※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
翌日、二番目の兄の徹が軽トラを手配し迎えに来た。そこに自転車と少量の荷物を乗せる。「これだけ?」「うん。断捨離していたらこれだけになって。」「お前なぁ。相手は花沢物産の御曹司だろ?服とか大丈夫か?」「うん。」「お金は持ってるか?何か必要なものがあれば花沢さんが買ってくれるとは思うけど万が一の為にも必要だろ?」徹は自分の財布を取り出し現金を手渡そうとする。それをつくしが止める。「大丈夫。あたしだって...
類は仕事を終え急いで指定された店に向かった。店内に入ると既に二人は始めており、ニヤリと笑みを浮かべた。「それで見合いはどうなった?」類は辟易とした表情で空いている席に座る。「どうもこうも、かなり心配された。」あきらと総二郎は大笑いを始める。嘘とはいえEDの御曹司は悲壮漂う哀れな男性として見合い相手に映ったと分かったからだ。「そう言うしかねぇよな。」「言葉では心配を口にし、心の中では驚きと躊躇いがせめ...
つくしは類の家から自宅に戻った後、すぐ父親に報告した。『花沢類さんの家に一緒に住む事になったので土曜日にこの家を出ます。』その報告に父親は一瞬間があった後、、『そうか。良かったな。』と突然の同棲宣言に戸惑いつつもホッとした返事があった。だが土曜日には用事があり引っ越しの手伝いが出来ないと言われ、代わりに二番目の兄の徹を寄越すと言われた。だったら自転車を持っていきたいのでトラックで来て貰えば助かると...
その夜、あきらと総二郎から電話があり報告は1月5日の初出の後でとなった。初出は忙しいと拒んだが二人が納得するはずもなく、類はこの経緯をどこまで話すべきか悩み数日を過ごした。まずは父親に牧野つくしという人物の事を確認してからだと思いながら。そして1月5日を迎えた。類は少し早めに出社し社長室へ向かった。すると父親に満面の笑みで迎えられた。「さっそく報告に来てくれたのか?」「そんなに良い報告ではないのです...
運転手は類が女性を伴い乗り込んだことに内心ビックリした。だが表情には出さずそのまま類の自宅へと車を発進させる。そうしながらも後ろの二人の会話を漏らさぬよう聞いていた。「一応東京都だけど周囲を山に囲まれてる場所だけど。」「はい。」揺るがないな。「駅まで徒歩30分だけど。」「自転車に乗れるので大丈夫です。」お嬢様が自転車で駅まで?「車は?」「免許はあるんですけど車は持ってないです。」免許は持っているんだ...
類は過去の失恋により恋愛が恐くなり、それを見かねた父親が見合いの席を用意したと判断する。「恋愛に否定的って事?失恋したとか?」「いいえ。恋愛をした事がありません。ただ家庭を持ちたくないだけです。」「なんでそこまで?でも恋愛ではなく政略結婚させられるかもしれないけどそれで良いの?」「いえ。きっと政略結婚も無いと思います。今回は父の気まぐれだと思っていますから。」きまぐれ?俺との見合いが?そんなにハー...
つくしは診断書を手に取る。そこにはED(勃起障害)と書かれている。「大学を出てからこの状態。だから誰とも付き合っていないし付き合おうとも思わない。何も知らない父親は色んな女性との会食の場を設けてくれるけど、そもそもこんな体では結婚は出来ない。相手にも失礼だからね。だからこの話は、、、」「ずっと一人で悩まれていたんですか?」つくしは類の続く言葉を遮り尋ねる。これはすごく大変なことだ。確か御曹司はまだ2...
1月3日。つくしは11時20分にメープルへ到着した。そしてフランス料理店へと向かうと入り口のボーイに告げた。「花沢様で予約している者ですが。」「伺っております。こちらへどうぞ。」つくしは緊張しながら歩く。メープルは父親の仕事の関係で何度か訪れた事はあるがそのどれも会議室だった。その為、高級レストランに緊張している。というのもドレスコードがあるからだ。そこまで厳しい物ではないが女性はワンピースやスー...
あきらは初めて他人に自分の気持ちを打ち明け、照れた表情を見せながら話す。「母親のマナー教室へ通っている女性なんだけど、いつの間にか妹達と仲良くなっててさ。俺に色々聞かせるから一度見てみようかと教室を覗いた時に妹に紹介されたんだけど、俺に取り入ろうとはしないし自分をアピールもしねぇ。単なるお兄さんという扱いでさ。マナー教室は美作の名前は一切出していねぇし、そこのオーナーが美作商事の社長夫人とも書いて...
類とつくしの会食の日取りが決まった。それは年明けの1月3日だ。聡はすぐに類に社内電話をかける。『類。1月3日にメープルで会食をするように。』「この前、話していた人?」『そうだ。』やっぱり、、と類は思う。あの時は相手が断る可能性があると示唆していたが、やはり断る事は無かった。つまり相手の女性も会食の相手が俺だと聞いて乗り気になったんだろう。「食事をするだけで良いんだよな?」『もちろんその後に気が合うな...
聡は本村と別れた後、すぐに類の執務室へ向かった。「何?」「まだ日程は決まっていないが会食へ行ってもらうことになるからそのつもりで。」「また?」類はあからさまに嫌そうな顔を見せる。「もちろん会食の場すら断られる可能性もあるがな。」「断られる?」類にしてみれば考えられない事だ。花沢物産御曹司との会食を断る女性がいるとは思えない。何時も俺が嫌がっているからそう言えば乗り気になると考えているとしたらお粗末...
12月末。花沢物産本社ビルに政治家の本村が秘書二人を引き連れやってきた。そして会議室で社長の聡と面会した。「こんにちは。いつもお世話になっています。」「こちらこそお世話になっています。」二人は固い握手を交わす。「今回の選挙も無事当選できました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」「いえ、こちらは大したことはしておりません。」二人はどっしりとソファーに腰を下ろす。「かねてより伺っていました道路拡張工事...
結婚式類は緊張の面持ちでつくしが入ってくるのを待っていた。参列席には類とつくしの家族その後ろにあきら、総二郎、桜子夫妻、滋が座っている。するとドアがバンッと開き、司が入ってきた。皆はつくしが入ってくると思っていた為、驚く。「お前なぁ。来るならもう少し早く来いよ。」「悪りぃ。さっき着いたばかりで、これでも車を飛ばしてきたんだぜ。」「こっち来いよ。」あきらと総二郎は司を自分たちの真ん中に座らせると、類...
類とつくしは結婚式の為、東京へ向かった。そして挙式前日には、花沢家の好意でつくしは家族水入らずでホテルで一泊することになった。久しぶりの再会に、つくしは晴男、千恵子、そして進と順にハグをする。「つくし、おめでとう。」「元気そうで良かったわ。」「まさか姉ちゃんが花沢さんと結婚するとは思わなかった。」「それはあたし自身が思ってること。人生何があるか分からないね。」三人はつくしが一段と綺麗になり笑顔でい...
夕食は楽しい物となった。久しぶりの豪華なディナーにつくしは舌鼓を打つ。「美味しい。それにやっと生野菜が食べられます。」「そういえば向こうでの食事はどういう物だったの?」「ヤム芋を蒸した物を潰してマッシュポテトにしたり、おかずは缶詰が多かったです。でも類さんがカップ麺を持ってきてくれてそれはそれは凄く美味しくて。」「日本では塩分が高いとか良いイメージを持たれないカップ麺も、ナイジェリアでは貴重な物だ...
『今、幸せ?』の作品に沢山のコメントありがとうございました。期間が短く最後まで読めなかった方からもう一度公開を望む声がありました。また最後まで読まれた方からも、もう一度読み返したいというお声も多数ありました。一度きりの公開と決めていましたが少し考えますね。今日も石川県で大きな地震があり、何時どこで起きるか分からない状況。物価が上がり、食材も信じられない価格になり、今月から電気代も上がるとか。「やっ...
司と楓の会談から一週間後、キャサリンの陣痛が始まった。司は仕事中だったが急いで病院へ駆けつける。そこにはキャサリンの母親もいた。『そろそろですね。』『司さんも待ち遠しいでしょう?』『はい。どちらが生まれるか楽しみです。』司はドキドキしていた。子供が生まれる事でやっと白黒つけられると思っているからだ。《どちらが生まれるか楽しみ》というのは、自分の子供かそうでないかという意味で言っている。もちろん母親...
類は仕事を終えると直ぐつくしの病院へ向かった。コンコン『はい。』つくしの声が聞こえ類はそっとドアを開ける。「俺。」「いらっしゃい。仕事はどうだった?」「順調。社員もやる気満々で発売を待つばかり。」「何とか成功させたいね。」「是が非にでもね。」類は近くの椅子に座るとつくしの手を握る。「ご飯は食べた?」「うん。」「言葉はどう?」「全く分からない。医師は英語で話してくれる人もいるけど看護師はほとんどフラ...
翌日、類は会社へ向かった。ブラックソープの商品は既に完成している。それをどう販売するかの最終確認だ。一部は桜子の会社のパッケージで作り、それは既に日本へ送っている。販売方法はそれぞれ好きな方法で売り込む事になったが、発売日だけは合わせる事にした。『販売日は今日から二週間後。日本に送ったSAKURAKOと発売日は同じ。中の商品も全く同じ。パッケージだけが違う事は承知の通り。つまり、、負けるわけにはいかない。...
フランスに着き、救急車に乗って病院へ運ぶ。スムーズに移動が出来るのは両親が根回しをしてくれたおかげだ。その最中も、つくしはしきりに申し訳ないと謝っていた。だがどこかホッとした表情にも見える。それは類も同じだ。病院内の個室に運ばれ、簡単な検査が行われた後やっと二人っきりになった。「痛い所はない?」「大丈夫。痛み止めが点滴に入っているから。」「あんたの事だから中途半端で仕事を放りだしたとか思うなよ?あ...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございます。以前少し連載しました『あんた、誰?』という作品ですが、似たような作品があると指摘を受け取り下げました。そこから指摘部分を修正していたのですが、このまま公開するのもどうかと悩んでいました。ですがこの作品に費やした時間があまりにも長く(修正も含め)、このまま埋もれさせるのもどうかと思い期間限定で公開させていただきます。全部で182話あります。期間は3...
オヨ州に着いた類は、その足で作業場へ向かう。そこには一生懸命働いているサニ達がいた。『あっ、類!恋人はどうなった?』『昨日は突然キャンセルしてごめん。牧野が勤務していた診療所が窃盗団に襲われ左肩と右脇腹を銃で撃たれたけどなんとか命は取り留めた。』『良かった。』サニ達はホッと安堵し喜び合う。『それで本当は後三日はここに居る予定だったんだけど、病院についていたんだ。だから俺は今日までとなる。何か聞いて...
類とアドが待つ廊下に、以前つくしの診療所で見た男性がやってきた。医薬品などを運び、ラゴスやアブジャの病院へ行くときには連れて行ってもらっていると言っていた男性だ。『牧野先生が撃たれたと聞いたんですが?』『はい。診療所が襲われ、この子供は腕を切られ、牧野は撃たれて手術中です。』男性は心配そうに手術中のドアを見る。『もしかして薬が原因ですか?』『そのようです。診療所はもぬけの殻でした。それとパソコンも...
アドはつくしと共に木の陰に隠れた。すると診療所から警報音の合間に声が聞こえた。「牧野!! 牧野、どこだ? 牧野!! 牧野!!」類!!類の声だ!!『先生。類が来た。助けを呼んでくる。』つくしにそう呼びかけるが反応がない。アドは半泣きだ。つくしをこんなにしたのは自分に責任があるからだ。アドはソッとつくしの背を木にもたれかからせると、急いで扉へ近づく。すると知らない男性と共に類の顔が見えた。間違いなく類...
つくしは急いで窓に足をかける。そして体が半分ほど出たところで犯人が戻ってきて銃を構えた。その銃に向けスマホを投げつける。少しでも逃げる時間を稼ぐためだ。案の定、男は一旦銃口から顔を離した。その隙に窓から外に出て、一目散に扉へ向かう。扉は全開になっている。扉を超えれば銃口を向けられても当たる事はないはず。そう思いながら必死に走るつくしだったが、熱い物が左肩と右腹に感じた。と同時にズキュン、ズキュンと...
つくしは門を閉めた後すぐ診療所のドアも閉める。そして控室へ向かうと、パソコンを起動させ他の病院へ移動させる品と数を表示させる。それを見ながら積まれた段ボールを一つずつ診療所内へ運ぶ。明日の診療前には取りに来ると言っていた為、診療所内で仕分けしても問題ないと判断した。するとキッチンの上にチンチンというドーナツが置かれている。類が持ってきた物だと分かるが、今日はお茶休憩をする時間も無かった。しかも類ま...
アドは水を汲むために診療所へ向かって歩いていた。トロの姉の子供がもうすぐ生まれるという事で水が必要になったためだ。先に汲みに行っていた村の子供達と手を振りながら診療所へ向かう。アドは薬のお礼を言いたくて気もそぞろだった。時刻は夕方になっており、早く行かないと診療所が閉まってしまうと気持ちは焦っていた。『どっちが生まれるかな。それに先生にお礼を言わないと。ちょっと酸っぱい薬を皆に分けたよって。』ブツ...
リバーズ地方での爆発事故から二日経った。つくしは今日も忙しく仕事をしていると、突然入り口が騒がしくなった。『すみません。こちらに牧野先生はいらっしゃるでしょうか?』『はい。牧野は私ですが、、』つくしは自分の名前を呼ばれ、診療の手を止め入り口へ向かう。明らかに住民とは違う人たち。仕事か何かで急病でも出たのだろうかと思いながら入り口へ行くと用紙を手渡される。『道明寺様から牧野様に医薬品を届けるように頼...
司が帰宅すると使用人が慌てて出てきた。もちろん突然の帰宅だしお腹が大きくなっているキャサリンが出迎えなくても何の問題もない。『お帰りなさいませ。』『変わりねぇか?』『はい。』『妻の調子はどうだ?食事は済ませたか?』『はい。既に済まされお部屋でゆっくりされております。』『じゃあちょっと顔を見てくるわ。』時間はまだ21時前。まだ寝ていないだろうがお腹が大きく動くのも大変で横になっているんじゃねぇか?と...
司は点滴が終わると西田と共に病院を後にする。そしてまっすぐアブジャ空港へ。その間、司は何一つ話をしない。それが却って西田を不安にさせる。記憶を取り戻した今、司様はどうされるのか?牧野様はキッパリと断られ親友という言葉で丸く収まったように思いますが司様の気持ちまでは分かりません。もうすぐお子様も生まれますし波風は立てて欲しくないところです。司は記憶を失くしてからの事を色々考えていた。なぜ牧野を見ると...
縫合が終わると今度は下半身を見る。太ももが赤青く腫れている。「折れてるかな?レントゲンを撮ってみよう。頭は打った?」「あぁ。体ごと吹き飛ばされたからな。」「じゃあMRIも撮るね。」つくしは看護師に伝え、どちらが空いているか確認をしてもらう事に。そして司のストレッチャーを押しながらそこへ向かう。先にMRI、そして次にレントゲンを撮りそれを見ながら説明をする。「頭は今の所大丈夫みたいだけど、24時間は要注意。...
ドカーーン、、バーーン、、ババーーン、、、まばゆい閃光に司は目を閉じ腕で顔を隠すと同時に体が大きく跳ね飛ばされた。そして地面に強く体を叩きつけられる。一瞬の出来事で何が何だかわからない。ただ腕と腹が熱く背中と足が痛い。遠くで西田らしき声が聞こえるがどうなっているのか全く分からない。息をするのが精一杯だ。「司様。大丈夫ですか?司様~~~。」司は動かせる腕を上にあげた。つくしは病院で引継ぎと挨拶を行っ...
つくしは早朝、ラゴスの病院へ行く。それに合わせナイラは村へ帰り、明日トロが来てくれることになっている。『じゃあ先生、お気をつけて。』『ナイラも気を付けてね。』『はい。』ナイラはバケツに水を入れるとそれを頭に乗せ村へと歩き始めた。ナイラとトロはこちらに仕事に来る時は必ず空のバケツを持ってくる。そして交代する時に水を汲んでそれを持ち帰っている。本当に働き者だと感心するほどだ。『ではつくし、行きましょう...
司はオンド州知事庁舎で天然ゴムの業者と交渉を行っていた。『初めまして。道明寺ホールディングスの道明寺司です。今回は天然ゴムの調達の為に来ました。実は我が社は天然ゴムを他の業者から買っており、それでは安価な商品が出来ません。ですから業者を通さず直接現地から購入したいと思い、天然ゴムを採取している業者を紹介してもらいました。昨日のうちに話はあったと思うのですが、それぞれの産出量と販売価格を教えてくださ...
類は診療所へ入ると直ぐにつくしと目が合う。「こんにちは。」「ちょっと待ってて。」「ゆっくりで良いよ。」つくしは診療中だ。その為、類は隣の控室へ入ろうとしたところ、アドから声をかけられた。『類!』『久しぶり。アド。』『なあ類。先生が帰るのほんと?』『ん。』類はここではなんだからと診療所の外へ出る。そして日蔭にアドを連れていくと並んで座る。『先生にはずっといて欲しいんだ。』『そう思ってくれるのは嬉しい...
入り口が騒がしくなり、つくしはそちらを見る。すると信じられない人物が現れた。「よくこんなところで診療してんな。衛生面が最悪じゃねぇか。」つくしはすぐに声が出ない。ただその声色は蔑んだもので自分を見る目も厳しい。つまりまだ記憶が戻っていないと分かる。「何の用ですか?」「おいっ、そいつの顔はどうしたんだ?まさか伝染病じゃねぇよな?」司の視線は水癌に侵され顔が変形した男の子に向けられている。つくしは診療...
つくしと両想いになった類は仕事も今まで以上に張り切っていた。扱う道具に少しでも慣れてもらいながら作業効率を改善し、なんとか安定した製品が作れるようになった。そして出来た製品を箱詰めし、フランスへ送る段階になった。依頼していた運送業者に頼み、アブジャの空港へ運びそこからフランスへ送ってみる事に。フランスに到着した時点でどれだけの石鹸が破損しているかも確かめる予定だ。ナイジェリアでの活動は残り一か月と...
更に一か月が経った。花沢物産ブラックソープ担当者が何度か類のいる現地に足を運ぶようになった。ネットでやり取りも行っているが、どうしても現地を視察した方が早いためだ。作業場で製造をしている過程を見て、火にかけた鍋を混ぜるときには下に台座のようなものがあったほうが楽なのではないか。型に入れたブラックソープがしっかり固まるまでの置き場所を平面ではなく立体にした方が場所を取らないのではないか。原材料を砕く...
ナイジェリアに着いた類は、すぐにオヨ州へ向かう。サニには新しい場所で必要な物などを考えておいてほしいと伝えている。それを確認するためだ。サニに連絡を入れ作業場として選んでいた場所で落ち合う。『無事了解を得られたから本格的に製造を始める。これからも頼りにしてる。』『ありがとうございます。頑張ります。』『それで作業場をここにしたいんだけどどうだろう?』『広いし良い場所だと思います。』『石鹸は衛生品だか...
あきらは出張でシンガポールへ来ていた。その日、司もシンガポールに居る事が分かり、早々に連絡を取り夕食を共にする事になった。シンガポールのメープルレストランで二人は久しぶりの再会を喜ぶ。二人はシャンパンで乾杯をした後食事をしながら会話を続ける。「よぉ。結婚式以来だな。元気にしてたか?」「まあな。司は相変わらず忙しそうだな。新婚なのに大変だな。」「仕方ねぇよ。」「キャサリンさんは順調か?」「あぁ。だい...
久しぶりにフランスに戻ってきた類を麗は出迎える。「お帰りなさい。」「ただいま。」「どうだった?大丈夫だった?」「ん。なんとか形になりそう。」「それは良かったわ。じゃあ当分ここで暮らすのよね?」「いや。社内会議をした後すぐに戻る。向こうで作業場を作り実際に製造を初めるから。」麗も無理は言えない。これは類が主導し製造する初めての商品で失敗する訳にはいかないと分かっている。「あっ、母さんにも感想を聞きた...
その夜、類が持ってきたブラックソープで早速顔と頭を洗う。「あっ、前回のよりも良い香りがする。泡も滑らか?」つくしは頭をタオルで巻いてトロの元へ行く。『トロ。石鹸はどうだった?』『凄く良いです。香りも良いし泡立ちも良いと思います。』『だよね。』『類は優しいですね。』『ん?確かに優しいね。』突然トロが類の話を始め、つくしは耳を傾ける。『類が初めて私たちの村に来た時に、村長は単に話を聞いてすぐに追い払う...
類と田村はラゴスへ向かった。そこはかなり近代化されており高層ビルもいくつも立っている。電線もあり至って普通の街が存在している。つくしが住んでいる村と同じ国とはとても思えないほどだ。そんな中、メモしていた物を買っていく。そして米と缶詰も買ったが、そのどれも海外産。つまり輸入品だ。この国は食料自給率が低く輸入に頼っている。その割に人口増加が顕著で食糧難に見舞われ多くの子供達が栄養失調で命を落としている...
その夜も類は診療所に泊まる。「牧野。ナイラとトロを雇ったんだけど、問題が一つある。」「何?」「字が読めない。この辺の女性は学校に行かないんだな。アドが行っていたからてっきり皆行っているものとばかり思ってた。」「へぇ。知らなかった。街の人なら通っているのかな?」「たぶんね。オヨ州の女性は文字が読めたから。」「だから類が苦労していた訳だ。」つくしは昼間の事を思い出しクスクス笑う。「紙に書いて壁に貼ろう...
翌朝、早朝にもかかわらず門の前には数人の患者が集まっていた。つくしは類から貰ったカップ麺を食べると診療所内のソファーで寝ている類を起こす。「ごめん。患者さんが来ているから門を開けたいの。寝るならあたしのベッドで寝て?」「ん?」類は体を起こすと大きなあくびを一つする。こんなところでぐっすり寝れるはずがないと思いながらソファーに横になった。だがここ数日あまり寝ていなかったせいかぐっすり眠れた自分に笑い...
「あたしが決めるの?」「俺はもう決めてるから。牧野と一緒にこの先の未来を歩むってね。だから後は牧野の気持ち次第かな?もちろんすぐに結論は出せないと思う。10年と言う月日があるし、俺とはほんの半年ほどの付き合いだからね。だから俺がここに通うよ。俺をしっかり見てそれから決めれば良い。」つくしは言葉にならない。嫌なわけがない。半年ほどの付き合いだけど、凄く助けられた。もちろんそれは今もだ。花沢類の言葉はい...
つくしは類がコーヒーを飲んでいる間にヤム芋を茹でてすりつぶしマッシュポテトのようにする。そして缶詰を開けてテーブルの上に置く。「はい。あたしがいつも食べている夕食。花沢類も食べるでしょ?」「ん。いただきます。マッシュポテトの量が多すぎない?」「昼食を抜くからこれぐらい平気で食べられるのよ。」つくしは笑いながら告げる。変わらぬつくしの笑顔に、類はホッとし嬉しくなる。医師になっても牧野は牧野だ!と思え...
「今夜はここに泊まっても良いかな?」「えっ?」「もっといろいろ話がしたい。この10年の事、何も知らないから。」「でも花沢類は仕事でしょ?」「そうなんだけど石鹸の乾燥に二週間かかるらしいから、その間は暇なんだ。とりあえずその様子は秘書に録画させてるから後で早送りで見れば大丈夫。それにそろそろ仕事再開だろ?終わるのは夜になるんじゃない?」「うん。そうなんだけど。」「俺は診療所のソファーにでも寝るから心...
つくしの居るナイジャー州の診療所に着いた類は、お土産の袋を手に車から降りる。ボディガードは診療所の入り口に待機させ、類一人で入る。つくしはすぐに類の姿に気が付いた。「あっ、花沢類。ごめんね。ちょっと待ってて。」「ん。ゆっくりでいい。」つくしは断りを入れた後、再び患者を診る。前回と同じように大勢の人で溢れている。類は邪魔にならないよう隅に立ち、つくしを観察するようにジッと見る。つくしは母親の話を聞き...
「実はこの前ナイジェリアに行ってきた。その理由は三条からブラックソープとジャングルハニーが手に入らないかと聞かれた事がきっかけ。牧野の居場所が知りたければその二つを何とかしろと言われて現地へ行ってみた。」「それがナイジェリアだったわけだ。」「そう。とりあえずジャングルハニーが取れる場所を調べ、そこで契約してもらえないか交渉していた時にかすり傷を負って診療所と言う流れ。この前三条にお礼を言ってきたん...
日本に戻った類は、仕事の引継ぎを始める。暫くフランスとナイジェリアを行ったり来たりの予定だ。そして衛生品を扱う部門の中から一人代表者を選んだ。ブラックソープを生産することになった時、販売路線などのチーム作りをしてもらう為だ。類は忙しい日々の合間を縫って桜子の店へ向かう。今回は類が店に入っただけで店員が桜子を呼んでくれた。「ジャングルハニーは手に入りそうにない。でもブラックソープは何とか生産に漕ぎつ...
フランスへ着いた類は、まっすぐ自宅へ戻る。既に20時を回っており会社は終業しているからだ。「ただいま。」「お帰りなさい。大丈夫だった?」「ん。なんとか。」「ケガは何ともない?」自分からは話していない。田村かボディガードが報告したと分かる。「大丈夫。父さんは帰ってる?」「えぇ。さっき帰ってきたところなの。今着替えているわ。」「じゃあ俺もサッとシャワーを浴びて夕食をしながら報告するよ。」「えぇ。」こう...
翌日、オヨ州の州知事に会いに行く。『初めまして。花沢物産の花沢類です。』『初めまして。秘書の田村です。』『初めまして。遠い所お疲れだったでしょう?どうぞおかけください。』『『ありがとうございます。』』二人はソファーに腰かける。『実はブラックソープを何とか生産出来ないかと思っております。ヨルバ族の方が作っておられるそうですが、その方を紹介して欲しいのですが。』『確かにヨルバ族が作っていますが秘伝とさ...
再び村に戻った類は、先ほど取った蜂の巣からの蜂蜜採取方法を見る。巣を分解し中から蜂蜜を絞り出している。日本のように巣箱型ではない為、安定供給は難しいと感じる。類は村長から説明を聞きながら見ていたのだが、不意に問われた。『先ほど先生と違う言葉で話していたようだが?』『はい。私は日本人なのですが、先生は学生時代の私の後輩でして親しくしていました。暫く会っていなかったのですが、こんなところで偶然再会し驚...
村に戻った類。傷を負った腕は田村がハンカチを巻いてくれている。村に診療所があると思っていたらすぐに車に乗るように言われた。『診療所はここに無いんですか?』『あぁ。ここから車で15分ぐらいか?』『じゃあ先ほどの少年はそこまで走って?』『あははっ、まさか!ここに戻り誰かのバイクの後ろに乗って見に行ったと思うよ。まだ戻っていないという事は先生がいるんじゃないか?』診療所まで車で15分。もちろん診療所という事...
ホテルに到着した類。もちろん普段利用するようなホテルではなく簡素なホテルだ。部屋は二人部屋。入ると直ぐに鍵をかける。洗面台へ行き蛇口をひねると勢いの弱い水が出る。もう少し人口が多い都市なら高級ホテルがあるだろうが、ここの州はかなり田舎だ。贅沢は言っていられない。「類様。食事はいかがいたしましょうか?」「ホテル内にレストランはある?」「聞いてみます。」田村はフロントに電話をかけ聞いてみる。すると一階...
翌日、類は田村とともにナイジェリアへ向かった。アブジャ国際空港に着いた類は、地理的にまずナイジャー州へ車で向かった。かなり道が悪く、しかも両サイドはボディガードが乗り狭い。だが途中で休憩を取る事は出来ず、早く現地へ到着することだけを願った。そしてやっと到着し車から降りたところで、類は背伸びをし体の筋肉をほぐす。そして庁舎と言われる建物の中へ入った。部屋に通され、そこには行ってきた州知事と握手を交わ...
類は会社に戻ると直ぐ『ジャングルハニー』と『ブラックソープ』を調べる。ジャングルハニーの方は希少価値が高く安定した生産が難しい。蜂蜜を取るための巣箱を用意するのではなく、木の上に出来ている蜂の巣を見つけそれを採取しているようだ。これでは安定した生産は出来ない。その為、付加価値も付きかなりの高額で販売されている。味はイマイチらしいが免疫効果が高くアフリカでは傷口に塗ったり治療薬に使われたりするらしい...
類は仕事の合間に総二郎から聞いた桜子の店へ向かった。そこには類の知らない女性がいる。もしかして今日は店に来ていないのか?と不安に思いながらも聞いてみる。「いらっしゃいませ。」「あのっ、西門桜子さんはいらっしゃいますか?」「オーナーですね?失礼ですがお客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」「花沢類です。」「少々お待ちください。」店員は電話を手に取ると話し始めた。するとすぐに後ろのドアが開き、桜...
更に5年後、司が結婚することになった。お相手はカーネギー財閥の三女のキャサリンだ。突然の事に類を始めあきらと総二郎は驚いた。だが親友の門出を祝う為NYへ向かった。「驚いたな。突然だよな?」「あぁ。パーティーで何度かエスコートしたのは知っているがあまりにも突然だよな?」「ん。でもまあ、、理由は二つのうちのどちらかだと思う。」類の言葉に、あきらと総二郎もその二つが思い浮かぶ。一つは政略結婚だ。カーネギー...
類は一年半後に無事大学を卒業した。そこから本格的に仕事を始めた。あきらと総二郎は類から遅れ半年後に卒業した。それから更に一年後、類は日本勤務となり久しぶりに日本に戻ってきた。日本を離れてから実に5年の歳月が経っていた。数か月後、司の日本出張を知ったあきらが皆に声をかけ久しぶりに集まる事になった。場所は美作が経営しているレストラン。食材にこだわったレストランで多少値段は高いが、個室になっておりかなり...
つくしは大学の寮に着いた。玄関を入ると管理人のような人がいる。「こんにちは。初めまして。牧野つくしと言います。」「牧野さんね。ちょっと待ってね。」管理人の男性は紙をペラペラと捲り「えっと、牧野つくしさんは301号室だね。鍵を渡すからちょっと待って。」そう言うと一つのカギを持ち管理人室から出てきた。「はい。これがカギ。3階の301号室ね。ここは女子寮だけど3階は医学部の生徒が集まってる。だから同室の人...
つくしは卒業式に臨んだ。そして卒業生代表として答辞を読み上げた。これでつくしの英徳生活は終止符を打つ。色々あった三年間だ。その中で最も濃い時期を過ごしたのが一年半前。司に宣戦布告してから目まぐるしく人生が変わった。もちろんそのおかげで沢山の人達と知り合い、今も交流が続いている。それは自分の人生にとってプラスになる事は間違いない。ただ大学生になる事で、そこにも一線を引くつもりだ。つくしは最後に非常階...
年が明け、つくしは共通テストを受ける。それを自己採点したうえで、国公立大学医学部の二次試験の願書を出した。それは寮が完備されている九州の大学だ。寮費と食事代で月4万円ほど。水道光熱費込みで二人部屋。だが大学から近く交通費がかからない。今住んでいるアパートの家賃と水道光熱費、食費を考えると十分賄えるしお釣りも来る。そのお釣り部分を医学部の施設使用料に回せば奨学金の額を減らせる。特待生になる事を期待し...
つくしは英徳の経済学部、都内の医学部の私学を受験する。すると両方とも合格を勝ち取った。だが特待生になるには、入試試験の上位10人で入学した者のみだ。つまり自分がその特待生になるかどうかは入学手続きをするまでわからない。しかも特待生と言っても授業料の250万円が免除されるだけ、残り施設使用料を合わせた400万円近くはかかる。「凄いな。無事合格できたじゃないか。」「はい。」「英徳は特待生間違いない。こ...
類はあきらからの報告を受け驚いていた。てっきり就職、あるいは専門学校へ行くと思っていた。ところが医学部を受験するとは想定外だ。でも、、、何となく牧野らしいと思ってしまう。いつもいつも自分の前に大きな壁を作りそれに登ろうと必死にもがいていた。実際、それを登り切っていたし、時には俺が引っ張り上げた事もある。でも今度は自分一人。俺に出来る事はここから応援するのみだ。頑張れ!!牧野!!「類君?何かいいこと...
一学期も終わろうとしていた。つくしは個人面談の為担任と向き合っている。「成績は申し分ない。よく頑張っているな。」「ありがとうございます。特待生なので必死です。」「TOEICも786点は流石だ。これなら一流企業にも十分入れる。」「ありがとうございます。」「それでなんだが、、、このまま英徳大学へ進学するのはどうだろう?英徳大学も特待生制度がある。充分特待生になれると思うんだが。」担任は学園長から頼まれてい...
類は母親と共に本屋に来ていた。平日に読む本を選ぶためだ。「電子書籍とかも出始めてるけど、やっぱり紙の本の方が目が疲れなくて好きだわ。」「確かに。」「類君は何系が好き?」「推理小説かな?」「推理小説は一気に読みたくなるのよね。こういう文庫本は文字もこんなに小さな文字で、なかなか読めなくなってきたのよね。認めたくないけど確実に老眼になってきているわ。」「こればかりは仕方ない。いやかもしれないけど老眼鏡...
つくしは高校三年になった。進は終業式後に北海道へ行った。突然家族がいなくなり寂しい気持ちはあるが、逆に言えば自分のペースで勉強が出来る。夜も進に気を遣って明かりの位置を調整する必要はない。その為、のびのびと勉強に打ち込んだ。そしてGWになり、桜子に誘われ久しぶりに総二郎、あきら、滋と食事会をした。「牧野。お前、一回り痩せたんじゃねぇか?」「そうかな?」「うん。やつれてるように見える。ちゃんと食べてる...
プロムから帰宅すると、そこには母親の犬である三沢が待っていた。司は身構える。「お帰りなさいませ。」「なんだ?」「お迎えに参りました。これからNYへ向かいます。」「はあ?」突然の事に司は呆けた声を出す。そして隣の海を見る。海もどういう事?という気持ちだ。「海も一緒か?」「いえ。司様お一人です。」「どういう事だ?」「初めからその約束でございました。日本へは一時帰国でございます。ですが司様が暴漢に刺された...
司と海が出口へ向かうのを見て、二組もダンスが終わると直ぐにフロアの隅へ移動する。あきらと総二郎は、滋と桜子にドリンクを渡す。「ありがとう。」「すみません。」喉を潤した後、、、「あったね。」「ありましたね。」「くっきりとあったな。」「あんな目立つ場所につけるなよな。」四人は海の胸にくっきりと点けられたキスマークをチェックしていた。「という事は昨夜も張り切ったという事だね。」「ですね。」「チェリーだっ...
英徳の卒業式そこにF4の姿はない。類はもちろんだが司、あきら、総二郎もサボった。既に卒業は決まっているし、堅苦しい式は元々参列するつもりはなかった。そして夕方からのプロム。ここには卒業生がドレスアップして参加する。もちろんパートナーは誰でも構わないし、一人で出席してもOKだ。そこに総二郎は滋を、あきらは桜子を同伴して現れた。その姿に生徒達は黄色い声を上げる。卒業式に参列しなかった為、プロムも欠席とばか...
つくしは桜子に連れられ英徳のラウンジに居た。そこであきらの驕りでランチを食べている。「牧野。本当に参加しねぇのか?」「うん。桜子と滋さんを誘ってよ。元々あたしはそんな場所に行きたくないし。」「先輩。お二人のどちらかと参加して道明寺さんの鼻を明かすという方法もありますよ?」「ううん。そんな事したくないし会えば必ず嫌味を言われるでしょ?そうなったら折角のプロムが台無しになるじゃない?だからあたしの分ま...
つくしは相変わらずあまり寝られなかった。そして勉強をつづけた結果、思いのほか好成績を残すことが出来た。それは自分でも信じられない成績だ。その日、担任に呼ばれたのだが、それは特待生に推薦するという話だった。思いがけない話につくしは驚くが嬉しくて仕方ない。英徳には特待生制度がある。つまり一年間の授業料が免除される。ほとんどの学生は特待生に推薦された時点で辞退する。お金持ちの子息ばかりでお金に困っていな...
「類君。ありがとう。」「いや。これくらいどうって事ない。」類は花瓶の水を入れ替え病室に置いたところだ。母親が病気で手術をすると聞いたのはNYから帰国後すぐの事。急いで帰って来いという雰囲気ではなかったが、日本では大河原主導の元、司と牧野の恋を応援するプロジェクトが立ち上がっていた。早々に参加するつもりはないと告げていたが、あのまま日本にいたら二人の状況を逐一報告される。それが嫌でとりあえずフランスへ...
「姉ちゃん。もう勉強は良いから寝よう?」「ごめん。眩しかった?」つくしはライトの角度を変える。「大丈夫。でもあまり寝てないよね?」「あぁ。ちょっと眠れなくて。勉強していたらそのうち眠くなるからもう少ししたら寝るね。」つくしは目の下に隈が出来ている。ずっと眠れない日々が続いている。なぜなら、司がつくしの記憶だけを忘れたから。それだけではなく司は海という女性を傍に置き、つくしに向けていた笑顔を彼女に向...
おはようございます。新連載の『違う、あんた誰?』を一旦引き下げます。もう一度再考してみますが、そのままお蔵入りするかもしれません。今の所、他にストックが三作ありますのでそちらをアップさせていただきます。それで終了かな?と思っています。と言うのも書いていて他作品に似ている部分や同じ展開だよなぁ、、、と思う事が多々あり、しかも最近は思っている事がなかなか文字にならないんです。既に類つくを書き始めて10...
自宅に入ったつくしは扉に体を預ける。これで類との関係は終止符を打つ。もちろん友人関係はこれから先もずっと続くが、休みが合えば二人で行動したりは出来ない。ほんの散歩程度の事でもボディガードのような物がつくと聞いている。それも仕方ない事。それだけの地位のある人と結婚するんだから。でも、かなり不安がある事に間違いない。その不安を口にできるのは類の前だけだった。『結婚は誰でもそんなもんじゃないかな? それ...
送別会もお開きの時間となり、類がつくしを送る事になった。「じゃあ、元気でな。」「まあ一週間後のお前たちの結婚式には出席するんだけどよ。」「その時に、先輩の一世一代の晴れ姿を目に焼き付けますので。」「つくし。 元気でね。 式の後に写真だけでも送ってね。」優紀だけは仕事があり出席できない。だが他のメンバーは出席することになっており、一週間後には再会する。それでも著名人が集まる式ではあまり会話も出来ない...
類、総二郎、あきら、桜子、優紀はつくしの送別会を行っていた。今日はつくしの大学卒業式があったばかり。だが明日にはNYへ行くことになっている。そして一週間後には結婚式が行われる予定だ。そんな中、既に仕事を始めている類、総二郎、あきらも駆けつけた。四年の約束はつくしが大学を卒業するのを待ってとなり、一年延び五年になっている。遠距離もやっと実を結ぶ事となり、皆安堵していた。「しかし、、、いよいよかぁ。」「...
類とつくしは片づけをしながら話をする。「牧野。今の仕事なんだけど、年が明けたら止められる?」「やっぱりアルバイトというのはヤバイ?」「いやそう言うんじゃないけど、どうせなら花沢物産で働いて欲しいかな?と思ってさ。」「大卒でもないしスキルも何もないのに花沢物産で勤まるとは思えない。もちろん類の彼女である事は嬉しいしこれからも一緒に居たいとは思ってる。」(つ:類と一緒に居たいと思うけど不安が大きい。あ...
「将来花沢物産を継いで社長になる予定。」「社長、、、嘘でしょ~~~!!!」(つ:社長?花沢物産って大会社だよ?そこの社長になる人?)つくしは驚きすぎて口をパクパクする。声が出ない為だ。「ちなみに俺は道明寺司だ。道明寺ホールディングスの後継者。」「俺は美作あきら。美作商事の後継者。よろしく!」次々紹介され、つくしは目を丸くするばかりだ。(つ:嘘でしょ?なんで御曹司ばかりがここに居るの?おかしいでしょ...
類の部屋に、司、あきら、総二郎、類が揃い、その前でつくしは呆けている。(つ:何?この人たち。イケメン揃いじゃない?しかもみんな高身長。これだけ見ればホストクラブじゃない?あっ、本物のホストが一人いるけど。それにあの人はメープルで見た人じゃない?つまりあの人も親友なんでしょ?一体何がどうなっているの?)あれから司があきらと総二郎に電話をかけ集合させた。司としては自分を暴力団系と思われた事は腹立たしい...
それからつくしがひたすら誤解していた事を謝った。もちろん類としては笑い転げる事に。ただきちんと『女性が苦手だったのは事実だけどゲイではない』と告げた。そして食事も終わり、車でマンションへ向かった。その間も楽しい時間が過ぎる。車窓から見るイルミネーションは綺麗だし、ツリーが見えたりもする。「あっ!あのツリーはごちゃごちゃ系ですね。」「ほんとだ。今度改めて他のツリーを見に行こうか?」「そうですね。是非...
喉を潤し料理を口に入れながら類は考える。(類:牧野が総二郎を好きじゃないことは分かった。じゃあなんで前回外食した時、総二郎と女性を見てショックを受けていたんだ? あれを見て牧野は総二郎の事が好きだと確信したんだけど?)「あのさ。前回、総二郎達と遭遇した時に、牧野は辛そうな表情をしているように見えたんだけど。」「それは、、、」(つ:デリケートな部分だけど話していいのかな?でもここは個室だし他人に聞か...
創作料理店の個室に案内されると、つくしはメニューに目を通す。比較的安価で美味しそうな料理が並んでいる。「色々な物を頼んでシェアしようか?」「はい。」二人で料理を決めるとタッチパネルで注文する。そしてビールとウーロン茶が到着したところで、類が尋ねた。「今日、総二郎と出かけたんだろ?」「はい。とても美味しい信玄餅とお団子のお店に連れて行ってもらいました。」(類:総二郎らしい店のチョイスだな。)(つ:店...
ポツンと店に残された総二郎。とりあえず類に報告を、、とメールを送った。《牧野さんと会って話をしたんだが、どうも噛み合わねぇ。しかも俺の事は好きでもなんでもねぇと言われたんだが? それと俺は探偵じゃねぇと話したら何故かホストをやっていると思われた。 否定する前にサッと帰って行ったんだが少なくとも俺はホストじゃねぇと否定しといてくれよな。》(総:何をどうとらえたら俺がホストに見えるんだ?まあ女遊びが激...
2024年 類くんお誕生日チャット会のお知らせ本年の類誕イベントは、都合により開催することが難しくなりました。楽しみにしていて下さった皆様、大変申し訳ございません。その代わりと致しまして、team Rui主催のお誕生日チャット会を開催したいと思います。開催期間:3月29日 21時~ 3月30日 23時59分開催場所:LINE オープンチャット(開催時間まではパスワードがかかっております)メンバーと一緒に、ワイ...
総二郎が口を開いた時、その総二郎に声をかける人がいた。「あらっ?若じゃないですか?」「「えっ?」」(総:げっ!なんでここに師範代夫人がいるんだよ。かったりぃけど挨拶だけはしておかねぇとな。)(つ:今、、若って言った?)「ご無沙汰しています。」「えぇ、ご無沙汰です。それにしても若がこんな可愛らしい方とご一緒だなんて、、もしかして。」夫人はチラリとつくしを見る。(総:誤解すんじゃねぇ。全く関係ねぇから...
甘味処に入ると奥の席へと案内される。カウンターや小さなテーブルなどが並ぶ中、一番大きな席だ。店内は既に満席で、あらかじめ予約を入れていたと分かる。(つ:やる事が凄くスマート。話術も上手い。もしかしてホストって事は無いよね?)「ここの信玄餅は有名なんだ。それとお団子もな。それで良いか?」「はい。」総二郎はサッと注文をする。するとすぐに運ばれてきた。お団子は目の前で焼くようで小さな七輪のような物が置か...
類が帰宅すると、いつものようにつくしの明るい声が聞こえる。「ただいま。」「お帰りなさい。」類はリビングへ入るとジャンバーを脱ぐ。(つ:出かけて行った時の服装と同じ。どこかで着替えているんだよね?)「寒かったですよね?今日はチーズフォンヂュにしてみました。」「へぇ。」類はテーブルを見る。そこにはホットプレートがある。「ホットプレートで?」「はい。ホットプレートの真ん中に耐熱容器に入ったチーズを置くん...
つくしは仕事へ行こうと身支度をしていると店長から電話があった。「はい、牧野です。」『牧野さん。悪いんだけど今日は臨時休業することになったから休みで。』「えっ?」『コンロの故障で修理に時間がかかるらしい。だから今日は店を開けられないから。』「分かりました。」『今日中に修理をしてもらい明日はオープンできるようにするから。突然ですまない。』「いえ。まだ自宅なので大丈夫です。では明日伺います。」『本当にす...
※類君の発言を分かりやすくするため少し太字にしています。それぞれの心の葛藤をお楽しみくださいませ。類は寝る前に総二郎へ電話をかけた。もちろんアレの最中なら電話に出ないと思うが、何度でもかけるつもりでいた。すると数コールで総二郎が電話に出た。『はい。』「総二郎。お前、案外早いんだな。」(類:もう終わった?あれからホテルへ行ってシャワーを浴びて、、と考えると1時間も経っていないんじゃない?)つくしはなか...
レストランを出ると類はサッとつくしの手を握る。途端つくしは動揺する。「えっ?」「今だけで良いから握らせて?」(つ:類さんがあたしの手を握った?それだけ総二郎さんの行動にショックを受け、誰でも良いから縋りたいんだ。あたしで良ければ何時でも幾らでも遠慮なくどうぞ。)(類:かなりショックを受けているだろうな。総二郎の代りになるとは思えないけど、震えを止めるぐらいはできないかな?俺なら何時でも幾らでも繋い...
総二郎の声に類とつくしはサッと入り口を見る。(類:えっ!!)(つ:何でここに総二郎さんが?)つくしはサッと視線を類に戻す。そこには驚きの表情で総二郎を見つめている類がいる。(つ:かなりショックを受けてる。それに類さんがこんなに驚いているという事は相手の女性は知らない人という事。つまり会社のスタッフではない。)つくしはサッと顔を下げる。(つ:以前あたしが見た女性も浮気相手かもしれない。類さん、、、大...
「じゃあ今夜19時に。」「はい。」「遅くなるようならメール入れるから。」「はい。」こうして類は仕事へ向かった。つくしは急いで家事を熟し仕事へ向かう。オフホワイトのハーフコートの下は明るいグレーのセーターに紺のズボンだ。昨夜、何度も服を体に合わせ悩みに悩んで決めた物だ。元々服はかなり少ないがそれ以前にスカートが無い。動きやすい服=ズボンというイメージだし、そのズボンも冬物は一着しかない。後はジーパン...
「ただいま」「お帰りなさい。すぐ夕食にしますね。」「ありがとう。」類はジャケットを脱ぐと手を洗いつくしの手伝いをする。そして二人向かい合って食卓に着いた。「今日は白菜が安かったのでお鍋にしました。色んな食材が食べられるしお酒にも合うと思うので。」「だから日本酒なんだ。」机には日本酒が置かれている。(類:わざわざ日本酒を買ってくれたんだ。だから昨日日本酒は飲めるか確認されたのか。確かにこの料理には日...
更に一か月が経った。類は総二郎に何も言えず悩んでいた。(類:総二郎に牧野の恋心を告げるべきか?だが総二郎が牧野の事を好きとは到底思えない。現に面白がって同棲生活を聞くことはあっても牧野の事を聞くことはない。しかも今も女性と遊び歩いている。気になるなら女性関係には気を付けるはずだ。それに牧野の気持ちを俺が話すのはおかしい。頼まれたわけでもないんだから。何より俺自身が二人の橋渡しをする事を躊躇っている...
「類さんの探偵社には女性の探偵さんもいますか?」(類:初めて俺の仕事について聞いてきた。そろそろ怪しいと思い始めたかな? ここはどう返事する? 本当の職業を話す良いキッカケなんじゃない?)(つ:あっ、類さんが訝しがってる。 これってあたしが類さんに興味があるように思われてるんじゃ? もちろん興味はあるけどそれは契約違反だよね? って事は総二郎さんの事を確認するのは大丈夫かな? でももし女性の探偵さ...
つくしが仕事を始めて一か月が経った。仕事にもだいぶ慣れ疲れもそれほどなくなってきた。そして昨日、初給料がもらえた。もちろん満額ではないが自分が自由に使えるお金だ。しかも今日は仕事が休みの為、早速買い物へ行こうと思っている。「類さん。今日は買い物へ行ってきますね。ジャンバーかコートを見てきます。」「ん。もっと早く買えばいいのに。朝晩は寒いだろ?」(類:頑なに買おうとしなかったんだよな。電車の中は温か...
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※こちらの作品はおちゃめママ様へ献上した作品となります。つくしは苺を洗うとヘタを取り一口大に切る。そして数個の苺は更に小さく切りお子様スプーンも添え皆の待つリビングへ向かった。そこには今か今かと苺の到着を待っている娘の愛がいる。愛は類とつくしの長女で3歳になる。「お待たせ。」「ママ!あたちが恭にあげる。」「分かった。」「ちょっと待って。恭を座らせるから。」恭とは類とつくしの長男で1歳だ。最近すっかり...
我が家のブログにお越しいただきありがとうございました。類君とつくしちゃんを幸せにするお話を、、、と思い、書き始めて約12年になります。まさかこれほど続くとは思いませんでした。皆様の温かなコメントに支えながら何とかやってきたのですが、今は全く妄想が浮かびません。沢山の作品が生まれネタが尽きました。もちろん12年という月日は老いていく事にも繋がり、ここ数年は浮かんだ妄想がなかなか文字として書けなくて(...
一年後の夏。陽向も心陽も、しっかりと歩くようになっていた。最近は10か月ごろから歩く子供もいるというが、未熟児で生まれ3か月も保育器に入っていた為、そこを0か月として発育状況を見るらしく成長に問題はなさそうだ。「順調だね。」「ん。 首も秋ごろには座ったし、そこからすぐに寝がえりを始め、気づいたらズリズリと動き出し、ハイハイを初めてつかまり立ち?」「誕生日を迎えた頃にはしっかりつかまり立ちが出来てた...
4月になり、つくしは入院することにした。というのもこれから何があるか分からないため、万が一の時はすぐ対応できるようにだ。それに28週を過ぎた為、運動は極力避けた方が良いと言われた事も有り、家でジッとしているなら入院した方が安心という事になった。もちろん日中は麗が、仕事終わりに類が毎日来る。「どう? 変わりはない?」「うん。 元気すぎてお腹の中で暴れ回ってる。 二人がそれぞれ動くからお腹が張り裂けそ...
シリウスの元にデイジー村のギルド長から手紙が届いた。 定期的にリチャードに関する報告を貰っている。再びリチャードを王位に据えようとする貴族が接触していないか、本人にその意志がみられないか、リチャードが困っていることは無いかといった物だ。だがシリウスの思惑に反し兄はリカルドとして不便な生活を受け入れ、平民として働いている。せめて少しでも生活がしやすいようにと、魔道具の普及も急いだ。半年ほど前には村娘...
三日後、メアリーから電話があった。予想通り、あの世界へ戻るという返事だった。その為、週末に類と共にアレッタの店へ向かった。「お忙しい中、すみません。」「いいえ。」「いろいろ考えたのですが、アレッタさんにメアリーの姿を見せたくて戻る事を決断しました。」「ご主人はもうこの世界に戻れなくなりますが、それで良いんですね?」「はい。 私はメアリーと共にあの世界に骨を埋めます。 それとお言葉に甘えてこの店と自...
週末、類とつくしは子供服売り場へ向かった。小さな服はとても可愛いが、今はまだどちらが生まれるか分からない。その為、産着のみを数着買った。「男の子二人とか女の子二人なら、お揃いの服も良いな。」「形は同じで色違いとかも良いね。」「男女の双子でも一歳ぐらいまではそれで良いんじゃない?」「うん。 でも可愛いね。」「だな。」それから少し早いがアレッタの店へ向かった。小さな店で看板には漢字とカタカナで『異国料...
翌、月曜日。類の元にあきらがやってきた。「あのよぉ。 牧野さんなんだが美作が経営しているレストランのアルバイトに24歳の牧野さんがいるんだ。 だが髪の毛は茶髪なんだが、髪の色ぐらい変わる物だし会ってみるか?」あの後も裾野を広げて調べてくれていた親友に、嬉しさと申し訳なさが同時に込み上げてくる。そして再会後、バタバタしすぎて親友に報告していなかったことに気づいた。「ごめん。 見つかったんだ。」「えっ...
土曜日、類とつくしは長崎へ向かった。つくしは結婚したい相手を連れて行くと電話で連絡していた。「初めまして。 花沢類と申します。 つくしさんとの結婚をお許しください。」類はつくしの両親を前にすぐに頭を下げる。両親は俳優のような容姿の類に驚きつつも、娘のつくしに自然に目が向かう。どう見ても出産間近だ。「えっと。 つくし? あなた妊娠してるの?」「うん。 順番が逆でごめん。」結婚したい人がいるから会って...
二人っきりになり、類は改めてつくしに向き合うとポケットから小袋を取り出す。異世界で肌身離さず身に着けてた小袋だ。その中身を取り出しながら話す。「無事こうして戻ってきたんだけど、服装はあの時のままだった。 ただ傷は一切なかった。 もちろん服には大きな穴が開いていたし血も付着していた。 そして小袋には魔法陣の消えた紙切れとドラゴンの鱗、シリウスから貰った銀のプレートが入ってた。 枕の下に敷いていた紙も...
佳代は類の声に急いで玄関へ向かう。しかも珍しく「ただいま」という声まで聞こえた。どういう心境の変化だろうか?という気持ちが湧く。すると玄関に類が女性と手を繋いでいる姿が目に飛び込む。類がこうして女性と手を繋いでいる姿を見るのが初めてで動揺が走るが、努めて冷静を装い出迎えた。「お帰りなさいませ。」「佳代。 こちら俺の妻。」「妻!!?」動揺を隠していたが『妻』という言葉に、冷静さを失い驚きの声が出てい...
レストランを出ると類はすぐに花沢の車を呼んだ。「ちょっと待ってて。 20分程で車が来るから。」「うん。 あっ、だったら私の職場に来てくれない?」「あんたどこで働いていたの?」「フリーペーパーの編集部。 と言っても来月号で廃刊で会社は倒産。 あたしは今日付で倒産に伴う解雇になったんだけどね。」(類:フリーペーパー編集部? 確かに俺達のどこにも関連がない会社だよな。 だから見つからなかったんだ。)「社長...
つくしは駅に隣接しているショッピングモールに入った。バレンタインが近づいているという事で、店内は至る所にバレンタインを意識したものとなっており、一部コーナーはチョコ売り場となっている。(つ:社長に最後にチョコを渡せば良かったなぁ。 妊娠が分かってからの社長は物凄く優しくていろいろな物を差し入れしてくれたし。 まあ私が辞めたら社長一人で紙面づくりをしないといけないからってところもあったんだろうけど、...
クリスマス。この日もつくしは仕事をしていた。社内には社長もいる。身重でありながらこのような日にも仕事をしているし、土曜日も出勤しているのを見て察しているがなかなか事情を聞けないでいる。「牧野。 そろそろ帰ったらどうだ?」「はい。 これが終われば帰ります。」「年末年始はどうするんだ?」「家に居ますよ。 実家は九州なので混み合う時期に移動は避けたいので。」「まあそうだよなぁ。 きちんと親には話している...
12月つくしは土曜日も出勤し紙面づくりを行っている。その代わり平日は18時ごろには帰るようにした。そして社長が何かと気を遣ってくれるようになった。取材帰りに果物やジュースなどを買って帰ってくる。「あまり食欲がないだろ? でも何か口に入れろよ。」「ありがとうございます。」街はいつの間にかクリスマス仕様になっている。(つ:類もどこかでこの雰囲気を味わっていると良いなぁ。)そう思いながら自宅へと急いだ。...
つくしは忙しい仕事の合間にコッソリ産婦人科へ行った。休日は無いし、サービス残業の日々なのだからこれぐらい許されるだろうという気持ちだ。検査薬で陽性反応が出ているため間違いは無いだろうが、出産予定日など今後の事を決めたかった。「おめでとうございます。 双子ですね。 8週目で三か月に入ったところです。 予定日は5月25日ごろですね。」「双子?」まさか双子とは思わなかったつくしは、呆けた顔で確認した。その...
類は、ハッと目を開け飛び起きると腹を押さえる。だが、、、血は出ていない。痛みもない。どういう事?そう思いながら周囲を見渡す。「俺の部屋?」自分のベッドの上だ。しかも一人だ。「牧野? 牧野は?」周囲を見るがつくしの姿はない。「夢?」そう思いながらベッドから起き上がり自分の服を見る。それは乗合馬車に乗った時の服で、切られた箇所には穴が開き血が付着している。靴も履いている。だが、、腹に傷はない。もちろん...
それは一瞬の出来事だった。馬上の騎士達、そして乗合馬車から降りた男も崖を覗き込む。確かに二人が落ちていく姿が確認できたが、突然まばゆい光が現れ目を閉じた為、二人の行方が分からなくなった。「まさか、飛び降りるとは。」「聖女様はどうします? 森へ入りますか?」「いや。 この高さから落ちたら生きてはいないだろう。 万が一、生きていたとしても魔物が住む森ではさすがの聖女様でもどうすることも出来ない。」「あ...
翌朝、宿の人にクルクマへ行く乗合馬車を確認しチェックアウトした。時間まで村を散策する。昨日の商人の店の前に来た時に、たまたま店内に居た商人が二人を見て店から出てきた。「今から行かれるんですか?」「はい。」「この先の山を越えるんですけど、片側は断崖絶壁なんですが景色は凄く良いですよ。 半日はかかりますが、途中トイレ休憩しかないので何か食べる物を持っていかれた方が、、、あっ、是非このピーアを持って行っ...
類とつくしは王都内のギルド商会を訊ねた。類の姿を見たギルド商会長は直ぐに奥の部屋へ二人を通す。「いやぁ。 この方がマキノ殿かぁ。 本当に連れ出せたんだなぁ。」「その節はお世話になりました。 こうして無事、妻を連れ出すことが出来ました。」「いやぁ。 それにしても話に聞いてはいたが、こんなに綺麗な女性とは。 画家を呼んで姿絵を一枚作らせたいほどですよ。」「困りますね。 たとえ姿絵だとしても妻は俺だけの...
翌日、二番目の兄の徹が軽トラを手配し迎えに来た。そこに自転車と少量の荷物を乗せる。「これだけ?」「うん。断捨離していたらこれだけになって。」「お前なぁ。相手は花沢物産の御曹司だろ?服とか大丈夫か?」「うん。」「お金は持ってるか?何か必要なものがあれば花沢さんが買ってくれるとは思うけど万が一の為にも必要だろ?」徹は自分の財布を取り出し現金を手渡そうとする。それをつくしが止める。「大丈夫。あたしだって...
類は仕事を終え急いで指定された店に向かった。店内に入ると既に二人は始めており、ニヤリと笑みを浮かべた。「それで見合いはどうなった?」類は辟易とした表情で空いている席に座る。「どうもこうも、かなり心配された。」あきらと総二郎は大笑いを始める。嘘とはいえEDの御曹司は悲壮漂う哀れな男性として見合い相手に映ったと分かったからだ。「そう言うしかねぇよな。」「言葉では心配を口にし、心の中では驚きと躊躇いがせめ...
つくしは類の家から自宅に戻った後、すぐ父親に報告した。『花沢類さんの家に一緒に住む事になったので土曜日にこの家を出ます。』その報告に父親は一瞬間があった後、、『そうか。良かったな。』と突然の同棲宣言に戸惑いつつもホッとした返事があった。だが土曜日には用事があり引っ越しの手伝いが出来ないと言われ、代わりに二番目の兄の徹を寄越すと言われた。だったら自転車を持っていきたいのでトラックで来て貰えば助かると...
その夜、あきらと総二郎から電話があり報告は1月5日の初出の後でとなった。初出は忙しいと拒んだが二人が納得するはずもなく、類はこの経緯をどこまで話すべきか悩み数日を過ごした。まずは父親に牧野つくしという人物の事を確認してからだと思いながら。そして1月5日を迎えた。類は少し早めに出社し社長室へ向かった。すると父親に満面の笑みで迎えられた。「さっそく報告に来てくれたのか?」「そんなに良い報告ではないのです...
運転手は類が女性を伴い乗り込んだことに内心ビックリした。だが表情には出さずそのまま類の自宅へと車を発進させる。そうしながらも後ろの二人の会話を漏らさぬよう聞いていた。「一応東京都だけど周囲を山に囲まれてる場所だけど。」「はい。」揺るがないな。「駅まで徒歩30分だけど。」「自転車に乗れるので大丈夫です。」お嬢様が自転車で駅まで?「車は?」「免許はあるんですけど車は持ってないです。」免許は持っているんだ...
類は過去の失恋により恋愛が恐くなり、それを見かねた父親が見合いの席を用意したと判断する。「恋愛に否定的って事?失恋したとか?」「いいえ。恋愛をした事がありません。ただ家庭を持ちたくないだけです。」「なんでそこまで?でも恋愛ではなく政略結婚させられるかもしれないけどそれで良いの?」「いえ。きっと政略結婚も無いと思います。今回は父の気まぐれだと思っていますから。」きまぐれ?俺との見合いが?そんなにハー...
つくしは診断書を手に取る。そこにはED(勃起障害)と書かれている。「大学を出てからこの状態。だから誰とも付き合っていないし付き合おうとも思わない。何も知らない父親は色んな女性との会食の場を設けてくれるけど、そもそもこんな体では結婚は出来ない。相手にも失礼だからね。だからこの話は、、、」「ずっと一人で悩まれていたんですか?」つくしは類の続く言葉を遮り尋ねる。これはすごく大変なことだ。確か御曹司はまだ2...
1月3日。つくしは11時20分にメープルへ到着した。そしてフランス料理店へと向かうと入り口のボーイに告げた。「花沢様で予約している者ですが。」「伺っております。こちらへどうぞ。」つくしは緊張しながら歩く。メープルは父親の仕事の関係で何度か訪れた事はあるがそのどれも会議室だった。その為、高級レストランに緊張している。というのもドレスコードがあるからだ。そこまで厳しい物ではないが女性はワンピースやスー...
あきらは初めて他人に自分の気持ちを打ち明け、照れた表情を見せながら話す。「母親のマナー教室へ通っている女性なんだけど、いつの間にか妹達と仲良くなっててさ。俺に色々聞かせるから一度見てみようかと教室を覗いた時に妹に紹介されたんだけど、俺に取り入ろうとはしないし自分をアピールもしねぇ。単なるお兄さんという扱いでさ。マナー教室は美作の名前は一切出していねぇし、そこのオーナーが美作商事の社長夫人とも書いて...
類とつくしの会食の日取りが決まった。それは年明けの1月3日だ。聡はすぐに類に社内電話をかける。『類。1月3日にメープルで会食をするように。』「この前、話していた人?」『そうだ。』やっぱり、、と類は思う。あの時は相手が断る可能性があると示唆していたが、やはり断る事は無かった。つまり相手の女性も会食の相手が俺だと聞いて乗り気になったんだろう。「食事をするだけで良いんだよな?」『もちろんその後に気が合うな...
聡は本村と別れた後、すぐに類の執務室へ向かった。「何?」「まだ日程は決まっていないが会食へ行ってもらうことになるからそのつもりで。」「また?」類はあからさまに嫌そうな顔を見せる。「もちろん会食の場すら断られる可能性もあるがな。」「断られる?」類にしてみれば考えられない事だ。花沢物産御曹司との会食を断る女性がいるとは思えない。何時も俺が嫌がっているからそう言えば乗り気になると考えているとしたらお粗末...
12月末。花沢物産本社ビルに政治家の本村が秘書二人を引き連れやってきた。そして会議室で社長の聡と面会した。「こんにちは。いつもお世話になっています。」「こちらこそお世話になっています。」二人は固い握手を交わす。「今回の選挙も無事当選できました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」「いえ、こちらは大したことはしておりません。」二人はどっしりとソファーに腰を下ろす。「かねてより伺っていました道路拡張工事...
結婚式類は緊張の面持ちでつくしが入ってくるのを待っていた。参列席には類とつくしの家族その後ろにあきら、総二郎、桜子夫妻、滋が座っている。するとドアがバンッと開き、司が入ってきた。皆はつくしが入ってくると思っていた為、驚く。「お前なぁ。来るならもう少し早く来いよ。」「悪りぃ。さっき着いたばかりで、これでも車を飛ばしてきたんだぜ。」「こっち来いよ。」あきらと総二郎は司を自分たちの真ん中に座らせると、類...
類とつくしは結婚式の為、東京へ向かった。そして挙式前日には、花沢家の好意でつくしは家族水入らずでホテルで一泊することになった。久しぶりの再会に、つくしは晴男、千恵子、そして進と順にハグをする。「つくし、おめでとう。」「元気そうで良かったわ。」「まさか姉ちゃんが花沢さんと結婚するとは思わなかった。」「それはあたし自身が思ってること。人生何があるか分からないね。」三人はつくしが一段と綺麗になり笑顔でい...
夕食は楽しい物となった。久しぶりの豪華なディナーにつくしは舌鼓を打つ。「美味しい。それにやっと生野菜が食べられます。」「そういえば向こうでの食事はどういう物だったの?」「ヤム芋を蒸した物を潰してマッシュポテトにしたり、おかずは缶詰が多かったです。でも類さんがカップ麺を持ってきてくれてそれはそれは凄く美味しくて。」「日本では塩分が高いとか良いイメージを持たれないカップ麺も、ナイジェリアでは貴重な物だ...
『今、幸せ?』の作品に沢山のコメントありがとうございました。期間が短く最後まで読めなかった方からもう一度公開を望む声がありました。また最後まで読まれた方からも、もう一度読み返したいというお声も多数ありました。一度きりの公開と決めていましたが少し考えますね。今日も石川県で大きな地震があり、何時どこで起きるか分からない状況。物価が上がり、食材も信じられない価格になり、今月から電気代も上がるとか。「やっ...
司と楓の会談から一週間後、キャサリンの陣痛が始まった。司は仕事中だったが急いで病院へ駆けつける。そこにはキャサリンの母親もいた。『そろそろですね。』『司さんも待ち遠しいでしょう?』『はい。どちらが生まれるか楽しみです。』司はドキドキしていた。子供が生まれる事でやっと白黒つけられると思っているからだ。《どちらが生まれるか楽しみ》というのは、自分の子供かそうでないかという意味で言っている。もちろん母親...
類は仕事を終えると直ぐつくしの病院へ向かった。コンコン『はい。』つくしの声が聞こえ類はそっとドアを開ける。「俺。」「いらっしゃい。仕事はどうだった?」「順調。社員もやる気満々で発売を待つばかり。」「何とか成功させたいね。」「是が非にでもね。」類は近くの椅子に座るとつくしの手を握る。「ご飯は食べた?」「うん。」「言葉はどう?」「全く分からない。医師は英語で話してくれる人もいるけど看護師はほとんどフラ...
翌日、類は会社へ向かった。ブラックソープの商品は既に完成している。それをどう販売するかの最終確認だ。一部は桜子の会社のパッケージで作り、それは既に日本へ送っている。販売方法はそれぞれ好きな方法で売り込む事になったが、発売日だけは合わせる事にした。『販売日は今日から二週間後。日本に送ったSAKURAKOと発売日は同じ。中の商品も全く同じ。パッケージだけが違う事は承知の通り。つまり、、負けるわけにはいかない。...
フランスに着き、救急車に乗って病院へ運ぶ。スムーズに移動が出来るのは両親が根回しをしてくれたおかげだ。その最中も、つくしはしきりに申し訳ないと謝っていた。だがどこかホッとした表情にも見える。それは類も同じだ。病院内の個室に運ばれ、簡単な検査が行われた後やっと二人っきりになった。「痛い所はない?」「大丈夫。痛み止めが点滴に入っているから。」「あんたの事だから中途半端で仕事を放りだしたとか思うなよ?あ...