いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
結局小夜子は、武蔵の元に身を寄せることにした。悩みに悩んだ小夜子だったが、加藤家での居ずらさは増すばかりだった。あの夜以来、奥方の咳払いが毎夜のように聞こえた。小夜子の空耳かも知れないのだが、どんなに足音を忍ばせても聞こえてしまう。そして咳払いの後には必ずと言っていいほどに、嘆息混じりの小声が聞こえてくる。はっきりとは聞き取れないものの、小夜子への当てつけことばに決まっていると感じられるのだ。英会話の授業に支障を来し始めたことも、小夜子の心を決めさせる一因になった。教室内での会話全てが英語となり、時として疎外感に苛まれてしまう。簡単な挨拶程度は理解できるのだが、日常の事柄を語り合う学友の輪に入れなくなることが多くなってきた。「いかがわしい場所で働いているんですって」。「女給でしょ、いやあねえ」。「お酒の匂いをプ...水たまりの中の青空~第二部~(百十五)
小夜子が立ち去ると同時に、梅子が武蔵の傍に陣取った。そして珠子に対し、「珠子!新しいボトルを持ってといで」と命じた。「ボーイさーん!」。手を上げてボーイを呼ぶ珠子に対し、あんたが行くんだよ、男衆を呼ぶんじゃない!」と、珠子を立ち去らせた。「社長!少し甘すぎるんじゃないかい?あれじゃ、世の中をなめきってしまう。贅沢に慣れきった女の末路は、そりゃあ悲惨だよ」梅子が真顔で、武蔵を嗜めた。「いいんだよ、あれで。小夜子には、贅沢な女になってほしいのさ。田舎じゃ貧乏神に付きまとわれた生活だったんだ。ときどき卑屈な目を見せるんだよ。着飾った女がいると、腰が据わらんと言うか……。だから贅沢な女が憧れの的になってるんだよ。あれじゃいかん。贅沢をするって事がどんなものなのか、分からせてやりたいんだよ」「あんたって、人は。本気なんだ...水たまりの中の青空~第二部~(百十四)
あの夜以来、何かとプレゼントを持ってくるようになり、以前にも増して軽口を叩くようになった。小夜子もまた、武蔵に対する警戒心が取れた。何より、正三という婚約者の存在を認めてくれている。“あたしさえしっかりしてれば、大丈夫!”。そんな思いが、小夜子の中にはある。そして久しく味わえずにいた女王然とした態度を喜ぶ、武蔵がいた。“少しサービスしてあげると、感激するのよね”。少しずつ女給たちに感化され始めたことに、まるで気付かぬ小夜子だ。「小夜子、今夜はバッグを見つけてきたぞ。どうだ、最高級のわに皮製だ。小夜子には少し早いかもしれんが、掘り出し物があったんでな。で、どうだ?決心は、付いたか?愛人になってくれたら、もっと凄いプレゼントをしてやるがなあ」女給たちの羨望の眼差しを受けながら、小夜子は嬉々としてそれを受け取った。「...水たまりの中の青空~第二部~(百十三)
夜の仕事は、思った以上に負担になっていた。どうしても、帰り着く時間が午前一時を回ってしまう。家人の眠りを妨げないようにと、息を殺して歩くのだが、時として起こしてしまう。奥方の咳払いに、肩を窄めることもしばしばだった。「今帰ったのかね。ちょっと話があるから、書斎に来なさい」。思いもかけぬ、加藤の声だった。躊躇しつつも、断るわけにはいかない。“明日の朝では、だめでしょうか?”。喉まで出かかった言葉を、小夜子は飲み込んだ。「遅くなりまして……失礼します」。そっとドアを開けて、小夜子は深々とお辞儀をした。加藤だけだと思っていた小夜子だったが、痛いほどの奥方の視線を感じた。蔑みの色が、その目に宿っていた。「いつまでも夜の仕事を続けるのは、どうだろうねえ。聞くところによると、学校では居眠りが多いと言うじゃないか。そもそも、...水たまりの中の青空~第二部~(百十二)
正三からの恋文を読み終えた小夜子は、思わず小躍りした。すぐにも逢いたいと言う気持ちを抑えることが出来なかった。早速にも返書をしたためようと思ったのだが、封書にも便箋にも住所の記載がなかった。逓信省宛に、とも考えてはみたが、所属部署が分からぬ郵便物では正三に届くかどうか怪しく思えた。“書き忘れかしら……それとも、意図してのことなの?”。小夜子は、恨めしくその便箋を見つめた。“どうして、逢いに来てくれないの。妻として迎えてくださる気持ちがお有りになるのなら、万難を排してでも……。あの方なら、きっと、来て下さるでしょうに”。突然に、小夜子の脳裏に武蔵が浮かび上がった。あの夜以来、三日と空けずに通ってくる武蔵だった。女給たちが多数押し掛けても、小夜子だけとの会話を楽しんでいく。そして三度に一度は、小夜子を連れ出した。昨...水たまりの中の青空~第二部~(百十一)
待ちに待った正三からの手紙が、小夜子に届いた。まさしく、情熱が迸る恋文だった。正三の小夜子に対する思いが、切々と込められていた。小夜子さん、お元気ですか。小生、やっと小夜子さんの元に辿り着けました。なんと長い、無味乾燥な日々を送ったことでしょう。僅か三月足らずと、言うこと勿れ。小生にとっては、当に地獄の日々でありました。貴女の如き魅力的な女性を、都会の野獣共が見逃すわけなく。いえいえ、ご聡明なる貴女のこと、見事に難を逃れる術をお持ちとは信じておりました。なれども、小生の思いは千々に乱れました。貴女よりの便りすべてが、親の元に留め置かれておりました。いかにも、口惜しく思えます。その便りが小生の手元に届いておりますれば、之ほどの思いはありますまいに。小生の思いの丈を届ける術もなく、日々落胆でした。小夜子さん、与謝野...水たまりの中の青空~第二部~(百十)
そのままキャバレーに戻った武蔵は、訝しがる五平や梅子に、「なんだ、なんだ、その目は。あんな小娘をどうかするとでも、思っていたのか。今夜の相手は、珠子に決まってるだろうが!」と、珠子を呼び寄せた。他のボックスに居た珠子だったが、すぐに武蔵の元にやってきた。「おお、珠子!淋しかったぞ!」と、大げさに声を上げて珠子に抱きついた。「うれしいぃ!」と、珠子もまた武蔵の背に手を回した。珠子の豊満な胸が武蔵の欲情に火を点け、「店が終わったら、付き合うんだぞ。今夜は、寝かさないからな」と、耳元で囁いた。「それじゃ、あとでね」と言い残し、待ちぼうけ顔をしている客の元へと戻っていった。珠子が離れた後に武蔵が、梅子に対して「おい、梅子。あいつのどこが、未通女娘だと言うんだ。思いっきり、淫乱の気があるじゃないか」と、軽く睨みつけた。空...水たまりの中の青空~第二部~(百九)
小夜子の不安は、杞憂に終わった。乗り込んだハイヤーは、縦横に等間隔に整備された銀座の街並みに沿って走った。礼儀正しい運転手で、田舎娘に過ぎない小夜子にさえ、丁寧な言葉遣いと仕種で以て接した。小夜子の知る東京人は、何かと言えば「田舎娘が」「小娘の分際で」等々、ぞんざいな口のききようで小馬鹿にした言葉を投げつけてくる。当初こそ言い返すこともあった小夜子だが、なんの後ろ盾もない状態では己の分を思い知らされるだけだった。あれ以来アナスターシアからの連絡はなく、いや連絡の術を互いに知らないのだと知るに至っては、あの夜のことは夢だったのではなかったのかと思えてしまう。確かにホテルに宿泊したという事実だけが、かろうじて小夜子に現実感を与えた。築地場外市場近くにある鮨店の暖簾をくぐると、奥からダミ声が聞こえてきた。「なんでい、...水たまりの中の青空~第二部~(百八)
“仕事?そう言えば、何をしたいんだろう?アーシアと一緒に世界を旅するつもりなの、あたしは?だけどそれじゃあたしって、犬のイワンの代わりじゃない!そんなの、だめよ”“そうよ。あたしは、アーシアの妹になるの。だから、あんな田舎に居ちゃだめなの。アーシアの妹にふさわしい、新しい女性にならなくちゃ”英会話の勉強ということが、単なるの口実のように思えてきた。田舎から抜け出すための口実のように、思えてきた。そしてついには恐ろしい思い-疑念が浮かんできた。“アーシアの妹?本気でアーシアはわたしのことを?”。“遠い異国におけるお遊びだったとしたら……”。“そんなことない!あのときのアーシアは本気だったわ”。強い気持ちを持つのよと言い聞かせてはみるものの、いまの己を考えると情けなさが全身を駆け巡ってしまう。「悪かった、悪かった。...水たまりの中の青空~第二部~(百七)
小夜子の武蔵に対する第一印象は最悪だった。値踏みをするように小夜子を見つめる武蔵の目に、何か卑野なものを感じた。細面で端正な顔付きをしているが、人を小馬鹿にするような目つきが嫌悪感を抱かせた。「小夜子ちゃん、かあ。歳は、幾つかな?英会話の勉強をしてるんだって?どう、少しは話せるようになったの?」矢継ぎ早の質問に対し、小夜子は愛想笑いをかかすことなく答えた。以前の小夜子には考えられないことだが、茂作からの仕送りなど考えられぬ現状では、とにかく生活費と英会話学校の学費を己の力で稼がねばならない。突っ慳貪な態度を取っていては、チップはおろか、即解雇になりかねない。東京に行きさえすればなんとかなるわと軽く考えていた己が、いまは恥じられてならない。「年齢は、十八です。会話が通じるかどうかは、アメリカ人との会話がないので、...水たまりの中の青空~第一部~(百六)
「ああ、いいとも。但し、不足分は梅子の奢りにしてくれよ」。武蔵は無造作に懐から札入れを取り出すと、そのまま梅子に渡した。分厚い札入れを手にした梅子は、「ああ、いいともさ。月末にでも、集金に行くから。で、幾ら用意してきた?」と、中を確認した。「ほお、社長!豪気だねえ、こりゃ。たっぷり入ってるじゃないか。みんな、今夜は騒げるよ!」武蔵と梅子の掛け合い漫才をニヤつきながら見ていた五平に、「やっぱり社長だよ。しみったれ五平とはまるで違うよ」と、梅子が五平をつつく。「いいんだよ、五平はそれで。しみったれだから、俺が目立つんだよ。だからモテる男になれるんだよ」。武蔵の豪放な笑い声に呼応するように、あっという間に十数人の女給たちが集まった。店内を見渡してみると、確かにまばらな客だった。中央のホールでは、数人がダンスをしている...水たまりの中の青空~第一部~(百五)
なぜ愛人で留まらせているのか、武蔵にも腑に落ちない。仕事は他の誰よりもできる。無茶な要求をしても、手早く処理ができる。裏切るのではといった思いは一切感じない。信頼もしている、しかし信用ができなかった。仕事を辞めさせて家庭に入らせても良かったのだ。家事一般についても、満足とまではいかなくても――いや、苦手なことならばお手伝いを雇えばいいのだ。世間一般でも、お手伝いのいる世帯は多い。職業として認知されているし、花嫁修業の一貫として考える娘たちも多かった。聡子の容姿については申し分ない。外で連れ立って歩いていると、すれ違う者たちの殆どが振り向いていく。色気があり過ぎるとしても、他の男に気を許す女ではないし、そうさせない自信が武蔵にはある。ではなぜ?それを考えることのなかった武蔵だった。口述筆記をさせていた文書を途中で...水たまりの中の青空~第一部~(百四)
先ずは、前年の大晦日の話からしましょうか。昼過ぎからチラホラとやってきた雪でしたが、PM1:30頃か、スーパー銭湯からの帰りでも、まだチラホラと。「根性なしめが!」と呟きつつ、車を走らせました。スタッドレスタイヤをはいていますので、余裕の運転です。夕方4時にアパートの窓から覗いてみると、本降りになっていました。やっと本気になったようです。目の前の公園がうっすらと雪景色模様へ。夕方6時前、その公園は一帯すべてが真っ白に。明日には久しぶりの積雪となりますかどうですか。それにしても何年ぶりですかね、年末年始をアパートで迎えるのは。平成30(2018)年、フェリー乗船によって九州へ。平成31(2019)年、正月5日には陸路岐阜市へ。令和2(2020)年、四国に渡り、初日の出を鑑賞です。その後ですよね、日本でのCOVID...よもやま話に、花!(令和3年の元旦話)
「社長。どうです?今晩あたりに。あちこち出張が多くて、銀座もごぶさたじゃないですか。うるさいんですよ、女給たちが。会社にまで電話が入る始末でして、あたしも閉口してるんです。よその店にくら替えしたのか!って、つめ寄られて。それにね、以前お話した娘にも会っていただきたいんで」五平の執拗な誘いに、あまり気乗りのしない武蔵だったが「まっ、五平の顔を立てるとするか。梅子にも暫く会っていないしな」と、腰を上げた。どうにも熱海の光子を知ってからというもの、武蔵の心持ちに大きな変化が現れてきていた。所帯ということばが武蔵の脳裏にこびりついて離れない。別段、光子と所帯を、ということを考えているわけではない。持ち込まれる見合い話が多くなってきたことも一因ではある。「社長の好みに合いますって、絶対です。保証しますよ」自信ありげに五平...水たまりの中の青空~第二部~(百三)
差しつ差されつ飲む、このひと時は、互いにとって至福の時間だった。時折、襖の外から「女将さん、申し訳ありません」と遠慮がちに声がかかる。しかし少しの時間を離れるだけで、すぐにまた戻ってくる。武蔵はその間、所在なく庭先に目をやっている。本館の池泉回遊式庭園戸は異なり、熱海地区では珍しい枯山水の庭園様式をとっている。大女将の決断で造り上げたということで、その真意については光子も知らないという。ただ、石や砂などを用いて水の流れを表現するのは「あたくしの人生そのものなのです」と、珍しく酔った折に繰り言が飛び出したという。「無味乾燥だったということじゃないのよ」。「光子さん、あなたなら分かってくれるわね」。正直のところは、大女将の真意は分からないという。ただ推測するに、己を偽り続けたその悔悟の念ではないのか、しかしまた十分...水たまりの中の青空(そして、今……)
「ご挨拶なさい、佳枝さん。孫娘なのですよ、光子さん」。わたくしに対する声かけです。でも気のせいでしょうか、大女将に挑まれるような視線を送られました。ご自慢の若女将候補なのでございましょうか。慈愛を感じられる穏やかな光をその目に湛えられて、挨拶される佳枝さんの所作を見つめておられます。後ろに隠れるようにお座りだった娘さんから「お初にお目にかかります、佳枝と申します。お見知りおきください」と、鈴のような声でご挨拶をいただきました。お話によりますと、女将さんの娘さんは佳枝さんを出産されてからの肥立ちが悪く、わずかひと月後にお亡くなりになったそうでございます。以後は女将さんが引き取られて、と言いますのも……。いえ、これ以上はわたくしの口からはちょっと。(若女将としてはそれを語ることは出来ないようです。まあ、客商売の基本...水たまりの中の青空(明水館女将!光子:二)
明水館の門が見えてまいりました。門と言いましても、門柱2本に切妻の屋根をかけた簡便なものでございます。こんなことを申しますと、お造りになった先々代に叱られそうでございますが。でもまあ、やはり良いものでございますね、門がありますのは。なにかこう、格式めいたものを感じずにはいられません。お客さまの中には「俗世から至極の地に入るといった観になるよ」と、仰っる方もございました。わたくしなども、お遣いから帰りました折にこの門をくぐり抜けました折りには、ぐっと身の引き締まる思いが致すものでございます。重くなった足を引きずるようにしているわたくしに、突然「若女将、お帰りなさい!」と歓声が聞こえました。頭を上げて見ますと、仲居たちが勢揃いして、わたくしを待っていてくれたのでございます。驚くどころの騒ぎではございません。到着の時...水たまりの中の青空(明水館女将!光子:一)
大変なことになりました。三代目ローンレンジャー号に嫌われてしまいました。それは、5月下旬に入ったばかりの雨の日のことです。会社帰りにスーパーに立ち寄ったときのことです。買い物を済ませて駐車場に向かいました。雨の中でわたしを待っていてくれる、うすむらさき色のなんと艶っぽいことか。そしてなんと上品なことか。思わず頬ずりしたくなるような風情ですよ。「待たせたね、それじゃ行こうか」。いつものようにドアに手をかけた途端、「ピーピーピーピー」と連続して鳴り始めました。いいんです、2回ならば。それが「待ってたわ」という彼女の甘える声ですから。ですが、いつまでも「ピーピーピーピーピー」と鳴り止まぬのは、一体どうしたことでしょうか。たしかに、以前にもありました。あのときは、仕事帰りの夕方でした。そういえば小雨が降っていたような気...よもやま話に、花!(三代目、ローンレンジャー号のこと)
そして大女将との約束の一年が近づいて参りました。瑞祥苑からお暇を頂くために、どう切り出して良いものやらと考えあぐねていた時でございます。「光子さん、ちょっといらっしゃい」と、女将から呼ばれました。お客さまをお迎えする前の時間帯でございます。仲居一同、忙しく準備をしております。そんな時の声かけに、なにか粗相をしたのかと気になりました。普段の穏やかな表情ではなく、口をへの字に結ばれて口角も下がり気味の不機嫌さの漂うお顔も気になるところです。女将の部屋に入るなり、「申し訳ございません。なにか粗相をしておりましたらお詫び致します」と、畳に頭をこすりつけました。ところが、急に女将が笑い出されまして。初めてのことでございます。女将の笑い声など、ついぞ聞いたことがありません。「頭をお上げなさい。そうじゃないの」。いつもの穏や...水たまりの中の青空(去れば、去るとき、:四)
そういえば、わたくしの先々に女将がおられたように思います。たとえばわたくしがお客さまのお迎えをする時に限りまして、女将が傍に立たれたような気がします。門を入られたお客さまが飛び石伝いに玄関へとおいでになりますが、その際に何枚目の飛び石付近でお待ちすれば良いのか。晴れた日ですとその石にわたくしの影がかかってはいけませんし、雨の日ならば雨水の流れがありますし。わたくしが美しく気品ある姿になる立ち位置はどこなのか。飛び石の縁を踏んではならぬということは分かっておりますが、果たして何寸ほど離れた位置なのか、気になりだしますとどうにも。教えを乞うても、おそらくは答えてはいただけませんでしょう。「どこでもよろしいですよ、あなたの好きなところでお迎えなさい。心です、お迎えの心が大事なのですから」。そう、女将の目が答えているよ...水たまりの中の青空(去れば、去るとき、:三)
大女将からのご返事のこと、お伝えしていませんでしたね。ありがたいお言葉をいただきました。「あなたの性根が気に入っての若女将なの。決して清二の子どもを身籠もってしまったから、ということではありません。もしそうならば清二の嫁として、清二と共にたたき出しています。しっかりと修行をしてきなさい」。「明水館を出たのは、若女将修行の一環だと、皆には話してありますからね」。「本音を言うと、早く帰ってきて欲しいの。あたくしも寄る年波には勝てません。でもあなたの気が済まぬと言うのなら、1年の修行を終えて帰ったということにしましょう。いですか!戻るからには、立派な、若女将ではなく女将として戻ってらっしゃい」。更には、今お世話になっております瑞祥苑の女将さん宛にも、「うちの大事な若女将でございます。しっかりと躾をお願いいたします」と...水たまりの中の青空(去れば、去るとき、:二)
うまくまとめていただけて、ありがとう存じます。ただ一点、わたくしに付け加えさせていただき存じます。他でもございません、里江さんのことでございます。あの方にだけは、わたくしが明水館の若女将であることをお話ししました。いえいえ、三水閣でではございません。如何に無鉄砲なわたくしでも、あのようなところでは詳しい素性は明かしませんです。里江さんとの秘密の連絡手段を整えた後に、わたくし逃げ出しました。といいますのも、その後のことを知りたかったのでございます。あくまでも追いかけてくるのか、それとも諦めてくれるのか、それによりまして対策といいますか対抗手段をも考えねばなりませんので。ええええ、もう戦闘態勢に入っております。例のK大先生のご紹介を受けました。さすがに垢を落としてからでなければ、明水館に戻ることは出来ません。無論、...水たまりの中の青空(去れば、去るとき、:一)
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いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
彼は、心のなかを見せない。たにんの侵入を極端にきらう。それゆえか、彼の部屋をおとずれる者はいない。そのくせ彼自身は、ひとの部屋にズカズカと入ってくる。仲間と友人。彼は、区切りをつけている。それが何故なのか?いままで考えもしなかった。が、学友との口論から、それを考えるに至った。町工場での俺は、労働の代価を受け取る。しかし夜学での俺は、支払う側のわけだ。とうぜん、時間の自由があってしかるべきだ。労働中の俺に、自由のないことは理解できる。しかし何故に、授業の選択が許されない?規則だからと、諦めにも似た気持ちになっている。入学時の誓約書は、強制であり交渉事ではなかった。町工場への就職時には、形だけであっても交渉があった。奇天烈~蒼い殺意~人間性(一)
それが9時近くになって、やっと帰ってきた。その時間が麗子には長く感じられ、不安だけが募った。裏通りにあるアパートである。人通りはまるでない。街頭にしても、アパートの階段に設置してある電灯だけだ。しかもまだ修理されていない。あとは、50mほど先にある。しかも、何時になるのかわからない。麗子の心は、恐怖感におそわれていた。いつなんどき暴漢が現れるかもしれない。そのときには誰かの部屋をノックすればいい。いやこのアパートの住人すらあぶない。〝どんな人が住んでいるのか、まるで分からないんだ。素性はもちろん、男か女かもわからない。というより、こんな場所だ。おとこだろうけどね〟男にきいた話だ。といって帰る気にもなれず、途方に暮れていた。そんなときの、男の帰宅だった。ムラムラと、怒りの気持ちと嫉妬心が渦巻いた。で、悪態を...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十四)それが9時近くになって、
話をもどします。まいどまいど、横道にそれてすみません。校舎のうら手に車をまわしたところで、思わず「ああ!」と叫んでしまいました。見覚えのある大木と、その横に土俵が見えました。あれえ……。でも土俵はあっちではなく、こっちの角のはずじゃ……。すみません。あっちやらこっちやらでは、どこなのかわかりませんよね。東西南北の観念がないので。(ナビで調べれば一発でしたね)。車の進行方向の向こうがあっちで、敷地にそって曲がってそしてまたまがってすぐの角で、停車した場所がこっちなんです。土俵のうえに屋根があるんですが、大木の枝がおおいかぶさっています。台風の進路によっては、屋根をおしつぶしませんかねえ。すこし心配です。たしか、相撲が体育の授業にはいっていると聞いた気がします。やせぎすだったわたしは、それがいやでいやでしてね...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十五)話を戻します。
「山本さん、5番におはいんなさい」当初は聞きまちがいかと思ったが、なんど思い返しても、「おはいんなさい」だった。わたしの前に数人が呼ばれていたが、たしかに「おはいんなさい」だった。なんとも、暖かさを感じさせる呼びかけで、嬉しさを感じたわたしだった。名医だ、瞬間的にそう思った。「良い先生ですよ」が頭で反すうされた。こころがある、なぜか直感的に思った。ドアを開けると背筋がピンと伸びた老医師が、にこやかに迎えてくれた。「はいはい、山本さん。きょうは気分が良さそうだね。うん、良かったよかった。さあさあ、お座んなさい」またしても、「り」ではなく「ん」だった。なんとも、人なつっこい話し方だ。やはりベテラン医師はちがう。なんというか、お医者さま、という雰囲気がある。患者に人気があるのもムリはないと感じた。「ほうほう。山...ドール [お取り扱い注意!](十六)山本さん、5番におはいんなさい
しかしふと不安になった。武蔵のいないいま、だれが「奥さま」と呼んでくれるだろう。「ミタライさん」と呼ばれるのだろうか。御手洗家の主はあるけれども、武蔵はいないけれども、それでもやはり「奥さん」と呼ばれたい。御手洗家の主は、やっぱり武蔵であってほしいと願う小夜子だった。「パッ、パッ、パアー!」。けたたましいクラクションが鳴った。「バカヤロー!」。だれ?だれへの叫び声なの?大勢が立ち止まっている交差点。なのに小夜子は足を止めなかった。赤になっていることに気づかなかった。「ごめんなさい」と、頭をさげる小夜子に「気をつけろ、この有閑マダムが!」と、捨てゼリフをのこして、商用車が行く。やめて、そのことばは。小夜子のもっとも忌み嫌う、有閑マダム。新しい女の対極ともいえる、蔑称ととらえている小夜子。夫の地位そして財力に...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十三)
異端の天才ベートーベン「運命」その烈しさに魂が揺さぶられるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。キモはですねえ、……ないです。強いて言えば、「畏怖」でしょうか。そうだ。初めて聞き入ったクラシックでしたよ。ジャジャジャーン!ジャジャジャーン!jajajajajaja,jajaja~n!CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(ベートーベン)
シゲ子は、その日のうちに長男に問いただした。シゲ子のたしなめるような物言いに萎縮してしまった長男は、口をつぐんでしまった。幼いときから、人に甘えるということのできない長男で、とくに祖母であるシゲ子にたいしては身構えてしまう。シゲ子の長男にたいするぎこちなさが、そうさせてしまっていた。シゲ子のしつような追求にたえきれず「ごめんなさい」と、あやまる長男だった。孝道が「目くじらを立てるほどのことでもないだろうに」と、長男をかばうと「いいんです、食べたことは。でもね、翌日にでも『ありがとう、美味しかった』と、ひと言ぐらいあっても。ほんとに、卑しい子だよ」と、長男を叱りつけてしまった。美味しいサツマイモをほのかに食べさせてやれなかったということ、すこしだけでも残していれば…という、たしょうの罪悪感にもにた感情にとら...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(十)
彼の頭のなかでは、数多の声がとびかっている。ひとつひとつの言葉は、断定的でしかも独善である。無道徳とはいったい何か?社会いっぱんの道徳は、常識なのか?幾多の矛盾を擁する道徳でもか?住みなれた町の地図は必要か?コンパスまでもか?俺は無道徳か?道徳はどうとく、常識はじょうしき?俺は反道徳だ!では、ニュー道徳を創るべきか?では、それに従えるか?違うぞ!単にスネているだけだ!ニュー道徳は、偽善の産物だ!ホワイトカラー族の目的は?教師とは、如何なる人種か?教える義務と、従わせる権利。学ぶ権利と、従う義務。そして反発する権利。殺す自由、生きる権利。人間を殺すことは罪であり、「家畜類の屠殺は許される」という現実。and,その是非は論外、という現実。食べる自由と権利。断食もまた然り。自然界の法則とは?地球の歴史、人間のれ...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(五)
「そう、あのむすめね…。あの娘のこと、好きなのね」と、小声で呟いた。いつもの男なら、そのまま聞きながしてしまう。しかし、今夜の男はちがった。このまま無言をとおせば、気性の激しい麗子のことだ。どんなしっぺ返しをくらうやもしれない。それこそ私立探偵をつかってでも、ミドリの特定をしてしまうかもしれない。そして……。考えるだけでもおそろしい。気色ばんで男は言った。「な、なにを言いだ出すんだ。あの人とは何でもない。友人の妹だ。3人での食事の約束だったんだ。友人の都合が悪くなってのことだ。だからふたりだけの食事になっただけだ」「あら、そう。お食事のできるナイトクラブがあるとは、知らなかったわ」服を着おわった麗子は、いつもの麗子に戻っていた。「時間が早かったからだ。ナイトクラブを知らないと言うから、連れて行ったんだ。だ...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十三)そう、あのむすめね…。
そうでした、学校です。当然ながら、まるで違います。当時は木造でしたが、いまはコンクリートの校舎です。正門まえに立ちますが、まるで思い出せません。車をうごかして、裏手にまわることにしました。運動場なんですが、意外にちいさいです。もっと広く大きかった記憶なんですが。敷地に沿ってまがると、せまい道路です。大型の車がきたらすれ違えないかもしれません。学校のフェンスをこするか、相手の車が畑に落ちてしまうか、どちらかでしょうね。いっそのこと一方通行にしてしまえばいいのに、なんて勝手なことを考えてしまいました。そういえば、こんなことがありました。いくつだったか、五十過ぎたころだったと記憶しています。両側が畑のせまい道で、ここではすれ違うことはできません。半分以上を過ぎたところで、中型の車がはいってきました。当然ながらわ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十四)そうでした、学校です。
待合の席にすわろうとしたわたしに、通りがかった看護婦が声をかけてきた。この間の入院時に世話をしてくれた看護婦だった。じつに気立ての良い娘で、いつも明るく笑う娘だった。退院するときに「ありがとうね」と声をかけたかったのだが、シフトで会えずだった。「山本さん、ラッキーでしたね」「なんで?」。笑みを返しながら、尋ねてみた。「良い先生ですよ、岩井先生って。いつもは予約だけの先生なんですよ。ね、島田さん」「きょうはね、畑中先生が休みなものだから、急きょピンチヒッターでお願いしたの」「山本さん、ついてるわ」。うんうんと頷きながら、ひとり納得して去って行った。良い先生かどうかは、診察を受けてからだと、あまり期待もせずにいた。しかしこの医師に会ったことで、わたしの人生が一変したと言っても過言ではなかった。ほどなく看護婦に...ドール [お取り扱い注意!](十五)待合の席にすわろうとしたわたしに
感傷的になるかと思っていた小夜子だったが、意外にもサバサバとした気持ちになった。空はあいにくの曇り空なのに、ウキウキとした気分でビルを出た。全員がお見送りをしたいと申し出たが、五平と竹田のふたりが通りで見送った。最敬礼をするふたりに「やめてよ、そんな大げさなことを」と言いつつも、感慨ぶかいものがあった。はじめて会社におとずれたとき、水たまりがあるからと、武蔵にお姫さま抱っこで車からおろされた。大きな歓声と冷やかしの声、また近隣ビルの窓から、なにごとかと覗かれたこともなつかしい。なにからなにまで、なつかしい想い出だ。帰りの車をことわり、ひとり日本橋界隈をねりあるくことにした。そういえば通りをあるいた記憶がない。いつも契約ハイヤーで会社前まで乗りつけた。竹田の送迎もあったわね、と思いだす。〝大層なご身分だった...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十二)
茶目っ気モーツァルト「25番ト短調」そのミステリアスな曲調にこころがうち震えるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(モーツァルト)
翌日のこと。「きのうのお芋さんは美味しかったろう。ばあちゃんもね、おじいさんとおいしく食べたんだよ」ほのかかキョトンとした顔つきで、「きのうはよらずにかえったよ」と、こたえた。誰かが食べたはずなのだ。「ツグオちゃんだったかね」首をふりながら、つづけてこたえた。「にあんちゃんは、ほのかといっしょだったよ」思いもよらぬ返事がかえってきた。「それじゃだれだったんだろうね。ツグオでもないんだね。近所のだれかかしらね」そうことばにしつつも、だれもいない家にはいりこんで、ましてやなにかを食べていくなどありえない。“まさかナガオが…。いやいや、あの子は寄りはしない”と、否定してしまった。「あんちゃんだよ、きっと。夕食、めずらしくすこししか食べなかったから。それに、もしにあんちゃんだったら、きっとぜんぶ食べてたよ。にあん...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(九)
実はこの1週間、彼は悩んでいる。学友との些細な口論のためだった。さっこん耳にする”フリーセックス”についてだ。まだ青い我々は、真面目に論じあった。勉学上の口論はまるでない我らだが、ことセックスに類するものは好んで論じあう。が、残念ながらお互い言いっ放しで終わってしまう。面白いのは、”革新”そして”保守”と、イデオロギーの立場をお互いに押しつける―なすりつけて終わることだ。革新にしろ保守にしろ、じつの所あまり分かっていないのに。『70年安保』の後遺症といっては失礼か。「アンポ、ハンタイ!」が流行語になっていた頃を、多感な中学時代に我々は過ごした。彼はいま窓際でひざを抱いている。そしてときにそのひざに接吻をしたりして、体のぬくもりを感じている。生きている実感があるという。ときおり、バサバサの髪をかき上げては、...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(四)
「舟のない港」というタイトルが気に入って書きはじめた作品です。気乗りのしないままにストーリーを重ねて、次第しだいに二人のヒロインたちの心情にとらわれだしました。なかなか女性心理がわからず、キーボードをたたいてはDeleteを押して、またたたいて、また消しての連続です。時間の移動がはげしいためご迷惑をおかけしていますが、一気読みをご希望の方には、4月の初めには[やせっぽちの愛]にてupする予定です。よろしければ、どうぞ。------------麗子が起きるころには、母親はすでに台所にいる。父親もまた、食卓に着いていた。気むずかしい顔つきで、新聞を読みふけっている父親だった。一日のはじまりに家族そろって食卓を囲む。なによりも大切にしている父親だった。夜の食事は父親の仕事しだいではそろうことが難しい。休日にして...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十二)麗子が起きるころには、
吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、福岡県柳川市の昭代第一小学校へ向かいました。小学なん年生だったか、低学年には違いありませんが新入生ではなかったはずです。幼稚園児だった頃に伊万里市をはなれて、それからどこに移り住んだか。柳川市?いや待て、もう1ヶ所、どこかの……そうだ!大分県の佐伯市に入ったような……。そこで幼稚園に入る予定だったのが、いまでいう引きこもりになったのか、通ったという記憶がありませんね。それじゃ、佐伯市の小学校に入学した?うーん……。新入学したのはどこの小学校だったのか、まるで記憶がない……。昭代第一小学校まえでお店――駄菓子屋さんだと思っていたら、じっさいは酒屋さんでした。店の横にビールびんやら酒びんが山積みされていました。失礼ながら、小学校の真ん前なんですが。でも、すこしばかりの文具もありま...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十三)吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、
“やれやれ今はやりの自己責任ですか。大丈夫、先生を訴えたりしませんよ”「はい、これで良いですか?」「ほんとにね、生命に危険があるんですよ。考え直しませんか?山本さん」「先生の言うことを聞いた方が良いですよ」なおもしつこく入院を迫ってくる。わたしのことを考えてくれているとは分かるが、イライラしてきた。「今夜ひと晩だけで良いんです。経過をね、観察したいんです」真剣な目で、せまってくる。「お気持ちだけいただいておきます。ほんとにね、もうずいぶんと楽になりましたから」意地の突っぱり合いの様相をていしてきた。しかし意地っ張りということに関しては、わたしの方にいち日の長がある。医師に書面をわたして、看護婦に会釈をして、意気軒昂にベッドをはなれた。あの老婆、わたしと目があったとたんに目をそらしてきた。聞いてはならぬこと...ドール [お取り扱い注意!](十四)やれやれ今はやりの自己責任ですか。
自宅でのこと、その毎日がなくなるのかと思うと、ここで感傷的になった。平日の朝9時、閑静な住宅街にある自宅を出る。日々の暮らしは、もうはじまっている。学童たちのげんきな声は、もう聞こえない。おはようございますと声をかけあう人々にあふれ、「あら、ごめんなさい」と、声をかけあいながら、ほこりっぽい道路に水をまいている。「小夜子おくさま、おはようございます。これからご出勤ですか?」ななめ向かいの佐藤家のよめである道子が声をかけてくる。「おはようございます」と返事をし、かるく会釈する。するととなりの家からあわてて、大西家の姑であるサトが出てくる。「もうこんな時間ですか、行ってらっしゃいませ」わざわざ外に出てこなくとも、と小夜子は思うのだが、女性たちは必ず声をかける。小夜子にあいさつをするが、じつは小夜子ではない。御...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十一)
その日の昼すぎ、あの三郎が顔を腫れ上がらせて、明水館に転がり込んできた。背広の袖口が破れ、ズボンには泥がこびりついている。泥の乾き具合から見て、まだすこしの時間しか経っていないことが分かる。騒然とした中、光子の指示の元に昨夜三郎が泊まった部屋に運び込まれた。すぐに医者を、と光子の指示かあるものと思っていたが、聞こえたのは驚くものだった。場に居合わせた二人の仲居に対して「他には漏らさぬように」と、厳命してきたのだ。「お客さまのたっての希望です」ということばも付け加えられた。一時間ほど後に、上気した表情の光子が番頭に対して「近江さまをお医者さまに診てもらうことになりましたから」と言い残して、三郎と共に出かけていった。「行ってらっしゃいませ」と声をかけつつも、何かしら違和感のようなものを感じた。旅館に転がり込ん...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十五)(光子の駆け落ち:三)
その女子は真面目派より一学年下だったが、幸か不幸かふたりと同じバレーボール部だ。ゆえに、放課後にふたりに帯同すれば、ひんぱんに会える。行動派が部活動に熱心なこともあり、ヒネクレ派も必然とがんばっている。そんなふたりを待つという口実のもとに居残りをきめこんでいた。三年ほど前の夏季大会ののちに、理由は分からないが部員ゼロとなってしまった。そして今年までの三年間、廃部となっていた。そんな男子バレーボール部を、行動派が復活させたのだ。気乗りのしないヒネクレ派をムリヤり入部させ、ほかに数人の幽霊部員を仕立て上げた。大会ごとに集合して、試合前のわずかな時間だけ練習をする。そして作戦も何もなく、むろんコーチもいない。どころか、役割すらあいまいだ。皆がみなアタッカーであり、やむなくレシーバーやらセッターにもなる。正直、勝...原木【Takeitfast!】(九)初恋
とうとう、結婚式の前夜がやって参りました。式の日が近づくにつれ平静さをとりもどしつつあったわたくしは、暖かく送りだしてやろうという気持ちになっていました。が、いざ前夜になりますと、どうしてもフッ切れないのでございます。いっそのこと、あの合宿時のいまわしい事件を相手につげて、破談にもちこもうかとも考えはじめました。いえ、考えるだけでなく、受話器を手に持ちもしました。ハハハ、勇気がございません。娘の悲しむ顔が浮かんで、どうにもなりません。そのまま、受話器を下ろしてしまいました。妻は、ひとりで張り切っております。ひとりっ子の娘でございます。最初でさいごのことでございます。一世一代の晴れ舞台にと、いそがしく動きまわっております。わたくしはといえば、何をするでもなく、ただただ家の中をグルグルと歩きまわっては、妻にた...愛の横顔~地獄変~(二十一)式前夜:前
「けどもこんどは、本場で聞こうな。アメリカに行って、アナスターシアだったか?お墓参りをすませてから、ラスベガスに寄ろう。な、なあ。それで機嫌を直してくれよ」涙があふれ出した。揺り起こそうかとも思った小夜子だったが、いまはこのまま夢のなかの小夜子でいいかと思いなおした。「小夜子。俺ほど小夜子を知っているものはいないぞ。頭の髪の毛一本から足のつま先でも、俺は小夜子を当てられる。はらわたの一つひとつまで知っている。肺も心臓も、胃袋だって知っている。きれいだぞ、とっても」ふーっと大きく息を吐いて、カッと目を見開いた。起きたのかと思いきや、またすぐに目を閉じてしまった。「おおおお、ステーキを食べたな?いま胃をとおって、腸にはいった。栄養素に分化されて、肝臓やら腎臓にとどけられるんだ。そしてそのカスが便となって外に出...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十二)
時の流れは今川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝には太陽が消えました(背景と解説)女友だちとの間が冷え切っていたという時期ではないのです。二股交際という言葉がありますが、わたしの場合は殆ど重なりません。不思議なのですが、ある女性との付き合いが疎遠になると、新たな出会いがあるのです。浮気ぐせ、とも違います。そりゃ、血気盛んな青年時代ですから、色んな女性に目が動くことはあったと思います。でも、この年になって色々思い直して-己を見つめ直してみると、一番の原因は、自分に自信が持てなかったのだと思います。短期間ならば薄っぺらい自分を隠せますからね。当時の連絡手段と言えば、固定電話か手紙ぐらいのものでした。手紙は、正直言ってお手のものでしたから。話を戻します。この詩は、自...ポエム焦燥編(朝、太陽が消えた)
時計の針は、二時半をさしている。貴子の希望で、南麓の岩戸公園口におりることになった。こちらの道は彼にもはじめてだった。こちら側の眼下にはビル群はすくなく、二階建ての個人宅がおおく見うけられた。国道ぞいに車のディーラーやら銀行、そして飲食店がチラホラとあるだけだった。すこし行くと、小ぢんまりとした台地があった。貴子の提案で、時間も早いし腹ごなしもかねて散歩でもということになった。彼に異はなく、真理子もまたすぐに賛成した。外にでた貴子が大きく深呼吸すると、真理子もならんで、大きく空気を吸いこんだ。とその時、強い風がふき、ふたりの体が大きく揺らいだ。とっさに真理子の背を抱くようにし、片方の手で貴子の腕をしっかりとつかんだ。悲鳴にもちかい声を出した真理子だったが、強風に驚いた声だったのか、彼の対応におどろいての声...青春群像ごめんね……えそらごと(三十)
訝しげに見る目を気にしつつ、付け足した。「目が、痛いんだ!」言葉が空を横切った途端、“嘘だ!”と、心が叫んでいた。そう、心が叫ぶまでもなく脳は刺激され、サングラスのない世界の恐ろしさが瞼の裏に醸し出された。そこによぎる全てが眩しいものだった。“信じられないんです”ある時、目に見えぬ何ものかに向かってそう叫んだ時、また心は叫んでいた。“嘘だ!”決して言葉のせいではなく、といって“信じなさい、信じることが唯一の道です”という言葉をはねつけたせいでもない。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(二)
日一日と、光子への周りの視線が変わってきた。子をうしなった母親という憐憫の視線がしだいに、子を産まぬ女という蔑視さえ感じるようになった。そもそもが清子を産んだあとに、二子、三子を産もうとする気配のないことに疑念が持たれていた。そして清子の死という事態をむかえて、導火線に火がついた。光子の年齢からしてためらう必要などなにもないはずなのだから、もうそろそろおめでたの話が出ても……と、口の端にのりはじめた。折に触れてかばってくれた珠恵からも、ことばには出さないが「もうそろそろ」という声が聞こえてくる気がしている光子だった。合原家という家系を考えたとき、光子は言わずもがなで、清二もまた妾の息子ということで他所者として扱われている。ふたりの間にまた娘が産まれたとして、女将を継ぐだろう事は想像にかたくない。しかしそれ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十四)(光子の駆け落ち:二)
行動派にもヒネクレ派にも、ガールフレンドがいる。しかし、真面目派にはいない。ふたりに比べると、ハンサムである。成績にしても、当然ながらトップグループにいる。しかし、女子からも敬遠されている。モテていいはずなのだが、作者だけの思いこみだろうか?もっとも、その原因は性格にあるのだろう。なにせ、内向的だし、おとなしい。そんな真面目派のきょうのの発言は、わたしもまた驚かされた。はじめてのことだ。もっとも、当の本人がいちばんん驚いていはいるが。そんな真面目派が、最近だれかに恋をしたらしい。いや、いままでも“いいなあ”とも思える女子生徒がいるにはいた。ただ憧れに近い気分を抱いていることが多かったし、それよりなにより、彼氏がいた。が、今回は違うようだ。“恋している”という、実感があるらしい。夜、ひとりになると、その女子...原木【Takeitfast!】(八)“キュン!”
その翌日、もちろん娘をまともに見られるわけがありません。その翌日も、そしてまたその次の日も……、わたくしは娘を避けました。しかし、そんなわたくしの気持ちも知らず、娘はなにくれと世話をやいてくれます。そしてそうこうしている内に、結納もすみ、式のひどりも一ヶ月後と近づきました。娘としては、嫁ぐまえのさいごの親孝行のつもりの、世話やきなのでございましょう。私の布団の上げ下げやら、下着の洗濯やら、そして又、服の見立て迄もしてくれました。妻は、そういった娘を微笑ましく見ていたようでございます。なにも知らぬ妻も、哀れではあります。しかしわたくしにとっては、感謝のこころどころか苦痛なのでございます。耐えられない事でございました。いちじは、本気になって自殺も考えました。が、娘の「お父さん、長生きしてね!」のことばに、鈍っ...愛の横顔~地獄変~(二十)陵辱
「小夜子。おまえは、ヴァイオリンだ」突然に己のことをふられて、なんと答えれば良いのか窮してしまった。しかし武蔵はお構いなしにことばをつづけた。「おまえは、ビッグバンドの、いやオーケストラのといっても良い、ヴァイオリンなんだよ。そこにいるだけで、あるだけで、光を放っている。華やかな、存在だ。誰もがひれ伏す存在だ。いや、ヴァイオリンがなければ成り立たない」あまりの褒めことばは、小夜子には面はゆい。「やめてよ、もう。どうしたの、今日の武蔵は。熱でもあるんじゃない?」といって、熱に浮かされている節もない。心底からのことばに聞こえる。目を見ればわかる。しっかりとした瞳がそこにあり、そしてしっかりと小夜子を見ている。まるですぐにも居なくなってしまう小夜子を見忘れないようにと、しっかりとめにやきつけようとしているかのご...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十一)
ある冬の街角で……、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。と、ふと思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白...ポエム~焦燥編~(右に、行け!)
五月日ざしは肌に悪いからという貴子のことばで、山肌の木陰で食事をとることになった。「三角おにぎりのつもりなんですけど……」と、真理子がはじめて握ったというおにぎりが出された。「形が悪くてごめんなさい」というそれは、すこしいびつな丸っこい形をしていた。「お味はどう?」と問いかけられ、「うまい!」となんども叫ぶように言いながらぱくついた。満足げに頷く彼にうながされて、ふたりも頬ばった。とたん「塩辛い!」と、目を白黒させながら声をそろえて言った。「ちょうど良いって」という彼の必死のことばに、真理子の警戒心がとれてきた。会社ではぶっきらぼうな態度をとる彼だが、それが照れ隠しによるものなのだと知り、そんな彼に親近感を覚えた。(やっぱり、九州男児なのよね)再確認する真理子だった。そして彼を、故郷にいる兄にダブらせた。...青春群像ごめんね……えそらごと(二十九)
部屋の照明は落としたまま、ベッドぎわの灯りだけを点けた。上向きの灯りは、うす暗くはあったが落ち着いた雰囲気で、気持ちも和やかになってくる。ふとんの中に入れと、小夜子を迎え入れた。しわになりにくい素地の服だということで、小夜子も久しぶりに武蔵に触れられるとウキウキしてくる。しかし武蔵の体を感じたとたん、あまりの痩身ぶりに驚かされた。たしかに腕にしろ足にしろ、細くなっていることは見ていた。が、直接に小夜子の体全体で感じる物とは異質のものだった。“こんなに痩せ細ってるの?ううん、だいじょうぶ。退院したらしっかりと栄養を摂らせるから”小夜子のそんな思いを推し量ってか、「小夜子。病院食ってのは、精進料理そのものだな。まるで脂っ気がないぞ。ああ、中華そば食いたい、ステーキもがっつりといきたいぞ」と、両手を合わせてお願...水たまりの中の青空~第三部~(四百二十九)
海はいつか日暮れてぼくの胸に恋の剣を刺したままその波間に消えた追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ恋はいつか消えてぼくの胸に涙の粒を残したままその波間に消えていった追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ昨日も今日もそして明日も夏の渚に立ってきみを探してもあの日のきみはいないあの日のきみはもういない遥かな海………どこまでもどこまでも果てしなく……が、その海もまた…………限りない空……どこまでもどこまでも広がり続く……が、その空もまた…………水平線では、空と海が一つになるなのに………きみとぼくは追いかけても追いかけても水平線はどこまでも果てしなく広がり続ける……わからないわからない追いかけるほどわからない……(背景と解説)彼女が逃げていくわけではないのです。自分の想いと彼女の思惑がずれている...ポエム~焦燥編~(太陽の詩(うた))
(不良だって、俺が?)しかしつらつらと考えてみるに、そう思われるのが当たり前のような気がしてきた。ポマードをしっかり使って、エルビス・プレスリーばりのリーゼントスタイルに髪を整えている。普段は不良っぽさを意識した言葉遣いで話しているし、口ずさむ歌と言えばロックンロール系が多かった。「日ごろの行いって大事なんだよね」そうつぶやく岩田の顔が突如浮かんだ。「年寄りみたいなこと言うなよ」と反論したものの、確かに損をしていると感じる彼だった。同じようなミスをしても、岩田なら仕方ないさとかばわれ、彼のミスには「集中心が足りない」と、小言になる。(不良だと思っているんだ、やっぱり。仕方ないか。不良まがいの日ごろの態度では)と、じくじたる思いが湧いてきた。写真で見た断崖絶壁の縁に立たされたような思いに囚われている彼に、貴...青春群像ごめんね……えそらごと(二十七)
(五)視線その他には、ぐるりと見回しても、とりたてて言うほどのものはない。強いて言うなら、紺いろにいろどられた扉があることか。小さなのぞき窓があり、ときおり神のような冷たい視線がそこから投げつけられる。しかしそれが、どうだと言うのか。冷たい視線など、どれ程のものと言うのか。忘れたころに訪れる、女よ。いくらでも泣くが良い。たとえそれで体中がびしょ濡れになってとしても、それがなんだと言うのだ。ただ無視すれば良いだけのこと。そんなことに気を取られるほどに、暇人ではない。このこころは、深遠な世界にあるのだ。知りたければ、……。はいってくるが良い。そっと足音を忍ばせて、のぞき込めば良い。ごっちんこをすればいい、ドアはいつも開けてあるのだから。窓の外にはポプラがそびえ立ち、その葉をすける太陽の光、そして遙かかなたにか...[ブルーの住人]第六章:蒼い部屋~じゃあーず~
(十一)(周囲の目:二)無事出産を終えて明水館に戻ったとき、大女将の珠恵を始め、番頭に板長そして仲居頭の豊子たちの出迎えを受けた。然も、玄関口でだ。初めてのことだった、これほどの人に笑顔で出迎えられるのは。思わず後ずさりをした。娘だけを取り上げられて、光子はそのまま叩き出されるのではないか、そんな思いにとらえられていた。「お帰りなさい、若女将!」。「お帰り。さあさあ早く入りなさい、奥の部屋で休むと良いわ」。珠恵の優しい言葉は心底のもので、温かい慈愛が感じられるものだった。そしてそのことばで、やっと光子はこの合原家の一員となったことを実感した。それは突然のことだった。珠恵がお使いから帰ったところを見た清子が「おばあちゃま、おかえりなさい!」と、通りの向かい側に飛び出した。急ブレーキ音とともに、ドン!という音...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~
行動派が言う。「誰も反対しないようだ。委員長、やってくれ。時間が勿体ない」眼鏡をかけたやせっぽちの男が、渋々と立つ。と、あろうことか「待ってください。みんながそれでいいと言うのなら僕もそうしますが、僕としては、自習とした方がいいと思います。第一、先生も居ないことだし。それに、あと二十分足らずの時間です。討論の時間には少ないと思います。風紀については、重要なことですから、誰かが調査して、その結果を元に討論してはどうでしょうか」と、小声ながらも、はっきりと胸を張って、真面目派が言った。クラス内に、割れんばかりの拍手が起こった。真面目派は、“ドクン・ドクン”という心臓音を耳にしながら、真っ赤になっていた。さすがの行動派も、いつも連れ立っている仲間の一人に反対されては、反論のしようがなかった。「それでは、俺とあと...原木【Takeitfast!】(五)意外なこと
断じて許すことはできません。八つ裂きにしても足りない男どもでございます。しかしもうわたしには気力がございません。お話しする気力が、ございません。もう、このまま死にたい思いでございます。まさしく地獄でございます。……地獄?そう、地獄はこれからでございました。じつは不思議なことに、男どもには顔がなかったのでございます。もちろん、その男どもをわたくしは知りません。見たことがありません。だから顔がない、そうも思えるのではございます。しかし、……。そうですか、お気づきですか?ご聡明なあなたさまは、すべてお見通しでございますか。”申し訳ありません!申し訳ありません!!”わたしは、犬畜生にも劣る人間でございます。“殺してください、わたしをこの場で殺してください。この大罪人の、人非人を!”そうなんでございます、男どもは、...愛の横顔~地獄変~(十七)銀蝿などと!