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2018/12/24

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  • 「小池光第四歌集『草の庭』(砂子屋書房・1996年)」を読む(其のⅦ)

    〇 「焼きソバパン」などで済ませて昨日今日午前と午後のけぢめもつかず〇 藪椿咲く道のべは看板の「老人多し 徐行」立ちをり〇 雪虫のとぶころとなりかんばんの赤一文字「灸」ぞ目に沁む〇 雪やみし夕微光にてザゴルスク聖トロイツェ修道院の庭いかに 〇 行くみづのながれにくだる石階にセキレイ降りて草川といふ〇 柚子の木のかたはらなりし井戸にして雪ふるなかに汲み上げにけり〇 ゆふ...

  • 「小池光第四歌集『草の庭』(砂子屋書房・1996年)」を読む(其のⅥ)

    〇 窓枠の四角い空にひだりより三番目の雲さかんにうごく〇 疎らなる苔のおもてに風はしり散るさざんくわのあたらしき花〇 マンホールの蓋はくるしく濡れながら若草いろの鞠ひとつ載す〇 水枕ゴムのにほひも懐かしくちりぢりに夢のなかにただよふ〇 みづからが苦しみ生みしまぼろしに或るとき憤りあるときすがる〇 みみかきの端なるしろき毛のたまよ触るるせつなにさいはひのあれ 〇 耳の垢ほ...

  • 「小池光第三歌集 『日々の思い出』(雁書館・1988年)」を読む(其のⅥ)

    〇 真昼間の寝台ゆ深く手を垂れて永田和宏死につつ睡る〇 道端に拾ひしカセットテープより意味不明なる声は出でたり〇 むかしわが万引したる一冊の島尾敏雄は純情深き〇 眼薬を入れられて眼はなみだするいつ来ても不機嫌な老医師のまへ〇 ゆく秋の曇りは垂れてチェルノブイリの蛙らもみな地中に入らむ〇 行春のあめのしずくは後楽園人工芝の針にすべるか〇 夕方を帰りてくれば隣家なる今井さん...

  • 「小池光第三歌集 『日々の思い出』(雁書館・1988年)」を読む(其のⅤ)

    〇 左手の中指半ばに生えきたる一本の毛は横たはらざり〇 日なたにて干し柿くひぬ干し柿は円谷幸吉の遺書にありしや〇 日の丸はお子様ランチの旗なれば朱色の飯(いい)のいただきに立つ〇 昼すでに寝てしまひたる夜にして南京豆など食べむとしをり〇 びりけつになりて我が子が卑屈なるおもざし見せて寄るをさびしむ〇 ファミコンはいつ買つてくれるかと電話にておもひつめたる声で言ひけり〇 ...

  • 「小池光第三歌集 『日々の思い出』(雁書館・1988年)」を読む(其のⅣ)

    〇 体育館器具室の窓に午前(ひるまへ)のしろく冷きさくらは見えし〇 立食ひのまはりはうどん啜るおと蕎麦すするおと差異のさぶしさ〇 父十三回忌の膳に箸もちてわれはくふ蓮根及び蓮根の穴を〇 つぎつぎと乳歯はづれてゆく吾子をうすきみわるしとまでは言はねど〇 つやつやと出でたる種三つぶ干し柿の身のうちにしてやしなはれ来ぬ〇 年老いしアナスタシアをおもふとき百日紅の花の下の永遠〇 ...

  • 「小池光第三歌集 『日々の思い出』(雁書館・1988年)」を読む(其のⅢ)

    〇 佐野朋子のばかころしたろと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず〇 次第にどうでもよくなるこころはげまして校正しをり雨の印刷所〇 しまったと思ひし時に扉閉まりわが忘れたる傘、網棚に見ゆ〇 遮断機のあがりて犬も歩きだすなにごともなし春のゆふぐれ〇 暑のなごりほのかに曳ける石のうへ秋のかなへびは戦ぐがにゐる〇 情緒的に戦争をほめてやまざりき情緒的に戦争を否定しやまざるが如〇 ...

  • 「小池光第三歌集 『日々の思い出』(雁書館・1988年)」を読む(其のⅡ)

    〇 「回天」をうつとぺたぺたと音のするたなごころ柔(やは)きやはきあはれさ〇 屈まりて手をさし入れてコーヒーのあたたかき罐とらむとすあはれ〇 河馬の背に盛られてゐたる御子様ランチも月改まりけふは亀の背〇 鬼太郎の父たる者の哀楽は子の手袋に入りて眠りぬ〇 気の向く折りをりに読み来て断腸亭日乗も昭和二十年に入る〇 草野球みてゐる人のそれぞれにあきらめに似しまなざしは見ゆ〇 ...

  • 「小池光処女歌集『バルサの翼』(沖積舎・1978年)」を読む(其のⅤ)

    〇 バルサの木ゆふべに抱きて帰らむに見知らぬ色の空におびゆる〇 一影のポプラぞ騒ぐ水の上ゆふべうらわかき風立ち渡る〇 ひと夏の陽に食まれつつなほ高くひまはりは父のたてがみ保つ〇 日の影の椅子に沈みて睡るなく覚むるなく春の嵐を待てり〇 ほのしらみあけぼの地に来たるころ一滴の血は体を離れき〇 ポプラ焚く榾火に屈むわがまへをすばやく過ぎて青春といふ〇 幹、太く黒くころがるめぐ...

  • 「小池光処女歌集『バルサの翼』(沖積舎・1978年)」を読む(其のⅣ)

    〇 愉しかりし万緑のひびき機関車の河にかかればふたたび聞ゆ〇 たはむれ遊べり 睡るをさな児のゆびアルミニウム箔もてつつむ〇 亡父(ちち)の首此処に立つべしまさかりの鉄のそこひにひかり在りたり〇 父の死後十年 夜のわが卓を歩みてよぎる黄金蟲あり〇 宙に置く桃ひとつ夜をささふべし帰るべしわが微熱のあはひ〇 血を頒けしわれらのうへに花火果て手探りあへり闇のゆたかさ 〇 つつ...

  • 「小池光処女歌集『バルサの翼』(沖積舎・1978年)」を読む(其のⅢ)

    〇 さくらからさくらに架けし春蜘蛛の糸かがよへるゆふべ過ぎつつ〇 さくらばな空に極まる一瞬を児に羊水の海くらかりき〇 サフランのむらさきちかく蜜蜂の典雅なる死ありき朝のひかりに〇 したたれる桃のおもみを掌に継げり空翔ぶこゑはいましがた消ゆ〇 祝祭日のみじかき昼を満たしくる酸ゆきチエホフの断片たりし〇 暑のひきしあかつき闇に浮かびつつ白桃ひとつ脈打つらしき〇 頭蓋に一杯の...

  • 「小池光処女歌集『バルサの翼』(沖積舎・1978年)」を読む(其のⅡ)

    〇 海上に浮けばあふむけの顔のうへ拷問の陽はあふれて止まぬ〇 かたち変へかたちかへては遠ざかる群鳥を統ぶ意思にうたるる〇 北の窓ゆつらぬき降りし稲妻にみどり子はうかぶガーゼをまとひ〇 気付かずにたれか喪ふ青春の空かぎりなし樫の木の間に〇 きみの非には非ざるものをとしつきの軋みに深く鉄路岐れて〇 切られたる欅をかっと没陽塗るかかる終焉をひとは持ち得ず〇 逆光の戸口をふさぐ...

  • 「小池光処女歌集『バルサの翼』(沖積舎・1978年)」を読む(其のⅠ)

    〇 ああ雪呼びて鳴る電線の空の下われに優しきたたかひあらず〇 あかつきの罌粟ふるはせて地震(なゐ)行けりわれにはげしき夏到るべし〇 あかねさすひかりに出でて死にたりしかの髪切蟲(かみきり)を父ともおもへ〇 一夏過ぐその変遷の風かみにするどくジャック・チボーたらむと〇 いちまいのガーゼのごとき風たちてつつまれやすし傷待つ胸は〇 いまいちど<われら>と彫りし樫の木をゆりうごかして...

  • 「吉川宏志第八歌集『石蓮花』(書肆侃侃房・2019年)」を読む

    パスワード******と映りいてその花の名は我のみが知る赤青の蛇口をまわし冬の夜の湯をつくりおり古きホテルにみずからに餌を与える心地して牛丼屋の幅に牛丼を食ぶ初めのほうは見ていなかった船影が海の奥へと吸いこまれゆくその命うしなうときに青鷺の脚はそのまま骨となるらむかまぼこの工場裏を歩みおり風やみしとき魚臭ただよう遠くから見る方がよい絵の前に人のあらざる空間生まる水に揺れる紅葉見ており濃緑(こみどり...

  • 「小中英之遺歌集『過客』(砂子屋書房・2003年)」を読む(其のⅠ)

    〇 朝顔に終ひの花咲き巡礼の鈴の音にも秋深むなり 作者・小中英之の終焉の地、神奈川県大和市辺りの「朝顔に終ひの花」が咲くのは、秋も深まった頃であり、その時節ともなれば、「巡礼の鈴の音」にも、涼やかさが感じられるのでありましょうか? それにしても、大和市辺りを巡礼が通るとは摩訶不思議なり? 埼玉県の秩父だとか、四国の粟島辺りならまだしも? 案じるに、小中英之は、ほんの一時の事ではあるが、埼玉県浦...

  • 「犬養楓第二歌集『救命』(書肆侃侃房・2022年)」を読む

    〇 会いに行く深い理由もないけれど会える日だから言うありがとう〇 諦めることを諦め今日明日も人を救いに病棟へ行く〇 明日それが延命治療になろうとも救命の灯を今日は消さない〇 医者役のうまい役者はいるけれど よき医者はみなよき役者なり〇 一日の危険手当の千円で使い捨てたる靴下を買う〇 気が付けば最後のドミノ寄り掛かる先がないまま潰されている〇 救外の搬入口の外側に搬送者用...

  • 「犬養楓処女歌集『前線』(書肆侃侃房・2021年)」を読む

    〇 アフターかウィズのままかを問われても答えの出ない二十一年〇 会わぬことの言い訳立った一年が会う理由さえ曖昧にして〇 一日に何度もシャワーを浴びるから私は髪を短く切った 〇 一日はかくも長きか口と皮膚覆われ今は肩で息する〇 咽頭をぐいと拭った綿棒に百万人の死の炎(ほむら)見ゆ〇 感染者最多でなければニュースでは天気予報のような扱い〇 口元が露わになれば恥ずかしくいつの...

  • 「小中英之第二歌集『翼鏡』(砂子屋書房 ・1981年)」を読む(其のⅢ)

    〇 瀧しぶきあびるこの身ゆ息づきて茅舎の年へ近づきにけり〇 罪ふかくふりむかざれば忽然と去年の森よりわれを撃つ音〇 鶏ねむる村の東西南北にぽあーんぽあーんと桃の花見ゆ 〇 汀橋すぎて舟倉までの間(かん)かげ濃くわれの幼年期顕つ〇 庭の上(へ)のうす雪ふみて雉鳩のつがひ来あそぶこゑなくあそぶ〇 蓮枯るる間(かん)の水の上(へ)めぐりつつ午後四時ごろの水鳥の飢ゑ〇 春の野の...

  • 「小中英之第二歌集『翼鏡』(砂子屋書房 ・1981年)」を読む(其のⅡ)

    〇 階くだる夜の足下に枇杷の実のみのりほのかにもりあがり見ゆ〇 からたちの芽吹きにましてわれもまたたださむひとつ身ぶるひにけり〇 枯野より枯野へかけて官能のごとくに日ざし移ろひゆけり〇 霧いつか薄れて朝の植物にえらばれしごと花えみはじむ〇 さくら花ちる夢なれば単独の鹿あらはれて花びらを食む〇 死ぬる日をこばまずこはず桃の花咲く朝ひとりすすぐ口はも〇 羊歯の葉のみどりそよ...

  • 「小中英之第二歌集『翼鏡』(砂子屋書房 ・1981年)」を読む(其のⅠ)

    〇 青すすき倒して水を飲み終えし四方(よも)さやさやと青芒立つ〇 朝はきて修羅一束の極まりか菫むらさきかたまりて濃し〇 怒りこそわが生きの緒の痣ならむ暁(あけ)の雲雀のこゑに目ざめて〇 池の端あゆみゆくとも水澄まず水鳥に一日(ひとひ)終らむとして〇 石の上に置けば走らず鮎の目のはやも翳るや青葉さやぎて〇 無花果のしづまりふかく蜜ありてダージリンまでゆきたき夕べ〇 今しば...

  • 「下村光男処女歌集『少年伝』(角川書店・1976年)」を読む(其のⅠ)

    〇 さなり世智などあらぬされども裡ふかくほのぼのとわが感性はあれ〇 逍遙歌うたとはならずへべれけの友を負い巷いくさびしさは〇 草原を駈けくるきみの胸が揺れただそれのみの思慕かもしれぬ〇 ともしびをうかべてよるの隅田川ふと大正のろまんこおしも〇 ひたぶるの天のなみだか野のいっぽん杉にわが眼におつるあまつぶ〇 みはるかす穢土のゆうぐれふとしもよわれもかえりてゆきたし永劫(とわ)へ...

  • 「下村光男処女歌集『少年伝』(角川書店・1976年)」を読む(其のⅠ)

    〇 暁(あけ) 死してねむるわが裡(うち)こうこつと 霜ふれり霜ふりの牛肉(ビーフ)に〇 いしだたみ蜥蜴しゅしゅっとあらわれてやがてかくれてゆけり孤独に〇 いたずきを知ってか誰も来ずひと日かつてこがれし虚空みていつ〇 おお なんの種子か無数に飛ぶからにあかね野われは馳せてきたるを〇 Oよ懺悔のいま詮もなきこころにて垂るるいくすじわれのなみだは〇 食(お)すと焼くしおじゃけ塩を噴きな...

  • 「『小中英之・初期歌篇』(佐藤通雅編)」所収歌

    〇 がそりんのにおいなどする海辺にておおはるかなる北の渚よ〇 しはつ電車の紺の座席のひとねむり春の山なみ見ゆる町まで〇 血ぬられてきたる戦後史、八月の双耳に千の羽ばたき激し〇 とこしえに生者悔しも八月の頭上に散華の叫びはあふれ 〇 はつなつのこころ割くべし海燕まひる矢のごと海よりきたり〇 花大根ほどの白さよゆうまぐれ飲みつづけいるくすりと意志と〇 焼けつつもふ...

  • 「小中英之処女歌集『わがからんどりえ』(角川書店・1979年)」を読む(其のⅣ)

    〇 幽界にともる微笑を友としてみどりまぶしき季を揺らげり〇 夕かげるまでを雀の群ありてあな内向の一羽際立つ 〇 逝きてなほわが終身の友なればきさらぎ白きほほゑみに顕つ〇 ゆきゆきて桑の実食むもまたかなしいかばかり身のいづこ黒ずむ〇 酔へば眼にゆらぐかずかずかぎりなしあなベレニケの髪もゆらぐよ〇 夜をひと夜すすきみみづく還るべき虚(うろ)あらざればしぐるるをきけ〇 繚乱の...

  • 「小中英之処女歌集『わがからんどりえ』(角川書店・1979年)」を読む(其のⅢ)

    〇 黄昏にふるへ浮かびて遠街のいづこも人のけはいを灯す〇 黄昏にふるるがごとく鱗翅目ただよひゆけり死は近からむ〇 月射せばすすきみみづく薄光りほほゑみのみとなりゆく世界〇 蟷螂のぎりぎり荒む一瞬の美しければわが日々を恥づ〇 友の死をわが歌となす朝すでに遠きプールは満たされ青し〇 人形遣ひたりしむかしの黒衣なほいかに過ぎしもわれにふさはし〇 花びらはくれなひうすく咲き満ち...

  • 「真中朋久第二歌集『エウラキロン』(雁書館・2004年)」を読む

    〇 浅きみづに背をひからせて真鯉ありき朝のことなれどこのくらき溝の.〇 雨にけぶる観覧車にて録音は見えざるものをあれこれと言ふ 〇 あわただしく移る季節は窓のそとつながつたまますこし眠つた〇 絵を踏みてころべころべといふごときなかば凍れる雪の甃みち 〇 踊り場にどどうと重き風が落ちる私に依存してはならない〇 考へもなく揺れてゐる葦でありわれはその根の泥とも思ふ〇 帰郷い...

  • 「廣西昌也処女歌集『神倉』(書肆侃侃房・2012年)」を読む(其のⅤ)

    〇 真夜中の当直室に暗闇が精神を持ち正座していた〇 焼いてきた帰りに見えて美しき無人販売所の新キャベツ〇 ゆうぐれは触覚だけがたよりですなま暖かいものが右手に〇 揺れやまぬ熊野の海のひとところ胎児の僕が漂っている〇 羊水のなかに身体を重ね合うリズムは二人おんなじだった〇 与謝野氏が来て大騒ぎせりとかや明治には強き「中央」ありき〇 隣室は教授室なり「どんな手を使ってでも」...

  • 「廣西昌也処女歌集『神倉』(書肆侃侃房・2012年)」を読む(其のⅣ)

    〇 「たのむでえ」「たのんどくでぇ」「たのむどお」差が少しあり交わしあう声〇 父をいま満たす水あり蕭々と暗黒へ向け流れゆく水〇 千穂が峰の大きな影のなかにいる「僕が死んだら」「僕が死んでも」〇 友だちに決して見えない影があり僕の隣で揺れつづけてた〇 飛んでいる鳥が落ちたりすることもあるはずなのに見たことがない〇 どの辺を与謝野夫妻は歩きしや明治の人の志は羨しけれ〇 ひも...

  • 「廣西昌也処女歌集『神倉』(書肆侃侃房・2012年)」を読む(其のⅢ)

    〇 触っても不可思議なままなのだろうけれども父を愛撫している〇 譫妄の老婆は確固たる声で「悪意の人」と我を指差す〇 死者生者ぞろぞろ出でてゆきし後部屋青白くただに明るし〇 「初夜ふたりキャラメル食べたね」不味そうに蛸噛んでる妻真顔なり〇 新宮市紀伊佐野巴川製紙工場跡の巨大な空虚〇 睡眠の周期あやしくなりゆけり最後の夢に会う人ありや〇 「砂浜に隠した」という笑みながらすぐ...

  • 「廣西昌也処女歌集『神倉』(書肆侃侃房・2012年)」を読む(其のⅡ)

    〇 回送の電車がとおるうす暗い客車に僕を抱いたかあさん〇 くらやみの液体のなかお互いを知らないままに十月十日〇 群青の空の真下のかあさんは僕をどこかに捨てそうでした〇 黒人の宦官はかつていざりしや優しかるらん歯がゆかるらん〇 子供らがはしゃぎまわっている中に子供の頃の父もいないか〇 この子だけでも残ったと言われただろう保育器の中眠ってる僕〇 子を持たぬ夫婦のことば艶やか...

  • 「廣西昌也処女歌集『神倉』(書肆侃侃房・2012年)」を読む(其のⅠ)

    〇 ああこれは愛だと思った機上より桜を孕む紀伊半島見ゆ〇 あけぼのは薄むらさきにみはるかす熊野の山が起き伏しにけり 〇 あの頃の僕はよく鳴る楽器でした母はかき鳴らすのが大好き〇 一子ではない女から戻りきて霧の線路を歩く明け方〇 いつからが父の夕暮れ右肺の半分がもう水面下なり〇 海よりも空くらきかも大時化と大雨のなか尾鷲に向かう〇 「おとうさん」幼いころの言い方でこわれた...

  • 「松平修文第三歌集『夢死』・第四歌集『蓬』」所収歌

    〇 花壇とは美少女たちの生首を並べてつくる、のが本当だ 第三歌集『夢死』〇 食ひ給へと言ひて置きゆきし新聞紙に包まれしものしきりに動く〇 湖底寺院の僧侶たち月夜の網にかかり朝の競り市に運ばれてゆく 〇 湖底の森からの土産、と乾魚を置きて帰りき 再びは来ず 第四歌集『蓬』〇 捨てがたきもののひとつぞ 枯草がつまりゐる父の古き胴乱〇 父が逝きし日のゆふぐれの屋...

  • 「松平修文第二歌集『原始の響き』(雁書館・1983年)」を読む

    〇 雨のなか来し風が部屋をとほるときかずかぎりなき蝸牛のけはひ〇 海で生まれた風は昆虫たちの眼がきらきらとする山頂に着く〇 窪地に湛へゐるくらきものより生まれ飛びたつぎらぎらひかる翅たち〇 研究室では科学者たちが金属光を発する向日葵を組立ててゐた〇 さくらばな咲く日近づきやまかげの暗きしみづを蟹かき乱す〇 真赤な雨がふりだしてどんどん草の葉は鳥となり石塊は爬虫類となり〇 ...

  • 「秋月祐一処女歌集『迷子のカピバラ』(風媒社・2013年)を読む(其のⅣ)

    〇 廃墟・廃港・廃線・廃市・廃病院・廃家・廃井 あぢさゐのはな〇 泥棒市場(バザール)で買った時計のうごかない秒針のこと、結婚のこと〇 引き潮のときだけ沖にあらはれる教室 今日もおやすみでした〇 ひとつづつ交互に食べるたけのこの里よ 始発はまだまだ来ない〇 ふむぐうと抱きついてくる無表情 これは淋しいときの「ふむぐう」〇 「まつしろなパンダに生まれ変はる夢、これつて何かの罰だと...

  • 「秋月祐一処女歌集『迷子のカピバラ』(風媒社・2013年)を読む(其のⅢ)

    〇 倒れない程度に無理をするこつをはやくおぼえてカンガルー、カンガルー〇 大輪の花火はじける五億年後にぼくたちの化石をさがせ〇 地下街で迷子になつたカピバラにフルーツ牛乳おごつてやらう〇 地底湖に落としたカメラ ぎこちないきみの笑顔を閉ぢこめたまま〇 梅雨寒のホット・バタード・ラム熱しやけどの舌をちろつと見せて 〇 点在湖沼を巡るみたいにすこしづつ識るきみのくせ ひろがる波...

  • 「秋月祐一処女歌集『迷子のカピバラ』(風媒社・2013年)を読む(其のⅡ)

    〇 借りるビデオも決まらないまま語りあふギズモの耳の唐揚げの味〇 きみどりの目をしたうさぎに一晩中「くぶくりん」つて囁かれてる〇 「このあひだサラダに入れたアボカドの種に芽がでたから見にこない?」〇 この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく〇 「錆」といふ漢字の「円」のとこが好き まだ子どもだと思つてゐたら〇 「生涯にいちどだけ全速力でまはる日がある」観覧...

  • 「秋月祐一処女歌集『迷子のカピバラ』(風媒社・2013年)を読む(其のⅠ)

    〇 相手より長生きしようおたがひに(お化けは死なない)約束しよう〇 開けてごらん影絵のやうな家々のどれかひとつはオルゴールだよ〇 朝焼けを見すぎたぼくとやせこけた向日葵それが夏のすべてで〇 あまりにも脆弱なきみを守れずにぼくは葡萄でありつづけてる〇 あられもない寝相で夢をみるきみはまだタイトルの付いてない曲〇 いいことがつづくと怖いといふきみにでんぐり返しで近づいてゆく〇 ...

  • 「真中朋久処女歌集『雨裂』(雁書館・2001年)」を読む

    〇 朝より思ひ出せぬことひとつあり微雨すぎてのち匂ひたつ土〇 明日は雨と書きいだしつつ概況は恋文のやうに滞りをり〇 逢ひにくるやうに毎月ここに来て野末の測器の撥条を巻く〇 あぶら照り照りかへし凪ぐ湖のうへ湖底の水温書きとめてゐつ〇 雨あがりの果実のごとく試料容器(ポリビン)を籠に集めて帰り来にけり〇 あやぶみて見てゐる兄の心にもなり得ずきみの恋を聞きをり〇 いくたびか死...

  • 「本多真弓処女歌集『猫は踏まずに』(六花書林・2017年)」を捲る(其のⅦ) 三訂版 本日早朝、特別大公開!

    〇 ゆふぐれてすべては舟になるまでの時間なのだ、といふこゑがする 一艘の笹舟となって谷川を果てしなく流れて行くのが、私たち人間の運命なのである。〇 ユキヤナギ真夜に来たりて白き花こぼしたものかシュレッダーまへ シュレッダーの前に、白いユキヤナギの花を零したのは誰だ! 落花狼藉の振る舞いも此処に至れば、もはや「鬼畜生の振る舞い!」とでも言わなければならないのだ!〇 嫁として帰省をすれば待...

  • 「本多真弓処女歌集『猫は踏まずに』(六花書林・2017年)」を捲る(其のⅥ)

    〇 巻き込まれ型のへなちよこ探偵のやうな一日たぶん明日も〇 薪で焚くお風呂があつた祖母の家 火の神様を祖母は見てゐた〇 待つことも待たるることもなき春は水族館にみづを見にゆく 「みづを見にゆく」とは、如何にもナウい水族館見学である。〇 右利きのひとたちだけで設計をしたんだらうな自動改札〇 右向きにふとんで泣けば左眼の涙が一度右眼にはひる〇 ミントタブレットどうでもいいことの...

  • 「本多真弓処女歌集『猫は踏まずに』(六花書林・2017年)」を捲る(其のⅤ)

    〇 白菜を白菜がもつ水で煮るいささかむごいレシピを習ふ 考えてみれば自らの水分で煮られるというのは残酷かもしれない。〇 はじまりに光があつてさよならはいつもちひさく照らされてゐた〇 パトラッシュが百匹ゐたら百匹につかれたよつていひたい気分〇 パソコンを片手で打てるようになる納豆巻きを摂取しながら〇 ひかりごと啜る白粥はふはふといのちを生きていのちは産まず〇 ひきずれば死体は...

  • 「本多真弓処女歌集『猫は踏まずに』(六花書林・2017年)」を捲る(其のⅣ)

    〇 騙しゑを模写するやうなぼくたちの窓を過よぎつてゆく鳥の影〇 長女つていつも鞄が重いのよ責任感を仕舞ひこむから〇 躑躅咲く目黒行人坂をゆく黙(もだ)と黙とを重ねてのぼる〇 てのひらをうへにむければ雨はふり下にむけても降りやまぬ雨〇 ですよねと電話相手を肯定しわたしを消してゆく会社員 〇 とある朝クリーム色の電話機に変化(へんげ)なしたり受付嬢は 「人件費節減」という名目で...

  • 「本多真弓処女歌集『猫は踏まずに』(六花書林・2017年)」を捲る(其のⅢ)

    〇 さくらちるさくらちるとてわたくしは小金を稼ぎ新聞を読む〇 三年ぶりに家にかえれば父親はおののののろとうがひをしており〇 三年をみなとみらいに働いてときどき海を見るのも仕事〇 残業の夜はいろいろ買つてきて食べてゐるプラスチック以外を〇 ししくしろ黄泉で待つとや待たぬとやくづれはじめるまへにあひたい〇 死ぬまでにつかひきれないぐらゐあるわたしの自我とハンドソープは〇 出...

  • 「晋樹隆彦第四歌集『浸蝕』(本阿弥書店・2013年)」を読む(其のⅥ)

    〇 宮川の支流が街をゆっくりと流れて人は歩みを止める〇 むかし砂山なりしところまで牙をむく浸蝕にたじろぐ旅びと五人〇 もういちど呑んで夜明かししたき友 年々に逝きまた一人逝く〇 四十年かかわりてこし編集に如何(どう)ともしがたき視力の衰え〇 稜線のみはるかすまで秋雲の冷気するどくたなびきており〇 隣室の鼾をうけてわが輩もおおかた夜は眠りにつける〇 冷静になれよと目覚む印...

  • 「晋樹隆彦第四歌集『浸蝕』(本阿弥書店・2013年)」を読む(其のⅤ)

    〇 中ゆびと人差しゆびの黄にそみぬ亡父の晩年ほどではなきが〇 ながらみの宝庫の浅瀬 波よけのヘッドランドの無情に佇てり〇 ながらみもなめろうもある白里の小さき店に秋はふかまる〇 咽喉の飢え耐えがたくなり入りし店ビールの喇叭飲みは三十年ぶり〇 呑み過ぎを悔み年ねん編集に倦みて四十年 ままよあれかし〇 「飲みながら癒していきましょう」医師のことば天の韻きのごとく聞ゆる〇 排...

  • 「晋樹隆彦第四歌集『浸蝕』(本阿弥書店・2013年)」を読む(其のⅣ)

    〇 頽唐派歌人が名づけし「タキアラシ」母音の妙はうたびとの技〇 高橋くん小笠原くん小林くん わが朋友は先に逝きたり〇 たった半日ネオンを消してそらぞらし偽善的エコを呼びかくる都市〇 地球的規模の気候の変にやあらむ人為的ならむや 海は応えず〇 千里浜や九十九里浜はた日向灘浸蝕は日々の津波でもある〇 塚本邦雄存命ならば何と言わむ口語・パソコン・メール短歌を〇 塚本邦雄、菱川...

  • 「晋樹隆彦第四歌集『浸蝕』(本阿弥書店・2013年)」を読む(其のⅢ)

    〇 酒の旨き生の苦きを知るほどに解明できぬわれならなくに〇 佐原を過ぎ香取を過ぎて吹くかぜは大利根川の秋のはこびや〇 散歩後は況してさわやか昼の酒ストップできぬわが癖あわれ〇 然り然り酒呑みヘビースモーカー老いて摂生に努めんとせず〇 焼酎に煮込みとおでん 定番なれど屋台の味はしみじみ旨し〇 焼酎を三杯にウーロン杯を追加せし自家製塩辛のトロの味する〇 白里(しらさと)と呼ば...

  • 「田中徹尾第二歌集『芒種の地』(ながらみ書房・2016年)」を読む

    〇 安全な立場にあればようやくに本音を語る空がおりくる 〇 腕時計して午睡するふたしかさ秋の空気が全身つつむ〇 帰省する若き部下ありいえづとに長もち持たせ背中をたたく〇 心証はかぎりなくクロ 海の名の酒でも出して自白を待つか 〇 たまさかに語気を強めて指示すれば翌朝休むと電話がありぬ 〇 仲介の腕まだ錆びつかずあることを両者一歩も譲らざる場に 〇 遠つ人先ゆく雁は風を...

  • 「服部崇処女歌集『ドードー鳥の骨 − 巴里歌篇』(ながらみ書房・2017年)」を読む

    〇 アンコール演奏曲を弾きしのち不二子のやうに君去りゆけり〇 行きつけのカフェの給仕と初めての握手を交はすテロの翌朝〇 こんな日は博物館を訪ひてドードー鳥の骨かぞえたし〇 サルビアは深紅に咲けり病院が元病院となりたる今も〇 サンマルタン運河は夏のきらめきを注ぎて白き船を持ち上ぐ〇 道化師が片手をあげる逆立ちの姿のままで片手をあげる〇 二年目のパリの夜なれば驚かず青き火を...

  • 「服部崇第二歌集『新しい生活様式』(ながらみ書房・2022年)」を読む

    〇 新しい生活様式とはいかに雌松の伸びし今年の枝の〇 いにしへのころより路は斑猫にしたがへばよし晴れてゐる日は〇 インドネシアの議長の声がドビューンドドビューンとしか聞こえない〇 鍵を持つわたしがいつかやつてきて扉を開けてくれるだらうか〇 カマキリに食はれて終はる夏の日のあたまを去らずそれも人生〇 鴨川のデルタのうへのなつぞらをリリエンタール七世が飛ぶ〇 今日もまた入つ...

  • 「室井忠雄第四歌集『麦笛』(六花書林・2022年)」を捲る(其のⅢ)

    〇 旅人のわれは味わうあしひきの会津のやまのコクワひとつぶ〇 とりたての香魚香草香茸を使って今宵の料理をつくる〇 生栗を五つほど入れわがからだ午後五時半のバスタブに浮く〇 濡れないように包んでとどく朝刊の記事一面が豪雨災害〇 働けばしあわせになると信じつつ生きてきたりぬ昭和の時代は〇 八十歳を超える三井ゆきさんの騎乗のアレキサンダーアモの歩みぞ〇 『バカの壁』再読しおれ...

  • 「室井忠雄第四歌集『麦笛』(六花書林・2022年)」を捲る(其のⅡ)

    〇 カエル鳴きセミ鳴きウシ鳴くわが里にきみ嫁ぎ来て四人子をなす〇 火葬場担当でありし若き日死者を焼く原価を計算せしことのあり〇 学習すれば俳句は身に付きますが短歌にはそういう装置はあらず〇 九十歳まで生きた葛飾北斎は七十歳から本領発揮す〇 組内の葬儀三つを段取りて二〇一九年暮れゆきにけり〇 クレソンが収穫可能とメール打つ九月三十日朝霧たちて〇 ここの地を飛び立つ戦闘機に...

  • 「室井忠雄第四歌集『麦笛』(六花書林・2022年)」を捲る(其のⅠ)

    〇 灯りが全部消えているから平穏な夜明けであるらしグループホームは〇 足の届かぬ大人用の自転車に乗るため三角乗りという技のありたり〇 炙り鮎をのせてうどんを食いにけり鮎釣り名人のきみにもらって 〇 甘酒を売っていたから和菓子屋になっても「あまざけ」屋号は楽し〇 蟻は蟻のあとを歩くが先頭の蟻はなにをめあてに歩くのだろう〇 アルミニウムでつくる一円玉よりも価値ある紙の二円切手は...

  • 「桜井園子歌集『水中鳥居』(角川書店・2022年)」を読む

    〇 おおどかに微笑み背筋を伸ばしゆくこころの傷口ひらきそうな日 詠い出しの五音「おおどかに」は、ナリ活用の形容動詞「おおとかなり」の連用形であり、「こせこせしないでおっとりと・小さなことにこだわらず・おうように・おおらかに」といった意味である。 例えば、この一首は、「おおらかに微笑み背筋を伸ばしゆくこころの傷口ひらきそうな日」としても、文意は殆ど変らず、しかも、「おおどかに微笑み」とするよりも...

  • 「清水あかね処女歌集『白線のカモメ』(ながらみ書房・2020年)」を読む(其のⅢ)

    〇 桜咲く夕べも傘なき雨の夜も小さな橋をわたしは渡る その大小は問題ではない! 生きていればこそ、私たち人間は「桜咲く夕べ」のみならず、「傘のない雨の夜」にさえ、橋を渡るのであり、また、渡れるのである。 傘のなき雨の夜でもあの橋を渡らんとする君ならなくに〇 粛清という語の浮かぶ夕ぐれに甘く匂える藤のむらさき 「粛清」とは、「厳しく取り締まって、不純・不正なものを除き、整え清めるこ...

  • 「清水あかね処女歌集『白線のカモメ』(ながらみ書房・2020年)」を読む(其のⅡ)

    〇 傍らに船やすませて石橋のやわらかき弧は真夜の鐘聴く 長崎の眼鏡橋が描く「やわらかき弧」! その「やわらかき弧」を描く眼鏡橋の傍らには一艘の小さな船が舫われているのであり、その小さな船の辺りには、深夜を告げる教会の鐘の音が漂っているのである。 勤務校の修学旅行での実体験に取材した一首でありましょうか? 「優しさ」と「静寂」に包まれた「真夜」! 一首全体が、その「真夜」の「喩」なのである。 ...

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