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敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
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岐阜市
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伊万里市
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2014/10/10

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  • 恨みます (三)

    「明日は久しぶりの晴天ですよ。梅雨のなか休み、といったところですね。みなさん、お洗濯、がんばりましょうね」昨夜のテレビ画面に、満面に笑みをたたえて女性天気予報士が誇らしげにでていた。ミニスカートでその美脚を見せてくると、ネットで騒がれている予報士だ。面長で目がパッチリ系の、かわいい女性だと評判になっている、らしい。「らしい」といういうのは、一樹の美意識には、かわいい系は存在しない。美人かそうでないか、二者択一なのだ。そして大半の女性たちが、美人ではないの部類に入ってしまう。だからといって、いわゆるブスだと思っているわけでもない。一樹にとっての女性は異性ではなく、お客さまという感覚が染みついてる。といっても、女性に対する無関心はいまに始まったことではないのだが。「くそが!はずれちまってるじゃねえか。こんや、土下座...恨みます(三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十六)

    「ここは日本国だ。アメリカ国じゃないんだ!日本のアクセントで良いんだ。なあ、上ちゃん」と、正三が援護する。いつもは泰然として、五三会の面々の話には割り込まない。その正三が、今夜ははしゃぎ回っている。顔を見合わせて不思議がる面々だが、そんな彼らを尻目に、「さあ、着いたぞ!キャバレー・ムーンライトだ。ぼくの大事な、薫さまは居るかな。八千草薫さまー!」と、杉田の嬌声が響いた。きらびやかなネオンの光に、星々の光も弱々しい。浮かんでいる月もまた、寂しげな色に見える。この星空の下で大勢の家族が生の営みをつづけている。三代、四代の大家族もいれば、親子三人四人の小さな家族がいる。ひとり暮らしの青年もいれば、夫婦二人だけの世帯も――そこに思いが至ったときに、正三の思考が停止した。夫婦二人――瞬時に小夜子が浮かび、少し遅れて武蔵が...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十五)

    杉田の先導で、きらびやかなネオンサインの下を歩いた。キョロキョロと辺りを見回す正三に、「坊ちゃん、まるでお上りさんですよ。恥ずかしいからやめてくださいよ」と、上本が正三の袖を引っ張った。「だって、初めていや二度目なんだぜ。ここが夜の銀座という所かい?いゃあ、凄いねえ。まったく別天地だ。日本復興のすさまじさを、確かに感じるね」上本の言などまるで意に介せずに、立ち止まってぐるりと見渡したりしている。「坊ちゃん、坊ちゃん。ほら、あそこで婦女子が笑っていますよ。あれれ、手なんか振り出した。ひょっとして知り合いですか?」小山の指差す先を見ると、正三たちに確かに手をふる女性がいる。「あれえ?誰だあ、彼女は。手招きしてるじゃないか、行かなくちゃならんのかな」と、車の行き交う中に飛び出さんばかりに正三が動いた。「おいおい、佐伯...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十四)

    「課長。局長への報告、済ませてきました」小柄な五十を数える杉田課長も、今では正三に頼りきっている。乱雑に積み上げられた書類の陰から、くぐもった声が返ってきた。「ありがとう、ご苦労さんでした。佐伯くんが行ってくれると助かるよ。本来ならあたしがご説明に行くべきなんだが、質問をされると困っちゃってね。結局、佐伯くんを呼ぶことになる。で、局長のひと声で佐伯くんになった。これからもよろしく頼むよ」「課長、今晩の予定は大丈夫ですね。ちょっと趣向を変えて、キャバレー辺りに繰り出そうかと思うんですが。お嫌いですか、そういった場所は」小声で正三が確認をする。“上司を手なづけるのも大事なことだ。飲み食いをしっかりさせて、お前のシンパにしておけ”とは、源之助のご託宣だ。「キャバレー?こりゃ意外だ。佐伯くんの口からそんな言葉を聞けると...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十四)

  • 恨みます (二)

    「5万円からとなっています」と受付で告げられたとき、「金はかかっていいから、とにかく早くきれいにしてくれ」と財布をとり出して数十枚の一万円札を見せた。ある意図を持ってのことだったが、受付の歯科助手には見せびらかしと受けとめられてしまった。「ご予約を」と告げられたが、割増料金を払ってもいいからすぐに頼みたいと、強引に押しきった。不遜な男だという情報がつたえられて、腫れ物にふれるようなお客さま扱いとなった。笑みを浮かべて接する衛生士だったが、ぎこちなさが一樹をいらだたせる。「フレンドリーな店だぞ。狙ってみろ」というアドバイスを受けて、肩に力が入っている一樹だった。獲物をねらう狼という印象をさけるための、裕福な家庭のお坊ちゃんという設定での一万円札の見せびらかしが裏目に出てしまった。一樹にしてみれば、自分の商売が詐欺...恨みます(二)

  • 恨みます (一)

    朝。「なんだよ、おい。話がちがうじゃないか!」曇り空を、恨めしそうに一樹が見上げている。「おれは、くもり空がいっちばんきらいなんだよ。晴れなら晴れ、雨なら雨って、はっきりしろよ。中途半端はよお、俺だけで十分なんだよ、まったく」洗面台に顔をつっこみながら、口いっぱいに泡だった歯磨き粉をはきだした。ガラガラとうがいをして、昨日にホワイトニングを施した白い歯を鏡のなかに映しだした。正面から見る、右横に顔をうごかして、左にまたうごかして見る。どの方向から見ても真っ白だ。大きく口をあけて下歯の裏がわをのぞいてみる。つづいて上歯の裏がわも。こちらも真っ白だ。「プロはちがうな」。高額な金額だったことにも納得ができた。「歯が汚いとお客がにげるぞ」との、先輩社員からのお小言にあわてて歯医者に飛び込んだ。「セルフの方が断然安いよ」...恨みます(一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十三)

    茂作にそしられた正三、小夜子に絶縁を宣告された正三だが、しかし落ち込んでいる暇はない。省内の廊下を歩く折には、必ず五三会の面々が後ろにつづいている。「佐伯さん、佐伯さん」いつものように背筋を伸ばして前を向き、すれ違う省内の者に対して慇懃な挨拶を返す正三を呼ぶ者がいる。「誰だ、あれは?」「M無線じゃないか?テレビジョン製造問題で、通産が揺れてるらしいじゃないか」大柄な体を小さくしてもみ手をしながら、男が正三に近づいてきた。深々とお辞儀をしてから「今晩、お時間を頂けませんか?ちょっと趣向を変えて、キャバレーなどいかがです?」と、にやけ顔でお伺いを立てた。「M無線さん。何だよ、そりゃ。そんな下世話な所に、坊ちゃんを連れて行くって言うのかい?」と、山田が言う。しかし「いや、案外面白いかもな?ドレス姿の女給というのも、い...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十二)

    「さ、小夜子、お前、まさか!」茂作の怒声が部屋にひびき渡った。まさかとは思いつつも、懐妊という二文字が頭の中で飛び回りはじめたのだ。「なに、考えてるの!ちがうわよ、ちがう!」手を振りながらふるえ気味の声で打ち消した。武蔵もまた茂作の心配事に気付き「だと良いんですが、それはないでしょう」と、否定した。ほっと安堵の表情を見せる茂作に、「おめでた、ということか?」と、繁蔵が小夜子の顔をのぞき込んだ。「だとしたら、めで、、」。「だから、ないんです」と、キッと睨み付けながら声をかぶせた。「おっと、いかんいかん。それではわたしはこれで。今日中に戻らなければならんのです。明日、約束があるものですから。小夜子は、泊まっていけ。二、三日ゆっくりしてから戻ってこい」武蔵が身体を起こすと、「いや、一緒にかえる」と、その袖をつかんだ。...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十一)

    母親の位牌の前で手を合わせる小夜子の耳に「良かったね、小夜子。幸せになるのですよ」と、そんな声が聞こえた気がした。「お母さん、あたしはお母さんのようにはならないわ。きっと幸せになってみせる、あたしを見守っていてね」目を閉じて母を思い浮かべると、床に就いている姿がある。青白い顔色の澄江が、精一杯の笑顔で小夜子を見ている。しかし小夜子が澄江の傍に近づこうとすると、きまって「だめ!お部屋に入ってはいけません」と、か細いながらも強い声が飛ぶ。「小夜子、大丈夫か?入るぞ、俺にも挨拶をさせてくれ」と、武蔵の声がかぶった。「いいわよ、入って」。ほほを伝った涙の筋をハンカチでおさえてから答えた。小夜子の隣に座ると、両の手を合わせて「御手洗武蔵と申します。小夜子を伴侶として迎える男でございます。どうぞ、お見知りおきください」と、...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十一)

  • [毎日が日曜日]

    若い頃は寿命なんて考えたこともなかったんです。いつまでも未来があると考えていた気がします。結婚生活は諸々の制約を受けながらも、その空気感を愉しんだはずです。遅めの子どもを授かり、家庭団らんという、正直のところ味わったことのないふんわり感は楽しかったし、そしてまた窮屈でもありました。けれど、二十年間ほどで結婚生活にピリオドを打つことになっちゃって。独りになって自由気ままな生活はありがたいなんて、強がりもしたんですけどね。65歳になって突然に活動的になりました。2014年10月、高校時代の友との三人旅が始まりでしたなあ。回春旅行だなんて、盛り上がりましたよ(わたしだけでしたかね、そう思ったのは)。そしてその年の12月に出雲大社に出かけて、それ以来あちこちの神社仏閣巡り・美術館巡りやらにのめりこんだということです。三...[毎日が日曜日]

  • 次回作のこと

    ボク、みつけたよ!を終えさせたことによる、ロス状態に陥っています。書き終えたのが2月28日でした。ある文学賞向けに急ピッチで仕上げたものですから、疲れています。当初は応募作品にするつもりはありませんでした。数年にわたり応募したこともあり(敢えなく撃沈です)「参加しませんか」メールが届いたものですから、「こりゃ応募しなくちゃ」なんて義務感みたいものが湧いてきちゃいまして。ねえ、別に義理立てする必要はないんですけどね。以前ほど応募に対する意欲もありませんし、年齢的なことを考えると商業的観点から難しいのかなとも思いますし。でもまあ宝くじと同じで、参加しなくちゃ先は絶対にないわけですし。ということで、次回作について迷いに迷いましたが、これまた中断してしまった[恨みます]を仕上げようかと思い立ちました。この作品は、疑似恋...次回作のこと

  • ボク、みつけたよ! (五十七)

    「あんた、だれ?」呆然と立ちつくすあなたでした。快感でしたよ、それは。じつに、愉快だ。おおごえで笑いたい……。でも、引きつった表情のあなたを見たとたん、背筋になにか冷たいものが流れた気がしました。ぞみぞみと背中が波打ち、お腹がゴロゴロとゆるくなり、のどが干からびていく。「いまさら……」。そう言ったつもりが、「なんだよ、いまごろ」とことばが変わっていました。がっくりとひざを落としたあなたは、「としちゃん、としちゃん」と、嗚咽のなかにわたしの名前を呼びました。初めてじゃないですか、わたしを名前で呼んだのは。いつも「ボクちゃん、ボクちゃん」としか呼ばなかったあなたが、初めて名前で呼んだ、呼んでくれた。ボタボタと大粒の涙をこぼしながら、なんどもなんども「ごめんね、ごめんね」と。そうなんだ、そうだったんだ。あなたがわたし...ボク、みつけたよ!(五十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百二十)

    「茂作、そうなのか?そんな話が持ち上がっていたのか?それで、正三との話をご破算にしたのか?なんで言うてくれんのじゃ、そんな大事なことを。お前ひとりで、どうするつもりじゃった!」思いもかけぬ話に、繁蔵が茂作を問い詰めた。「別に本家の世話になるつもりはなかったですけ」。冷たく言い放つ茂作に、次の言葉が出ない繁蔵だ。「ところが、その話が頓挫してしまいまして」「はあはあ、そうでしょうとも。そんな夢物語りみたいなこと、あるわけがないでしょう」得心したように助役は頷くが、繁蔵は不機嫌な色を隠さない。そして茂作は俯いたままで、ひとり武蔵だけが、嬉々として語った。三人に話すと言うよりは、事の顛末を思い起こす―己に言い聞かせるようだった。「いやいや頓挫といっても、ある意味不可抗力なんです。いや別の角度からすると、遅すぎたとも言え...水たまりの中の青空~第二部~(二百二十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十九)

    ひとり合点する武蔵、しかし茂作にはいまいましく聞こえる。“ふん。なんで、わしが行かにゃならん!娘婿が来るのが当然じゃろうが。仕事が忙しいからと、舅をないがしろにするような男なんぞ!まあいい、こんな男に会いたいとも思わん。しっかりと金を稼いでくれればいいさ”憤慨する茂作だったが、“我ながらいい口実を作ったもんだ。小夜子を実家に帰らせれば爺さんも喜ぶし。俺もまた、命の洗濯としゃれこむこともできる。こいつは一挙両得の妙案じゃないか”と、武蔵に浮気心がむくむくと起き上がってくる。つい、不遜な笑みをつい洩らしてしまった。「小夜子、どうした?お前、泣いているのか?初めて見たぞ、お前の涙なぞ。感の強い娘じゃとおはばさまがおっしゃられていたが」と、涙をこぼす小夜子に声をかけた。「そりゃ、泣けてもくるじゃろう。好いた殿御と結ばれ...水たまりの中の青空~第二部~(二百十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十八)

    “えっ?なんのことなの!あたし、そんなこと話してないわ。寄付って、どういうこと?”思いもかけぬ寄付の話に、思わず武蔵の顔を見やった。「いやいや、そうでしたか。村長選のことは知りませんでした。小夜子が生まれ育った地です。感謝の意味を込めてのことでしたが。そりゃいい、結構なことでした。加藤という男がGHQの中にコネを持っています。お困りのことが起きましたら、どうぞ遠慮なく。お義父さんからご連絡もらえましたら、すぐに対処させます」あくまで茂作を前面に押し立てる武蔵に、引きつった笑顔で感謝の言葉を述べる二人だった。「ほうほう。有難いお言葉をありがとうございます。中央にコネが有る無しでは、えらい違いですで」「ほんに、ほんに。村長は佐伯家を後ろ盾にしとりまして、源之助という官吏を使っておりまして」「ああ、逓信省の保険局の局...水たまりの中の青空~第二部~(二百十八)

  • ボク、みつけたよ! (五十六)

    結局は手っとり早く収入を得るためにと、母が夜の商売に身を投じました。父は昼間にも仕事をし、夜は夜とて皿洗いのバイトに時間をついやしました。母の迎えをかねてのことだったようです。ですので、わたしたち兄弟はふたりだけで夜を過ごすことになり、ますます母とのつながりがうすくなりました。そうそう、思い出でした。父がよく映画館に連れて行ってくれました。そのおりはわたしだけで、兄は留守番――というより、中学3年生でしたから受験勉強にはげんでいたのでしょう。その甲斐あって、岐阜県でも一番の進学校に入学できましたから。ああそういえば、ひとつだけ母との思い出がありました。虫歯です。歯のいたみにたえかねて、なんどもなんども歯ブラシでゴシゴシとしました。そんなことで痛みが収まるはずもありません。ですが、なにかしていなければたえられませ...ボク、みつけたよ!(五十六)

  • ボク、みつけたよ! (五十五)

    ああ、もうひとりいました。ちえちゃんです。店の売り子さんで、熊本だったっけから来ている15、6歳のむすめさんです。住み込みでいるんですが、父も母も実の娘のように大事にしています。ちえちゃんなんか、はしるのがおそいようです。どんどん離れていきます。まああんな風にドタバタとはしっていては、だめでしょう。父の弟さんだったっけ、呉服屋さんなんですがね。あんまり仲が良くはないんですが、なにごとかとそとに飛びだしてこられました。そりゃそうでしょ。血だらけの幼児をかかえて、兄嫁がはしっていくんですから。「どうした!なにがあった!」怒鳴る声がきこえますが、もちろん母はなにも言わずに離れます。となりのおじさんが立ち止まって、事の経緯を説明しているみたいです。ちえちゃんがやっとおじさんに追いついて、「もうだめ、おじさん行って」と頼...ボク、みつけたよ!(五十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十七)

    繁蔵と助役の出現に、“よし、決まりだ!”と武蔵がほくそえむ。そして“なんで、今ごろ!”と苦虫をかむ表情の茂作がいた。「もう日取りは、決まったかいの?」と、助役がにこやかに話しかけると、続けて「お婆さまが、本家で宴をやればいいと言うてくださっとるぞ」と、繁蔵が告げた。「み、御手洗さん。どうなさったんで?なんで土下座みたいな真似を。茂作、やめてもらわんかい!」床に頭をこすりつけている武蔵を見て、繁蔵が茂作をにらみ付けた。「もういい、頭を上げてくれ。わかった、わかったわ。小夜子も納得してのことじゃろう。もういい、わしはなんも言わんぞ」武蔵の時代がかった芝居に付き合わされた茂作こそ、いい面の皮だ。「そりゃいい、そりゃいい。御手洗社長。先ずもって、村を代表してお祝いを申し上げます。おめでとうございます。茂作さん、いいお婿...水たまりの中の青空~第二部~(二百十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~ (二百十五)

    「村長、わたしがお供しますわ」ここぞとばかりに、助役が手を上げた。別段、役場の人間がしゃしゃり出ることでもない。「おうおう、そうしてもらおう。助役さん、それじゃ車を出してくれるか?」と、繁蔵が呼応する。「山田くん、すぐ車を回すように」眉間にしわを寄せる村長を後に、二台の車が走る。「助役の奴、でしゃばりが過ぎる」。はき捨てるように呟くと、固まっている職員たちを怒鳴りつけて部屋にもどっていった。「いいわねえ、玉の輿こしね」「ほんとよね。言っちゃなんだけど、正三さんも勝てないわよ」「それにしても、都会に行くとあんなに変わるものなのかしら」小夜子の幼なじみである二人の事務員が、大きくため息を吐いて、席に戻った。「元がちがうよ、元が」。一人が小声で呟くと、「姫と侍女みたいなもんだったからな」と、すぐに同調する声がとんだ。...水たまりの中の青空~第二部~(二百十五)

  • ボク、みつけたよ! (五十四)

    やっと包帯もとれて前歯のはりがねも外され、なんとか声を出すことができるようになったときのことです。病室で母に事故の話をしました。いやがる母でしたが、「ボク、鼻からジゴがでてたよね。いっぱい、たくさん」というわたしのことばに血相を変えて「誰に聞いたの!」と叱られました。そのあまりの剣幕に、わたしの目からどっとなみだがあふれ出て「ごめんなさい、ごめんなさい」としゃくり上げたんです。すぐさま母もキツイ言い方だったと気づき、ほほのなみだを拭いてくれながらあやまってくれました。「だれにきいたの、そんなこと。そんなことはなかったわよ」。こんどは、やさしく言って聞かせるような口調でしたが、わたしは見ていたんです。母は化粧パックの途中だったらしく、目の下と鼻の横、そして口元に少しパックが残っていたのをおぼえていました。パックは...ボク、みつけたよ!(五十四)

  • ボク、みつけたよ! (五十三)

    あまりこういうことばは使いたくないのですが、正真正銘の「九死に一生を得た」という事例です。幼稚園の年中だったか年長だったかの、大事故です。真っ青な空にぷかりぷかりと浮かぶ白い雲が、二つ三つほどありましたかね。孫悟空みたいに、きん斗雲に乗ってみたくて、精いっぱいの力をつかって舞い上がったんです。別府温泉の地獄めぐりでのことは、おぼえていてくださいますか?血の池地獄へと向かうおりにお話しした、あの浮遊術は、じつはこのときが始まりなんです。その途中でした。電線にひっかかっちゃって、下を見たんです。そこには、十円玉をにぎりしめて向かい側にある洋菓子店にかけ出しているわたしがいました。その洋菓子店は、カステラの切れ端ばかりが入った袋を、なん十円かで分けてくれるお店なんです。すぐに売り切れちゃいます。お店に「切れ端袋できま...ボク、みつけたよ!(五十三)

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