パスカルは母親の面前に立ったまま、片方の手で椅子の背をぎゅっと掴んで身体を支え、来るべき打撃に供えて身構えているかのようであった。彼自身に関わる悲痛な感情は過去のものとなり、今や彼の全神経は高揚し逆上の域に達するかと思われた。目の前には苦悩の深淵があり、それに呑み込まれそうだった。彼の人生がかかっているのだから!これから母親が語る内容の如何によって、彼は救われるか、決定的に死を宣告され、恩赦を請うことも出来ず、希望もない状態に置かれるか、になることになる……。「それじゃ、お母さんが出かけた目的はそういうことだったんですね?」彼は口の中で呻くように言った。「ええ、そうよ」「僕には何も言わずに……」「そうすることが必要だった?何を言ってるの!お前こそ、私の知らないところである若い娘さんを愛するようになり、彼女...2-XI-5