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穢銀杏
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2019/02/02

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  • 詐欺と武略の境界

    敗戦間もない混迷期。「真相箱」やら何やらに影響された国民が、嘗ての政府や軍人を、嘘と虚像と捏造の総本山と糾弾し、「大本営発表」の空々しさをあげつらうのが流行りになっていた時代。 とある保守派論客が逆上気味に吼えたところの、 「戦争中に本当のことを言うような阿呆な政府が、世界のいったい何処にある」 この一言が忘れられない。 左様な所業に及ぶが最後、みずから「敗け」を招き入れるに等しい愚行ではないか、と。 なるほど確かに勝利を志向する上で、情報統制は不可欠だ。 (フリーゲーム『ミッドナイトシンドローム』より) ジョン・ウィンダムの筆を借りれば、「正直こそ最高の策なりといい始めた人が、果たして集団士…

  • 終末予言は此処に成り

    世界のすべてを巻き込んだ、人類最初の大戦争の期間中。 前線の悲惨な状況が銃後に浸透するにつれ、一般国民大衆の心理上にもあからさまな物狂いの兆候が、そこかしこに見えだした。 (viprpg『フレイミング リターンズ』より) 帝政ドイツでいっときながらも一夫多妻論が力を得、大真面目に討議の対象となった如きが良い例だ。なるほど減った人口を補填するには「産めや増やせや」が一番であり、減ったというのもその内訳は戦場で男が──それも結婚適齢期の健康なる壮丁が──バタバタ死んでいるわけだから、必然として「女余り」が発生し、数少ない男手で斯かる余剰を解消するには、これはもう、已むを得ない便法として多妻主義に光…

  • 言葉の達人

    石黒忠悳が貴族院勅撰議員にえらばれたのは、明治三十五年のはなし。時あたかも第一次桂内閣が日本国の舵取りを担当していた頃である。 (Wikipediaより、貴族院 玉座) しかしながらこの選任は、べつに石黒本人が希望(のぞ)んだものでは有り得なかった。過去に如何なる猟官運動、自己推薦の類をも、石黒は行っていないのである。 推薦者は別にいた。 時の内閣総理大臣、桂太郎その人が、どうも強力に後押しをしたようだった。 そういう事情は、当たり前だが、任命の内示といっしょくた(・・・・・・)にして石黒本人の耳の奥にもしっかり届けられている。 (あいつめ。……) と、この五十男はそのとき咄嗟になにごとかを思…

  • おんな狩人

    女だてらに鳥撃ちとは珍しい。 ましてや大正の聖代に。──時代の空気に背くこと、おてんばどころの騒ぎではない、モダン・ガールともまた違う、破天荒な気性によって、世間の耳目をだいぶどよめかせた女性(ひと)は、大阪市に住む堤とみ子なる婦人。 同市に於いて特許代理業という怪っ態な仕事に就いていた、堤他彦(よそひこ)の細君である。 (大阪、難波橋) 鳥撃ちは、もともとこの他彦の──旦那様の趣味だった。 とみ子はというと盆栽いじりを専ら事とする人で、鉢に植えるに丁度いい樹を探すのに、山野を駆ける夫の後を屡々追っていったのが、彼女にやがて新たな扉を開かしめる基因(もとい)となった。 というのも、獲物を狙って…

  • 七転八倒赤十字

    社史を紐解けば大抵どこの企業でも創業間もない時分には、針山の上で火の車を廻すが如き苛酷な遣り繰り算段を経ているものであるのだが。──日本赤十字社という知らぬ者なき医療団体の上にさえ、およそその種の「苦労話」は見出せる。 (Wikipediaより、日本赤十字社本部) 日赤前史を語るに当たって外せないのが石黒忠悳。蓋し高名な陸軍軍医。同社にとっては重要極まる「産婆役」。座談の名手としても知られたこの彼は、その評判に偽りなしと自ずから聴者に悟らしめるような、内容のよく整頓されたみごとな回顧をあるタイミングでやっている。 曰く、 「何分創業間もない事であるから、赤十字の真髄が一般国民に判らないのである…

  • 永らえし者

    皇帝蒙塵。──敗戦国の悲況に堕ちたドイツを捨てて、ヴィルヘルムⅡ世は逃げ出した。 (Wikipediaより、ヴィルヘルムⅡ世) 理屈は立つ。 名目はいくらでも並べ得る。 「亡命」という政治的な用語を被せ、正当性の補強工事を行う余地はたん(・・)とある。 しかしながら取り残されたドイツ国民たちにとり、そんな努力がなんだろう。いくら抗弁されたとて、否、言い繕えば繕うほどに、「責任逃れ」の悪印象が強くなる。 ──陛下は我らを投げ捨てて、ひとり遁走しなされた。 ──祖国がどん底に陥った、いちばん大事なこの秋(とき)に。王者としてあるまじき、背信行為ではないか。 そのように糾弾されるのは避けられないこと…

  • 怨嗟のニッティ

    イタリアには怨念がある。 第一次世界大戦酣なる秋(とき)、連合側で参戦する見返りに、英仏が約した蜜のような条件を、戦後ごっそり反故にされた怨念が。 期待が大きかっただけ、失望もまたのっぴきならない水準に。このためいっとき講和会議の舞台から、代表者らが「堂々退場」する事態になったほど。どこぞの愛国詩人なぞ、悲憤慷慨募るあまりに血涙を流さんばかりの態で悔しがり、結句暴発、義勇兵を引き連れて「未回収のイタリア」を強引に回収せんとするロマンティックな軍事行動に敢えて踏み切る椿事もあった。 (Wikipediaより、ガブリエーレ・ダンヌンツィオ) ──話が違うではないか。 この叫びこそ戦後のイタリア人た…

  • 郷党意識 ─吉田と原と─

    平民宰相・原敬が暗殺者の兇刃を胸にぶち込まれたところ。 東京駅の一隅の、まさにその場所、その座標の床面に菱形の化粧レンガを嵌め込んで目印としておいたのは、吉田十一(そいち)の働きに因る。 二代目東京駅長を務めたこの人物は、原と同じく、岩手県の出身だった。 つまりは同郷。それだけにまた故人に対する思い入れもひとしお(・・・・)で、暗殺事件の直後こそ ──駅頭に記念碑を建てろ。 とか、 ──銅像を置いておくべきだ。 とか、顔じゅうを口にする剣幕で騒ぎまくっていたくせに、結局一個半個の案とても実現の運びに至らせず、御大将の遭難をいたずらに風化させてゆく政友会の無能忘恩だらしなさに内心大いに腹を立てて…

  • マリー・ベルという女

    社会に於いて「映画」の占める勢力が、政治家にも実業家にも――誰にとっても無視できないほど拡大してきたあの(・・)時分。 その勃興の勢いの、あんまりにもな著しさを不気味がり、なんとか頭を抑えんと手練手管を弄す手合いも、当然ながら存在していた。それはいい。そのこと自体は別条なんとも不思議がるには及ばない、作用反作用という物理学の初歩に過ぎない。 (Wikipediaより、大正時代の電器館) ただ、しかし。ラダイト精神逞しい、抑圧側の面子の中に「国立劇場」の俳優連の名前さえ見出し得るということは、ちょっと興味に値する。 正味、偽らず告白すると、ハハアらしいなと思ったものだ。新規なモノを無闇矢鱈に恐怖…

  • すすてんしやの船に乗り

    開国以来、宣教師らの熱意あふるる懸命な働きぶりがあったのにも拘らず、ついに日本社会には、キリスト教が勢力として大を誇るを得なかった。 この失敗の淵源は、果たして何処(いずこ)にこそ在りや。 ──あまりに明白、聖書の翻訳作業に際し、人を得られなかったゆえ。 と、そこへ責任を帰す向きが、世の一隅に見出せる。 文士に於いては、例えば正宗白鳥が、顕著な同調者であった。 (Wikipediaより、正宗白鳥) 彼は云う、 「英国のバイブルは、文章に於ても絶大の美と威力とを持ってゐて、その詩句は、妙音楽の如く英国民の耳に響いて、いつまでも忘れないほどの感動を与へたと云はれてゐるし、ルーテル訳の独文の聖書も強…

  • 国産映画前夜譚

    大正から昭和へと、世が移らんとした頃だ。国産奨励の掛け声が、ついに映画界にまで波及した。 日活の根岸耕一が、 「一年二百八十万」 と繰り返し、口やかましく言っている。大日本帝国が外国映画輸入のために年々支払う金額が、それぐらいになるのだ、と。 需要はある。 人々は映画に飢えている。 その渇望を癒やすのに、いついつまでも舶来物に頼りきりでは情けない。日本人の欲求は日本人みずからの手で作られた、国産品で満たさずしてなんとする。各々大いに奮起せよ。これはひとえに映画会社の利益問題のみならず、最近大蔵大臣のご執心たるいわゆる国際貸借の改善とやらを図る上でも一役買ってくれるはず。── なかなか大きな風呂…

  • 代用品時代 ─生糸の光沢翳る時─

    警鐘を鳴らす者がいた。 力いっぱい乱打したといっていい。 いずれ来る嵐の姿が彼の眼には鮮やかに幻視されていたからだ。 彼の名前は高岡斉。 大阪市立工業研究所のトップ、所長の任に在った男だ。 (称名寺にて撮影) この高岡の説くところを信ずれば、大正十一年既に、人造絹糸は天然絹糸を追い越した。少なくとも生産量の面に於いてはもはや逆転不能なほどに前者が後者を圧倒し、しかもその差は時間経過でこの先どんどん開いて行きそうなのである。 西暦にして一九二二年の段階で、「世界の天然絹糸の総産額は約六千五百万ポンドであるのに人造絹糸は八千万ポンドとなり、しかも米国ではこの内約二千三百万ポンド、即ち全世界の三割も…

  • 黄金週間日野歩き

    少し、日野市を歩きに行った。東京都のど真ん中、多摩川べりの街である。 (Wikipediaより、日野市位置) 新選組ゆかりの地として歴史好きの間では専ら名が知れている。土方歳三、井上源三郎を筆頭に、京に血雨を降らせまくった天然理心流の剣士、戦慄すべき狼どもはこのあたりから出てきた、と。 事実、電車を降りてすぐ、駅の掲示板上に「鬼の副長」の姿が見える。 「新選組のふるさと」という世にも貴重な資源をきっちり、有効活用しているようだ。実に結構なことだった。 新選組に、幕末に、意識が振れすぎた所為であろうか、何気なく市街(まち)を歩いていてもふと横切った板塀や、 ちょっとした小路の入口までもが妙に意味…

  • 政界ドブ浚い

    藤山雷太がもしも今に在ったなら、その名に負けない、さだめし太(ブット)いカミナリを日本政府に落とすであろう。 彼はかつて言っていた、 「我が国の現在は真に内憂外患交々至ると云ふ悲しむべき状態で国民は此際非常なる覚悟と決心を以って国家の前途に善処せねばならぬ、而して此国民の生活基礎は素より政治にあるが故、政治の良否は国民生活の安否を決する鍵である、…(中略)…金解禁でも物価問題でも又貿易振興策は自由保護何れの政策を採るにしても、国民の生活に触れたものでなければならぬ」 と。 (Wikipediaより、藤山雷太) 然るにだ。これを踏まえて見た場合、先日の農水大臣の、あのアピールはどうだろう。いった…

  • 五月一日 ─マルクス教徒の聖日に─

    大学教授の政治活動を禁ずるという内規に対し、吉野作造はさからわなかった。 否、さからうどころの騒ぎではなく、両手を広げて頷いて、さもなりなんと積極的な賛意を示す側だった。 (viprpg『やみっちサッカー』より) 理由はすなわちこう(・・)である、 「教授は教育と研究との重大な責務がある。真剣な政治運動に入らうとするならば、この重大な責務にさし障りを来すことは免れ得まいと思ふ。教授といふ地位は、これを充たす個人を離れて、学校に対し学生に対して重い責任のある地位だと思ふ。だから自分の政治的活動がこの教授としての仕事に差し障りを来すなら、その地位を後進に譲ることが正しいであらう。それで不安な場合に…

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