勇者乙の天路歴程016『川を遡る・2』※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者ギーコギーコ……ギーコギーコ……三途の川は見通しがきかない。長江並みの川幅であることに加えて、一面の霧だか靄のため数十メートルの見通ししかなく、まるで濃霧警報の海を行くようだ。ギーコギーコ……ギーコギーコ……「……あの時も、こんな感じだったなぁ」ビクニが呟く。「前にも来たことがあるのか?」「あるさ。いま思い出したのは三途の川ではなくて江戸前の海だがな」江戸前の海と言うからには、百年以上は昔のことか。「吉田寅太郎が密航を企てた時のことだ」「トラタロウ……ああ、吉田松陰のことか」「弟子と二人でペリーの船に乗り込んで、アメリカへ連れていけと談判しにいったんだ。浦賀でペリーの黒船を見て、その瞬間『攘夷などは無理だ、まずは学ぼう』と切り替わっ...勇者乙の天路歴程016『川を遡る・2』