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2019/03/26

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  • 選曲の良さに見る天才

    BudPowell/Swingin'WithBud(米RCARecordsLPM-1507)レッド・ロドニーの演奏する"ShawNuff"を聴いていてすぐに思い出したのがこのパウエルの演奏で、私の中ではこの曲の基準はパウエルのこのレコードになっている。もちろんパーカー&ガレスピーの演奏がマスターピースで、管楽器で演奏するのが正道だろうと思うけど、ピアノで弾くこの曲の良さには独特なものがあるのを証明している。ピアノ奏者が演奏している例は少ないようだけど、ビ・バップを作った面々の一人であるパウエルならではということなのだろう。バド・パウエルはモダン・ジャズ・ピアノの演奏スタイルを作った人なのでその路線で語られることがほとんどだけど、私はそういう話にはあまり興味がなくて、この人の音楽センスにシビれて心酔している...選曲の良さに見る天才

  • 数少ない作品の中の1つ

    RedRodney/Returns(米ArgoLP643)40年代からプロとして活動し、パーカーの傍にいることができたという僥倖に恵まれたにも関わらず、ドラッグで身を持ち崩し、50~60年代はその足跡がまともに残せなかったレッド・ロドニー。アルバムは12インチは3枚しか残っておらず、上手いトランペッターだっただけに何とも残念なことだ。シカゴのローカルメンバーをバックに録音されたこのアルバムはハードバップの豊かな香りが立ち込める名作。ビッグバンドや裏方の活動が主で自己のリーダー作を持たないビリー・ルートを迎えた2管編成の王道で、このレーベルのイメージにはそぐわない程の本格的なハードバップを聴かせる。パウエルの名演を想い出す"ShawNuff"で幕が開き、緩急自在な曲を並べる構成も見事でこのアルバムは非常によ...数少ない作品の中の1つ

  • 小ネタ集(Clef、Norgran編)

    最近レコード屋に行ってお店のご主人と話しをしていると、例外なく村上春樹さんの「デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」の話しがまるで口裏を合わせたかのように出てくる。それぞれの文脈は違えどこれだけ複数の人から同時にこの話題が出てくるのだから、その影響力はさすがだなあと思う。「じゃあ、クレフやノーグランのレコードは売れてます?」と訊くと、そこは意外とそうでもないらしい。まあ、買う側も「本は本だし」ということでそこは冷静なのかもしれない。DSMと言えばクレフやノーグランのレコードということになるけど、このレーベルのレコードについては昔から疑問に思っていることがあって、それが長年未解決のままで残っている。1.番号あり/なしのジャケットは2作品だけなのか?下のスタン・ゲッツとパーカーのレコードは、ジャケ...小ネタ集(Clef、Norgran編)

  • ジョー・ゴードンに見出されたアルト

    JimmyWoods/Awakening(米ContemporaryRecordsM3605)ジョー・ゴードンは最後のリーダー作にジミー・ウッズというアルト奏者を呼んだが、おそらくはこの時の演奏が注目されたのだろう、2か月後にほぼ同一のメンバーによる録音と別のメンバーによる録音が行われて1枚のアルバムが制作された。これがウッズの初リーダー作になる。ジョー・ゴードンとの演奏は今度はジミー・ウッズ側から見た音楽という切り口になっていて、ジョー・ゴードンはサポートに回っている。こちらもゴードンに倣ったかのようにウッズ自作のオリジナルが大半を占めており、意欲的な内容で聴き応えがある。楽曲はゴードンと同様にハード・バップからは脱した新しい感覚の音楽になっているが、ウッズ自身のアルトが同時期に出てきたドルフィーに少し...ジョー・ゴードンに見出されたアルト

  • あるトランペッターの進化(3)

    JoeGordon/Lookin'Good(米ContemporaryRecordsM3597)ジョー・ゴードンはシェリー・マンのバンドを経て1961年に2枚目のリーダー作を作るが、これが音楽的に見事な進化を遂げた傑作になっている。西海岸での録音だったのでコンテンポラリーが受け皿になっているが、このレーベルのカラーには馴染まない東海岸的なポスト・ハードバップで、この音楽的変遷はまるでマイルスのそれを思わせる。ここで聴かれる音楽はまるで現代のメインストリーマーたちがやっているような超モダンな感覚で、彼のエマーシー録音からの7年間はまるでジャズが辿った70年間に相当するかのような錯覚を覚える。このアルバムはジャケットにも記載があるようにスタンダードは排した全曲ジョー・ゴードンのオリジナルで、彼がトランペット奏...あるトランペッターの進化(3)

  • あるトランペッターの進化(2)

    ShellyMann&HisMen/AtTheBlckHawkVol.1(米ContemporaryRecordsM3577)ジョー・ゴードンのようなマイナーなアーティストになるとその詳細な足跡はわからないが、どうやら1958年に西海岸へ移ったらしい。どういう理由で西海岸へ行くことになったのかもよくわからないけど、西海岸には彼のようなブラウニー直系のトランペッターがいなかったからか、すぐに仕事に就くこともできたようで、亡くなる1963年まで彼の地で活動した。そして1959年頃からはシェリー・マンのバンドの常設メンバーとして参加するようになり、このバンドのカラーを変えることに成功している。それまでのシェリー・マンのバンドと言えば退屈な編曲重視のアンサンブルものが多く、各メンバーの実力が活かされることのない駄...あるトランペッターの進化(2)

  • あるトランペッターの進化

    JoeGodon/IntroducingJoeGordon(米EmercyRecordsMG-36025)ジョー・ゴードンは1963年に寝煙草が原因の火事で亡くなっている。リーダー作はこの1954年吹き込みのデビュー作を含めて2枚しかないので一般的知名度は限りなく低いが、サイドマンとしてはコンスタントに演奏が残っていて、当時は有能な演奏家として評価されていた。大体がこの"Introducing~"というタイトルで登場する人は将来を嘱望されていたケースが多く、その早すぎる死は惜しまれる。プロとして活動を始めたのが1947年ということだからまったくの新人というわけではなく、そろそろリーダー作を作ってもいいのでは、ということで吹き込まれたのだろう。演奏は堂々としたものであり、ラッパもよく鳴っている。1954年と...あるトランペッターの進化

  • 秋吉敏子の貴重な50年代ライヴ

    ToshikoAkiyoshi&LeonSash/AtNewport(米VerveRecordsMGV-8236)ジョージ・ウェインによって1954年に始められたニューポート・ジャズ・フェスティヴァルは現在も続いているのだから驚かされる。真夏の野外で催されるというのは我々の凝り固まったジャズというイメージには凡そ合わないが、アメリカはそういう価値観ではないのだろう。当時としては画期的だったようで、1958年には「真夏の夜のジャズ」として映画化もされる。原題には"Night"という単語はなく、「或る夏の日」というのが正確な訳になる。ノーマン・グランツの秘蔵っ子だった秋吉敏子もピアノ・トリオとして出演しており、その様子がこのレコードに収められている。写真で見ると和装だったようで、真夏の野外なのに何とも気の毒な...秋吉敏子の貴重な50年代ライヴ

  • Argoレーベルの良さが感じられる

    NormanSimmons/NormanSimmonsTrio(米ArgoRecordsLP-607)ノーマン・シモンズはシカゴのローカル・ミュージシャンで、かの地を訪れたミュージシャンの受け皿として共演したり、著名な歌手の歌伴を務めたりしていた。野心を持ってニューヨークへ出て、ということはしなかったようで、そのため50年代のリーダー作はこの1枚しか残っていない。これと言って特徴のあるピアノが聴けるわけではなく、ごくごく普通に小気味よく明るい演奏に終始している。他の名の知れた歌伴ピアニストたちなんかと共通するところが感じられる。フレーズが平易でわかりやすく、タッチも柔らかく、穏やかな表情だ。他のアーティストたちと熾烈な競争して生き残っていくというような生活とは無縁の、地に足のついた演奏活動をしていたのだろ...Argoレーベルの良さが感じられる

  • 音の中に潜む何か

    CharlieParker/BigBand(米ClefRecordsMGC-609)チャーリー・マリアーノやドン・セベスキーらが先のアルバムを制作した際、当然ながらこのアルバムのことが年頭にあっただろうと思う。パーカーが残したアルバムの中でも屈指の1枚としてその頂は音楽家の前に聳え立つ。それでも録音しようとしたのだから、マリアーノも大したものだと思うが、さすがにこれと比べるのは酷というものだ。ノーマン・グランツは興行師だったのでアルバム制作にも優れた企画力を発揮して、その結果、他のレーベルでは聴けないようなタイプのアルバムが残っている。ストリングスやビッグバンドをバックにソリストに吹かせるというのもステージジャズの発想だけど、こういうのは3大レーベルでは考えられない。結局ヴァーヴのこれらの形が雛型として後...音の中に潜む何か

  • マリアーノの肖像に相応しい

    CharlieMariano/APortraitOfCharlieMariano(米ReginaRecordsLPRS-286)ラージ・アンサンブルやストリングスをバックに朗々と吹く、というのはアルト奏者にとっては1つのステータス若しくは憧れだったのかもしれない。パーカーが確立したこのスタイルを踏襲した人は多く、アート・ペッパー、ポール・デスモンドやフィル・ウッズもやったが、このマリアーノも例外ではなかった。レコーディングには金がかかるので誰でもやらせてもらえる訳ではなく、エスタブリッシュメントにしか叶わないアルバムだが、その割には一般的に人気がない。マリアーノは最高のトーンで自由自在に歌っていて、素晴らしい。単なるスタンダード集ではなく自作も持ち込み、音楽的な深みを出している。ドン・セベスキーのスコアも...マリアーノの肖像に相応しい

  • サル・サルヴァドールの最高傑作はこれか

    SalSalvador/Starfingers(米BeeHiveRecordsBH7002)サル・サルヴァドールと言えばキャピトルやベツレヘムにレコードが残っていてエサ箱ではお馴染みの人だが、これがどれを聴いてもつまらない。フィンガリングはなめらかでソツなく上手いギターだが、自身の音楽として確立されているものがなく、聴き処がない。結局持っていてもまったく聴くことはなく棚の肥やしになるだけなので、レコードが我が家の棚に残ることはなかった。ところがこの「その筋の人的ジャケット」のレコードを聴いてぶっ飛んだ。これがサイコーにいい。サルヴァドールが目当てでではなく、私の好きなエディ・バートが参加していること、"Nica'sDream"や"SometimeAgo"など好きな曲が入っていることなどから聴いてみたのだが...サル・サルヴァドールの最高傑作はこれか

  • もし、ロリンズがバンドメンバーだったら

    MilesDavis/Collector'sItems(米PrestigeRecordsPRLP7044)新年の縁起物、マイルス・デイヴィスである。この人の場合、何かそれくらいの理由を付けなければなかなかブログに書こうという気にならない。特に、このアルバムのような誰からも顧みられないものになると尚更である。A面は53年、B面は56年の録音でどちらもロリンズとの演奏だが、53年の方はパーカーがテナーを吹いて参加していることで知られている。契約関係がなかったから、覆面ミュージシャンとしての参加になっている。テナーの音色はあまりパッとしない感じだが、吹いているフレーズが如何にもパーカーらしいもので、サックス奏者には各々固有の言語があるのだということがよくわかる。ただこの53年の方は音楽的に聴くべきところはないし...もし、ロリンズがバンドメンバーだったら

  • 懸案盤の緩やかな解決

    OrnetteColeman/TheShapeOfJazzToCome(米AtlanticRecordsSD1317)今年のレコード漁りで個人的なトピックスの1つは、このステレオ盤を拾えたことだった。このアルバムのモノラル盤の音の悪さに気が付いたのはCDを聴いた時で、これはどうしてもステレオ盤を探さねばと長年探していたのだけれど、これがまったく見つからない。並みいる有名な稀少盤もこのステレオ盤の足元にも及ばないなあ、とここ数年はもう探すことすら諦めていた。そういう個人的な懸案の1枚が今年ようやく解決した。楽器の音色の輝きが増し、音楽の高級感がアップして聴こえる。無理やり中央に音像を寄せ集めた感じからは解放されて、音楽が自然な様子で空間の中を舞っているように変わった。これでようやくモノラルとはおさらばできる...懸案盤の緩やかな解決

  • ラジオデイズレコード 初訪問

    親戚の法要で12/23(土)~24(日)は名古屋に行っていたが、その隙間を縫ってラジオデイズレコードへ行ってきた。以前から1度行ってみたいと思っていたレコード屋さんだった。オールジャンルを取り扱っているが、ご店主はジャズのコレクターなので、きっとジャズの中古が充実しているのだろう、と思っていたからだ。店頭に出ている商品数自体は多くはないが、お店の規模感や他ジャンルとのバランスからすればこのくらいが妥当というところなのだろう。私好みのタイトルの在庫が複数あって、それ以外に買い換え目的の物も含めて、何枚か手にすることが出来た。初めて訪れたお店でこういう経験ができるのはうれしいものである。これからは時々名古屋に来ることになるので、またお邪魔したいと思う。帰りの新幹線の中でつらつらと考えてみると、特に目当てのもの...ラジオデイズレコード初訪問

  • トニー・ベネットを偲んで

    TonyBennett/Snowfall(日本CBS・ソニーレコードSONX60088)先日亡くなったトニー・ベネットの最初のクリスマス・アルバム。と言っても1968年発売で、他のビッグネームと比べると遅いリリースだ。経緯はよくわからないが、クロスビーやシナトラ、ナット・キング・コールらの有名アルバムがある中では制作に慎重だったのかもしれない。メル・トーメやサラ・ヴォーンもこの時期にはアルバムを作っていない。おそらく、アメリカではポピュラー歌手たちが数えきれないほどのクリスマス・アルバムを作っていただろうから、そういう有象無象とは一線を引いたものにしなければという自負があったのかもしれない。私が子供だった頃に比べると、最近のクリスマスはその有難みのようなものは随分と希薄になってしまったような気がする。昔は...トニー・ベネットを偲んで

  • 2nd ジャケット愛好会

    私の経験上、オリジナルだ、初版だ、と騒いでいるうちは白帯。再発盤もオリジナルと同じように愛でることができるようになって、初めて「レコード愛好家」を名乗って黒帯を締めていい。特にセカンドプレスあたりは製造時期がさほど離れているわけではないので、オリジナルとはまた別の風格というか独自の質感あって、愛すべきレコードたちである。そこに気付くことができるのはこの趣味に気持ちの余裕をもって接しているかどうか次第。オリジナルを追求するのはもちろん楽しいが、度が過ぎて視野狭窄に陥ってしまうとこの趣味の愉しさは半減する。セカンドプレスがいいのはそういう風格の良さだけではなく、値段が安いこと。オリジナルではない、ということだけで値段は大幅に下がる。ここに載せたものは、すべて5千円未満だった。ジャケットデザインは私はこちらの方...2ndジャケット愛好会

  • ジャケット・デザインに惚れて聴く

    HamptonHawes/Vol.2,TheTrio(米ContemporaryC3515)ジャズ界屈指のジャケット・デザイン。最も好きなジャケットの1つだ。麻薬中毒者らしく痩せぎすで退廃的な姿がモノクロの風景の中に浮かび上がる。モノトーンのレタリングが背景にうまく溶け込み決まっている。1955~56年にかけて録音された複数の演奏が3分冊にまとめられたよく知られた内容だが、選曲的にもこの第2集が一番いい。"あなたと夜と音楽と"で始まるというのが何ともいい。この人は自身のピアニズムで聴かせる人ではないので、選曲が重要になる。自分の好きな楽曲が入っているアルバムを選ぶといいのだろう。ロイ・デュナンの録音だが平均的なモノラルサウンドで際立った特徴は見られないが、レッド・ミッチェルのベース音がよく効いていてトリオ...ジャケット・デザインに惚れて聴く

  • ビ・バップの後継者としての正当性

    GeorgeWallingtonQuintetwithPhilWoods,DonaldByrd/JazzForTheCarriageTrade(米PrestigeRecordsPRLP7032)当時の新進気鋭だった若い管楽器奏者を迎えて自己名義のグループとして録音したこの演奏は、メンバーが白人優勢だったこともあり、とてもすっきりとした清潔感のあるハードバップに仕上がっている。非常に素直で気持ちのいい演奏で、若者の純粋さを強く感じる。この時のバンドのレギュラードラマーは白人のジュニア・ブラッドレイだったが、レコーディング時は不在だったため代わりにアート・テイラーが参加したが、この代打起用は功を奏していて、ドラムの演奏が非常にしっかりとしているおかげで演奏全体が堅牢だ。ウォーリントンのピアノが真水のようにクセ...ビ・バップの後継者としての正当性

  • 騎士の音楽とは何か

    GeorgeWallington/KnightMusic(米AtranticRecordsSD1275)マーク・マーフィーが歌った"Godchild"って、ジョージ・ウォーリントンが作った曲だったんだなあ、と改めて感じ入りながら聴く。この人のピアノは音楽的表現力が乏しく、この演奏を聴いて歌いたくなるような感じはないけど、それを歌ってしまうところに彼の才能があったのだろう。ウォーリントンのピアノはまんまバド・パウエルだ。昔はクロード・ウィリアムソンが白いパウエルとよく言われて、私はいつも「どこが?」と思っていたが、このウォーリントンは指がまったく回らなくなったバド・パウエルそのもの。縦揺れして、ぶっきらぼう。フレーズの処理もバップ・ピアノの典型で、時代の変化についていけず早々と引退を余儀なくされたのはしかた...騎士の音楽とは何か

  • 後にも先にも例を見ない作品

    EllaFitzgerald/SingsTheGeorgeAndIraGershwinSongBooks(米VerveRecodsMGV-4029-5)昔、車のCMで使われたエラの歌う"SomeoneToWatchOverMe"が画面の優雅な映像とマッチしていて素晴らしく、聴き惚れた。しっとりと濡れて情感がこもった歌が本当に素晴らしくて、短い時間の歌声だったにもかかわらず釘付けになった。その歌声がここに収録されている。5枚組の豪華なボックス仕様で、EPが1枚、ハードカヴァーの解説書、ベルナール・ブュフェの絵画シートが5枚入った、狂気すら感じる装丁。ピカソのコレクターとしても知られるノーマン・グランツの究極の仕事である。そして、その激しい情熱を彼から引き出したのがエラの歌唱。1人の歌手のアルバムで5枚組とい...後にも先にも例を見ない作品

  • 慎ましいベース

    LeroyVinnegar/Jazz'sGreat"Walker"(米VeeJayRecordsVJLPS2502)「ベースの音が凄い」と騒がれたり、「ベースのプレイが凄い」と言われるレコードはよくあるが、このアルバムが取り上げられることはない。"サキ・コロ"での演奏が褒められたり、コンテンポラリーのリーダー作が有難がられはするけれど、このアルバムが褒められることはない。これはリロイ・ヴィネガーのそういう気の毒なアルバム。オーソドックスなピアノ・トリオだが、ピアノはマイク・メルヴォイン、ドラムはビル・グッドウィンという無名な面々というのがおそらくはその原因ではないかと思われる。演奏のありのままを何の先入観もなく享受するというのはなかなか難しいことだから、仕方ないのかもしれない。無名のピアニストとドラムなが...慎ましいベース

  • パシフィック・ジャズとピアノ・トリオ

    V.A/JazzPianistsGalore(米PacificJazzRecordsJWC-506)よくよく考えると、パシフィック・ジャズというレーベルはピアノ・トリオのアルバムをあまり作らなかった。ラス・フリーマンやドン・ランディなど少しは残っているけど、こういうのはジャズ専門レーベルとしては珍しい。大抵の場合、どのレーベルにも名盤100選に顔を出すような作品が1枚や2枚はあるものだが、このレーベルにはそういうアルバムは1枚もなくて、おそらくはリチャード・ボックの趣味ではなかったのだろう。それでもアルバムに収録しきれなかったものや、管楽器のセッションの合間に録られたピアノ・トリオの端切れが集められたのがこのアルバム。このレーベルにはこういうオムニバス形式のアルバムがたくさん残っているけど、そういうのもレ...パシフィック・ジャズとピアノ・トリオ

  • マーク・マーフィーとクラブ・ミュージック

    MarkMurphy/SugarOf97EP(オーストリアUptightUptight19.12)12インチEPという形でクラブDJRemixされた音源として97年にリリースされたようだが、この辺りの事情には暗くてよくわからない。ググってみてもこのレコードに言及している記事は見当たらないし、ChatGPTに訊いてみても「私の知識にはありません」との回答でこのビッグデータの時代に何たることだ、と驚いてしまう。スティーリー・ダンの"DoItAgain"で始まるうれしい内容だが、収録された3曲は打ち込みがミックスされたクラブで踊るための音楽になっている。私はこの手の音楽が結構好きなので、非常に楽しく聴ける。ジャズが欧州のクラブミュージックと融合して再評価されたことはジャズにとってもよかったんじゃないかと思ってい...マーク・マーフィーとクラブ・ミュージック

  • 最後の残り火

    NewYorkJazzSextet/GroupTherapy(ScepterRecordsSLP526)トロンボーン奏者のトム・マッキントッシュがプロデューサーとなり、アート・ファーマー、ジェームス・ムーディー、トミー・フラナガンらと1965年に録音したアルバムで、グループ名を名乗っているが単発のセッションだったようだ。60年代前半のフリー・ジャズ・ムーヴメントの反動でかつての主力メンバーたちがこうして主流派の音楽で巻き返しを図る動きがあったが、1度壊れてしまったものが元に戻ることはなく、下火のまま消えていくことになるが、その残り火の記録がこうして残っている。片面4曲と楽曲が短くなり、アドリブの面積も減り、ジャズという音楽の聴かせ所が変わってきている。"GiantSteps"に女性ヴォーカルのスキャットを...最後の残り火

  • サヴォイに咲いた徒花

    TheBobFreedmanTrio/PianoMoods(SavoyRecordsMG15040)サヴォイはピアノ・トリオのレコードを作るのが下手だった。ジャズ専門レーベルであれば、必ずと言っていいほどレーベルの軸となるようなピアニストを抱えて、アルバムを量産しながらそのピアニストを育てたものだが、サヴォイの場合はそういう姿勢がなく、場当たり的な対応しかしていない。それはおそらくオジー・カデナの音楽嗜好に依るものだったのだろう。どやらピアノ・トリオがあまり好きではなかったようだ。このボブ・フリードマンの場合もそうで、この10インチ盤を1枚作っただけでその後は放り出してしまっている。ジャケット裏面のライナーノートにカデナ自身がフリードマンの紹介を寄稿しているが、そこまでだった。そのせいでフリードマンのレコ...サヴォイに咲いた徒花

  • 永遠のポーギーとベス

    BethlehemPresentsGeorgeGershwin'sPorgyAndBess(米BethlehemRecordsEXLP-1)ジャズと親和性が高いフォーク・オペラとしてアルバムはたくさん残されているが、ジャズの世界ではマイルス、エラ・フィッツジェラルドに並んで、このベツレヘムが制作した全曲盤がトップ3だ。マイルスやエラのアルバムはエッセンスだけを抽出してまとめられたが、こちらはナレーションもきっちりと入った3枚組で、とにかく素晴らしい仕上がり。当時のレーベル契約アーティストの主要なメンバーが集められており、よくもまあここまで、と感心してしまう。そして何より音楽的に極めてレベルが高く、ダレることなく聴き通せるところが凄いのである。クラシックの名だたるオペラ・セットにも引けをとらない出来と言って...永遠のポーギーとベス

  • 分水嶺となったアルバム

    WyntonKelly/KelleyGreat(米VeeJayRecordsLP1016)昔からウィントン・ケリーの代表作の中の1枚に挙げられてきたが、その言い分には違和感を感じざるを得ない。どちらかというと、彼の限界を露呈したアルバムだろうと思う。レッド・ガーランドの正当な後継者としてマイルスのバンドに迎えられたが、タイミングとしては遅過ぎた。マイルスの音楽の発展の過程上、ケリーではそれを支えることが困難だったことは明らかで、それは当時のアルバムを聴けば明白だ。"KindOfBlue"から"MyfunnyValentine"~"Four&More"までの間の数年間はマイルスの音楽は1歩後退した時期で、結局それはハンク・モブレーやウィントン・ケリーというマイルスの音楽を次の時代へとドライヴすることが出来な...分水嶺となったアルバム

  • ジャンキーたちの虚ろな音楽

    SergeChaloff/BlueSrege(米CapitolRecordsT-742)1957年脊椎の癌で33歳という若さで亡くなったサージ・チャロフの記録は少なく、一番この人の実像がわかりやすく聴けるのが死の前年に録音したこのアルバム。当然、この時点で既に身体は癌に蝕まれていただろうし、それ以前に最後には克服したとは言え、元々が重度のへロイン中毒だったこともあり、身も心もボロボロだったはず。そんな彼の辞世の句がここには刻まれている。バリトンを太い音で鳴らすのではなく、強弱の陰影をつけて吹くやり方はアート・ペッパーに似ており、バリトン界では他にはあまり例がない吹き方だったように思う。バリトンという楽器にとってそれが効果的な吹き方だったのかどうかはよくわからないけれど、際立った個性ではあったと思う。ウディ...ジャンキーたちの虚ろな音楽

  • 4人の巨匠の曲はやはり名曲だった

    SamMost/PlaysBird,Bud,Monk&Miles(BethlehemRecordsBCP75)私はベツレヘムのレコードにはあまり興味がなく、思い入れもない。白人メインのラインナップで、その影響で退屈なアレンジものが多く、ジャズにとって大事な何かが欠けているような演奏が多い。レーベルを興したのがスイスからの移民だったことの影響かもしれない。レコードのモノとしての品質がいいのはドイツ人のアルフレッド・ライオンなんかと共通しているが、他の本流レーベルが見向きもしなかったアーティストばかりと契約してレコードをたくさん作った。ただそのおかげでジャズ・レコードの裾野は広がって、50年代のより多くのジャズの記録が残ることになったのはとてもよかったと思う。そんなアーティストの一人にマルチ・リード奏者のサム...4人の巨匠の曲はやはり名曲だった

  • オムニバスと誤解されているアルバム

    V.A/Rhythm+1(米EpicRecordsLN3297)エピックはハンク・ジョーンズ、ミルト・ヒントン、オジー・ジョンソン、バリー・ガルブレイスの4名のリズム・セクションを土台にして、セルダン・パウエル、ジーン・クイル、コンテ・カンドリ、ジミー・クリーヴランドをランダムに配置して録音した。この時のセッションは3枚のアルバムに分けて編集されており、1枚は管入りのこのアルバム、もう1枚はリズム・セクションだけのアルバム、残りはサヒブ・シハブのグループやロンネル・ブライト、レイ・ブライアントのセッションも混ぜて"AfterHourJazz"としてリリースされた。リーダーを立てていないが故にオムニバスと誤解されているが、これは明確なコンセプトに基づいて制作されたアルバムになる。3枚の中ではこのアルバムが一...オムニバスと誤解されているアルバム

  • "My Fair Lady" を巡るあれやこれや

    ShellyManne&HisFriends/ModernJazzPerformancesOfSongsFromMYFAIRLADY(米StereoRecordsS7002)ジャズも40年間聴いていると日々聴くのは地味なレコードばかりになっていて、定番のアルバムを聴くことはもうほとんどない。そういうのは耳タコになっていて初めの頃に感じた感動はもはや微塵も感じないからだけど、偶には溝の掃除もしなきゃ、と本来の目的とは全然違う動機で針を落とす程度だ。このアルバムも1年生の頃に夢中になって聴いたレコードで、シェリー・マンのドラムの凄さに腰が抜けたものだけど、今聴いてもこれは凄いよなと感心する。冒頭の"時間通りに協会へ!"の慌ただしい曲想を上手く表現した風圧を感じるドラミングからして圧巻だが、その後も全編を通して..."MyFairLady"を巡るあれやこれや

  • 新鮮な感覚が支える傑作

    ClarkTerry,BobBrookmeyer/Tonight(米MainstreamRecordsS/6043)クラーク・テリーとボブ・ブルックマイヤーというパッとしない2人のフロントでガン無視されるアルバムだが、これは傑作。クラーク・テリーに限らず、エリントニアン達は楽団から離れてアルバムを作るときは音楽の指向性がはっきりとせず、聴いていて唸るようなものはほとんどないし、ブルックマイヤーもモダンになり切れず、いつも大抵はもどかしい。そんな2人の弱点を補ったのがロジャー・ケラウェイ、ビル・クロウ、デイヴ・ベイリーの3人のバックで、非常に新鮮な感覚によるタイトな演奏がこのアルバムの大きな肝になっている。ややもすると「伝統に回帰した」演奏へとレイドバックしがちなこの2人をグイっと現代に引き戻して、同時代の...新鮮な感覚が支える傑作

  • 駄盤の典型

    MikeCuozzo/WithTheCostaBurkeTrio(米JubileeRecordsLP1027)サックスのワンホーンはジャズのフォーマットとしては最も理想的で名盤が生まれやすい形式だが、演奏者の力量がストレートに反映されるし、音楽的な変化をつけるのが難しいことから、名盤と駄盤がクッキリと分かれる。このアルバムは演奏者の力量の弱さがそのまま映し出された駄盤。マイク・コゾーはリーダー作を2枚残しただけで早々とこの世界からは退いているが、これではそれも仕方ないと思わせる。アドリブラインは凡庸で冴えがなく、音色も個性がなく魅力的とは言えない。エディ・コスタがピアノ1本で通しているのはよかったが、精細に欠けて音楽全体がぼんやりとしている。すべてを通して似たようなテンポが続いて1本調子でとにかく退屈極ま...駄盤の典型

  • レーベルが変わることで印象が変わるテディー・チャールズと共に

    JoeCastro/GrooveFunkSoul(米AtlanticRecords1324)ジョー・カストロはアトランティックにリーダー作を2枚残しただけなので、その実像はよくわからない。西海岸を拠点に活動していたようだが、これといってスポットライトが当たることもなく、ひっそりとその生涯を終えたらしい。一時期、テディー・チャールズと一緒に演奏をしていたようで、MetroJazzレーベルのロリンズのミュージック・インでのライヴ・アルバムの余白に収録されたテディー・チャールズの演奏のバックでピアノを弾いている彼の様子が捉えられている。私はテディー・チャールズを聴いていると粗さを感じてしまうので好んで聴くことはないのだが、このアルバムを聴いて彼のテナーも含めた音楽の良さに驚かされた。アップテンポの曲ではキレのよ...レーベルが変わることで印象が変わるテディー・チャールズと共に

  • R.I.P Tony Bennett

    TonyBennett/Cloud7featuringChuckWayne(米ColumbiaRecordsCL621)正直、いつ訃音が届いてもおかしくはない、と思っていたから大きなショックを受けたということはないけど、それでもトニー・ベネットが亡くなったのは残念なことだと思う。ここ数年、SNSで彼の情報は頻繁に流れていてその近況や様子などもわかっていたから、来るべき日が来たんだな、と静かに受け止めている。私は彼のことがとても好きで、20代の頃からずっと聴いてきた。歌手としてはシナトラなんかよりもずっと好きで、とても近しい存在だった。コロンビアにたくさんのレコードが残っていて、その大半は聴いたと思う。ベルカント唱法をベースにしたその歌声を聴くと、私の心の中の靄はどこかへ吹き飛んで、どこまでも透き通った青空...R.I.PTonyBennett

  • 抒情味に溢れる傑作

    ThadJones~PepperAdamsQuintet/MeanWhatYouSay(米MilestoneRecordsMLP1001)単純なリフとアドリブだけだったビ・バップがメロディーとハーモニーを取り入れてハード・バップへ移行したように、ハード・バップもいくつかに枝分かれしながら次のフェーズへと移行しているが、その支流の中に細々としながらもよりメロディアスで洗練された音楽へ発展したものがある。音楽的にはこの時期の果実が実は一番甘くて美味しいのだが、レコードがあまり残されていない。おそらく、ライヴなどではそれなりに演奏されていたのだろうとは思うが、やはりアルバムとして発表するには向かなかったのだろう。音楽家たちはより新しい音楽を発表して生存競争に勝ち残っていく必要があり、そのためにはそういう心地よさ...抒情味に溢れる傑作

  • ひんやりと冷たいカナダのジャズ

    MoeKoffman/The"Shefferd"SwingsAgain(米JubileeJGM1074)カナダのマルチ・リード奏者のモー・コフマンの最高傑作はおそらくこれ。ロクに相手にされない人で、そもそもレコードが出回らないから実態がよくわからないけど、メインがフルートというせいもあるかもしれないが、それにしてもあんまりだと思う。これも確かワンコインだったと思う。ピアノレスでエド・ビッカードを含むカナダ人リズムセクションをバックに、A面はフルート、B面はアルト、の各々ワン・ホーンで臨んでおり、ゆったりとしたミドル・テンポ以下の演奏が圧倒的に素晴らしい。フルートの音色は太く奥行きがあって美しく落ち着いているし、アルトはレニー・ハンブロのようになめらかで清らか。旋律はよく歌っていて陰影のつけ方もうまく、聴い...ひんやりと冷たいカナダのジャズ

  • チャーリー・マリアーノの好演

    FrankRosolino/FranklySpeaking!(米CapitolRecordsT-6509)私はウェストコースト・ジャズが嫌いでほとんど聴くことがないけれど、これは例外的に良くて、時々ターンテーブルに載せる。フランク・ロソリーノは非常に上手いトロンボーン奏者で、ビッグ・トーンでスライドさばきも音程も正確無比ですごいと思う。ここでもその上手さは炸裂していて、こんなにメリハリの効いたトロンボーン・ジャズはあまりない。トロンボーンは人気がない楽器だけど、これはそういうことを意識することなく聴けるアルバムだろうと思う。ただ、このアルバムのハイライトはチャーリー・マリアーノの好演だ。アルト特有の艶やかで輝かしく美しい音色がとにかく素晴らしい。紡ぎだされるフレーズが音楽を先導するように疾走する様子が見事...チャーリー・マリアーノの好演

  • 素晴らしいピアノ・アルバム

    RogerKellaway/AJazzPortraitOfRogerKellaway(米ReginaRecordsLPR-298)Reginaレーベルのこの"PortraitInJazz"シリーズはジャケットの趣味が悪く、まったく手に取る気になれないものばかりだけど、これは聴けば驚く傑作。新しい才能に出会った時に感じるあの独特の興奮が脳内を駆け巡る。硬質なタッチと斬新なフレーズで構成される演奏は素晴らしく、耳を奪われる。自作の楽曲が多いがどれもセンスがよく、音楽的な才能も十分。その高いレベルのピアニズムには鮮やかな輝きがあり、ピアノ音楽の愉楽がぎっしりと詰まっている。ピアノ・トリオ、ジム・ホールが加わったカルテット、ソロのバリエーションがあり、飽きることがない。ベースとドラムの記載がなく、公式には誰が演奏...素晴らしいピアノ・アルバム

  • コロナ禍があけて最初のコンサート

    コロナ禍があけてようやくコンサートが観れるようになったのはうれしい。海外からもアーティストが多く来日するようになった。そんな中、英国からお気に入りのエリアス弦楽四重奏団が初来日して、ベートーヴェン・サイクル(最近はドイツ語表記はしないらしい)をやるというので観に行った。本当は全日程観に行きたいけれど、平日メインの日程なのでそこは泣く泣く諦めて、全16曲の中でも最も好きな第12番と第14番をやる6/7(水)と6/10(土)の2日のみ観に行った。会場はサントリーホールのブルー・ローズで、ここは音響が今一つよくない室内楽向けホールなのであまり好きではなく、そこがちょっと惜しかったが、そんなことは言ってられない。弦楽四重奏団を聴くのは何といってもカザルス・ホールが最高だったけど、経営難から取り壊しになってしまった...コロナ禍があけて最初のコンサート

  • 管楽器との相性の良さ

    JohnLewis/TheWonderfulWorldOfJazz(米Atlantic1375)誰からも褒められることのない典型的な安レコだが、これがなかなか聴かせるいいレコードで、結構気に入っている。1960年に行われた3つの異なるセッションの寄せ集めで、楽器の構成も演奏者もバラバラというアルバムとしての不統一さに何か偏見があるのかもしれないが、でも実際に聴いてみるとジョン・ルイスという個性が1本のスジを通しており、不思議とまとまりがいい。ジョン・ルイスという人はインタビューを読むと非常に真面目な人だったことがわかる。音楽のことを真摯に考え、グループの運営に心を砕き、どうすれば観客を楽しませることができるかに心を寄せていた。そういう真面目さが良くも悪くもその音楽に色濃く反映されていて、それが賛否両論を引...管楽器との相性の良さ

  • ジャズ・ピアノとしての弱さ

    RandyWeston/TrioAndSolo(米RiversideRLP12-227)お洒落なスーツにオレンジ色のシャツ、背後にはクラシック・カー、とわざわざこのアルバムジャケット用に写真を撮っている。リヴァーサイドはカタログの初期にランディー・ウェストンのアルバムを立て続けに出していて、異例とも言える好待遇をしている。彼のレコード・デビューはこのリヴァーサイドだったようなので、キープニューズの新人発掘力の賜物だったのかもしれない。他のレーベルがまだ手を付けていない才能を紹介するというのはレーベルにとっては大事なパブリシティーになるだろうし、当時三顧の礼をもって迎えたセロニアス・モンクとよく似た個性を持つこのピアニストは、キープニューズの眼には大きな逸材として映ったのかもしれない。ただ、このリヴァーサイ...ジャズ・ピアノとしての弱さ

  • 実は傑作(3)

    V.A/TheSoulOfJazzPercussion(米WarwickW5003ST)錚々たるメンバーが参加しているが、誰のリーダー作でもなく、パーカッションというキーワードを出していることから顧みられることなく、スルーされる不幸なアルバム。メンバーはビル・エヴァンスを筆頭に、カーティス・フラー、ドナルド・バード、ブッカー・リトル、ペッパー・アダムス、ドン・エリス、マル・ウォルドロン、フィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、アディソン・ファーマー、その他ラテン系が参加していて、楽曲によって演奏するメンバーの組み合わせが変わるという万華鏡的スリルがある。ラテン音楽を基調にしようとするコンセプトになっているが、実際はラテン臭さはなく、ハード・バップが主軸になったとてもいい内容だ。ビル・エヴァンス...実は傑作(3)

  • 評価は一旦お預けのレコード

    BookerLittle/BokkerLittle4&MaxRoach(米UnitedArtistUAL4034)ブッカー・リトルとジョージ・コールマンの演奏が聴ける貴重な音源だが、音が良くなくて演奏の良さがさっぱりわからず興ざめする非常に残念なレコードだ。ステレオ録音したものをモノラルへミックスダウンした際に失敗したような感じの音がこもり具合で、楽器が音が死んでいる。ルイス・メリットという人が録音技師を務めていて、マスタリングをやったのが誰かは記載がないけれど、この人は1959年にUnitedArtistからリリースされたレコードの多くを手掛けていて、その中のサド・ジョーンズの"MotorCityScene"やセシル・テイラーの"LoveForSale"、ジョージ・コールマンの"DownHomeReun...評価は一旦お預けのレコード

  • ライムライトという語感に沿う音楽

    MiltJackson/BornFree(米LimelightLM-82045)1966年12月の録音だが、この頃になるとハードバップは完全に蒸発してその姿は見えなくなり、ジャズ界にはまったく違う風が吹くようになる。主にこの時代を20代として過ごした若者たちによってその新しい風は吹かされていて、30代の大人たちは何とか上手く乗り切っていたが、ミルト・ジャクソンのような40代になるとなかなか厳しかったようだ。色々と試行錯誤していたが、根っからの新しい音楽にはなり切れなかった。ただ、そういうニュー・タイプは難しくても、かつてやっていたメロディー重視の音楽をベースにそれを発展させるタイプになると、このアルバムのように独自の良さが発揮されるものも現れ始める。盟友のジミー・ヒース、当時は期待された若者の1人だったジ...ライムライトという語感に沿う音楽

  • フィリー・ジョーの最高傑作

    PhillyJoeJones/DrumsAroundTheWorld(米RiversideRLP12-302)フィリー・ジョー・ジョーンズはリヴァーサイドに3枚のリーダー作を残しているが、このアルバムがダントツで出来がいい。おそらく、こんなに豪華なメンバーが集まって演奏をしたアルバムは他のどこにもないのではないだろうか。ドラマーとして多くの管楽器奏者を支えてきたこの人のためなら、ということで集まったメンバーたちは当時のジャズ・シーンを支えていた重要なメンツばかりで驚かされる。冒頭のリー・モーガンのソロが爆発してキャノンボールに渡すところなんてもう最高にカッコいい。このアルバムでのモーガンとキャノンボールは最高の演奏を聴かせるが、これはやはりフィリー・ジョーのドラミングが背後から彼らを煽り立ててくるからだろ...フィリー・ジョーの最高傑作

  • セカンド・プレス愛好会(2)

    JohnColtrane/ALoveSupreme(米Impulse!AS-77)どうもこのレコードはオリジナルに縁がない。他のタイトルに比べてプレス数が少ないということはないと思うけれど、なぜか私の場合は巡り合わせが悪い。まあ、誰しもそういうタイプのレコードがあるんじゃないかと思う。尤も、インパルスの場合はこのセカンド・レーベルのプレスであってもオリジナルとの質感にあまり差はない。ジャケットや盤の手触り感もそうだし、VANGELDER刻印があれば音質も特に違いはないように思う。個体差はもちろんあるけれど、ただ貼っているラベルの種類が違うという程度のことに過ぎないのではないか。なので、さほど不満もなく長年この版で聴いている。「至上の愛」という邦題の語感の影響を多分に受けて最高傑作と言われてきたけれど、どう...セカンド・プレス愛好会(2)

  • R.I.P アーマッド・ジャマル

    AhmadJamal/PortfolioOfAhmadJamal(米ArgoLP2638)アーマッド・ジャマルが92歳で逝去したが、SNSでは海外からの哀悼のコメントはたくさん流れているのに比して、日本からの惜しむ声は圧倒的に少ない。チック・コリアやショーターの時とは大違いだ。それが不憫で、申し訳ないとさえ思えるので、こうしてアーマッド・ジャマルのことを書いている。マイルス・デイヴィスの逸話があるので、ジャズが好きなら誰しも1度はジャマルの音楽を聴いているはずだ。恭しい気持ちを抱きながら最初はレコードを聴いただろう。ところが実際に聴いてみると、それがイメージとはかなりかけ離れていることに戸惑うことになる。あのマイルスが一目置いたのだから、もっと深みのある凄い音楽だと思っていたのだが、というのが大方の感想だ...R.I.Pアーマッド・ジャマル

  • フランク・ストロージャーがいたユニット

    WalterPerkins'MJT+Ⅲ(米VeeJayVJLP-1013)ウォルター・パーキンスと言えば、まずはアーマッド・ジャマル・トリオを思い出すことになるけど、あまり知られていないながらもこの"MJT+Ⅲ"というレギュラー・グループを一時期率いていた。ベースのボブ・クランショウと彼が双頭リーダーとなり、ハロルド・メイバーンのピアノ、フランク・ストロージャーのアルト、ウィリー・トーマスのトランペットという2管編成で上質なハードバップを演奏した。アルバムは4枚残していて、最初のアルバムはメンバーが違っていて演奏が地味だが、2枚目となるこのアルバムからはメンバーが固定されて管楽器演奏のレベルが格段に跳ね上がる。演奏がしっかりとしていてどれも聴き応えがあるが、音楽的にはこのアルバムが一番出来がいい。フランク...フランク・ストロージャーがいたユニット

  • アート・ファーマーらしいレコード

    ArtFarmer/LastNightWhenWeWereYoung(米ABC-ParamountABC-200)このアルバムは1957年4月24日と29日にニューヨークで録音されている。クインシー・ジョーンズの編曲を小編成の弦楽隊が上品に演奏する中、ファーマーは穏やかにメロディーを奏でる。ピアノはハンク・ジョーンズで、バリー・ガルブレイスも加わるなど、全体が洗練と上質の極みのような雰囲気だ。57年のニューヨークと言えばハード・バップがピークを迎えていた時期だが、そんなのはどこ吹く風と言わんばかりに、ファーマーは優し気にスタンダードを歌っている。アート・ファーマーはキャリアの早い時期からレコーディングの機会に恵まれていて、レコードはその生涯を通じてたくさん残している。駄作と呼べるようなものはなく、どれも一...アート・ファーマーらしいレコード

  • ソフィスティケートな音楽の系譜

    TaddDameron/Fontainebleau(米PrestigePRLP7037)私にラージ・アンサンブルの良さを教えてくれたアルバム。ジャズの何たるかがわかっていなかった学生時代に聴いた時からずっと大好きだった。そして、ジャズという音楽においても楽曲の良さというのが如何に大切か、を知ることになったアルバムでもある。タッド・ダメロンが若々しく活躍した時期はスイングからビ・バップへ移行する時期で、その演奏がほとんど残っていない。クインシー・ジョーンズの先駆けのような人で、自身の楽器演奏力には早々に見切りをつけて、作曲や編曲の領域に軸足を置いたというせいもある。それでも、あと5年遅く生まれていれば彼のレコードはもっとたくさん残っただろうに、と思えるだけになんとも残念でならない。このアルバムでは貴重な彼の...ソフィスティケートな音楽の系譜

  • セシル・ペインとデューク・ジョーダン(5)

    RolfEricson/AndHisAllAmericanStars(米EmercyMG-36106)れっきとしたロルフ・エリクソンのリーダーセッションなのに、タイトルをこうせざるを得ないほど2人の音楽に支配された内容になっている。そのおかげで、このアルバムは非常に優れたアメリカのハード・バップの名盤に仕上がった。ロルフ・エリクソンは1947年から約10年間、アメリカで活動している。ジャズを志すならアメリカに行かねば、ということだったのだろうか、チャーリー・バーネットやウディー・ハーマンのオーケストラで研鑽を積み、その後は西海岸へ行き、様々なセッションや録音に参加している。そして1956年の春にスエーデンに戻り、当時渡欧中だったジョーダンやペインらとすぐにスタジオに入り、これらの録音をした。現地ではメトロ...セシル・ペインとデューク・ジョーダン(5)

  • R.I.P Wayne Shorter

    WayneShorter/WayningMoments(米VeeJayVJLP3029)想えば若い頃から既に巨匠の雰囲気が漂う不思議な人だった。外見の風貌にもそんなところがあったが、何より彼が演奏に参加した途端、音楽からはそれまで聴き慣れたものとはどこか違うムードが漂った。演奏そのものは革新的だったというわけではなく、どちらと言えばオーソドックスなプレイの側に立脚していたけれど、操る言語はそれまでのテナー奏者とは明らかに違っていたし、演奏から発せられる匂いのようなものが独特で、それがその音楽を今まで見たことが無いような色彩に染めてしまうようなところがあった。だから、ウェイン・ショーターの魅力とは何か、を語るのは難しい。そして、その難しいという点にこそ彼の魅力の核心があったように思う。簡単に言葉で説明できる...R.I.PWayneShorter

  • 実は大傑作(2)

    AustralianJazzQuintet+1(米BethlehemBCP-6015)オーストラリアン・ジャズ・カルテット(クインテット)のことを真剣に聴こうなんて人はいないようで、中古も大体ワンコインで転がっていて、総じてクズレコード扱いとなっている。オーストラリアとジャズが結びつかないということもあるだろうし、ジャズの世界は個人名ではなくグループ名を名乗るようになると、途端に人気が無くなる傾向がある。こういうところはロックなんかとはずいぶん事情が違うようである。ジャズは個人の顔やプレイが連想できないと、なぜか魅力が減じるらしい。私がこの人たちの良さを認識したのは、ジョー・デライズの12インチ盤を聴いた時だった。デライズは歌手としては3流以下の魅力に乏しい人だが、それでもレコードは飽きることなく最後まで...実は大傑作(2)

  • セカンド・プレスを愛でてこそ

    StanGetz/LongIslandSound(米NewJazz8214)「オリジナルだけが偉い」とチヤホヤされるこの偏狭な世界では、セカンド・プレス以降のレコードたちは皆どことなく悲し気だ。何も好き好んで2番目として生まれてきたわけでもないのにな、とみんなそう思っている。新入荷のエサ箱にパリッとした真新しいビニール袋に入れられて晴れやかな気持ちで中古デビューを果たしたのに、朝一番にやって来たお客から「なんだ、セカンドかよ」と吐き捨てるようなセリフを浴びせられてスルーされる。それでも気を取り直して精一杯の笑顔で次に手に取られるのを待つけど、中々手にしてもらえない。1日が過ぎ、また1日が過ぎ、時間が経つにつれて並ぶ列を移動させられ、気が付くとアルファベット順に区画された場所に移される。そこでは時間は静かに...セカンド・プレスを愛でてこそ

  • バカラックが亡くなった夜に聴いたアルバム

    HamptonHawes/HighInTheSky(米VaultSPL-9010)全編に漂うほのかに暗い情感に、ハンプトン・ホーズと言う人の内面がにじみ出ているのを強く感じる。50年代にコンテンポラリーで確立したリズミカルで明るいピアノ・トリオの顔とはまるで別人の、憂鬱で斜め下に目線を落としたような物憂げな表情。ブロック・コードはあまり使わず、マイナー・キーのメロディーを延々と紡いでいく弾き方に変化していて、B面の"Carmel"から"SpanishGirl"にかけて流れ出てくる情感は、まるでキースのスタンダーズ・トリオを聴いているかのような錯覚すら覚える。そういう意味では、ここで聴かれる演奏は現代ピアノ・トリオがやっている音楽を10年以上先取りしていたのかもしれない。短くコンパクトにまとめた演奏とは違い...バカラックが亡くなった夜に聴いたアルバム

  • ジャズ本来のスリル

    DizzyGillespie,StanGetz,SonnyStitt/ForMusiciansOnly(米VerveMGV-8198)冒頭の"BeBop"からソニー・スティットのアルトが爆発する、只事では済まない恐ろしいアルバムである。スタン・ゲッツも"Focus"で見せたほの暗い怪演で真っ向から対抗する。ディジーも抑制の効いた切れるような演奏で猛スピードでぶっ飛ばす。3人がそうやってソロを回していく様子がとにかく凄まじい。A面はまるで嵐のように過ぎ去っていく。B面に行くとギアが一段シフトダウンして、今度はトルクが深く効いて身体ごとグイっと前へと持っていかれるような演奏で、こちらもA面に負けず劣らず。スティットのアルトが歌って歌って、歌いまくる。ディジーの抑えた演奏が圧巻で、破たんが一切なく、リー・モーガ...ジャズ本来のスリル

  • ノーマン・グランツの巨匠趣味には困ったものだが・・・

    StanGetz,GerryMulligan,HarryEdison,LouisBellsonandTheOscarPetersonTrio/JazzGiants'58(米VerveMGV-8248)ノーマン・グランツの巨匠趣味には困ったものである。ビッグ・バンドが華やかだった時代のスター・プレイヤーたちをメインに置いた彼のレコード制作のポリシーは徹底していたし、その精力振りは驚異的だった。パーカーやパウエル、ビリー・ホリデイやスタン・ゲッツのレコードがたくさん残ったのはよかったが、オスカー・ピーターソンやJ.A.T.P.のレコードが大量生産されたのはちょっとなあ、と思う。ピーターソンに全く興味のない私からすればそれらは(申し訳ないけれど)ただの瓦礫の山に過ぎず、見ていてうんざりさせられる。彼は人種差別を...ノーマン・グランツの巨匠趣味には困ったものだが・・・

  • 昔から名盤と言われるが・・・

    LeeKonitz/WithWarneMarsh(米Atlantic1217)昔から名盤100選には必ず載ってくるアルバムだが、本当にそうなのか、未だによくわからない。悪くはないのだが、他のアルバムを蹴落として100選の中に入れるほどかと言われると、そうとは思えないというのが正直なところではないか。トリスターノ派のお手本のような音楽になっているのはいいのだが、コニッツの演奏に彼独特のキレがあまり感じられない。ウォーン・マーシュのヘタウマな演奏もこれはこれで彼の個性だからいいとしても、コニッツの演奏の足を引っ張っているような印象があり、どうも居心地が悪い。A面はスタンダード中心、B面はメンバーのオリジナルがメインという構成だが、とにかくA面はあまり面白くない。トリスターノ派の眼から見たスタンダード解釈という...昔から名盤と言われるが・・・

  • 敬意に満ちた寡黙なアルバム

    EdThigpen/OutOfTheStorm(米VerveV-8663)縁の下の力持ちとして表に出ることはほとんどなかったエド・シグペンは、クリード・テイラーの粋な計らいでこうしてリーダー作を残している。面白いのはハービー・ハンコック、ロン・カーターという飛ぶ鳥を落とす勢いだった若手と、テリー・クラーク、ケニー・バレルというシブいメンバーの混成チームとなっているところ。単なるご褒美セッションということではなく、明らかに独自の音楽をやろうという企画だったことが伺える。ノーマン・グランツならこうはならなかっただろう。スタンダードは1曲もなく、本人のオリジナルをメインに構成された意欲的なプログラム。シグペンのドラミングが随所で前面に押し出されて、ドラマーのリーダー作らしい作りになってる。古いタイプのスタイルの...敬意に満ちた寡黙なアルバム

  • マイルスが書いた美しい楽曲

    MilesDavis/SomedayMyPrinceWillCome(米ColumbiaCL1656)このアルバムは、私にとってはB面トップの"Drad-Dog"を聴くためにある。当時のコロンビアの社長だったゴダード・リーバーソンの名前を逆さ綴りにしたという意味のよくわからないタイトルのせいでこの曲の良さが人目を引かないが、これはマイルスの抒情性がよく出た名曲だ。マイルスはアルバムの中にそれまで誰も取り上げなかった隠れた名曲をひっそりと潜ませることがよくあって("SummerNight"だったり、"SomethingIDreamedLastNight"だったり)、本人もそういうのを愉しんでやっていたフシがあるけれど、この"Drad-Dog"もそういう1曲だ。ウィントン・ケリーの音数の少ないピアノが美しく、...マイルスが書いた美しい楽曲

  • 疑似ステレオは悪なのか

    MilesDavis/'RoundAboutMidnight(米ColumbiaCS8649)新年の縁起物はマイルス・デイヴィスということで、今年もやる。まだプレスティッジとの契約が切れていない中で録音したコロンビア第1弾のこのアルバムは天下の大名盤として不動の地位を保っているが、実のところは各曲の演奏時間が短くて不完全燃焼感が残ることと、録音時期が古いせいで音場感がデッドで、コロンビアにしては珍しく高音質とは言い難いレコードである。端正で優れたテーマ部のアレンジが物凄くカッコよく、音楽的には満点の出来だが、本人の自伝を読むと同時期に併行して行われたプレスティッジへのマラソン・セッションの方へはたくさん言及していて、演奏内容にも非常に満足していた様子が伺えるが、こちらの録音については録音した事実には触れて...疑似ステレオは悪なのか

  • 今年の収穫の1枚(2)

    TheloniousMonk/Underground(米ColumbiaCS9632)これは680円で買った。ユニオンのレギュラー盤(国内盤メイン)の新入荷のエサ箱で平日に見つけた。眼にした時はさすがに手が震えたけど、すぐに冷静になって「どうせ盤質が悪いんだろう」と思って検盤したら、盤は傷一つなくピカピカで、ジャケットもトラックシートに書き込みがあるけど破損とかもない。どこかに落とし穴があるのでは?と色々と探ってみたけど、瑕疵は見つからなかった。普通にセールにかかれば2~3万円くらいのタイトルなので、きっと何か手違いがあったのだろう。コロンビアのレコードにはステレオ期のタイトルでラジオ局向けにプロモーション用に配布されたものがあり、タイトルによってはこのプロモ盤だけにモノラルプレスが存在するものがある。ジ...今年の収穫の1枚(2)

  • 今年の収穫の1枚

    TeddyCharles/Evolution(米PrestigeLP7078)自分の中での今年の収穫の1枚はこれだった。40年ジャズを聴いているが、ちゃんと聴いたのはこれが初めてだった。主要なジャズのレコードはあらかた聴いてしまった、などと穿ったことを普段から言っているが、こうして間隙を縫って初めて聴くレコードというのは襲ってくる。特に目当てもなくパタパタしている時にまるで新品のようなあまりにもきれいなものが出てきたので、それだけの理由で試聴してみたら、これが試聴機の前でのけ反ることになった。まだこんな経験ができるんだなあと自分でも驚いた。このレコードには1953年の西海岸での録音と1955年の東海岸での録音が収められている。53年にロサンゼルスに滞在していた時にレーベルを興して間もないボブ・ワインストッ...今年の収穫の1枚

  • 若き日のシナトラとクリスマス

    FrankSinatra/ChristmasSongsbySinatra(米ColumbiaCL6019)クリスマス・レコードは夏に拾うことが多い。暑い夏の日に自宅のレコードを整理していると「こんなのいらないな」という気分になるのかもしれない。そういうのを拾ったはいいけど、やっぱりすぐに聴く気にはなれないのでこちらも冬が来るまで寝かせておき、寒さが本格的になってくるとゴソゴソと取り出してきて聴き始める。シナトラはコロンビア在籍時にSP録音で、キャピトル在籍時にモノラル録音でそれぞれクリスマス・ソングを歌っている。キャピトル盤はゴードン・ジェンキンス指揮による私の長年の愛聴盤だが、こちらはアクセル・ストーダルが指揮をしている。コロンビア時代のシナトラはキャピトル時代とはまるで別人のような歌い方で、まだ個性は...若き日のシナトラとクリスマス

  • セシル・ペインとデューク・ジョーダン(4)

    CecilPayne/S/T(米SignalS1203)セシル・ペインとデューク・ジョーダンがレコード上で共演し始めたのはこの辺りからか。この2人が組んだ演奏には独特の翳りがあって、そこにどうしようもなく惹かれる。それはレーベルが違っても変わることはないから、どのレコードを聴いても愉しいのである。ジョーダンと組む前はランディ・ウェストンと組んでいたが、そこでもウェストンの一癖ある音楽性に上手く合わせていたから、このバリトン奏者は自身の個性を前に出すというよりは、共演相手とうまく融和しながら音楽を展開する方が得意だったのだろう。おそらくはそのせいでリーダー作が少なかったのだろうと思う。こういうアーティストをキャッチアップするのがうまかったリヴァーサイドあたりがリーダー作を残してくれていればよかったのだが、そ...セシル・ペインとデューク・ジョーダン(4)

  • セシル・ペインとデューク・ジョーダン(3)

    CecilPayne/"TheConnection"ComposedByCecilPayneAndKennyDrew(米CharlieParkerRecordsPLP-806)前衛ミュージカル"TheConnection"のオリジナル・スコアを書いたのはフレディ・レッドだったが、このミュージカルが再演された際にセシル・ペインとケニー・ドリューが新たなスコアを書きおろした。その新たな楽曲をペイン、クラーク・テリー、ベニー・グリーンのセクステットで録音したのがこのアルバムで、私の知る限りではこれらの楽曲バージョンはこのアルバムでしか聴けない。麻薬がテーマのこの演劇の音楽を最初に演奏したメンツが本物のジャンキーたちだったことから、そのイメージを払拭するためのリ・スコアだったのかもしれない。劇中音楽であることから...セシル・ペインとデューク・ジョーダン(3)

  • セシル・ペインとデューク・ジョーダン(2)

    CecilPayne/PerformingCharlieParkerMusic(米CharlieParkerRecordsPLP-801)ここではクラーク・テリーを加えたクインテットでパーカーが好んでやっていた楽曲を取り上げている。ロン・カーターがベースを担当していて、アルコをやったりソロをとったりと存在感が他のベース奏者とは違いがある。クラーク・テリーの演奏が冴えなくて全体の足を引っ張っているが、ペインとジョーダンは変わらず闊達な演奏をしている。このレーベルとは切っても切れないパーカーの音楽をかつての共演者がやるという、企画としては当然の流れからくるアルバムだ。ペインはバリトンだとは思えないくらい軽快な演奏をしていて、他のバリトン奏者たちとの個性の違いを見せている。元々はピート・ブラウンに師事してアルト...セシル・ペインとデューク・ジョーダン(2)

  • セシル・ペインとデューク・ジョーダン

    DukeJordanandSadikHakim/EastAndWestOfJazz(米CharlieParkerRecordsPLP-805)セシル・ペインとデューク・ジョーダンは一時期コンビを組んでいた。実力と才能がありながら日陰者としての道を歩いたこの2人が寄り添うように活動を共にしたのは、ある意味必然だったのかもしれない。そんな彼らの音楽には一貫して慈しむような優しさが満ち溢れていて、そういう所がこの2人の人柄を偲ばせるところがあり、私は昔から大好きだった。彼らの活動の記録はどれもマイナー・レーベルに残されていて、これまた光が届かない所でひっそりと息づいている。何から何まで恵まれなかったというか、そういうところすら如何にも彼ららしいと言うべきなのか。2人ともビ・バップ期から活動してチャーリー・パーカ...セシル・ペインとデューク・ジョーダン

  • 違和感の正体

    BudPowell/JazzGiant(米NorgranMGN-1063)私はこのレコードの音にずっと違和感を覚えていた。買ったのは10年前だから、10年の間、違和感を抱き続けてきたことになる。違和感の正体はピアノの音。このレコードから流れてくるピアノの音は潰れていて、平面的だ。まるで壁に投げつけられて潰れたトマトのように。その音は濁っていて、輪郭も滲んでいる。全体的な音場感自体はSP録音の割にはいい方なのだが、如何せん、ピアノの音がピアノらしくない。古い録音でもちゃんとピアノらしい音で鳴るものはいくらでもあるので、本来は録音時期はあまり関係ない。このレコードの音には少し人工的な操作が感じられて、そこがどうも引っ掛かる。バド・パウエルのような人、つまり、美しいメロディーの曲が書ける感受性があり、体重をかけ...違和感の正体

  • ブラックホークが産み出す名演

    CalTjader/SaturdayNightSundayNightAtTheBlackhawk,SanFrancisco(米VerveV6-8459)例えばウィントン・ケリーの"KellyatMidnight"のように毎週セールに出てくるレコードもあれば、安レコであるにも関わらずまったく見かけないレコードもある。ウィントン・ケリーのレコードを手放す人の気持ちはよくわかるし、このカル・ジェイダーのレコードを手放さない人の気持ちもよくわかる。何回か聴いてすぐに飽きるものは持っていてもしかたがないんだし、何度聴いてもいいものはやっぱり手許に置いておきたいものだ。カル・ジェイダーのレコードはクセの強いものが多くてなかなか買うのが難しいと思うけれど、このアルバムは王道ストレートな内容でとてもいい。バックのピアノ・...ブラックホークが産み出す名演

  • チューリッヒのある夜の出来事

    CurtisFuller/JazzConferenceAbroad(米SmashSRS67034)1961年3月、カーティス・フラーはクインシー・ジョーンズのビッグバンドと共にスイスへ演奏旅行に出かけた。2週間の滞在は大成功だっただが、チューリッヒでのある晩のコンサートが終わった後にバンドのメンバー数名がコンサート・ホールに残ってレコーティングしたのが、このアルバムになる。一聴するとライヴ録音のように聴こえるが、観客は帰った後なので、拍手や歓声はなく単なるホール録音ということになるが、収録数が足りなかったのか、"StolenMoments"だけはライヴ音源が使われいる。熱いライヴの余韻が残った中での録音だったせいか、非常に生き生きとして躍動感のある演奏が圧巻。綺羅星のごとく豪華なメンバー10名によるジャム...チューリッヒのある夜の出来事

  • これも傑作

    SalNisticoQuintet/Comin'OnUp!(米RiversideRM457)マンジョーネ兄弟のバンドは当時無名の若者たちで構成されていたけど、その中でテナーを吹いていたのがサル・ニスティコだった。19歳でバンドに加わり2年間活動を共にしたが、そこでのプレイが認められたのだろう、リヴァーサイドに2枚の自己名義アルバムを残している。ソロ第2作のこのアルバムはバリー・ハリス、ボブ・クランショウらリヴァーサイドお抱えのピアノ・トリオがバックを支える、如何にもこのレーベルらしい滋味溢れるカラーに染まった傑作に仕上がっている。冒頭はパーカーの"Cheryl"で幕が開き、ビ・バップのムードで始まる。太くどっしりとしたテナーの音色がよく映える演奏で、ジャズの濃厚な匂いが部屋に充満するが、2曲目になるとユー...これも傑作

  • 実は大傑作

    TheJazzBrothers/SpringFever(米RiversideRLP405)当時、リヴァーサイドの新人発掘担当をしていたキャノンボール・アダレイに見出された無名のチャック・マンジョーネは兄のギャスパールと"TheJazzBrothers"を名乗ってデビュー、リヴァーサイドにアルバムを3枚残している。半年ごとに立て続けに録音していることから、期待の新人だったようだ。メンバーは全員無名の若手で、何とも溌剌とした気持ちのいい演奏をしていて、くたびれた大人の澱んだ心を浄化してくれるようだ。若者らしく、アルバムを出すごとに音楽が眼に見えて進化しているのが凄いが、最終作であるこのアルバムが実は大傑作に仕上がっている。それまでのアルバムと様子がまったく違っていて、少し欧州ジャズっぽい雰囲気が漂う。バンドと...実は大傑作

  • ステレオ盤の圧勝

    JimmyRaney/TwoJimsAndZoot(米MainstreamS/6013)このレコードはモノラル盤が多く流通しているが、とにかく音がこもっていて音楽の良さがさっぱりわからず、残念なレコードの筆頭だった。シブいメンツが揃った内容的には最高であるはずのレコードだが、まあ、音が悪い。ズートが入った盤なのに何とも残念だよなあということで、エサ箱で見かける度に手にとっては見るものの「これ、音が悪いんだよなあ」とため息をついて、後ろ髪を引かれつつも毎回スルーしていた。ところが、あまり見かけないステレオ盤が転がっていたので拾ってみると、これが音が良くてびっくり、目から鱗が落ちた。ジミー・レイニーは右チャネル、ジム・ホールとズートは左チャネル、スティーヴ・スワロウとオジー・ジョンソンは真ん中、というよくある...ステレオ盤の圧勝

  • ドリス・パーカーの趣味

    YusefLateef/LostInSound(米CharlieParkerRecordsPLP-814-S)チャーリー・パーカーの法定相続人だったドリス・パーカーが散逸した彼の音源資産を守るために興したのがこのレーベルだが、パーカーの演奏以外にもオリジナルアルバムをいくつか作成していて、これがなかなか聴かせるものが多い。このアルバム裏面のライナーノーツも彼女自身が書いており、多面的な側面を持ったラティーフの真の実像をここで紹介したい、と率直な想いを書き残している。彼女にはレーベル・オーナー、レコード・プロデューサーとしての才能があったようでこれには驚かされるが、パーカーと結婚するような人だから元々只者ではなかったのだろう。彼女が言うように、ユーゼフ・ラティーフはフルートやオーボエなどを操りながら第3世界...ドリス・パーカーの趣味

  • 最近の復刻盤事情

    ChetBaker/SingsVol.2(EUValentineRecords896701)世界的なレコード・ブームというのはやはり本当のようで、次々と新品レコードがリリースされている。過去の名盤の復刻もあれば、真っさらの新作もあり、ユニオンのブログを見ているだけで楽しい。まあ、積極的に買おうという気はないので基本は眺めているだけなんだけれど、ごく稀に「これはちょっと聴いてみたいな」というのがあって、手を出すこともある。このチェットのアルバムもそんな1枚。"SingsAndPlays"をベースに、他アルバムへ散逸していた歌物やおそらくは未発表だったものを1枚に纏めて、例のカヴァーを流用して第2集という形にしてる。チェットのヴォーカルだけに集中できるという点で非常に優れた編集で、これは有難いアルバムだと思う...最近の復刻盤事情

  • 孤独なテナー

    BillBarron/ModernWindows(米SavoyMG-12163)テッド・カーソンのキャリア初期に相棒として活動を共にしたのがビル・バロン。ハード・バップの終焉時期に出てきたので、彼がやった音楽はいわゆるニュー・ジャズ、冒頭の出だしはローランド・カークかと思うような感じで始まる。硬く独特なトーンでメロディー感の希薄なフレーズをぎこちなく紡ぐ。テッド・カーソンとバリトンのジェイ・キャメロンも同様のプレイで、全体的に捉えどころのない音楽が続くけど、それは決して不快な感じではなく、この時代に固有の手探りで次のジャズを模索する様子が刻まれている。ピアノは当然ケニー・バロンで、既に抒情的な演奏スタイルが出来上がっていて、彼のピアノが始まると清涼な空気が流れる。ピアノの音色もこれ以前にはいなかった優しく...孤独なテナー

  • 隠れた実力派

    TedCurson/TheNewThingAndTheBlueThing(米Atlantic1441)1964年に欧州へ演奏旅行へ行った際にジョルジュ・アルバニタと知り合いになり、それが縁となって帰国後に彼を含めて録音されたのがこのアルバムということらしい。ビル・バロンという曲者も加わり、硬派でいながらもストレートなジャズとなっている。キャリアのスタートからセシル・テイラーやミンガスのバンドで演奏してきたこともあり、アヴァンギャルド派の印象があるのか、日本では人気が無い不遇なミュージシャンの代表格のような人だが、この人の作品はどれも硬派な内容だが、聴きにくいということはなく、真面目に音楽に取り組んだ成果がアルバムの中に刻まれている。タイトルが暗示するように、既存のハード・バップやモードの語法に拠らない、第...隠れた実力派

  • 最初の5秒

    MorrisNanton/Preface(米PrestigePRST7345)試聴の最初の5秒で自分好みのピアノであることを確信したアルバム。「最初の一音を聴いただけで」という言い方は修辞句としての意味はわかるけど、そんなことは現実的にはあり得なくて実際はもう少し聴くことになるけど、それでもすぐに「これは!」とわかることがある。エサ箱にステレオとモノラルの両方が安レコとして転がっていたので、迷うことなく両方拾って来た。ニュージャージのクラブが活動の舞台という典型的なローカル・ピアニストだが、観る人は観ていたのだろう、プレスティッジやワーナーにアルバムを残している。ジャケットに写る容姿からソウルフルと言われることが多いようだが、実際の演奏はレイ・ブライアントのような、どちらかと言えば端正でスジのいいピアノを...最初の5秒

  • 滲み出る風格と重み(2)

    JamesMoody/TheBluesAndOtherColors(米MilestoneMSP9023)前作の"TheBrassFigures"と同じコンセプト、ラージ・アンサンブルでトム・マッキントッシュのアレンジで臨んだ続編とも言うべき内容で、ここではムーディーはソプラノとフルートを吹いている。2つのセッションが収められているがメンバーは豪華で、ジョニー・コールズ、ジョー・ファレル、セシル・ペイン、ケニー・バロン、ロン・カーターと名うての顔ぶれが揃っている。前作の2年後の録音で、雰囲気は少し変わっている。スタンダードが多かった前作に比べて、今回はムーディーのオリジナル楽曲がメインで音楽はより独創的でユニーク。都会的なブルース調を軸に、よりカラフルな展開を見せる。69年のセッションはホルン、ヴィオラ、チ...滲み出る風格と重み(2)

  • JUDGMENT! RECORDS 訪問

    ディスクユニオンのジャズ部門統括責任者だった塙さんと新宿ジャズ館の店長だった中野さんが独立して、東中野に新しい店を出した、ということで、さっそくお邪魔してきた。その名も、"JUDGMENT!RECORDS"。(https://judgment-records.com/)オープンは10日(土)だったが、私が伺ったのは11日(日)の14時ごろだった。店内の様子やイベントはインスタで見て大体どんな感じかはわかっていたし、人がごった返す中でレコードを見るのはそもそも嫌いなので、わざと日時をずらして行った。西口改札を出てすぐのところにあり、アクセスがいい。こじんまりとした感じだが新装開店らしく店内はきれいで、清潔感溢れる印象だ。奥にはステレオセットとテーブルと椅子があり、試聴は座って聴くことができるし、レジの前にも...JUDGMENT!RECORDS訪問

  • 滲み出る風格と重み

    JamesMoody/MoodyandtheBrassFigures(米MilestoneMLP1005)ロリンズやコルトレーンが出てきたことで駆逐されたテナー奏者は多いが、ジェームス・ムーディーもそんな中の1人だろう。50年代初期はリーダー・セッションがたくさん用意されてレーベルの看板テナーだった時期があったが、栄光の時期は長くは続かなかった。何と言っても、それは厳しい世界なのだろう。そうなってくると多くの奏者は活路を見出すべく、独自の路線を模索する。マルチ・リード奏者へと変貌したり、アレンジの勉強をしてラージ・アンサンブルを手掛けてみたり。第2線級になると、そういう過程のものがアルバムとして結構残されるようになる。そういうものに接すると、我々は困惑する。この人は何がやりたかったんだろう、と。スコープが...滲み出る風格と重み

  • ヴィブラフォンが産み落とした独自のピアニズム

    JackWilson/Innovations(米DiscoveryRecordsDS-777)ジャック・ウィルソンはその独特なピアニズムと他の誰にも発想できない美しいアドリブのフレーズを両立させる稀有なピアニスト。大抵はどちらか一方で勝負するものだが、この人の場合はその2つが両立しているところがとにかく凄い。こういうピアニストはあまりいない。50~60年代に活躍した人たちは70年代になると失速する人が大半だが、この人は失速するどころか、ますます磨きがかかった、というのも凄い。ロイ・エアーズとレギュラー・コンボを組んでいたので、彼の演奏に焦点があたったアルバムが少ないのが難点だが、そんな中でこのアルバムの存在は貴重だ。彼の滾々と尽きることなく湧いて出てくる美メロが存分に堪能できる傑作である。このアルバムを聴...ヴィブラフォンが産み落とした独自のピアニズム

  • ケニー・バレル3部作と呼びたい1枚

    KennyBurrell/TheTenderGender(米CadetLPS772)Argoレーベルは1965年にCadetと名前を変えているが、このアルバムは1966年4月にニューヨークで録音されている。RCAStudioで録音され、レコードもRCAでプレスされたので品質がよく、音もいい。リチャード・ワイアンズのピアノ・トリオをバックに歌いまくるバレルは、まるでワン・ホーン・カルテットのような雰囲気。ブルース・フィーリングがベースになっているけれど、時代の空気も流れ込んでいて、明るくポップなところもある。普段はガンガン鳴らすワイアンズのピアノも、ここではバレルのバッキングに徹していて、決してギターを邪魔しない。全体の纏まり感はとてもいい。そんな中を流れるバレルのギターの音色がざっくりとした質感で素晴らし...ケニー・バレル3部作と呼びたい1枚

  • 満点の仕上がり

    HaroldLand/JazzImpressionsofFolkMusic(米ImperialLP12247)「ジャズを通して見たフォーク音楽」というタイトルでどの曲も知らないものばかりだが、確かにフォスターの「草競馬」みたいなメロディーの曲もあったりして、どれも明るくわかりやすい曲調ばかりで非常に親しみやすい音楽になっている。着眼点がよかったのだと思う。ハロルド・ランドのなめらかなテナーがきれいな音色で録れていて、演奏の良さがよくわかる。50年代のものよりも演奏がはるかに上手く感じるのはわかりやすい音楽で歌い所が満載だからだろう。私が今まで聴いたこの人の演奏の中ではこれがダントツで出来がいい。フレーズも現代の奏者が吹いていてもおかしくないような雰囲気があって、この感性の若さというか、何十年も先取りしたよ...満点の仕上がり

  • 初期のロイ・エアーズは傑作揃い

    RoyAyers/VirgoVibes(米AtlanticSD1488)ハード・バップをやらないミュージシャンは相手にしてもらえないこの偏狭な世界において、ロイ・エアーズは当然のように認知してもらえない。ただ、デビュー後の数年間は良い仲間にも出会えて、しっかりとジャズをしていた。世代的にはハード・バップをやるには生まれたのが遅過ぎた世代なので音楽の感性も次世代的なものだったが、初期のアルバムは内容がとてもいい。チャールズ・トリヴァーとジョー・ヘンダーソンが加わるサイドと、トリヴァーに加えてハロルド・ランド、ジャック・ウィルソンに代わるサイドに分かれるが、この2つのセッションがまるで違う雰囲気になっているのが面白い。演奏家の個性がそのまま音楽に反映されている。ジョー・ヘンダーソンが入るサイドは明るい演奏で程...初期のロイ・エアーズは傑作揃い

  • ナット・アダレイは歌う(3)

    NatAdderley/InTheBag(米JazzlandJLP975)ナット・アダレイが1962年にニュー・オーリンズへ演奏旅行へ出かけた時に現地で初めて聴いた地元ミュージシャンたちの演奏に感銘を受けて、彼らとレコーディングしたいということになり、このアルバムは誕生した。普通なら彼らを本場ニューヨークへ呼び寄せてレコーディングするのが定石だが、大抵の場合、レコーディングに慣れていない若者たちは大都会の雰囲気に呑まれてしまい、自分たちの個性を十分発揮できないままで終わってしまう。そのことをよく知っていたナットは、まず、キャノンボールとサム・ジョーンズの3人でニューヨークでアルバムの準備を整えてから再度ニュー・オーリンズへ乗り込み、このアルバムのレコーディングをした。アルバムの表紙にその時の3名の名前が列...ナット・アダレイは歌う(3)

  • ナット・アダレイは歌う(2)

    NatAdderley/Naturally!(米JazzlandJLP47)A面がジョー・ザビヌルのトリオ、B面がウィントン・ケリー、チェンバース、フィリー・ジョーのマイルス・バンドという豪華なバックで固めた硬派で超本格派の内容。コルネットのワン・ホーン・アルバム自体が珍しいのに、更にこういう面子というのはおそらくこれが唯一ではないか。こういうメンバーの影響か、私の知る限り、これが最もストレートど真ん中の胸をすくようなハード・バップだ。冒頭からなめらかで澄み渡った音色で伸びやかに歌う。明るい曲調で、聴いていると胸の中のつかえが取れていく。わかりやすい、屈託のない音楽が続き、なんと心地よいことか。その素直さや実直さにただひたすら感心してしまう。これはきっとナット・アダレイという人の人柄そのものなんだろうな、...ナット・アダレイは歌う(2)

  • ナット・アダレイは歌う

    NatAdderley/LittleBigHorn(米RiversideRM474)ナット・アダレイは、実際のところ、まったく評価されていない。演奏家としても、音楽家としても、コレクター的見地からしても。彼のプレイが素晴らしいと褒められることはまずないし、"WorkSong"というヒット曲があるにも関わらずその作曲力や音楽を創る力を評価されることもないし、レア盤として羨望の眼差しを集めるアルバムもない。有名な割にここまでないないずくしの人も珍しい。コルネットというシブい楽器をファーストとしていたこと、兄のキャノンボールの影に隠れがちであったこと、ジャズ界では比較的メジャーなレーベルを渡り歩くことができたこと(もちろん、これはラッキーなこと)などが原因のように思えるけど、それにしてもあんまりだと思う。録音の...ナット・アダレイは歌う

  • 若き日の別顔

    ChuckMangione/Recuerdo(米JazzlandAM84)チャック・マンジョーネと言えば、奇妙な帽子を被った長髪の男がラッパを抱えて能天気に笑っている姿を反射的に思い出す。実際に抱えているのはフリューゲルホーンで、彼の大ヒット作の"FeelSoGood"でもその甘い音色を聴くことができるが、ジャズの愛好家からはこういうのはジャズから脱落した音楽として嫌われる。だから、それをやっているマンジョーネ自身も相手にされない。そんな彼も、デビューした時はリヴァーサイドに籍を置き、短い期間ながらもハード・バップをやっていた。兄弟名義がメインだったが、こうして本人名義のアルバムも残している。ウィントン・ケリーのトリオをバックにした本格的な内容で、これがなかなか聴かせる。サックス奏者のジョー・ロマーノとの...若き日の別顔

  • ゴルソン・カラーに染まった傑作(2)

    JimmyCleveland/RhythmCrazy(米EmArcyMGE-26003)この第4作もゴルソンとファーマーが加わり、アレンジはゴルソンのものとジジ・グライスのものが混在している。第1作や第3作のアーニー・ウィルキンス・オンリーの編曲と雰囲気が違うのは一聴してすぐにわかる。どこが違うかというと、楽曲が持つ良さがより魅力的に引き立つような編曲に沿って各人の演奏が一直線に進んでいるということに尽きる。変な小細工が感じられず、非常にストレート。そこにヴィヴィッドや柔らかいハーモニーが施されているから、楽曲に美しい輝きがある。ジャズの場合、アレンジはマイナス要因と捉えられがちだけど、上手くやれば音楽はより豊かなものへと格上げされる。ハンク・ジョーンズがピアノを弾いているのも、全体がデリケートに仕上がっ...ゴルソン・カラーに染まった傑作(2)

  • ゴルソン・カラーに染まった佳作

    JimmyCleveland/ClevlandStyle(米EmArcyMG36126)ジミー・クリーヴランドはその名前はいろんなところで目にするから我々にはお馴染みのトロンボーン奏者だが、リーダー作は意外にも少なく、私の知る限りではエマーシーに残された4枚だけ。このレーベルはジャズのレーベルとしてはカタログ数は多いものの決定的名盤と言われるものが多くなく、かなり格下の扱いになっている。そのため、そのアルバムは埋もれがちで、クリーヴランドの場合も例外ではない。彼のアルバムが見向きされないのはどのアルバムも多管編成になっているからだ。多管編成は形式が優先されて音楽が定型化されがちなのでとにかく嫌われるわけだが、そこで重要になるのがアンサンブルのアレンジということになってくる。このアレンジにベニー・ゴルソンや...ゴルソン・カラーに染まった佳作

  • リヴァーサイドの見識の高さが生んだ傑作

    BilliePoole/Confessin'TheBlues(米RiversideRM458)リヴァーサイドにはポチポツとヴォーカルアルバムが残っているが、そのどれもが深く唸らされるものばかりだ。ネームヴァリュー先行でアルバムを作ったのではなく、本当に実力のある人だけを取り上げており、その見識の高さには頭が下がる。その最右翼はマーク・マーフィーの2作だが、その次に続くのはこのビリー・プールあたりだろう。ダイナ・ワシントンの声質とサラ・ヴォーンの伸びやかな唱法をミックスしたような感じだが、持ち味はもっとすっきりさっぱりしていて、その真っ直ぐな歌唱が聴き手の心にストレートに刺さってくる。問答無用に上手い歌で、これはもう敵わないなあという感じである。歌の上手さというのは神から与えられたギフトであることがよくわか...リヴァーサイドの見識の高さが生んだ傑作

  • ジョージ・バロウに関する覚書

    TheAmram-BarrowQuartet/JazzStuidioNo.6~TheEasternScene(米DeccaDL8558)最近聴いて腰が抜けてノックアウトさせられた1枚。並み居る名盤たちを押しのけて、4番打者の位置に座っている。パタパタしていて何気なく眼に留まって、デッカのよくある凡庸なスタジオ・セッションものかとスルーしかけたが、ふと、"TheEasternScene"というキーワードに引っ掛かった。東海岸のジャズなのか、ということで聴いてみようという気になって拾ってみると、これが大当たりだった。ピアノレスでテナーとホルンという珍しい構成だが、これがちょうどミンガスがサヴォイやベツレヘム時代にやっていた音楽に酷似している。きちんと作曲された楽曲を使って、ゆったりとして振れ幅の大きい演奏で、...ジョージ・バロウに関する覚書

  • 何かカッコいいジャズを、と問われたら(2)

    FrankFoster/Fearless(米PrestigePR7461)以前、こんなカッコいいジャズはない、ということでエルヴィン・ジョーンズの"HeavySound"のことを書いたが、同じ系統のカッコよさを誇るのが、このフランク・フォスターのリーダー作。何と言っても、どちらも冒頭が彼の自作である"RaunchyRita"で幕を開ける時点で既にもう十分カッコいいのである。この名曲は聴くたびにシビれるわけだが、もちろんカッコよさはこれだけでは終わらない。収録された曲のほとんどがフォスターの自作だが、どれもイカした楽曲ばかりで、その作曲能力の高さに驚いてしまう。時代の空気を反映してファンクの要素をセンスよく取り込んでおり、これが非常にいい塩梅なのである。B面冒頭の"BabyAnn"を聴いていると、リー・モー...何かカッコいいジャズを、と問われたら(2)

  • ケニー・ドーハム 中期の佳作(2)

    KennyDorham/TheArrivalOfKennyDorham(米JaroJAM-5007)タイム・レーベルの"JazzContemporary"の1ヵ月前に録音されたのがこのアルバムで、メンバーもピアノ以外は同じ構成で、この2枚は兄弟の関係にある。こちらはトミー・フラナガンがピアノを担当しているが、これがこれら2枚のアルバムの性格を異にしている。フラナガンのバッキングやソロは従来のハード・バップ・マナーで、このアルバム全体のトーンを普通のハード・バップに染めている。そのため耳馴染みが良く、誰からも好かれるであろう非常にわかりやすい音楽になっている。ヴィクター・ヤングの"Delilah"でのソロ・パートのエレガントさは如何にもこの人らしい。また、このアルバムで顕著なのはドーハムの饒舌さで、これが珍...ケニー・ドーハム中期の佳作(2)

  • ケニー・ドーハム 中期の佳作

    KennyDorham/JazzContemporary(米Time52004)若い頃はまとまりがなく弛緩した駄作だと思っていたが、今は真逆の感想に反転している。一般に若い頃は頭が柔軟で年を取ると頑固になると言うが、どうも私の場合は逆のようで、若い頃には受け入れられなかったのに今は好きになっているものが多い。それだけジャズの理解が深まったということもあるだろうし、物事に総じて寛容になったということもあるのだろう。それがいいか悪いかは別にして。腰が入っておらず弱々しいドーハムのトランペットにチャールズ・デイヴィスの重量感のあるバリトンは相性がよく、それが全体のバランスに安定をもたらしている。そして、バディー・エンロウのドラムのザラッとした質感がとてもいい。ザクザクとシンバルを刻んでいて、これが気持ちいい。そ...ケニー・ドーハム中期の佳作

  • ブルーベック・カルテット最後のアルバム

    TheDaveBrubeckQuartet/TheLastTimeWeSawParis(米ColumbiaCS9672)洗練の極み、とはこのアルバムのためにある言葉。白人ミュージシャンには黒人ミュージシャンがやるようなジャズは結局できず仕舞いだったが、逆にこの洗練の高みを極めたような演奏は黒人ミュージシャンにはできない。触るのがためらわれるようなところがある。このアルバムはデイヴ・ブルーベック・カルテットの最後の公式アルバムで、この後バンドは解散した。最も成功した白人ジャズグループとして、彼らの生活は多忙を極めていた。長期間行われる世界各地でのツアー生活、その合間を縫って行われるレコーディング。そういう生活が長く続いたせいで、バンドのメンバーたちは疲弊し、精神的にも不安定になり、関係もギクシャクし始めた。...ブルーベック・カルテット最後のアルバム

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廃盤蒐集をやめるための甘美な方法
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