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2015/01/11

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  • かの世界この世界:164『瀕死のトール元帥』

    かの世界この世界:164『瀕死のトール元帥』語り手:テルドオオオオオオオオオオオオオオオオン!少年巨人族のアドバイスで野営のテントを張り終えたとき、森の中央あたりでとんでもない音がした。「え、なに?」ペグを打つ手が止まって、目を向けた時にはヒルデも少年巨人族も駆け出している。「テル、行くよ!」「うん!」「わたし」「ユーリアと少年は残れ!」ペグもハンマーも放り出し、テルと並んでカテンの森を奥に向かって掛け進む。ヒルデたちの姿は見えなくなっているけど、森の真ん中と思われるあたりから煙が立ち上っているので、それを目当てに奥を目指す。奥に近づくにしたがって、鉄と油と肉の焼ける臭いが濃くなって、すこし息苦しく、目もシカシカしてくる。うわあ…………(;'∀')言葉にならなかった。小学校の校庭ほどに木々がなぎ倒され、その木々...かの世界この世界:164『瀕死のトール元帥』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』

    妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』大きな破片が目の前に迫ってきた!まともに食らったら死んじまう!思わず目をつぶる……直後に来るはずの衝撃やら痛みが来ない。薄目を開けると、破片が目の前二十センチほどのところで止まっている。ショックのあまりか、体を動かせず目だけを動かす。……時間が止まっている。様々な破片が空中で静止し、逃げかけの生徒が、そのままの姿でフリ-ズしている。加藤先輩は、一年の真希という子の襟首を掴んで、中庭の石碑の陰に隠れようとしている。ドラムの謙三は、意外な早さで、向こうの校舎の柱に半身を隠す寸前。祐介は、途中で転んだ優奈を庇った背中に、プロペラの折れたのが巨大なナイフのように突き立つ寸前。まるで『ダイハード』の映画のポスターを3Dで見ているようだ。目の前の破片がゆっくりと横に移動...妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』

  • やくもあやかし物語・45『虹色のヘアピン』

    やくもあやかし物語・45『虹色のヘアピン』ペットショップが火事になるなんてめったにあることじゃない。でも、じっさい火事はおこってしまって、わたしのところに来るはずだった子ネコは焼け死んでしまった。だから、お父さんはアノマロカリスのお腹に入れたままになっていた手紙の事を言わなかったんだ。わたしは、アノマロカリスのお腹に俺妹女子キャラの縫いぐるみがあることさえ気づかない鈍感だ。鈍感はいいことじゃない。でも、鈍感だったから子ネコが焼け死んだことを知らずに済んだ。知ってしまったら、今よりもずっとナイーブだったわたしは耐えられなかっただろう。お父さんも忘れっぽかったんじゃない。知ってしまえば、わたしが傷つくことを分かって、あえてほっぽらかしにしたんだ。やさしい心遣いをしていたんだよね。でも、それだけ優しい心遣いができるの...やくもあやかし物語・45『虹色のヘアピン』

  • まりあ戦記・050『三人姉妹』

    まりあ戦記・050『三人姉妹』今日からは中原君といっしょに学校に行ってもらう。それだけ言うと金剛特務少佐は回れ右してエレベーターの方に歩き出した。「え、ええ?」それだけ言うのが精いっぱい。づかづか進む後姿は『だまって俺に付いてこい』オーラが燦然と輝いていて、ぐいぐい引っ張って行かれる感じになる。ガチャリと音がしたかと思うと、中原少尉がドアを施錠。いつのまに入ったのか、手にはわたしの通学カバンとローファー。わたしは、ちょっと顔を出すぐらいのつもりだったからサンダルを履いているんだ。エレベーターの中では無言だったけど、エントランスから駐車場に行く間に少佐はガンガン説明……というよりは命じてくる。「今日からは中原少尉ともいっしょに通ってもらう」「え、どこに?」「学校に決まってる。少尉、カバンを渡せ」「はい!」「あ、ど...まりあ戦記・050『三人姉妹』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・15『リアル墜落』

    妹が憎たらしいのには訳がある・15『リアル墜落』幸子は、また路上ライブを始めるようになった。ただ、前回のように無意識な過剰適応でやっているわけではなく。しっかり自分の意思でやっている。また、演奏する曲目も「いきものがかり」にこだわることなく、そのときそのときの聴衆の好みにあわせているようで、流行のAKRやおもクロ、懐かしのニューミュージック、フォークや、どうかすると演歌まで歌っていることがある。そして、場所は地元の駅前では狭いので、あべのハルカスや、天王寺公園の前など、うまく使い分けている。パーッカッションを兼ねて佳子ちゃんが見張りに立ち、お巡りさんがやってくると場所替えをやる。過剰適応ではないので口出しはしない。幸子は、そうやって自分に刺激を与え、自分の中の何かを目覚めさせようとしているように思えるからだ。「...妹が憎たらしいのには訳がある・15『リアル墜落』

  • やくもあやかし物語・44『ペットショップの真相』

    やくもあやかし物語・44『ペットショップの真相』久しぶりの駅なのでドアの上の路線図を確認……九つ目がペットショップのある駅だ。八つ目の駅を出たところで車内放送。――三両目の前から二番目のドアからは出られません、駅のホームで落下物事故がありましたので三両目前から二番目の……――落下事故?ホームから人が落ちたのかなあ?だったら人身事故で到着が遅れるよね、遅れるって放送は無いし……。ホームに入って分かった。行き先案内表示板が落っこちている。はずみで自販機が倒れて三両目前から二番目のドアの前を塞いでいる。それが片づけられずにいるので、ドアが開いても出られないのだ。駅員さんがお詫びをしながら他のドアを使うように指示している。仕方なく三番目のドアから出る。落下した行き先案内板と自販機の方を見る……自販機の下から液体が流れ出...やくもあやかし物語・44『ペットショップの真相』

  • 滅鬼の刃・ジェット推進十万馬力

    滅鬼の刃エッセーノベル2・『お祖父ちゃんをよろしく』お祖父ちゃんが『滅鬼の刃』というブログエッセーを始めました。部活の同窓会をやって、いろいろ感じたのが動機なんだそうです。同窓会に集まったのは昭和30年前後生まれの人たちばかり。昭和30年というと、東京オリンピックはおろか、東京タワーもありません。有名な『三丁目の夕日』よりも古い時代です。お祖父ちゃんは昭和28年生まれなんで、ほかのみなさんとは、ちょびっと年上さんです。21世紀生まれのわたしから見ると、30年前後生まれの人たちは一括りに『ちょっと元気なお年寄り』になります。それでも、ちょっと元気なお年寄りにも微妙な違いがあって、それを面白がっているようなブログです。『鉄腕アトム』は、わたしには古典のコミックでありアニメに過ぎません。知識としては知っていても、実際...滅鬼の刃・ジェット推進十万馬力

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・14『ラジコン墜落』

    妹が憎たらしいのには訳がある・14『ラジコン墜落』土日二日を安静にして、幸子は学校に行くようになった。合間の土日は佳子ちゃんが入り浸っている。佳子ちゃんは一見口数少なく大人しい子に見えるが、なかなか心と頭のアンテナの感度がいい子だ。幸子の事故では旺盛な好奇心を示すだけでなく、示談のやり方から弁護士の紹介までしてくれようとした。何より喜怒哀楽の表現がハッキリしていて、俺も佳子ちゃんのそういうところが好きだ……って、一般的な意味だから、念のため。日曜は、親父が幸子の部屋の防音工事……と言うほどじゃないけど、カーテンを遮音性の高いものにし、ドアに遮音の細工をした。別に二人の声が大きいためじゃなく、幸子が自分の部屋でも心おきなく歌が唄えるようにするためのものでなんだ。その間、俺やお袋も手伝ったり、合間に話しの輪に加わっ...妹が憎たらしいのには訳がある・14『ラジコン墜落』

  • やくもあやかし物語・43『お守り石をお忘れなく』

    やくもあやかし物語・43『お守り石をお忘れなく』お守り石をお忘れなく。その一言で電話が切れた。電話の主は交換手さんだ。お出かけの準備を整えて、百均の鏡で身だしなみをチェック、「よし」と確認したところで黒電話が鳴ったんだ。受話器を取ると、いつもの交換手さんが――お守り石をお忘れなく――と言って切れたところ。こないだ――早く寝た方がいいですよ――の忠告を無視したせいか、ちょっとご機嫌斜めのような気がした。機嫌が悪くとも、せっかくの忠告なのでお財布の中を確認。お守り石はお財布の小銭入れの所に……無かった。え?え?あれ?記憶の糸を手繰ってみる。そうだ、三日前にベッドに入ってから気になって取り出したんだ。そいで眺めてるうちに眠くなって、失くしちゃいけないと思って……しまったはず……?ベッドに寝っ転がって、動きを再現してみ...やくもあやかし物語・43『お守り石をお忘れなく』

  • せやさかい・184『テイ兄ちゃんの部屋にいく』

    せやさかい・184『テイ兄ちゃんの部屋にいく』さくら専念寺のゴエンサン(住職)さんのお見舞いに行った話はしたよね。お孫さんが二人居てて、女の子のお孫さんがお祖父ちゃんのゴエンサンから得度(坊さんの資格を取ること)を受けるように言われて、困って、お祖父ちゃんやら、お見舞いに行ったうちにまで当たり散らしてた。せやけど、交通事故で母ネコに死なれた子ネコを引き取って飼うことにした話。病院でゴエンサンに当たり散らしてた時は――なんちゅう愛情のない子ぉや(*_*)!――と思たんやけど、ま、じっさい病院の待合で睨んできよった目ぇは終わってたしね。でも、子ネコに掛けた愛情は本物やと思う。たしか鸞ちゃんやった。うちもお寺の孫やから分かったんやと思う。お寺の跡を継ぐというのは、ちょっと大変。せやさかい、鸞ちゃんのいらだちも、よう分...せやさかい・184『テイ兄ちゃんの部屋にいく』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・13『その明くる日』

    妹が憎たらしいのには訳がある・13『その明くる日』「よかったあ!思ったより元気そうやんか!」佳子ちゃんは登校前に幸子の様子を見に来てくれた。「切り傷だけだから、治りは早いと思うの。でも、昨日の今日だから用心しないとね」「そうやあ、傷跡残ったら大変やもんね。ほんなら、連絡事項なんかあったら、聞いとくわ。サッチャンのクラスの未来(ミク)とは中学で同級やったさかい」「じゃ、よかったらお兄ちゃんと行って。昨日のこといろいろ知ってるから」「おお、それは、願ってもない!」好奇心むきだしで、佳子ちゃんは賛同した。で、俺は寝癖の頭を直す間もなく、佳子ちゃんといっしょに学校に行くハメになった。「佳子ちゃんに、手出すんじゃないわよ」オチャメそうではあるが、プログラムされたボクへの対応もカワイイとは言えない。「大丈夫、サッチャンのお...妹が憎たらしいのには訳がある・13『その明くる日』

  • やくもあやかし物語・42『俺妹を読み返す』

    やくもあやかし物語・42『俺妹を読み返す』――今夜は早く寝た方がいいですよ――俺妹の第一巻を手に取ったところで黒電話が鳴った。受話器を取ったら交換手さんが、そう言って切れてしまった。アノマロカリスのお腹から俺妹の女子キャラ縫いぐるみが出てきて、久々に俺妹の文庫を読んでみようと思ったのだ。「せっかく読む気になってんのに」読む気満々で、ポテチの袋も開けてしまっていたので、交換手さんの忠告を無視して読むことにした。何度も読んだ俺妹なので、二時間もあれば最初の大団円まではいけるだろう。京介が妹の桐乃を庇ってお父さんにフルボッコにされる。そいで、桐乃が何年かぶりで「あ、ありがとう」ってお礼を言うんだ。ここ大好き。たとえ肉親でも、言葉にしないと気持ちなんて伝わらない。恥ずかしがりながらでも、むちゃくちゃ抵抗があっても、たと...やくもあやかし物語・42『俺妹を読み返す』

  • オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)149『ミリーの頼まれごと・5』ミリー大食いアニメキャラが好き!そんなにたくさんアニメを観ているわけじゃないけど、アニメの大食いは観ているだけで幸せになるよ。イチオシは『ガルパン』の五十鈴華。華道の家元の娘で、四号のあんこうチームの中では一番の正統派美少女。車内の配置は砲手。数々の戦いで大洗女子高校を勝利に導いた西住みほの指揮も彼女の射撃力あったればこそ。最初は気づかないんだけども、繰り返し観ているうちに、食事シーンでの、彼女の盛りのすごさにはビックリよ。丼物でも揚げ物でも定食のご飯の量でも、他のキャラの五倍はある。『けいおん』の天然キャラのムギちゃんもビックリするくらい多い。のほほんしたお嬢様キャラが大食いなのは、見ていて、とても癒される。アメリカ人はデブであることは非難も...オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

  • オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)149『ミリーの頼まれごと・5』ミリー大食いアニメキャラが好き!そんなにたくさんアニメを観ているわけじゃないけど、アニメの大食いは観ているだけで幸せになるよ。イチオシは『ガルパン』の五十鈴華。華道の家元の娘で、四号のあんこうチームの中では一番の正統派美少女。車内の配置は砲手。数々の戦いで大洗女子高校を勝利に導いた西住みほの指揮も彼女の射撃力あったればこそ。最初は気づかないんだけども、繰り返し観ているうちに、食事シーンでの、彼女の盛りのすごさにはビックリよ。丼物でも揚げ物でも定食のご飯の量でも、他のキャラの五倍はある。『けいおん』の天然キャラのムギちゃんもビックリするくらい多い。のほほんしたお嬢様キャラが大食いなのは、見ていて、とても癒される。アメリカ人はデブであることは非難も...オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・12『スーパー銭湯にて』

    妹が憎たらしいのには訳がある・12『スーパー銭湯にて』「じゃ、ちょっと行ってくる!」そう言って親父はアクセルを踏んだ。バックミラーに写る幸子とお袋の姿が小さくなっていく。男同士の話がしたい。そう言って、俺を車で十五分ほど行ったところのスーパー銭湯に連れ出した。これは、かなり異例なことだ。親父は結論しか言わない人だ。一月前、お袋と復縁するときも、そうだった。そして、それ以前のいろいろも。幸子のことだろうと察しはついた。お袋も、そうだろうと思ったはずなのに、いぶかる風はなかった。「まあ、今夜は男同士、女同士ってことで」女同士といっても、お袋の前では、幸子はプログラムされた娘を演ずるだけだ。お袋はボクとお父さんに託したいことがあるのかも知れない。人気の岩盤浴やジャグジーは避けて、この時期には人気のない露天風呂に入った...妹が憎たらしいのには訳がある・12『スーパー銭湯にて』

  • やくもあやかし物語・41『受け止め方』

    やくもあやかし物語・41『受け止め方』アノマロカリスのお腹を探りまくった。これが人間だったらくすぐったくて、とっくに降参してただろう。アノマロカリスは縫いぐるみだから文句も言わないでされるがままになっている。交換手さんの言い方は、俺妹の女子キャラがまだ隠れているという感じだ。でも、人間だったら笑い死にしてるってくらい探っても出てこない。俺妹キャラは小さい縫いぐるみだけど、これだけ探ったら手触りで分かるはずだ。あきらめかけたころ、小さな紙切れが手に触る……レシートだ。お父さんは忙しいもんだから、他の用事のついでにクレーンゲームで取ったんだろ。コンビニやら文具屋やらのレシート、駐車券、クーポン券……ちょっと入れ過ぎ。ポイ捨てしないということでは真面目なんだろうけど、それを縫いぐるみの中に入れっぱにしてるのは問題だ。...やくもあやかし物語・41『受け止め方』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』

    妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』「幸子、裸になって」「……はい」無機質な返事をすると、幸子は着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。妹とはいえ、年頃の女の子の裸なんて見たことない。でも、不思議と冷静に見ていることができる。幸子の無機質な表情のせいかもしれない、これから顕わにされる秘密へのおののきだったかもしれない。幸子はきれいなな体をしていた。その分、左の腕と脚の傷が痛々しい。お母さんは、小さな殺虫剤ぐらいのスプレーを幸子の体にまんべんなく吹き付けた。「幸子は、心身共に未熟なの。だから、肌もこうやってケアするのよ」ラベンダーの香りがした。幸子が風呂上がりにさせていた香りだ……驚いたことに、傷がみるみるうちに消えていく。「メンテナンス」お母さんが、そう言うと、幸子はベッドで仰向けになった。「...妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』

  • やくもあやかし物語・40『お爺ちゃんの大掃除』

    やくもあやかし物語・40『お爺ちゃんの大掃除』片づけばっかりやってると早死にしますよヽ(`Д´)ノ。片づけに熱中して、やっとお昼ご飯を食べに来たお爺ちゃんにプンスカ言うお婆ちゃん。お爺ちゃんも、なんとか切り上げてきたんだから、食卓に着いたとたんに言うことじゃないと思うんだけど。今日のお昼は、お婆ちゃんとわたしとで作ったカルボナーラ。お婆ちゃんは、わたしが手伝ったお昼ご飯に遅れたことを咎めているんだ。お婆ちゃんだけで作ったお昼なら、遅くなっても文句は言わない。ラップをかけてテーブルの上に置いておく。お爺ちゃんのお片づけも、わたしがお母さんといっしょにやったのに触発されたんだ。「ほう、感心感心、わしもやってみよう!」ねぎらいの言葉として聞いていたんだけど、ほんとにやりだして大掃除のようになってきた。広い家なので、そ...やくもあやかし物語・40『お爺ちゃんの大掃除』

  • 魔法少女マヂカ・191『霧子の横・2』

    魔法少女マヂカ・190『霧子の横・2』語り手:マヂカ授業が始まるわよ。二階建ての校舎からは見えるはずもない十二階相当の高さからの景色を見続けているのは不吉なので、小さく声をかける。「大丈夫、学校の時間は停まっているから……ちょっと外に出てみましょ」霧子が向くと、今の今まで漆喰の壁だったところにエレベーターの扉が現れた。エレベーターと言っても令和に時代のそれではなく、鉄格子のようなものでエレベーターの箱が上がって来ると、折りたたむようにして開く様式。チン音がすると蛇腹になった鉄格子が開き、霧子と二人で乗り込む。チンチン二度音がすると、ガチャリと蛇腹鉄格子の扉が閉まって、エレベーターは降下し始める。「気持ち悪くはない?」「え?」「始めて乗ると、気分の悪くなる人がいるから」「ああ」降下し始めたエレべ-ターは一瞬無重力...魔法少女マヂカ・191『霧子の横・2』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・10『憎たらしさの秘密・1』

    妹が憎たらしいのには訳がある・10『憎たらしさの秘密・1』お袋は息を切らして病院にやってきた。裂傷だけで命に別状はないことは伝えてある。しかし小五のときに続いて二度目の事故、俺には憎たらしい妹だけど、女の子。顔や体に傷が残らないか心配だったのだろう。俺も左手足が義手・義足であると聞かされてビックリしていた。義手・義足であることは、この一カ月、全然気づかなかったもんな。「念のためMRIを撮ります。それにしても、あの義手・義足は、どうなさったんですか。完全に体と一体化していて、筋肉や皮膚組織も、一見生体のものと変わりはありませんが、人間の組織ではありません。よかったらお話を伺えないでしょうか!?」医者が興奮気味に聞いてきた。「小学校五年生の時に交通事故で……ある大学の研究に秘密で協力することを条件に。あの義手・義足...妹が憎たらしいのには訳がある・10『憎たらしさの秘密・1』

  • やくもあやかし物語・39『アノマロカリスのお腹』

    やくもあやかし物語・39『アノマロカリスのお腹』シャコの縁側を大きくして二本の大きな牙を付けたみたい。それがアノマロカリス。で、そのぬいぐるみ。海老みたく目玉が飛び出している。真っ黒な目玉なんで怖くはないけど気味が悪い。ひっくり返すと、信じられないけどまん丸い口。井戸を掘るドリルのようだ……といって井戸掘りドリルなんて見たことないんだけど、こんなのだと思う。これが、スーパーとかで売ってる有頭海老くらいの大きさだったら、変なやつってくらいでほっぽらかしておいてもいいんだけども、デカい!とにかくデカい!全長一メートルほどもある。もし、こいつを背負って出かけたとする。半径二メートル以内には人が寄り付かないだろうね(^_^;)。でもって「ちょっといいですか」とか言って人に話しかけたとする。十中八九逃げられるね。ひょっと...やくもあやかし物語・39『アノマロカリスのお腹』

  • 銀河太平記・023『修学旅行・23・北富士駐屯地』

    銀河太平記・023『修学旅行・22・北富士駐屯地』ダッシュ急きょ火星に帰ることになった。ホームステイ先の家が焼かれて、調べに行ったヒコのハンベが目の前でクラッシュした。ハンベのクラッシュは持ち主の危険を現わしている。ハンベロストのシグナルは地球の周回軌道を周っている学園艦で、すぐにキャッチされ、同じ班員のハンベがオートで状況を学園艦に状況を報告する。アキバと靖国の事件も大ごとだが、生徒の身に危険が及ばない限り、学園艦の先生たちが干渉してくることは無い。正直靖国神社で陛下をお助けした時は学校からリアクションが有るかと思ったが、何も言ってこなかった。扶桑の教育と言うのは古い言い方をすると質実剛健。とにかくワイルドなんだ。まあ、地球のように生ぬるい教育をしていては、まだまだ開拓の段階にある火星では通用しないからだ。当...銀河太平記・023『修学旅行・23・北富士駐屯地』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子 事故に遭う』

    妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子事故に遭う』その日は言い出しかねた。入学式の入学宣誓は参列者のみんなが驚いた。宝塚のスターのように堂々とした宣誓は大評判で、参列した指導主事(府教委から派遣された監視役)が、ぜひ、府のネット広報にアップロードしたいと申し出があった。アップロ-ドするということは、誰かがビデオ撮影していたということだけど……まあ、俺は、そういうことは深く考えない。話しかける隙がなくて幸子にケイオン入部の申し入れができなかった。「ドンクサイねん太一は。アタシがさっさとOKとっといた。演劇部とも話ついてる」「え、いつの間に!?」「ダテに三年生やってへんで。演劇部は木曜休みやから、木曜はベタ、あとは気の向いた時に朝練しにきたらええ……という線で手ぇ打った。まあ、演劇部は、一学期には壊滅するやろから、...妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子事故に遭う』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子 事故に遭う』

    妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子事故に遭う』その日は言い出しかねた。入学式の入学宣誓は参列者のみんなが驚いた。宝塚のスターのように堂々とした宣誓は大評判で、参列した指導主事(府教委から派遣された監視役)が、ぜひ、府のネット広報にアップロードしたいと申し出があった。アップロ-ドするということは、誰かがビデオ撮影していたということだけど……まあ、俺は、そういうことは深く考えない。話しかける隙がなくて幸子にケイオン入部の申し入れができなかった。「ドンクサイねん太一は。アタシがさっさとOKとっといた。演劇部とも話ついてる」「え、いつの間に!?」「ダテに三年生やってへんで。演劇部は木曜休みやから、木曜はベタ、あとは気の向いた時に朝練しにきたらええ……という線で手ぇ打った。まあ、演劇部は、一学期には壊滅するやろから、...妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子事故に遭う』

  • やくもあやかし物語・38『ぼっちの図書室』

    やくもあやかし物語・38『ぼっちの図書室』広い図書室に一人ぼっちということがある。しょっちゅうあることじゃないんだけど、相棒の当番の子がまだ来ていなくて、図書室を利用する生徒も来ていない時ね。図書の小出先生は居ないことの方が多いしね。一人ぼっちの図書室は神秘的だ。数千冊の本たちが寝息を立てているみたいな気がする。カウンターからは見えない書架の陰に何かの気配を感じることもある。図書室にはカーブミラーみたいなのが幾つか付いていて、カウンターからは死角ができないようになっている。本を盗んだり、ページを破ったり、飲食したり、そういうのを取り締まるために付けたらしいんだけど、それって生徒に対する剥き出しの不信感だよね。そういうこともあって、カーブミラーは埃をかぶってくすんだままにされている。天井の照明の陰になることもあっ...やくもあやかし物語・38『ぼっちの図書室』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・8『幸子の入学宣誓』

    妹が憎たらしいのには訳がある・8『幸子の入学宣誓』路上ライブの時のように、お袋が耳元でささやくと、幸子はホッとしたように大人しくなり、ベッドに横になった。「太一は、部屋から出ていて……手当するの、幸子、裸になるから」「う、うん……」部屋を出た俺は、いったんリビングに戻り、スリッパを脱ぎ、こっそりと幸子の部屋の前に戻った。服を脱がせているのだろう、衣擦れの音がして、かすかに蚊の鳴くような電子音がした。それからお袋は、親父に電話をかけた様子だった。「あなた、わたし……うん……障害、でも……初期化……だめよ、せっかく……!」親父が、なにか言いかけたのをさえぎって、お母さんは電話を切った。それ以上いては気取られそうなので、リビングに戻って、新聞を読んでいるふりをする。やがて幸子の部屋のドアが開く音がした。「あ……」俺は...妹が憎たらしいのには訳がある・8『幸子の入学宣誓』

  • やくもあやかし物語・37『お母さんの性癖』

    やくもあやかし物語・37『お母さんの性癖』風邪ひいて寝込んでしまった。建国記念の日にお片づけした。ジジババが手伝ってくれたのはいいけど、ぎっくり腰の前科があるのと、あれこれ部屋のシミとか日に焼けた痕とか古い電話のコンセントとかに「へーーー」とか「ほーーー」とか感心して座りこんじゃうもんだから、けっきょく仕上げは自分でやった。けっこうな労働だったので、それなりに汗をかいたんだけど、そのままにして居眠りしたのが良くなかったんだよね。あれが原因だったのかもしれない。見た夢も受話器の中から小さな電話交換手の女の子が出てくるって妙なもんだったし。「あー、それって、受話器の中にゴキブリとか住んでるのかもー(^_^;)」お母さんが嫌なことを言う。普段かまってやれないということで、まる一日仕事休んで看病してくれる。してくれるの...やくもあやかし物語・37『お母さんの性癖』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・7『幸子の首席合格』

    妹が憎たらしいのには訳がある・7『幸子の首席合格』幸子の路上ライブは動画サイトにアップロ-ドされてしまった。幸い東京の中学の制服の上にダッフルコート。恍惚として唄う表情は、いつもの幸子とは違ったもので、ケイオンのみんなも気が付かずじまい。アクセスも、一日で八百ほどあったが、それに続く情報が無いので、しだいに減ってきた。お父さんが言った「過剰適応」という言葉がひかかった。多分心理病理的な言葉だろうと、当たりをつけて検索してみた。――過剰適応症候群(over-adjustmentsyndrome)とは、複数の人間の利害が絡み合う社会環境(職場環境)に過度に適応して、自分の自然な欲求や個人的な感情を強く抑圧することで発病する症候群のこと――……少し違う。幸子は、まだ俺の真田山高校に受かったわけでもなく、ケイオンに入っ...妹が憎たらしいのには訳がある・7『幸子の首席合格』

  • やくもあやかし物語・36『建国記念の日』

    やくもあやかし物語・36『建国記念の日』三連休最終日、思い立って部屋のお片づけをした。取り立てて片づけをしなきゃならないほど散らかってるわけじゃない。荷物が多いわけでもない。朝刊読んでるお爺ちゃんを覗き込んだら『建国記念の日』という文字が目に飛び込んできたからだ。なんか、お片づけして清々しい気持ちになるにはピッタリの日だと感じた。わたしの部屋のアレコレはゴツクて重い。ベッドも机も本棚ももともとこの部屋にあったもので、どう見ても昭和……どころか、ひょっとしたら明治大正のものかもしれない。少しづつズラして移動させようと思ったんだけど、ゴゴゴ……ズズズズ……すごい音がする。音を聞きつけて、お爺ちゃんもお婆ちゃんもやってきた。「あら、片づけ?」「一人じゃ無理だよ」ということになって、ジジババの協力を得ることになる。さぞ...やくもあやかし物語・36『建国記念の日』

  • かの世界この世界:163『』

    かの世界のこの世界:163『ミョルニルハンマーの小型版』語り手:ポチちょっと予定が狂った。オーナーのオジサンがうつむいたまま呟いたよ。あんまり密やかな声なんで、どこかに人が隠れていて、思わず漏らした声かと思ったくらい。でも、すぐに顔を上げて、あたしとダグ(フェンリル二世)の顔を見たんで、オーナーだと分かる。「仕方がありません、ここで処理しましょう」オバサンもゆっくりと顔を上げたよ。ダグはどうしているのかとチラ見したよ。「え……ダグ?」ダグは「ところで、オーナーさんたちは半神族じゃありませんね……」の、最後の「ね……」の顔のまま固まってしまっている。「いやはや、おどかしてごめんね、ポチ」「ポ、ポチ!?」いきなり真名で呼ばれてしまったんで、思わず両手で頬っぺを挟んで、ムンクの『叫び』みたいに驚いてしまったよ。「あな...かの世界この世界:163『』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』

    妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』見てはいけないものを見た気がした。幸子は、たった十五分でアコギをマスターし、いきものがかりのヒットソングを、ケイオンの女ボス加藤先輩よりも、はるかに上手く唄っている。加藤先輩はおおらかな人柄で、自分よりうまい幸子に嫉妬などせずに、素直にその上手さに感心して、バックでベースギターを弾いて合わせた。他のメンバーも加わり、まるで視聴覚教室はライブのようになってしまった。いたたまれなくなって、そっと視聴覚教室を出て、そのまま下足室に向かった。「おい、なんかケイオンが、ライブやってるらしいで!」「ほんまや、チーコがメール送ってきよった」「なんや、すごい子が……」「行ってみよか!」そんな言葉を背中で聞きながら、俺は靴に履きかえ、家に帰った。「「おかえり」」親父と、お袋の声がハモっ...妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』

  • やくもあやかし物語・35『A君』

    やくもあやかし物語・35『A君』A君が転校しました。担任の先生が言う。クラスのみんなは無言だけど――ああ、やっぱりな――という空気が流れる。次の休み時間には、クラス委員二人でA君の机を運び出していった。この三か月、A君の机はみんなの物置同然だった。季節が寒い時期に差しかかるところだったので、机の横や、後ろの棚に置ききれない防寒着やいろいろを置くようになったんだ。クラスの何人かは――A君はイジメられていた――と噂していた。クラスのXやYやZやらがイジメていたと言うけど、わたしには分からない。みんなも無関心、ひょっとしたら無関心を装っているのかもしれないけど、シレっとしている。そして、なにより、わたしはA君を思い出せない。わたしも学年の途中で転校してきた人だし、A君は休みがちだったし。ま、仕方がないと思う。もうちょ...やくもあやかし物語・35『A君』

  • 滅鬼の刃・ジェット推進十万馬力

    滅鬼の刃エッセーノベル1・『ジェット推進十万馬力』いちおうの意味はあるのですが『滅鬼の刃』はエッセーかライトノベルか判然としない、そういう虚実皮膜的な駄文を、どこまでいくか分かりませんが、とりあえず鞘から抜いてみました。ジェット推進十万馬力部活の同窓会を南森町のイタ飯屋でやった時の事です。還暦前後のおっさん・おばはんの話は子どもや孫の話題になります。「こんどのガンダムは動くらしいで(^▽^)/」ワインに酔ったT君がスマホを出します。「ああ、東京のどこかにあるやつやなあ」「横浜や」「せやったか……あれはポリさんの人形みたいに立っとるだけで動いたりせえへんぞ」警察を定年で辞めたY君が遮る。生徒だった頃から、人の間違いは正さずにはおられない性格で、その正義感が災いして、警部補止まりでの定年。いまだに定年後の再就職先が...滅鬼の刃・ジェット推進十万馬力

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・5『幸子の学校見学』

    妹が憎たらしいのには訳がある・5『幸子の学校見学』「おい、むっちゃ可愛い子おが体験入学に来てるみたいやぞ!」クラスメートで同じケイオンの倉持祐介。「ほんとかよ!」俺も人並みには女の子にも関心がある。ちょうど食べ終えた弁当のフタをして、腰を浮かせた。「もー、ちょっと可愛い思たら、これやねんからなあ」これも、クラスメートでケイオンの山下優奈がつっこんでくる。「そやかて優奈、ビジュアル系のボーカル欲しいて言うてたやないか」と、いうことで、祐介の目撃場所であるピロティーが見下ろせる渡り廊下に急いだ。渡り廊下にはすでに数人の生徒が高校生的好奇心プラス大阪人のスケベエ根性丸出しでピロティーを見下ろしていた。ピロティーと隣接する中庭にいる生徒の多くも、チラ見しているのがよく分かった(ちなみに、大阪人のチラ見は東京のジロジロと...妹が憎たらしいのには訳がある・5『幸子の学校見学』

  • やくもあやかし物語・34『突然の選択肢』

    やくもあやかし物語・34『突然の選択肢』あとはデザートというところで電話がかかってきた。お母さんは「ごめん」と言いながらスマホを持って店の外へ……「あ、島田君……」という一言で職場からの電話だと分かって、気持ちを引き締める。「わるい、会社に戻らなきゃならなくなっちゃった」「お仕事じゃ仕方ないよ。だいじょうぶだから行って(^▽^)」気持ちを引き締めていたので笑顔で言えた。お母さんは席にもどることなく、レジでお勘定済ませて行ってしまった。「デザート、テイクアウトできますか?」マスターに聞くと、快くケーキ用の白い箱に入れて持たせてくれた。「ごちそうさまでした、今度またゆっくり来ますね(o^―^o)ニコ」もう一回とびきりの笑顔をマスターに見せて外に出る。笑顔は、お母さんに見せてあげようと、そのつもりになっていたんだ。次...やくもあやかし物語・34『突然の選択肢』

  • せやさかい・183『詩ちゃんと大掃除』

    せやさかい・183『詩ちゃんと大掃除』さくらきょうは自分の部屋の大掃除。来週になると本堂とかの大掃除になるので、まずは自分の部屋から。お寺の大掃除はたいへんなんです。なんせ、敷地だけど五百坪。本堂の内陣と外陣で百坪。とても一日では終わりません。去年は、まずはお寺が先と思て、自分のを後回しにしたら、ヘゲヘゲでなんにもできませんでした。まあ、その年の四月に引っ越してきたから、大掃除いうほどのこともないこともあったんやけどね。せやさかい、今年は、まずは自分の部屋から。わたしの部屋は玄関上がって、リビングの外の廊下をL字型に進んだどん詰まりを階段を上がった二階。廊下を挟んで詩(ことは)ちゃんと向かい合わせの八畳間。「「よし、やるぞ!」」詩ちゃんと、気合いを入れて、それぞれの部屋にかかる。たった一年と九カ月やねんけど、本...せやさかい・183『詩ちゃんと大掃除』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』

    妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』人間はたいていの環境の変化にはすぐに慣れる。自他共に認める「事なかれ人間」の俺は、三日目には、幸子の可愛さと、それに反する憎たらしさに慣れてしまった。幸子は、家の外では多少コマッシャクレ少女だが、まあ普通……より少し可愛い妹だ。家の中では、相変わらずのニクソイまでのぶっきらぼう。六日目に、一度だけお袋に聞いた。ちょうど幸子がお使いに行っている間だ。「幸子……どこか病気ってか、調子悪いの?」「え……どうして?」お袋は、打ちかけのパソコンの手を休めてたずねてきた。ちなみにお袋は、在宅で編集の仕事をやっている。「あ……なんてか、躁鬱ってんじゃないけど、気持ちの起伏が、その……少し激しいような……」「…………少し病んでるの、ここがね」お袋は、俺の顔を見ずに、...妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』

  • やくもあやかし物語・33『最初の晩餐』

    やくもあやかし物語・33『最初の晩餐』それから黒電話に変異は無い、いまのところね。七割安心して、三割期待してる……と思って、慌てて否定。三割でも期待して、本当になったらどうすんのよ(;'∀')!慌てて、ひとりエンガチョを切る。戦時中の真岡にあったものでもない。単に芳子ひい婆ちゃんのころに電電公社が据え付けたものだ。梅の咲くころまでには、そっけない部屋のオブジェとして収まった。庭の梅の木にポツリポツリと花がほころび始めた時に来客があった。梅田さんという苗字は暗示的だったけど、お婆ちゃんの和室にお茶を持っていくと、うちのお婆ちゃんと同年配の中肉中背のオバサンだ。お婆ちゃんと同年配でオバサンというのもおかしいんだけど、若く見えるから。若く見えると言っても、美人だとかいうわけじゃない。ただ、よく喋る。お喋りが若やいでい...やくもあやかし物語・33『最初の晩餐』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』

    妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』なんか変なんだ。例えて言うなら、ライブの舞台セットの裏側と表側。セットの表側は、きれいに飾られ、電飾やらレーザーやらの照明が当てられて、とても華やか。でも裏側にまわると、それはただの張りぼてで、ベニヤ板が剥き出しだったり、配線が生ゆでのパスタのようにのたくって薄暗く、まるで建設現場のように素っ気なく乱雑だ。幸子は、Yホテルで会ったとき、引っ越しでご近所周りをしている時は明るく可愛い女の子だった。家の中を整理しているときは、親父、お袋、そして俺たちも忙しく立ち回り、いわばセットの立て込み中のスタッフのように、テキパキと無駄なく動いていた。だから、素っ気なくて当たり前だと思った。でも、落ち着いてからの幸子は変だ。兄妹とはいえ、平気で上半身裸の姿を晒し「こういう場合、どう...妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』

  • やくもあやかし物語・32『黒電話の怪異・5』

    やくもあやかし物語・32『黒電話の怪異・5』本当に落ちたわけじゃない。真岡電信局の事は夢か幻だ。だから、交換室の後ろの扉から芳子ちゃんと手を繋いで飛び出したことは現実のことじゃない。ベッドの上に落ちたと思ったのは錯覚なんだ。錯覚なんだけど、落ちたと思って瞬間身体に力が入って、あちこちの筋が違ったんだろう。あーーいててて……夕飯のテーブルに着くのも、要介護三くらいのお婆さんになったみたいだ。アハハ、どうしたのよ?テーブルの向かいでリアルお婆ちゃんが笑いながら食器を並べている。お爺ちゃんは鍋の具材を整えながら聞きたそうにしている。「じつは、黒電話がね……」黒電話の発見から公衆電話の使い方まで祖父母には世話になっているので、夕飯の鍋が煮立つ間にあらましの事を話した。「芳子ちゃんと言ったんだね?」「うん、セーラーモンペ...やくもあやかし物語・32『黒電話の怪異・5』

  • オフステージ・148『ミリーの頼まれごと・4』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148『ミリーの頼まれごと・4』ミリーお弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?体調悪いのに大丈夫……?この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。「家庭科準備室行くから!Sさんもいっしょにおいで!」我ながら、こういうところはアメリカ人。ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。事情を説明すると...オフステージ・148『ミリーの頼まれごと・4』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』

    妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』タイトルがおかしい。前回読んだ人はそう思うかもしれない。『妹が憎たらしいのには訳がある』と題しておきながら、八年ぶりの妹を、こう描写している。すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。可愛くのみならず、ニコニコとまで書いている。しかし、タイトルに偽りはない……。妹の幸子は、喋りすぎるでもなく、静かすぎることもなく、自然な会話の中でニコニコしていた。八年前、俺が東京の家を出るとき、まだ七歳の幸子は、電柱五つ分ぐらい泣きながら追いかけてきた。「おにいちゃーん、行っちゃやだー!!」転んで大泣きする幸子を見かねて、俺はタクシーを止めてもらった。「幸子、大丈夫か!?」「だいじょばない……おにいちゃん、ファイナルファンタジー、...妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』

  • やくもあやかし物語・31『黒電話の怪異・4』

    やくもあやかし物語・31『黒電話の怪異・4』南に走ったつもりだった。真岡の街は西に向けて傾斜しているので、東西に方向を間違えれば平衡感覚で分かる。しかし、南北には高低差が無いので、銃撃や艦砲射撃が続く中、何度も転んでしまって分からなくなる。平穏な時であれば右手に海、左手に山を捉えていれば間違えようは無いけど、身を低くして頭を抱えて足もとしか見えていないうちに混乱してしまった。何度目かに転んだ目の前に真岡電信局が見えた。ここだ!近くには国民服の人とお巡りさんがねじくれて転がっている。ピュピュピューーーン!ピュピュピューーーン!二人を地面に縫い付けるようにして機銃弾が走る。子どもが寝転がったまま駄々をこねるように跳ねる。ピュピュピューーーン!ピュピュピューーーン!まだ生きていると思ったのか、執拗に機銃弾が走る。国民...やくもあやかし物語・31『黒電話の怪異・4』

  • 妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』

    妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』「土曜日、お母さんと会うからな」「え………………………………?」これが全ての始まりだった。俺は、どこと言って取り柄も無ければ、欠点もない(と思ってる)、ごく普通の高校生だ。通っている高校も偏差値58の府立真田山高校。クラブは、どこの学校でも大所帯の軽音楽部。特に軽音に関心が高いわけじゃない。中三の時、友だちに誘われて、親父のアコステを持ち出して校内の発表会に出た。バンドというだけで注目だった。どっちかって言うと、そういうのは苦手。俺は、ただ習ったコードをかき鳴らしていただけだ。本番でも五カ所ほど間違ってしまった。とてもアコステをマスターしたとは言えない。でも、観客の生徒はみんなノリノリだった。友だちのボーカルが多少イケテル感じはした。ボーカルも「アコステよかったじゃん!」...妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』

  • やくもあやかし物語・30『黒電話の怪異・3』

    やくもあやかし物語・30『黒電話の怪異・3』真岡の街だ……走りながら思った。南北に長くて西に向かって坂道が下っている、坂の向こうには港のパノラマ……港の沖には灰色の船がたくさん浮かんでいる。船たちにチカチカと火花と煙が立つ。ズドドーンズドドドーンズドドドドドーン数秒遅れて雷のような音、軍艦が揃って大砲を撃ってるんだ!ネットで検索したままの景色……ソ連軍の攻撃が始まったんだ!その子はピョンピョンお下げを振りながら坂道を駆け下っている。舗装されていない坂道は、その子とわたしの駆ける音でザッザッザッザと音がする。スピードに身を任せていると、足がもつれて転びそうだ。重心を後ろに傾けて転ばないようにする。その子は坂道に慣れているんだろう、どんどん距離が離れていく。ドッカーン!ドカドカドーン!ドドドドーン!キャッ!!ソ連軍...やくもあやかし物語・30『黒電話の怪異・3』

  • 魔法少女マヂカ・190『』

    魔法少女マヂカ・189『霧子の横・1』語り手:マヂカ「ここは物見やぐらなの」霧子は一人分左に寄って、わたしも窓の外を見るように態度で示した。うかつには近寄れない。二階建て校舎の二階にある礼法教室の上に三階などあるわけがない。それも、城郭のような物見やぐらなど。見たままの物見やぐらだとしたら、物の怪や妖の仕業に違いなく、誘いに乗っては元の礼法教室に戻れないような気がする。「大丈夫よ、何度もここに来て外の世界を窺っているけど、きちんと戻れているから」見透かされたか……仕方がない……後ろ手で密かに印を結んでから霧子の右に立つ。「見て、ひどい有様でしょ……」予想はしていたが、瞬間、感覚が追いついてこない。二階の礼法教室から一階分の階段を上がったのだから、わたしの五感は三階を予想していた。しかし、物見やぐらの窓から見える...魔法少女マヂカ・190『』

  • ライトノベル・ライトノベルベスト・〔年賀状を書こう!〕

    ライトノベルベスト年賀状を書こう!年賀状を書こう!朝目が覚めて、一番に思った。毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いていることがある。佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けてだしたら、結構受けた。せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、()にして、カッコの中に入るのは何でしょう?というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。テスト明けだというのに、きちんと目を通し、...ライトノベル・ライトノベルベスト・〔年賀状を書こう!〕

  • やくもあやかし物語・29『黒電話の怪異・2』

    やくもあやかし物語・29『黒電話の怪異・2』皆さんこれが最後ですさようならさようなら憶えているうちにコピーしてYAHOOの検索窓に貼り付けた。ちょっとためらってからカーソルを検索のところに持って行ってクリック。カチャウィキペディアの――九人の乙女の像――というのが出てきた。夢の中に出てきた言葉なので献策しても何も出てこないだろうと思っていたのでビックリした。公衆電話の掛け方には疎いけど、こういう検索に慣れているのは我ながら今どきの子なんだろうね。1945年8月20日五日前に戦争は終わっているのに、当時ソ連といったロシアが攻めてきたんだ。真岡って、樺太にあった街。ソ連が攻めてくるんで、街の人たちは北海道なんかに疎開を始めていた。女子供を真っ先に疎開させたんだけど、真岡の電信局で交換手をしていた十二人の女の人たちが...やくもあやかし物語・29『黒電話の怪異・2』

  • 銀河太平記・022『修学旅行・22』

    銀河太平記・022『修学旅行・22・ヒコの調査』未来漏電に見せかけてあった。あまりに残念なので、ヒコが調べに行った。普段は安全な乗り物しか使わないヒコが、レンタルのグライド(一人乗りパルスバイク)で往復二時間半で富士山を真正面に望む富士吉田の展望台に戻ってきたところ。ほら、レプリケーターのレポート書こうとしていたら、ホームステイ先の小父さんからお詫びのメッセが来ていたでしょ。いつも端正にキメている髪がメットでプレスされてペッタンコ。こういうことにはお腹抱えて笑い転げるテルも神妙な顔で聞き入っている。「前の日に急なメンテをやるって、電力会社が来ていじっていったんだけど、会社に問い合わせたら、そんなメンテはやっていないって、ご主人が言っていた」「だれがやったのか分からねえのか?」「認識モザイクがかかっていて、どこの...銀河太平記・022『修学旅行・22』

  • やくもあやかし物語・28『黒電話の怪異・1』

    やくもあやかし物語・28『黒電話の怪異・1』こうして私の部屋に黒電話が来た。むろん電話線に繋がっているわけじゃないので、単なるオブジェというかディスプレー。机の右っかわにデンと置いた。わたしの机は校長先生が使うみたいに大きな木の机。離婚したお母さんにくっついてくるまでは空き部屋だったそうだ。八畳くらいの部屋は物置同然で、机はベッドと共に最初から置いてあった。新しいの買ってあげようかと言われたけど、なんだか小説の中に出てきそうな趣があって「この部屋がいい!」と宣言して決まった。さすがにベッドのマットレスは新品にしてもらい、机の上はお習字の下敷きみたいな大きめの緑のフェルトを敷いた上に板ガラスを置いてもらった。お爺ちゃんの発案なんだけど、掃除が楽だし、下敷きを敷かなくてもプリントとか書類とかが書きやすい。他にも、も...やくもあやかし物語・28『黒電話の怪異・1』

  • かの世界この世界:162『静かな宿』

    かの世界のこの世界:162『静かな宿』語り手:ポチあれ…………?そう言ったきり、ダグ(フェン)は車を止めてしまった。「どうかしたの?」「街の様子が変わってしまってるんだ……大きくなってるし……」わたしは初めてだから、大きいもなにも分からないんだけど、ダグの表情から、うかつにデミゴッドブルクには踏み込めないということは分かった。「さっきの車で、てっきりデミゴッドブルクは縮んでいると思ったんだが……」「どういうこと?」「あの婆さんは命のあるうちに葬られようとしていた。半神族は肉体が滅ぶと神になる。だから肉体には未練が無いんだ……だから、肉体の街や世界には未練がないんだと思っていたんだ……それが、このありさまだ。うかつには踏み込めない」市街地からは一キロはあるところだけども、建設中の機械や工事車両の音が聞こえてくる。...かの世界この世界:162『静かな宿』

  • まりあ戦記・049『ドアスコープ』

    まりあ戦記・049『ドアスコープ』久々に通学カバンを開ける。ハンドル(取っ手)に汚れの膜が張っているような感触。ファスナーも微妙に硬い。しばらく学校に行っていないので、脂や汚れやらに雑菌が繁殖したのかもしれない。アルコール消毒してもいいんだけど、学校に着くまでに手に馴染ませれば、すぐに元に戻るだろう。生きてた頃のお兄ちゃんみたいに無精。でも、いいんだ。ちょっと、あわただしく過ぎて行った月日を感じてみたい。ここに来てからは、ヨミとの戦いに明け暮れて、時間の感覚が無くなるほどのあわただしさだった。みなみ大尉に当って脱走したり、担当の中原少尉を困らせたり。昨日、カルデラの切り欠きまで足を延ばしてナユタに出会った。ナユタは四菱のソメティのパイロット。いきなりヨミとの戦いに割り込んできて撃破すると、子どものようにハシャギ...まりあ戦記・049『ドアスコープ』

  • やくもあやかし物語・27『黒電話のご利益』

    やくもあやかし物語・26『黒電話のご利益』ここに在ったはずなんだけど……もう二回目だ。お爺ちゃんとお婆ちゃんといっしょに公衆電話を探している。お爺ちゃんがSNSで黒電話で盛り上がって「それなら家にある!」と家探ししていたのをわたしが見つけてあげた。そうすると「黒電話の掛け方」でオチョクラレて、そのノリのままに――やくもの公衆電話レッスン――というミッションが出来あがった。そして、ジジババの記憶の中の公衆電話を探して歩き出したんだけど、とうの昔に撤去されたらしくて見当たらない。「駅前のスナックにピンク電話があった!」「だめですよ、お酒飲むとこなんか」お婆ちゃんのNGで、スナックをパスして駅の中へ進む。「「「あった!」」」売店の横っちょにヒッソリとあった。「昔は、伝言板とかもあったなあ……」お爺ちゃんがシミジミする...やくもあやかし物語・27『黒電話のご利益』

  • かの世界この世界:161『棺の中から』

    かの世界この世界:161『棺の中から』語り手:ポチ四人とも固まってしまった。当たり前だ、吸血鬼がベッドに使っているのでなければ死体が収まっているはずの棺桶から声がしたのだから。でも、固まり方が違う。あたしはオカルト的な驚き、フェンは犯罪の証拠を見てしまったように驚き、中年夫婦はちょっとした隠匿物資を見つけられたような驚きだ。『あ……だれか、人がいるのかい?』気まずそうに棺の声が続いた。「棺の中は母なんだ。死亡予定日には間があるんだけど、仕事の都合で、今日しか墓地にいけなくってね……そりゃあ、死亡前埋葬は違法だけども、みんなやってることだし……むろん、母の意思は確認したよ」「そうなの、そもそも言い出したのはお義母さんの方からなの。そうでしょ、お義母さん?」すると、ほとんど音もなく棺の蓋が開いて、顔色の悪いお婆さん...かの世界この世界:161『棺の中から』

  • せやさかい・182『自転車でお散歩』

    せやさかい・182『自転車でお散歩』さくらトランプ占いをやってる。と言うても大統領選挙でねばってるトランプさんの勝敗を占ってるわけやない。まじ、トランプ占いです。占いの中身は、今日の行動、今日はなにをしたらええかっちゅうこと。コロナの第三波で、大阪は、ちょっと大変。看護師さんが足らんから自衛隊とか他府県に応援を求めてる。そのあおりを受けて、不要不急の部活は自粛しろとのお達しで、文芸部はお休み。大掃除には間があるんで、今日は一日フリーというわけ。おっちゃんもテイ兄ちゃんもお寺の用事で忙しい。専念寺さんのお手伝いもあるしね、この二三日は、お祖父ちゃんも檀家参りをするようになった。詩(ことは)ちゃんは部活。真理愛女学院もコロナで自粛やねんけど、吹部は、地元の商店街からの要請で、パレードと演奏会。めっきり人出が少なくな...せやさかい・182『自転車でお散歩』

  • やくもあやかし物語・26『黒電話』

    やくもあやかし物語・26『黒電話』あっらあ(゚Д゚)…………まだあったんですか!?アラブの神さまをあがめるような声をあげて、お婆ちゃんが驚いた。黒電話というのは昔の電話機。どれくらい昔かというと、お婆ちゃんが娘時代に現役だったものらしい。いまの電話と違って子機なんか付いていなくて、家族にかかってきた電話だと「少々お待ちください……○○ちゃん電話~!」とか呼んだらしい。電話は茶の間にあって、会話は家族に筒抜けだった。「いやあ、高校生の時は男の人からの電話は取り次いでもらえなくて……」お婆ちゃんはシミジミと黒電話にスリスリ。電話を取り次いでもらえないって……かなりの発展家だったのか。「えと、この電話使ってたの?」「そうよ、文字通りの黒電話だから、花柄の電話カバーとか付けてね可愛くしてたのよ」電話にカバー?なんだかペ...やくもあやかし物語・26『黒電話』

  • かの世界この世界:160『国民的大衆車フォルクスオーパー』

    かの世界この世界:160『国民的大衆車フォルクスオーパー』語り手:ポチ二号戦車のゲペックカステンにソウルを入れてやるとセダンに変わった。「これは二世代前のフォルクスオーパーだ」「それって?」「国民的大衆車だったんだけど、垢ぬけないデザインだったんで、社会が豊かになると売れなくなったんだ」フェンは、そう言うけど、カクカクしたボディーは四号や二号に通じるものがあって、とっても実直なイメージで好ましい。「でも、こういうの好きよ」「ぼくだって好きだよ。地に足が付いた感じは、いまの僕たちにも通じるところがある」「フフ、そうかもね」そう応えると、フェンは目尻をシワクチャにして笑った。いまのわたしたちは、乗り慣れた車で定年後の旅に出た初老の夫婦という感じになっている。「いこうか、ベス」運転席に乗り込むフェンは、何十年も言い慣...かの世界この世界:160『国民的大衆車フォルクスオーパー』

  • オフステージ・147『ミリーの頼まれごと・3』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)147『ミリーの頼まれごと・3』ミリーあくる日の昼休みにSさんの話を聞いてあげることにした。きのう、あのまま聞いてあげてもよかったんだけど、あのバタフライ効果の状況では気持ちにバイヤスが掛かってしまって、Sさんの気持ちが飛躍するんじゃないかって思ったのよ。ちょっとした憧れ気分(💛レベル10)⇒手紙を書いてみた(💛レベル12!)⇒ロッカーがシャッフルされて啓介のが分からなくなった(💛レベル15!!)⇒救世主のようにわたしが現れた(💛レベル50!!!)⇒わたしが話を聞く(💛レベル100!!!!)バタフライ効果であり一種の吊り橋効果でもあるのよ。え?わたしが絡んでから💛レベル上がり過ぎ?当然よ、わたしはSさんの気持ちに沿って話をする。親身になってね。自分で言うのもなんだけど、わたし...オフステージ・147『ミリーの頼まれごと・3』

  • やくもあやかし物語・25『お爺ちゃんの探し物』

    やくもあやかし物語・25『お爺ちゃんの探し物』廊下でゴソゴソ音がしていたかと思うと、今度はリビングの方でゴソゴソ、ときどき「あれ?」とか「へんだなあ」とか呟く声はお爺ちゃんだ。放っておいてもいいんだけども、もう十分以上もやっている。やがて、ガサゴソはわたしの部屋の前までやってきて、もう気になるったらありゃしない(^_^;)「なにか探してるの?」ドアを小さく開けて顔だけ廊下に覗かせて聞いてみる。「ああ、ごめん。勉強の邪魔だったね」「ううん、宿題は終わったから」本当はやりかけたばかりなんだけど、責めるような言い方になるのいやだからね。「手伝おうか?」「ああ、すまんなあ」ぴょこんと廊下に出てお爺ちゃんと並ぶ。「で、何を探してるの?」「古い電話をね、まだ残してあったと思ってね」「古電話ね、分かった!」お爺ちゃんと並んで...やくもあやかし物語・25『お爺ちゃんの探し物』

  • かの世界この世界:159『デミゴッドの墓地・2』

    かの世界この世界:159『デミゴッドの墓地・2』語り手:ポチいくつもお墓は見てきた。人と言うのは川沿いに住むもので、とうぜんお墓も並ぶ。それにムヘン川は最前線になることが多く、石を一個置いただけの兵士や犠牲者のお墓もある。霊魂と言うのは死んでもなかなか肉体から離れられないもので、お墓の傍に寄ると時どき頭が痛くなったりする。あたしはシリンダーだったので、そういう霊的なものには人よりも鋭いみたい。ところがデミゴッドの墓地というのはアッケラカンとしていて、霊的なものを何も感じない。「デミゴッドは半神。つまり半分神さまだから、死んだら魂は神界に上って神になるんだ。だから、お墓は抜け殻の肉体だけが葬られている。だから怖くはない」うん、怖くはないよ、霊ってご近所の皆さんて感じだったし。「でもね、中には神であるよりも人の属性...かの世界この世界:159『デミゴッドの墓地・2』

  • 魔法少女マヂカ・188『礼法教室のすきま風』

    魔法少女マヂカ・188『礼法教室のすきま風』語り手:マヂカまるで大名の黒書院だ。黒書院とは将軍や大名家の奥向きの座敷で、いわば将軍・大名の居間のことだ。わたしも徳川の時代には隠密という名の魔法少女として各地の大名の黒書院に忍び込んだ、時には奥女中として公然と侍って、情報を収集したり、時には大名を助けたり陥れたり……その時の癖が出て、立ち居振る舞いが楚々としてくる。両手を添えて襖を開ける、座ったまま拳を立ててにじるようにして入室し、襖を閉めると座位のまま一礼、右太ももの上に手を載せた姿勢で立ち上がり、畳の縁を踏まぬよう上段の間に正対する位置まで進んで右足を引いて正座、さらに一礼したのち、男で言えば蹲踞の姿勢で、上段の間に人の現れるのを待つ。霧子も高坂侯爵家の娘、教室とはいえ黒書院同様のしつらえ、作法通りに現れるだ...魔法少女マヂカ・188『礼法教室のすきま風』

  • やくもあやかし物語・24『体重大事件・4』

    やくもあやかし物語・24『体重大事件・4』お守り石のお蔭か、妖怪メイドは付いてこなかった。家に帰ってお風呂掃除。いつもより念入りにやる。お爺ちゃんが町会の寄合で遅くなるってお婆ちゃんが言ったし、からだ使うことで妖怪メイドを頭から追放したかったし。そして……からだ使ったら少しでもダイエットになる?……あ、ちょっと頭をよぎっただけだからね、あくまで、お爺ちゃんにきれいな一番風呂に入ってもらいたいからなんだよ!額に汗するくらいにお風呂掃除して、廊下のハカリに片足を載せる。カチャリ片足だけで、針が十キロを指す……グヌヌ……全身乗っかろうかと迷っていたら玄関が開く気配!カシャン(;^_^!慌てて足を下ろして玄関へ。「おかえり、お爺ちゃん。きょうは念入りにお風呂掃除やっといたからね」「ちょうどよかった、ホレ」お爺ちゃんは丈...やくもあやかし物語・24『体重大事件・4』

  • かの世界この世界:158『デミゴッドの墓地・1』

    かの世界この世界:158『デミゴッドの墓地・1』語り手:ポチ半神族ってどんななの?素朴な質問をしたよ。シリンダーの変異体であるあたしはモノを知らない。1/6の人型妖精に変異してから、ずっと四号戦車の五人といっしょだった。冒険の旅の中に居たので世間というものを知らない。素朴すぎるかもと思ったけど、変に知ったかぶりしているよりもいいと思ったから。自分が変異体だというのを言いそびれただけで気持ち悪いもん。「人と神さまの間に生まれた種族だよ」「人と神さまの間?」「その前に、乗り物が必要だな……この魔法石に乗り物のイメージを吹き込んで」「どこかに行くの?」「ああ、目標達成にために。とりあえず人里に出なくちゃ」「うん」思いを込めると、魔法石は二号戦車になった。ずっと四号に乗っていたから乗り物と言うと戦車になってしまう。でも...かの世界この世界:158『デミゴッドの墓地・1』

  • やくも・23『体重大事件・3』

    やくも・23『体重大事件・3』永遠の十七歳、アキバのメイドだよ……わたし。そいつはニッコリ笑って、人差し指で自分を指しながら言った。付喪神(つくもがみ)どころか、とんでもない妖怪!?一目散に逃げた(;゚Д゚)。アキバのメイドなんてあり得ない。だってアキバに行ったことなんてないんだもん、アキバ関連のグッズだって持ってない。行ったこともグッズも持っていなくて、その付喪神が出るなんてあり得ない。きっと、ほかのアヤカシが図書室に現れたりペコリお化けの定位置を乗っ取って出てきたんだ。ああいうアヤカシは悪さをするんだ。体力ないから家までは走れない。途中の袋小路にお地蔵さんの祠があったことを思い出した。越してきて間が無いので、わざわざ袋小路に入って手を合わせたことは無いけど、そこしかないと思った。ほんとうは、祠の前できちんと...やくも・23『体重大事件・3』

  • かの世界この世界:157『ポチからポナへ』

    かの世界この世界:157『ポチからポナへ』語り手:ポチ目標って……?直球過ぎたのか、フェンリル二世はゴクンと息をのんだ。ヘタに答えると、その答えに質問が出てきて、その質問に答えると、さらに質問が出てくるという質問のラビリンスに落ち込みそうな顔をしている。まあ、仕方がない。わたしは、なんとしてもカテンの森のみんなのところに戻るんだから、フェンリル二世の目標を確かめても仕方のないことなんだ。「えーと……ユグドラシルを救うのが目標……的な?」「ありがとう、答えにくそうな質問に答えてくれて」「きちんと答えようと思ったら、明日の朝くらいまでかかりそうなんでね」「いいわよ、わたしも明日の朝くらいまでには戻りたいから」「そうだね、戻れるように知恵を絞ろう……伏せて!」「どうしたの?」「半神の使い魔が……」這いつくばって息をひ...かの世界この世界:157『ポチからポナへ』

  • 銀河太平記・021『修学旅行・21』

    銀河太平記・021『修学旅行・21・富士山頂のレプリケーター』未来富士山頂の山小屋は、さすがにレプリケーター。レプリケーターというのは前世紀に発明された食品自動生成機のことで、宇宙旅行や、最果ての惑星探検とかには欠かせないアイテム。炭素とか窒素とかの大気中や自然に存在している原子や分子を組み立てて、オートで食品を合成してくれる。宇宙船なら、原料になる分子原料をタンクに貯蔵しておいて、それを使う。合成された食品は原料の数十倍の量になるから、長い宇宙旅行でも不安は無いのよ。「足りなくなったや、みんなのウンコとかも原料になりゅ(^_^;)」テル!「オシッコもお!」ちょ、だれか、テルを黙らせて!「キャハハハ」修学旅行は学校行事なので、火星に戻ってからレポートを出さなきゃならない。羽田に着いてから、ドラマチックなことばか...銀河太平記・021『修学旅行・21』

  • やくも・22『体重大事件・2』

    やくも・22『体重大事件・2』挨拶と食事は人間関係の基本だよ。おはようさよならありがとう行ってきますただいまじゃども失礼しますおっすいただきますごちそうさま相手や状況によって使い分けるけど、挨拶さえできていれば最低の人間関係は維持できると思う。学校でも家でも同じこと。わたしってコミュ力が乏しい。だからこその挨拶。挨拶さえできていればそのあとが寡黙でもなんとかなる。家では、挨拶プラス食事だ。家族と言うのは寝食を共にしているので、挨拶だけでは不十分だ。三度の食事は(学校に行ってる時は二食)必ず一緒に食べる。一緒に食べることで、とりあえずの一体感は維持できるんだよ。好きなラノベに『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』がある。オタク趣味をめぐっての高坂桐乃と京介兄妹のラブコメ。けして家族のコミニケーションが多いわけじゃ...やくも・22『体重大事件・2』

  • かの世界この世界:156『魔法石』

    かの世界この世界:155『魔法石』語り手:ポチドドドドドドドドドーーーーーーーン!!!!小石一つを放り込んだとは思えない音がした(;゚Д゚)。「なんか、とんでもない音がしたよ……」「穴が崩壊した……」「あんなチッコイ物で?」「九つの世界は、好き放題に国境を固めたからね……ユグドラシルって、本来は木、樹木だろ。樹木と言うのはしなやかなものだけど、固めてしまうと柔軟性を失い、ちょっとした刺激で崩壊してしまうことがある」「そ、それにしても、凄すぎない?」「きみが籠めた想いって、どんなの?」「『スヴァルトアルムヘイムに来てしまったけど、すぐに戻ります』的な?」「ごく普通だよね……ごめん、もう一度籠めてくれる?」「う、うん……」さっきと同じように魔法石に「すぐ帰る」的な想いを籠めた。それを渡すと、フェンリル二世は目の前に...かの世界この世界:156『魔法石』

  • やくも・21『体重大事件・1』

    やくも・21『体重大事件・1』今日も図書室当番。溜まった返却本を戻すために、隣に座ってる杉野君が立ち上がって後ろを通る。いつものように少し椅子を引いて通してやる。「狭っ」小さく言って抜け、背中に杉野君の体が擦れていく。気を使っているのは分かる。ちょうど腰のあたりが触れるからだ。電車の中で、こういう通り方したら痴漢かもしれない。窓際の席で、女子二人が笑ってる。「ちょっと……」「ねえ……」「あの子……」「……ったんじゃない?」小さな声だけど聞こえてしまった。聞こえたのは自覚があるからかもしれない。きのう、お母さんが買ってきてくれたブラ、サイズがいっこ大きくなってた。制服は、転校した時に買ったものだからよく分からないんだ。うちの体重計は浴室の前にある。脱衣にあると量るんだけど廊下だとね……音がするのよ、カシャンカシャ...やくも・21『体重大事件・1』

  • かの世界この世界:155『フェンリル二世の事情』

    かの世界この世界:155『フェンリル二世の事情』語り手:ポチトンネル小僧……フェンリル二世は静かに語った。「ユグドラシルには、もともと世界の区別なんかなかった。九つの種族が、それぞれの習慣や個性をもって生きていて、人も聖霊もみんな自由に行き来していたんだ。オオカミ族は、九つの世界で行き来して自由に暮らしていた。他の部族たちが、それぞれに国を作っても『ま、そういう暮らし方もあるだろう(o^―^o)』くらいに思って、いちばん多くのオオカミ族が暮らしていたスヴァルトアルムヘイムに半神族が国を作っても、我々が自由に暮らせていれば好きにさせればいいと思っていた。ラタトスクたちは『オオカミ族も国を作った方がいい。国を持たない者はのけ者にされていくよ』と忠告もしてくれた」「ラタトスク……ああ、ナフタリンたちだね」「でも、気が...かの世界この世界:155『フェンリル二世の事情』

  • まりあ戦記・048『ナユタのおへそ』

    まりあ戦記・048『ナユタのおへそ』カルデラの天辺まで5メートルという岩場のテラスまで上がった。「天辺までは上がらないの?」「天辺だと、夕日が強すぎて石英の輝きが鈍くなるの、ここらへんが一番きれい。ほら、あそこ」ナユタが指差した谷底には、谷底の筋に沿ってキラキラ光る石英の群落が見える。「ああ……」ビックリマークが出るほどには驚かない。期待が大きすぎたのか、夕陽を含んで茜色に輝く石英群を、それほどきれいだとは思わない。手をかざしながら西の地平線に迫りつつある夕陽が雲を染めているほうがきれいに思える。「あ、もう十二月だっけ……?」「うん、えと……」とっさに日付までは出てこないので、スマホを出して確認する。「あ、もう六日」「そっか……日差しの入射角とかが影響するらしくって、冬の間は輝きが弱いんだよ。また、こんどかな」...まりあ戦記・048『ナユタのおへそ』

  • やくも・20『ミチビキ鉛筆』

    やくも・20『ミチビキ鉛筆』夢だと分かってる。だって、焦ってるもん。お医者さんに注射をされた。風邪の注射だから眠くなるんだ。でも、自然な眠りじゃないから、少しだけ意識がある。その意識が、これは夢だと言っている。明日は試験があるんだ。転校して最初のテストだから欠点はとりたくない。注射のお蔭でだいぶ楽になった。だから、起きて少しでもノートとか見ておきたい。ノートは真面目にとってる。だから、ざっと見て、大事なとこを書くだけで平均点ぐらいはとれるんだ。だから目覚めなきゃ……目を……覚まさなきゃ……目を…………しまった!NHKの朝八時のニュースが聞こえる。お爺ちゃんがダイニングで朝ごはん食べながら聞いてるんだ。それが、わたしの部屋まで聞こえてくる。いつもだったら玄関を出る時間だ。風邪ひきなもんだから、休ませようと思って、...やくも・20『ミチビキ鉛筆』

  • かの世界この世界:154『オオカミ王子フェンリル二世』

    かの世界この世界:154『オオカミ王子フェンリル二世』語り手:ポチなにを驚いてるの?トンネル小僧が不思議そうな顔で聞く。「そ、それは(ついさっきまで1/6サイズだったなんて言えない)……おまえが、か、かわい……変わってるからだ!お、オオカミの耳こそしてるけで、まだ、ほんのガキじゃないよ!」「子どもでも立派なオオカミだ」「どこがよ!あたしと目が合っただけで、ぶっ飛んで逃げちまうし、グニャグニャトンネルとラビリンスの区別もついてないし、あたしみたいな女の子に組み伏せられるし!」「おまえが怖すぎるんだろ!おまえ、目が合った時は人形みたいにちっこかったくせに……」「ちっこいゆーーーな!あ、あたしは、最初っからこのサイズよ、あんたの目がおかしいんだ!」「え?そ、そうなのか…………また見間違えたのか」「え?」「………………...かの世界この世界:154『オオカミ王子フェンリル二世』

  • せやさかい・181『』

    せやさかい・181『プリンセスの崇拝者』頼子ほんとうは諦一さんという。だけど、さくらが「テイ兄ちゃん」と呼ぶので、わたしも『テイ兄ちゃん』と認識するようになった。さくらの家である如来寺の若ボン(檀家のお婆さんたちからは、そう呼ばれている)で、23歳の若さで専業の僧侶。近ごろはお寺の子でもお坊さんにはなりたがらない。理由はいろいろなんだろうけど、なりたがらない気持ちは分かる。わたしもヤマセンブルグ公国の王位継承者で、プリンセスの称号を持ってるんだけど、正式な王女になるのは抵抗がある。だって、王女とか女王とかはたいへんなんだ。年中行事に引っ張り出されるし、お行儀悪くできないし、職業選択の自由も移動の自由も制限される。まだ、正式に王位継承者になっていないのに、ボディーガードが付いている。ソフィアという女の子で、祖母の...せやさかい・181『』

  • やくも・19『風邪とお爺ちゃんと……』

    やくも・18『風邪とお爺ちゃんと……』けっきょく風邪をひいた。ほら、土砂降りの雨の日。もう、学校を休もうかと思ったら、お婆ちゃんがお母さんの赤い長靴出してきて、それ履いて学校に行ったでしょ。いろいろあったけど、足は濡れずに済んだ。だけどね、足以外はビチャビチャの濡れネズミ。帰ってすぐに熱いお風呂にでも入れば良かったんだけど、図書室当番だったんだ。一度代わってあげたことのある小桜さんに頼もうかと、昼休みに小桜さんの教室に行った。すると、廊下で友達三人に囲まれて、帰ったらみんなで遊ぶ話をしていた。で、頼めずに、下校時間まで図書当番やって帰った。急いで家に帰って風呂掃除。「お爺ちゃん、今日は先に入っていい?」掃除終わって、お爺ちゃんに頼んだら「ちょっと、待て」と言って、お爺ちゃんは、わたしのオデコに手を当てた。「すご...やくも・19『風邪とお爺ちゃんと……』

  • かの世界この世界:153『カテンの森のトンネル小僧』

    かの世界この世界:153『カテンの森のトンネル小僧』語り手:ポチ横に伸びる穴をトンネルというんだ。当たり前のことを思い出したのは十分くらいガスマスクを追いかけた時だ。トンネルだとは思えないくらいに地底の穴はグニャグニャなのだ。でも、トンネルと推測するのは間違っていないと思う。だって、いっこうに枝分かれというか分岐が無い一本道だから。これは、落ち着いてアナライズすれば簡単に分かるだろう。地べたに座り込んで、両方の壁に手を伸ばす。グヌヌヌ……体がちっこいので、両方いっぺんにタッチすることができない。エイ!エイ!エイ!仕方なく、反復横跳びみたくステップ踏みながらタッチ。グニャグニャになっている訳が分かった。ここはカテンの森の地下なので、カテンの巨木の根っこが深くまではびこっている。トンネルは根っこを避けて掘られている...かの世界この世界:153『カテンの森のトンネル小僧』

  • 魔法少女マヂカ・187『』

    魔法少女マヂカ・187『ノンコ京都弁を喋る』語り手:マヂカもう一度ノンコに呪をかけた。京都弁を喋る呪。京都から来た野々村男爵の娘ということにしたので、京都弁を喋った方が自然だからだ。「いやあ、東京の言葉は大変どしたから、ほんまに嬉しおすぅ(^▽^)/」魔法少女としてはまだまだのノンコだけども、わたしと付き合って一年余り、わたしに合わせるのは上手くなって、級友たちと楽しく話している。「そやけど、なんで、うちの周りに人が集まるようになったんどすか?」昼休み、昼食後、転入手続きの為に職員室に行った帰り、囁くような声で聞いてくる。「京都の野宮神社は縁結びで有名なんだ」「そうなんどすか?」「日本で五本の指には入るよ」「そうなんや!」「声大きい」「あ、かんにん(;^_^A」「ちょっとレクチャーしてやるから、中庭にいこ」「う...魔法少女マヂカ・187『』

  • やくも・18『赤い長靴・4』

    やくも・18『赤い長靴・4』二問目を解き終って三問目にかかろうとしたら……真横に先生が立っているのに気が付いた。こういう時は気が付かないフリをしておくのに限る。下手に顔を上げて先生が話しかけでもして来たら目立ってしかたがない。黙々と問題やってたら――取り付く島もない――ということで、向こうに行ってくれるだろう。「似合ってるよ、赤い長靴」ゲ!?寄りにもよって長靴。それも若やいだ声で似合ってるよってゆった!ゲロが出そうで、先生とは反対側の床に目を向ける……え、床は?床はアスファルトになっていて、雨がビチャビチャと降っている……で、赤い長靴が見えて、長靴の上には形のいい脚が伸びていて制服のスカートに繋がって、濡れた通学カバンの上には三年生であることを示す紺のリボンが揺れていて、リボンが揺れるのは、その上の首が可愛く振...やくも・18『赤い長靴・4』

  • かの世界この世界:152『カテンの森』

    かの世界この世界:152『カテンの森』語り手:ポチちょっと怖い。なにがって、カテンの森よ。ハンシン族とかにやられて、縮んでしまったヨトゥンヘイムの中で、このカテンの森だけが昔のままにおっきい。低い木でも80メートルほど、高い木になると300メートルもあるそうよ。そうだと言うのは、自分で確かめたわけじゃないから。案内してくれた巨人族の少年が言ったことなんだけどね。メスシリンダーの変異体であるあたしは身の丈が人間の1/6しかない。だから、森から受ける圧は人間の六倍。300メートルの木は1800メートルなのよ。そんなのが何千本、何万本もおっ立ってるんだから、あたしはテントの設営も勘弁してもらって、四号の中に留まった。通信機の上のお布団が一番よ。ハッチが半開きになってるんで外の様子は分かるんだ。巨人族の少年(お爺さんが...かの世界この世界:152『カテンの森』

  • オフステージ・146『ミリーの頼まれごと・2』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)146『ミリーの頼まれごと・2』ミリーバタフライ効果って知ってるかなあ。元々はね、アメリカの気象学者が「ブラジルで蝶々が羽ばたけばテキサスで竜巻を起こすだろうか」と投げかけた言葉。気象学の理屈は分からないけど、小さな出来事が予想もしない結果を起こすてな意味で使われる。日本語の例えなら「風が吹けば桶屋が儲かる」ってことになるのは、シカゴに居たころタナカさんのお婆ちゃんから教わったこと。憶えてるかなあ……?思い出してみるね。風が吹くと砂埃が舞い上がる⇒砂埃が舞い上がると、それが目に入って、中には失明する人が出てくる⇒失明すると門づけ(戸別訪問の流しシンガー)をする人が増える⇒門づけには楽器の三味線が必需品⇒三味線を作るために猫の皮が必要⇒皮をとるから猫の数が減る⇒猫が減るとネズミ...オフステージ・146『ミリーの頼まれごと・2』

  • やくも・17『赤い長靴・3』

    やくも・17『赤い長靴・3』長靴は教室うしろのロッカーの上に置くことになった。最初は机の下に置こうかと思ったんだけど、足の置き場所がない。廊下の傘立ての横も考えたんだけど、これは目立つし、知らないうちに隠されたりイタズラされたりを気にしなけれなならない。男子が二人長靴の子が居て、うしろのロッカーに置いたのがとどめになった。わたし一人別の所に置いたんじゃ、長靴を履いてきたということ以上に変に思われる。でも、やっぱり目立つ。教室に入ってきた子の三人に二人ぐらいは見ている。男子二人は「ダッセー、長靴かよ!」と言われてるんだけど「うっせー!」とか言って反撃している。赤い長靴を冷やかす子はいない。赤は女子の色だし、なにより女子ロッカーの上に置いてあるからね。でも、ハハハとかフフフとかの笑い声が起こったり、なにか意味不の呟...やくも・17『赤い長靴・3』

  • かの世界この世界:151『大神官の住まい』

    かの世界この世界:151『大神官の住まい』語り手:タングリス広場に面した三階建てのアパルトメントだった。「半神がやってくるまでは役目がら神殿に住んでいたのですが、いまは単身者用の2DKです。狭いところですが気楽になさってください」気楽と言われても、そもそも椅子が二脚しかなく、姫にお座りいただくと、我々は立っているしかない。「大神官様、椅子をお持ちしました!」元気な声が廊下や階段からしてきたと思うと、少女たちがズカズカと入ってきて、要領よく全員分の椅子を並べてくれた。「ありがとう。みなさんに神のご加護があらんことを」マシガナ大神官が礼を言うと、少女たちは見かけの可憐さには似合わない豪快さで笑った。「ガハハハ、神のご加護は半神どもが居なくなってからいただきますよ」「あんたたち、大神殿ごとノヤをやっつけてくれた人たち...かの世界この世界:151『大神官の住まい』

  • 銀河太平記・020『修学旅行・20・』

    銀河太平記・020『修学旅行・20・富士登山』穴山彦けっきょくパルスボードということになった。ほら、修学旅行三日目の富士登山さ。一昨日の成駒屋の夕食の時から話題にはしていたんだけど、なんと言っても二百年前の昭和平成ノスタルジーには抗しがたいものがあって、水道水の温泉(今どき塩素消毒の水道なんて太陽系で、ここだけだ)、風呂上がりの卓球、歴史的な昭和平成時代の食材による修学旅行メニューの夕食、枕投げに熱中してしまって沙汰やみになってしまった。あくる日も上野・浅草の歴史的建造物群で遊び惚けてしまった。御即位二十五周年は、各地で様々な行事が行われていて、食べ物もレプリケーターではなくて、手間暇かけてリアル調理されたものが出されている。どら焼き、人形焼き、キビ団子、もんじゃ、ハヤシライス、メンチカツ、ポークソテー、うな丼...銀河太平記・020『修学旅行・20・』

  • やくも・16『赤い長靴・2』

    やくも・16『赤い長靴・2』川というよりも滝だ。二丁目の崖道は、二丁目そのもの緩い谷底のようなところにあるので、平場じゃ、どうってことのない雨でもけっこうな流れになる。水嵩はしれてるけど、ほとんど激流。むろん、側溝やら下水道があるから吸収されるんだけど、一丁目や三丁目の雨水も流れてきて限界を超えている。子どものころに、お父さんとお母さんに連れられてハイキングに行った。途中に流れの速い小川があって、靴も靴下も脱いで親子三人中州を目指して歩いた。子ども一人だったら流されそうなんだけど、お父さんとお母さんがしっかり手を掴んでくれていたので、キャッキャ言いながら楽しかった。あの小川の流れほどの水量ではないんだけど、ハイキングじゃないので、この雨のなか学校に行かなければならないという理不尽に、気持ちは斜め下に落ち込んでし...やくも・16『赤い長靴・2』

  • かの世界この世界:150『進撃NO!巨人!!』

    かの世界この世界:150『進撃NO!巨人!!』語り手:ブリュンヒルデ大神官……?四号のみんなが驚いた。どう見ても十二三歳の少年だ。ヴァルハラの神官でも最年少は三十歳のベルクだ。大神官ともなれば六十歳以下では考えられない。「よく分かったね、ナフタリン」「ラタトスクは人が発するオーラで区別しているんだ。妖精や聖霊は姿が変わるやつも多くて、見かけで判断していてはメッセンジャーは務まらねえし」「そうか、オーラでな……オーラであっても神官の属性が残っているのなら嬉しいことだよ」「いったい、なにが起こったんだよ?」「ヨトゥンヘイムは国ぐるみ縮んでしまったんだよ」「縮んだ?」「巨人の国であるヨトゥンヘイムは図体が大きいので莫大なエネルギーを必要とする。エネルギーの源泉は、我々巨人族に向けられる畏敬の念だ。それが失われてきて、...かの世界この世界:150『進撃NO!巨人!!』

  • やくも・15『赤い長靴・1』

    やくも・15『赤い長靴・1』長靴を履いていったら?お婆ちゃんが言う。モソモソと朝ごはんを食べていたら、リビングのサッシガラスを溶かしてしまうんじゃないってくらいに雨がひどいのだ。起きた時から本降りの雨だった。正直うっとうしい。学校までの道は、全部舗装道路なんだけど、崖道が曲者なんだ。ちょっとした雨でも、川かってくらいの水が流れる。今日の雨で、崖道はとんでもないことになっているに違いない。お婆ちゃんは昔人間だから、簡単に「長靴を履いていったら?」って言うけど、今どきの中学生は長靴なんか履かないよ。「これ、直子が履いてたやつなんだけど、あんまり履いてないから……」お婆ちゃんの言葉を聞いていたんだろう、お爺ちゃんが真っ赤な長靴を持ってきた。ウーーーーーーほんと言うと、学校休みたかった。自分で言うのもなんだけど、わたし...やくも・15『赤い長靴・1』

  • かの世界この世界:149『ここはどこだ・2』

    かの世界この世界:149『ここはどこだ・2』語り手:タングリス四号から降りて驚いた。四号は石造りの建物一軒を押しつぶしていたのだ!「しまった!不可抗力とは言え、まずいことになったな……」「……ヨトゥンヘイムの神殿……か?」ナフタリンもたよりない。「神殿なのか?」「ヨトゥンヘイムの真ん中は広場になっていて、真ん中に巨大な神殿があるんだ。ヨトゥンの巨人たちがリカちゃん人形に見えてしまうほど巨大な神殿なんだぞ、下敷きのペシャンコになっているのは番小屋ほどの大きさしかないし……」「ヨトゥンの街に似せたミニチュアのテーマパークとかではないのか?ヴァルハラには縮尺1/24のワールドパークあるぞ」「んなの聞いたこともない。周囲と同じように縮んでも、ちょっとした街のカテドラルほどの大きさだぞ」二人で不思議がっていると、四号の向...かの世界この世界:149『ここはどこだ・2』

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