる父母の亡霊かならず語る 姉が買う夫婦家計のまずしさが棄てた本籍には白々 声濁る 母をも恋うるときもありわれの涙を嘲けらざれしも 在りし日の母のゆうがおゆれるまで盥のなかの水をば汚す *

  • 過去と現実

    www.youtube.com * おれはかの女の、懐かしい歌声を聴く。BONNIE PINKの「過去と現実」だ。冷たい声が室に閃く。ここは'22年のこの神戸で、おれは過去に書いたいくつかの掌篇小説に眼をやっていた。なにもかもがだめだった。きのうは無呼吸症に悩まされ、それが酒のせいで悪化しているということを知って禁酒していた。それと父から仕事の依頼があって、その先払いがきょう入るといって待った。そしてサンプリントという印刷屋に任せていた音楽ジャケットを見る、以前につくってもらったものとはちがい、裁断もされてもない、ひどい出来だった。それらのことで、ひどく打ちのめされ、禁酒をやぶって呑んでしまっ…

  • ヤク中との快談

    * 11月の半ば、イトウ青年が来た。ホワイトホースを手みやげに。かれは文藝同人をやってる。おれは硬いスツールを奨めた。ケツの痛くなるくらいのやつを。ほかに椅子がなかったからだ。おれたちはスコッチをロックで呑んだ。文藝について話す用意はあったものの、どうすればいいのかがわからなかった。まずはかれがこのあたりの地理についていうので、おれが解説した。やがて話はかれの外国旅行についてになった。 「LSDやったんですよ」 「なにか見えたんですか?」 「いいえ、なにも。たまに床の木目が顔に見えたりするだけで。あとは眠れなくなるだけの薬ですよ」その朝かれは「ベッドが硬くて眠れなかった」といってホテルのボーイ…

  • ペーパー・ナイフの冒険

    * 通学路で突然にいわれたんだ、あの学教のやつらから。理由なんかわからない。たぶん、おれそのもののが珍しかったんだろう。 おまえ、キッショいねん。 なんでおまえみたいのがおるねん? はよぅ、死んだらどないや? 幼稚園で一緒だった、佐々木がいった。おれはやつらにペン軸をむけた。 あぶないやろ。 ええがけんせぇんんと痛いめに遭うで。 「おお、遭わせろよ」とおれはいった。 そういっておれはじぶんを守った。そんな日が長くつづいた。だから、ペーパー・ナイフ、それがおれの冒険だった。おれの中学校は評判があたりからわるく、くそだめを潜った、悪所みたいなものだった。はじめは悪口をいわれ、ぶ厚い唇を揶揄されただ…

  • フットサルってそういうんだね

    * 二〇一七年の正月、おれはバー・ローハイトでバーテンの見習いをやってた。漏斗胸の施術直後だのに酒を呑みつづけてた。ちなみに、おれのなまえは楢崎森夫っていう。なまえの由来は教えたくもない。どうせ父がテキトーにつけたなまえに、母が乗っかっただけだ。父は森林がひどく好きだった、どうしたわけか、おれはひとを恋しがってる。もうずっと、生まれてからずっと他者を欲しがっては沈没させられてる。最初の沈没はきつかった。初恋だった女にきらわれて、文字通りおれ狂ってしまったからだ。かの女に手紙を送り、作品とやらを送り、終いにはかの女の実家へ押しかけてしまった。そうなるまえの初春、おれは浪越夫の家にいった。まったく…

  • ちょっとした、あまり品のないお願いなんだけれど

    * ゆうぞらもかえすことばもなかりかな 鳥の一羽を放したならば * 喰うものがなくて困っているんだ。あと鶏胸肉2kgにやまいも蕎麦が10食、卵が4つだ。どうしようもない。先月のような臨時収入もないから、まるで茹で蛙だ。金がないのに時間だけがあるという現実。おれはいったい、なぜここにいるのかがわからない。なんの才覚もなしに詩を書き、作業所にもいかずに悶々とした日を送っている。ばかげた情熱に魘された、ばかげたおれ。人生はつまらない。まるで好きでもない物語を延々と読まされているようなものだ。おなじところを行きつ戻りつして、いままさにおのれのふがいなさに震えている。 今月はエフェクターを買った。アント…

  • 息が止む

    www.youtube.com * ゆかしめよ時のはざまにそよぎつつ眠れぬ夜を戦う花と わがための夢にはあらじ秋口の河を流れる妬心の一語 男歌かぞえる指に陽が刺さるゆうぐれどきのあこがれのなか けだしひとはうつろいながらうろ叩くやがて来たりぬ夢の涯まで つかのまの休息ありて汗ぬぐう拳闘士らのまなざしやさし かつて見し馬のまなこがわれを追う幻灯機にて広がれ荒野 懐かしむあまたの過去が現実を襲い来るなり観衆妄想 ふたたびなどなくてひとりのみずからを憾みてやまずもてあますとき 帰るべき場所などあらず秋雨に文鳥一羽逃げてゆくなり まばたきが星の鋭き夜に冴えやがてひとつの物語となり 雛壇の亡霊 われのか…

  • ゆれる潮

    www.youtube.com * 刈りがたしおもいもありぬ秋来る颱風過ぎてすがしい原っぱ みずいろの兎が跳ねる 妬心とはまだ見ぬきみにたじろぐ時間 神さまがくれたクレヨンなどといいぼくを欺く女学生たち 波たゆるいつかの秋がぎらぎらと迫り来るなり男の内部 姿鏡あり浮かべてわれは宙を蹴る くれない坂の始まる場所で 道もなき芒原にて星を見る 消滅を待つ一族として 救いなどあらず流砂のかなしみをあつめて羨しともだちの指 午後線のびっくり水が暴れだす手鍋のなかのぼくの革命 おもわくもなくて秋草眺めやる地域猫すら不在の時間 野焼きするわれらが野辺に莇咲くなべてこの世の滅びを讃え 坂といえ降る足さえ確かさ…

  • 無題

    * 子羊のような贄欲す朝ならばわれを吊るせと叫ぶ兄たち 踏み切りに光りが滅ぶ列車来て遮られてしまうすべてが かつてまだ恋を知らないときにただもどりたいとはいえぬ残暑がつづく 会わずして十年経ちしいもうとの貌など忘るつかのまの夢 よるべなどなくてひとりのわれがゐる 高所恐怖のまったきふるえ なぜという声が欲しくて問いかける「詩」を書きためて歩く市街地 まぼろしになれば他人の夢のごとわれを偽る理由はあらず ふさわしき家庭もあらぬ男とは切断されし枝の断面 ほどかざる両の手ばかり秋の日の罰はきびしといえる幼少 垂木折る舞台の無人確かめてわが罪ありぬ本日休演 なにも知らぬふりをして語る九月の陽だまりに及…

  • 系図

    * 水匂う両手のなかの海さえも漣打ってやがて涸れゆく まだきみを怒らせてゐるぼくだから夏鈴のひとつ土に葬る もはや兄ですら弟ですらないぼくが父母ない街ひとつを愛す 生きるかぎりに於いてもはや交わさぬ契りを棄てる いまはもうだめにしてくれ丸太積むトラック一台縁石を蹴り 伝説の由来は姉の花鋏 月の光りに充ちてうらめし 光りすら失う真午くらがりに赤ん坊なる人形ひとつ 森深く罪なるものを抱えつつ望むは兎跳びする少女の群れ だれしもがぼくの分身いくつかの戸棚に過去を押し込みながら わがうちの野薔薇の棘を数えたる記録係の夜の褥よ 歌篇編む意思もあらずや献身を水に求める秋雨前線 ひとがみなわれをかすめて去っ…

  • 九月になったのに

    www.youtube.com * 来るたびにきみを眩しむ秋の陽の干割れた壁をひとり匿う 祖母死せり灸の痕を撫でながらわが指のさみしさおもう わらべらの声掻き消され一瞬の夏休みすらいまはむなしく 駅舎にてまぎれて叫ぶ男ありわれと重なる九月来たりて 上映せり夏の黄昏まざまざと復讐さるるわれの残像 真昼どき夢の頭上を飛ぶ姉のまぎれなくある二度の婚姻 いちまいの夏衣を脱げり初秋にてみなが脱皮を遂げるごとくに 〈季節よ 城よ〉ランボーの詩句をつぶやく燕麦を煮る 手のひらに雲をかざして立ちすくむ映画のなかにだれもいなくば 窓に立つレインコートよ秋霖の夜をさまようわれの模造か たったひとつの夜を阻まれうろ…

  • 9月はクラゲの海

    www.youtube.com www.youtube.com * もはや、9月である。最近、ほとんど本を読んでない。7月に買ったライオネル・ホワイト「気狂いピエロ」も数ページ捲っただけだ。というわけで今月は森山大道のフォトエッセイ、「遠野物語」しか買わなかった。本棚はいっぱいいっぱいだし、少しでも未読を減らしたい。積ん読はもううんざりだった。きのうは金が入って公共料金の支払いと、買いものに奔った。エレキギターを調整したし、ひさしぶりに弦も張った。弦は、ERNIE BALL 2221 REGULAR SLINKYだ。ほんとうはERNIE BALL 2251 CLASSIC R&R REGULA…

  • サヨナラ、8月、また来て9月

    www.youtube.com * 正直、今月は碌なもんじゃなかった。7月中、断酒と節約が上手くいっていたせいか、歌誌が上手くできたせいか、その反動で飲酒に奔り、浪費に奔ってしまったのだ。当然、離脱症状もひどかったし、原因不明の体調不良にも悩まされた。耳だの、喉だの、具合がわるく、全身がヒリヒリと痛んだこともあった。それに逆流性食道炎もある。上手くいってれば、いってるほどリバウンドは厳しい。そして気づくと、口座には金がないと来る。おれはいったい、なにをやっているのだろうと徒労にまみれる。ギターレッスンは金を払っているのに一回休みにしてしまった。なんのために学ぶ機会をつくったのかもわからない。情…

  • まちがい

    過去を走り去った自動車が、やがて現在へと至る道 それを眺めながら、ぼくは冬を待つ ぼくはかつて寂しかったようにいまも寂しい こんなにもあふれそうなおもいのなかで、 きみのいない街を始終徘徊してるのさ これまでの災禍、そして怒り なにもかもが一切、見えなくなるまでずっと たとえば火の論証がぼくの存在を照らしてくれるのなら文句はない たとえば水の弁証がぼくの善悪を論じ尽くしてくれるのなら満足だよ でも実際、なにがぼくの存在を照らすというのか? なにがぼくの善悪を論じてくれるというのか? もしかしたら、とんでもないまちがいを犯したのかも知れない 小さな売店でホットドッグを買い喰いしたとき、 落とした…

  • 夢のスケッチ〈Pt.01〉

    かれは衣装入れに手を突っ込んでなにかを探している それは去年のセータかも知れないし、水色の恋かも知れない 台所では子供たちがきのうの誕生会を回想している もしかしたら、ケーキが少なすぎたのかも知れないな そうかぼやいてなにかを探している でも、それは朝からずっと見つからない 見つからないのはかれ自身だった 自身を探しているんだ 自身を探しつづけているんだ だんだんと暗くなる室で、 鳥の声がするのはどうしてだろう? かれはすっかり憑かれたみたいに家をでてさ迷う 見えるものがすべて、いままで見えなかったみたいに感じられる 棲み家を失ったひとびとがまた、 業務スーパーでピケを張っている なまえを失っ…

  • もしかするといなくなったのはぼくか

    * 清らかな家政学科よ乙女らの制服少し汚れてゐたり 史を読むひとりがおりぬ図書館の尤も暗い廊下を走る 国燃ゆるニュース静かに流れたり受付台のうえの画面よ たゆたえば死すらもやさしみながみな健やかにさえおもえる夜は 送り火をかぞえる夜よ魂しいが焔のなかへ消えゆくかぎり いまさらにきみをおもうに両足のアーチ崩れが傷むさみしさ おもうほどに銭はなかりか工賃の明細ひとつ水に落としぬ 死者よりの手紙が来たりたそがれの匂いにまぎれいま封を切る 青ざめる森よ夏にはふさわしく失踪者など連れてなびかん 終わりとて永久の真午よ分度器のめもりをひとつあぐるのみかな 時として花が落ちたる地獄門潜る男のなかの沈黙 きみ…

  • 世界が夏になったとき

    * みずからの両手を捧ぐあえかなる南空のむこうガラスがわれる 夏跨ぐ句跨ぎ暑し森閑のなかを歩みて望む才覚 ひとがみな偉くおもえて室に立つ水一杯のコップを握る 彼方より星降る夜よバス停に天使のひとり堕落してゐる 夏しぐれ掴みそこねた手のひらを求めてありぬ裏窓人生 熱病魘されながら夢のなか玉蜀黍の皮を剥きたり だれぞやのマスク落ちたり疫病の時代の愛の餞であれ 天才の愛とはなんぞ光差す雲の切れめに虹が現る ひとつぶの葡萄の種子を拾いたる熱波に曝す少年の指 消えかかるおもいの幾多踏み切りに停止ボタンが設置されたり 寂滅の匂いに充ちて室にただ玉葱ひとつ転がしてゐる 来るべき明日など望む焼き林檎皿にもりつ…

  • 野焼き

    * そしてまた去りゆくひとりかたわらに野良すらおらず藪を抜けたり 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな 野焼きする意識の流れしたためる夏の化身の夜の呼び声 流れすら朝のまじない眼醒めては夢の小舟を放つ潮騒 あきらめてあやめの花を剪る夕べやがて夕立つわが誕生日なり 莇散る冥府の終わり夢がまだ生きてゐるという傍証もなく 夏の歌、雨に降られてなお激し子らの声する小規模保育 雨あがり水鉄砲を乱射する男の子なるむごたらしさよ 汎神の嘶く真午またいつかチーズケーキを食べたい気分 導なき詩をしたためて死を祀る詩人の午後に沈む白魚 浮子…

  • アマガミ

    * たそがれに語ることなしあしたには忘れてしまう空気の色も 波踊る 真午の月のおもかげがわずかに残る水のしぶきよ 砂のような日常つづく意味のない標語の幾多ならぶ路上よ 友なくば花を植わえというきみのまなこのなかにわれはあらずや 星の降る夜はありしや金色の糸巻き鳴れりねごとのごとく 雨を待つひと日は室のくらがりにわれは眠れる幼子のごと 経験は莇の色の万華鏡 回転しつつ未来を孕む プラスチック甘噛みをする子供らがやがて膨張する暑さ 代理人不在の朝よ訴状にて悪魔の業を援用したり いまさらに恋しくおもうひともなく模型飛行機片手に駈ける ときはるか光りのなかに滲むころわれまたひとり竈を点す 死はいまもわ…

  • 眼をひらいて祈るように

    * 願いには意味などなくて立ち止まる駐輪場が増設された 水運ぶ人夫のひとりすれちがう道路改修工事の真午 からす飛ぶみながちがった顔をして歩道橋にて立ちどまるなり 眼をひらく祈りの対義求めても高架下には車止めのみ アカシアの花のなかにて眠るとき人身事故の報せを聴けり 鰺を焼く竃の焔たぶんまだわりきれもせず過古をば憾む 夏蜜柑転がしながら暮れを待つ海岸線は終日無人 われを包む都市計画よ遠ざかる図書館・役所・解体現場 もしきみがぼくに呼吸をあわせれば実をつけるだろうゆれる木苺 手を濡らす澤の流れよ永遠を疑りながら愛をもわかつ 骨を断つクレーンの機動聴きながらあすあることをいまだ信ぜず 運ばるるラジオ…

  • 歌誌『帆(han)』、初号発行

    装丁 わたしくし中田満帆主宰による歌誌『帆』第一号。17人よる短歌と批評を収録。反時代的祝祭を彩る、あらたな短歌表現を結集した一冊。序文より《わたしがいま望むのは胸が痛くなるほどに詠み手の内奥が剥きだしになった歌、孤立を超えてゆく愉楽を伴った歌である。静寂を突き破って聴くならば、そんな歌こそが必要におもわれるからだ》。短歌について、おまえの流派をつくれといわれたのが、たしか2年まえ、そして歌誌をつくれといわれたのは今年の1月19日だった。そして5月の終わりから、さまざまなひとに声をかけ、協力を得、だすのが『帆』である。わたしには歌人との繋がりもまったくなく、ほとんど無計画に進めていったものの、…

  • 街色

    * 鶫すら遠ざかるなりかげはみな冷たい頬に聖痕残す 悲しけれ河を漂う夢にすら游びあらずや陽はかげりたる 寂しかれゆうべの鍋を眺めやる もしや失くせし望みあるかと ぼくを裁く砂漠地帯の官吏らがミートボールに洗礼をす うつし身の存り方おもう紅あずま土をかむってだれを待ちゐる 夜はブルーまたもブルーに染められて見えなくなったきみを愛する たれぞやの庭に葡萄の蔦あふれわれの家路へ走る夕立ち ささやかなはなむけならん祭り火のむこうにきみが立ってゐました 莇色のワンピースのみが残された物干し竿の淡いさみしさ 夏蝶の翅が街色して遙か頭上をかすむ一瞬の午後 涕らしきものあり ふいにあがれば沖が来てわれを掴んだ…

  • と、おもう。 

    * 懐かしきわが家の枇杷よ伐られつつ繁る青葉をいまだ忘れじ 子供らに示す麦穂の明るさはたとえば金の皮衣なり 遠ざかるおもかげばかり胸を掻く溢れんばかり漆の汁よ かなたなる蛮声いつか聞ゆるにわれの野性が眼醒めたりゆく きみがいい きみがきみであるならばかつてのわれに否と告げたり たとえむこうにきみがいなくともぼくは捧げる哀歌の焔 梨の木が育ちながら反逆す 夏の陽さえも惑う午後かな ゆくたびに街遠ざかる陽炎の周波数ではだれものが迷子 忘れじと誓ういとまもなきがまま去りぬなまえはみなきみなりきゆえ 辞もて抗うことも赦されず監房時代の月は尖りぬ いいわけもみなうるわしく聞えたる朝が来たりぬ梅雨も明けた…

  • 林檎のかけら

    * 七夕の光りもわずかちりぢりに地上の愛を手放すふたり ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを慰む だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りてわれ待つ ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに 天使降りる土地の主人をまざまざと照らす光臨あざけりやまず 車座の僧侶の群れが笑いだす回転式の御堂の昏さ 知ってゐたぼくがひとりでゐるわけを いまは果敢ない林檎のかけら 燕麦の滾る昼餉よ猫舌の最後のひとり匙を投げたり たしかさがわれらをわかつ夏の夜の燃ゆる竈に本を棄てたり 涕あれ たとえわずかな愛さえも頬を濡らさず終わるものかと ゆくたびにちがった顔がわれとなる やがて消えゆ…

  • 茱萸のおもいで

    * 招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔 草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ 告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を 熱帯魚泳ぐ夏の日水濁る 詞がすべて止まったときに かつてまだ幼き夏よ境内の石くれひとつおもみを増すか もどり道 藜の杖にひとが立ついまだ生まれぬだれかのために わくら葉の葉脈見つる束の間よ見失うかなわれの居場所も 麦を打つからくれないのコカ・コーラ流し込んでは休むひととき アカシアの花が咲いたよ告げに来る少年ひとりだれもが知らず 茱萸を喰う夏の暗転しりとりの最後の詞…

  • 青林檎

    * 水無月のつるべ落としを眺めやる一羽の鳥のような憐れみ 地の糧もなくて窮するひとりのみ草掻き分けて見知らぬ土地へ やがて知る花のなまえを葬ればとりわけ夜が明るくなりぬ ふりむきざまにきみをなぐさむ窓さえも光り失う午後の憧憬 たとえれば葡萄の果肉 季節とはわれを分割する鏡 星幾多あればわたしを解き放つ光りがありぬ幾億光年 魂しいの襞に隠れてさまざまの宇宙を駈ける銀の馬たち 文月に生まれしわれは夏ぎらい 水に還らぬおもいの幾多 見も知らぬ手紙のなかに空洞のうろがひろがる時雨のなかで 夏来たり雲に合図を送りたり少女のひとり片手をあぐる 文月に眠れる女眺めやる詞のすべて通り過ぐとき 詞書を書くよるべ…

  • 38回転/酔い醒めの朝

    * といわけで38になっちまった。もう逃げられない。歌誌の発刊は迫ってるし、今年中にはアルバムのレコーディングだってある。おれはとりあえず、なにかもを赦そうとおもった。過去のじぶんや、過去のものごとをぜんぶ。だって、もう取り返しがつかないし、悔やんだところでなにも帰って来ないのは承知だからだ。先月の15日から本格的に禁酒してる。いままでの酒に起因する問題をリスト化し、毎日読んでは認知の歪みを矯正してる。たとえば急性膵炎での入院は何回だとか、対人関係の破綻はカウント不能だとか、初恋のひとへのストーカー行為は3回だとか、そんなことを読みながらシアナマイドを嚥む。おれはもはや酒呑みやろうではないんだ…

  • 夢譚のなかで

    * 戦つづく骸のなかのおもいではピースサインのかく存るゆうべ 流れては消ゆるものこそ尊しと河辺の花をちぎって游ぶ いまさらにおもいでなどと呼ぶ刹那 冷凍庫に隠したるかな 彼方より流れ星かな一筋のなみだのようなきらめきありぬ ぼくがまだ生きてゐるという仮定法 用法知らず筆写するのみ ペン軸の軸が回転する夜半 大きな嘘を吐く鳥がゐる 酸模の茎を齧って少年の夏の真昼の憧憬おもう いくつかの片恋おもう夏がまた始まろうとするわが人生よ 舟を漕ぐ みどりいろなる水の上あらたな風がうろを敲いた 茄子肥ゆる 季節のときよ一瞬の光りのなかで遊ぶ子供ら 橘樹の萌ゆる木立よ 回答はあらずやわれが死ぬるときまで あや…

  • 大人になる予感

    www.youtube.com * 紫陽花暗し夏のまえぶれおれの手が汚れながらに握る花びら 声あればふりむくときよ顔がまたちがったように見えるゆうぐれ 光りあれ 取り残された路地裏でつぎの出会いを待つは朝どき しぐれゆく街の時間よまざまざとひとの内部を照らす雨粒 凋れゆく花の幾多もうつくしく午後の愁いをわずかに棄てる われらひとしくむなしかれひとつの愛も受けずにゐたり 流れとは時間の比喩よさみしさが海辺の砂を浚う愛しさ かすかなる木魂のなかに森がある 耳を澄まして斧に手をやる だれもいない遊園地にて遠ざかるおもいですべてわれにあらずや この夜がぼくのものではないならばいまやすべてを闇に捧げる …

  • あるいは主人の非在

    * 絶つ定め あるいは祝賀歌いたる余生のなかの雁の啼き声 身を放つ 窓の眺めが光りする、いつかのような死へのあこがれ きょうもまたさよならする両手 幽かなひとのかげまだ残る 車蜻蛉・アンドロメダよ銀河するおれの永遠曝す午後2時 時と時の硲よ いまだ知られざるわが誕生の日の陽だまり 青かびのチーズが臭う食卓にわれも知らない小人が登る 私性なき詩を書きためてやがて死ぬわれら世代の青き黎明 男めら鍬降り下ろす麦畑に一羽の希望墜落したり 永い夢ふいに眼醒めるときにおり片手で林檎握つてゐたり 少年のマントひらめく夜がまだ若い顔して帽子をかむる 夏がまたわれのうちなる戸を叩く季節の声を遮りながら もの憂げ…

  • 観衆妄想

    * この闇がぼくに赦せるものをみな運び揚げてはゆれる舟たち 夏来る山脈遠くかすみつつ胸のなかにて熟れる韜晦 さようなら彼方のひとよいつの日か花の匂いに眼醒めるときは 窓際の一羽のからす ほんとうは隠しごとなどしたくはなかった たわむれた過去のおもいで幾度も葡萄の房をひと掴みする うごかない禽獣 はるか祖国にて麦藁帽子が飛んでゆくなり だれもいない室でだれかが泣いているという通報があり 夜つづく 交通情報不通なり たったひとつの卵が割れた 老嬢のはだえのうえを蟻が這う 午後の憂愁暑さを連れる 死がとどくまでの時間を計るため、手巻き時計をいま巻いてゐる やがて死がわれを癒やすか やすらかな棺のなか…

  • 反様式

    * 記録図譜あるいは願い燃えあぐる荒れ野の果ての儚い夢よ 声聞ゆ学び舎寂し建築はあまねく過去を思い起さん 夏の日の真昼の幽霊 足許を照らす陽射しが猶も寂しく 対向する光りのなかをさまざまな過去が揺れてるわたしの現実 カラー喪失する夜半「シャッター・アンド・ラヴ」を眺むる 忘れられた領地を過ぐる斑鳩のかげに宿れる永久の罪 からす飛ぶ一瞬われに芽生え来る憎しみなどをきみに与うる 夢限りなくわれを戒める 主なき城の閂のごとく 声遠くする 小さな子供がどこかで飛んでゐる 昼も夜もぼくのおじさん眠らない 機械工場に犬は走れり 生霊の眠れる真昼 枇杷を切る 薪となるべき木々の一生 葡萄園歩く暦ようつくしく…

  • 公開日記は最終回です。 [May. /'22]

    www.youtube.com 05/01 2時、無理をして手淫。全然気分がよくない。薬が明らかに足りない。1日余分に嚥んだのは確かだが、それ以上だ。あきらめて床に就く。9時5分に起きる。どうにも耳の具合がよろしくない。またぶり返してしまった。きのう、すぐに眠ってればよかった。耳鳴りがする。朝餉。12時20分まで眠る。耳恢復せず。昼餉。午睡、16時35分まで眠る。図書館には行く気がしなかった。耳恢復せず、むしろひどくなった感じ。夕餉。喰って服薬。水薬がもうないというのが痛いところだ。終わって残った卵を茹でて喰った。そして横になる。少し眠った。21時まえに起きる。耳はひどくなるばかり。23時過ぎ…

  • すべての距離

    * われのみがひととはぐれて歩きだす初夏の光りの匂いのなかで ものがみな譬えのように動きだす暗喩溶けだす午前三時よ それまでがうそのようだとかの女がいうわれら互いに疑りながら つぎの人生あればたぶんきみを知らずに埋もれていたい うそばっかりで終わってしまう手紙よ燃えあぐる森林の彼方 手に触れる温度のようにやわらかくそして悲しい現象学よ モスコミュールへミントを添えるわずかに濡れた指先の痕 初夏の狐のように反抗の眼をしてやまずわれらの欺瞞 ひらかれし夏への扉 たとえれば洗濯台に忘れた剃刀 れもん色の車が走る なまぐさき鰤を一匹連れ去りながら バス停の女生徒ひとりふりかえる鳥の一羽がわれには見えず…

  • 風葬序説

    * 百日紅 花の惑いにゆれながら猶新しき種子を撒くのみ 桜桃の枝葉の匂い 復讐はもどり道など断じていらず まさにいま風に葬られてゆくさまを叙述するのみ 風葬序説 からっぽの世界のなかで愛されて虚しさなどを具象する夜 駅いずれ世界の果てに残されて地下道孤児の群れに流れる 水色のからすの一羽泣き誇るあしたの意味をいまだに知らず 海ひとつ心に持てばやすらぐといいて去りぬひとりの女 死の舞踏 たとえば百合の花を喰い頓死最中足がふるえる おれはまだ夜の雷光 一瞬のすべてにおもい砕かるるまま からたちの花がすべてだ ゆうこさん あなたの顔をおもいだす度 初恋に火事の匂いがする夜半 だれがぼくなど呼ぶものか…

  • 酸模の茎 

    * 連動する地獄の筵たなびいていままさに詠まれる夕べ やらず至らず試みずやがて溶けゆく意志たちのいま 水色の水充ちたればささやかな宴をともす深夜の酒席 心あらずも美しくあれ如雨露の水が降りそそぐごと 詩画集のなかに埋もれてゆく景色まだ一切を諦められず 地獄絵の鬼が泣いたらかくれんぼしてはいまだに見つからぬわれ 柿腐る 暮れる地の糧まぎれたる夕凪ばかりわれは眺むる 梨を切るわが手は昏しいつの日か告白以前の愛を語りぬ 全裸なる青年像が立ちすくむ兵庫県庁跡の夕やみ 願うものなきまま訪うひとりのみ五月の夜の二宮神社 なんだっていい 犬笛の聞えないところまでいきましょう だれをだれをだれを求めればいいの…

  • センチメンタル・ジャーニー 

    * わが春の死後を切なくみどりなす地平の匂いいま過ぎ去りぬ 感傷の色を数えるだれがまだぼくを信じているかとおもい 遠ざかるおもかげばかり道化師の化粧が落ちる春の終焉 夏の兆しあるいは死語のつらなりにわれが捧げる幾多の詩集 わがうちにそそり立つ木に名づけ得るなまえはありや雨季も終わりぬ 過去という他国のなかに埋もれる楡の若木よ疵を癒すな 映像論または詩論のなかにさえ居場所がなくて尿するのみ かつてまだ若き両手が望みたる麦畑の鳥または花束 マントのなかで眠る少年のような月がいっぱいの空跨ぐ 家という呪縛のなかで育ち来る枇杷の木さえももはや切られて 少年の日々を憾めば暗澹として洗面器に顔を埋める 犯…

  • スケッチブック

    * 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる 陽当たりにトマト罐ひとついまだ未来を信じる切なさ かげさえも遠ざかるなり週末の女のひとり翅をふるわす やわらかき胸してきみを訪ねゆく河面に夕陽落ちたる頃に ときとしてものみな遠くかすむかなみどりのなかの紫陽花なども 水走る犬の眸にさかる陽も物狂いするけものの躍動 約束の土地はあらずや夢の街だれも知らない町を求める この夜の上流だれもいない室いつかの唄をまだくりかえす *

  • 演技論

    * 同志不在なり萌えながら立つみどりたちやけに眩しく 地図上を旅する蟻よ思想なき犯意のなかのわれらが国家 期してまだ挑むことさえできぬまま遠くの海の潮騒やまず 鳥籠のかげが寂しくほぐれゆく夕暮れどきの落胆ばかり 監獄に夏蝶ひとつ放たれてわれは呼吸を重ねてゐたり 手のひらに乾く葡萄よ革命の響き至らずきょうも過ぎたり 不貞知らずままに老いゆく旧暦の四月が暮れゆく 望まれぬ枝を間引いて立ちあがるかれの微笑のゆえなど知らず 眠りなき男の心理伏射する姿勢のままで吊るされながら 地平あれど国あらず花いちりんのメソッド演技 にっぽん脱出できぬ五月雨色の国家の衰亡 けだもののように雨降るチリコンカン煮ゆる鍋は…

  • みな殺しの歌

    * おいで おいで 呼ぶたびに消ゆるもの 来るものを拒まず ウォーホルの原色 死を孕む街のうらがわの果実なりき 葡萄食む子供の眸潤むなりわれは孤立を少し癒すか 荼毘に付すわが青春の一切をたとえ赦すものあれど 吹きよどむかぜのむこうに一輪の町が咲いている夜半 水中花もやがて腐れるゆらめきのなかに消えゆくみずみずしさは 河に泣く山鳥一羽 われは伝説と呼びたくおもう 紫陽花の暗く咲く日よ雨がまだ道を歩いてゆく四時半 郷隠れするもみよりはとうになく騙されながら峠を降りる 棄てる父母おらず鰥夫の日が暮れるからっぽの鯖缶 死はいずこ 濡れ縁側に残された花一輪と鋏のかげ みどりなすひとの世のせつな枯れてゆく…

  • 暗黒祭りの準備

    * ことばなき骸の帰還御旗ふる男の腕がわずかに震るる もしやまだ花が咲いては切られゆくこの悔しみになまえを与う 水温む五月のみどり手配師がわれを慰む花もどきかな 真夜中の歯痛のなかで懐いだす星の彼方のささやきなどを 呼び声のなきままひとり残されて葱を切るのみ黄昏のビギン アカシアの雨が洗って去ってゆく不在のなかの花々たちを 霊媒もあらずや燕 亡き父の骨壺ひとつふと見失う 夫にも父にもなれず雨季を待つひと恋うるときも過ぎて アル中の真昼の頭蓋涸れてゆく預金残高はなし この夜のほとりに立ってかりそめのぼくが鳥となって飛ぶころ 陽ざかりの産着がゆれるベランダを見あぐる 偶然の失意 愛を 愛を ただ代…

  • 新刊告知

    これまでPDFの配布のみだった作品を販売します。 ぼくの雑記帖──未収録作品輯 www.seichoku.com 広告──そのほかの詩篇 www.seichoku.com ぼくの雑記帖: 未収録作品輯 作者:中田満帆 a missing person's press Amazon 広告: そのほかの詩篇 作者:中田満帆 a missing person's press Amazon Sideorder: selected poems 作者:中田満帆 a missing person's press Amazon 38wの紙片 [second edition] 作者:中田満帆 a missing…

  • 大人になんかわかってたまるものか [Apr. /’22]

    04/01 酒で大枚をはたいた。ずっとスプリットを呑んでた。まったくフルボトルの酒を買えば安く済むのに、わざわざコンビニで小壜を買うものだから、金が激烈に減ってしまった。 04/02 公共料金を払った。ギターナビの料金も払った。あきらかに金の使いすぎだ。あと¥25000しかない。呑み助の運命。 04/03 記憶がない。 04/04 金が降ろせなくなった。銀行に電話したものの、時間切れだった。もしかしたら北区までいかんくてはならないかも知れない。夜、ギターケースをごみに出した。 04/05 早くも¥23000しかない。満足に計算ができてない。酒を呑むんじゃなかった。ガットギターの修理代、カネコア…

  • 異端審問

    * 黄昏よなべものみなうつくしく斃れるばかり 長距離の選手たち みどりなるひびきをもってゆれる葉をちぎっては占うなにを あかときの列車のなかに押し込まる自殺志願のひとの横顔 花が咲いて 散るもの知らず故知らず ほらもうじき雨季来る 枯れる湖水 もはやもどらぬひとためバケツいっぱいぶちまけてゐる 母がまたぼくを葬るときが来る ベールの女立ちどまる度 暮れる町 稜線はるか翳むころ球体以前の地球を臨む 墓石や墓碑銘あらず名もあらず埋葬以前に打ち棄てられて 星屑よ燃え尽きて猶わがよすがとおもう眠れぬ夜は ジャケットの襟を立てたりこの夜がわれのみにあれ われのみにあれ かすかな疵が疼くときわれはかぜを求…

  • まくらことば

    * あからひく皮膚の乾きよ寂滅の夜が明くのを待つ五月 茜差すきみのおもざし見蕩れてはいずれわかれの兆しも見ゆる 秋津島やまとの国の没落をしずかに嗤う求人広告 朝霜の消るさま見つむきみがまだ大人になり切れない時分 葦田鶴の啼く声ばかり密室にボールがひとりバウンドしてる あぢむらのから騒ぎかなひとびとが転落したり天国の淵 みみずくのような一生反転する・ぼくが生きてゐるという仮定法 天雲のたどきも知らず運命の一語に滅ぶ線路工夫よ あまごろも陽射しのなかを青々としてからっぽの袖口 あまびこの音降るしぐれ天掟よいまわれのみを解き放て あをによし くにちの森を抜けて猶神の両手に捕まれてゐる いそのかみ 降…

  • 死はいずれ

    * かげを掘る 道はくれないおれたちはまだ見ぬ花の意味を憶える 眠れ 眠れ 子供ら眠れ 日盛りに夏の予感を遠く見ている プラタナス愛の兆しに醒めながらわがゆく道に立つは春雨 祖母の死よ 遠く眠れる骨壺にわが指紋見つかりき 葡萄の実が爆発する夜 ふいにわが腿のうらにて蜘蛛が這うかな 数え切れない亡霊とともにフランクル読みし夜 翳る土地 窪みのなかに立ちながら長い真昼と呼吸を合わす 中止せる労働争議 飯場には怒りのなかの諦めがある 楽団が砂漠に来るよ町はもう瓦礫のように散らばっている 供物なき墓を背中に去ってゆく少年たちの歌声ばかり オリーブの罐詰ひとつ残されてわれまたひとり孤立を癒す 悪しき血が…

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