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狩場宅郎
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2019/06/16

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  • 母の呪文

    ハルヤマノカスミの自伝 6 異母兄のアキヤマノシタヒはわたしとの約束を守ることは無かった まあ、わたしとしてはそんな約束、どうでもいいことではあったのだが・・ しかし、あのアキヤマシタヒの態度には、腑に落ちないものがあった。 わたしは家に帰ると、母にその話をした すると母は、おおきなため息をついて 「我々は神の国に住んでいます。なので我々は神の国のしきたりによく従うべきなのです。なのに・・ アキヤマシタヒ殿が神の国のしきたりに従わず約束をたがえるというのは、人間社会に染まってしまったからなのだろうか・・・」 と言った。そして・・ 母上は、伊豆志河(いずしがわ)の中洲から一本の竹を取ってきた。 …

  • 兄のアキヤマシタヒは・・

    ハルヤマノカスミの自伝 5 わたしはイズシオトメを嫁にし、彼女はわたしの子を身ごもった。 そんな折、異母兄のアキヤマノシタヒと会う機会があった。 アキヤマシタヒは嫌味っぽく、わたしに話しかけてくる 「おう、ハルヤマ!久しぶりだな! どうだ、イズシオトメを嫁にすることができたか?! ははは、お前にそんなこと、できるわけないか!!」 わたしは平然と答えた 「いえ、兄上・・イズシオトメは今はわたしの妻ですよ。それにイズシオトメは今、懐妊してるんです。もちろん、わたしの子です」 それを聞くと、今まで余裕そうな兄の顔がみるみる青ざめていった・・引きつったような、恐ろしいことを聞いたような・・ まあ、もし…

  • 藤の花が咲いた!

    ハルヤマノカスミの自伝 4 わたしは半信半疑ながら、母上の言う通り、イズシオトメの屋敷に忍び込んだ。そして、藤の蔓でできた弓矢を厠の前にかけたのだ すると・・・どうだろう・・ 信じられないことが起こったのだ! 厠の前にかけた、藤の蔓で作った弓矢・・そこから鮮やかな藤の花が咲いたのだ・・・ いや、弓矢だけではない。わたしが着ていた、藤の蔓で編んだわたしの衣服にも、沓にも藤の花が見事に鮮やかに咲いていた。 どういうことだろうか・・その鮮やかな藤の花と立ち上る藤の香りに、わたしは頭がぼーっとなってしまった・・あたかもここは桃源郷か・・ そんな錯覚さえも覚えたほどだった・・ すると、そこにした物音で、…

  • 藤の弦の衣装

    ハルヤマノカスミの自伝 3 その日の夕食時、わたしは母上に、その日の異母兄アキヤマノシタヒとの出来事をつぶさに話した。 すると母上は、 「そうですか・・ならば母が一肌脱いでみましょう」 と言った 「母上・・いったい何をされるのですか?」 「ふふ・・それは明日の朝までのお楽しみ」 母上は意味あり気に笑うと、奥の部屋に入っていた。 そして、その翌朝・・・ 「これを着て、イズシオトメさまのもとに行きなさい。そうすれば、すべてはそなたの意のごとく、物事はうまく進んでいくでしょう」 母上から渡されたもの・・ それは、藤の蔓で編んだ上衣に袴、足袋、靴だった。 さらに藤の蔓の弓矢もあった。 母上は、一晩でこ…

  • イズシオトメに求婚

    ハルヤマノカスミの自伝 2 わたしの元に兄のアキヤマノシタヒが訪ねて来た アキヤノノシタヒは兄と入っても異母兄である。なのでそんなに親しい親交があるわけでもない。 「おう、ハルヤマ!久しぶりだな」 「あれ、兄上?どうなさったのですか、突然」 「ああ、お前、イズシオトメを知ってるな?」 「イズシオトメ様ですか?知らないわけがないでしょう。この地を開いたアメノヒボコ様の娘で、いろんな男が求婚してるが誰にも首を縦に振らないという・・・」 「そうそう、俺も今日、イズシオトメに結婚を申し込んで来たんだよ・・・」 「え・・・そうですか・・・それで結果は?」 「ハハハ!見事にダメだったよ!『わたしはあなたの…

  • ハルヤマカスミの自伝 プロローグ

    ハルヤマカスミの自伝 1 わたしの名はハルヤマカスミ。但馬の国で母と暮らしている。 また、異母兄にアキヤマノシタヒもいる。 ところで、わたしたちが暮らしている但馬には、イズシオトメという、とても美しい娘がいた。それもただの娘ではない。 新羅の国から来日し、今はこの但馬国を開拓して支配しているアメノヒボコの娘なのだ。 但馬国の若い男の間では、このイズシオトメを嫁にする男は誰だろうと、うわさで持ち切りだった。 そんな折・・・ 異母兄のアキヤマシタヒがわたしの元を訪ねてきたのだ・・ 次>>> ハルヤマカスミの自伝 目次 ☆アキヤマノシタヒとハルヤマノカスミ この話は古事記中巻の巻末に収録されています…

  • 難波に入れない・・

    アメノヒボコの自伝 8 わたしは瀬戸内海を西に進んでいった もう少しで難波だ・・・難波に行けば、妻に会えるかもしれない・・・ わたしは一縷の望みをもって船を進めていた しかし・・・ 難波の津に入ろうとしたとき、急に風が強くなってきた 海は大荒れとなり、難波に入ることができない! 舟はまるで木の葉のように、荒波に翻弄された! その時、わたしは、心に言いようのない畏怖を感じたのだった・・・ これは、ただの嵐ではない! 神の怒りが引き起こしているのだ・・・ああ、そこまでして日本の神は、わたしを妻に会わせないようにしたいのか・・ 船は難波に入ることはできず、流され、翻弄され、ようやく兵庫津に流れ着いた…

  • 難波へ・・・

    アメノヒボコの自伝 7 「・・・日本へ・・・行くぞ・・・」 わたしは海岸に出ると、船で海原に乗り出した。たった一人で・・・ 従者は誰もついてこなかった。みな、しりごみして、わたしの命令を聞かなくなってしまったのだ・・ 薄情な奴らがと思ったが、やむを得ない。誰も知らない未知の国に行くわけだし、日本の国というと神に守られた恐ろしい国だと伝えられていた。 そんな国に行くことを拒否されても、とがめだてはされないだろう・・ わたしは荒波を越えて、対馬・壱岐を経て、日本へ・・・そこは筑紫の那の津だった。わたしは妻の行方をそこで聞きまくった・・ そこでこんなうわさを聞いた 「新羅の国から日本の国に帰ってきた…

  • 日本へ・・・

    アメノヒボコの自伝 6 朝、目覚めると、そこに妻の姿はなかった・・・ わたしは焦った 妻はどこへ行ったのだ・・・ ‥そういえば・・ 昨日、妻は「祖国に帰ります」とか言ってたな・・・まさか・・・ 私はすぐに従者に命じて、妻を探させた。すぐに報告が上がってきた。しかし、その結果は、わたしを絶望させた・・・ 「お妃さまは、海辺の漁師から小舟を調達し、海原に出ていったということです」 従者からの報告が上がってきた・・・妻は一人で海に・・いったい、妻が言ってた、祖国とはどこなのだ・・・ 「なに、海に・・・それで妻は、どこに行ったのだ!?」 「はい、漁師によれば、日本に向かうとお妃さまは申されていたそうで…

  • 女が消えた!?

    アメノヒボコの自伝 5 赤い玉は娘の姿となり、わたしの妻となった。 娘は素晴らしい妃となった。わたしによく仕え、一切のわがままなど言わず、わたしの言うことは何でも聞いてくれたのだ ・・・しかし・・・ そんな妻と一緒にいるうちに、わたしの心には慢心が生じてしまっていたのだ・・・今考えると、なんであんなことをしたのだろう・・ わたしは従順な妻を前に、なにか些細な気に入らないことがあると、妻に当たるようになってしまった。 酒を飲んで酔っては罵詈雑言を浴びせ・・時には手が出ることもあった・・ ・・それは日々、激しくなっていったのだ・・・私の心の中には、何をしても妻は許してくれる・・いや、それを妻は望ん…

  • 赤い玉は・・・

    アメノヒボコの自伝 4 男の話が終わったが、わたしは半信半疑だった・・ しかし、この玉は神秘的な光を放っていた・・ただものではないことは確かなようだ・・ わたしは男を許して解放した。男が持っていた赤い玉は王宮に持ち帰ることにした。 持ち帰った玉は、寝床の枕元に置いておいた。真紅のその玉の赤い光を見ていると、不思議に気分が落ち着き、よく眠れるような気がした。 そんなある日のことである。いつものように赤い玉の光に包まれて寝入り、そして目が覚めると・・・ 私の枕元に、見知らぬ一人の若く美しい娘が立っていた! 「なんだ!?そなたは!!」 わたしはびっくりして飛び起きた 娘は落ち着いて、静かに言う 「わ…

  • 玉を産んだ少女

    アメノヒボコの自伝 3 わたしが捕らえようとしたその男は、懐から赤い玉を取り出した。その真紅の玉は、神々しい光を放っていた。まるで、この世のものではないようだ・・・わたしはその光に魅せられ、あたかも光に誘われ玉の中に引き込まれるような思いだった・・ 「王子様・・・いかがなされました?」 従者の声でふっと我に返った。わたしは男の方を振り返り、聞いた。 「どうしたのだ、この玉は?」 「へえ、それは・・・」 男はその玉を入手した経緯を語り始めた。男の話によると・・・ 新羅国内にアグヌマと呼ばれている沼があった。この沼のそばを男が通りがかったとき、不思議な光景を見たそうだ。 沼のほとりでは、一人の少女…

  • 玉!!

    アメノヒボコの自伝 2 わたしは馬の上から男を呼び止めて言った 「おい、お前、どこに行く?」 「へい、わたくしは今から、田畑で仕事している人たちに弁当を作って届けに行くところでございます」 「お前が引いているその牛はどうしたのだ?」 「これは、生まれてすぐのころにわたくしが譲り受けて、大事に育ててきた牛でございますが・・・」 「黙れ!!」 「へえ・・・?」 「貴様、牛を盗んで来たな!!」 「え・・・滅相もない!この牛は私のものでございます」 「黙れ!!貴様のような貧乏人が、こんな立派な牛を持っているはずがない! おい、この者に縄をかけろ!」 わたしは従者に命じで、その男を捕らえようとした 従者…

  • アメノヒボコの自伝 プロローグ

    アメノヒボコの自伝 1 わたしの名はアメノヒボコ。元は朝鮮、新羅国の王子であった。 しかし今は日本に来て、日本で暮らしている。 わたしが新羅国に居た頃のことであった。 わたしは馬に乗って、領内を見回っていた。都を出て、田舎の方に出てきたときのことである。 その日は暖かい春の日が照っていて、田畑では農民たちが作業に精を出していた。 そしてそんな田畑をすぎて、峠道に差し掛かった時のことである。 通りの向かい側から、牛を引いてくる男に出会ったのだ。 その男・・・来ている衣類からしてみずぼらしく、いかにも貧しい貧農の男といった体であった。 しかし、男が引いている牛はというと、がっしりとした体つきで、毛…

  • ホムダワケの帰還

    神功皇后の自伝 21 「母上!ただいま戻りました!」 「おお、ホムダワケ・・・大きくなりましたね!こんなに立派になって・・・!」 そう、その日、我が皇子ホムダワケが角鹿(つぬが)から帰ってきたのである。稚児姿だったホムダワケは、それからも成長を重ね、今では立派な若者になっていた。 わたしは成長したわが皇子を祝い酒で出迎えた。 その祝いの席で、わたしは歌を詠んだのである。 酒の神の 祝い酒 常世の国に 鎮座なる 現世にては 磐座の スクナビコナの 祝い酒 さあいただこう 祝い酒 これにホムダワケにかわって建内宿祢が答えて歌を詠んだ 神が醸した この酒は 鼓を樽に 立てかけて 歌いながら 醸したる…

  • 名の交換

    神功皇后の自伝 20 オシクマの反乱も落ち着き、わたしは皇子のホムダワケ、建内宿祢(たけうちすくね)をはじめとする家臣らとともに大和に帰ってきた。 大和の民は、朝鮮を平定して帰ってきた我々を大歓迎で迎えてくれた。 そして十数年の時が経った。ホムダワケは立派な稚児に成長していた。 そんなある日、武内宿祢はホムダワケを連れて、近江・若狭を経て、高志の国の手前にある角鹿(つぬが)まで旅に出ていた。旅の目的は禊(みそぎ)である。 敵を欺くためとはいえ、ホムダワケは死者の喪船に乗せられた。なのでホムダワケには死者の穢れがまとわりついており、これを禊で清める必要があった。 ホムダワケが長旅に耐えられるだけ…

  • 反乱軍の最期

    神功皇后の自伝 19 港に停船していたわたしの元に、建内宿祢(たけうちのすくね)が戻ってきたのは、それからだいぶたってからのことだった。 武内宿祢は戦況をわたしに報告する。それによると・・ 建内宿祢は逃げるオシクマの軍を追って、山代まで追い詰めた。しかしそこで、急を聞いたオシクマ臣下のイサヒが、援軍を率いて駆けつけてきたのだ。 両軍は山代で向かい合って対峙したまま、膠着状態に陥った。 そのとき、建内宿祢は策略を用いることにした。 「オキナガタラシヒメさまは急に薨去された。こうなっては争っても仕方ないので講和したい」 と敵軍に申し入れたのだ。 オシクマとイサヒはこれに見事に騙された。兵たちが武装…

  • 襲ってきたオシクマ

    神功皇后の自伝 18 わたしはホムダワケが薨去したという偽りの情報を流し、喪船を大和に向けて筑紫から出港させた。 わたしとホムダワケは、その喪船に乗り込んでいたのである。 喪船は瀬戸内海を順調に航行し、難波の津に入った。そして桟橋に接岸した・・・そのときであった! ぴゅわ~あ~ん 甲高い鏑矢の飛ぶ音が響き渡った!同時に兵が刀を抜いて斬りこんできたのである。 「タケウチ、きましたね!」 「はい、あれは弟のオシクマが率いる兵と思われます。オキナガタラシヒメさま、反撃、行きますよ・・・ やれ!!」 建内宿祢(たけうちのすくね)の号令の元、喪船の中で待ち構えていた兵士から一斉に矢が放たれた! 至近距離…

  • 不穏なうわさ

    神功皇后の自伝 17 わたしは新羅から筑紫に帰還した後、そのまま詞志比宮に滞在して三韓の統治をおこなっていた。しかしその足固めもほぼ終わったので、大和に戻ることになった。 しかし大和に戻ろうとするときのことである。重臣の建内宿祢(たけうちすくね)がわたしの耳に入れておきたいことがある、と執務室を訪ねてきたのだ。 「タケウチ、何事ですか?」 「オキナガタラシヒメさま、実は、大和で不穏な動きがあるとのうわさがございます」 「うわさとは?・・・」 「はい、実は、カゴサカさまとオシクマさまの兄弟が、生まれたばかりのホムダワケを亡き者にして自分たちで天下を取ろうと画策しているそうでございます」 「え、カ…

  • いきなり鮎釣り

    神功皇后の自伝 16 わたしは三韓の征伐を終えて筑紫に帰り、皇子のホムダワケを出産した。 その後もしばらくわたしは筑紫に滞在していた。産後でもあり、大和への長旅はつらいものがあった。 それに、征服したばかりの三韓についての統治も行わなければならなかった。そのためには大和に帰るより、しばらく筑紫に滞在したほうが政務を行う上で都合がよかったのである。 そしてそのまま冬を越し、4月になった温かい日のことであった。 わたしは末羅県(まつらのあがた)の玉島里(たましまのさと)に巡行に来ていた。そこでもわたしは民の大歓迎を受けていた。 そんなおり、わたしは玉島川のほとりで昼食をとっていた。降り注ぐ春の日差…

  • 皇子が生まれる

    神功皇后の自伝 15 新羅をはじめ、高麗・百済の三国は朝廷の臣下となり、日本の属国となった。 そしてわが艦隊は、日本に帰っていった。 ところでわたしは、先にも申し上げた通り、この時すでに亡き夫の子を懐妊していたのだ。それを、丸い石を帯に巻いて腹にあてて、生まれそうになるのを鎮めていたのだ。 艦隊は玄界灘を再び渡り、筑紫の那の津に帰り着いた。そして筑紫の地で、帯をほどいて石を外し、その願を説いたのである。 そして筑紫の地で生まれたのである。皇子のホムダワケである。 ホムダワケが生まれた地は、その後宇美と呼ばれているようだ。 わたしの腹に巻いて皇子が生まれるのを鎮めていた石は、筑紫の伊斗村に祠を作…

  • 三韓は日本に

    神功皇后の自伝 14 新羅の国王はわたしに降伏の意を示し、わたしの臣下となった。 わたしは重臣の建内宿祢(たけうちすくね)に、降伏文書の調印と朝貢物を受け取りを命じた。建内宿祢は兵士を伴って王宮に入っていった。 数刻の時が過ぎた。建内宿祢が戻ってきた。 彼はわたしに報告する 「新羅国王は、人民の戸籍や地図を差し出しました。そして永遠に日本の臣下になると誓い、その文書に署名されました。これで新羅の国は日本の属国となることが確定しています。 また、金銀や綾錦、絹、そのほか多くの朝貢物を差し出すそうでございます」 「うむ、ご苦労でした。それからタケウチ、最後にわたしの持っているこの矛(ほこ)を、王宮…

  • 新羅は降伏した

    神功皇后の自伝 13 わたしは建内宿祢(たけうちすくね)をはじめ数名の重臣を伴い、兵士に護衛されながら船を降りた。そして、白旗を上げている新羅の国王の元へ、ゆっくり歩いていた。 わたしは新羅国王の前まで来た。 新羅国王は、わたしの前でうつむき、膝まづいた・・・完全に敵意はないようだ。 新羅国王は言う 「新羅の国を建てて以来、東の方から大波が来て海が国に乗り上げるということはかつてこれまでございませんでした・・ わたくしは聞いたことがあります。東の方に神の国があり、天皇が君臨し、統治されていると・・」 「いかにもわたしは、東の日本から来ました。わたしはその現人神である天皇の皇后であり、摂政として…

  • 新羅の王が・・

    神功皇后の自伝 12 我々の艦隊は、魚の起こす波に乗り追い風に押されて、波とともに陸に乗り上げ、丘の上まで進んでいて停まった。 そこは、きらびやかな宮殿だった。天に届くかと思うほど巨大で、そしてまばゆいほどの金銀をちりばめた、この世のものとは思えない・・・ 今まで見たこともない宮殿だった。 わたしは重臣の建内宿祢(たけうちすくね)に言った。 「タケウチ・・・これが神のお告げの、宝の国なのでしょうか・・・」 「何とも言えませぬが・・・気を付けるに越したことはないでしょう・・・」 「うむ・・・どうしたものか・・・」 「とにかくまずは、斥侯を出して状況を探らせましょう」 そこでわたしは数名の兵士を派…

  • 艦隊は一気に!!

    神功皇后の自伝 11 わたしが率いる艦隊は、和珥浦を出港し快調に進んでいた。 わたしは船上で、わたしに降臨した神が告げた通りに神事を行った。 その神事が終わった直後のことである・・・ すると、にわかに艦隊の周りの海に波が立ちだした・・・海の底からは白い泡が無数に、そこかしこに浮かび上がってくる。 「なんだ・・・これは・・・?」 兵士たちは口々に叫ぶ。 そして、その泡の正体が見えてきた 「魚だ!・・・こんなにたくさん・・・」 そう、海の底から無数の魚が浮かび上がってきたのだ!大きな魚も、小さな魚も、それこそ海中の魚が集まったのかと思うくらい・・・ そして魚は、艦隊の船底に集まり・・・ そして、一…

  • 航海

    神功皇后の自伝 10 出港の準備は整った。 わたしは将兵の前で宣言した 「これより未知の国に遠征します。 敵が少なくても侮ってはなりません!多くても恐れてはなりません! また敵地であっても、婦女への暴行は許しません!また、降伏してきたものを殺してはなりません! 軍紀を乱し私欲をむさぼり自分のことしか考えないものは、おそらく敵に捕らえられることになるでしょう! 逃亡したものは処罰されます。しかし、この戦いに勝てば、賞はあなた方に与えられるるのです! 我らが皇軍は神の和魂(にぎみたま)に守られ、荒魂(あらみたま)に導かれ、きっと勝利することでありましょう!!」 おおーっ!! 将兵から鬨の声が上がる…

  • 産まれそう・・・

    神功皇后の自伝 9 遠征の準備は着々と進んでいた。しかし、兵員だけは、なかなか思うように集まらなかった。 まあ、無理もない、全く未知の国に遠征に行くのだ。一般民衆から見れば無謀な計画のように思えるだろう。そうかといって強制的に徴兵したところで強い軍隊になりはしない。 しかし、神の力があれば乗り切れるとわたしは考えていた。わたしは大三輪社を立てて三輪の神を祀り、刀鉾を奉納して祈りをたてた。 すると、私の願いが民衆にも通じたのだろうか、兵員希望者が現れだし、たちまちの内に人員は充足したのであった。 こうして、船団と兵員の準備は整った。 ところが・・・そうこうしている間に、私の腹の中にいる子は大きく…

  • 成功を占う

    神功皇后の自伝 8 わたしは詞志比宮に戻ってきた。そこでは船団の準備が進んでいた。 そんなある日、わたしはこの遠征の成否を占うため、宮の前に広がる海まで来ていた。わたしは海岸に立ち、結っていた髪をほどく。そして言った 「我は神々のお告げにより、皇祖アマテラス大御神の御魂をいだいて海を渡り、西の国を攻めようと思う。 これより海水を汲み、我の頭にそそぐ。もしこの遠征が成功するのなら、我の髪、二つに分かれよ!」 そういって自ら桶に海水を汲み、なみなみと海水が入った桶を両手に捧げ持つと、自分の頭にそれを注いだのだ! 果たして・・・ わたしの髪は、きれいに二つに分かれた!長いわたしの髪は、海水をかぶって…

  • 神田を造る

    神功皇后の自伝 7 「西の国を攻めよ」というのは、住吉三神のお告げだった。 そのお告げ通り、熊襲征伐はいったん後に回すことにして、西の国に向かうために船団の準備をすることにした。 そして神を祀るため、神田を作ることに決めた。神田には那珂川から水を引いてくることにした。 しかし、その途中、大きな岩があり水路が掘れなかった。 わたしは建内宿祢(たけうちのすくね)に命じて、神に祈る儀式をさせた。 建内宿祢は剣と鏡を捧げ持ち、祭壇の前で天神地祇に一身に祈った。神田に水を通す水路が造れるように・・ すると・・・ 急に天候が急変した! 突如、突風が吹き、激しい雨が降り始め・・・ 雷鳴が響く出した。 ピカッ…

  • 住吉三神の降臨

    神功皇后の自伝 6 「オキナガタラシヒメさま・・・」 建内宿祢(たけうちすくね)の呼びかける声でわたしは目覚めた。わたしの身体に神が降臨し、神はわたしの口を借りて神告を伝えたのだ。 建内宿祢は、わたしに神のお告げを語ってくれた。 神はわたしに降臨すると、建内宿祢に向かって 「この国は、亡き天皇の皇后オキナガタラシヒメの体の中にいる御子が治める国である」 と言ったそうだ・・・ ・・・そう、そのときわたしは、亡くなった天皇の御子を懐妊していた・・・ 建内宿祢は、その時神に尋ねたそうだ 「恐れ多くも大神よ、その御子は男子でございますか?」 すると神は 「男子である」と答えた。 また、建内宿祢が 「今…

  • 再びの占い

    神功皇后の自伝 5 夫の天皇の遺体は、殯宮(もがりのみや)に移された。そして、わたしは禊のために日本の国中の犯罪を徹底して取り締まるよう、命令を出した。 何しろ日本の国を治める天皇がこんな形で突然死に至ったのである。国中に穢れがまとわりついているといても過言ではない。 命令は日本の各地で実行された。 生きたまま獣の皮をはいだもの、逆さにして獣の川をはいだもの、田を壊したもの、水路を埋めたもの、神域での放糞、近親相姦、獣姦・・ ありとあらゆる罪の取り締まりが行われた。こうやって日本の国の穢れを払ったのである。 そして、それらの一連の儀式が済んだある夜、再び詞志比宮(かしいのみや)の神庭にわたしと…

  • 国の穢れを祓え!

    神功皇后の自伝 4 夫の天皇が亡くなった・・・わたしが占いをし、神がわたしの身体に降臨している間に・・・ わたしが意識を取り戻し、重臣の建内宿祢(たけうちのすくね)からそれを聞かされた時、驚きとともに言いようのない不安感が襲ってきた・・・ 愛する夫の死・・・それだけでもわたしにとっては耐えがたいことだった・・・しかもその夫は、日本の国を治める天皇なのだ! ああ・・・日本の国はどうなるのだろう・・・ わたしは放心したように座り込んだ・・・涙さえも出なかった・・・何も考えられなかった・・・ その時、建内宿祢がわたしに言った 「オキナガタラシヒメさま・・・心中、お察しいたします。 しかし・・・気を確…

  • 仲哀天皇の崩御

    神功皇后の自伝 3 「オキナガタラシヒメさま・・・陛下が・・・天皇陛下が・・・崩御されました!!」 わたしは建内宿祢(たけうちすくね)の言葉に衝撃を受けた! 「え!?・・・タケウチ!それはどういうことです!?」 何しろ夫の天皇は、わたしに神が降臨して気を失うまで、何事もなく神琴を弾いていたのだ! ・・・建内宿祢が語ったところによると・・・ わたしに神が降臨し、わたしが正気を失った後、神はわたしの口を借りて次のように言ったそうだ 「熊襲を攻めても何の得にもならないであろう・・・それより西の国を攻めよ! 西の方には金銀はおろか、目が輝くような数々の珍しい財宝を持つ国がある。 その国を支配下に置くが…

  • 詞志比宮にて

    神功皇后の自伝 2 その年、夫の天皇とわたしは、大和から遠く離れた筑紫の詞志比宮に来ていた。先述の通り、朝廷に反乱を起こした熊襲を討つためである。 大和から詞志比宮についたその夜のことである。 その日、臣下の間で不穏な空気が漂っていた。というのは、その日の夜、空に大量の流星が見えていたのである。 ≪画像は写真ACより≫ 流星は古来より不吉の象徴とされている。それがこれだけ大量に流れるということは・・・臣下のものが不安に思うのも無理はない。まさか、熊襲征伐に敗退するようなことがあれば・・・ そこで、夫の天皇は熊襲征伐の成否を占うことにし、わたしに神の降臨を命じた。 実は、わたしは巫女として神を自…

  • 神功皇后の自伝 プロローグ

    神功皇后の自伝 1 わたしの名前はオキナガタラシヒメ。 父・オキナガスクネと母・カヅラキノタカヌカヒメの間に生まれた。父は第9代開化天皇を祖先に持ち、また母はその祖先をたどると新羅国王のアメノヒホコにたどり着く。 つまりわたしは、日本国天皇と朝鮮国王の両方の血筋を受け継いでいる。 夫はタラシナカツヒコ、今は亡き仲哀天皇である。わたしは夫とともに、朝廷に反乱を起こした熊襲を討伐するために筑紫の詞志比宮(かしいのみや)に来ていたが、そこで夫は亡くなった。 その後はわたしは夫に代わり、皇軍を率いて朝鮮まで遠征に行ったのである。 熊襲征伐に来たはずなのに、なぜ朝鮮への遠征に変わったかというと・・・ 今…

  • 白鳥となって

    ヤマトタケルの自伝 後伝 3(キビノタケヒコの自伝) 「あ!・・・あれは・・・!」 御子のひとりが叫んだ。その声に、一同は御陵のほうを見上げた。 するとそこには、一羽の大きな白鳥が御陵の頂上に居た・・・ どこから現れたのだろうか、まるで御陵の中から忽然と現れたようだ・・・ 我々はすぐに確信した!あの白鳥は、ヤマトタケルさまの御魂の生まれ変わりだと!! 白鳥は大きく翼を広げたかと思うと、御陵を飛び立った・・・悠々と羽を広げて、西のほうへ飛んで行く・・・ 「あれはヤマトタケルさまの生まれ変わりだ!」 「飛んで行くぞ!」 「追いかけろ!」 后と御子たちは、口々に叫ぶと白鳥を追いかけだした。我々、ヤマ…

  • 御陵を造る

    ヤマトタケルの自伝 後伝 2(キビノタケヒコの自伝) ヤマトタケルさまは薨去された。 わたしは急使をたて、大和に向けてすぐさまその報を知らせたのである。 そしてすぐに、大和に居たヤマトタケルさまの后と御子たちが、能煩野の地まで来たのである。 后たちも、御子たちも、その悲しみは大きなものであった。彼らは地に這いつくばって泣いていた。ヤマトタケルさまの遺体を目の前にして、いつまでも・・・いつまでも、泣いていた・・・ そして歌を詠まれた。 君が倒れし その田には 芋のカズラが 這っている ああ我が心 その芋の カズラのように 這っている そして、后たちと御子たち、それに我々従者らは、協力して御陵を造…

  • ヤマトタケルの薨去

    ヤマトタケルの自伝 後伝 1(キビノタケヒコの自伝) わたしの名はキビノタケヒコ。ヤマトタケルさまに仕えていた。しかし、そのヤマトタケルさまは昨日、薨去された。 わたしはヤマトタケルさまが蝦夷征伐に向かうのにあたり、従者として伴をしていくことを陛下(景行天皇)より命じられていた。それ以来ヤマトタケルさまに同行し、ヤマトタケルさまをお護りしてきたのである。 時にはヤマトタケルさまに命じられ、単独で越の国を平定に行ったこともあった。 しかしヤマトタケルさまは、大和に帰還する途中、伊吹山に登ったとき、神の怒りに触れて身体を崩された。 しかしそれでもヤマトタケルさまはよろめく身体で、杖をつき、這うよう…

  • 大和し うるわし

    ヤマトタケルの自伝 32 わたしは尾津崎を出て、大和へ向かって歩いていた。従者に支えられ、杖を突いて、おぼつかない足取りで・・・ 「ああ・・・わたしの足は三重にも曲がってしまったようだ・・・つかれた・・・」 わたしは立ちどまってつぶやいた。 「ヤマトタケルさま!しっかりしてください!大和はもうすぐです!!」 従者らは必死に、わたしを励ますように声をかけている。 「ああ・・ありがとう・・・大丈夫だ!さあ、行こう!」 わたしは口ではそうは言って再び歩きだす。しかし高熱で意識は薄れ、目の前はかすみ、ますます足取りは遅くなっていく。 ・・・ああ、もう動けない・・・ わたしは能煩野に至ったとき、ついに倒…

  • たぎたぎしく・・・杖をついて・・

    ヤマトタケルの自伝 31 伊吹山で神の怒りにふれ、居覚の清水で息を吹き返したわたしは、大和を目指して歩き始めた。 しかし、清水で体を冷やし息を吹き返したとはいえ、わたしの体力が完全に回復したわけではなかった。 わたしは従者に支えられながら、ゆっくりと、よぼよぼと、やっとのことで歩いていたのであった。 どのくらい歩いただろうか・・・ 「ああ・・・わたしの心は、今も自由自在にこの空を飛び回っている。しかし・・・ わたしの足は萎えてしまって、たぎたぎしくなってしまった・・・」 わたしは誰に言うともなく、つぶやいたのだった。 そしてそこからわたしは進む。よろよろと・・・もはや私は疲れ切って、その歩みは…

  • 熱病にかかり・・・

    ヤマトタケルの自伝 30 伊吹山で冷たい雨と雹にたたきつけられ、激しい風にあおられた・・・体の自由がまるできかない・・・ それでもわたしは天候の急変にあらがうように、山を登っていった・・・しかしますます雨と雹は激しい風にあおられ、わたしにたたきつける・・・ ・・いくらも時間はたたないうちに、わたしの体力は消耗していった・・・ 眼はかすみ、脚は震え、身体は痙攣してきた・・・これはいけない・・・ ・・・ここに至って、わたしは山を下りる決心をした・・・ ・・・震える足で、一歩一歩、ゆっくりとした足取りで山を下りていく・・・ ああ、降りるのに、どれくらい時間がかかるのだろうか・・・高熱が出て、わたしの…

  • 伊吹山に登る

    ヤマトタケルの自伝 29 わたしは単身、伊吹山に登っていった。荒ぶる神を退治するために。 しかしわたしは、草薙剣をもっていなかった・・・もう必要ないだろうと、ミヤズヒメに預けてきてしまったのだ。 なんか嫌な予感がした・・・なに、大丈夫だ!!草薙剣などなくても、伊吹山の神などこの手で仕留めて見せる! ・・・そうは言うものの、一抹の不安が頭をよぎる。 わたしは従者らを置いて、単身で伊吹山に上ることにした。もし万一のことがあって彼らを巻き込むわけにはいかない。 わたしを心配して一緒についていくという従者らを説得してふもとにとどめて、わたしは一人で登って来たのだ。 山の中腹まで来た時だった。 ごそごそ…

  • 伊吹山へ

    ヤマトタケルの自伝 28 わたしは尾張のミヤズヒメのもとに数か月の間滞在していた。 しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。わたしは大和に復命しなければならない。先に大和に帰したオオタチバナヒメも待っている。 「ミヤズヒメ、必ず迎えに来る。それまで待っていてくれよ」 わたしはミヤズヒメの手をしっかり握って言った。 「ヤマトタケルさま、いつまでもお待ちしております」 「そうだ、ミヤズヒメ、これを預かっていてくれ」 わたしはそういって、ミヤズヒメに草薙剣を渡した。それを見たミヤズヒメは、びっくりして言った。 「ヤマトタケルさま!これは・・・草薙剣ではありませんか!!・・・ どうしてこんな大事…

  • ミヤズヒメと再会

    ヤマトタケルの自伝 27 わたしは険しい信濃国をすぎて、美濃を経て尾張国まで戻ってきた。 もうここまで来たら、あとは大和に戻るだけだ・・長い旅路だった・・ 尾張・・・そう、結婚を約束した尾張国造の娘、ミヤズヒメがいる地だ・・ もうあれから何年もたつ・・・ミヤズヒメは今も待ってくれているだろうか、それとも誰かの妻になっているだろうか・・ あの時はこんなに長い旅路になるとは思っていなかったのだ・・。 わたしは尾張国造の屋敷に急いだ! 果たして・・・ミヤズヒメは・・・ ミヤズヒメは、そこに居た!!わたしとの約束をまもって、誰の妻にもなってなかったのだ!・・ 「ミヤズヒメ!よくぞ待っていてくれた!!」…

  • 信濃国で・・・

    ヤマトタケルの自伝 26 甲斐の酒折宮を出たわたしは、信濃国に向かっていた。 東国の蝦夷は平定され、みな朝廷の命に従うことを約束した。しかしまだ信濃の国、越の国には、まだ朝廷に服していない民族が残っていた。 それらの民族を平定するために、わたしは信濃国に向かっていたのである。 東国から付き従ってきたオオタチバナヒメは、一足先に大和に帰した。この先、険しい道が続き、また危険も伴う未開の地である。女の足では厳しいだろう。 また、越の国には、わたしの部下のキビノタケヒコを遣わした。 東国遠征の際、父の天応から伴としてつけられたキビノタケヒコである。最初はどんな人物かもわからず、非常に不安に思っていた…

  • 新治 筑波をすぎて・・・

    ヤマトタケルの自伝 25 わたしは足柄峠を越えて、甲斐の国まで来ていた。 わたしは甲斐の国の酒折宮(さかおりのみや)に一時滞在することにした。 その夜、宮では焚火がたかれ、そのあかりの中で食事をとり、休憩していた。わたしはその火を見つめているうち、なんともいえぬ思いがわたしの胸の内を襲ってきた。 ・・・自分が滅ぼしたクマソタケルにイズモタケル・・・ わたしは彼らには何の恨みもない。なのになぜ・・・わたしは彼らを惨殺してしまったのか・・ それは、ひとえに朝廷の権威を日本全国に広げるため・・・ そのために海に身を投じたオトタチバナヒメ・・・ しかし姉のオオタチバナヒメはわざわざ東国まで訪ねてきてく…

  • 吾妻はや

    ヤマトタケルの自伝 24 わたしは蝦夷の地を後にし、大和への帰路についた。 そして常陸から武蔵へと進んでいき、武蔵から相模の国境である足柄峠までたどり着いた。 わたしは足柄峠で休憩をし、食事をとることにした。 その時だった、我々のもとに一頭の鹿が現れた・・・見上げるほど巨大な、白い鹿だった! 「む・・・こいつ、ただものではないな・・・!」 そう、その巨大な白い鹿・・・見た目の恐ろしさだけではない!その姿に邪悪な霊気を感じたのだ・・・この鹿は、この山の神の化身に違いない・・・ わたしは従者らを後ろにさがらせると、食べかけのニラを鹿に向かって投げつけた! 果たしてその鹿は・・・わたしが投げたニラが…

  • オオタチバナヒメ

    ヤマトタケルの自伝 23 東国を平定したわたしは、相鹿(おうか)の丘前宮(おかざきのみや)に滞在していた。東国を朝廷の支配下に組み入れるための、様々な政務に追われていたのである。 そこに、妻のオオタチバナヒメがはるばる、大和から訪ねてきたのだ! 「おお!オオタチバナヒメ!女の足で、こんなところまで・・・」 「ヤマトタケルさま!会いとうございました!その一心で、ここまで旅してまいりました!」 ・・・わたしは胸が熱くなった。嬉しさがこみあげてきた。 その夜、わたしはオオタチバナヒメと久しぶりに夜を共にした。 ・・・しかし・・・ オオタチバナヒメと再会したことで、次の朝、わたしの心に言いようのない影…

  • 東国を平定

    ヤマトタケルの自伝 22 行方の国から陸路、わたしは従者を引き連れてさらに北のほうに進んでいた。そして当麻(たぎま)まで来た。 この地を支配するカラスヒコを征伐することが目的である。 常陸に入って味方になり一緒に従軍してきた蝦夷の長老によると、この地を支配しているカラスヒコは周囲の民族とは調和せず、あまり評判がよくないそうであった。 それでもまずは恭順を進める使者を送ってみたのだが、カラスヒコは刀を振り上げ使者を追い払ってしまったのである。 はたして、カラスヒコはわたしが來るという情報を得ていたのだろう、わたしが通りかかると襲いかかってきた。しかしこれまで数々の戦いを征してきたわたしの敵ではな…

  • 流れ海の北へ

    ヤマトタケルの自伝 21 わたしは蝦夷を朝廷の支配下に置いた。 わたしはさらに従者を従え船を進めていった。流れ海に入り、広大な入海である流れ海の北方を拠点としていた民族を、新たに朝廷に服させた。 こうしてこの地も平定したわたしは、槻野(つきの)に上陸した。そこにはきれいな泉が湧いていた。 わたしはその清らかな水に、連日の遠征で疲れた手を浸し、清水で喉を潤した。 ・・・その時だった 「あっ・・・」 わたしはついうっかり、身に着けていた玉を泉の中に落としてしまったのだ。深い泉の中に落としてしまった玉は、拾い上げることはできなかった。 その玉は、今も泉の中に残っていることだろう。 そこから陸路わたし…

  • 蝦夷征伐

    ヤマトタケルの自伝 20 上総の国を発ったわたしは、陸奥(みちのく)を目指して進んでいた。 陸奥国に入ると、わたしは海上を進んでいくことにした。この先は全く未知の領域である。下手に陸路を進んでいくと、どのような敵に襲われるかわからない。 そこで危険の少ない海路を進んでいくことにしたのである。 わたしは乗る舟に、大きな鏡を掲げた。鏡は天岩戸の神話にもあるように、神の象徴なのである。 舳先に鏡を掲げた船は、風に乗って順調に進んでいく。そして船は蝦夷(えみし)の支配する地に履いた。蝦夷はいまだ朝廷に服属していない。 すると、蝦夷はわたしが攻めてくるのを察していたのだろうか、蝦夷たちは水門に兵を繰り出…

  • オトタチバナヒメ

    ヤマトタケルの自伝 19 その時、オトタチバナヒメがわたしに向かって言った。 「ヤマトタケルさま!わたくしが生贄となって海に入ります。そうすれば海の神の怒りもおさまることでありましょう。 ヤマトタケルさまは、どうかその使命を果たして朝廷に復命してください」 「な・・なんだと!いかん!やめるんだ!」 わたしは叫び、オトタチバナヒメにかけ寄ろうとした。しかし荒波に翻弄される船の上だ。その時、大きく舟が揺れて、わたしはよろめいて倒れてしまった。 そうこうしている間にオトタチバナヒメは、すげ・皮・絹の敷物を幾重にも重ねて海に浮かべたかと思うと、その上に降りて行ってしまった。 ≪入水するオトタチバナヒメ…

  • 海を渡る

    ヤマトタケルの自伝 18 わたしは駿河で反逆を起こした国造を誅殺した後、さらに東に進んでいた。 わたしが国造の陰謀にはまったその日、わたしが野に入ったすぐあと、オトタチバナヒメは捕らえられたという。そして目の前で国造の兵士が、わたしが入った野に向かって火矢を放つのを見たという。 そのときのオトタチバナヒメの気持ち、いかばかりだっただろうか・・・泣き叫びたかったに違いない。 しかしそれさえもできなかった・・・声を立てて私に気づかれぬよう、彼女は猿轡をかまされていたそうだ。 そして私が焼死したと思って、監禁された屋敷の一室で泣き続けていたという。悲しみに暮れるオトタチバナヒメに、一緒に捕らえられた…

  • 草薙剣!

    ヤマトタケルの自伝 17 駿河国造の陰謀にはまったわたしは、枯野の中で燃え盛る炎に取り囲まれていた。炎はわたしに迫ってくる! このままでは焼け死ぬのは確実だ・・・どうすれば・・・ ・・・はるかな神代、同じように炎に枯野で炎に取り囲まれたオオクニヌシの大神は、ネズミのおかげで助かったそうだが・・・ そんなにうまいことはないだろうな・・・覚悟を決めるしかないのか・・・ わたしがそう思った時だった。その時、思い出したのだ! 伊勢のヤマトヒメが、困ったときに開けといった小袋のことを・・・ わたしはいそいでその袋を開けてみた。すると、そこには・・・ ・・・一組の火打石が入っていた。 ・・・これは・・・そ…

  • 謀られた・・・

    ヤマトタケルの自伝 16 翌朝、わたしは駿河国造に案内され、荒々しく乱暴な一団が住んでいるという野原に来ていた。 そこには一面の枯れ草がはるか先の地平線まで広がっていた。 「ヤマトタケルさま、この先の岩山に、その一団は砦を築いて陣取っているのです」 「よし、見に行ってみよう。場合によってはそなたの軍勢を借りるかもしれぬぞ!」 「かしこまりました。お気をつけて」 そして、ここまでついてきたオトタチバナヒメに言った。 「オトタチバナヒメ、お前はここで待っておれ」 「でも・・・ヤマトタケルさま、従者もつけずにおひとりで・・・大丈夫ですか?」 「なに、偵察してくるだけだ、心配ない」 こうしてわたしは単…

  • 駿河国造からの要請

    ヤマトタケルの自伝 15 そして駿河の国までやってきた。 ここでわたしはオトタチバナヒメと落ち合った。彼女は大和に居たときわたしが見初めた娘である。わたしを追ってこの駿河までやってきたのであた。 「オトタチバナヒメ・・・女の足で、よくぞここまで来てくれた!」 「ああ、ヤマトタケルさま・・・お会いできてうれしゅうございます」 そしてわたしはオトタチバナヒメを連れていくことにした。 もしかしたら足手まといになるかもしれにが、それよりも女の身でここまでわたしを慕ってきたことがうれしかったのだ。 そしてわたしは国造(くにのみやつこ/古代の地方長官)の屋敷を訪ねた。わたしはオトタチバナヒメと従者ともども…

  • ミヤズヒメを后に

    ヤマトタケルの自伝 14 わたしは叔母のヤマトヒメと別れて、尾張の国に来ていた。 尾張の国造(くにのみやつこ/古代の地方長官)は、わたしを歓迎してくれた。わたしは国造の屋敷にしばらく滞在していた。 ところで国造には一人の娘がいた。名をミヤズヒメという。 ミヤズヒメは一目見たら忘れられないほどの、絶世の美人であった。 数日滞在するうちにわたしはミヤズヒメに魅かれるものを感じていた。 ・・・それはミヤズヒメも一緒であった。そう、我々は互いに恋に落ちてしまったのだ。 しかし、わたしは東征の途中である。その使命を放り出してここでミヤズヒメと一緒になるわけにはいかない。 「無事に東国を平定して戻ってきた…

  • ヤマトヒメからの贈り物

    ヤマトタケルの自伝 13 わたしは叔母のヤマトヒメを目の前にして、泣き崩れてしまった・・・ 「ちょっと、ヤマトタケル!どうしたの?」 「ああ、叔母上・・・父の天皇は、わたしが死ねばいいと考えているのでしょうか・・・」 「え・・・ヤマトタケル、どうしたの?何があったの?」 「わたしは父の命により、西国の朝廷に服していない者どもを平定して帰ってまいりました。しかしそれからまだ時もたっていないというのに、今度は東国の平定をしろと命を受けました・・それも軍勢もつけずに・・・ ・・ああ、やっぱり父の天皇は、わたしに死ねと思っているに違いない・・・」 わたしはヤマトヒメの前でいつまでも泣いていた。ヤマトヒ…

  • 伯母上・・・!

    ヤマトタケルの自伝 12 わたしは父の命を受け、東国に向かっていた。足取りは重かった・・・ なんだろう、あの父の冷たい態度は・・・伴につけてくれたキビノタケヒコなんてどんな人物かさえもわからない。ましてやヒイラギの鉾なんて、儀式に使うもので実戦で役立つ武器ではないのだ・・・ そして伊勢の国まで来た。わたしはここで、叔母のヤマトヒメを訪ねた。 クマソタケルの征伐では、ヤマトヒメから借りた着物のおかげでうまく奴らを打ち取ることができたのだ。そのお礼も言い語った。 ヤマトヒメは伊勢神宮を創始してアマテラス大御神を祀っている。今はアマテラス大御神にその御杖代(みつえしろ)として仕えている。 「伯母上、…

  • 次は東国に・・・

    ヤマトタケルの自伝 11 わたしは西国を平定して大和に戻ってきた。 宮殿に戻ると、わたしは何よりも先に父である天皇に奏上した。何よりも父が喜ぶ顔が見たかった・・・いや、父に認めてもらいたかたったのである。 「父上、九州の熊襲をはじめ、西国の朝廷に服していない部族をことごとく征服してまいりました!これでもう、西国はすべて朝廷の支配下であります!」 父の顔を見るとうれしさがこみあげてきた。そして、わたしは優越感にひたっていた・・・父上はわたしを評価して、朝廷の中でも重要な役職につけてくれるかも・・・そんなことまで考えていた。 しかし、父の天皇から返ってきたのは、冷たい一言だった。 「そうか・・・西…

  • 大刀

    ヤマトタケルの自伝 10 イズモタケルの屋敷に滞在して数日。イズモタケルはわたしをすっかり信用し、わたしは偽りの友情関係を築き上げていた。 そんな、ある日のことである。わたしとイズモタケルは、斐伊川で連れ立って水浴びをしていた。 そして水から上がり、服を着て、イズモタケルが自分の剣を腰に差そうとしたとき、わたしは言った。 「イズモタケルさん、立派な大刀をお持ちなんですね!」 「おう、これか!この斐伊川では昔から製鉄が盛んでな、良質な砂鉄がここでは取れるんだ。その鉄を鍛えて作った極上の大刀なんだ! これがあれば、大和の朝廷なんざ、敵じゃないさ!ははは!! ・・・おう、オウス!そういうお前も、なか…

  • イズモタケル

    ヤマトタケルの自伝 9 九州の熊襲でクマソタケルの兄弟を討伐し、肥の国では土蜘蛛を討伐した。そしてわたしは出雲に来ていた。 この地のイズモタケルもまた、大和の朝廷に服属していなかったのだ。わたしはイズモタケルも討伐してから大和に帰ろうと考えたのだ。 もちろん、軍勢もなく単身で来たわたしには、軍事をもって攻め立てるわけにはいかない。そこでわたしは、まずは策略をもってイズモタケルに接近することにした。 わたしはイズモタケルの屋敷に出向き、面会を求めた。わたしはイズモタケルの前に通された。 イズモタケルの前で膝まづき、わたしは言った 「イズモタケルさま、お初にお目にかかります。オウスと申します。」 …

  • 肥の国にて

    ヤマトタケルの自伝 8 クマソタケルの兄弟を討ち、ヤマトタケルとなったわたしは、熊襲国を離れ肥の国に来ていた。 肥の国のある村を訪ねたときのことである。クマソタケルをわたしが討伐したという話はその村にも既に伝わっており、村人はわたしを歓迎して迎え入れてくれた。わたしは村の長老に案内されて用意された仮宮に向かっていた。 そのとき、わたしの目に留まったのは、天を突くような立派な楠(くすのき)だった。 ≪佐賀市・印鑰神社の楠≫ わたしは思わず言った 「おおっ・・・これは立派な楠だな!!」 長老は答えて言う 「はい、この楠は朝日が照らせば影は杵島郡(きしまのこおり)の蒲川山まで届き、夕日が照らせば養父…

  • ヤマトタケルになる

    ヤマトタケルの自伝 7 ふいにクマソタケルの兄の動きが止まった。兄はわたしの身体に違和感を覚えたのだろう。そして言った 「お前、女ではないな・・・・・お前・・・」 しかしその言葉を言い終えることはなかった。 わたしはその時、隠し持っていた短剣で、クマソタケルの兄の急所を刺していたのである! 兄はうめき声をあげる間もなく、大量の血を吹き出し、瞬時に絶命してしまった。 この時、酒に酔っていて騒がしく大声が飛び交っていた宴席は、凍り付き・・・ ・・・そして混乱した皆は、我さきにと逃げ出した! 兄の返り血を大量に浴びた、少女の姿で鬼々と迫るわたしの姿・・・皆、相当な恐怖を感じたに違いない。 そして、ク…

  • 宴席で・・・

    ヤマトタケルの自伝 6 わたしは女装して、新築祝いの準備のために屋敷に出入りする下男下女にまぎれこんで、クマソタケルの兄弟の屋敷に忍び込むことに成功した。 そして、その夜・・・ 屋敷の一室では、新築祝いの宴がにぎやかに開かれていた。 上座にはクマソタケルの兄弟が座り、ぞの周りを来客として招かれた豪族が取り囲む。そして下男下女が忙しく料理や酒を運んでいた。 すっかり酔いの回ったクマソタケルや豪族たちは、大声で騒ぎまくっている。 そんな中、わたしは酒をもって、クマソタケルのもとへ近寄っていった。クマソタケルはいい気分でわたしが差し出した酒を飲み干す。 と、その時、兄が言った 「おう、お前、かわいい…

  • 屋敷に潜入

    ヤマトタケルの自伝 5 マソタケルの兄弟の討伐の命クを父の天皇から受けたわたしは、伊勢に立ち寄り叔母のヤマトヒメから着物を借りて、西国に向かっていた。 さて、クマソタケルが住む地、九州の熊襲まで長い旅の末たどり着いた。クマソタケルの屋敷を訪ね歩く。そこはすぐにわかった。 熊襲を支配するクマソタケルの屋敷。とてつもない大きな家で、その周りは兵士が三重に取り巻いて守っていた。 軍勢もなく単身で来たわたしである。 屋敷を守る兵士をかいくぐって中に入りクマソタケルを暗殺することなど、とても無理だろう・・・ ただ、幸いなことに、クマソタケルの屋敷は新たに新築したばかりだった。そして今日、新築祝いの宴が開…

  • ヤマトヒメから

    ヤマトタケルの自伝 4 わたしは伊勢に来ていた。そして叔母のヤマトヒメを訪ねていった。 ヤマトヒメは伊勢神宮の斎宮としてアマテラス大御神に仕えている。 「伯母上、お久しぶりです」 「あら、オウス!しばらく見ない間に大きくなったわね!元気してた?!」 ヤマトヒメはわたしを歓迎してくれた。神に仕える身として独身を貫かねばならないヤマトヒメは、甥であるわたしをまるで我が子のようにかわいがってくれている。 わたしはヤマトヒメに言った 「伯母上、実は父上から、西国のクマソタケルの兄弟を征伐するよう命令されまして・・・それでこれから九州に行くんです」 「あら、そうだったの・・・それにしても、まだみずらも結…

  • ねぎ教え諭せ

    ヤマトタケルの自伝 3 父の天皇から兄のオオウスに、朝夕の食膳への参列について「ねぎ教え諭しなさい」(丁寧に教え諭しなさい)と言われた翌朝。 わたしは夜のうちに兄オオウスの屋敷に忍び込み、便所の陰に隠れ、朝になるのをまった。 そして、朝になった・・・日が昇り、目が覚めたオオウスが朝の用足しにやってきた。オオウスが便所に入った。その時! わたしは便所の戸を開けた。 「なんだ!・・・オウスか、何事だ!」 びっくりしたオオウスが叫ぶ。しかし、わたしは兄のその声を無視し、便所にはいった。そして、オオウスをとっつかまえると、まずその右手をねぎった!(ひきちぎった) 「ぎゃー!!!」 兄の悲鳴が響き渡る。…

  • 兄のオオウス

    ヤマトタケルの自伝 2 わたしはその日、父の天皇(すめらみこと)に呼ばれた。そしてこう言われたのだ。 「そなたの兄のオオウスが朝夕の食膳の席に出てこないのはどういうことだろう。朝夕の食膳は神に供える大事な儀式だというのに・・・」 そう、兄のオオウスは最近、宮中に出廷していなかった。 理由はわかっている。オオウスは父の天皇と顔を合わせるのが気まずいのだ。 天皇は美濃の国造の娘、エヒメ・オトヒメの姉妹が絶世の美人という話を聞き、自分の妃にすべくオオウスを使いにやった。しかしこともあろうにオオウスはこの姉妹を自分の妃にしてしまったのだ。 オオウスは天皇のもとに、美濃のエヒメ・オトヒメと偽って、背格好…

  • ヤマトタケルの自伝 プロローグ

    ヤマトタケルの自伝 1 わたしの名はヤマトタケル。 もっともヤマトタケルというのは成人してからの名で、幼少期はオウスと呼ばれていた。 わたしはオオタラシヒコの天皇(すめらみこと)の皇子として生まれた。父のオオタラシヒコは初代神武天皇から続く第12代目の天皇である(景行天皇)。 母の名はイナビノオオイツラメ。第10代崇神天皇の御代に四道将軍のひとりとして派遣されたキビツヒコの娘である。わたしは父と母との間に、5人兄弟の三男として生まれた。 そんな、わたしがオウスと名乗っていたころ、数え年15歳となった、ある日のことだった・・ 次>>> ヤマトタケルの自伝 目次 rakuten_design="s…

  • ときじくのかぐの木の実

    野見宿祢の自伝 26 わたしがケハヤとの天覧相撲のために出雲から宮中に召し出され、そのまま天皇(すめらみこと)にお仕えするようになって、長い年月が過ぎた。 わたしがお仕えしていた第11代の天皇陛下(垂仁天皇)は、その年の秋に崩御されたのである。 荘厳な葬儀が行われ、陛下のご遺体は菅原の御立野(すがわらのみたちの)に壮大な御陵を築き葬られた。 そして陛下の御子であるオオタラシヒコさまが第12代天皇(景行天皇)として即位された。 こうして天皇の代替わりの儀式もあらかた済んで、落ち着いたころのことである。 先帝である垂仁天皇陛下の忠臣であったタジマモリが、常世国(とこよのくに)から日本に帰国してきた…

  • ヒバスヒメの御陵

    野見宿祢の自伝 25 陛下が寵愛されていたヒバスヒメさまが薨去された。 陛下のお心を痛めていたのは、ヒバスヒメさまが薨じられた悲しみもさることながら、その葬儀のことだった。 陛下の弟君のヤマトヒコさまが薨去されたときは近習のものが生きたまま殉葬され、悲惨なありさまを呈していた。 陛下は御前に側近のものを集めて仰せになった。 「余はヤマトヒコが葬られた時、一緒に埋められた近習の叫び声が忘れられない。もう、あのような悲惨な声は聞きたくないものだ。 今、ヒバスヒメの葬儀を行って送り出さねばならぬが・・・あの優しかったヒバスヒメだ。あんな状況はヒバスヒメも望んではいないだろう。 どうしたものだろうか・…

  • 殉葬

    野見宿祢の自伝 24 アマテラス大御神の御魂は伊勢の地に祀られた。そして数年の時が経った。 その年の10月、陛下の同母弟であるヤマトヒコさまが薨去された。そして葬儀は11月に行われ、身狭桃花鳥坂(むさのつきさか)に陵墓を築いて葬られたのである。 その際・・・ 古式にのっとって、ヤマトヒコさまに仕えていた近習のものが、側近から下男下女までことごとく生きたまま陵墓の周りに埋められたのである。 高貴なものが薨じられた時は、あの世に行っても永遠に主君にお仕えするよう、近習のものを生きたまま殉葬するのが古来よりの習わしだった。 この時、埋められた近習のものの叫びは夜となく昼となく響き、数日にわたって続い…

  • 伊勢の地に

    野見宿祢の自伝 23 アマテラス大御神の御魂はヤマトヒメさまに託された。ヤマトヒメさまは大御神の魂の鎮まるところを求めて各地を旅していた。 ヤマトヒメさまからは逐次、状況について便りが届いていた。 ヤマトヒメさまは宇陀の筱幡(ささはた)に一旦落ち着いたそうだが、そこも大御神が鎮まるにふさわしい地ではなかったという。 そこから近江から美濃へと、渡り歩いたそうだ。 そして、伊勢の国に至ったときのことである。 その日の朝、伊勢の東の海から日が昇ってきた。その時、ヤマトヒメさまの心の中に、凛とした声が響いてきたそうだ。 「神風がそよぐこの伊勢国は、常世からの波も打ち寄せ、大和にもほどよい近さにある良い…

  • アマテラスを祀る

    野見宿祢の自伝 22 ホムチワケさまも言葉をしゃべれるようになり宮中が落ち着いてから、数年がたったある日のことである。 わたしは陛下に呼ばれ、御前に進み出た。すると陛下は 「先帝の崇神天皇は賢く聡明な聖帝であった。とても慎み深く、良き政治を行い真摯に祭祀を行った。このため人民は栄え、国は豊かになった。 今、我が御代においても、天神地祇をしっかりお祀りしなければならない」 と、仰せになった。 そのうえで 「実は、アマテラス大御神をお祀りしなければならないのだ。今日、朝廷付きの神官から連絡があった。急ぎアマテラス大御神の御霊を鎮めなければ、またこの日本に災厄が降りかかるだろうと、占いに出ているとい…

  • ヒナガヒメの正体は・・・

    野見宿祢の自伝 21 「ホムチワケは大和の宮殿に帰っている。ノミもすぐ帰れ」と陛下から勅使が届いた。 ホムチワケさまは我々に何も告げることなくおひとりで大和に帰ったのか・・・何故・・・わたしは訳が分からなかった。 とにかくその日のうちにわたしはあわただしく出立し、大和への道を急いだのだった。 大和に帰り、御前に出廷すると、そこには陛下の横に、ばつの悪そうな顔をして控えているホムチワケさまがいた。 「ノミ、ご苦労だったな。おかげでホムチワケも言葉が話せるようになった。感謝するぞ」 陛下が仰せになる。 「恐れ入ります。しかし・・・それにしても、ホムチワケさまがわたしに何の知らせもなく大和に帰られた…

  • ホムチワケさまがいない!

    野見宿祢の自伝 20 さて、ホムチワケさまが言葉を話せるようになり、そのことを大和に急使を立てて知らせた翌日。 その日、ホムチワケさまは少数の従者だけを連れて散歩に出かけていた。わたしは斐伊川の仮宮にとどまり、オオクニヌシの神殿の建て替えや今後の祭祀について、息子で出雲国造のキイサツミと打ち合わせをしていた。 その日の夕方、出かけていたホムチワケさまが帰ってきたのだが・・・一人の美しい、若い娘も一緒に連れて帰ってきたのだ! 「ホムチワケさま・・・そちらの娘さんは・・・?」 あっけにとられたわたしが尋ねると・・・ 「ヒナガヒメと言ってな、小川で水くみをしていたところをわたしが見初めて、后にするこ…

  • しゃべった!!

    野見宿祢の自伝 19 わたしはホムチワケさまのお供をして、わたしの故郷である出雲の国に来ていた。 「父上、お久しぶりです。大和のほうから伝令が来て、話は承っております」 出迎えてくれたのは、わたしの息子であり、わたしの後を継いで出雲国造を務めているキイサツミだった。 さっそく我々はキイサツミの案内でオオクニヌシの大神の神殿に出向き、そこで一心に 祈りをささげた。朝廷の責任において神殿を建て替えることも約束した。 その日の夜。 キイサツミはホムチワケさまのために、斐伊川のほとりに仮宮を建てて宴を開いてくれていた。 仮宮の周囲は青葉で盛大に飾り付けがなされていた。 その仮宮でホムチワケさまにお食事…

  • 出雲へ旅立つ

    野見宿祢の自伝 18 わたしはホムチワケさまの伴として出雲に向かうことになった。 しかし、陛下は申されたのだ。 「果たして本当にオオクニヌシの大神を拝むと、ホムチワケが話せるようになるのか・・・今一度、占いで確かめよう」 そして陛下の命により朝廷専属の占い師が再び呼び出され、今度は誓約(うけい)による占いが行われたのだ。 陛下とホムチワケさま、それにわたしは占い師に連れられ、鷺巣池(さぎのすいけ)に来ていた。占い師は 「この大神を拝むことによりて確かな霊験があるのならば、この鷺巣池に住む鷺(サギ)、すべて落ちよ!」 占い師はそういうと、木にとまっていた鷺がバタバタ落ちて、死んでしまったのだ! …

  • 再び出雲へ

    野見宿祢の自伝 17 「陛下の夢に出てきた神は、出雲に鎮座されますオオクニヌシの大神でございます」 占い師は言った。 「出雲・・・というと、ノミ、そなたの出身地だな。そなたが出雲国造を退いて上京してからは、息子のキイサツミが後を継いでオオクニヌシの大神の祭祀を行っていると聞いておるが・・」 陛下が仰せになる。 「はい、左様でございます。実はオオクニヌシの大神が鎮座なさっている神殿はもうかなり古く、あちこちに傷みが出ております。以前より建て替えを検討してはおりますのですが、近年国が豊かになるとともに人心は神から離れ、思うように寄進が集めりませぬ。そのため現在は傷んだところを小修理しながらしのいで…

  • 「古事記の話」にお越しいただきありがとうございます

    ☆古事記を小説風に書き直してみました。 ☆古事記を基本としつつ、話によっては日本書紀や風土記の記述も取り入れながら話を構成しています。 ☆わたしは古代史好きの素人であり、学者でも専門家でもありません。ネットで調べ調しながら書いており、また皆様に興味を持ってもらえるよう、わかりやすく面白く編集しております。 そのため専門的・学術的な解釈から見れば間違っているところもあるかと思います。ご了承ください。 古事記の話 目次

  • 宮を修理せよ

    野見宿祢の自伝 16 白鳥を見ても、ホムチワケさまが言葉を発することはなかった。 陛下は大変落胆されていた。 そんなある日のこと、わたしは陛下に呼ばれた。 御前に出ると、陛下は 「ノミ、占いの準備をしてくれ」 と仰せになる。 「占い・・・でございますか?それはまた、どういうわけで?」 「うむ、夢を見たのだ」 そういって、陛下は昨夜見たという夢のことを話された。 なんでもその夢のなかで、一柱の神が出てきたそうだ。その神は 「そなたの皇子を我が宮に参らせるとともに、我が宮を天皇の宮殿のごとく修理せよ。そうすればそなたの皇子は言葉を話すようになるだろう」 それだけ言って、消えてしまったということだ。…

  • 白鳥は飛んで行く

    野見宿祢の自伝 15 それまで一言の言葉も話さなかったホムチワケさまは、空を飛ぶ白鳥を見て「ああ・・ああ・・」と仰せになった。 これを聞いた陛下は、大変な喜びようだった。 「おい、ノミ!聞いたか!ホムチワケがしゃべったぞ!」 「はい、確かに・・・」 「ホムチワケはあの白鳥を見てしゃべったんだ!!あの白鳥をとらえてホムチワケに見せれば、もっといろいろ言葉を話すようになるかもしれん・・・ ノミ!オオタカに命じて、あの白鳥を負わせるんだ!急げ!!」 「は!」 わたしは急ぎ、オオタカに陛下のご命令をつたえるために走った。オオタカは足が速く、鳥を生け捕りにすることにかけては何物にもかなわない名手である。…

  • 言葉を話さないホムチワケ

    野見宿祢の自伝 14 サホビコの反乱から十数年の時が経った。 陛下はサホビメさまの後、后とされたヒバスヒメさまと一緒に過ごされていた。陛下はサホビメさまと同じように、いやそれ以上にヒバスヒメさまを寵愛されていた。 そして、サホビメさまの忘れ形見となった皇子、ホムチワケさま。 陛下も、また義母となったヒバスヒメさまも、ホムチワケさまには深い愛情を注いで養育されていた。 わざわざホムチワケさまのために、尾張の相津(あいつ)に二俣に分かれた杉が生えているときけば、わざわざ伐採させて取り寄せた。そして二俣舟を作り、それを大和の市師池(いちしのいけ)や軽池(かるのいけ)に浮かべては、ホムチワケさまをその…

  • 悲劇、再び・・

    野見宿祢の自伝 13 サホビコの反乱は、陛下が率いる皇軍によって鎮圧された。 しかし、同時に陛下が寵愛していた后のサホビメさまも亡くなってしまった。 陛下のお悲しみは、見ていてもお気の毒なほどであった。表向きは公務に精を出していたが、その陰でサホビメさまへの思いは陛下の胸から離れなかったのだろう。陛下がおひとりになると、憂いに満ちた表情とともに大きなため息をつかれることが多々あった。 そんな折、丹波の国からミチノウシの娘4人が到着したとの報が入った。 サホビメさまは亡くなる間際、ミチノウシの娘をご自分の後の后として迎え入れるよう、陛下に進言しておられたのだ。 さっそく4人の娘は陛下の御前に通さ…

  • 最期

    野見宿祢の自伝 12 サホビメさまは後ろを振り向き、屋敷の中に入ろうとされていた. 陛下は慌てて叫ぶ 「待て!サホビメ!これを見ろ!お前との固い絆を誓って結んだ衣の紐だ!これをお前以外の、誰がほどくというのだ!!」 しかしサホビメさまは陛下に背を向けたまま、静かに話された。 「丹波に居りますミチノウシの4人の娘は、心は清く陛下に忠実な娘です。この娘たちにほどいてもらえばいいでしょう」 そういうと、サホビメさまは屋敷の中に入ってしまわれた。 「待て!待ってくれ、サホビメ!!」 陛下はサホビメを追っていこうとされる。 ・・・これはいけない、もう限界だ・・・ そう感じたわたしは、意を決して陛下の前に…

  • 御子の名前は

    野見宿祢の自伝 11 「サホビメ!聞こえるか!! 余の声が聞こえたら、門の外に出てきてくれ!!」 陛下はサホビコの屋敷に向かって叫ぶ。 ・・・どのくらいの時が立っただろうか・・・ サホビコの屋敷の門が開いた。そして出てきたのだ・・・サホビメさまが。しかしサホビメさまの両脇には、サホビコ軍の屈強な兵士が護っている。 「サホビメ・・・お前は余の后だ・・・帰ってきてくれ・・・」 陛下は泣くような声でサホビメに向かって仰せになった。 しかしサホビメさまは、悲しそうにうつむき、首を振って答える。 「陛下・・・大変お世話になりました・・・陛下のご寵愛、本当にうれしく思います・・・ ・・・しかし、わたくしは…

  • 天皇の叫び

    野見宿祢の自伝 10 サホビメさまを奪還する作戦は失敗に終わった。陛下の落胆は、見るに忍びないほどだった。 陛下は茫然とされていた・・・ ・・・しかし、陛下の心中は察するに余りあるが、そうかといって陛下がこのご様子では兵の士気にもかかわる・・・ わたしは陛下のおそばにより、声をかけた。 「陛下、これからいかがいたしましょうか?」 しかし、陛下は何も答えずに、力なく立ち上がったかと思うと・・・ふらふらと歩きだし、サホビコの屋敷に向かって行ったのだ! わたしはあわてて陛下に声をかける。 「陛下!それ以上前に行かないでください!それ以上行くと敵の矢に狙われます!!」 すると、陛下は立ち止まったかと思…

  • サホビメ奪還なるか?

    野見宿祢の自伝 9 サホビコの屋敷の扉が開いて、サホビメさまが出てきた。赤子を抱いている。 サホビメさまは仰せになる。 「陛下・・・陛下の御子でございます。どうぞ、お引き取りくださいませ」 そこで、陛下は選抜した兵士に「行け!」と命令される。 この兵士らはあらかじめ力が強く動きも俊敏なものを選抜しておいたもので、御子だけでなくサホビメさまも力づくで連れてくるように陛下から命令されていた。 兵士らはゆっくりとサホビメさまに近づいていく。 兵士らがサホビメさまの前まで来ると、サホビメさまは抱いていた御子をそっと差し出し、一人の兵士が御子を受け取った。 サホビメは御子を引き渡すと、振り向いて屋敷に戻…

  • サホビメを連れてこい!

    野見宿祢の自伝 8 皇軍はサホビコの屋敷を取り囲んだが、それ以上動けず膠着状態に陥っていた。屋敷の中には陛下が寵愛するサホビメさまがおり、サホビメさまは陛下の御子を懐妊している。うかつには踏み込めない。 そのまま時だけが過ぎた。 そんな時、サホビコの屋敷から使者がやってきた。 使者が言うには、サホビメさまは出産されたそうだ。男の子、皇子だという。 「そうか・・・余の子が生まれたのか・・・」 陛下は難しい顔をして、つぶやくように仰せになった。 使者は続けて口上を述べる。 「サホビメさまは、御子を天皇の皇子としてお認めになるのならば、引き取って天皇陛下のもとで養育してほしいと仰せになっております。…

  • サホビメが懐妊!

    野見宿祢の自伝 7 陛下は自ら皇軍を率いてサホビコの屋敷まで進軍された。わたしも陛下のおそばについて馬を進めていった。 サホビコの屋敷まで進軍すると、皇軍はぐるりと屋敷を取り囲む。屋敷はうずたかく稲束が積み上げられて固く守られている。 そして屋敷の中には、陛下の后であるサホビメさまがいるのだ。陛下はサホビメさまをとても寵愛していらっしゃる。 なので屋敷を取り囲みはしたが、陛下は攻撃をかけることは躊躇されていた。しばらくそのまま時が過ぎた。 そんな時、サホビコの屋敷に潜入している密偵から報告が入ってきた。 「サホビメさまはご懐妊されています」 その報に陛下は驚かれたようだ。 「なに、懐妊!・・・…

  • サホビメがいない!

    野見宿祢の自伝 6 わたしは陛下からサホビコ追討のため軍勢の招集を命令された。 さっそくわたしは各所に指示を出し、兵士を集め軍備を整えさせた。それが終わると、陛下のもとに報告に行った。 「陛下、出陣の準備が整いました」 「うむ、ご苦労。それでは早速・・・」 陛下がそう言いかけたときのことだった。 そこに、陛下の側近の一人が慌てて駆け込んできた。 「陛下!大変です!お后様・・・サホビメさまが宮殿を抜け出し、サホビコの屋敷に入っていったそうであります!!」 「なに!本当か!!」 わたしも陛下も驚きの声を上げた。 「はい!間違いありません!攻撃に先立ちサホビコの屋敷を監視していた兵士からの報告です!…

  • サホビメと天皇の夢

    野見宿祢の自伝 5 陛下はその日の出来事をわたしに話された。 その話によると、陛下は激務でお疲れになっていた。そして、お后であるサホビメ様の膝枕で、お昼寝をされていたという。 その時、夢を見たそうだ。 その夢はというと、サホビメさまの出身地である沙本(さほ)のほうから急に雨が降ってきて陛下のお顔を濡らした。かと思うと急に錦色の蛇が現れて、陛下の首に巻き付いた、というものだった。 目覚めた陛下は、サホビメさまに夢の話をして 「何ともおかしな夢を見たものだ・・・サホ、これは何かの予兆なんだろうか?・・・」 と言われたそうだ。 すると突然、サホビメさまは泣き崩れてしまったという。 サホビメさまは鳴き…

  • サホビコを討伐

    野見宿祢の自伝 4 わたしとケハヤとの天覧相撲から数か月がたった。 天覧相撲のあと、わたしは出雲に戻ることなく、そのまま大和にとどまり陛下に仕えていた。出雲の祭祀と政務は、わたしの息子のキイサツミが引き継いでやってくれている。 ある日の午後、わたしは陛下に呼ばれた。 「ノミ、軍勢の準備をしてくれ。これからサホビコの討伐に向かう」 陛下が仰せになる。 これにわたしは不思議に思って陛下に尋ねた。 「サホビコさまと言うと、陛下のお后であるサホビメさまの兄君ですよね。陛下の従弟(いとこ)でもいらっしゃいます。そのサホビコさまを討伐とは、穏やかならぬ話でございます。一体どういうわけでございますか?」 「…

  • 相撲を取る

    野見宿祢の自伝 3 出雲から大和に上ってきた翌日。 宮殿の近くに、わたしとケハヤとの相撲の取り組みのため、土俵が作られていた。土俵のわきには陛下が着座されており、わたしとケハヤは陛下の侍従に従って陛下の御前に進み出た。 「ノミにケハヤ、ご苦労である。 ケハヤ、そなたの望み通り、最強の力士を出雲から招いたぞ。ノミ、遠い所をご苦労だった。 さあ、互いに存分に力を出して、相撲を取るがよい。勝者には望み通りの褒美を取らす」 わたしとケハヤは一礼して御前を離れ、土俵に上がった。わたしはケハヤと向き合う。 わたしもケハヤも、余計なことは何一つしゃべらなかった。ただ、ケハヤからは激しい気迫と闘志が発散されて…

  • 垂仁天皇に拝謁

    野見宿祢の自伝 2 わたしは大和に着くと、さっそく宮中に参上した。そして陛下の御前に通されたのだ。陛下の御名はイクメイリヒコ(垂仁天皇)、初代神武天皇から続く第11代目の天皇(すめらみこと)である。 「出雲のノミ、おもてを上げるがよい」 陛下の凛とした声が響く。わたしは顔を上げて陛下のお顔を拝した。 「遠い所をご苦労だった。そなたは出雲一の力持ちで、国造(くにのみやつこ)を務める傍らで相撲の修行に励んでいるそうだな」 「はい、恐れ入ります」 「そなたにわざわざ来てもらったわけは、そなたとケハヤとの相撲を見てみたいのだ」 こう言われて、陛下はケハヤのことをお話しされた。 なんでもケハヤは大和国の…

  • 野見宿祢の自伝 プロローグ

    野見宿祢の自伝 1 わたしの名はノミ。出雲国に生まれた。 わたしの家系は代々、出雲国造を務めている。その祖をたどると、アマテラス大御神の次男、ホヒにたどり着く。 はるかな悠久の神代の昔、ホヒは高天原から出雲国に降臨し、オオクニヌシの大神のもと初代の出雲国造となった。その子孫は代々、国造として出雲国の祭祀と行政を担当して来ている。そしてわたしは第13代の出雲国造を拝命した。 わたしは出雲国造としてオオクニヌシを祀り、大和の朝廷のもと出雲国を治めてきた。その一方で、わたしは相撲の修行にも励んでいた。 わたしは生まれつき大柄な体格をしており、物心ついたころには「力持ちの怪童」として出雲の国中で評判に…

  • お知らせ

    拙ブログをいつもご覧いただきありがとうございます。 しばらくお休みをいただいていた「古事記の話」ですが、明日5月14日から再開します。 第11代垂仁天皇の御代を、相撲の祖とされる野見宿祢の語りで綴っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 また、今回からの試みとして、 野見宿祢がツイッターのアカウントを開設いたしました!! 野見宿祢がスマホを持っていて、ツイッターでつぶやいたらこんな感じになるのかな・・・ と、想像しながら、ブログの進行に合わせて、野見宿祢に代わってタクロウがツイートしてまいります。 こちらのほうもどうぞご覧くださいませ。 twitter.com ≪古事記関連の姉妹サイ…

  • 策略を用いて

    オオビコの自伝 外伝3(タケヌナカワの自伝) 皇軍はヤサカシとヤツクシの護る砦をなかなか落とすことができなかった。逆に神出鬼没の奇襲攻撃を受け、わが軍の消耗は日に日に激しくなってきた。なんとかせねば・・・ そこで、わたしは策略を使って敵を落とそうと考えた。 まず、最初に私が誓約(うけい)を行った安婆(あば)まで全軍を退却させた。 そのうえで、兵士らの中から特に勇猛果敢な猛者を選抜し、敵軍の背後に回り込ませたのだ。彼らには十分な武器を用意し、準備万端ととのえて派兵した。 そして本隊は船を何艘も作り、いかだも連ねて海に繰り出したのだ。船やいかだには帆柱を高く立て、雲の下で旗を連ねて荘厳に飾り立てた…

  • 砦を攻撃する

    オオビコの自伝 外伝2(タケヌナカワの自伝) わたしは誓約(うけい)を行い、煙が流れて言った方向で、海の対岸の部族が朝敵か否か占おうとした。 その煙はというと・・・海のかなた、東の大海のほうに流れていった。 ・・・対岸の部族は朝敵だった。朝敵と判明した以上、討つには早いほうが良い。 わたしは翌朝、対岸の部族に奇襲をかけることにした。 翌朝、いつもより早く兵士らに食事をとらせた。それが終わると、わたしは皇軍を率いて小舟で湖を渡っていったのだった。 対岸に上陸すると、我々は村を襲撃した・・・しかし村はもぬけのからだった。男も女も子どもも、人っ子一人いない・・・いったいどうしたというのだ・・・ ・・…

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