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  • 「遊牧民、はじめました」 相馬拓也

    「遊牧民、はじめました」(相馬拓也著2024年9月光文社新書321p)を読みました。はじめましたとあるけれど著者は民俗学を研究する学者さんだ。モンゴルというと「スーホの白い馬」の世界を思い浮かべるけれど……現実は過酷だ。厳しい自然環境家畜という財産をすべて人目にさらしてワンルーム(ゲル)に暮らすプライバシーのない日常朝早くから乳搾りをし乳を加工し日帰り遊牧に行く一日(歩数計を付けてもらったら、女性の歩数は一日およそ3万歩だった)ゲルを畳んでなん百キロも移動しまたゲルを設置して暮らす……そんな人たちと行動を共にする著者殴られたり盗まれたり調査に応じて貰えなかったりそれなのに調査が進むとそれまでの土地では飽き足らなくなって「モンゴル国内で一番環境が厳しくて辛いところに行ってみたい」と現地の人に訊いて行ってしま...「遊牧民、はじめました」相馬拓也

  • 「東京藝大で教わる西洋美術の謎とき」 佐藤直樹

    「東京藝大で教わる西洋美術謎とき」(佐藤直樹著2024年9月世界文化社277p)を読みました。「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」の続編です。他の画家の作品を見ることが今より難しかった時代画家たちはどうしていたのかが語られる。絵画作品は複製版画になって流布していた。19世紀になるとロンドンには画家の絵を写真に撮って販売する写真スタジオができなんと撮影された絵が展示された展覧会もあったという。(もちろんモノクロ)写真があっても複製版画はその後も流布し続ける。「麗子像」で有名な岸田劉生は筆のタッチを強調した絵画に飽きたりなくなり16世紀のデューラーの作品に惹かれるようになる。(筆跡がない)ヨーロッパに行ったことのない岸田劉生はどこでデューラーに出会ったのだろうか?それが複製版画だった。東京では、名画の複製版画...「東京藝大で教わる西洋美術の謎とき」佐藤直樹

  • 「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」 佐藤直樹

    「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」(佐藤直樹著2021年2月世界文化社263p)を読みました。「基礎から身につく大人の教養」シリーズシリーズ名といい本のタイトルといいちょっと大げさでも中身は面白かったです。音楽は鑑賞(聴く)人が多いでも絵を鑑賞(見る)人は多いとは言えない見るとはどういうことかよく分からないまま生きている(わたしの場合)ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」の章が面白い。解説は視線を誘導する。シャンデリアの蝋燭に一本だけ火が灯されているのは誓いを立てる儀式を表し結婚の誓いに神が立ち会っていることを意味する。窓辺の果物はアダムとイブが堕落した以前の無垢を意味する。犬は貞節を意味する。寝台の柱の彫刻は聖マルガレータが竜の腹から無事に出てきたという伝説から安産を願う意味がある。鏡...「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」佐藤直樹

  • 「喪服の似合う少女」 陸秋槎

    「喪服の似合う少女」(陸秋槎著2024年8月早川書房278p)を読みました。中国ものミステリです。主人公は私立探偵の雅弦(がげん)20代の女性かと思われる。というのは雅弦の描写が全く出てこないので、よく分からないのだ。親の決めた結婚をしてアメリカに渡り離婚を告げられ帰国して生活のために探偵をしている(らしい)車の運転ができ、銃が使える。やって来た依頼人はお嬢様学校の生徒で、裕福な葛(かつ)の姪の令義(れいぎ)友人のじゅけんを探して欲しいというのだ。じゅけんは学校の寮に住んでいたが姿が見えなくなったのだ。じゅけんの養父は映画館を経営していたが映画館は倒産し養父は借金を踏み倒して逃げている。どうやらじゅけんは養父のもとからも姿を消したらしい……探偵の雅弦はこつこつと手がかりを探っていく。危険な目にも遭う。どう...「喪服の似合う少女」陸秋槎

  • 「世界の適切な保存」 永井玲衣

    なかなか立ち止まることのない日常なのでせめてと立ち止まり本を読みました。「世界の適切な保存」(永井玲衣著2024年7月講談社285p)著者は哲学者子どもから大人までの哲学対話をする会を開いている。「たまたま配られる」という章美大に通う友だちが「普通の大学が見たい」ということで著者の大学に来ると古ぼけた自分の大学がなぜか風格を持った佇まいで歓迎し貧弱な木々は青々と葉を茂らせ太陽は光を当てて緑色を浮かび上がらせすれ違う学生たちは英語で会話をし(グローバル教育に力を注いでいるので留学生がいる)すぐ後ろを歩く教授は絵本に出てくるような白髪の老人で……著者は思う「世界が本気を出してくれたのだ」「世界は移り気である無垢な友だちを喜ばせたかと思えばまっすぐ立とうとするわたしの膝裏に振動を与えてかくんとバランスを崩させる...「世界の適切な保存」永井玲衣

  • 「言語学バーリ・トゥード ラウンド2」 川添愛

    なかなか立ち止まることのない日常なのでせめてと立ち止まり本を読みました。今回は言葉「言語学バーリ・トゥードラウンド2」(川添愛著2024年8月東京大学出版会227p)(バーリ・トゥード最小限のルールのみに従って素手で戦う格闘技言語学者の著者は無類の格闘技好き)倒置法悪い言葉AIが嘘を言うなどなどどれも興味深い。(倒置法が3つに分けられるなんて、初めて知りました)今回は小咄が載っていてこれが面白い。「メトニミー」というのは語句の意味を拡張して用いることで例えば永田町→政府鍋料理→鍋などの表現である。あるところにメトニミー表現にうるさい男がいた。妻や息子にしょっちゅう注意している。妻が「卵を割る」と言うとそれは「卵の殻を割る」だろうといった具合に。ある日目醒めてみたら「メトニミー禁止法」が成立し家の中に監視用...「言語学バーリ・トゥードラウンド2」川添愛

  • 「病と障害と、傍らにあった本。」

    「病と障害と、傍らにあった本。」(2020年10月里山社246p)を読みました。本は助けになるのだろうか…頭木弘樹さん(文学紹介者)は大学生の時に潰瘍性大腸炎になった。最初は漫画も読めなかったがいつの間にか友達が送ってくれた段ボール箱いっぱいの漫画が読めた。それならと思って以前読んだカフカの「変身」を読んだ。「科学の公式が、いろんな現象に当てはまるようにすぐれた文学で描かれていることもいろいろな状況にぴたりとあてはまる」と思った。カフカがドストエフスキーを血族と呼んでいたので今度はドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読んだ。以前、くどくどして嫌だった文章がなんとも心地よい。夢中になって読んでいるとむかいのベッドのおじさんが「面白いの?」と聞いてきた。ビジネス書しか読んだことがないという。そのおじさん...「病と障害と、傍らにあった本。」

  • 「風配図 wind rose」 皆川博子

    1930年生まれの皆川博子さんの新作「風配図windrose」(皆川博子著2023年5月河出書房新社273p)を読みました。歩けないので代わりに編集者に取材に行ってもらったという本書舞台は北海とバルト海沿岸の国。婚礼の場面ではじまる。これが舌を巻くほど上手い。この場面だけでどんな世界かが分かる。固められた土の床壁に沿って据えられたベンチを兼ねる長櫃山羊の膀胱を張った天窓……この家の娘アグネは12歳嫁いできたヘルガは15歳婚礼の翌朝、嵐が起こり、難破船が流れ着く。たくさんの船荷に人々は群がる。琥珀、塩の樽、銀……拾ったものは自分のものだからだ。船のたった一人の生き残りのヨハンはこの荷の所有権は自分にあると主張する。裁判の場面が戯曲仕立てで描かれる。見ていたヘルガは突然立ち上がる。義父が荷の所有権を主張しヨハ...「風配図windrose」皆川博子

  • また 「よむよむかたる」 朝倉かすみ

    ふと自分がお年寄りたちに(ばかり)焦点を当てて読んでいて謎の女性「井上さん」を読み逃しているような気がしてもう一度読んでみることにしました。(滅多にしないことですが)安田くんが読書会の20周年記念の公開読書会の会場として申し込むために行った図書館の受付にいた井上さんは後日カフェ・シトロンにやって来る。縦も横もたっぷりとした身体ぱっちりした目硬い髪の毛濃いまつ毛のひと。読書会を「こぶとりじいさんが雨宿りをしていたときに遭遇した鬼の宴会」「不思議の国のアリスが出くわしたお茶会」のように思う彼女。以前から「山の中や森の奥でだれにも気づかれず機嫌よく遊んでいる朗らかな一群れ」に憧れていたという。記念誌が刷り上がるとお年寄りたちは第一回例会の記念写真に写り込んでいる男の子と女の子が安田くんと井上さんであることに気付...また「よむよむかたる」朝倉かすみ

  • 「檜垣澤家の炎上」 永嶋恵美

    「檜垣澤家の炎上」(永嶋恵美著2024年8月新潮文庫790p)を読みました。谷崎潤一郎の「細雪」風の四姉妹が登場する。「細雪」と違うのは実際に商売を動かしているのが女性「たち」だというところ。祖母のスエ母の花英語も中国語も出来る2人は書生に新聞の切り抜き帳を作らせ官報もファイルして情報収集に余念がない。ところが長女の郁乃は病弱で商売には興味がなく二女の珠代と三女の雪江もお嬢様暮らしに納まっている。四女のかな子は実はスエの夫要吉の妾の子で母の死後屋敷に引き取られたのである。主人公は、このかな子。最初はなかなか添ってよんでいけない、この主人公。孤立無援の自分の立場をよく理解していて小学生ながら情報収集に余念がなく(立ち聞き)家族の揃う食卓の会話をよく聞き珠代と雪江の気分を害さないように妹分として振るまう。そん...「檜垣澤家の炎上」永嶋恵美

  • 「黒い蜻蛉 小説 小泉八雲」 パスリー

    次の次のNHK朝ドラの予習をしようと「黒い蜻蛉小説小泉八雲」(ジーン・パスリー著2024年8月佼成出版340p)を読みました。小泉八雲のイメージは「おじいさんの学者さん」くらいしかなかったけど……この作品の小泉八雲=ラフォカディオ・ハーンはただただ苦しむ人である。母と父の結婚は上手くいかず母は幼い頃に家を出父は再婚しハーンは資産家の大叔母に引き取られる。ところが大叔母は運用に失敗して資産を失い身を持ち崩していたハーンは親類から追われてアメリカに渡る。アメリカではホームレスのような暮らしをしながらも文筆で身を立てるようになりやがて以前から関心を持っていた日本に渡って日本のことを書こうと考える。日本に渡ったハーンは松江で英語教師になり「盆」に出会う。提灯を灯して死者を迎え夜には盆踊りを催し盆が終われば精霊舟で...「黒い蜻蛉小説小泉八雲」パスリー

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