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油屋種吉
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2013/08/16

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  • 仲間はずれ。 (4)

    ゆるぎない自信をもって、この部屋にとりついていたよこしまなものと、かみさんは対決したのではなかったらしい。「ううっうっ、うううう」少しの間、くぐもった嗚咽をもらしていたが、ふいに堰を切った如く、かみさんの感情が爆発。おいおい泣き始めた。闇を支配するものの一種に違いない。かみさんの涙に追い払われるように、大きな浴室の隙間という隙間から、すうっといずこかへ立ち去っていく。たちまちのうちに、浴室は元どおりの静謐をとりもどした。「もう泣かないでいい。もう大丈夫だ」Mは、かみさんの両肩を抱いた。浴槽の水はもはや元どおりになった。再び、浴室は清らかな空気で満たされた。よこしまなもの。その正体は依然として想像することしかできないが、それがふれるもの、なめるものすべてを汚してしまう。かみさんは浴槽の中をのぞきこむようにし...仲間はずれ。(4)

  • 涼をもとめて。 (2)

    ここ連日、体温を超す気温がつづく。奈良や京都も盆地であったから、昔からけっこう暑かった。手もとに一冊のアルバムがある。表紙は深緑色。らせん状の金属で、アルバムの何枚もの分厚い紙が支えられている。左上にさくらの花をかたどったM小学校の紀章があるから、きっと卒業式の際にいただいたものであろう。たたずんだままで、それをパラパラめくりだすと、青っぽい封筒が一枚、はらりと畳の上に落ちた。以前にも、その中身を観たおぼえがあるが、もうしばらく前のことで、何だったか思い出せない。調べると、自分の履歴のごとき、幼児期から少年期にかけての三枚の写真が入っていた。そのうちの一枚を観て、あっと思った。それほど驚くにはあたらないのだが、何しろ、およそ七十年以上も前に撮られたものである。幼子がふたり、砂利道でできた四つ角で、カメラに...涼をもとめて。(2)

  • 仲間はずれ。 (3)

    「おい、なにかい。いま、風呂かい」Mは目をつむり、怖さを我慢して、家の中で、かみさんにものを言う調子で問いかけた。できるなら、歯を食いしばったり、へその下あたりに心身の気力を集めたりして、気力の充実を図りたかったかったが、突発的な病があった。いちにいさん……と、Mは、こころの中で秒数をかぞえ、返事を待った。ふと物音や水のしたたる音がやみ、続いてザザザッと水が落ちる音がした。どうやら浴槽内にいる者が外に出て来るようだ。辺りの明るさがフェイドアウトし、次第に暗くなってくる。辺りが真っ暗になった。「入ってるよ。じきに出るから、ちょっと待ってて」どのみち、家の中ならそんな調子で、かみさんの返事がくるはずだった。だが、いくら待てども来ない。Mは闇の世界で、想像力を働かせるばかりだった。しびれを切らし、Mは、両目をあ...仲間はずれ。(3)

  • 仲間はずれ。 (2)

    部屋に入ると、あまりに広い上がり框を目にしてMは戸惑う。「ほら、何をぐずぐずしてるのよ。早く早く荷物はここに置いて」「うんうん、ああ。そうだね。ごめん」(なんだ。せがれと一緒に過ごせるもんだと思ってたのに、かみさんも同じ部屋なんだ、この調子じゃ少しも普段の生活と変わらないじゃないな)Mはここに至っても、かみさんが機嫌を損なうのはまずいと気を遣い始める自分に気づき嫌悪をおぼえる。「あんたたちはベッドで寝たらいいでしょ。ええっとわたしはどうするかな」かみさんは、M同様、年老いている。それを充分に意識しているらしい。男たちの面前で、衣服を脱いだ自分の姿をさらすのをいやがっている気配が伝わってくる。「ここでいいわ。あっちに和室があるけど、なんだか気味が悪いわ。茶の間でいい。わたしは」和室から持ち運んできたらしい布...仲間はずれ。(2)

  • 仲間はずれ。 (1)

    Mは、玄関先のロビーへとおそるおそる歩みを進める。一瞬立ちどまり、天井を見あげた。シャンデリア。留め金を外すやいなや、またたく間にガシャンと地響きをたて、床に落下ししまい、粉々に砕け散ってしまうガラス細工のともしびが、ロビー全体に淡い光を投げかけていた。(とてもとても、あのともしびの下には立つことはできないな。長い月日のうちに留め金が錆びついているやもしれない)持ち前の気弱さを発揮し、Mはふとひとりごちる。「ほら、あんた。いったいそこで何をしてるのよ。あんまりわたしをてこずらせないでよ」「ああ、いや、はいはいどうも」妻の叱責に委縮しそうになる気持ちをなんとかして励まし、このホテルでの一泊二日の研修を、Mなりに堪えようとする。自分の健気さを愛おしく感じる瞬間だ。妻と息子が、自分たちの荷物を、ロビーの一隅に、...仲間はずれ。(1)

  • 仲間はずれ。

    十数人ばかりのとあるサロンの会員を乗せた中型バスは高速道を乗り継ぎ、矢のような速さで、富士の裾野のとある湖のほとりにある超高級ホテルへと向かった。「いいですか、みなさん。この旅は観光目的ではありません。わかってますよね」リーダー格の女性の掛け声に応え、「はあい」車内のあちこちから、答えがぱらぱらと返ってくる。他の人たちの中には、こんにちの準備疲れなのか、こっくりこっくり首を縦に振ったり、肩を寄せ合いひそひそ話を始めたり、ポテチを早速、口にほうりこみ、ぽりぽり噛みながら走り去っていく窓外の景色に、何とかして目線を合わせようとする。「あれれれえ、なんとまあ声が小さい。わかっているんでしょうか。ホテルに付き次第、社長直々、みなさま方ひとりひとりの決意のほどを訊ねられることになっておりますのよ。それがおいやなら、...仲間はずれ。

  • 涼をもとめて。 (1)

    わたしのふるさとは大和盆地。海なし県でいざ涼をもとめるとなると、「うぐいすの滝」を観がてら、サワガニを採るのが子ども時代の楽しみでした。遠くは三重県伊賀の「赤目の滝」がありましたが、なかなか訪ねることはありませんでした。オオサンショウウオが生息しているらしいですね。水泳場は木津川の土手に造られた駅まで電車で行きました。木津川はご存じの如く、淀川水系。近鉄京都線の新田辺駅から数分で当時、川の土手に造られた簡素な駅に着きました。ベビーブーム世代で、夏休みともなるとたくさんの人でにぎわいました。とにかく水がきれい。魚の種類も多く、夢中で網ですくったり、ヤスで突いたりしたものです。水中めがねをはめ、もぐったまま、となりにいる人たちが歩いたり泳いだりしている様子を観察するのは興味深いものでした。もっと上流に行きます...涼をもとめて。(1)

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