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2015/01/11

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  • まりあ戦記・047『』

    まりあ戦記・047『ナユタといっしょにヽ(#`Д´#)ノ』自転車の腕は、わたしよりも上のようだ。追いついてくるとニコニコしながら、ピッタリとわたしのオレンジの横に付けてきた。コノヤローと思って、グッとペダルを踏み込むと、ナユタも同時に加速して、十センチも引き離せない。ギュンとブレーキをかけても、ほんの五センチほど飛び出すだけで、一秒もかからずに横に並ぶ。「アハハ、意地悪だなあ先輩!」先輩になった覚えは無いので、グイッと左に寄せてから急激に右に戻して右側の路側に寄せる。路側は崖っぷちになっていて、寄せすぎると落ちそうになる。「おっと」さすがに後退……したかと思うと、グイッと加速してクイっとハンドルを操作して、わたしの左側にせり上がって並走。その勢いのままにわたしを路側に追い詰めてくる。「フン」させてたまるか……ポ...まりあ戦記・047『』

  • やくも・14『図書分室・3』

    やくも・14『図書分室・3』小桜さんのスマホには卒業文集の目次が映っていた。下の方に――第二十一期卒業生――と書いてある。「21期、いつだろ……ずいぶん昔のなんだろうね」「そうだね」インクのにおいが鼻についてきたんで、引き出しをしまって蓋をした。もう一度『謄写版』という名称を記憶に留めて分室を出る。それじゃね。小桜さんとは方角が違うので、校門を出たところで別れた。歩きながら生徒手帳を出して、覚えた字をメモる。月へンに栄誉の誉で『謄写版』……よし、覚えた。二十一期生……生徒手帳には……あった。わたしたちは七十一期生だから、五十年前だ!不思議だよ……小桜さんには二十一期生の卒業文集の目次に見えていたんだ。わたしには、こないだ小桜さんが四連休した時の裏事情、それも杉村君と秘密めいたことを話した会話の記録に見えた。小桜...やくも・14『図書分室・3』

  • かの世界この世界:148『ここはどこだ・1』

    かの世界この世界:148『ここはどこだ・1』語り手:タングリスほんの0.1秒見えた気がする。視界の端から端までグレートウォールのように広がる樹皮、一枚一枚が神殿の絨毯ほどに大きな葉っぱ、それが幾重にも重なって陽の光をさえぎって……これが世界樹ユグドラシルか!?思った瞬間に衝撃がきて、気絶してしまった。数瞬か数時間かたって意識が戻る。おぼろに視界が戻ってくると、四号の車内は傾いでいる……いや、どこか傾いだところに着地したので、意識が四号の傾ぎと認識しているのだ。俊敏な意識と感覚の回復はトール元帥親衛隊の訓練の賜物か、姫をヴァルハラまでお連れしなければならない役目の自覚からなのか。いずれにしろ、他の乗員よりも早く意識が戻ったのは幸いだ。目視できる範囲で乗員を見渡す。ショックで気絶はしているが、重篤な怪我などはしてい...かの世界この世界:148『ここはどこだ・1』

  • やくも・13『図書分室・2』

    やくも・13『図書分室・2』よく見るとひいお爺ちゃんの写真のよう。縁の細い額に入って、仏間の長押の上に賞状とかと並んで掛けてある。その黒褐色の額縁に似ている。ただ、縁の内側が真っ黒なんで、瞬間のイメージはでっかいスマホ。「なんて読むんだろう?」小桜さんは、上の方に貼ってあるプレートの字を指した。「う~ん……」「二つ目は写真の写だよね、次が版画の版」「ゴンベンに……栄誉の誉?」三つ繋げると『謄写版』という字になる。わたしたちの反応は、明治の人がスマホを見た時のようだと思う。電源が切ってあったら表面が真っ黒の手鏡だ。額縁のところを開けると、ホワっとインクのにおいが立ち込める。「横が引き出しになってるよ……」机の引き出しほどのを開ける……枠付きのガラスの上に濃紺のインク……さらに開けるとローラーとインクの缶。それにヘ...やくも・13『図書分室・2』

  • かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』

    かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』語り手:ケイトユグドラシルというのがよく分からない。その中に八つの世界があって、その中には我々の住む人間界も含まれているらしい。だったら、人間界の海に浮かぶユグドラシルってなんだ?ユグドラシルの中にユグドラシルがあるってことにならないか?そのユグドラシルの人間界の海にはまたユグドラシルがあって、その中にまた人間界があって、そのまた中に……ああ、もう分からん!ため息をつくとベンチで横になったナフタリンと目が合った。「海に浮かんでいるユグドラシルはデバイス」「デバイス?」「ごめん、分からない言葉を使っちゃった」いや、一瞬パソコンとかスマホとかが頭に浮かんだけど、それが何なのかは分からない。「たとえば、これ……」乗客の忘れ物だろうか、雑誌を手に持った。「ここにヘルムの海や...かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』

  • ポナの新子・92『』

    ポナの季節・92『夏って名前・1』語り・夏夏に生まれたから夏ってつけたんだ。小学三年の時にお父さんに聞いた。知ってたんだけどね、沈黙が嫌なんで聞いてみたんだ。そろそろ眠りに落ちるかなあ……と、思った時玄関のドアが開く音がして、その開け方でお父さんだと分かった。リビングで、ソファーがミシっと音を立てる……これはお母さん。ソファーに寝っ転がってタブレットでネットサーフィンしながら亭主の帰りを待っていたんだ。二人とも、音のたてかたで機嫌が分かる。二人とも機嫌が悪い……お父さん、リビングに入ってきて、冷蔵庫を開ける音。チ舌打ちの音がして冷蔵庫が閉まる。グラスを出す音がして、水道で水を汲む音。こないだは、ここでお母さんが寝室に行って、お父さんはお風呂に入って、それでお終いだった。今夜のお母さんは、まだリビングを出て行かな...ポナの新子・92『』

  • やくも・12『図書分室・1』

    やくも・12『図書分室・1』学校に図書分室というのがある。図書室と言うのは、本だけじゃなくて、いろんなものがある。視聴覚機材という括りになっていて、スライド映写機とかスクリーンとか、古いパソコンとかビデオカメラとか、なんだか分からない機材とか。そういうのを保管している倉庫みたいな部屋。その図書分室に古い本を持って行ってほしいと頼まれた。頼んだのは霊田(たまた)先生。頼まれて、やっと名前を覚えた。眼鏡のオールドミス。この先生は図書部長で、委員会で一度顔を見ただけ、一度見ただけで、あまり関わらない方がいいと思った。先生も必要最小限しか言わないタイプのようで、今日呼び出されるまでは口をきいたことがない。「適当に片しといて。あの台車使って……」本の山と台車を指さしておしまい。泣きたくなるほど素っ気ない。泣かずに済んだの...やくも・12『図書分室・1』

  • やくも・12『図書分室・1』

    やくも・12『図書分室・1』学校に図書分室というのがある。図書室と言うのは、本だけじゃなくて、いろんなものがある。視聴覚機材という括りになっていて、スライド映写機とかスクリーンとか、古いパソコンとかビデオカメラとか、なんだか分からない機材とか。そういうのを保管している倉庫みたいな部屋。その図書分室に古い本を持って行ってほしいと頼まれた。頼んだのは霊田(たまた)先生。頼まれて、やっと名前を覚えた。眼鏡のオールドミス。この先生は図書部長で、委員会で一度顔を見ただけ、一度見ただけで、あまり関わらない方がいいと思った。先生も必要最小限しか言わないタイプのようで、今日呼び出されるまでは口をきいたことがない。「適当に片しといて。あの台車使って……」本の山と台車を指さしておしまい。泣きたくなるほど素っ気ない。泣かずに済んだの...やくも・12『図書分室・1』

  • かの世界この世界:146『ケイトのケアルラ』

    かの世界この世界:146『ケイトのケアルラ』語り手:ケイトリスの化身だとは思えなかった。ロキが抱きとめた体は華奢だったけど、同性のあたしが見てもきれいだ。見たことは無いけど、月の女神アルテミスが居たとしたらこんな感じ。腕も脚も細いんだけど、駆けたり跳んだりする機能が集約された美しさはカモシカみたい。チュニックに包まれた胴はロキの腕の中でグッタリしているけど、かえってしなやかなで美しいラインを顕わにしてトールボウ(あたしの武器の弓)のしなりを思わせた。でも、感動したのは一瞬だ。みるみるナフタリンの体は、ロキが握っている手の先を除いて透け始めた。この世界の事には疎いあたしでも、ナフタリンに危機が迫っているのが分かった(;'∀')。「ケイト、ケアルを!」テルが叫ぶのとケアルの呪を唱えるのと同時だった。「……ブロンズケ...かの世界この世界:146『ケイトのケアルラ』

  • せやさかい・180『代理でお見舞い・3』

    せやさかい・180『代理でお見舞い・3』さくら信号を渡ったら駅のロータリーというとこで足が停まってしまう。追い抜いていくオバチャンが――なんや、この子は!?――いう顔して信号を渡っていく。うちの直ぐ後ろに居てはったんやろね、青になっても横断歩道を渡らへんうちが、ちょっと迷惑やったんや。阿弥陀さんの思し召し、回れ右して道を戻る。頭の中は車にはねられた母ネコと、道路の端っこで震えてる子ネコがバグった動画みたいにフラッシュバックしてる。うちが目ぇ合わさへんかったら、母ネコはたじろぐこともなく道路を渡ってた。子ネコはチョコチョコっこと母ネコのあとを付いて、母子ネコの平和な一日が続いていたやろ。うちは、剣呑な顔をしてたんや。お見舞いに来たはずが、逆に入院してる専念寺のゴエンサンに気ぃ遣わしてしもて、花束を持って行ったのに...せやさかい・180『代理でお見舞い・3』

  • やくも・11『ペコリお化け・2』

    やくも・11『ペコリお化け・2』ときどきRPGのように感じてしまう。なにがって……わたしの生活。越してきてからのわたしの毎日。お爺ちゃんとお婆ちゃんと、そしてお母さんとわたしの生活。一見家族なんだけど血のつながりは無い。お爺ちゃんとお婆ちゃんは夫婦だから、元々は他人。二人には子供が出来なかったから養女に迎えたのがお母さん。で、血のつながりは無い。お母さんとお父さんにも子どもはできなかった。だから、わたしが養女に迎えられた。これも血の繋がりは無い。理由は言えないってか、よく分からないうちにお母さんは離婚して、お母さんが親権をとった。それで、お母さんの実家であるお爺ちゃんお婆ちゃんの家に越してきたんだ。だから、四人とも、祖父母であるように、母親であるように、娘であるように、孫であるようにロールプレイしている。言った...やくも・11『ペコリお化け・2』

  • かの世界この世界:145『ラタトスクのナフタリン』

    かの世界この世界:145『ラタトスクのナフタリン』語り手:ロキ舳先の下の隠れて瞬間見えなくなった……次の瞬間、舳先の上に躍り出たのは栗色のチュニックを着た女の子だった。トリャー!…………オットット(;^_^A威勢のいい声で決めポーズ。マーメイド号が帆船だったら、そのまま舳先のフィギュアヘッド(船首の飾り)にしてもいいくらいにカッコイイ。しかし、タタラを踏んでガニ股でふんばる姿はみっともない。「おまえ、ユグドラシルのラタトスクだな?」タングリスさんが遅刻してきた生徒の名前を確認するように聞いた。「知っていたんだ。見かけよりはかしこいのかもな」「ユグドラシルのメッセンジャーは足が速いが口が悪い。予断と偏見に満ちたラタトスクに頼るくらいなら、自分で航路を切り開く」「ラタトスクってなんだ?」予備知識のないテルさんが基本...かの世界この世界:145『ラタトスクのナフタリン』

  • やくも・10『ペコリお化け』

    やくも・10『ペコリお化け』一昨日までは近道のつづら折りを通っていた。昨日、久しぶりに崖道を通って登校した。慣れてきたので、朝の支度も早くなってきて、家でグズグズしていると間が持たないんだよ。お母さんは早くに出ているし、お爺ちゃんお婆ちゃんとも、こっちに来てから暮らし始めて、五分以上一緒に居たら間が持たない。昨日なんかトイレで時間を潰していたら「お腹の具合でもわるいの?」と、お婆ちゃんにトイレの外から声を掛けられて気まずかった(;^_^A。学校に早くついても気まずい。早く登校している子と、教室で「おはよ」って挨拶して、あとが持たない。トイレに行ったりしたら……まさか「お腹の具合でもわるいの?」とは聞かれないけど、なんだか敬遠されてるとか思われるかもしれないじゃない。予鈴が鳴る五分くらい前にはいっぱい登校してくる...やくも・10『ペコリお化け』

  • かの世界この世界:144『ユグドラシルを目指して・2』

    かの世界この世界:144『ユグドラシルを目指して・2』タングリス最後にユグドラシルが確認された海域を目指すことにした。巨大な世界樹ユグドラシルを目指しているとは言え、闇雲に海を突き進んでも見つけられる可能性は低い。いつ巡り合えるとも知れないユグドラシルを追っていては気持ちが萎える。まして、時間が停まってしまった世界で出くわすのはクリーチャーか精霊に属する者だけだ。人や自然に属する者は。ことごとくフリーズしている。夜がやってこないので熟睡することも難しく、このまま当てのない航海を続けていては身も心もボロボロになってしまうだろう。とにかく、行けば、痕跡なりと見つけられるかもしれない。「ただの言い伝えだから、がっかりしないでくださいね💦」情報提供者であるユーリアは、顔を赤くしてワイパーのように手を振った。「港のクィー...かの世界この世界:144『ユグドラシルを目指して・2』

  • 魔法少女マヂカ・186『呪をかける』

    魔法少女マヂカ・186『呪をかける』語り手:マヂカ階段を上がってきたあたりから古典の先生の様子が分かってきた。卜部兼近(うらべかねちか)という先生で京都にある大きな神社の三男坊。社格の高い神社で、卜部家は男爵に列せられている。男爵家と言っても三男坊なので男爵家の家督は継ぐことができず、古典や神道の歴史を研究して身を立てようとしている実直な人らしい。この先生を刺激しよう。ノートの端っこに『卜部兼近』『野々村典子』と書いて、そっと息を吹きかける。もう百年以上使っていない呪をかける作法だ。「転校生は、このクラスだったんだねえ……渡辺真智香さんと野々村典子さん」出欠点呼が終わって、先生は、わたしの顔はあっさりと、ノンコの顔をしみじみと見た。もう、呪が効いている。「えと……野々村さんのお家はご維新までは嵯峨野にあったので...魔法少女マヂカ・186『呪をかける』

  • やくも・09『不〇投棄禁止』

    やくも・09『不〇投棄禁止』学校をちょっと出たところに不〇投棄禁止の札がある。なんで不〇投棄禁止なのかというと、通学路の立て札なんて、そんなにきっちり見たりはしないもんね。不〇投棄禁止なんだから、常識で考えれば不法投棄禁止だ。あることで、その不〇投棄禁止の札をまじまじ見ることになったというお話……。ちょっとだけ学校に慣れてきた、ちょっとだけね。クラスで喋れる子も二三人……まだ紹介はしないけどね。だって、友だちになり損ねて挨拶もしなくなったら見っともないじゃやん。あ、あの時は友だちだって言ったじゃん。なんて目で見られるのやだもん。先生も覚えた。覚えたというのは、授業以外で出会っても――あ、数学の先生だ――ぐらいに分かったということよ。まだ名前は憶えていない。だって、ほんの二週間前に転校してきたばかりだしね。そんな...やくも・09『不〇投棄禁止』

  • かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

    かの世界この世界:142『ユグドラシルを目指して・1』タングリスロキの元気がない。船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの五十メートルほどしかないのだが、見ていればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくれたので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。過去を司る長女のウルズ現在を司る次女のヴェルサンディ未来を司るス...かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

  • オフステージ・145『』

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)145『ミリーの頼まれごと・1』ミリーわたしの日本語は基本的に大阪弁。シカゴの実家の隣がタナカさんという日系のお婆ちゃんで、大阪出身。もう100歳目前という年齢なので、喋る日本語はコテコテの大阪弁。物心ついた時からタナカのお婆ちゃんとは大の仲良し。だから自然に身に着いた日本語は大阪弁で、それも70年ほど昔のね。お尻のことを「オイド」と言って、ホームステイ先の千代子に通じなかったし。夕べの事を「ゆんべ」と発音して「お婆ちゃんみたい(*´艸`)」と笑われたり。半神巨人戦を観に行って「うわあ、さすが阪神ファンはしこっとるなあ!」と感激して千代のパパさんにまで「年寄りみたい」笑われてしまう。それからは、どうも「うちの大阪弁は古いらしい」と自覚して、テレビやYouTubeなんかで勉強し...オフステージ・145『』

  • やくも・08『猫尽くし』

    やくも・08『猫尽くし』図書室当番が終わった。本来の図書室当番だったら一週間つづく。それが四日で終わったということは、もともと当番だった女子が学校に戻ってきたということなんだろうけど、その説明は無い。「小泉さん、今日からはいいから」。終礼で担任から言われておしまい。ま、いいんだけど。四日もピンチヒッターやったんだから説明くらいあってもいいんだけどね。この四日間で本の貸し出しと返却が二件ずつあっただけ。四時半を回ると、ほとんど杉野君と二人っきりだった。ま、いいんだけど。杉野君とは、マップメジャーのことと近道の事で、ちょこっと話しただけ。なんか、お互いに気を使ってるみたいな四日間だった。わたしも杉野君も人間関係苦手みたいだけど、まあ、よくやったんじゃないかな。ま、いいんだけど。もうちょっとで崖に突き当たるとこまで来...やくも・08『猫尽くし』

  • かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』

    かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』ブリュンヒルデ身の丈三十メートルのトール元帥はムヘン駐留の一個連隊の親衛戦車部隊を引き連れている。親衛戦車部隊は空を飛べる。日ごろ、ムヘンの警備任務にあたっているのは国防軍で、国防軍の戦車は飛ぶことができない。我々が苦労して積み込んだことで分かる通り、我々の四号は国防軍仕様の四号だ。テルやケイトは羨ましそうな顔をしているが、空飛ぶ戦車は燃費が悪い。飛行していると満タンでもニ十分が限度。それが一個連隊の大編隊で飛べるのはトール元帥が飛行しながら補っているからだ。トール元帥の図体が大きいのも、その全身にエネルギーを貯めているからなのだ。かつて、父オーディンから辺境の討伐を命ぜられた時、元帥は父に言った。「一年や一年半なら、存分に暴れまわって見せましょう。しか...かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』

  • やくも・07『つづら折りの近道』

    やくも・07『つづら折りの近道』それなら、この道がいいよ。杉野君が指差したのは崖道をほんのちょっと北に行ったところだ。図書室当番も四日目。マップメジャーは見当たらないんだけど、国土地理院の地図を見ていた。この街に少しでも慣れなきゃという気持ちと、三日も見ているんで、ちょっと愛着。すると、返却された本を書架に戻しに来た杉野君と目が合って、少し話してるうちに「家までの近道」ということになって教えてもらったんだ。右に曲がると崖下道というところで反対の左に折れる。狭い路地っぽいんだけど、なんとか通れる。抜けると四メートル幅の生活道路。ちょっと行ってつづら折りの小道が崖の上まで通じている。なんだか大きなお城を裏口から攻め上る感じ。プライムビデオで観た戦国時代のドラマが頭をよぎる。わたしは竹中半兵衛、敵の大将首はすぐそこだ...やくも・07『つづら折りの近道』

  • かの世界この世界:141『絶体絶命!』

    かの世界この世界:141『絶体絶命!』語り手:タングリスマーメイド号の最高速度は十五ノットでしかない。パラノキアの巡洋艦と融合したクリーチャーは三十三ノットで迫って来る!三十三ノットは巡洋艦の最高速度だ。このままではすぐに追いつかれる。前回の戦いでは、かろうじて勝てたが。今度の本体はクリーチャー、乗っている船は一万トンを超えるシュネーヴィットヘンではなくて二百トンそこそこのフェリーボートのマーメイド号なのだ。まっすぐ突っ込まれてくると、全速力で逃げても相対速度十八ノット(時速三十二キロ)で追われることになる。サッカーのフォワードが全速で小学生を追い回すようなものだ。できることなら戦いたくないが、戦闘配置だけはとっておいた方がいいだろう。「テル、戦闘配置だ!」「もう完了している!」デッキの四号は、クリーチャーに向...かの世界この世界:141『絶体絶命!』

  • 銀河太平記・019『修学旅行・19・修学旅行・19・上野の成駒屋』

    銀河太平記・019『修学旅行・19・上野の成駒屋』大石一ウッヒョーーーー(^▽^)!箸に絡めた納豆を頭の上まで伸ばしてテルが喜ぶ。「ちょ、浴衣の前(^_^;)!」箸を上げたまま立ち上がってはだけた浴衣の前をミクが注意する。「だってさ、こんなに伸びりゅんだよ!やっぱり本場の納豆は違うのよさ!」「ああ、分かったから。帯もこんなに上がっちゃってえ」自分の箸をおいて、着崩れた浴衣を直してやるミク。なんだか、家族旅行にやってきた母親と幼子だ。皇居を後にした俺たちは憧れの修学旅行専用の宿に向かった。不忍池のほとりにある成駒屋は三百年続く伝統的旅館だ。修学旅行専用というのは看板の文句で、シーズンオフなら一般の宿泊客も受け入れているんだがな。まあ、心意気だよな。今どき、オートどころかアルミサッシですらなく、二十年に一度は取り換...銀河太平記・019『修学旅行・19・修学旅行・19・上野の成駒屋』

  • やくも・06『マップメジャー・2』

    やくも・05『マップメジャー・2』今日も杉野君と二人。マップメジャーで遊んでいる。いろんな地図で試しては、小さく「へー」とか「ほー」とか言う。そんなに面白いというわけでもないんだけど、こういうことに程よく熱中していた方が距離がとれるし、ひょっとしたら可愛げのある女子と思われるかもしれない。程よい可愛げというのは大事なんだ。ハミゴはごめんだし、へんにベタベタされるのもいやだ。ちょっと愛嬌のあるNPCぐらいの存在でありたい。杉野君はあいかわらずラノベばっか、その横に座っているだけと言うのは、三日目にもなるともたないもんね。変に話しかけるのもあれだし……それに、杉野君はラノベ読みながら、時々、時々だけど、ニヤッと笑ったり、ポッと頬を赤くしたりする。人間関係もほとんどないのに、そういう人の横には、ちょっとね……。国土地...やくも・06『マップメジャー・2』

  • かの世界この世界:140『パラノキアの幽霊船』

    かの世界この世界:140『パラノキアの幽霊船』語り手:テル体が夜を欲している。R18的な言い回しだが、そんな意味ではない。ヘルムの守護神ヤマタが活動を停止して地上から光が無くなった。そのピンチヒッターに世界樹ユグドラシルの三神の一人ヴェルサンディが現れたのだが、いかんせんヴェルサンディは現在の時間を司る女神。過去の時間を司るウルズ、未来の時間を司るスクルドの三神が揃わなければ時間は動かない。我々は世界樹の島ユグドラシルを目指して船出した。ウルズ、ヴェルサンディの二神を起こすためだ。当直を終えてキャビンに戻るのだが、なんせ二百トンのフェリーボート。駅の待合室ほどでしかないキャビンはカーテンを閉めても真っ暗にはならない。アイマスクなどもしてみるのだが、体が夜とは認識しないのだ。露出した手足だけではなく、服を通しても...かの世界この世界:140『パラノキアの幽霊船』

  • やくも・05『マップメジャー・1』

    やくも・05『マップメジャー・1』今日も図書委員の仕事だよ。図書委員の仕事というのは放課後の図書室当番。中学の図書室というのは司書の先生が居ない。いちおう図書部というか図書係の先生がいて、いちおう責任者なんだけど、管理責任ということだけでカウンター業務とかは図書委員が交代で当番に当たっている。男女二人一組の当番なんだけど、女子の当番が三日連続で休んでいる。それで、繰上りだかなんだか分からないんだけど「小泉さん、わるいけどお願い」ということで頼まれてしまっているんだ。転校して来て間がないわたしはアドバンテージが低くって、断ることはおろか、嫌な顔もできない。「今日もよろしくね」相棒の男子にはあいさつしておく。転校生は過不足のない笑顔と挨拶が大事なんだ。ほどよく、付かず離れずを心がける。「今日もよろしく」に「ね」を付...やくも・05『マップメジャー・1』

  • かの世界この世界:139『みんなで協力……なんだけど』

    かの世界この世界:138『みんなで協力……なんだけど』タングリス乾ドックに海水を満たし、マーメイド号のエンジンを始動した。二百トンのマーメイド号は一万トンのシュネーヴィットヘンとは比べ物のならないほど振動する。ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・アハハハ……ロキが振動で声を震わせて喜んでいる。ポチは甲板の振動をお尻で受けて煎り豆のように弾んで遊んでいる。「もう、あんたたちは子どもなんだから・ら・ら・ら・ら・らららららら~🎵」二人に呆れたケイトも、語尾がトレモロになってくると、陽気に『ら』を転がして可笑しがっている。「水位が海と同じになった」機械小屋のランプがグリーンになった。珍しモノ好きの姫がテルといっしょにポンプを操作しているのだ。ドックに水を満たし海面と同じ高さにしなければ、船を海に出せないのだ。「...かの世界この世界:139『みんなで協力……なんだけど』

  • せやさかい・179『代理でお見舞い・2』

    せやさかい・179『代理でお見舞い・2』さくら専念寺のゴエンサンとは五十分も話してしもた。病人さんのお見舞いとしては喋り過ぎやと思う。ゴエンサンは、たった今まで口喧嘩してた孫娘(たしか鸞ちゃん)のことは一言も喋らんと、お祖父ちゃんとの昔話やらお寺の面白いお話やらしてくれはって、かえってうちが楽しんでしもた。五十分言うのは授業の時間や。日ごろ五十分いうのに慣れてるから、五十分で一区切りいう顔をしてたんかもしれへん。帰ってからお祖父ちゃんに聞いたら、専念寺さんは学校の先生をやってはったらしくて、それで五十分やったんかもしれへん。まあ、無事にお役目を果たせたんで、病室のドアを閉めた時には正直ホッとした。廊下をエレベーターの方に歩いて行くと、ナースステーションの前の休憩コーナーに鸞ちゃんが座ってた。改めて見ると、どこか...せやさかい・179『代理でお見舞い・2』

  • やくも・04『街灯』

    やくも・04『街灯』あのお厨子は一晩で無くなった。本格的な解体工事が始まるようで、生け垣の一部が取り壊され怪獣みたいなショベルカーが入っていた。お厨子は、ショベルカー入れるのに邪魔なんだろう、三本ほどあった庭木といっしょに無くなっていた。当然五十メートルの崖道を迂回して学校に行く。裏側に出た時には、もう、バリバリと音がして母屋が取り壊される音がした。その音が恐ろしくて、視界の端に捉えることもしないで三丁目の学校に急いだ。帰りは、また図書委員の仕事が周ってきて遅くなった。黄昏時のあの道を歩く勇気が出なくって、十五分以上余計にかかる大回りの道を通って帰った。途中、道幅の割には人通りのないところにに差し掛かる。真っ直ぐな道の彼方には家がある一丁目が小さく見える。でも、一丁目につくまでは薄暗い一本道、二車線あるから車も...やくも・04『街灯』

  • まりあ戦記・046『B区の切り欠きを目指して』

    まりあ戦記・046『B区の切り欠きを目指して』ま、いいんだけども釈然としない。釈迦堂観音(しゃかどうかのん)からのメールに――ありがとう、また会いたいね――と返事を打ってため息をついた。影武者のマリアが学校で襲撃を受けた。あれから半年、まりあは学校に行っていない。だって、あの襲撃で死んだことになっている。影武者のマリアは損傷が激しいので、リペアしてもソックリと言うわけにはいかずに退役してしまった。家がお寺で、自身副住職でもあるカノンは、僧侶の勘だろうか、まりあの生存に気づいて連絡をくれる。先日のヨミを撃破したのは『そいつ』……あれからナユタだという名前とツインテールが良く似合う高校一年生だということが分かった。四菱のソメティという機体に載ってヨミを蹴散らしたということで、そのモテカワのルックスと相まって学校の人...まりあ戦記・046『B区の切り欠きを目指して』

  • かの世界この世界:138『動いていたものは動かせない』

    かの世界この世界:138『動いていたものは動かせない』ブリュンヒルデわたし(車長)とケイト(装填手)の間にシートを付けた。シートと言ってもパイプ椅子の上半分をくっ付けたもので、横のハッチから出入りするときは折りたたむ。まあ、小柄なわたしとケイトの間なので、なんとか収まる。「お客さんで乗っているのも申し訳ないですから、仕事を教えください」ユーリアの申し出ももっともなので、取りあえずはケイトと交代で装填手をやってもらうことにした。そして、日中はともかく、寝る時は窮屈すぎるので納屋の中からテントを出してゲペックカステン(砲塔後部の物入れ)に括り付けた。二時間ほどで準備を整えると出発だ。ユーリアは眠ったように時間の止まっている母のアグネスと兄のヤコブに別れを告げた。「じゃ、行くよ、ユーリア」「…………はい」ふっきるよう...かの世界この世界:138『動いていたものは動かせない』

  • やくも・03『フフフフ』

    やくも・03『フフフフ』例えて言うと合わせ鏡。鳥居の真下に、わたしは居て、前と後ろにも鳥居がある。鳥居は前後にいくつも続いていて無限に続いて小さくなって、鳥居の朱色と夕闇色に溶け込んでいく。合わせ鏡と違って、前後の世界にわたしは居ない。これはヤバイ。鳥居一つが一つの世界で、一歩でも動いてしまったら別の鳥居に行ってしまいそうで、そうすると、もう元の世界には戻ってこれないような怖さがある。ジッとしていよう……ジッとしていたら、きっと元に戻れる。うちに帰ってお風呂掃除やって、晩ご飯の時にお爺ちゃんとお婆ちゃんに話そう。こんな不思議なことがあったって、ドキドキしたよって、面白かったよって、そして、夜遅く仕事から帰ってきたお母さんにも話すんだ。また、やくも、おかしなこと言ってえ。そう言って笑ってもらおう。そうしたら、もち...やくも・03『フフフフ』

  • まりあ戦記・045『――どんなもんよ!――』

    まりあ戦記・045『――どんなもんよ!――』ヨミの狙撃を避けるために、ほとんどトップスピードのまま地上スレスレを飛び回り、指定されたポッドを掠めるようにしてアサルトライフルをキャッチする。そいつのアサルトよりもイカツクて、ほとんどウズメの全長ほどもある。ちなみに型式は四菱38式、通称サンパチ。77ミリ徹甲弾500発、フルオートで速射すれば二十秒ほどで撃ち尽くしてしまう。カートリッジを三つ持てば2000発撃てるが、重量過多で動きが鈍くなるし、リセットの時間が新らしいアサルトをキャッチするよりも時間がかかる。本当を言えば内蔵されているパルスを使いたい。レベルは使ったことのないギガパルスも含めて四段階。いちいちポッドからキャッチすることもなく連続使用できる。しかし、様々な理由から装着武器を使わざるを得ない。パルスを使...まりあ戦記・045『――どんなもんよ!――』

  • かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』

    かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』語り手:ブリュンヒルデ右も左も上も下も遠いも近いも重いも軽いも前も後も表も裏も明るいも暗いも太いも細いも短いも長いも全ての標(しるべ)がグチャグチャになった。全てのものが存在して目には見えるが秩序が無くなり、本来あるべき状態では認識できなくなってきている。目をつぶるしかなかった。目を開けていては、三半規管どころか全ての感覚がおかしくなって気が狂ってしまう。気が狂ったブリュンヒルデなんて、ムヘンの流刑地に生息していたヒルのようなもんだ。ヌメヌメとナメクジのようにイヤらしく、ポタリと落ちて来ては人や動物の血を吸っうしか能がない軟体動物。ト-ル元帥に、その名を教えられた時は――我が名からブリュンとデを取ればヒルになる――そんな自嘲的なギャグを思いついた時よりも鬱になる...かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』

  • 魔法少女マヂカ・185『ノンコが……』

    魔法少女マヂカ・185『ノンコが……』語り手:マヂカちょっと困った。ノンコが陰でコソコソ言われるのだ。「まあ、お下品」「むき出しでいらっしゃいますこと」「ちんちくりん」「お足りないのでは」「黙っていればお可愛いのに」など他にも色々……。わたしは根っからの魔法少女なので、女子学習院に見合った立ち居振る舞いなど造作もないんことなんだが、ノンコは、つい昨日までは令和の時代の普通の女子高生だった。「ごきげんよう」という学習院女子としての当たり前の挨拶もぎこちないし、背筋をまっすぐにして座ることもできなくて、朝から五回も注意されるし、面白ければノドチンコまで剥き出しに笑うし、授業がつまらないとあっさり寝てしまうし、まだ昼休みにもなっていないのにお腹の虫が鳴いてしまうし、その一つ一つが庶民じみていて、クラスメートの笑いにタ...魔法少女マヂカ・185『ノンコが……』

  • やくも・02『お屋敷の中へ……』

    やくも・02『お屋敷の中へ……』お風呂掃除をかってでた。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、お母さんだって「なにもしなくていいよ」と言ってくれた。でも、こんなに立派な家に住まわせてもらって、何もしなくていいというのはかえって気づまりだ。それで、頭をグルンとめぐらせて「お風呂掃除をやらせて」と頼んだんだ。お風呂掃除なら学校が終わった夕方で間に合う。庭とか家の周りの掃除も考えたんだけど、近所の人と顔を合わせたくなかったし、外回りの掃除は雨が降ったら大変だ。お風呂ならお天気に左右されないし、毎日同じダンドリでやればいいんだし。でも、お祖父ちゃんが晩ご飯の前に風呂に入る習慣だということには思い至らなかった。遅くとも五時には帰って風呂掃除しなくちゃならない。図書委員の仕事が遅くなって、焦っていた。普通に帰ったら五時を回ってしま...やくも・02『お屋敷の中へ……』

  • まりあ戦記・044『そいつ!?』

    まりあ戦記・044『そいつ!?』四菱のCM撮影に付き合ったので三十秒のロスが出た。むろん進んで付き合ったんじゃない、司令さえ従わざるを得ない軍産複合体への屈折したイラ立ちからであった。えーーと……。三十秒前には目視できたヨミの姿が見えない。0.5秒遅れて、バイザーコンソールの隅、ヨミの存在を示すドットに気づいた。三十秒前とは逆方向の丘の陰になっていたのだ。なんで?これまでの戦闘でヨミを見失ったことなど無かった。ぬかったか!?CM撮影と、それに付き合ってしまった自分がが恨めしい。一瞬思ったが、すぐに気を取り直しアサルトライフルを構え直す。ゴーーーーーーーー!構え直したライフルの先端を何かがかすめた。ドーーーーーーーン!反射的に首をすくめると、丘の向こうから衝撃波がやってきた。衝撃波に続いてヨミが煙を吐きながら燕の...まりあ戦記・044『そいつ!?』

  • かの世界この世界:136『標(しるべ)』

    かの世界この世界:136『標(しるべ)』語り手:タングリスずっとヘルムを照らしてきましたが、ここまでです……ヘルム神の姿が薄くなってきた。「あなたが消えると、この島は闇になるのか?」「あなた方が思うところの闇ではありません、この世に光をあらしめているのは至高の神より託されたオーディンです。わたしは、オーディンがつつがなく役目を果たせるように、オーディンの世界の標(しるべ)の役割を果たしてきたのです。標を失った地上は闇よりもひどい世界になります……残り僅かの力を振り絞って、あなたたちをアグネスの家に戻します。家に戻れば、ユーリアの意識は戻ります。そこからは世界樹ユグドラシルの根元に住む時の女神ノルン姉妹が標の代わりをしてくれるでしょう……」「標の代わりとは?」「……もう時間が……オーディンの娘ブリュンヒルデ、姫に...かの世界この世界:136『標(しるべ)』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・084『女将さんと駆ける!』

    漆黒のブリュンヒルデ・084『女将さんと駆ける!』上州名物かかあ天下に空っ風古い言い回しの通り白絹屋の女将さんの行動は俊敏だった。バシ!バシッ!ビシバシ!バシビシ!赤城下ろしの空っ風は砂埃どころか、地道の砂礫をも石ツブテのように巻き上げ銃砲弾のように人馬を叩くが、自分の身と馬の首が一体となるくらいに低くし、馬の目や耳に当りそうな砂礫を大刀で弾き飛ばしていく。パシ!パシッ!ピシパシ!パシピシ!わたしも負けじとオリハルコンを振う。砂礫を払う音がわたしの方がするどく響く。日本刀とソードの違いか、気性の違いか、流儀の違いか分からぬが、歴戦の戦友と共に吶喊しているように小気味いい。この人とならばヴァルキリアの戦いも面白いかもしれないと思った。このままでは赤城山に呑み込まれるのではないかというところまで近づいた。「こっちに...漆黒のブリュンヒルデ・084『女将さんと駆ける!』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・084『』

    漆黒のブリュンヒルデ・084『女将さんと駆ける!』上州名物かかあ天下に空っ風古い言い回しの通り白絹屋の女将さんの行動は俊敏だった。バシ!バシッ!ビシバシ!バシビシ!赤城下ろしの空っ風は砂埃どころか、地道の砂礫をも石ツブテのように巻き上げ銃砲弾のように人馬を叩くが、自分の身と馬の首が一体となるくらいに低くし、馬の目や耳に当りそうな砂礫を大刀で弾き飛ばしていく。パシ!パシッ!ピシパシ!パシピシ!わたしも負けじとオリハルコンを振う。砂礫を払う音がわたしの方がするどく響く。日本刀とソードの違いか、気性の違いか、流儀の違いか分からぬが、歴戦の戦友と共に吶喊しているように小気味いい。この人とならばヴァルキリアの戦いも面白いかもしれないと思った。このままでは赤城山に呑み込まれるのではないかというところまで近づいた。「こっちに...漆黒のブリュンヒルデ・084『』

  • やくも・01『崖のお屋敷』

    やくも・01『崖のお屋敷』一丁目と二丁目の境には崖がある。崖と言っても二メートルほどの高さで、石垣やコンクリで固められていて、難しい言葉では法面というらしい。法面って読める?ノリメンと発音するらしいよ。聞き慣れない言葉だしピンとこない。でも、越してきて間がないわたしには、人の行き来を拒み続ける崖という感じ。一丁目に家があって、三丁目にある学校に通うには、この崖が邪魔だ。五十メートルほど迂回すると、崖は数十センチほどに大人しくなって、横断する坂道や段差も現れる。だから、そういうわたしでも通れるところまで迂回して学校に行く。その一丁目側の崖の縁には百坪ほどのお屋敷が並んでいるんだよ。「お屋敷だねえ……」初めて転入の手続きのために通った時、そう呟いたら「やくもの家だって同じくらいじゃん」と、お母さんは笑った。わたしは...やくも・01『崖のお屋敷』

  • まりあ戦記・043『三か所のカメラ 二機のドローン』

    まりあ戦記・043『三か所のカメラ二機のドローン』イラ立ちの原因は予感だ。ウズメはパルスという固有兵器を内蔵している。パルスの出力は臨機応変に変えられる。肌に密着するコネクトスーツはまりあの筋電や脳波をリアルタイムで拾って、ウズメのアクティビティーを制御している。だからこそ、まりあはウズメを意のままに動かせる。リアルで喧嘩したとして、相手のパンチを屈んでかわしながら、お返しのフックを炸裂させるとかするのは、ほとんど反射運動だ。パルス攻撃も同様で、呼吸するような自然さの中で発揮される。しかし、まりあは、その自然さを封じられているのだ。カルデラの周辺に配置された携帯兵器をリリースすることを義務付けられている。いちいち拾って装着し、攻撃姿勢をとらなければ使えないので、タイムロスが大きいだけではなく、戦いのテンポを崩さ...まりあ戦記・043『三か所のカメラ二機のドローン』

  • かの世界のこの世界:135『ヘルム島のイメージ』

    かの世界この世界:135『ヘルム島のイメージ』タングリス例えばこれなのです。ヘルムの頭上に郵便ポストほどの大きさの懐中電灯が現れた。「懐中電灯というのは、機能別に表現すると、こうなります」懐中電灯は、三つに分かれた。ボディー電球電池「ほかにスイッチや配線やレンズ等がありますが、それをボディーに含めると、この三つです」ボディーと電球と電池は、いったん元の懐中電灯に戻ってから、また三つに分離した。小学生に説明するように分かりやすく、こういう授業めいたことが苦手なわたしでもよく分かる。「ボディーにあたるものがヘルムの島です」ボディーの下にヘルム島のイメージCGが現れた。「電球がわたしです」分かりやすく神という文字が現れた。「そして、電池が女の子です」電池が女の子の姿になった。もう一度、三つのものが合体し、懐中電灯が点...かの世界のこの世界:135『ヘルム島のイメージ』

  • 銀河太平記・018『修学旅行・18・陛下のお気持ち』

    銀河太平記・018『修学旅行・18・陛下のお気持ち』大石一ダッシュ、おまえがまとめるとメチャクチャになりそうだから、僕がやるよ。そう言って、ヒコは自分のインタフェイスを広げた。陛下は、こういう意味の事をおっしゃったと、我々は理解している。陛下を襲った人たちにも理屈がある。むろん暴力に訴えることは間違っているが、あの人たちの理屈に耳を傾けることは必要なことだと思う。あの人たちは、陛下個人に恨みがあるわけでは無い。陛下が天皇であることに異議を唱えている。二十五年前、陛下は先帝が崩御された時に政府と国民の総意を受け、先年改正された皇室典範に則って皇位に就かれた。二千有余年の皇室の歴史始まって以来の女性天皇だ。先帝のお子には今上陛下である和子内親王殿下しかおられなかった。改正前の皇室典範では男系の家系を遡って、五代前に...銀河太平記・018『修学旅行・18・陛下のお気持ち』

  • まりあ戦記・042『大尉とマリアのイラ立ち』

    まりあ戦記・042『大尉とまりあのイラ立ち』疑似ペーパーチケットは、ゲート横のマシンにスマホをかざせば記録され、列で待っている家族や恋人の所に戻ってゲートを潜ると、自動改札に似たディスペンサーから疑似チケットが吐き出される。これだと、ほんの数分列に並んで入場を待つという体験ができる。たいていの客は、それで入場する。金剛少佐は完全アナログで、チケットを買うところから並んで、アナログチケット専用のゲートを使う。おかげで待ち時間は十五分ほどと、疑似ペーパーチケット組の五倍ほどの時間がかかる。「だって、おかしいだろ。入場してからチケットを受け取るなんてさ。親とか恋人が列に並んで買ってきたチケットを手に取って『ああ、これから入場するんだ!』というワクワクを感じて入るのが仕来りだ。な、これから楽しむんだって気になってきたろ...まりあ戦記・042『大尉とマリアのイラ立ち』

  • かの世界この世界:134『ヤマタ……ヘルムの神』

    かの世界この世界:134『ヤマタ……ヘルムの神』ブリュンヒルデクレーターの中心へポチを含めた四人で飛び込む!ちょっと前なら、準備も偵察もなしに飛び込むような真似はしなかっただろう。ストマックとその変異体をやっつけて確信めいたものが湧いてきた、テルにもタングリスにも迷いはない、わたし(ブリュンヒルデ)もいつもの意地っ張りではない、ポチも小さな体に自信をみなぎらせている。穴には無数の横穴があって四人を惑わせる。惑わせるばかりではない、ほとんどの穴からは出くわしたことのないクリーチャーが攻撃を仕掛けてくる。しかし四人は、戦い慣れたダンジョンのように、あらかじめクリーチャーの出現が分かっているかのように切り抜けていく!……この先に空がある!地下に向かって落ちているはずなのに空を予感した。落下しつつバク転をくわえると、予...かの世界この世界:134『ヤマタ……ヘルムの神』

  • せやさかい・178『代理でお見舞い』

    せやさかい・178『代理でお見舞い』さくらあ、さくらちゃん。キョロキョロしてたら看護師さんに声をかけられた。「え?」一瞬分からへん。「いつも留美がお世話になって(^▽^)」マスクの上の目がへの字になって分かった。留美ちゃんのお母さんや!「あ、え、こんにちは(^_^;)」「お見舞い?」胸に抱えた花束を見て聞いてくれはる。「はい、内科で入院してはる橘謙譲さんのお見舞いなんですけど、病室が見当たらへんで……受付で聞いた病室は、ここなんですけど」教えられてやってきた病室には別の人の名前がかかっていたんですわ(^_^;)「あら、内科は一つ上よ」「え……?」「ここは六階で泌尿器のフロアだから」「え、七階やなかったんですか?ここ?」エレベーターで、ちゃんと⑦を押したはずやねんけど。「あー、エレベーター修理中でね表示パネルが間...せやさかい・178『代理でお見舞い』

  • まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』

    まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』えーーーなに考えてんのよ!頭のてっぺんから声が出てしまったみなみ大尉だった。金剛武特務少佐が、いそいそと大尉を誘ったのはサンオリのケティランド、そのデコレーションケーキのようなゲートの前だ。「小さいころにケティちゃんで遊んだことないかい?」「ないわよ!五歳の時にヨミの浸食が始まって、逃げ回ってばかりだったんだから!」「だったら、ちょうどいい。オレ入場券買ってくるから」意外だった。たいていのアミューズメント施設はスマホなどの携帯端末で入場券を買うのが常識だ。チケット売り場に列をなして入場券を買うなんて古典的な設定は映画やドラマの世界にしかない。それでもスマホのデジタルチケットをアナログなペーパーチケットにしたい人はいるので、それなりの列は出来ている。でも、金剛少佐のよ...まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』

  • かの世界この世界:133『スキルアップしたのだ!』

    かの世界この世界:133『スキルアップしたのだ!』ブリュンヒルデわたしが本物だから!そう主張するユーリアは、八メートルほどの間隔を開けて、それぞれにこんぐらがっていた。「ハーネスを切って下ろして!」の声も前後して五人分聞こえる。「うかつに下ろせないぞ……」タングリスの言う通りだ、クリーチャーというのは擬態する。五人のうち四人のユーリアは擬態したクリーチャーだ、下ろしたとたんに襲い掛かって来るだろう。「早くして!頭に血が上る~!」ほとんど逆さになったユーリアが顔を赤くしている。「腕が千切れそう~!」右腕を絡み取られたユーリアの指先が痙攣している。他の三人ももがいているうちに増々苦しくなっていく。「ウグッ!」一人が蔦を首に絡ませてしまった!「じっとしてろ!」「待て、テル!」タングリスの制止も間に合わずテルが飛び出し...かの世界この世界:133『スキルアップしたのだ!』

  • 魔法少女マヂカ・184『久々と初めての登校』

    魔法少女マヂカ・184『久々と初めての登校』語り手:マヂカうわあ…………(゚Д゚)クマさんがドアを開けてくれて、パッカードを下りたノンコが可愛い歓声を上げる。女子学習院の門を入ると、そこだけでちょっとした小学校のグラウンドくらいの車寄せになっている。真ん中が一里塚のような植え込みになっていて、そこを中心に生徒を乗せた車がグルリと周って本館の玄関前に至って、生徒たるお嬢様方を下ろしていく。一度に何十台と言う車がひしめき合うので、半ば以上の車は適当なところにお嬢様を下ろしては、車だけぐるりと周って帰っていく。詰襟の制服を着た先生数人が立って、交通整理をしている。さすがは学習院、登校風景だけでもエスタブリッシュな空気がある。「すごいねえ、みんな木造校舎だよ(o^―^o)」「震災で被害は無かったの?」「無駄に頑丈な造り...魔法少女マヂカ・184『久々と初めての登校』

  • まりあ戦記・040『金剛武特務少佐』

    まりあ戦記・040『金剛武特務少佐』「わかったわ、あたしがなんとかする」大尉は、そう言ってやるしかなかった。「ありがとうございます、やっと本務に戻れます」中原光子少尉は、せいいっぱい微笑んで礼を言ったつもりだが、くぼんだ目は、その疲れたクマに縁どられ痛々しいばかりである。まりあの御守りと尾行を頼まれてひと月になるが、毎度振り回されてばかり。かと言って責任感の強い少尉は、いいかげんなこともできず憔悴していくばかりであったのだ。ドタン!デスクに向き直ったところで、ドアの外で倒れる音がした。「中原少尉?」廊下に出ると中原少尉が気絶している。まりあの任務から解放された安堵から気を失ってしまったのだ。「急を要するなあ……」軍用スマホを取り出すと、大きなため息をついて、あの男を呼び出した。「おう、みなみ、嫁になる決心がつい...まりあ戦記・040『金剛武特務少佐』

  • かの世界この世界:132『発見』

    かの世界この世界:132『発見』語り手:タングリスヤマタの根城に近いのか、灌木林は鬱蒼としたジャングルのようになってきた。灌木の背丈はせいぜい三階建ての高さほどだが、ジャングルのようになった今は木や草の丈はほとんど十メートルはあろうかと思われた。かなりの草木が自分で発光していて、それも草木の種類によって色が違う。上空では風が吹いて小梢を揺さぶっているようで、地上に近い枝や葉っぱが蠢動し、それにつれて光が怪しげに重なり、あるいは交差したりするので不気味さはこの上ない。その上、猛獣ともクリーチャーともつかない咆哮や鳴き声が混じり合って耳から侵入し、ただでさえ混乱しそうな意識を切れ切れの混濁の中に封じ込められそうになる。「何か聞こえる!」テルの声でみんなが停まる。たいていは聞き間違いか幻聴なのだが、聞こえるたびに全員...かの世界この世界:132『発見』

  • オフステージ・144「」

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)144『展望室からの視線を感じて』松井須磨二人の間に恋が芽生えているのは確かだ。どちらかが、もう一歩踏み出せば二人は空堀高校の伝説に成れるだろう。二人には程よく粉を振ってある。二人は同じ演劇部の先輩と後輩だから、コクった後に上手くいかなかったらどうしようかという気持ちがあるんだろうね。たった四人の部活で気まずくなったら居場所がないもん。もっともな心配よね。千歳には下半身まひというハンデがある。千歳はね、仮にこの恋が実っても啓介に心配や迷惑をかけるんじゃないかと思っている。啓介は一見迷っている。千歳への気持ちが同情心なのか恋なのか区別がつかない。いや、本人たちは意識していないけど、それを理由に可愛く立ち止まっているだけだ。千歳の障害なんて問題じゃない。一年余りいっしょに部活をや...オフステージ・144「」

  • まりあ戦記・039『司令の息抜き・2』

    まりあ戦記・039『司令の息抜き・2』酔っぱらい⇒飲み屋のアルバイト女子⇒飲み客⇒コンビニ店員男子⇒コンビニ客の少女まりあが後をつけている間も四回入れ替わった。いずれもアクト地雷(炸薬は抜いてあるので、ただのアンドロイド)で、司令が捨てた後は、普通に初期設定の人物として行動している。いま司令はコンビニ客の少女になっている。少女はレジ袋をプラプラさせながら公園を斜めに横断しようとしている。――今だ!――まりあはダッシュすると少女を捕まえて、公園で一番大きな木の上に跳躍した。「なにするのよ!」少女は文句を言ったが、逃げようとはしなかった。どうやら、この高さから落ちれば故障のおそれがあるようだ。「普通、こういう状況では、悲鳴をあげるわよね」少女はシマッタというように表情をゆがめた。「司令だと言うことは分かってます」「...まりあ戦記・039『司令の息抜き・2』

  • かの世界この世界:131『ポチに救われる』

    かの世界この世界:131『ポチに救われる』語り手:タングリス油で揚げる前の天ぷらという感じだ。ストマックから吐き出された三人は胃粘液やら溶けた自分たちの服やら訳の分からない粘着質でベトベトになり、それが灌木やら下草に絡まって、起き上がることもままならなかった。「なんだ、おまえたちはあああああ!」頭上で声がした。なんとか首をもたげると、灌木の梢でポチが吠えている。葉っぱの盾と小枝の剣を構えて威嚇している姿は、健気とも可愛いとも言えるが、我々三人に、そんな余裕は無い。まとわりついているネバネバが急速に固まりはじめて、このままでは身動きどころか呼吸さえできなくなってしまいそうなのだ。「ポチ、わたしだ、タングリスだ。いまクリーチャーの胃の中から吐き出されてきたところだ」首を巡らせてテルと姫を確認。二人は口にまとわりつい...かの世界この世界:131『ポチに救われる』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・083『白絹屋の女将』

    漆黒のブリュンヒルデ・083『白絹屋の女将』気が付くと床の間を背に座っている。十二畳の座敷で、前には脚付きの茶托、湯呑からは仄かに湯気が立っていて、ここに座って間がない感じがした。カタカタカタカタ…………体の芯には、まだ人力車の振動が残っている……いや、振動は開け放たれた障子の向こう、廊下のさらに奥の方から伝わって来る。なんの振動だろう?縁の向こうは武骨だが品のいい庭になっていて、塀の向こうに見える山塊重なって豊かに落ち着いている。ああ、これが借景と言うやつか。少しは日本文化が分かってきたかな……しかし、景色のいい山だ。桜島のような猛々しい益荒男ぶりではないし、富士のような超絶した神聖を感じるわけでもないが、小兵な男たちが腕組みして惜しくらまんじゅうをしているような群像に見え、頼もしくも懐かしいユーモアを感じさ...漆黒のブリュンヒルデ・083『白絹屋の女将』

  • まりあ戦記・038『司令の息抜き・1』

    まりあ戦記・038『司令の息抜き』司令がベースの外に出ることはめったにない。俺の三回忌にやってきたのは、よくできたアンドロイドだ。だれも気づかなかったが、ホトケさんの俺には分かった。箱根の秘密基地はベースに居るのと変わらない。どちらも軍務だし、国防省の横やりが入ってからは足を運んでいない。常に臨戦態勢のベースだから、当たり前といえば当たり前なんだけど、どうやってリフレッシュしているんだろう?!……なんとか声を飲み込んだ。まりあは訓練に身が入らない。ウズメに慣れてくると自己流に動きたくなるまりあだが、反比例して縛りがきつくなる。パルス攻撃がかけられれば、短時間に、もっと効率よく戦える。八発しか撃てないレールガンを何度も装着し直さなければならない戦闘方に嫌気がさしている。だから、通り一遍の訓練を消化したあとは、勝手...まりあ戦記・038『司令の息抜き・1』

  • かの世界この世界:130『イン ザ ストマック』

    かの世界この世界:130『インザストマック』語り手:テル蠕動運動を起こした美容院は数秒で巨大な口になった!二十畳ほどあった床は舌に変わって、我々はロレロレ転がされて口の向こうの食道の方へ呑み込まれてしまった。ダスターシュートのような食道を抜けると遊園地のバルーンハウスのような所に墜ちた。フワフワしているところはバルーンハウスだが、ネバネバしている。「せっかくシャンプーしたところなのにい!」「姫、ここは巨大なクリーチャーの胃の中と思われます」「胃の中!?」「きっと、灌木林の中で開けた口を美容院に偽装して誘い込んだのでしょう、うかつでした」「シャンプーは、シャンプーリペアーと言って、瞬間でシャンプーとトリートメントをするだけのようだぞ」フォルダーを確認すると効能書きのテキストが出てきた。我々の不注意か、そういう魔法...かの世界この世界:130『インザストマック』

  • まりあ戦記・037『マリアの事情』

    まりあ戦記・037『まりあの事情』チ!もう百回は舌打ちした。レールガンを装着するたびにタイムロスが出る。一回につき0・2秒から0・8秒のタイムロスだが、十回装着すれば2~8秒のロスになる。これでは確実にヨミの攻撃に追い越されてまう。むろんウズメは改造されていて、ヨミのパルス弾を1000発受けても致命傷を受けることはない。一発の命中弾を受けると、ウズメは一秒ちょっとで衝撃を大気に逃がすので装甲を削られることがなく、いつも完璧な状態でヨミに対することができる。これをリペア機能という。「でも、百回に一回は複数の命中弾を受けて、ダメージが蓄積されるのよ。で、百回に一回が十三回続くとウズメのリペア機能が低下し、反撃することができなくなってフルボッコされてしまう」――だからこそのリバースでしょ――「「リバース!」」大尉の声...まりあ戦記・037『マリアの事情』

  • ポナの新子・91『池の向こうで』

    ポナの季節・91『池の向こうで』「へえ……竹下通りにこんなとこがあったんだ」「うん、通りからほんの何十メートルだけどね。穴場だよ」「ポナがこんなとこ知ってるなんて意外だな……ほ……見直した」「フフ、言いなおしたわね。ほ……なにかな?」東郷神社は、もう十月初旬の涼しさ。でも、ポナに見つめられて大輔は汗が流れてくる。「ここね、先月お父さんとお母さんのお誕生会をやったの。それまではあたしも知らなかったんだ……電話もらったときに、会うならここだと思った。正解だったわね」「そ、そうだな……」「池の向こうにベンチがあるの、座ろうか」「あ、うん」中州を貫いて、池の向こう側にかかるカギ型橋の中ほどにさしかかると、どちらともなく立ち止まった。「うわあ、コイがいっぱい!」エサをもらおうと赤や錦のコイが目の下に群れ集まっている。「す...ポナの新子・91『池の向こうで』

  • かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

    かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』語り手:テル努力の甲斐あって開けたところに出てきた。「もう、髪がビチョビチョのネチャネチャーーー!」ブリュンヒルデの髪は獰猛な植物たちの樹液に染まって薄っすらと緑色に染まり、その水分で重くなって、ぶん回すことを止めると大雨に降られたライオンのタテガミのようになった。「よく頑張られました、すこし休憩しましょう。姫、シャンプーさせていただきます」「こんなところでシャンプーできるの?」「回復アイテムの中にシャンプーがあります……」タングリスがホルダーにタッチすると、美容院のシャンプー台が出てきた。「立派なのが出てきた!」それだけではなかった、シャンプー台の周囲がムクムクと変化して本格的な美容院になった。「おお、すごい!」「ここまでとは!」「ドライシャンプーくらいのものか...かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

  • まりあ戦記・036『司令の事情』

    まりあ戦記・036『司令の事情』首都大が……そう言いかけて、みなみ大尉は吹き出してしまった。「まずいところを見られてしまったな」司令の声は異様に小さい。小さいはずである、デスクに収まった司令は呼吸をしているだけの抜け殻で、喋っているのはカップ焼きそばのカップの中でお湯に浸かっている体の一部だからだ。「どう見ても十八禁ですね」「それを見て笑うのは君ぐらいだがね」「以前は、この姿は絶対、人には見せませんでしたよね」「くだらん作戦会議のあとは風呂に入るのに限るからね」司令はカップ焼きそばの風呂の中で大の字になってプカプカ浮いた。「お背中流しましょうか?」「すまん、頼むよ」大尉はデスクの上の綿棒を持って、司令の背中を流してやった。「司令こそ有機義体に乗り換えてみては?」「この姿だからこそ非情になれる。非情でなければ司令...まりあ戦記・036『司令の事情』

  • ポナの季節・90『ちょっと大輔くん!』

    ポナの季節・90『ちょっと大輔くん!』白い花が一面に咲いている。花畑……と思ったが、地面まで白い。よく見ると地面は土ではなくシルクのようにきめ細やかにさざ波だっていて地平線のかなたまで続いている。――いい香り……この先に何があるんだろう……――ミツバチは地面すれすれをドローンのように飛んでいる。さざ波は、いつか無限に続くレースのヒダになり、白い花たちともにそびえていって壁のようになった。ミツバチは壁に沿って上昇していく。上昇するにしたがって、いい香りはますます強くなっていく。――この香り……どこかで……――記憶をまさぐろうとしたら、白い壁は反り返ってミツバチに迫ってきた。――ぶつかる……!――海老ぞりになって反り返りをかわす。それから横ざまになって壁にぶつからないように飛ぶ。壁は丘を横倒しにしたような丸みになっ...ポナの季節・90『ちょっと大輔くん!』

  • かの世界この世界:128『灌木林を進む!』

    かの世界この世界:128『灌木林を進む!』語り手:テル灌木林の獣道を進む。灌木とは言っても人の背丈の何倍もあって、その灌木たちはノンノンと葉を茂らせているので薄暗い。おまけに低木の枝とか蔓とかも手で避けられる量ではないのでアイテムフォルダーから出した鉈を振り回して道を広げなければならない。えい!……えい!……せい!……それ!……いちいち掛け声をかけて鉈を振りかぶるが、タングリスはほとんど無言で道を切り開いていく。「力を入れていては直ぐにバテるぞ」「ああ、分かるんだけど、声をあげないと力が入らない……せい!」「そうか、なら、わたしがペースを合わせよう。ひとまず汗を拭け」「あ、そうだな」言われて気が付いた、顎の先から汗がしたたり落ちている。ざっくり拭いてから首にタオルを巻く。ほんとうなら腕まくりをしたいところだが、...かの世界この世界:128『灌木林を進む!』

  • 銀河太平記・017『修学旅行・17・陛下』

    銀河太平記・017『修学旅行・17・陛下』大石一扶桑人以外の火星人が見ても「これは橋だろう?」と言う。なにがって言うと『皇居』だよ。皇居前広場に車が入って二重橋が見えた時は、四人とも感動で「ふわああ」とか「おほおお」とかしか出てこない。子どものころから写真で見る皇居と言えば、この二重橋だ。扶桑の千代田城も扶桑人にとっては神聖なものだけど、東京の皇居には及ばない。日本は扶桑人のルーツであるし、日本の中心は皇居だ。教科書に載っている『日本』のとびら絵は二重橋だし、社会見学で行った千代田城にも歴代将軍と並んで二重橋の油絵が掛けてあった。なんと言っても扶桑の元首は正式名称『征夷大将軍』の将軍で、五代前の扶桑宮さまに征夷大将軍の称号を与えたのが天皇陛下なのだ。今では独立国になったとは言え、扶桑人の皇室への畏敬の念はルーツ...銀河太平記・017『修学旅行・17・陛下』

  • まりあ戦記・035『大尉は司令を追いかけた』

    まりあ戦記・035『大尉は司令を追いかけた』舵司令は拒否権を持っている。2033年、未確認攻撃体ヨミが出現するまでは、どこの国でも軍の指揮権や作戦の決定権は人間が握っていた。しかし、どこの国でもヨミの出現と、その攻撃の凄惨さを予見できなかったため、コンピューターのAIがとって替わった。日本の防衛軍も例外ではなく、政府のマザーコンピューターであるアマテラスがその任に当たっている。アマテラスは独立したコンピューターではなく、日本各地に分散されている七つのコンピューターの総称である。ダイコクビシャモンエビスジュロウベンザイホテイフクロクの七機のコンピューターは相互に並列化されており、国家の重大案件に関して演算を繰り返し、国家の意思決定時には多数決で結論を出す。問題ごとにホストコンピューターが決まっていて、軍事に関して...まりあ戦記・035『大尉は司令を追いかけた』

  • ポナの季節・89『ワッチが終わって』

    ポナの季節・89『ワッチが終わって』「砲雷長、艦長がお呼びだよ」ワッチ(当直)が終わって自室に戻ろうとしたら船務長に声を掛けられた。「艦長、お呼びでしょうか」艦長は、士官室奥の談話スペースに居た。「すまんな、ワッチ明けに」「いえ、三時間もすれば上陸ですから」「そのまま家かい?」「ええ、両親の誕生日以来ですから」「ちょうどいい、妹さんに頼んでもらえないかな」そう言われてポナの顔が浮かんだのは、二月前の『中国ドローン事件』で艦長も達幸もポナに世話になったからだろう。「ドローン事件がらみですか?」「あの件では世話になったな……」艦長はきまり悪そうに頭を掻いた。あの件でポナが関わってくれなかったら、達幸も艦長も『ひとなみ』には乗っていられなかっただろう。「別件ですか?」「実は……」艦長が切り出そうとすると、隣の士官室か...ポナの季節・89『ワッチが終わって』

  • かの世界この世界:127『ポチのデジカメ』

    かの世界この世界:127『ポチのデジカメ』語り手:テルなるべく早く帰ってきてくださいよ(~o~)。お手上げというジェスチャーをして荒れ地の万屋はあきらめた。「ペギーさん困らせるんじゃないぞ」「「分かってる!」」これ以上ないというふくれっ面でロキとケイトの声が揃った。転送販売に来て帰れなくなったペギーは、我々がヤマタの神をやっつけてユーリアを連れ戻すまで子守をしてもらうことになったのだ。「あんな顔の二人は初めてだね」体と精神年齢では二人以上に子どもなのだが、空を飛べるポチは偵察と連絡役のために連れてきている。「どうだ、上から見て、この道があってるかどうか分かるか?」タングリスが聞くと、上空五メートルくらいのところでキョロキョロする。「分かんないよ、灌木の葉が茂って見当がつかない」「ち、使えないやつだ」「あ、いま舌...かの世界この世界:127『ポチのデジカメ』

  • せやさかい・177『夕べの紅顔 朝(あした)の白骨』

    せやさかい・177『夕べの紅顔朝(あした)の白骨』さくら夕べの紅顔朝(あした)の白骨……て知ってる?子どものころに、お祖父ちゃんが本堂で檀家さん相手に法話をしてるのを聞いてびっくりした言葉。夕べに頬っぺたが赤々するくらいに元気やった者が、朝方には死んで白骨になってるという例え話で。テーマは『この世の無常』です。つまり、世の中一寸先というか一秒先は分からへんということ。子どものわたしは、コウガン言うのを別の意味に思てて、ひとり真っ赤な顔をしてた。キン〇マが白骨になる!?白骨になるということは、骨が入ってるわけで、お父さんとお風呂には行ったときシゲシゲと見て面白がられた。詩(ことは)ちゃん、どないしたん!?学校終わって山門の前まで帰って来ると、ちょうど向こうから帰って来る詩ちゃんと出くわしてビックリした。「え?」自...せやさかい・177『夕べの紅顔朝(あした)の白骨』

  • まりあ戦記・034『ドカーン!』

    まりあ戦記・034『ドカーン!』カルデラは灰神楽が立つような騒ぎになった。文字通り灰神楽のような煙が五か所から立ち上り、最後の一か所は首都大学理学部の薬品庫を直撃されたもので四日目だと言うのに鎮火していない。どうやら学内で違法な薬品研究をやっていたようで、初期消火に使われた化学消火剤が裏目に出て予期しない小爆発が続いている。「ウズメの迎撃のせいではありません、ええ、迎撃は成功しています、ええ、ですから……」被害状況の確認に来たみなみ大尉は、大学関係者やマスコミや野次馬の市民に囲まれて、調査そっちのけで対応に追われてしまった。「人的被害が無かったのが不幸中の幸いだけど、こんな被害を招いたのは特務旅団の責任だろ!」「いえ、だから……」「ヨミの脅威は無くなったんじゃないんですか!?」「そんなことは……」「だいたい、ウ...まりあ戦記・034『ドカーン!』

  • ポナの季節・88『陽だまりの五人』

    ポナの季節・88『陽だまりの五人』「どうしてプロにならないんですか?」そう聞かれて、SEN48のメンバーは答えにつまってしまった。初めての記者会見に呑まれただけではない、そんなこと考えもしなかったのだ。「えと……二か月前に、やってみたいだけで集まって、気づいたら、ここにいたってのが正直なとこです。これでいいかな?」安祐美がメンバーに目配せ、ポナたちは顔を見合わせ、せわしく首を縦に振った。「なんだか仲良しの小鳥みたいだな」若い記者が言うと、温かい笑いがそよそよと会場に溢れた。「そう、実はこの空気なんです」田中ディレクターがニコニコしながら核心に触れる。「T自動車からCMのお話しがあって、すぐに動画サイトで観たこの子たちに結び付いたんです。この子たちは、ごく自然に学校からはみ出たんです。部活へのアンチテーゼでもなく...ポナの季節・88『陽だまりの五人』

  • かの世界この世界:126『荒地の万屋』

    かの世界この世界:126『荒地の万屋』語り手:テルそれは荒地の万屋だった!「「「「「ペギー!」」」」」みんなの声が揃った。「いやあ~、あんたたちだったのか!?」「ペギーさんて、魔法が使えるの!?」「いやはやいやはや……」ペギーは目をまん丸くして慌てたペンギンのように両手をパタパタさせた。「あんたたちは大得意さんのカテゴリーに入ったみたいだねえ」「大得意?」「ああ、大得意さんになるとね、ピンチの時は転送されるんだよ。さあてっと……ここはヘルムの島……神域の入り口に差しかかったところだね……それも、かなり深刻だ。神域が俗域と分断されてしまっているよ」「分かるんだ」「伊達に荒地の万屋やってないからね……おやおや、これから大変な戦いになろうって言うのに戦車を金ぴかに塗っちゃダメでしょ」「金ぴかに塗ったんじゃなくて、金ぴ...かの世界この世界:126『荒地の万屋』

  • 魔法少女マヂカ・183『』

    魔法少女マヂカ・183『通学のお供はクマさん』語り手:マヂカなぜか渋谷に出て青山通りを北西に進んでいる。高坂家のある原宿から青山の女子学習院に向かうには、後に141号線になる道を通れば真っ直ぐだ。三角形の一辺を通れば済むところを、わざわざ二辺通って遠回りをしている。「あちらが宮城の方角よ」霧子が左の車窓を指す。「あ……」ちょっとショック。渋谷から表参道の交差点に向かう道はきれいに整備されているけど、並木に彩られる表通りの向こうには、震災の爪痕が垣間見られる。焼け焦げて柱の残骸だけになった家々、真っ黒な骸骨のような電柱や立ち木たち、そういう街の残骸の中でも健気に立ち働く街の人たち。霧子は宮城の方角を示して、そういう震災の痕を見せたいんだ。原宿から真っ直ぐ進めば、そういう街の残骸の中を通らなければならない。松本運転...魔法少女マヂカ・183『』

  • まりあ戦記・033『ウズメの出撃初め』

    まりあ戦記・033『ウズメの出撃初め』あたし専用の非常呼集とは言え、みんな無関心すぎる。こんなにアラームと、あたしの官姓名を連呼しているんだ、立ち止まったり、モニターに注目したりがあってもいいと思う。通路で出会う隊員たちは、みんな日常勤務の顔をしているし、持ち場に急ぐ姿も見られない。徳川曹長だけが――大変だね――というような顔をしていたけど、やはり、これから戦闘配置という緊張感ではない。「この非常呼集は、まりあとスタッフにしか聞こえない」ハンガーで待っていたお父さん……司令は、ついでのように言った。「え、こんなにけたたましいのに?」「おまえの腕に埋め込まれたチップが、直接おまえの脳に働きかけて、アラームや非常呼集を感じさせるんだ」「え、そうなの?」「レギュラーなアラームを鳴らすと、それだけでヨミに感知されてしま...まりあ戦記・033『ウズメの出撃初め』

  • ポナの季節・87『夏の始業式』

    ポナの季節・87『夏の始業式』どうしてだろう、普通に制服着て家を出た。まだ二日だけど、SEN48のライブの仕込みに加わって着替えるということが身についてしまった。それまでの夏はほとんどパジャマと部屋着兼用のスウェットで過ごしていた。あらかわ遊園に行くときはデニムの上下、もう何か月も、その二着で過ごしてきた。ライブの仕込みと撤収で、Tシャツだけど日に三回は着替えた。ライブの間は緊張して意識しなかったが、夏は着替えるという当たり前の習慣を蘇らせていた。着替えると、その服にふさわしい場所に足が向く。向いた先は学校だった。――何かあるかなあ……――さすがに教室に入る時は緊張したけど、みんな夏のことなどには関心がなく話しかける者もいなかった。――……これをシカトだと思っていたんだなあ――他人事のように感じた。クラスのみん...ポナの季節・87『夏の始業式』

  • かの世界この世界:125『純金の四号では戦えないぞ』

    かの世界この世界:125『純金の四号では戦えないぞ』語り手:テル鋼鉄でできているはずの四号は純金になってしまっていた。半信半疑で砲塔の端っこを削って分析すると純度99.6%の金に変わってしまったのだ!「プレパラートの仕業なのかなあ(;'∀')」「下級クリーチャーのくせに生意気なことをする」ロキとケイトはイッチョマエに腕組みしているが事の深刻さは分かっていない。「すべて純金になってしまったのなら動かせないぞ」タングリスは参った様子で四号のあちこちをチェックする。わたしもブリュンヒルデも加わって二分もしないうちに完了した。転輪と誘導輪の被覆ゴムとペリスコープの防弾ガラス、照準器のレンズ以外は全て金に変わっていた。「金だとだめなの?」ケイトが素朴な質問をする。「金は重くて柔らかい、動かしたら荷重のかかるところが折れる...かの世界この世界:125『純金の四号では戦えないぞ』

  • オフステージ・143「」

    オフステージ(こちら空堀高校演劇部)143『本館四階の生徒会倉庫』瀬戸内美晴我が空堀高校の本館校舎は大正時代に建てられた。大正時代は1918年を境にして様子が異なる。1914年に第一次世界大戦が起こって、日本は勝ち組の米英仏側について、しかも戦場は地球の裏側のヨーロッパで行われたので、けっこうな好景気になった。その好景気を背景にして作られた学校なので、贅沢で余裕のある造りになっている。先日、大阪都構想の投票を前々日に控え、取材の為に上空を飛んでいた民放のヘリコプターが、迷うことなく不時着に使ったのがうちのグラウンド。なんと言っても府立高校の中で一番広いグラウンドなんだ。そのグラウンドでは、大阪一グラウンドの狭い北浜高校の野球部に(貸したくもない)グラウンドを貸す貧乏くじをかけて京橋高校野球部との試合が行われてい...オフステージ・143「」

  • まりあ戦記・032『あたしの好奇心』

    まりあ戦記・032『あたしの好奇心』六日目だけど、まだ慣れない。特任少尉になったことじゃない、少尉待遇というだけで軍務があるわけじゃないし、覚悟していた訓練も無い。年末年始は、ベースのあちこちを探検したので退屈もしなかったし、ストレスも無かった。ベース住まいになったことでもない。あたしは、子どものころから逆境には慣れている。早くから親のいない生活だったし、お兄ちゃんも死んじゃったし、三年前には、とうぶんボッチの生活だろうとすんなり覚悟できていた。なんていうんだろ、家族の都合で「一週間一人暮らしよ」と言われたような感じ。少し心細いけど、一週間たてば、みんな帰ってくるという安心、それまでは好き放題やってられる、そんな感じ。人生いつまでもボッチじゃないと思っている。大人になってしまえば、嫌でも人とのしがらみが出来て、...まりあ戦記・032『あたしの好奇心』

  • ポナの季節・86『イントレに登っちゃいけない』

    ポナの季節・86『イントレに登っちゃけない』「イントレに登っちゃいけないよ」照明のチーフから注意されて「はい!」と夏は元気よく返事をしてしまった。今日はアシスタント見習いの初日。チーフは夏が中学生なので「やってはいけないこと」から教えてくれた。その最後の注意が「イントレに登っちゃいけない」だった。スタッフは揃いの黒のTシャツにガチ袋ぶら下げて首にはタオルを巻き、頭は黒いキャップかタオルをファッショナブルに巻いている。夏も同じ格好をするとイッチョマエに見えるが、ずぶの素人であり、ただの中学二年生だ。「なっちゃんは、ケーブルを言われたところに運ぶのと巻き上げるのが仕事。注意もしたけど、危ないと思うことはやらないこと。いいね」「はい」ケーブルだけと言われて「なんだ」という気持ちがあったが、トラックの荷台を見てびっくり...ポナの季節・86『イントレに登っちゃいけない』

  • かの世界この世界:124『プレパラートの攻撃!』

    かの世界この世界:124『プレパラートの攻撃!』語り手:テルヘルムの島を二つに割ってヤマタは勝負に出たようだ。「いったん戻った方がいいような気がする……」「四号も飛べるようになったみたいだし、出直した方がいいような……」ロキとケイトが気弱になる。「四号が飛んだのは火事場の馬鹿力だ、安定的に出せるものではない」ブリュンヒルデは自分のウィンドウを開いて見せた、黒魔法のフライはレベル5に過ぎない。なによりMPの残量が8しかなく、ファイアとかの初級魔法を二度ほどやったら枯渇するレベルだ。ブーーーーン小さな扇風機のような音をさせてポチが下りてきた。「ユーリアの残像が山の方に続いていたよ。それと、なんだか分からないけど禍々しい気配が目の前の林からするよ」突然の地震にビックリして飛び上がってしまったんだろうが、一応の偵察はや...かの世界この世界:124『プレパラートの攻撃!』

  • まりあ戦記・031『今日からは特任隊員』

    まりあ戦記・031『今日からは特任隊員』どこで間違えてしまったんだろう?百のパーツを組み直したマリアの骨格は二センチほど高くなってしまった。ベースのスタッフは「自分たちでやるからいいですよ」と言ってくれたが、自分の代わりに犠牲になったマリアを人任せにするのは忍びなく、まりあはマニュアルに沿って、丸三日かけて復元した。で、マリアは背が高くなってしまったのだ。「ま、いいわよ。伸びた分は腰から下だし」鏡に姿を映し、ポーズをとりながらまりあが答える。「徳川曹長、そんなマジマジ見ないでくれる。あたし、チョ-裸なんだけど」「スケルトンの状態で言われてもねえ」マリアは、長時間高熱で焼かれたためにムーブメントとPC以外は焼け落ちて骸骨同然になってしまっている。「オホホ(ケタケタ)、これで肉を付けたらナイスボディーになるかもね」...まりあ戦記・031『今日からは特任隊員』

  • ポナの季節・85『夏の居場所』

    ポナの季節・85『夏の居場所』SEN48は「エスイーエヌ・フォーエイト」と読む。SEはポナ・安祐美・由紀・奈菜の世田谷女学院を、Nはみなみの乃木坂学院のイニシャルを現し、48はそれぞれの学校の所番地の四丁目と八丁目からとっている。つまり符丁のようなもので、とりたてての意味や意気込みがあってのことではない。もともと世田谷女学院に住み着いていた幽霊の安祐美が、ポナたちを言いくるめて作ったユニットで、月に何度か路上ライブができればくらいのノリで始めた。この二か月でSEN48は変わった。東北の被災地や、あらかわ遊園でのライブを重ねることで音楽の力を知った、知ることでメンバーには力が付いた。技量はまだいま一歩だが、歌や演奏に心がこもるようになってきた。「なっちゃんにはしばらくアシスタントをやってもらう」安祐美は夏を見送る...ポナの季節・85『夏の居場所』

  • かの世界この世界:123『対シリンダー戦』

    かの世界この世界:123『対シリンダー戦』語り手:テル空を埋め尽くすほどのシリンダーの群れだ。全てを相手にすることは出来ない、群れの薄いところを集中的に攻めて穴が開いたところから突破するしかない。時間をかけていると融合体になってしまって手が付けられなくなる。――三式弾だ、三時の方向が薄くなっている、撃ったら突撃する――「三式弾ヨーイ!」「ラジャー」ブリュンヒルデが命じ、ロキが弾を込める。三式弾とは一種のクラスター弾で、目標に最接近したところで炸裂し、打ち上げ花火のように幾百の子弾をまき散らす。シリンダーの群れに穴が開いたところを一気に突き抜けようと言う作戦なのだが簡単ではない。一撃で致命傷を与えられるのは炸裂の中心から半径十メートルほどがせいぜいだ。傷ついたシリンダーは直ぐに融合して、その名も融合体となって難儀...かの世界この世界:123『対シリンダー戦』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・082『利根川沿いを進む』

    漆黒のブリュンヒルデ・082『利根川沿いを進む』人やモノが存在するのは、煎じ詰めれば人が存在すると認識しているからだろう。認識されないのは存在しないと言うことと同じだ。わたしが令和の日本に飛ばされたのも、きっとそう言うことなんだろう。主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将!堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士!我が名はブリュンヒルデなるぞ!大層な名乗りをしても、わたしがブリュンヒルデと認められるのは、つまり、そう言うことなんだ。この令和の時代は、ゲームやラノベ、アニメのお蔭で北欧神話の神々は日本でも知られるようになたからなんだ。スマホで神々を検索すると、ことごとく萌えキャラの姿に還元されて、ご本家の北欧の人々はブッタマゲているという。我が真名の下にはモンストやバーサーカーやシグルド、アトリ、ポニョという属性が...漆黒のブリュンヒルデ・082『利根川沿いを進む』

  • まりあ戦記・030『ずらかるわよ!』

    まりあ戦記・030『ずらかるわよ!』どこ触ってんのよ!?思ったけど声に出せなかった。まりあは、大きなクマさんのぬいぐるみの中に入って、運送屋に化けた兵士の肩に担がれている。「まりあ、ずらかるわよ!」朝帰りのみなみ大尉に言われたのは、ついさっきだ。大尉に続いて運送屋に化けた兵士が五人入って来た。一人は徳川曹長だ、曹長は部下にテキパキ指示をすると熊の大きなぬいぐるみをひっくり返し、ジッパーを開けると、こう言った。「安倍まりあは死んだことになったので、これに入れて運ぶよ」「え、なに?どゆこと?」曹長はニッコリ笑って、まりあにぬいぐるみを被せると、部下に指示して担がせたのだ。「どうも、お世話になりました」大尉は、お隣りさんには声を掛けておいた。「あら、急なお引越しなのね!」「はい、急な異動で」「大変ね軍隊は……あ、まり...まりあ戦記・030『ずらかるわよ!』

  • ポナの季節・84『予感していたわけじゃない』

    ポナの季節・84『予感していたわけじゃない』予感していたわけじゃない。ただ一日だけ休んでエンジンを休めたかった。エンジンと言っても自動車ではない。ポナの頭であり、心でもあり、体でもあるが、ひっくくって言えばエンジンになる。とにかく、ほんの一日クールダウンしてみたかった。それが、アゴダ劇場から帰って家の玄関ドアがグニャリとゆがんだかと思うと意識が無くなった。ぼんやり意識がもどると、お母さんに裸にされていた。赤ちゃんの頃の記憶がもどってきたような気がした。――……そうだ、こんなふうに体拭いてもらってたなあ――――やっぱり救急車よんだほうがよくない?――――ただの立ちくらみだって――そうして、また意識が無くなった。夢の中にポチが現れ、ポナのホッペを舐める。――ありがとうポチ、心配してくれてるんだよね……フフ、くすぐっ...ポナの季節・84『予感していたわけじゃない』

  • かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』

    かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』語り手:テル四号が空を飛んだ!「何かににつかまって振り落とされないようにしろ!」タングリスが叫んだ。砲手席には手すりが無いので、砲尾の薬莢バスケットの枠を右手で、左手でハッチのハンドルを掴んで耐えた。他の乗員も、それぞれ手近の突起物やレバーに掴まっている。ブリュンヒルデ一人がコマンダーシートに立ったままで、上半身をキューポラの外に晒している。その姿で察した。四号を飛ばしているのはブリュンヒルデだ。「姫の中で何かが覚醒した!しかし不安定だ、どうなるか分からん!しっかり掴まっていろ!」「「「「ウワーーーーー!!」」」」急に降下して一瞬無重力状態になり、すぐに、降下した分を取り返すように急上昇。みんなあちこちぶつけたようで悲鳴が上がる。「ポチ、外に出て様子を見ろ、ふつうに飛べ...かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』

  • まりあ戦記・029『火柱まりあ!』

    まりあ戦記・029『火柱まりあ!』玄関前に集まっていたのは街の人たちだった。三百人近く居るだろうか、それも、しだいに増えつつある。――思ったより早く集まってる、まりあと入れ替わっていて正解だった――学校の玄関は吹き抜けになっているので、二階から階段を下りながら玄関の様子が観察できる。「あ、安倍さん」担任のエッチャン先生が小さく呟いたのを校長も街の人たちも見逃さなかった。ざわめきが収まり、三百人分の視線が集まる。「あなたが安倍まりあね!」「ウズメのパイロットだな!」年かさの二人がまりあを指さすと、まりあを取り囲むように三百人が動いた。「ここは手狭です、表に出てください」そう言いながら、まりあ(マリア)は歩を緩めずに校舎の外に出る。――立ち止まったら終わりだ――そう思って、まりあはグラウンドを目指した。グラウンドに...まりあ戦記・029『火柱まりあ!』

  • ポナの季節・83『アゴダ劇場演劇祭』

    ポナの季節・83『アゴダ劇場演劇祭』T駅で降りると、酷暑の日差しの中を五百メートルも歩かなくてはならない。そこで真奈美ママさんは夏といっしょにタクシーでアゴダ劇場に乗り付けた。「……アハハ、運転手さん姉妹だと思ってましたね!」タクシーを降りた夏は吹き出してしまった。「ポナのファンは若い子が多いから目立たない格好って、これになるのよね」「そうね、お姉ちゃん」夏も調子を合わせ、二人そろって劇場のガラス戸に姿を映してみた。どこから見ても中学生と高校生の姉妹だ。埋まり始めた観客席の中ほどに座った。大輔は友だち六人を連れてかぶりつきの席に着いた。遠慮して後ろの方に座ろうかと思ったが、友だちみんなが席をとったので、それを言いわけにして「今日ぐらいはいいだろう」と自分を納得させた。SEN48のメンバーはバラケて客席の後ろの方...ポナの季節・83『アゴダ劇場演劇祭』

  • かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4・ユーリアのたくらみ』

    かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4』語り手:ブリュンヒルデ四号戦車試乗会はヘルム文化フェスティバルになってしまい、プログラムが進むうちにアイデアが出て、ますます賑やかになってきた。大道芸人友の会のパフォーマンスが終わると『大声コンテスト』になり、二十四人が手を挙げて声を競った。ウオーー!ガオーー!猛獣のような叫び声をあげる者もいれば、バカヤローー!とうっ憤を晴らす者、愛してるーー!と叫んで、誰を愛してるんだーー!?と聴衆に迫られ、とうとうその場でプロポーズをさせられてしまう者まで現れた。子どもたちもなにかやりたい!ということで、ハングライダークラブが紙飛行機コンテストを始めた。丘の上には麓から上昇気流が噴き上がってきているので、どの紙飛行機も大空高く飛び上がり、優勝した紙飛行機は、とうとう姿が見えなく...かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4・ユーリアのたくらみ』

  • 銀河太平記・016『修学旅行・16・元帥の質問』

    銀河太平記・016『修学旅行・16・元帥の質問』児玉元帥が身を乗り出してまで聞いてきたのは、僕が扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子だからだろう。「将軍陛下の地球ご訪問は噂になっているんだろうか?」高校生に聞くには直截的過ぎるし、元帥と言う立場からして軽すぎる。「将軍は、修学旅行の見送りにも来てくださいました(^▽^)!」未来が嬉しそうに応える。そうなんだ、将軍は書院番の中尉を引き連れただけの身軽さで扶桑宇宙港に見送りに来てくださった。わざわざの見送りではなく、日課の馬駆けの途中に扶桑三高の修学旅行の出発を耳にしたからという体裁をとっていた。「地球は私たち火星人の心のふるさとだ。特に日本は、この扶桑の国の大本だから、大いに楽しんでおいで。勉強に行くんだと思ったら肩に力が入っちゃうからね。楽しむことができたら、おのず...銀河太平記・016『修学旅行・16・元帥の質問』

  • まりあ戦記・028『友子のリップクリーム』

    まりあ戦記・028『友子のリップクリーム』「まりあ、前から言おうと思っていたんだけどさー」指先でシャ-ペンを器用に回しながら友子、いかにも勉強に身が入りませんというオーラを発散している。「なによ……」明日の試験に向けて一心不乱にノートの中身を暗記しようとしているまりあは生返事。「まりあのお肌、荒れてなくない?転校してきたころの瑞々しさないよ」「いろいろ気ぃつかってるからね~」友子の顔も見ないで生返事。友子も真剣な物言いではない。勉強が億劫なので、なんとなくの話題をふってみただけである。だけど、女子の無駄話というのは、まったく根のないものでもない。確かにまりあの肌は荒れている。ヨミとの三回の戦い(一度は異空間での戦いで、一般には知られていないが、まりあには一番苦しい戦いだった)、見えてこない戦いの見通し、慣れない...まりあ戦記・028『友子のリップクリーム』

  • ポナの季節・82『オレンジ色の自転車』

    ポナの季節・82『オレンジ色の自転車』蝉しぐれの歩道を五人の女子高生が歩いてくる。SEN48のメンバーだ。車道の向こうからT自動車の新型が走ってきた。蝉しぐれの街、SEN48メンバーの日常、新型車のカットバック。ケラケラ笑って車道にはみ出すメンバー、迫りくる新型車。メンバーの驚く顔、ブレーキがかかって停まる新型車。ライブで汗を流すSEN48、様々なアングルから。ペコリと車に頭を下げるメンバー、車走り出し、SEN48は見とれながら見送る。――はみ出た青春受けとめます――「かっこいい……」一昨日から始まったT自動車のCMを見るたび、夏はため息をつく。「夏、T自動車が好きなの?」「え、ああ、ううん」テレビのスイッチを切ると、もの言いたそうな母を背に家を出た。母と話したら、来週に迫った二学期のことに触れられる。まだ学校...ポナの季節・82『オレンジ色の自転車』

  • かの世界この世界:120『四号戦車試乗会・3・スゴイことになってきた』

    かの世界この世界:120『四号戦車試乗会・3』語り手:ブリュンヒルデ丘の上はお祭り騒ぎになった。一度に九人の子どもたちを乗せて丘に登る。その様子は、町内どころかヘルム中は大げさだけど三キロ離れた所からでも見えるのだ。ロートルの四号はエンジン音が大きく一キロ先からも聞こえ、五百メートルくらいだと試乗している子どもたちの歓声まで聞こえるらしい。その音やら歓声やら武骨な四号の姿を見た人たちが予想外に集まった。歩いてくる人やマウンテンバイクで登って来る若者、車でやってくる人、中にはブルドーザーやユンボに乗って、少しでも戦車に近い気分で登って来ようという人などで、四回目の九人を運び終わった時には数百人のヘルムの人たちが集まってしまった。「だれか仕切らないと収拾がつかないぞ」タングリスが呟いたのはもっともだが、これは――自...かの世界この世界:120『四号戦車試乗会・3・スゴイことになってきた』

  • せやさかい・176『専念寺さんの再入院』

    せやさかい・175『専念寺さんの再入院』さくら専念寺さんて憶えてるやろか?去年の三月に、この家に来た時住職さんが入院してはって、うちのおっちゃんやらテイ兄ちゃんが代わりに檀家参りやお寺のアレコレしてあげてたご近所のお寺。その専念寺のご住職さんがまた入院しはった。それで、おっちゃんとテイ兄ちゃんが再びピンチヒッターで助けに行くことになった。お祖父ちゃんは腰が痛むので手伝いには行かへんらしい。専念寺さんとうちを合わせたら檀家の数は三百軒近くになるんで、おっちゃんもテイ兄ちゃんもめっちゃ忙しい。「うちは本願寺派(お西さん)やから融通きくけど、他の派とかやったらしんどいやろなあ……」お祖父ちゃんがお茶を飲みながらしみじみ。お寺の事はよう分からへんけど、うちの如来寺が本願寺派やいうことは知ってる。末寺が一万ほどもあって、...せやさかい・176『専念寺さんの再入院』

  • まりあ戦記・027『マリア? まりあ?』

    まりあ戦記・027『まりあ?マリア?』これが本当ならどんなにいいだろうため息一つついて、まりあはチャンネルを変えた。変えたチャンネルはうるさいだけのバラエティーだったので、それ以上変えることもなくテレビの電源を切った。さっきの情報番組では「ヨミの攻撃はもう終わった」とコメンテイターが言って、スタジオのゲストたちが賛同していた。もう二か月以上ヨミの攻撃が無いこと、大気中の二酸化炭素が減少傾向にあること、北極の氷が減っていないことなどを理由にあげていた。ヨミの出現は、地球温暖化を始めとする環境破壊にあるとする俗説は、今でも人類の20%ほどが信じている。客観的に温暖化は終わっているのだが、局地的な異常気象や天変地異を取り上げることで「温暖化は進んでいる!」と言い張ってきていた。だが、ここ数年、世界の気候は寒冷化の兆し...まりあ戦記・027『マリア?まりあ?』

  • ポナの季節・81『胸に秘める』

    ポナの季節・81『胸に秘める』「うん、それでいこう!」吉岡先生が手を叩いた、みんなの拍手がそれに続く。「え、今の……」いつもの調子でやっただけなので、ポナは面食らった。「今までのも完成はしていたけど、たった今のは突き抜けてた。ほら、ここんとこ」祈るようなまなざしで、クララの椅子を見つめ、気持ちをふりきるようにして、シャルロッテ退場。開幕の時のヨーデル急速にフェードイン。その高まりに比例して、クララの椅子きわだつうちに幕。「いつものようにハイジを追いかけて出て行ったクララだけど、今度はシャルロッテ自身が命がけで相手をした。クララへの信頼だけじゃない、これはシャルロッテの自己肯定でもあるの。祈らなきゃならないほどにか細いものだけど、最後のところで自分がしたことに自信を持とうっていう、若者の自己肯定、それが本物になっ...ポナの季節・81『胸に秘める』

  • かの世界この世界:119『四号戦車試乗会・2・ゲペックカステンを外す』

    かの世界この世界:119『四号戦車試乗会・2』語り手:タングリスベンチだけでは心もとないので手すりを付けることになった。言い出したのはユーリアだ。戦車と言うのは意外にグニャグニャなのだ。四号の場合、サスペンションが転輪二個に一つの割合で付いている。発進するときには後ろが沈み込み、停車の時には前が沈み込む。不整地を走る時にもトラック並みにグニャグニャ揺れる。サスのストロークは自動車の倍ほどもあるので、ベンチに座っただけでは振り落とされかねない。ユーリアは、思いつくと近所の鍛冶屋に言づけて一時間余りで作ってもらえることになった。我々乗員にも仕事はある。ベンチを付けるために、砲塔の後ろのゲペックカステン(物入れ)を外すのだ。他の乗員は早くから集まってきた子どもたちの相手をしてくれている。子どもの相手が苦手なわたしはヤ...かの世界この世界:119『四号戦車試乗会・2・ゲペックカステンを外す』

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