一番初めにわたしのこころのスクリーンに登場するのは、若き日の母の姿です。わたしは五歳くらいだったでしょう。母はわたしの目からは後ろ向き、お風呂で使うくらいの高さの腰掛にすわって、何やらジャブジャブ音立ててやっています。はいているのは、モンペでした。わたしはほかのことに夢中。母が何をやっているかなど、まったく興味がありませんでした。苗間の水口から流れ込んでくる水を、一心に見つめていました。いったい、何が目当てでそんなふうにしていたのでしょうね。「気をつけるんやで。苗間でおぼれるようなことになったらあかんよ」母のやさしい声が、ときどき、わたしの耳に届きます。「いたあ。石亀さんの赤ちゃんだ」ひとつひとつつかんでは、バケツに入れていきました。わたしの嬌声に、母がふりむいて、にこりと笑いました。母だけではありません...米とともに生きて。(2)