演劇上演は舞台と観客によって成り立ちますが、その熱気が舞台ばかりではなく客席全体にも漲(みなぎ)っている時代がありました。1960年代から70年代にかけて、米ソ冷戦時代、その代理戦争のベトナム戦争、世界には反戦運動が沸き起こり、日本でも知識人を先頭に市民運動が展開され、学生たちは大学改革をスローガンに学園紛争を巻き起こしました。敗戦から20年。時代状況の困難さの中で、不確かな未来をどう開きどう生きるか。そうした共通意識が人々にあり、その模索の試みが演劇の世界にも現れました。ドイツからは『今日の世界は演劇によって再現できるか』(B.ブレヒト・千旦是也訳)をもとに叙事的演劇がもたらされ、フランスからはS.ベケットの代表作『ゴドーを待ちながら』をはじめとする不条理演劇が新劇界に衝撃を与え、それまでの<単一のプロ...舞台への情熱と創造の拠点(下)~俳優座劇場の閉鎖と文化の変質~