2-XV-1
XV驚きのあまり茫然となり、ウィルキー氏は両腕をだらんと垂らしたままサロンの真ん中に立ち尽くしていた……。「え、あの、ちょっと……」彼は口の中でムニャムニャ呟いた。「僕の話、聞いて貰えませんか……」無駄だった。マダム・ダルジュレは全く振り返る素振りも見せず、ドアは閉められ、彼は一人取り残された。いかに『出来る男』といえども完全な人間ではない。彼は内心すっかり動転しており、今まで味わったことのない雑多な感情が押し寄せてくるのを感じた。咄嗟に判断したところによれば、悔恨の情に襲われたのではなかった。彼は悔恨とは無縁の人間だった。が、眠っていた良心が活動を起こす時間があるものだ。道を誤った本能が主張を開始するときが……。このとき彼が心に思い浮かんだことをそのまま行動に移していたとすれば、母の後を急いで追いかけ、...2-XV-1
2025/04/25 10:48