searchカテゴリー選択
chevron_left

カテゴリーを選択しなおす

カテゴリーのご意見・ご要望はこちら
cancel
プロフィール
PROFILE

エミール・ガボリオ ライブラリさんのプロフィール

住所
未設定
出身
未設定

自由文未設定

ブログタイトル
エミール・ガボリオ ライブラリ
ブログURL
https://blog.goo.ne.jp/puereternus2
ブログ紹介文
19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。
更新頻度(1年)

308回 / 365日(平均5.9回/週)

ブログ村参加:2016/02/12

本日のランキング(IN)
読者になる

新機能の「ブログリーダー」を活用して、エミール・ガボリオ ライブラリさんの読者になりませんか?

ハンドル名
エミール・ガボリオ ライブラリさん
ブログタイトル
エミール・ガボリオ ライブラリ
更新頻度
308回 / 365日(平均5.9回/週)
読者になる
エミール・ガボリオ ライブラリ

エミール・ガボリオ ライブラリさんの新着記事

1件〜30件

  • 20-5

    「もちろんそうでしょうとも」とソーンダイク博士が言った。「ところで、我々の仕事はこの世に関わるものです。ミラー警視、網は広範囲に、かつ何物も逃さぬよう広げてください。この悪党を逃がしでもしたら、あなたを決して許しませんよ。この世からこの悪党を退治することが我々の神聖なる務めですからね。あなたは自分の仕事をしてください。私もそうすることはもちろんです」「必ずや最善を尽くします」ミラー警視は言った。「闇の中を手探りしている感はありますがね。あなたが握っておられることの何かヒントでも与えて貰えませんか。そもそもこの殺しの犯人がサムウェイであるということに、疑いは全く持っておられませんね?」ソーンダイク博士はいつものように、答えるまでに少し間を置いた。そしてついにこう答えた。「あなたとはある程度内密の話をしてもいいでし...20-5

  • 20-4

    「これは、あなたが犯人とみなしている男の肖像写真ですか?」とミラー警視は聞いた。「いや、彼の肖像写真は持っていないのですよ、残念ながら。これらは彼の三本の指から取った指紋写真です。採取できた指紋全部です。それから裏面に彼の人相の特徴を書いておいたので、彼を特定するのは訳ないことでしょう。前もって電報で人相の特徴を伝えておいて、あちこちの港に配布すればいいでしょう。特に、ドーバーとフォークストンで警戒を強化するよう進言しますよ。そのルートを彼がよく使っていることが分かっているのでね」「指紋と言えば」とミラー警視が言った。「例の手紙から指紋は見つかったのですか?」「調べてみたのですがね」とソーンダイク博士は答えた。「ごく念入りに粉末を振りかけて探したのですが、一つも見つかりませんでした。検知される危険を察知して、書...20-4

  • 20-3

    「どうでしょう。何が起こったか、あなたの言葉で話して貰うのがいいと思います。その後で質問をしますよ。お辛いでしょうが、仕事ですのでね、やらねばなりません。お分かりいただけますね」辛いどころではなかった。殺された死体がまだ温かいうちだというのに、あの悲劇を一つずつ段階を追って再現していくのは胸も張り裂ける思いだった。しかし、それはせねばならない仕事だったので私はやったが、たどたどしく、何度も止まっては自らを励まして声を振り絞らなければならなかった。だがついに起きたことを全部警視に報告し終えた。但し、あの可哀想な女性が私だけに向かって言った言葉は言わないでおいた。私が自分の供述を読み返し、署名をし終えると、ミラー警視は彼の手帳をあまり満足の行かない様子でじっと眺め、ソーンダイク博士の方に向き直った。「これでかなりは...20-3

  • 20-2

    踊り場のランプは点いていました。奴が自分で点けたものと思われます。踊り場自体は使われていなかったので。どうやら、あなたのお友達がやって来るのを小窓から見張って待ち構えていて、ドアをノックしたら撃つつもりだったんでしょう」「そのやり方は、これまでの彼のやり口より危険を伴うものですね」とソーンダイク博士が言った。「銃声を聞かれてしまう、という意味ですね?それはあります。ですが近頃の小口径の連発ピストルは殺傷能力は高いのに、音は非常に小さいものですよ。特に弾頭部分を開けておけばね」「しかし」とソーンダイク博士が異議を唱えた。「音を聞きつけられたとすれば、彼は出口のない部屋の中に閉じ込められたも同然でしょう」相手は首を振った。「いいや、そうはならないんですよ。そこのところを奴は入念に考えてあったんです。あそこの住居の作...20-2

  • 第20章 追跡開始

    第20章追跡開始担架の運び人が陰惨な重荷を担いで出て行った後、かなり長い間沈黙が部屋を支配していた。私の二人の友は離れたところに座り、陳腐な言葉で慰めを言うなどという無神経なことは控え、私がショックを乗り越え、感情をコントロール出来るようになるまでそってしておいてくれ、私はそのことを大いに有難く思った。私は依然として茫然自失のまま、信じられない気持ちでテーブルに肘をつき、歯を食いしばっていた。そして半ば無意識に二人が向こうの方で黙ったまま、あの死をもたらすことになった手紙を調べている様子をぼんやりと見ていた。ソーンダイク博士が静かに立ち上がり、戸棚から小壜を取り出し、中に入っていた黒っぽい粉末をその手紙に振りかけるのを不思議なものを見るような気持で眺めていた。それから彼は手紙の表面から粉末を暖炉に向かって吹き飛...第20章追跡開始

  • 19-10

    この時点まで、私の記憶ははっきりしており、生々しくさえある。しかしその後のことになると、記憶は曖昧になり、混乱した印象しか残っていない。この恐ろしい出来事のあまりのおぞましさに私はぼうっとなり、感覚が麻痺してしまったので、目覚めることのない悪夢の中で時間がどれくらい経過したかよく分からなかった。沈黙の階段で、私は彼女の傍に跪き---どれぐらいの時間そうしていたかは分からない---両腕で彼女の亡骸を抱え、大理石のように白い顔---今や眠ったような瞼と半開きになった唇が少女のような、か弱い印象を与えていた---を信じられぬ気持ちで見つめ、熱い涙を彼女のドレスの上に零していた。悲しみと恐怖、そしてこのような卑劣な行為をなし、今はもう遠くまで逃げてしまった極悪人に対する嫌悪と怒りに息が詰まっていた。彼女の口の周りの白い...19-10

  • 19-9

    何秒かが経ち、私たちの住む建物の出入り口から男が一人出て来て左に曲がり、速足でチューダー・ストリートの門の方へ歩いていった。まだ彼女は現れなかった。もしかしたら階段の途中で先ほどの男の足音を聞き、誰にも見られず出て行くために間を取っているのかもしれなかった。それにしても変だ。彼女が階段を降り始めてから一分近くが経った。彼女の姿を見逃したなんてあり得るか?それはないと思う。私は殆どすぐに窓まで来たのだから。なんとなく嫌な予感がした。彼女の白い顔と怯えた目を思い出した。戸口の上り段をじっと眺めているうちにだんだん不安が高まってきた。いつの間にか耳を澄まして、何かをじっと待っている自分に気がついた。突然、音が聞こえた---微かで何か分からない音だったが、聞こえたことは確かだ。それは階段からのように思えた。すぐに私はド...19-9

  • 19-8

    ぼんやりとではあったが、私にもそれぐらいの察しはついた。しかしそれで十分であった。悲しみに張り裂けんばかりの彼女を見ていながら、手を握りしめる以上のことは何も出来ないことに私の心は締め付けられていた。何秒かたってから彼女は頭を上げ、私の顔をじっと覗き込んだ。彼女の睫毛にはまだ涙が宿っていた。「ハンフリー」と彼女は私の肩に両手を載せながら言った。「最後にこれだけは言わせてくださいね。そしたら私、もう行かなければ。よく聞いて、私の大事なお友達、そして忘れないでいて欲しいの。私がいなくなったら、人々はいろんなことを言うでしょう。あなたは今まで知らなかったことを知ることになるでしょう。人は私のことを邪悪な女だと言うでしょう。それは本当のことよ。でも私が貴方に対して邪悪な企みを謀ったと、もし人が言ったら、そのように見えた...19-8

  • 19-7

    「約束してくださいます?」「はい、約束します。それに、もう五時半になっていますから、今行かなければ、この話は自動的に無効になりますよ」「それだけじゃなく、今夜この部屋から外へは出ないで。それも約束してください」「もしこの弁護士とやらに会いに行かないのであれば、私はどこへも行きません」「それに明日もです。どうかはっきり言明してください。あなたを外におびき出そうとするいかなる誘いがあろうとも、明日も、あさっても、ソーンダイク博士がいいと仰るまで外には出ないと」この言葉に私はしばらくの間呆気に取られ、ただ黙って彼女の顔を見つめていることしか出来なかった。ついに少し我に返った私は叫んだ。「ミセス・サムウェイ、貴女は……」しかし彼女は私を遮った。「どうかその恐ろしい名前で私を呼ばないで。私の本当の名前で呼んでくださいな、...19-7

  • 19-6

    私は大股に部屋を横切り、勢いよくドアを開けた。その途端、私は驚きの声と共に一歩後ろに退いた。踊り場の灯りを全身に浴びて立っていたのは女であった。サムウェイ夫人だった。私が声もなく凝視して突っ立っている間に彼女は私の脇をすり抜け、部屋に入るとそっとドアを閉めた。そのとき私は何かが変だと気がついた。彼女は死人のように真っ青で、何かに追われているような怯え切った表情をしていたからだ。そのときの彼女の顔は、これを書いている今も私の脳裏に浮かぶ。服装も少し乱れていた。その日は酷く寒い日だったにも拘わらず、彼女のふくよかな綺麗な手には手袋がはめられておらず、私が両手で握りしめたとき氷のように冷たかった。「あなたお一人?」と彼女は尋ね、小さな仕事部屋に続くドアを不安げに見た。「ええ、僕一人だけですよ」と私は答えた。彼女はいつ...19-6

  • 19-5

    その重要な問題点は自分の手に負えないものだと彼は認めているのに、それでも弁護士に所見を述べなければならないという。しかも、会ったこともない---おそらく---人間に五ギニーを支払う用意があるという。変だ。実際、緊急でありながら偶然に身を任せるという矛盾した要素が背中合わせになったこの手紙のトーンは、専門的な職業に就く者のやり方としては腑に落ちないものだ。それにもう一つ。会見の時間は五時半とある。その時刻から一時間後にソーンダイク博士は戻って来る。あるいは前日そうしたように、もっと早い汽車に乗ったらそれより更に早い時間に帰宅する。そのことはコートランド氏も知っている筈だ。ソーンダイク博士の行き先を知っているのだから。彼自身も巡回裁判に出席したことがあるのに違いない。一時間が待てなかったものか?いやしかし、このこと...19-5

  • 19-4

    事情というのは以下の如くです。私は本日五時半に弁護士と面談し、私が現在かかえている事件に関する所見を述べることになっております。私どもが取るべき行動については、ある非常に重要な争点が大きくかかわっているのでありますが、私には医学的な知識がないため所見を決定できないという事態になっております。もしソーンダイク博士が近くにおられたなら、すぐにでもご意見を伺うところですが、生憎、博士はお留守ですので、貴方様が博士の代理を務めて頂けないかと考えた次第でございます。尚、通常の五ギニーの報酬は件の弁護士の方からお支払いすることになっております。こちらにお越しいただけない場合は、御返事下さるには及びません。私はこれからすぐ外出し、約束の時間まで戻らない予定だからです。敬具アーサー・コートランド』この手紙の内容に、今も言ったよ...19-4

  • 19-3

    彼が行ってしまった後、私は窓辺に立ち、クラウン・オフィス・ロウ(高等法院の並び)と文書館前の広い空間を眺めていた。気の滅入るような午後だった。黄色っぽいどんよりした空が建物の屋根近くまでしなだれ掛かるように垂れ下がり、刻一刻黒ずみを増していた。まるで見えない太陽が絶望して昼間を早々と譲り、うちに帰ってしまったかのようだった。寒々とした粉雪がときどき篩の目を通るように落ちてきては敷石の上で解けていた。道行く人々はコートの襟を立て、両手をポケットの奥深くまで突っ込んで急ぎ足で歩いていた。私は蟄居を命ぜられて屋内に居る優越感を感じつつ、彼らを気の毒に思いながら見ていた。それから今一度石炭をスコップで掬って火にくべ、また肘掛け椅子に戻り、『人体表面の瘢痕』と気儘な瞑想を再開した。四時を過ぎる頃、私の視線はだんだんお茶を...19-3

  • 19-2

    私自身に関する純粋に個人的な事柄から始まり、私の連想はごく自然にあの隠された肖像画へと行き着き、そこからその絵の主題へと移っていった。オドネル氏によって明らかにされた事実に鑑みると、サムウェイ夫人の立場はあまり好ましいものではなかった。彼女と彼女の夫がマドックと緊密な関係を持っていることに疑問の余地はなかった。そしてマドックは常習的な犯罪者と思われる。このことをサムウェイ夫妻が知っていたということはあり得るだろうか?あるいは、あの巧妙な偽造犯であり詐欺師でもある男が正直なサムウェイ夫妻を隠れ蓑として利用していたのか?私にはどちらとも分からなかった。それからマドックという男自身にまつわる奇怪な事件。私はそもそも『事件』が存在したとは思っていなかったので、ソーンダイク博士の調査によって事実を知らされるまで、何が何だ...19-2

  • 第19章 闇の中の受難

    第19章闇の中の受難ドアから外に一歩も出ないように、というソーンダイク博士の宣告を従容として受け入れたのは、私の生まれつきの道徳的美点とか思慮深さのためばかりとは言えなかった。私の指導教官によって特に強調された忠告を文字通り守ろうという決心は、言ってみれば美食家が美味満載の食卓から満腹状態で立ち上がるときにする禁欲的誓いのようなものであった。美食家が節食に努める---一時的に---という揺るがぬ決心をするのにそれが最適の状況であるように、私も自分のちょっとした気晴らしを楽しんだ後だったので、一定の謹慎期間を不屈の精神で受け入れることが出来たのだ。それに、天候も私の味方をしてくれた。つまり、私の煙草を買いに行ってくれたポルトンが鼻まで真っ青になり粉雪を被って帰ってきたとき、外は酷い寒さだと私に報告したのだった。お...第19章闇の中の受難

  • 1-IV-20

    「それは不可能です」「フェライユール氏のため、ではなく、お母様のために、とお願いしてもですか。あのお気の毒な未亡人の……」「パスカルは身を隠さなくてはならないでしょう」「どうしてそこまで仰るの!それほどまでに彼を憎んでいると?彼が一体あなたに何をしたと言うんです?」「僕個人にですか?何も。僕は彼に心から同情しているくらいですよ……」マダム・ダルジュレは凍り付いたようになった。「何ですって!」彼女は口ごもりながら言った。「そ、それじゃ……貴方があんなことをしたのは、自分の利益のためではなかったと言うの?」「ああ、もちろん違いますよ!」彼女はムッとし、姿勢を立て直すと、軽蔑と憤りで声を震わせながら言った。「ああ、それでは更にもっと破廉恥なことね。更にもっと卑劣極まりない……」彼女は途中で言い止めた。ド・コラルト氏の...1-IV-20

  • 1-IV-19

    彼女は泣いていた。大きな涙の粒が音もなく彼女の無表情な顔を伝って流れ落ち、頬に塗った白粉に幅広い畝を作っていた。「この男はすべてを知ってる」彼女は呟いていた。「なにもかも知ってるんだわ!」「ああ、それも思わぬ事の成り行きなのですよ、誓って申しますが……。僕の性格からして、他人が自分のことに鼻を突っ込むのを好まないので、自分も他人の詮索をしたりは決してしないのです……。すべては偶然のなせる業でしてね。四月のある昼食後のことです。僕は森の散歩に貴女をお誘いしようとやって来ました。今いるこの閨房に通されたところ、貴女は手紙を書いておられる最中でした。僕は座って貴女が書き終えるのを待っていました。ところが何か急を要する用のため貴女は呼ばれ、急いで部屋を出て行きました。貴女のテーブルに近づこうと何故僕が思ったか、それは自...1-IV-19

  • 1-IV-18

    彼は無意味な質問に答えることを強要されたときのように、じれったそうな身振りをし、やがて同情的な様子を装いながら答えた。「そう仰るなら、仕方ありませんね。これはパリの社交界筋から聞いたことですがね、ある好青年が、正確に言うとエルダー通りに住んでいるんですが、僕は彼の身の上をよく羨ましく思っていたんです。生まれたときから何不自由ない生活---ルイ十四世ばりの、日々のちょっとした楽しみのためにどんな金持ちの子供より三倍も多く金が使えるというような---をしていました。学校を卒業すると、付き添いの家庭教師が雇われ、彼をイタリアやエジプトやギリシャへの贅沢な旅行に連れて行きました。現在彼は法律関係に従事しています。そして三カ月ごとに必ずロンドンから一通の手紙が届いて彼に五千フランが転がり込んでくる。この青年は父の顔も母の...1-IV-18

  • 1-IV-17

    しかしそれは一瞬のことだった。彼はすぐに平然とした表情に戻り、ちゃかすような口調で言った。「それで?世間はもうとっくに今マダムが暴露してやるぞと言われたことに気づいているとは思いませんか?僕は他の方面でもいろいろと非難されてますよ。あなたが屋根の上から大声で、僕がいかがわしい山師だと叫んだとしても、鼻先で笑われるだけですよ。それでもって僕の評判が今以上に悪くなることも、良くなることもないでしょうね。パスカル・フェライユールのような正直者ならぺしゃんこにされるような事件が僕に起きても、僕は痛くも痒くもない。僕はね、そのときどきの潮流に乗って生きてるんですよ。僕には贅沢や享楽や金持ちの暮らし、高級で華やかなものが必要なんです。そういうものを手に入れるためなら、何だってやりますよ。そりゃ確かに、ブリーの農場から収入を...1-IV-17

  • 1-IV-16

    「社会的地位ですか!……さあ、知りませんね……。パスカルは非常にきちんとした堅気の青年に見えます……賢者という評判ですよ。住まいはパンテオンの裏のあまり人の行かないところで、母親と一緒に暮らしています。母親というのは未亡人で、いつも黒い服を着ているきちんとした人です。僕が初めて訪ねた際にドアを開けてくれたとき、家族の肖像画から抜け出してきて僕を迎えてくれたのかと思いましたよ。暮らし向きは、あまり裕福ではない様子で……パスカルは将来有望な男とされてましてね、法曹界で大物になると言われています……」「ところが今となっては、それもおしまいね。出世の道は断たれてしまった……」「たしかに!夜になる前にパリ中の人が、今夜ここで起きたことを知るでしょうからね……」彼は言葉を止め、いかにもびっくり仰天したという風を装ってマダム...1-IV-16

  • 1-IV-15

    男爵の仲裁なしでは、この議論は気まずくなっていたかもしれなかった。が、事ゲームに関する限り、男爵の言葉は法律のような力を持っていた。彼は静かな口調で「このままでいい」と言い、人々は従った。すぐに分配は終わり、彼は両手をこすり合わせ、この不愉快な事件にけりがついたことに嬉しくなって叫んだ。「まだ六時ではないか。二、三ゲームする時間ならあるぞ」しかし、その場にいた男たちは皆顔も蒼ざめ疲れ果てていた。屈辱を感じ、自分でも恥ずかしく思い、帰ることしか頭になかった。人々はクロークへ急いだ。「エカルテ(二人でするカードゲーム)ぐらいならいいだろう?」と男爵は叫んでいた。「簡単なやつだ。五ポイント百ルイでどうだ?誰かやらないか?」誰も彼の言葉を聞いていなかった。仕方なく諦めて、男爵も他の者たちの後を追った。マダム・ダルジュレ...1-IV-15

  • 1-IV-14

    危険は非常に大きく差し迫ったもののように見えたので、すべての男たちは立ちすくみ、互いに目でけしかけ合っていたが、たかが数枚の紙幣にしか値しないしょぼい戦いに誰も敢えて挑もうとはしなかった。「私が通れるようにそこをどくんだ!」とパスカルが命令した。男たちはまだ躊躇っていたが、やがて脇に寄って道を空けた。尚も迫力で男たちを脅しながら、パスカルはサロンのドアまで進み、姿を消した。あのように心の折れるような打撃を受けた後の憤激の迸り、プライドの爆発、そして脅しは非常に目まぐるしく展開したので、彼の行く手を阻もうと考える者は誰もいなかった。一同が我に返ったときには、パスカルは既に通りに出ていた。魅入られたような沈黙を破ったのは、やはり女の一人であった。「なんとまぁ」彼女は感嘆の口調で言った。「クールな男だったわね!」「そ...1-IV-14

  • 1-IV-13

    「賭け金箱(各プレーヤーが得た金の一部を席料・チップのために積み立てる箱)のことを言ったらどうです」と男の一人がぶっきらぼうな口調で彼女に言った。「一人一フランずつ入れるあれですよ」彼女は黙っていた。パスカルは棍棒で殴られたときのように膝の後ろがぐにゃりとなるのを感じた。「もう終わりか……」彼は呟いた。誰も彼の言葉を聞いてはいなかった。皆は男爵の言うことに耳を傾けていたが、それは不満たらたらな調子であった。「こんなことで、貴重な時間を随分無駄にしたものだ。こんな馬鹿げたことに拘り合っている間に、少なくとも五ゲームは出来たのに……。さっさとケリを付けようではないか!この威勢のいい青年をどうしたら良いものだろう?私の意見は、警察に引き渡すがよかろうというものだ」これは大多数の意見とはとても言えなかった。警察と一言聞...1-IV-13

  • 1-IV-12

    彼は両腕を自由にせんと、身を振りほどこうとしたが、彼を捕まえている男たちは全く手を緩めなかった。彼は諦め、かすれた声で言った。「私は無実だ!これは前代未聞の陰謀だ……一体誰の仕業なのか?……私には見当がつかない。しかしそのことを知っている者がこの部屋の中にいるに違いない……」罵声の嵐が彼を遮った。「それでは、あなた方は私の言い分も聞かず、私を葬ろうというのか!」彼は声を張り上げて続けた。「聞いて頂きたい。今から一時間前……夜食の際……マダム・ダルジュレが跪かんばかりになって、私に立ち去ってくれと懇願なさいました……マダムの困惑のご様子に私は呆気に取られました。が、今となっては、その理由が分かりました……」『男爵』と呼ばれていた男がマダム・ダルジュレの方に向き直った。「それは本当のことですか、この男の言っているこ...1-IV-12

  • 1-IV-11

    「ほらね」と女の一人が言った。「卑怯者っていうのは自己弁護さえ出来ないのよ!」パスカルはわざわざ振り向いてその女を見ることなどしなかった。こんな侮辱は彼にはどうでもよかった。彼は自分が無実でありながら最もおぞましい恥辱の中に転落していくのを感じていた。辱めを受け、罪人の焼き印を押され、破滅させられて行くのを。事実に対しては事実で対抗せねばならぬことを理解していた彼は、真犯人の正体を暴くため、自分の命に代えても、ひとつの考え、解決策、インスピレーションを与えてくれと神に祈った。彼に救助の手を差し伸べたのは別の男だった。まさかこの男にそんなものがあろうとは誰も思わなかったような大胆さで、ド・コラルト氏がパスカルの前に進み出た。そして苦渋より憤慨の勝った口調で言った。「皆さんは甚だしい誤解をしておられます。パスカル・...1-IV-11

  • 1-IV-10

    「ああ神様」とパスカルは思っていた。「ああ神様、負けますように」彼の顔は死人のように蒼ざめ、汗で縺れた髪の毛がこめかみに張り付いており、手は震えて殆どカードを持っていられないほどだった。「よ、四千フランにします」ようやく彼は、もごもごと呟くように宣言した。「受けた!」と一人が答えた。ああ、しかし、残念ながら、彼の願いは叶えられなかった。彼が勝った。一同の囁きが嵐のように高まる中で、彼は再び宣言した。「八千フラン……」「よし同額乗った!」しかし彼がカードを配ろうとしたその瞬間、彼の隣に座っていた男が立ち上がり、いきなり彼の手首を掴むと大声で叫んだ。「今度ばかりははっきり掴んだぞ……お前はいかさま師だ!」パスカルは飛び上がった。危険が漠然とした不確かなものであった間は、彼のエネルギーは麻痺したようになっていた。が、...1-IV-10

  • 1-IV-9

    彼は自分の振る舞い、喋る内容などを自分で十分意識していたであろうか?後に彼は、そうではなかったと語った。このときの彼は一種の幻覚の世界にいるような感じで、まるで亜酸化窒素を吸い込んだときのような状態に近かった。夜食の時間はすぐ終わった。「さぁバカラに戻ろう!」とゲームの休止を決めた先ほどの紳士が叫んだ。「貴重な時間をここで無駄にしたぞ!」パスカルも他の全員と一緒に立ち上がった。部屋から部屋を抜けてサロンに急ぐ際、彼はドア近くで二人の青年の間に挟まれた。「じゃ、そういうことで決まりだな」と片方の青年が言った。「そうそう。僕に任せておけ。処刑は僕がやるから」パスカルの全身の血が心臓に押し寄せた。「処刑って誰のだ?もちろん俺の、に決まっている。一体どういう意味なんだろう?」緑のクロスの周りにはプレーヤーが全員場所を替...1-IV-9

  • 1-IV-8

    「おそらくご存じないのですね、奥様」彼は言った。「私は今夜三千フラン以上も儲けたのですよ」「存じておりますとも。ですから猶のこと、おそらくやって来るツキの揺れ戻しに備えて儲けをお守りなさいな。この館ではシャルルマーニュを決め込む(勝ち逃げする、の意)のは許されておりますのよ。先だっての夜もダンタス伯爵が軽やかにそっと帽子も被らず抜け出られました。千ルイを獲得なさって、ご自身の帽子を身代わりに残されてお帰りになりました。伯爵は気の利いた方ですもの、誰もあの方を非難するどころか、翌日には皆さん笑っておられました……。さあ、貴方は断固とした方ですわね、見れば分かります。いらして下さい。安全を確保するために、召使用の階段をお使いくださいな。誰の目にもとまりませんから……」実際のところ、パスカルは迷っていた。が、召使用の...1-IV-8

  • 1-IV-7

    このようなひそひそ声でなされる内緒話、疑念、推測、下品な仄めかしの質問やそれに対する無礼な反応など、悪意に満ちた呟きが耳鳴りのようにパスカルを襲い、彼を悩ませた。明らかに彼は平静さを失っていた。そのとき、マダム・ダルジュレがそのテーブルに近づいてきた。「皆さま、もう三回目ですのよ、夜食の用意が出来ておりますとお知らせして。どなたが私に腕を貸して下さいますの?」やや気まずい間があったが、大いに負けが込んでいた年配の紳士が立ち上がった。「そうですな、夜食を頂きましょう!」と彼は大声で言った。「それでツキも変わるだろう」この配慮は決定的なものであった。サロンから、まるで魔法のように人々が消え去り、緑のクロスを敷いたテーブルの前にはパスカル一人が残された。彼は目の前に積み上げられた金をどうしたら良いのか分からなかった。...1-IV-7

  • 1-IV-6

    パスカルがバカラの進行やメカニズムを理解するのに一分と掛からなかった。すぐに親の番がパスカルに巡ってきた。ド・コラルト氏が百フランと宣言し、カードを配り、負けたので、カードをすべてパスカルに渡したのだった。最初のうちは、運を試しながらやらなければいけないので、慎重に進行していたが、徐々にゲームは活気づいてきた。何人かのプレイヤーの前には金が山のように積まれていたが、やがて大砲---高額の紙幣のことである---が出回り始めた。しかしパスカルは無駄な虚勢を張る男ではなかった。「一ルイ!」と彼は言った。その金額のみみっちさは注目を浴びた。が、すぐに彼の周囲の二、三人から声が上がった。「受けた!」彼はカードを配り、彼が勝った。「今度は二ルイだ!」彼がまた言った。同じように承認され、彼が勝った。彼の手札が非常に好都合だっ...1-IV-6

カテゴリー一覧
商用