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大橋むつおのブログ
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2015/01/11

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  • やくもあやかし物語2・042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』

    やくもあやかし物語2042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』四時間目の魔法史の時間が終わると全員講堂に集められた。「グ……校長が来てんぞぉ」ハイジが地声で呟いた。本人は呟いたつもりでも、ハイジの声はよく通る。とたんに集会指揮のメグ・キャリバーン教頭先生が睨む。あ、気持ちは分かる。校長はめったに顔を見せないし、いかつくってとっつきにくい。なんでも、学校を立ち上げるについて、各方面に気を使ったり抑えが聞くようにしたそうで、それは総裁にヨリコ王女を頂いていることでも分かる。でも、議会や貴族たちの抑えとしてはヨリコ王女は若すぎるし、日系でもあることから軽んじられることも無きにしも非ず。それで、直接のファイアーウォールとして長老的貴族であるカーナボン卿を校長に戴いているんだとか。ハイジが睨まれたので、その...やくもあやかし物語2・042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』

  • REオフステージ(惣堀高校演劇部) 005・大きなため息が重なった

    REオフステージ(惣堀高校演劇部)005・大きなため息が重なった※本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです目的があったわけではない。本さえ広げていれば格好がつく。図書室というのはシェルターだ。でもシェルターというのは一時避難するところで住みつくところではない。だのに千歳は放課後になると図書室に来てしまい、姉が迎えに来るまでの90分ほどを過ごすことが日課になってきている。いっそ辞めてしまおうかとも思い始めている。空堀高校を選んだのは、完全バリアフリーということと姉が惣堀高校の近所に住んでいるという2つの理由からだ。横浜からわざわざ来るほどの理由じゃない。千歳は両親から逃げたかった。逃げるために大阪の高校を選んだのだ。父も母も千歳の足が動かなくなったのは自分たちのせいだと思っている。口...REオフステージ(惣堀高校演劇部)005・大きなため息が重なった

  • 勇者乙の天路歴程 015『川を遡る』

    勇者乙の天路歴程015『川を遡る』※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者「これって、本当に神さまのための……そのぉ……旅なのかい?」「そうだ」前を歩くビクニは振り返りもしないで、木で鼻をくくったような返事。プータレる新米を面倒がりながら敵地に踏み込む少佐のようだ。「じゃあ、なんで……」次の文句をプータレる前に蘇ってしまう。さっきの栞。――おにいちゃん……しおりね……いっぱい夢があったんだよ。よるねるときは、おにいちゃんお母さんといっしょだったでしょ。お母さんのおなかのかわとおしてくっついていたんだよ……ままごとしたかった……おにんぎょさんごっこ……ぴあのっていうのもやってみたかった……おりょうりもしたかったし……かみしばいみたかったし、ひろばでかけっこしたかったし……きょうだいさんにんでひなたぼっことかもし...勇者乙の天路歴程015『川を遡る』

  • REオフステージ(惣堀高校演劇部) 004・がんばり系リア充認定の千歳

    REオフステージ(惣堀高校演劇部)004・がんばり系リア充認定の千歳※本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです惣堀高校は、見かけの割に充実したバリアフリーである。各フロアーごとに身障者用のトイレが完備、校内のドアの半分は車いすでの通行が可能で、そのいくつかには点字以外に音声案内まで付いている。エレベーターも早くから導入され、去年からは新型への更新も始まって、今では、バリアフリーのモデル校指定を受けるほどになっている。この充実ぶりには訳がある。大正の末にできた空堀高校は、第一次大戦の好景気や教育熱心な時代の空気を受け、敷地は広く校舎も間隔をあけて建ててあり、増改築が容易であった。それで全く新規に学校を建てるよりも、一ケタ少ない予算でほぼ完全なバリアフリーができるのである。慢性的に財政...REオフステージ(惣堀高校演劇部)004・がんばり系リア充認定の千歳

  • 勇者乙の天路歴程 014『三途の川・3・栞』

    勇者乙の天路歴程014『三途の川・3・栞』※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者わたしは高校二年で留年した。留年を知った父は、わたしの顔も見ずにこんなことを言った。「一郎、おまえは二人姉弟だけどなぁ、ほんとうは……」話の先は分かっているので口抗えした。「姉貴の上に兄貴が居たんだろ」姉より一つ上の兄は七カ月の早産で、生まれ落ちて30分後には息を引き取った。30分でも生きていれば戸籍に載せたうえで葬儀をやってやらなければならない。大正時代からの産婆さんは、初産の母への影響と、あまり豊かではない家の事情を察して死産ということにしてくれた。憐れに思った祖父が、祖父は浄土真宗の坊主で、知らせを聞くと墨染めの衣でやってきて、法名をつけて、ほんの身内だけの葬式の真似事をやった。――だから、一郎、しっかりしろ!――という説...勇者乙の天路歴程014『三途の川・3・栞』

  • REオフステージ(惣堀高校演劇部) 003・で、わたしは……

    REオフステージ(惣堀高校演劇部)003・で、わたしは……※本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです生徒会副会長瀬戸内美晴は、軽く姿勢を崩すと胸元で腕を組むとブレザーに隠れた胸が強調され、ルパン三世の峰不二子のような押し出しになった。「分かってると思うけど、クラブとして認定されるためには5人以上の部員が必要なの。5人に満たない場合は同好会に格下げ。同好会は正規の予算も執行されないし、部室を持つこともできない。生徒手帳にも書いてあるわよ」「あ、でもさ、5人以下のクラブって他にもあるやんかぁ。部室も持ってるし」「そうよね、だからそういうクラブ全部に申し渡してるの。演劇部が最後」「で、でもさ、すぐに出ていけ言うのんは、ちょっと横暴なんとちゃうかなあ(^_^;)」啓介は負けずと腕を組んでみ...REオフステージ(惣堀高校演劇部)003・で、わたしは……

  • REオフステージ(惣堀高校演劇部) 002・生徒会副会長瀬戸内美晴

    REオフステージ(惣堀高校演劇部)002・生徒会副会長瀬戸内美晴※本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです大阪府立惣堀高校は今年で創立110年になる。北野高校や天王寺高校ほどではないが、ナンバースクールというか伝統校というか、それなりの評判の有る学校ではある。かつては国公立大に二桁の合格者を出していたが、今は年間に数名関関同立をトップに中堅私学に合格者を出す準進学校というポジションである。校舎や設備は昭和どころか大正時代の趣を残し、旧制中学からの敷地は大阪市のど真ん中の割には広々としていて映画やテレビのロケに使われることも多い。連ドラで主人公が告白されたコクリの楓。正門から校舎にいたる緩いカーブのマッカーサーの坂。モンローの腰掛け石。太閤下水。校舎自体も吹奏楽やダンス部をテーマにし...REオフステージ(惣堀高校演劇部)002・生徒会副会長瀬戸内美晴

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・093『お婆さんが付いてきた』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記093『お婆さんが付いてきた』令和の時代から昭和の宮之森高校に通って一年。だいぶ慣れて来たけど、土日とかが、ちょっと癪。だって、昭和の学校は土曜日にも授業があるし、令和が日曜でも向こうはウィークデイで学校に行かなきゃならない。4月14日の昨日は日曜だったけど、昭和46年の宮之森は水曜だから学校に行った。家からは寿川に沿って100mの戻り橋を渡るんだ。100mだから1分ちょっと、たいてい人に合うこともなく橋を渡る。でもね、4月になって三軒隣に〇〇というお家が引っ越してきて、そこのお婆さんの朝の散歩とかち合うようになってきた。引っ越しのご挨拶は両隣だけで済まされたようで、うちには来なかった。まあ、それはいいんだけどね。ほぼ毎日出くわすもんだから、シカトもできず、コクンと目...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・093『お婆さんが付いてきた』

  • REオフステージ(惣堀高校演劇部) 001・ただ今四時間目

    REオフステージ(惣堀高校演劇部)001・ただ今四時間目※本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです世の中で一番だるいものは四時間目の授業だ。三時間目まででなけなしの集中力は弛み切っているし、空っぽの胃袋は昼食を欲して何を見ても食べ物をイメージしてしまう。小山内啓介は窓側の一番後ろに座っているので、並み居るクラスメートがコンビニの棚に整然と並ぶお握りの列に見えてきてしまう。姫ちゃんこと姫田先生が板書の左端に付けたしの注釈を書いたので、啓介の二つ前のミリーが身を乗り出した。――ああ、冷やし中華食いたいなあ…………――啓介は交換留学生のブロンドの髪もコンビニの冷やし中華の黄色い麺に見えてくる。「4時間目て、お腹空いて眠たくなって、板書のトレースだけになってしまうよねぇ」姫ちゃんがチョーク...REオフステージ(惣堀高校演劇部)001・ただ今四時間目

  • 鳴かぬなら 信長転生記 176『三合河原超説法会・1』

    鳴かぬなら信長転生記176『三合河原超説法会・1』信長きらきら星が流れている。と言っても夜空に星が流れているわけではない。モーツアルトのきらきら星だ。それも冒頭の『きらきら星よ~よぞらの星よ~♪』のところをリフレインさせている。実際、観衆たちの中には子どもといっしょに『一閃一閃亮晶晶滿天都是小星星~♪』と口ずさんでいる者もいる。聞法が待ちきれずに一杯ひっかけていた者たちはコックリコックリと舟を漕いでいるものも居て、御説法二日目を迎え、三合河原は静かに高揚している。昨日はビバルディ―の『四季』、それも春のところをリフレインしていた。どちらも頭にアルファ波が湧きまくり、聞く者を心穏やかにする名曲だ。ん?そこに、そよ風が吹いてきたかと思うと、諸葛茶孔明が例のハエタタキを戦がせながら近づいてくる。「ニイ少佐……い...鳴かぬなら信長転生記176『三合河原超説法会・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》さくら前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。だから、中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰っていながら公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ないあれこれをもてあそんでいた。残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをゆっくり読んで、一回ずつ紙に書いておしまい。もう一回やったらプラス5点くらいは取れそうなんだけどやらない。ボンヤリ紙に書いていて、引っかかったのは国語。小説の単元で習った太宰...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

  • 銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

    銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』ミク「甲府盆地はハート形なんですよ」お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。「うわぁ…………」つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。「勘十郎は血管だと言うとりました」「血管ですか?」「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」「気宇壮大な子供だったんですね」「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」「そうなんですねえ……」先生の実家を探すのはダッシュの力...銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》さくらコップに半分の水をどう表現するか?もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。わたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。だから、デフォルトのわたしは夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。でも、今度の中間テストでは逆だった「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。まあ、女子高生の自称『ナントカ派』なんてあてにならないんだろうけど。一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとガールズトークになってしまった。昨日の日本史のテストで居眠りして『蟻さんの夢』の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。「ちょっと休憩...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》

  • 092『新学年は2年3組』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記092『新学年は2年3組』関西で新学年の二日目でクラス替えをやった中学があった。三年生だけなんだけど、臨時休校にしてクラス替えをやり直したというから一大事なわけで、全国ニュースになっていた。それと同じくらいの一大事がうちの学校でもあった!なんと、新しい二年のクラス、お仲間のほとんどがいっしょの2年3組!ロコ、たみ子、真知子、佳奈子、それにメグリ(わたし)の五人はもちろんのこと、委員長の高峰君や10円男の加藤高明なんかもいっしょなんだ!そして、担任はコワモテの藤田先生じゃなくて、4組の担任だった花園先生だよ(^▽^)!「これはね……」真知子が腕組みしながら前かがみになる。つられてわたしたちも顔を寄せる放課後の食堂。「去年の4組って、ちょっと大変だったみたいなのよ……」「...092『新学年は2年3組』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第137話《さくらの中間テスト》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第137話《さくらの中間テスト》さくら朝からやってもちゅうかん(昼間)テスト……なんて親父ギャグが出てくる。フゥワ~~(´⚰︎`)あくびを噛み殺す……要は退屈なんだ。今は二限目の日本史。日本史って暗記科目。だから暗記したことをみんな書いたら、あとは退屈なだけ。終わりのベルがなるまで、あと15分……ちょっと長い。あ……気が付いたら答案用紙の端っこに招き猫の落書きをしている。〇と△を組み合わせた保育所の頃からの定番。日本史の先生は、こういうの嫌がるから消しておく。消したあと、息を吹きかけて消しゴムのカスを飛ばす。おやぁ……?気づくと机の上に蟻が歩いている……消しゴムのカスに出会って、触角で何ものなのか確かめている。「バカね、それは消しゴムのカス。食べ物じゃないわよ」教えてやると、ま...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第137話《さくらの中間テスト》

  • やくもあやかし物語2・041『ネルの手紙と手袋の穴』

    やくもあやかし物語2041『ネルの手紙と手袋の穴』昔の樺太を見せてあげられなかった……と、交換手さんは、少し申し訳なさそう。「ううん、そんなことないよ」ひとことだけ受話器に言って、こんどの樺太へのプチトラベルはおしまい。チャンチャン焼き食べたし、間宮林蔵の記念碑見たし、デラシネもいつも通り教室とかに来るようになったし。ドッヒャアアアアア!!ネルがあぐらかいたまんまベッドの上で飛び上がった。手に手紙を開いたまま、胸と耳がプルンと揺れて、ベッドがすごい悲鳴を上げた。「ヒヤ!」あやうく針で指をつくところだった!ほら、樺太に行くとき、御息所用にデラシネから手袋を借りたじゃない。こっちに帰って見ると親指の先が破れていて、それを繕っているところだった。「もお、ビックリするじゃない、どうしたのよ(>△<)!?」「ごめん...やくもあやかし物語2・041『ネルの手紙と手袋の穴』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第136話《髑髏ものがたり・8》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第136話《髑髏ものがたり・8》さつき「困ったなあ……」自薦他薦合わせて五組も阿部中尉の遺族が名乗り出たのだ。遺骨の管理権は一応トムから託されたあたしにある。そんでもって、トムに預けたアメリカ人のアレクのひい祖父ちゃんも「日本の遺族に返してほしい」という希望だった。DNA鑑定までやってるんだから、それをもとに一番血のつながりの濃い遺族に渡せばいいんだけど……ためらいがある。話が大きくなりすぎているのだ。下手をすれば、遺族の手によって見世物にされる恐れがある。現にあたし個人にもマスコミからの取材の申し込みがあった。ただバイト先の雑誌社が正面に立ってくれて、遺骨の髑髏そのものを見せることはひかえてきた。遺族によっては、髑髏を見世物にして取材費用や拝観料をとって一儲けすることも考えら...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第136話《髑髏ものがたり・8》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 175『検品長の判断』

    鳴かぬなら信長転生記175『検品長の判断』検品長「やっぱり辞めるのかぁ?」最後の帳面を閉じながら、残念そうに頭を掻く親方。「ああ、どうせなら家族そろって快気祝いをやってやりたくてな」「そうか、一家の主としてはそうだよな。まあ、最初から嫁さんの治療費を稼ぐためだって言ってたもんなあ」「すまない、帳簿も検品のやり方も信栄に教えておいたから、あいつなら間違いはない」「帳面と物の管理は品長、お前の右に出る出る奴はいないんだがなあ……」「いやぁ、無事に仕事ができたのは親方の引き立てがあったればのことだし、なによりも曹操様が信賞必罰の労務管理をされてきたからさ」「ちげえねえ、俺も去年まで追いはぎの頭目だった自分が信じられねえくらいだ」「親方は先を見る目が確かなんだよ、先の見えなかった奴らは大方消えるか晒し首になってる...鳴かぬなら信長転生記175『検品長の判断』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第135話《髑髏ものがたり・7》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第135話《髑髏ものがたり・7》さつきイケメン中尉さんが戸惑ったような顔して桜子さんのやや後ろに立った……ところで目が覚めた(^_^;)。新聞の反応は直ぐには出なかったけど、翌週、うちの雑誌が出たころから反応があった。反応は二種類。戦死者の首を切って骨格見本のようにした猟奇性と残虐性への表面的な興味。いわゆる怖いもの見たさ。それと戦争犯罪とまで主張するラディカルな反応。戦闘地域や時期がはっきりしているので、当時のオーストラリアの部隊や兵士まで明らかになった。オーストラリア政府は、当初は否定していたが、当時部隊にいた兵士が生きていて「本当だった」と証言した。この証言は証拠写真が付いていた。鍋の中で煮られる首と兵士たちの飯盒炊爨のように喜んでいる姿が生々しく写っていた。当然兵士の名...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第135話《髑髏ものがたり・7》

  • 勇者乙の天路歴程 013『三途の川・2・賽の河原』

    勇者乙の天路歴程013『三途の川・2・賽の河原』※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者森の中を三途の川に沿って進む。もはや糺の森ではない。糺の森は京都盆地の原始の森のように見えているが人の手が入っている。倒木や繁茂しすぎた下草や外来種は刈られて処分され、病んだ木々には治療も行われている。ところが、この『糺の森』は生のままの森で、獣道はおろか、地面が見えているところさえ稀だ。その稀な地面を拾い、露出した木々の根っこや岩、低い枝に飛び移りしながら進んで行く。時にはオリハルコンで道を啓開し、なんだか、ガダルカナルのジャングルをいく一木支隊のようだ。「縁起でもないことを思い浮かべるな」「そうだな、一木支隊は全滅したんだった(;'∀')」頭を切り替えて啓開と前進に専念する。と、今度は目は慣れてきたはずなのに木々も草も...勇者乙の天路歴程013『三途の川・2・賽の河原』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第134話《髑髏ものがたり・6》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第134話《髑髏ものがたり・6》さつきそうニイは、休暇の大半を髑髏の調査にあててくれた。旧陸軍第79連隊の阿部忠中尉であること、当時の住所、複顔したCG画像、DNAの鑑定結果までついていた。「できたら、オレの手でご遺族を特定して、お返しできたらと思うんだけど。もう明日は出港だ、あとはさつきに頼めるか?」「うん、ありがとう。あとはあたしの手でやるわ」あたしは、その足でバイト先の雑誌社に行った。編集長はじめご一同が喜んでくれて、中井さんという記者が担当して特集記事をくむことになった。「これは良い記事になるよ。戦時中の悪いことは、みんな日本のせいみたいに言われてきたからね、日本人もこんな目に遭ってきたという証明になる。ちょっとキャンペーンを張ろう」あたしも同感だった。従軍慰安婦や南京...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第134話《髑髏ものがたり・6》

  • 銀河太平記・214『納骨の旅・1・空港』

    銀河太平記・214『納骨の旅・1・空港』ミク扶桑科学研究所の教授で養生所の委託博士研究員である平賀照教授……つまりテルが作ったワクチンのおかげでマッパ病は収束して、ようやく月と地球の往来が復活した。ワクチンの発明者であるテルの、そしてわたしらの母星である火星との往来は、まだ認められていない。マス漢と扶桑は休戦はしているけど、火星全体での防疫体制も出来ていなくて、月や地球のように火星全体としては終息宣言がなされていないからだ。「まだ、意識の底では植民地と思ってるんだ。地球についても火星人て言うんじゃねえぞ」そう言いながらお茶のペットボトルを投げてよこすダッシュ。「あ、600㏄なんて飲み切れないよ。機内には持ち込めないしぃ」「小さいのは売り切れ、余ったら俺が飲む」「やだあ、間接キスぅ」「子どもの頃は平気だった...銀河太平記・214『納骨の旅・1・空港』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第133話《髑髏ものがたり・5》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第133話《髑髏ものがたり・5》惣一髑髏の身元判明への道は意外に早く開けた。窮したオレは艦長に直接メールを打ち、5分とおかずに艦長本人から電話があった。『ニューギニア戦線で、戦死された陸軍中尉さんなんだね?』「はい、戦死後首を切られて……」全部を説明する前に艦長は的確な指示をくれた。そして、その指示に従って防衛医科大の支倉教授を訪ねることになった。「まずお骨を拝見しましょう」支倉教授は、合掌した後骨箱から頭蓋骨を取り出した。「……これは酷いねぇ。動物の骨格標本を採る時のように煮沸されている。頭骨の形状からアジア東部。日本人だとしたら、関東から東北南部の特徴が顕著、歯の状態から二十代の男性と思われるね……右上顎の第二臼歯に治療痕。これは日本の歯科医師の治療だと思う」「分かるんです...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第133話《髑髏ものがたり・5》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・091『御神楽さんは須世理姫』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記091『御神楽さんは須世理姫』四月七日、明日は始業式、春爛漫の今日も結婚式場に向かうホンダZ。春休み中にみんなで出かけようと誓い合ったけど、一年の時とちがっていろいろある。まあ、三週間もすればゴールデンウィークだしね。残念がるよりも前向きに考えることにしてバイトに励む。ムム、今日も四組!本日の御式のとこには四組八家の苗字が並んでる。「「よし!」」直美さんといっしょに気合いを入れて職員用入り口から事務所経由でスタジオを目指す。直美さんの手には事務所でもらった『本日の御式』の詳細。「あ、やりぃ~!」パラっとめくって小さくガッツポーズの直美さん。「どうかしたんですか?」「二組目に変更があってさ……あ、マリッジブルーじゃないわよ(^_^;)。人数が変更で、一組目と同じなのよ!...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・091『御神楽さんは須世理姫』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第132話《髑髏ものがたり・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第132話《髑髏ものがたり・4》惣一自衛隊員たる者、常住坐臥、機に臨み変に応じ、いついかなる時も沈着冷静でなければならない。任官以来五省と共に心がけてきたし、これからもそうである自信もある。だが、これには驚いた。久々の上陸休暇で豪徳寺の自宅に帰ると、玄関の框で上の妹さつきが待っていて、そのまま狭いカーポートに連れていかれた。「ホンダZじゃないか、こんなレトロな車に乗ってんのか!?」「車は、どうでもいいの。ちょっと中に入って」180に近いガタイを無理やり助手席に収めると、さつきがシートの後ろから、なにやら小汚い箱を取り出した。さつきは怖い顔をして蓋を開けた。で、常住坐臥も五省も吹っ飛んでしまった。そこには、一目で人間のそれと分かる頭蓋骨が入っていた。「さつき、おまえ、これ……!?...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第132話《髑髏ものがたり・4》

  • やくもあやかし物語2・040『樺太の空を飛ぶ』

    やくもあやかし物語2040『樺太の空を飛ぶ』おいしく樺太ランチをいただいて郷土博物館の外に出る。「ちょっと高く飛ぶので息を合わせて」少彦名さんが指を立てる。「息を合わせるって?」「1、2、3、でジャンプ。そのタイミングを合わせるんだ」「は、はい」「う、うん」デラシネと返事をすると、少彦名さんは狛犬の太郎と次郎に合図を送る。太郎と次郎は首だけこっちに向けて、顔が怖くて図体が大きいものだから、ちょっとおっかない。「それ!」「「えい!」」グワーーーーーーッ!!ジャンプすると同時に太郎の方が盛大に息を噴き出して、やくもたちを屋根の高さまで上げてくれて、すこし遅れて次郎が息を噴き出して、次に太郎、次郎と交互に息を噴き出し、あっという間に、ジェット機、いや、人工衛星が飛ぶくらいの高さに上げてくれた!『すごいですね!わ...やくもあやかし物語2・040『樺太の空を飛ぶ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第131話《髑髏ものがたり・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第131話《髑髏ものがたり・3》さつきさつきぃ……さつきぃ……わたしを呼ぶ声で目が覚めた。もう夜が明けはじめ、机の招き猫の招福の文字も仄かに読めて、目玉を巡らすとカーテン越しの外もほんのりと明るい。え?その微かな光をバックライトにして帝都の制服が立っている。一瞬さくらかと思った。だが、さくらがこんなに早く起きて身支度しているわけがないという常識が頭をよぎる。「あたしよあたし、桜子よ」「桜子ぉ……ひいお祖母ちゃん!?」「大きな声出さないで、さくらが起きてしまう」「大丈夫、さくらは爆弾でも落ちてこない限り目が覚めないから。ねえ、さくら」「う~ん……」プ~~~~~さくらは寝返りを打ったかと思うと、オナラで返事した。桜子ひい祖母ちゃんがお腹と口を押さえて笑うのを我慢している。「でも、ひ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第131話《髑髏ものがたり・3》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 174『献茶にことよせて』

    鳴かぬなら信長転生記174『献茶にことよせて』織部いつに変わらぬ所作で茶をたて、それからは常には使わぬ高坏に茶碗を載せ、恭しく神前の八脚案(はっきゃくあん=神さまのテーブル)に備える利休パイセン。パイセンの一礼に合わせて、わたしも、信玄・謙信の両先輩と共に頭を下げる。長江の築堤工事を観て扶桑に戻ったわたしは信玄パイセンに報告したのだが、それが少し大げさになった。御山に登って神前で考えようということになった。山頂の草原に毛氈を敷き、献茶の様式をとっている。御祭神の天照大神は趣味がお菓子作り、畏まったことが苦手な神さまだから、この場には姿を現さない。信玄・謙信両パイセンも百も承知だ。神前で話すということで、わたしの報告と、報告を基にした分析、分析の結果に出た作戦というか行動指針に重みが付く。部室や生徒会室、ま...鳴かぬなら信長転生記174『献茶にことよせて』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第130話《髑髏ものがたり・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第130話《髑髏ものがたり・2》さつきトムの話はこうだ。アレクのひい祖父ちゃんが、ニューギニアで戦っていたとき、オーストラリアの兵隊とポーカーをやって巻き上げたのが、この髑髏。ここまで聞いたところで、あたしはニューギニアなんかで昔行われていた首狩族の戦利品。それを土産代わりにオーストラリアの兵隊が現地の人から巻き上げたか掴まされたかしたガセだと思った。ところが、話は想像を超えていた。ニューギニアのラム河谷というところで、日本軍とオーストラリア軍の大激戦が行われ、数日間の戦いで日本軍は全滅した。オーストラリア兵は、戦場の異常心理なんだろう……日本兵の死体から首を切り落とし、ドラム缶の鍋で煮詰めて髑髏の標本のようにしたらしい。戦争も末期になって、連合軍に余裕が出てくると、こういう残...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第130話《髑髏ものがたり・2》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第129話《髑髏ものがたり・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第129話《髑髏ものがたり・1》さつき恵庭さんは、ひい祖母ちゃんの桜子と二言三言内緒話。「……そうなのぉ。その望みは叶うといいわね」恵庭さんはそれだけ言って、あたしたちには何も言わないでニコニコ。「これは桜子さんとわたしの秘密。でも安心して、あなたたちに影響するようなことじゃないから。ま、なにかあったら電話。ね」ということで終わってしまった。さくらの歌のアクセスは70万で頭打ちになった。やっぱり女子高生がたまたま懐メロを唄って面白かったというトピックスのレベルを超えない。家に帰ると、二つプロダクションから電話があったとお母さん。いずれもネットで検索すると怪しげな三流事務所。「あたしが断りの電話しようか」「そんなの、とっくに断ったわよ」と、お母さん。「あら、雑誌の取材とか来てるじ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第129話《髑髏ものがたり・1》

  • 勇者乙の天路歴程 012『三途の川・1』

    勇者乙の天路歴程012『三途の川・1』※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者「三途の川だ」キリリとした声に振り返ると、戦闘服に身を包んだショートヘアの女が自動小銃を構えて立っている。「え……?」「なにを驚いている、見た目はコロコロ変わると言っただろうが」「ビクニなのか?」それには答えずに銃を構えて周囲を警戒している。ついさっきまでの静岡あやね、その清楚ではあるがどこかオドオドしたような少女ではない。『少佐』という通称が似つかわしい女偉丈夫。「三途の川と言えば分かるな?」「此岸と彼岸の境目、これを渡れば地獄だ……」「なにをゴソゴソしている」「三途の川なら渡し賃がいるだろ……」「バカか、ここを渡ってしまったら地獄だぞ」「渡るんじゃないのか?」「どこかに天路歴程行きの船着き場がある、そこから川をさかのぼる」ガチャ...勇者乙の天路歴程012『三途の川・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第128話《尾てい骨骨折・8》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第128話《尾てい骨骨折・8》さくらそれは番組が終わってすぐだった。「わたしの楽屋に寄ってらっしゃい、お姉さんもどうぞ」恵庭さんに促されて付いていこうとしたら、足がもつれた。「オットトト……!」「あなたも、どうぞ」恵庭さんが、あらぬ方向に向かって言った。恵庭さんの部屋に入るとマネージャーとお付きの人がいたけど、恵庭さんが目で合図すると、阿吽の呼吸で部屋を出て行った。「お姉さんはそちらに。さくらさんは正面。左端は空けてね。桜子さんがお座りになるから」「「ええ!?」」びっくりした。だって部屋にはあたしの他はさつきネエと恵庭さんだけだったから。「ひいお祖母様の桜子さんがいっしょにいらっしゃるの。驚かなくてもいいから。ね、そうでしょ……ハハ、そうなの。桜子さんお彼岸に帰り損ねたのね?」...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第128話《尾てい骨骨折・8》

  • 銀河太平記・213『真・姉崎すみれ物語』

    銀河太平記・213『真・姉崎すみれ物語』ダッシュ先生が跳びこんだ窪地には逃げ遅れた十数名の民間人が居た。十数名と曖昧なのは、五体満足な者は三名しか見当たらず、バラバラグチャグチャになった遺体からは直には人数が読めないからだ。二名には見覚えがあった。岡島という技術者夫妻だ。静かの海の深層採掘の見通しを立てるために国交省の依頼を受けてやってきた資源採掘の専門家だ。もう一人は技術者でも専門家でもない、学生風の女性。夫妻の方に外傷はないが、すでに生命反応は無い。女性の方は右半身にヒートパルスを浴びて重度の火傷を負っていたが、辛うじて息はある。先生はハンベを軍事用のトリアージモードにした。一般のトリアージと異なり、軍事用のそれは、軍事的社会的な有用性緊急性をも判定基準にする。そのために、単なる負傷のレベルだけではな...銀河太平記・213『真・姉崎すみれ物語』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第127話《尾てい骨骨折・7》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第127話《尾てい骨骨折・7》さくらタクシーの中ではずっと眠っていた。いくら寝ても寝たりない。先週ひい祖母ちゃんの夢を見てから、おおげさじゃなく人生がおかしい。それで、今まで歌ったこともない『ゴンドラの唄』を音楽のテストで歌い始め、それが自分とは思えないほどうまくって、校長先生の耳に入り、校長先生のお母さんが本格的な機材を使って録画してSNSに投稿。あっという間にアクセスが3万を超え、昨日は帝都テレビが昼のバラエティーの生中継に来た。寝る前にアクセス調べたら4万に迫る勢い!で、今日は、こうして帝都テレビが差し向けたタクシーにお姉ちゃんといっしょに乗っている。「さくら、着いたよ」グフわき腹に衝撃。起こしてくれとは言ったけど、ボクシングみたくカマセとは言っていない。「もぉぉぉぉぉ」...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第127話《尾てい骨骨折・7》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・090『四月一日の始まり始まり!』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記090『四月一日の始まり始まり!』四月一日というのは元日と並んでお目出度い。なんか――始まり始まり!――って感じがする。ほら、保育所とかで紙芝居とか人形劇とか観たじゃない、あの時、先生が「シィーー」とか言って、みんなを静かにさせて「それでは〇〇〇の始まり始まり~」っていう感じ。電車に乗ると真っ新な制服着た新入生がいっぱい。半分くらいは付き添いの、たいていはお母さんが付いていて、そのお母さんたちのお化粧の匂いとかもして独特のお目出度さと緊張感。外国は9月から新年度というのが多いらしいけど、4月1日、いよいよ春本番に合わせて始まる方がいいと思う。その新入生たちの流れとは商店街に入ってお別れ。4月1日の今日はバイトで、そのまま須之内写真館。写真館のウィンドウは、卒業や謝恩会...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・090『四月一日の始まり始まり!』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第126話《尾てい骨骨折・6》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第126話《尾てい骨骨折・6》さくら「ねぇ、放送局が取材の申し込みに来てるんだけど、どーするぅ?」朝礼のあと、亜紀先生が教壇を下りると、顔を寄せて聞いてきた。「え、うそ(゚Д゚)!?」デカイ返事というかリアクションになってしまった。一時間目の準備をしていたクラスのみんなが聞き耳頭巾になってしまった。ただの放送局なら、たとえテレビ東京でもフジテレビでも断った。「……わ、分かりましたぁ(-_-;)」そう応えたのは、うちの理事長が会長を務めている帝都テレビだからだ。先生の顔にも――断らないでね――と書いてあったし。「すごいよ、さくら。アクセス2万超えてるよ!」先生が機嫌よく教室を出ていったあと、恵里奈がスマホを見せにきた。「うそ、夕べは1000だったんだよ!?」「いつの夕べよ。わたし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第126話《尾てい骨骨折・6》

  • やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

    やくもあやかし物語2039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』あ、ひいお爺ちゃんだ。そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけ...やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》さくら唄い終ると松子さんは照明やらパソコンをいじって「ワンモアプリーズ(•◡-)♡」とウインクされてもう一回。そして、晩御飯を勧められた。地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かと家にはスマホで連絡。お誘いに乗った。「かえって気を遣わせてしまったみたいね」「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」お料理は気取らない多国籍料理だ。「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こう...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 173『擬態を解いて温泉に浸かる』

    鳴かぬなら信長転生記173『擬態を解いて温泉に浸かる』信長「三蔵法師さまとお弟子の方は村長さんのお屋敷をお使いください。あ、この近辺の地図も置いておきます。あとでまた寄りますからね(^▽^)!」それだけ言うと、チュウボウ(孫権)は笑顔で手を振って旅の一行に宿の割り振りを伝えに走った。一つ前の宿場から先行して、事前に一行の宿の手配をしていたんだ。いつものカメラをぶら下げ、気に入った風景やら人やらを撮りながらやっている。「孫策はいい弟を持ったッパ……」沙悟浄の姿で茶姫がこぼす。茶姫もなかなかな奴だ。愚兄の曹素に謀られて生まれ故郷の魏はおろか、手塩にかけた騎兵旅団も失い、国賊認定されて扶桑に亡命。その後、俺たちの偵察に付き合い、贋三蔵法師隊の沙悟浄に化けて行動を共にしてくれている。けして、本性の茶姫に戻ることは...鳴かぬなら信長転生記173『擬態を解いて温泉に浸かる』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》さくら寝ダメはきかなくなってきた。昨日は、スマホもパソコンも見ないで、8時頃にはベッドに入った。で、11時間以上寝たんだけど、それでも眠り足りない。さつきネエの話では、相変わらず寝言みたくゴニョゴニョ言ってるらしいけど、さすがにハッカののど飴を口に入れられることは無くなった。なんでも、看護師やってる友だちに話したら「寝てる人間の口に飴なんか入れたら誤嚥して窒息する恐れがある!」と言われたらしい。あやうく殺されるところだったんだぁ(^_^;)その友だちは、こう続けた。「尾てい骨の痛みが続くようなら、お医者さんに診てもらったほうがいいよ」お医者さんはぜったいイヤ!授業中の居眠りも常態化しつつあり、数学の先生も何も言わなくなった。尾てい骨は相変わらず痛か...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第124話《尾てい骨骨折・4》

  • 勇者乙の天路歴程 011『視界が開けると糺の森に似て』

    勇者乙の天路歴程011『視界が開けると糺の森に似て』森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。駅からこっち、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。それが……目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。「糺の森に似ています」ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を...勇者乙の天路歴程011『視界が開けると糺の森に似て』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》さくら目が覚めると、世界はハッカの香りに満ち満ちていた。目が覚めきるにつれ、香りの元が自分の口だと分かって驚いた。さつきネエがニヤニヤしている。「ちょっと、あたしに何かしたぁ?」「え、覚えてないの?」「なんのことよぉ?」「さくら、寝言でのど飴くれって言ってたんだよ」「え(˙ㅿ˙)?」さつきネエの話では、あたしは寝ながら口をパクパクやっていたらしい。で、最後にのど飴と言ったらしい……。「あら、声もどったのね」今度はお母さんに言われた。「え、そんなだったのあたし?」「覚えてないの?」「え、ああ、ううん……」いいかげんな返事をした。実のところ、昨日の秋分の日の記憶が飛んでいた。若年性健忘症……にしては、それ以前の記憶はしっかりしている。尾てい骨が痛いこと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第123話《尾てい骨骨折・3》

  • 銀河太平記・212『先生のドッグタグ』

    銀河太平記・212『先生のドッグタグ』ダッシュシュビィーン!ズズーン!ドゴゴーン!ダダダダ!ビビビビ!パルス弾、実体弾、レーザー、ミサイル、ドローン、新旧様々な弾やエネルーギー波が飛び交う中で、壮絶な戦闘が繰り広げられている。静かの海は、月面の中では最も広く平坦な地面が広がっているところだ。それが静かに凪いだ海を思わせるところから古くから静かの海と呼ばれてきた。月は火星に先立つこと80年、21世紀の後半から開拓が進められてきた。南極条約に準じて、ベース以外では領土を設定しないことになっていたが、豊富な地下資源を目の前にして、紳士協定でしかない月面開発協約は空文化していた。各国は基地の概念を、それぞれのベースが置かれているクレーター全域に拡大し、月面の半分は事実上分割されていた。アメリカや漢明は50以上のク...銀河太平記・212『先生のドッグタグ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》さくら昨日の学校はさんざんだった。教室の席に座る時は、家での体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情に出る。「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」数学の先生は、三度目に目が合ったときに言った。「いえ、そんなことはありません」「……だったらいいんだけどな」で、授業の後半、ムズイ公式の説明になって、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。「……(>▲☆)!!」声にこそ出なかったけ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第122話《尾てい骨骨折・2》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』「あら、本職だと思ってた?」鏡に映った御神楽さんが巫女服の襟を直しながら意外の声。結婚式場の仕事に来ると、たいてい同じ神主さん、同じ巫女さんなので、巫女の御神楽さんも本職だと思っていた。ボスの直美さんは仕事にきっちりした人で、開式の一時間前には式場の公民館に来て待機する。むろん、助手のわたしも写真館での機材の積み込みをやって、ホンダZでいっしょに来る。式場に隣接するスタジオで機材や照明のチェックが終わったら控室で待機。控室は他のスタッフとも共用で、御神楽さんとは一緒になることが多い。「だって、名札……」スタッフは館長以下全員が胸に小さな名札を付けている、わたしも直美さんも『須之内写真館』と名前の入った名札を付けている。名札を付け...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・089『御神楽采女はあくびをかみ殺した』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》さくら今日は年に数回しかない不快な日だ。小学校の頃から思ってんだけど、なんで日曜と祭日の間の日って休みにならないのかなあ。仕事も勉強も三連休にして、明けてから集中した方が絶対効率がいい。先週は敬老の日のハッピーマンデーの三連休だったことと、もう一つの事情で、余計そう感じる。ここんとこ、由美(学級員の米井由美)と佐伯君のことで気が張っていたせいかもしれない。昨日は起きたら三時だった、午後の三時『わたしの日曜はどこへ行ったんだ!?』って感じ。それもすっきりした目覚めではなかった。なんだか頭がボーっとして、まだまだ寝たりない。シャワーでも浴びてすっきりしようと階段を降りたら、下から二段目で踏み外した。ウ……(>▲☆)しばらく声が出ないで、数秒たってから「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第121話《尾てい骨骨折・1》

  • やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

    やくもあやかし物語2038『廃墟と少彦名』あ……御息所が戸惑いの声をあげて視界が開けた。いつもだったら『ええっ!?』とか『ギョエー!?』とか品のない声を上げる御息所なんだけど『あ……』と上品な声。そう、今の御息所は交換手さんのスピーカーというかインタフェイスを兼ねているからね。今の上品な『あ……』は交換手さんの声なんだ。わたしもデラシネも「え?」と思ったよ。1941って番号を回したから、とうぜん1941年に飛んだんだと思ったよ。着いたところは、なんか、大きな工場の廃墟だ。昔は五階建てぐらいだったんだろうけど、所どころ床が抜けていて、最上階の屋根まで見通せる。壁もいたるところ抜けたり欠けたり、床はボロボロのコンクリートで、機械が据え付けてあったんだろう、土台が剥き出し。瓦礫やら草やらコケやらカビみたいなのも...やくもあやかし物語2・038『廃墟と少彦名』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》釈迦堂一葉(由紀子)「牛乳きれてるよぉ」亭主が平板な声で言った。若いころは落ち着いたバリトンに惚れたものだけど、今はただの鈍いオヤジにしか見えない。「さつきじゃないのぉ?スコットランド人を助けたとかなんとか言いながら冷蔵庫開けてたから」今日は日曜だ……けれど、亭主は図書館勤務なので仕事がある。今からコンビニに買いに行っては出勤に間に合わない……こともないんだけど面倒だ。「……インスタントコーヒーにしとくか」「ペットボトルのがあったわよぉ……」「……ないぞぉ」「ええ、ペットボトルのも空なの?」「さくらだなぁ、昨夜は遅くまで本読んでたみたいだからなあ」あいかわらず平板な声でそう言うと自分でスクランブルエッグを作り始めた。やや脂肪肝なので油を控えてレ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第120話《牛乳が切れてまねき猫》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 172『赤壁の織部と武蔵』

    鳴かぬなら信長転生記172『赤壁の織部と武蔵』織部「外していいか?」労務者用の出店から買ってきた弁当を見せると、前を向いたまま武蔵が訊ねる。この赤壁の築堤工事は規模が大きく珍しくもあるので、旅行者や近在の者たちが少なからず見物に来ていて、我々も大っぴらに偵察することができる。「ああ、いいよ。ほら、弁当食べて一息入れたら帰るとしよう」「よいしょっと……」カラコンを外すのに「よいしょ」は大げさなんだが、武蔵には随分なストレスなんだ。学院に転生してきた者はいずれもすこぶる付の美少女なんだが、武蔵は、ちょっと例外。双眼が鋭すぎる。三白眼だし。それで、三国志の偵察に当って、人前に出る時はカラコンをさせている。カラコンをした顔は鏡にでも映さなければ自分では見えないのだが、最初に着けた時の衝撃が大きく、今では装着しただ...鳴かぬなら信長転生記172『赤壁の織部と武蔵』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》さつきかまってられるか!正直な気持ちだった。けれど、トムと最後に会ったのはあたしだ。佐倉さつきの聖地である山下公園で、焼き芋食べながら一発かましたクサイやつ!なんだけど、その何倍もトムの性格の弱さをえぐってしまった。高坂先生も直々に電話されてきたことだし捨て置くこともできず、あたしは当たりをつけた。イギリス大使館の前……ビンゴだった!イギリス大使館は皇居の半蔵門から千鳥が淵公園沿いの一番町。名前からして高級な広大な敷地に建っている。高い建物は無く煙突のついた建物やテニスコートが並んで、アメリカ大使館や二番町のイスラエル大使館などのように厳しい警備や重苦しい雰囲気は無い。その閑静な大使館前にグデングデンになったトムが居た。「あ、あなた知合いですか。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第119話《かまってられるか!》

  • 勇者乙の天路歴程 010『草原(くさっぱら)を行く』

    勇者乙の天路歴程010『草原(くさっぱら)を行く』「ビクニが来てくれて正解だったよ」「でしょ」これだけで通じた。歩けども歩けども草原。これが北海道あたりの草原なら趣もあるんだろうが、ただの草原。ちなみにルビを振るとしたら「くさはら」で、けして「そうげん」ではない。「ですよね、安達ケ原とか曽我兄弟が仇討ちをやった富士の草原(くさっぱら)のイメージですね」八百比丘尼だけあって、例えが古い。「新しいことも言えますよぉ」「ほう、どんな?」「安出来のオープンワールドゲーム。アンリアルエンジンとか使って高精細なんだけど、どこまで行っても同じ原っぱ」「あはは、あるねえ、某無双ゲームとか」「おまけに、ここは見通しがきかないから、うっかりしていると同じところに戻って来てしまいます。砂漠や吹雪の中を歩いていると、人が通った跡...勇者乙の天路歴程010『草原(くさっぱら)を行く』

  • 銀河太平記・211『姉崎先生の死』

    銀河太平記・211『姉崎先生の死』ミク「先生」「姉崎先生」額づいた姉崎先生に声をかける。ちょっと緊張する。在学中、こちらから声をかけるのは呼び出されて叱られる時ばかりだったので、こういうシチエ―ションでは条件反射で緊張が先に立つ。八年ぶりの後姿はピクリと動いたかと思うと、振り向くことなく、そのまま横倒しになった。ドサ「「先生!」」仰向けになった髭面には生気がない!直感で、命の火が消えかかっているのが分かる。すぐに呼吸と脈拍を調べる。「どうだ?」「バイタルが弱い、めちゃくちゃ弱い!」「救急要請するぞ!」ダッシュがハンベに呼びかけようとすると、先生の髭がピクリと動いた。「懐かしいなあ二人ともぉ……」「喋っちゃいけません、いま、救急車を呼びますから。取りあえず、酸素吸ってください」バッグから非番の時でも持ってい...銀河太平記・211『姉崎先生の死』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》さつき「ええ、まだ結果出てないの!?」二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまって、さくらが嫌味な視線が刺さる。「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」「え、なに?」返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。でもトムは違う。日...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記088『ロッカー整理』「ねえ、これ、似てると思いませんか!?」終業式も終わってロッカーの整理をしていると、ロコが映画のパンフみたいなのを開いて近づいてきた。「あ、見たことある!」「お、さすがグッチですねえ!本放送は7月からだから、まだ知らない人が多いんですよぉ!」「え、そうなの(^_^;)?」昭和の学校に通って一年あまり。こういうことには気を付けている。通い慣れてしまうと、昭和も令和もそんなに違いは無い。両方とも同じ宮之森の街だし、同じ高校生だし。でも、実際には50年以上の時間の開きがあるので、うかつに「ねえ、あれだけど」「これなんだけど」という話は禁物。令和では普通だったり当たり前なことでも、昭和ではまだ出現していなかったり一般的じゃないことがけっこうある。たとえば...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》さつきキイイイイイイ!!渾身の力でブレーキを踏む!…………もうちょっとで轢き殺すところだった(;゚Д゚)。数秒ハンドルに伏せた顔を上げられなかった。そして顔を上げたら、轢かれかけた本人がスタスタ歩いていく後ろ姿が目に入ったではないか!同じゼミのトム。「何か言ったらどうなのよ!飛び出してきたのあんたなんだから!!」思いのほか大きな声になった。トムは初めて気が付いたようにポカンと振り返った。「……どうしたの、さつき?」こいつ、まだ分かっていない。「急に車の前に飛び出してきて、挨拶もないわけ!?」「え、ボクが?」「あんたのボンヤリが原因でも、轢いたら車の過失になるんだからね!」「ボクが飛び出した?さつきの車の前に……?」「そうよ、あたし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

  • 勇者乙の天路歴程 009『八百比丘尼』

    勇者乙の天路歴程009『八百比丘尼』先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。「どうしたんだ、静岡ぁ?」「あ、いえ……」左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」「え?」「ゼーゼー……八百比丘尼です」やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。「え……だって」「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」「え、そうなの?」「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちて...勇者乙の天路歴程009『八百比丘尼』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》さくら控室は12畳ほどの和室だった。正面の幅広の床の間みたいなところで、佐伯君は首までお布団掛けられれて、胸のあたりが盛り上がっている。胸のところで手を組ませてあるんだろうね。マクサが無言のままお焼香。手を合わせお香を一つまみくべて、もう一度手を合わす。みんなもそれに倣った。最後にわたしがお焼香し終えたとき、由美は初めて口を開いた。「もう、月の初めにはダメだって言われてたの。でも七不思議の話をしたら『オレもいっしょにやる』って言って痛み止めの注射だけしてもらって帝都に通ってくれた。聖火ドロボーの話、一番気に入っていたわ。最後は、これを超えるやつがトドメにあればな……って」由美が語る佐伯君の言葉は由美の口を借りた間接的なものだけど、声の響きは兄貴と...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

  • やくもあやかし物語2・038『番号を回したら樺太だった』

    やくもあやかし物語2038『番号を回したら樺太だった』『この番号を回してください……』交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。ジーコジーコ……「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」「え、どうしてぇ?」魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」『だからして、わらわが付いておるのじゃ』「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」もう一度、いちからかけ直し。「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」47230のぉ……14226っと……ツーカシャカシャツーカシャカシャツーカシャカシャカシャ……メ...やくもあやかし物語2・038『番号を回したら樺太だった』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》さくら「起立」の声がかかって――アレ?――っと思った。いつものところからじゃなく、廊下側の後ろからだったし、声が違う。続く「礼、着席」の声で気づいた。いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 171『赤壁・3』

    鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』書籍範「婆さん、馬を下りろ、このお方は貴人だ!」栞ちゃんと変換する余裕もなく、悲鳴のように叫んでしまう。「ま、まことに失礼いたしました!」ここ何年もやったことが無い土下座の礼で詫びる。魏王様とか曹操様と呼ぶべきなのかもしれないが、様子を見ると現場監督か主任技師かと見まごうような軽い身なりでいらっしゃる。下手に御身分の分かる呼び方をしては障りがあるかもしれない!「いやいや、畏まらないでください。お察しの通りなんだが、いまはただ工事の進捗を見に来ただけです。仰々しい供の者も付けてはおりません。旅の途中で出会った工事関係者と思って下されればよろしいですから(^_^)」「ははぁ!」「どうぞお手を上げてください。そのように礼をされますと、我々も蹲踞の礼をとらなくてはならなくなり...鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》さくら古い学校には伝説や言い伝えが付き物だ。佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。――さあ、六つ目よ!――下校時間も迫った5時過ぎ、米井さんのメールで、わたしたちは学校の玄関に集まった。「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」ええぇ?わたしたちは玄関を見渡した。玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に卒業生の彫刻家さんが寄付したというという制服少女の胸像と全身像、むかし制服改定の話が上がった時に寄贈されたら...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

  • 銀河太平記・210『』

    銀河太平記・210『共同墓地』ミクちょっと息をのんだ。開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られてい...銀河太平記・210『』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》さくら帝都の学食の「たぬき蕎麦」はちょっと違う。ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。120円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」「それがたぬき蕎麦なんですか?」「せや!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

  • 勇者乙の天路歴程 008『始まりの駅から』

    勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』高校生の頃から五十余年乗り慣れたK電鉄、隣県に入るまでは複々線のはず。それが、列車が発車した後の鉄路は、いまどき我が県ではよほどの郡部にでも行かなければお目にかかれない単線だ。それに、駅舎が無い。ポツンと単式地上ホームがあるばかりで、ホームの前後には鉄路が伸びているが、左右は幼稚園の園庭ほどの地面が見えて、その先は草原のようなのだが、茫漠として灰色の闇に溶けている。景色が闇に溶けてさえいなければ、Nゲージのスターターセットを買って、取りあえず組み上げたという感じに近い。ホームには年季の入った行先案内板。そこには横長のT字の上に『始まりの駅』とあるのみで前後の駅名は書かれていない。そう言えば、ネットの都市伝説にあった『きさらぎ駅』というのがこんな感じだろうか。これが夢...勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記087『春の大浜海岸』桜が見ごろになったら江ノ島か鎌倉に行ってみようということになった。その桜は令和でもまだ蕾は堅い。地球温暖化とか言われるけど、おおよそ昭和と変わらない。二月は初夏か!?と思うくらいの日があったけど、三月はけっこう寒くて、先日女バレの部室に寄って令和に戻った時なんか戻り橋を渡り終えたところでブルっと震えてしまった。いつだったか、お祖母ちゃんと話したことがある。「二酸化炭素の95%」「ええ、そんなに出してんの!?」出してるとは、人類がバカみたいに出してる二酸化炭素が全体の95%かと思った。「逆よ、95%が自然界から出てるのよ。生物の吐く息とか腐敗とか、火山の爆発とか、人類が出してるのは5%、せいぜい6%」「うっそー!」「その5%のうち、日本が出してるの...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》さくら誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した!まるで透明人間が水を飲んでいるように(;'∀')!「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・品性』の指導の賜物。「人の話には、まず明るく素早く返事をし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

  • やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

    やくもあやかし物語2035『交換手さんの提案』デラシネは言葉にしようと、二回息を吸って吐き出した。ハーーー思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、二度目は両手に顔を伏せてしまった。お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。だいいち、お母さんと血のつながりは無...やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第111話《四ノ宮青年の正体》さくらヘルメットを脱いだ顔に驚いた!それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。それに、耳がすこし大きい。思わず見つめてしまった。「ああ、自分ハーフエルフだから」ええ(゚Д゚)!?「妹はフリー〇ンていって、魔王をやっつけたあと、魔導書を集めながら仲間と北の国を目指してる」は、はあ……「四之宮クン、こないだはヴァルカン人とか言ってなかったぁ」測量技師のおじさんがジト目で言う。「アハハ、近ごろはスタートレック知らない子もいるからぁ」「な、なんだ(^_^;)」「信じたぁ(^・^;)」「びっくりしたぁ(^○^;)」「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」あっさり言った……え、エルフのお屋敷!?「……あの、聞いてる?」「あ、はい。もちろ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 勇者乙の天路歴程 007『始まりの駅』

    勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』駅まで全力疾走!発車まで2分を切っている。ここからなら歩いて8分、走って4分。もっとも還暦を過ぎてからは10メートル以上走ったことが無い。10メートルというのは、自宅最寄りの駅横の踏切。駅向こうの床屋に行こうとして上がったばかりの遮断機を潜ると、とたんに警報機が鳴りだした。戻るのも業腹で、それで走ったのが数年前だったか。今は踏切横のエレベーターで上り下りして、踏切そのものを忌避している。若いころでも3分は切れなかっただろう。それを2分は絶対無理なんだが、どうも体は身体能力のピークであった高校時代のそれを超えている。ゲームの一人称視点のように、見える自分は手足と、せいぜい胸元まで。腎臓結石の手術の後リハビリを怠ったので、左腹側部の筋肉が戻らなくて、そう太っているわけでもな...勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 170『赤壁・2』

    鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』書籍範赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」ドドドドガガガガガカーンカーンブルルルルー歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。かみさんは...鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》さくらビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。「「「「「ふっしぎー!!」」」」」みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。なんか遊園地のトリックハウスのようだ。「これは、トリックハウスの原理よ!」理系の成績トップの松坂莉乃が指を立てる。「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」「あたし試してみるで」バレ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 銀河太平記・209『恩師の消息・2』

    銀河太平記・209『恩師の消息・2』ミク「先生、空港のメディカルゲートで引っかかって……」「検査の途中で抜け出してしまったんです。あ、こんなナリですが、公務ではないんです。任務中にミクに呼び出されて、軍服のまま飛び出してきたもんですから」「じつは……」空港からここまでの話をすると、オヤジさんは「そうですか」と腕組みしたまま立ち上がった。「この界隈は訳ありのもんが多くて……」そう言うと、オヤジさんは棚から博物館にでもありそうなごっつい台帳を取り出した。バサリ開くと、風が起こってお茶の湯気をたなびかせ、紙の匂いが立ち上がる。なんだか、伝説の昭和を舞台にした古典映画の中に潜り込んだみたいだ。「いっぱい書き込みがしてありますね……」「アフターサービスというか……お世話させていただいたお客さんとは、その後も付き合っ...銀河太平記・209『恩師の消息・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》さくらシリコン騒ぎで『ゴジラ』は観損ねてしまった。「またこんど連れてってやるから」そう言って、玄関で靴履くときは自衛官の顔に戻っていた。「なんかもう『対空戦闘ヨーイ!』って顔だよ」「それはいかんなあ」自分の頬っぺたをスイッチみたいに捻って、いつもの倍ほど緩い顔になって出て行った。「ま、辛抱しなよ。機密漏えいを未然に防いだんだからさ。ゴジラならブルーレイ出たら買ってきてやるから」「あたしは、映画館で観たいの!」「高校生は、そこまで贅沢言うもんじゃないの」「へいへい」「エイ!」さつき姉も一発気合いを入れると、ホンダZに乗って大学だかバイトだかに行ってしまった。で、いささかプリプリしながら学校へ。時間が無いので、いつもの裏路地を通って駅にいく。もう...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

  • やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

    やくもあやかし物語2035『デラシネに向き合う・2』「なあ、これってハイジのおかげなんだろ!?」ポコン!「イッテエなあもう」「今度言ったら、殺す」「わ、分かってるけどよぉ」これでもう五回目くらい。学校の庭で詩(ことは)さんが歩く練習をしている。介添えは王女さま、時どきソフィー先生。二人とも日本にいたころからのお友だち。先週、ハイジと男子が木登りしてて、調子に乗ったハイジがお猿みたいに落っこちた。その瞬間を、この窓から見ていた詩さんは、ビックリした拍子に自分の脚で立ち上がったんだ。その時、庭の端っこで見ていたデラシネが疾風みたいに飛んできてハイジを受け止めた。でも、デラシネはわたし以外には見えないから、みんな、ハイジは魔法かなんかで助かったと思っている。それと、詩さんが自分の脚で立ち上がったことと合わせて、...やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》惣一大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。「え、シリコンから取り出してないの?」「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」しかし、この貼り直しが難しい(;'△')。どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。うわ!?悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。「ねえ、ソーニー、ゴジラ観に行こうよぉ。アカデミー賞取ったんだから...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記086『女バレの部室』月に一度バイトのギャラをもらいに行く。いつもは学校の帰りに寄っていくんだけど、春休みだし、この三日間は入試業務で生徒の立ち入りは制限されてるんで、わざわざ行く。それでもいちおう制服。正門の前まで行って入れるんなら中庭とかで日向ぼっこしてもいいかなあと思ってる。直美さんは雑誌の仕事で居なくて、マスターにいただく。マスターとはあまり会話にならないのでお礼言って、受け取りにハンコ捺いて学校に向かう。よしよし。正門に入る前から部活の生徒が見えたんで安心して入る。校舎の入り口には『教職員以外立ち入り禁止』の張り紙がしてある。こういう張り紙は令和ではパソコンで打ち出した機械の文字だけど、昭和では手書きだよ。禁止の止の字なんか、最後の横棒にグッと力が入っていて...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》惣一船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジ館をメインにうろうろする。オレの乗っている艦は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の艦の倍はくたびれる。今日の潮抜きは長くなるかもしれない。ラジ館は、天下に名の知れたオタクのメッカだ。昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。今年の上半期でかなりの新製品が出たので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

  • 勇者乙の天路歴程 006『出発』

    勇者乙の天路歴程006『出発』「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」「わ!?」たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」「あ……」胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。「では、インストール!」「あ、ああ……」ブルンブルブルブル!公園が回る、いや、わたしが回っている!「目をつぶって!酔っちゃうから!」「は、はひぃ!」子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー!目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。「はい、もう...勇者乙の天路歴程006『出発』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 169『赤壁・1』

    鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』書籍範大橋(だいきょう)さんには感謝するばかりだ。本来なら『大橋さん』などと気安く呼べるお方ではない。豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)のオーナーで、自由都市豊盃で一目も二目も置かれる商人であるばかりでなく文化的リーダー。パサージュという新しい業態で、豊盃楼(豊盃ビル)を生き返らせ豊盃一お洒落な商業施設にしてくださった。お蔭で、閉店寸前だったわたしの店もパサージュの中央路に移って望外の繁盛。繁盛しすぎて老夫婦では回し切れなくなり、もう若い人に譲ろうかと思った時。わたしを店主にしたまま自分の店になさって、なんと家賃まで払ってくださる。「全部譲られてはお寂しいでしょ」と、店の一画を新聞と雑誌のコーナーにしてくださった。それに、大橋さんは呉の孫策公の妃である。元々は喬公の姫で喬...鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》さつきあたし学生なんですけどぉ。思わず口ごたえしてしまった。原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増え...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》さくら「……戸籍謄本を見てしまったの」数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。「じゃ、先生が話すけど、いい?」米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」ここまでは当たり前に理解できた。Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。「念のため、...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

  • 勇者乙の天路歴程 005『静岡あやね』

    勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』先生!中村先生!驚いて首をひねると、公園の生垣の向こう、こちらに走って来る女生徒。「ああ、よかった、間に、間に合ったぁ!」公園に入って来ると膝に両手をついてゼーゼー肩を上下させる。ええと……あ、そうだ二年三組の静岡あやねだ。「あはは、たいへんな勢いだねぇ」「ちょっと失礼します」わたしの前を横切ったかと思うと水飲み場の水道に向かう。片手で髪を庇ってグビグビ……教室では目立たない大人しい子だったけど、こうやって喉をあらわにして水を飲む姿は相応に健康的で色っぽい。「あ、すみません、お待たせしました」ハンカチで口を拭うと、こちらを向いて姿勢を正した。「屋上でボンヤリしてたら先生が見えて、ご挨拶しとかなきゃって」「ああ、そうか、それはそれは」こういう時は、きちんと正対してやらなけ...勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』

  • 銀河太平記・208『恩師の消息・1』

    銀河太平記・208『恩師の消息・1』ミクゴールデン街は月面開発の初期にできたバラック街がもとになっているので、スリッパのあるメインストリート(と言っても道幅は車がやっと通れる程度)以外は狭いし込み入っているし、月に来て四年にしかならないわたしにはメインストリート以外はラビリンス同然。一緒に歩いている三等軍曹のダッシュも似たり寄ったり。まあ、それでも示してもらったあたりは記憶にあるので、なんとか……と思ったけど、甘かった(^_^;)「ええ、ハンベじゃこの先も道のはずだぞ」「マップなんて役に立たないわよ、かえって混乱するから見ない方がいいわよ」と言いながら、わたしも戸惑っている。周温雷のオッサンを案内してから間は無いんだけど、もう様子が変わっている。かつて路地だったところに大人のおもちゃの店ができてるし、荷物...銀河太平記・208『恩師の消息・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》さくら「わたしじゃないわよ!」チェ-ンメールをよこしてきたA子に学校で聞いた、むろん米井さんには分からないように。で、A子から、チェーンメールを送ってきた子を聞いて、その子にあたる。そんなことを五回繰り返して、元々の発信者E子にたどり着いた。村野美穂という一年のときの同級生だ。三つ隣のクラスにいる美穂に問い詰めたとき、美穂は不思議そうな顔で言った。「なに言ってんの。最初によこしたのさくらじゃんよ」絶句した。「え……?」「だって、ほらぁ」「そんな馬鹿な……」村野美穂が見せてくれた着信履歴は、確かにあたしのアドレスだった。あたしは軽いパニックになった。「そんな……あたし、こんなの送ってないし。それに自分が写りこんでる写メは、だれか他の人間が撮ったってこ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

  • やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

    やくもあやかし物語2034『デラシネに向き合う・1』詩(ことは)さんは大事を取って王立病院に検査入院したよ。ハイジ!?ハイジが木から落ちてみんなが悲鳴を上げて、わたしの部屋に来ていた詩さんは、王女さまといっしょに窓の外を見た。その時、詩さんは窓辺に手を突いてだったけど、自分の脚で立ったんだ。それは『アルプスの少女ハイジ』でクララが立ち上がった時みたいに衝撃的だった。すぐに、木から落ちた猿、いや、ハイジと一緒に王室医師のフレデリック先生が診て下さったんだけど「奇跡です!」と喜んでいたんだけど、念のための検査。「ハイジも検査かぁ(^▽^)/」喜んで手を挙げたハイジは頭をコツンとやられておしまい。――ありがとう、デラシネ――心の中でお礼を言うと、デラシネは顔を真っ赤にして行ってしまった。よかった、通じてはいるん...やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》さつき「さすがに蒙古斑は無くなったみたいだな」カチャリお父さんは握ったままのドアノブを戻して出ていった。娘とはいえ、スッポンポンの姿を見てしまったバツの悪さを上手くかわしていった。あたしは穿き替えのパンツつかんで、脱衣場に向かった。「ねえ、佐伯君のこと知ってんの?ねえ?」後ろから、さくらが付いてきてしきりに聞く。だけど、パンツ穿いてパジャマ着ながら思った。佐伯君のことは、さくら自身が米井由美とかいう子から直接聞くべきだ。第一に、あたしにはボランティアとは言いながら守秘義務がある。それにあたしから聞いたということになると佐伯君も米井さんも傷つくだろう。むろん、さくら自身も。さくら自身はけして人間関係の下手な子じゃない。でも得手不得手な相手がいるようで...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記085『百歳の記念写真』今日は入試で学校は休み。思えば一年前、令和の宮之森を受けて、いろいろあって、昭和の宮之森に越境入学。いろいろあって越境したからいろいろ想いはあるんだけど。それは置いておいて、今日は須之内写真館のアルバイト。「記念写真て、普通は写真館のスタジオで撮りません?」ホンダZのハッチバックに機材を積みながら直美さんに聞く。てっきり、いつもの結婚式場かと思ったら、微妙に機材が違うので聞いたのよ。個人の記念写真、七五三とか成人式とか、なにかのお祝いで記念写真を撮るときは、たいていお客さんは写真館に来て、スタジオで撮る。「うん、百歳のお婆ちゃんだからね」「ああ……」「しっかりしてらっしゃるんだけど、お歳だから、ご家族も心配されてね」「ああ、なるほど(^_^;)...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》さくら「あのね、お姉ちゃん」マクサにも言わなかったけど、そのまま胸にしまい込めるほど佐倉さくらは人格者ではない。お風呂に入ろうとしてるお姉ちゃんに言った。「他に見てたやつがいるに決まってんじゃない。さくらが写ってる写真があるんだから、クールダウンしたら米井さんも分かるって」「だって」「こういうのは、騒がないことが一番なのよ」「でもねぇ……」「あたし、今日はボランティアで汗みずくなの。とりあえずお風呂に入らせて!」お姉ちゃんは、そそくさとお風呂に行った。なにか見落としが無いか、ヒントが無いか……メールやSNSの履歴を指で繰る。100回ほどスクロールして指が攣りかけたころ、スマホが鳴ってお手玉してしまう。ウワワワ(;'∀')……ええ!?なんと、米井さんと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《え ちょっとなに?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》さくら「え、ちょっとなに?」いきなり米井由美に手をひっぱられて廊下に連れ出され、そう言うのが精いっぱいだった。「さくらは、がさつで女らしくない!」と常々言われる。流行りの若者言葉は嫌いだ。「暑!」「眠!」「寒!」「やば!」などの『いぬき言葉』なんかは使わない。あ、世間で言う『いぬき言葉』は違う。世間で言うのは「お世話になっています」を「お世話になってます」という感じに言葉の途中の「い」を省略する『いぬき言葉』。カジュアル過ぎて、接客とか目上の人相手には失礼なので使ってはいけないんだそうだ。あたしがダメだと思うのは、言葉の最後に付ける「い」。文法用語では終助詞とかいうらしい。あたしが気になる「いぬき言葉は」単に終助詞の省略じゃない。「暑!」「眠!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》

  • 勇者乙の天路歴程 004『高御産巣日神』

    勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』わらわは……身は……我は……余は……ううん、久々ゆえ、己が身の謂いようにも困るのう……口をきいたかと思うと、古代衣装は一人称を決めかねてブツブツ言うのみ。「しばし待ちや、これよりは令和の言の葉に変換いたすゆえ……」ブゥーンマブチモーターが回るような音がしたかと思うと、古代衣装の瞳がスロットマシーンのように回り出し、五秒ほどで一回り大きな瞳になって停まる。同時に表情もNHKの女子アナのように柔らかくなる。「おまたせいたしました。わたしは、この地に長らく住んでおります、タカムスビノカミと申します」「タカムスビノカミ……」記憶にはあるのだが……かなり古い神さまということしか浮かんでこない。「中村さんは社会の先生なので、お分かりになると思うのですがぁ……」「え、わたしのことご...勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤ モスラ》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》さくら夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。毎年のことだけど。でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。一つがピーナッツを発見したこと。YouTubeを見ていたら偶然「発見」した。アカぬけきっていあない少女たちが、ピーナッツの「情熱の花」と「ふりむかないで」歌って踊っている。少女たちのユニットをピンクピーナッツっていうんだけど、彼女たちを通して元祖ピーナッツに目覚めた。ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。根拠はないよ。何年か前にナントカってデュオがピーナッツをリカバーライブ、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから」という言い訳のため。落語で似たようなのが...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 168『饒舌な孔明』

    鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』信長――かまわぬ、講堂にお通ししなさい――頭の緊箍児(きんこじ)がささやいた。緊箍児は一言主(ひとことぬし)で、木偶の三蔵法師を操っている。その一言主が言うのだから、言うことに間違いはない。俺が孔明を出迎えて対応しているうちに講堂に向かったんだ。「いやあ、さすがは自由都市豊盃。噂には聞いておりましたが、豊盃寺、なかなかの名刹ですなあ」羽団扇を戦がせながら社交辞令を言う孔明。「良き寺というのは、秩序を具現させております。塔は釈迦牟尼の墓を現し、金堂は、僧や衆生が拠り所とする本尊仏と脇侍を祀ります。人は目に見える形を通して物事を理解します。それゆえ3Dのフィギュアに過ぎぬ仏像に拝跪するのですが、その精神性は塔によって担保されます。それを回廊をもって取り巻き聖域となし、そ...鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》さくら女子バレーボールワールドグランプリで、日本代表は強豪ロシアを撃破した。そして、夕べはブラジルを破って波に乗っているトルコをも3セットで落とした!バレーなんて体育の授業でしかやったことないけど、同じ日本の女性として胸が熱くなった。恵里奈は、文字通り帝都女学院バレー部のセッターなので――見た!!見た!?勝った!!――と、顔文字も付けず興奮丸出しのメールを送ってきた。――やったね!日本の女は大したもんだ(≧∇≦*)/!――と返しておいた。それから気分よくお風呂に入って、頭にタオル巻き付けて洗面でガシガシ歯を磨く。鏡の前には当然若いということだけが取り柄の、たいして美人でも可愛くもない自分の顔が映っている。オデコのニキビも芯が抜けて峠を越えた感じ。よし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

  • 銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

    銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』ミク高機動車は軍用車両なんで、駐禁の制約なんかないんだけども、大人しくピタゴラス第二駐車場に停める。第二駐車場はゴールデン街最寄りの駐車場で利用者が多い。こんなところで軍用特権を使うと、微妙に不満を持たれ、その積み重ねが市民の不満をかってしまい、有事の軍事行動の障りになる。「派出所からまわるか?」「ううん、心当たりがあるから」パーキングメーターにハンベをかざして登録を済ませ、ダッシュと二人、駐車場の出口に向かう。「やっぱり裏筋からあたるのか?」「あ……なんとなくの勘」そう応えながら、この捜索はなるべく記録に残らない方法をとらなければと思っている。半年前に知り合った周温雷を思い出す。気持ちのいいオッサンだったけど、通信ケーブル点検のバイト中に姿を消した。ピタゴラ...銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》さくら「お暑い中、わざわざの取材ありがとうございます」帝都ドールの社長さんは、70ちょっとぐらいの実直そうなオジサンだ。この年代はオジサンとオジィサンに分かれるけど、確実にオジサン。まだまだ元気で頑張ってますって現役オーラがムンムン。「ちょっとびっくりさせたかもしれませんけど、まだまだこれからです。お二人とも目をつぶって両手を出してもらえますか……」言われるままに、目をつぶってプレゼントをもらうように両手を出した。「「ヒャッ!」」はるかさんもあたしも似たような声を上げた。冷やっこくってプニプニしたものが手の上に置かれたから。目を開けて、もう一回「ヒヤッ!」と「エエ!?」あたしの手の上には心臓、はるかさんの手の上には腎臓が載っていた。「医療教育用...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

  • やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

    やくもあやかし物語2033『階段で怪我をした』もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。グニュみごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。ああ、外に出たいなあ……出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。プルルルル黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。「もしもし」『あ、交換手です。退屈しているようなので...やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》さくらあたしは、このごろアイドリングのような毎日だ。『長徳寺の終戦ファーストレインボウ』の仕事以来、ドラマや映画の仕事が無い。かと言って、まとまった休みが取れるわけでもない。ワイドショーやトーク番組、ラジオの仕事などが単発で入っている。いわばアイドリング状態。この日は『プロフェッショナル日本』という番組のロケ取材だった。タイトルは地味だけど、関東ローカルで18ぐらいの数字を取っている。8月放送分からは全国ネットになる。その記念すべき第一回のレポーターに、あたしが選ばれた。むろんメインではない。メインレポーターは『はるかワケあり転校生の7カ月』でいっしょになった坂東はるかさん。『世界一のドール制作』というのが今回のテーマで、気楽なお人形さんの取材...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記084『破られた卒業証書』え(;゚Д゚)(;゚ω゚)(゚ω゚;(゚Д゚;)(゚ω゚;)!?五人そろって驚いた。例えていうと、角を曲がったらバラバラ死体に出くわした感じ。死体になんか出くわしたことないけど、体中の体毛が総毛だって、お尻と足の裏がゾワってする感じ。こないだは作法室でMITAKAをやったんだけど、卒業式の今日は、仲間五人、教室で女子会をやっている。卒業式には、在校生の一部の参加で、わたしたちは関係ない。式の最中ぐらいに教室に集まって、学年はじめにもらった年間行事予定表を元に「入学式は……」とか「衣替えのころは……」とか「試験の最終日にぃ……」とか言って懐かしんでた。ただ単に「この一年振り返ってぇ」とか言うよりも、行事に則した方が記憶も思い出も生き生きしてくる...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》さつき恩華は四ノ宮家でアルバイトすることになった。忠八クンが雇うわけではない。以前よりは実家にいるとは言え冴えない文二の東大生。学校とアルバイト、そして、アパートと実家での二重生活に違いはなかった。お嫁さんの文桜さんのアイデアで、バイト料は忠八クンの親が出す。ちなみに忠八クンのバイトも、工事現場のガードマンから、実家である四ノ宮家の蔵書の整理と、PCによる電子管理化をやることに変わった。四ノ宮家には、10万冊余りの史料や書籍があり、その整理をやっていれば、おのずと日本とC国の近現代史が、国家機密のようなものまで分かるようになる。孫桜さんは考えた。恩華さんは経済的に安定し、史料・資料を整理している間に、きっと自分の国と日本との関わり方の過去と現在。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

  • 勇者乙の天路歴程 003『頭上で楠の葉が戦ぐ』

    勇者乙の天路歴程003『頭上で楠の葉が戦ぐ』サワサワサワ……サワサワサ……サワサワサ……頭上で楠の葉が戦ぐ。戦ぐと書いて「そよぐ」と読む。演劇部の顧問をしていたころ『これでソヨグと読むんですか!?』と台本の字の読みを教えてやって驚かれたことがある。その生徒は『たたかぐ』と読んでいた。『戦い』と書いて『タタカイ』なのだから、『タタカグ』と発音してしまったんだ。そうなんだ、戦ぐとは、一枚一枚の木の葉が、隣り合う木の葉に当って音を立てる様子を現す言葉なんだ。それが、何千、何万、何十万、何百万と重なるとサワサワサワになり、林や森ぐるみ山ぐるみになると、ザワザワ、時にゴウゴウと猛々しい音に成ったりする。校舎の屋上で日の丸がはためいている。学校で国旗を掲揚するようになったのは今世紀に入ってからだったかなぁ。本来は、正...勇者乙の天路歴程003『頭上で楠の葉が戦ぐ』

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