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2009/08/09

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  • ジェンダーの視点から「教養」を見据える意味―『夢みる教養』

    ☆『夢みる教養』(小平麻衣子・著、河出書房新社・2016年)☆サブタイトルは「文系女性のための知的生き方史」ここでいう「文系」とは文学をメインとしながらも哲学、史学、教育学、心理学などを含む人文科学に加えて社会科学も一応念頭に置かれているようだ。しかし、実際に本書で論じられているのは、大学に設置された学部学科でいえば文学部国文学科(近年は日本文学科などと称されることも多いが(※))をメインとした「人文知」の領域と捉えて、ひとまずさしつかえないないだろう。※偶然にも本日(2024/03/20)天皇皇后両陛下の長女である愛子さまが学習院大学文学部日本語日本文学科を卒業されたという。また「のための」と書かれていることから、いわゆるハウツー本と勘違いされる可能性もなきにしもあらずだが(失礼を承知で言えば、そんな輩...ジェンダーの視点から「教養」を見据える意味―『夢みる教養』

  • 未来を変えるピンクの世界 女児向け玩具のSTEM化事情―『女の子は本当にピンクが好きなのか』

    ☆『女の子は本当にピンクが好きなのか』(堀越英美・著、河出文庫、2019年)☆今年もひな祭りを迎える時期になった。ひな祭りは言うまでもなく女の子の健やかな成長を願う祝いごとである。ところで、ひな祭りと聞いて思い浮かべる色は何色だろうか。日本人ならばピンク(桃色)をイメージする人が多いように思う。ひな祭りは「桃の節句」とも言われるように、桃が薄桃色の花をつける季節と近いこともあるのだろうが、それ以上に「女の子=ピンク」という強固な等式ができあがってしまっているのではないだろうか。ところが、女の子ならばピンクが好きにちがいないという思い(思い込み)は、必ずしも大人社会がつくり出したものであるとは限らないという。洋の東西を問わず、多くの女児は3~4歳になるとピンクに執着しはじめ、ピンクに囲まれた生活を送るように...未来を変えるピンクの世界女児向け玩具のSTEM化事情―『女の子は本当にピンクが好きなのか』

  • 天文学者からの人生の応援歌―『天文学者は星を観ない』

    ☆『天文学者は星を観ない』(シム・チェギョン・著、オ・ヨンア・訳、亜紀書房、2022年)☆昨年夏頃だったか、たまたまツイッターで知って、アマゾンマーケットプレイスで買った本。天文学者は星を観るのが仕事でしょ、と思っている世間の常識をひっくり返すようなタイトルにひかれた。その後、なぜかツンドク状態だったのだが、こんなにおもしろい本だったとは!この本は、帯にも書かれているように「日々の仕事や生活に立ち向かう人たちへ贈る応援歌」だ。それも哲学者や作家、エッセイストなどではなく、天文学者からの人生の応援歌。いやいや、著者のシム・チェギョンさんは天文学者にして立派なエッセイストだ。元はウェブに連載されたエッセイだという。訳者の「あとがき」によると、2021年2月に刊行されるとすぐにベストセラーとなり、宇宙や天文学に...天文学者からの人生の応援歌―『天文学者は星を観ない』

  • 古(いにしえ)の星空に想いをはせる―『古天文学の散歩道』

    ☆『古天文学の散歩道』(斉藤国治・著、恒星社厚生閣、1992年)☆斉藤国治さんの『星の古記録』(岩波新書、1982年)を読み、その感想をこの拙いブログに書いてからすでに12年。ちょうど十二支が一巡した今年、その続編とも言える本書『古天文学の散歩道』を読み終えた。前著と同様、さまざまな史料を猟歩し、幅広い古天文学の話題が紹介されている。各章のタイトル(目次)を列挙してみると以下のようである。第1章シャーロック・ホームズと天文学第2章柿本人麿が見た「かぎろひ」第3章芭蕉の「天の川」の句第4章『枕の草紙』についての天文考第5章建礼門院右京大夫が見た星空第6章『太平記』の妖霊星第7章日本の古代と近世の天文事情第8章傾国の美女と『詩経』の日食第9章漢詩の中の天文記事第10章先史時代の天文遺跡考-ナスカの地上絵第11...古(いにしえ)の星空に想いをはせる―『古天文学の散歩道』

  • 数学と「京大理学部」の魔力にはまってみたら―『数字であそぼ。(1巻~10巻)』

    ☆『数字であそぼ。(1巻~10巻)』(絹田村子・著、小学館、2018年~2023年)☆久々にアマゾンでコミックを購入。それも大人買い。『数字であそぼ。』の1~10巻、税込5500円也。ちなみに『数字であそぼ。』であって『数学であそぼ。』ではない。前々から気になっていたので、思い切って現在出ている全10巻をまとめて買った。数学ネタをメインにした数学マンガのように見えるが、数学などまったくわからなくてもおもしろい。むしろ、数学の奥深い魅力あるいは魔力に取り憑かれた学生たちの生態が、ユーモアたっぷりに描かれていて興味深い。主人公は抜群の記憶力の持ち主。その能力を活かして、ノーベル賞受賞者を多数輩出している憧れの吉田大学理学部に現役合格で入学した学生。吉田大学理学部は言うまでもなく京都大学理学部がモデル。ところが...数学と「京大理学部」の魔力にはまってみたら―『数字であそぼ。(1巻~10巻)』

  • アンからリラへ そして更なる「未来」へ―『アンの娘リラ』

    ☆『アンの娘リラ』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・新訳、文春文庫、2023年)☆昨年2023年の元旦、わたしは『虹の谷のアン』を「前戦争文学」と位置づけました。それに続く本作『アンの娘リラ』はまさしく「戦争文学」の書です。この戦争とは、歴史上で初めての「世界大戦」となった「第1次世界大戦」のことです。大英帝国の一員として参戦したカナダに直接戦禍が及ぶことはありませんでしたが、6万人以上の戦死者を出し、「銃後」の家庭生活や社会にも大きな影響を与えました。アンとギルバートの3人の息子たちも出征していきます。ある息子は勇猛果敢に志願し、ある息子は新規の空軍に憧れを抱き、そしてある息子は葛藤と逡巡を繰り返し苦悩します。出征する若者たちの心情はけっして同一視して語れるものではなく、今まさにウクライナやロシア、そ...アンからリラへそして更なる「未来」へ―『アンの娘リラ』

  • 生き物の「死にざま」から学ぶべきこと―『生き物の死にざま』

    ☆『生き物の死にざま』(稲垣栄洋・著、草思社文庫、2021年)☆少し前に買った本。タイトルは「死にざま」となっているが、生き物の宿命ともいえる「死」に向かって歩む、生き物のさまざまな「生きざま」が描かれている。それは「生」「繁殖」「死」のサイクルでもある。取り上げられている生き物は30種。項目数は29だが、シマウマとライオンで1項目になっているので30種になる。ひとまず種類別(厳密な生物学的分類ではなく)でいえばプランクトンから哺乳類まで多様だが、いわゆる昆虫の類いがもっとも多く、次いで哺乳類が多い印象。生き物の名前は、多くの人たちがどこかで聞いたことのあるものがほとんどだろう。個人的にまったく知らなかった名前は有袋類の「アンテキヌス」だけだった。「兵隊アブラムシ」と「ワタアブラムシ」は別項目として取り上...生き物の「死にざま」から学ぶべきこと―『生き物の死にざま』

  • やっかいな老年を生きるための箴言集―『老年の読書』

    ☆『老年の読書』(前田速夫・著、新潮社、2022年)☆老年とはやっかいなものである。もちろん個人差はあるだろうが、多くの人は還暦を過ぎると自分の老いを実感するように思う。障害を持つ我が身でも、障害とは異なる不都合は還暦を過ぎてから急速に感じるようになった。しかしだからといって、自分の老いを素直に認め、受け入れるかどうかは別の問題だ。たいていは自分が老年であることを否定し、人から年寄り扱いされると怒るか、人知れず落ち込んだりする。まだまだ若い者には負けじと何かをはじめると「年寄りの冷や水」と陰口をたたかれたりする。自分も若かった頃、同じようなことを思ったり言ったりしたことがあっただろうに、そんなことはすっかり忘れてしまっているものだ。若い人たちが老人を理解できないのは、まだ老いを経験したことがないのだからや...やっかいな老年を生きるための箴言集―『老年の読書』

  • 不確定性原理の成立と解釈をめぐる物語―『ハイゼンベルクの顕微鏡』

    ☆『ハイゼンベルクの顕微鏡』(石井茂・著、日経BP社、2006年)☆昨夜『ハイゼンベルクの顕微鏡』をようやく読了。他の本と併読していたのと、理解しながら(と言うよりは、ひとまず理解したつもりで)読み進むのは相当難儀だったため、読み終えるまでかなり時間がかかった。以下、的外れな感想になるかもしれないが、読書メモのつもりで書いてみようと思う。本書はそのサブタイトル「不確定性原理は超えられるか」からわかるように「不確定性原理」について書かれた物理学の啓蒙書である。現代物理学は相対性理論と量子力学の二本の大きな柱から成り立っていると言われる。不確定性原理は、その一方の量子力学を支える重要原理で「物体の位置と速度(運動量)は同時に知ることはできない」と表現される。不確定性原理は、専門書でなくとも量子力学について書か...不確定性原理の成立と解釈をめぐる物語―『ハイゼンベルクの顕微鏡』

  • 牧野富太郎の実像に迫る快作―『牧野富太郎の植物学』

    ☆『牧野富太郎の植物学』(田中伸幸・著、NHK出版新書、2023年)☆現在放送中のNHK朝ドラ「らんまん」を毎回楽しく見ている。モデルは高知県(土佐)出身の植物学者・牧野富太郎(1862–1957)。ドラマはタイトル「らんまん(爛漫)」のように花が咲き乱れ光り輝くような人生を送った主人公「槙野万太郎」を描いている。しかし、ドラマの「槙野万太郎」はモデルとなった実在の「牧野富太郎」のように愛する植物に一生を捧げることになるのだろうが、二人は完全にイコールなわけではない。ドラマのストーリーはあくまでオリジナルである。牧野富太郎は独学で植物学の研究を究め、「日本の植物学の父」と称されることが多い(わたしもかつてそのように書いたことがある)。また、牧野が命名した植物は1500種とも2500種とも言われている。こう...牧野富太郎の実像に迫る快作―『牧野富太郎の植物学』

  • 自らのジェンダーギャップに気づく第一歩―『なぜ理系に女性が少ないのか』

    ☆『なぜ理系に女性が少ないのか』(横山広美・著、幻冬舎新書、2022年)☆人生二度目の大学で入学したのは理学部物理学科だった。物理学科に女子学生が少ないのは知っていたのでとくに驚きはしなかったが、1年生が一つの教室に集められたとき、同級生を見渡して女子らしき顔がなかなか見つからず、女子学生の少なさを実感した覚えがある。同じ理学部には数学科と化学科もあった。部活(一応学術系の研究部だったが)などを通じて知り合った他学科の学生の話やさまざまな情報、また授業など実際の見た目などから、各学科の女子学生の割合は、大雑把な印象として、化学科が3割程度、数学科が2割以内、物理学科が1割未満といった感じがした。当時の他の理学部と比較してもそれほど大きな差はないように思う。その後2年生になってから学生実験がはじまった。学生...自らのジェンダーギャップに気づく第一歩―『なぜ理系に女性が少ないのか』

  • 「文系」「理系」の過去と未来を知るための深い視座―『文系と理系はなぜ分かれたのか』

    ☆『文系と理系はなぜ分かれたのか』(隠岐さや香・著、星海社新書、2018年)☆いまから半世紀以上も前、田舎の県立高校普通科に在籍していた。けっして進学校と呼ばれるような高校ではなかったが、大学進学を希望している生徒は、2年から3年に進級する際「文系」か「理系」かの選択を迫られた。ずいぶんむかしのことなので「文系」と「理系」で何がちがっていたのか、よく覚えていない。けれども、「文系」は数学が「数学ⅡB」(当時の科目名で)止まりなのに対して「理系」は「数学Ⅲ」まで課されていたのは覚えている。いまの高校でも基本的に「文系」「理系」のコース分けがおこなわれているのだろうか。数年前までは非正規ながら一応「教える仕事」に携わってきたが、いま現在の動向についてはまったく疎くなってしまった。しかし、さまざまなメディアが伝...「文系」「理系」の過去と未来を知るための深い視座―『文系と理系はなぜ分かれたのか』

  • 多様性の世界へと開かれていく中高生たちの夏―『この夏の星を見る』

    ☆『この夏の星を見る』(辻村深月・著、角川書店、2023年)☆2020年の春のことを思い返してみた。ずいぶん前のような気もするし、ついこのあいだのような感覚もある。新型コロナウィルスが日本でも広がりはじめたこととはまったく無関係に、この年の3月で職から離れた。それ以来、コロナ禍とも呼ばれる波が繰り返されるのと相まって、買い物や散歩に出る以外、ほとんど家にこもって日々を過ごしてきた。時間に密度というものがあるとすれば、この3年間はとても薄い密度の時間を過ごしてきたような感覚になる。あるいは、時間の密度が変化することなく、のっぺりとした時が過ぎ去っていくのを見ていただけのような気もする。仕事もなく、人と会うこともなくなると、時間の経過も平板になってくるものだ。最初の緊急事態宣言が発出されたとき、ほとんどすべて...多様性の世界へと開かれていく中高生たちの夏―『この夏の星を見る』

  • 文学者による「金子みすゞ」鑑賞マニュアル―『金子みすゞと詩の王国』

    ☆『金子みすゞと詩の王国』(松本侑子・著、文春文庫、2023年)☆もうずいぶん昔のことですが、「名作劇場」などと称して毎週決まった曜日にテレビで映画を放映していた時期がありました。映画の前後には、淀川長治や水野晴郎といって映画評論家が、その映画の制作意図や見所について解説していました。その解説について当時ある友だちが、あんなものはいらない、映画をどのように見ようが個人の自由であって、むしろ解説と称して映画の見方に枠をはめるのはよくないと言っていたことを思い出します。たしかに彼の言うことには一理あるでしょう。映画に限らず、小説や詩歌などの文学作品や、絵画などの美術作品、さまざまな楽曲を耳で聴く音楽など、それらを読んで、見て、聴いてどのように感じるかは個人の自由です。しかし、そうした作品に広く深く接してきた人...文学者による「金子みすゞ」鑑賞マニュアル―『金子みすゞと詩の王国』

  • 統計学的人間観の隘路―『他者と生きる』

    ☆『他者と生きる』(磯野真穂・著、集英社新書、2022年)☆>本書は昨年(2022年)の今頃アマゾンで購入し読み終えていたのだが、当時メモってあった感想を文章化して掲載してみた。一見、語り口は平易で、例示も日常的で身近なものが多いが、その思索は深い印象を与える。「序論」で著者の問題意識が書かれているにもかかわらず、読み始めると、(文化)人類学的なエピソードが問題意識とどのように関わってくるのか、いまひとつ見通せなくなる。しかし、先を急ぐことなく著者の筆運びに沿って読み進めていくと、抗血栓療法とレトリック、HIV(エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス)やBSE(牛海綿状脳症)に関わる情報経験の不気味さの指摘、新型コロナによる志村けんさん・岡江久美子さんの「痛ましい死」報道の「消費」など、思索の輪郭が徐々に...統計学的人間観の隘路―『他者と生きる』

  • 『生きる歓び』を読む―『生きる歓び』

    ☆『生きる歓び』(ヴァンダナ・シヴァ・著、熊崎実・訳、築地書館)☆以下の記事は2008年5月16日付けで本ブログに別ブログへのリンクとして掲載していたものだが、すでにリンクが切れていて長らくアクセスできない状態になっていたため、あらためて本ブログに掲載した。当時は書影なしだったが、これを機会に書影も掲載した。なお、本記事は当時エコフェミニズムに強い関心を抱いていたことが色濃く反映している。現在もエコロジーやフェミニズムに対する関心は薄れていないつもりだが、ある種の意気込みが感じられて懐かしい。ヴァンダナ・シヴァはインドでエコ・フェミニズムを実践している女性であり、その取り組みに対して「もう一つのノーベル賞」といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞している。1952年インド北部のヒマラヤ山麓に生まれたシ...『生きる歓び』を読む―『生きる歓び』

  • 平和を願う「前戦争文学」―『虹の谷のアン』

    ☆『虹の谷のアン』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・新訳、文春文庫、2022年)☆小説を読んでいて不思議な符合を感じることがあります。現代の小説を読んでいるときならば、その舞台が過去であれ未来であれ、いまわたしたちが生きている時代の映し鏡のように感じるのは、さほど不思議なことではないでしょう。作者はまさにそれを意図しているのかもしれないし、そうでなかったとしても、書き手がいま生きているその社会の雰囲気や風向きが、知らず知らずのうちに作品に反映しても何の不思議もないように思います。モンゴメリが『虹の谷のアン』(『赤毛のアン』シリーズ第7巻)を執筆したのは第1次世界大戦(1914年~1918年)中で、出版されたのは終戦後の1919年とのこと。いまのわたしたちは第2次世界大戦を歴史として知っているので、当時の...平和を願う「前戦争文学」―『虹の谷のアン』

  • キミといっしょに普通に暮らせる社会をめざして―『キミがいるから私は』

    ☆『キミがいるから私は』(近藤姫花・著、幻冬舎、2022年)☆近藤姫花さんは生まれたとき「二十歳までは生きられないかもしれない」と父親に告げられたという。わたしも同じ言葉を両親に告げられた。ちがうのは、わたしが十歳くらいのときで、手術(フォンタン手術やそれに近い手術だったのかはわからないが)を受けるつもりで3ヶ月以上も入院していた東京の大学病院を、手術をキャンセルして退院したときのことだった。両親は、同じ病棟に入院していた、先天性の心疾患を持った同じ年齢くらいの子どもが手術を受けても亡くなるのを見たらしい。さらに当時の若い担当医が「いまはまだ手術を受けない方が良い」と告げたことで、両親は苦渋の選択をした。教授などの“偉い”先生方は手術を勧めていたが、その若い担当医は当時の手術の成功率の低さを鑑みて、未来に...キミといっしょに普通に暮らせる社会をめざして―『キミがいるから私は』

  • 星月夜に照らされた山々の風貌―『山の星月夜』

    ☆『山の星月夜』(菊池哲男・著、小学館、2008年)☆※この記事は、2019年11月17日付けで「ブクログ」に掲載してあった記事を本ブログに移行した上で若干修正加筆し、新規投稿しました。北アルプスの山々と雲海、月、星、街の灯り(さらには雷光まで)が織りなす見事な写真の数々。星空に的を絞った、いわゆる「星景写真」とはまたちがった感動を覚える。残念ながら身体障害の事情で登山の経験はまったくないが、山々から見上げる星空やパノラマのような風景(とくに夜景)に憧れてきた。この写真集はその想いに応えてくれる希有な宝物となりそうだ。たまたまアマゾンで知り、マーケットプレイスで定価の約1/4(送料込み)という廉価で購入したが、新品で買っても後悔はしなかっただろう。著者の菊池哲男さんは立教大学で物理学を専攻した異色の経歴を...星月夜に照らされた山々の風貌―『山の星月夜』

  • 男性性を省みる辛い試金石―『限界から始まる』

    ☆『限界から始まる』(上野千鶴子、鈴木涼美・共著、幻冬舎、2021年)☆こんなにおもしろい本はめったにない。年齢差35歳の女性社会学者と女性作家による往復書簡。著者たちのことを何も知らずに読んでもおもしろいかもしれないが、書簡のやり取りに伴うスリリングな展開は、お二人の経歴や仕事を知っているか否かに左右されそうに思う。幸いにもお二人の著作は、そのデビュー作から読んでいたので、おもしろさが倍加したのはまちがいない。もちろんお二人の著作のすべてを読んできたわけではないし、とくに上野さんの著作は膨大である。思えば、上野さんのデビュー作『セクシィ・ギャルの大研究』(カッパブックス、1982年、現在は岩波現代文庫、2009年)を買ったのは、そのタイトルと掲載画像が当時まだ二十代だった男にとって刺激的だったことと、当...男性性を省みる辛い試金石―『限界から始まる』

  • 六十年安保から50年、樺美智子の問いかけに想う―『樺美智子 聖少女伝説』

    ☆『樺美智子聖少女伝説』(江刺昭子・著、文藝春秋、2010年)☆※この記事は、2020年1月12日付けで「ブクログ」に掲載してあった記事を本ブログに移行した上で若干修正加筆し、新規投稿しました。1960年6月15日、日米安全保障条約改定をめぐる反対運動の最中、国会議事堂へ突入した学生たちの中にいた樺美智子さんが亡くなった。当時東大文学部国史学科在学中で22歳だった。彼女の死の数日後、安保条約は自然承認され、それを機に岸信介内閣は総辞職した。彼女の死は岸首相退陣の一因になったとされ、「樺美智子」の名前は六十年安保闘争の象徴として祭り上げられた。その後さらに過剰な美化や「伝説」が生まれ、いまで言うフェイクニュースも流布したという。本書は、1960年当時、早稲田大学に入ったばかりだった著者が「彼女が死んだあの日...六十年安保から50年、樺美智子の問いかけに想う―『樺美智子聖少女伝説』

  • 津田梅子の新たな「肖像」が呼ぶ感動―『津田梅子 科学への道、大学の夢』

    ☆『津田梅子科学への道、大学の夢』(古川安・著、東京大学出版会、2022年)☆政府の発表によると2024年度上半期をめどに新しい紙幣が発行されることになっており、新五千円札の肖像には津田梅子が選ばれた。その選定理由について、財務省のホームページには以下のように記されている。「新しい紙幣の肖像になる渋沢栄一氏、津田梅子氏、北里柴三郎氏は、それぞれの分野で傑出した業績を残すとともに、長い時を経た現在でも私たちが課題としている新たな産業の育成、女性活躍、科学の発展といった面からも日本の近代化をリードし、大きく貢献した方々です。三者ともに、日々の生活に欠かせず、私たちが毎日のように手に取り、目にする紙幣の肖像としてふさわしいと考えています。」津田梅子については、文脈から見て「女性活躍」に関して日本の近代化をリード...津田梅子の新たな「肖像」が呼ぶ感動―『津田梅子科学への道、大学の夢』

  • 壮大な文明論の試みにして反「文系不要論」―『<自己完結社会>の成立』

    ☆『<自己完結社会>の成立』(上柿崇英・著、農林統計出版)☆一言で表現すれば壮大な文明論の試みである。それは、日々、科学技術の恩恵や利便性にあふれた社会システムに取り囲まれ、安楽な生活を送っている「われわれ」に向けての根源的な問題提起のようにも思える。それはまた、一種の欲望の連鎖なのかもしれない。それにもかかわらず、いや、そうだからこそと言うべきかもしれないが、われわれは不安を払拭できず、どこか救いを求めているようにも思われる。日々報道される、個人から国家に至るまでの様々な「歪み」はその現れのように思える。その原因を求め「原理」を著者なりの視座から解明しようとした試みが本書である。そのメインコンセプトを<自己完結社会>と著者は表現している。<自己完結社会>とは、<環境>(言うまでもないことだが、<環境>とは「自...壮大な文明論の試みにして反「文系不要論」―『<自己完結社会>の成立』

  • 教養とは「Dare to know」である―『教養の書』

    ☆『教養の書』(戸田山和久・著、筑摩書房)☆本書の第21章「ライティングの秘訣」に文章を書く前に考えておくべきことがらとして8項目が挙げられている。その1番目が「これから書く文章の目的は何か」、2番目が「その相手は誰か、どういう人か」である。これから書こうとしている(いま現に書いている)この文章に当てはめると、1番目は、できるだけ多くの人たちにこの『教養の書』を読んでもらいたいからで、2番目は、この『教養の書』をまだ読んでいない人、あるいは読み始めたけど途中で投げ出してしまった人ということになる。付け加えておくが、ライティングと教養とがどう関係するのかと思う人は、ぜひ本書を読むべきである。さらに付け加えておくが、「読み書き」は教養を身につける前提となる重要なツールだからくらいの認識で、ライティングと教養の関係が...教養とは「Daretoknow」である―『教養の書』

  • 女性天文学者を可視化する見事な試み―『女性と天文学』

    ☆『女性と天文学』(ヤエル・ナゼ・著、北井礼三郎・頼順子・訳、恒星社厚生閣)☆言うまでもないことだが、人類の半分は女性である。それにもかかわらず、人類の歴史は男性の歴史であるかのように書かれてきた。少なくとも現在、わたしたちが学校などで習う歴史はそうであるように見える。人類の歴史の一部である科学の歴史は、人類一般の歴史以上に、男性中心の歴史観で貫かれている。科学の中でも最も古い起源を持つ天文学の分野も変わりない。もしあなたが少しばかり天文学に詳しかったとしても、天文学史上に名を残した女性を何人挙げることができるだろうか。ひょっとすると一人の女性も挙げられないかもしれない。天文学に携わった女性がいなかったわけではない。女性の天文学者はたしかに存在していた。しかし、さまざまな理由から、女性天文学者の名前は歴史の表舞...女性天文学者を可視化する見事な試み―『女性と天文学』

  • 幻影がもたらした悲劇―『原子の力を解放せよ』

    ☆『原子の力を解放せよ』(浜野高宏・新田義貴・海南友子・著、集英社新書、2021年)☆きっかけは一昨年(2020年)夏にNHKで放送された『特集ドラマ太陽の子』を見たことだった。このドラマは昨年(2021年)同じ出演者、同じタイトルで映画化され全国公開された。わたしは映画の方を見ていないが、ネットで検索してみると、結末が若干ちがうとも書かれいるが、どちらもメインテーマやあらすじは変わりないようである。もともと映画として公開されるように制作された作品を、ドラマ用に若干編集して、映画公開の一年前にドラマとして放送されたのかもしれない。メインテーマは、太平洋戦争の前後、日本で原爆開発が行われていたのか、その問いに答えることにある。NHK取材班は答えを求めて綿密な調査を開始し、その過程で別の実として結んだのがドラマ(映...幻影がもたらした悲劇―『原子の力を解放せよ』

  • 平凡な「日常」こそ幸福―『炉辺荘のアン』

    ☆『炉辺荘のアン』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・新訳、文春文庫、2021年)☆『赤毛のアン』シリーズの第6巻『炉辺荘のアン』を数日前、つまり昨年(2021年)暮れに読み終えました。昨年の『アンの夢の家』に引き続き元日に読後の感想を載せることになりました。『アンの夢の家』は、一言で表現すれば、その「訳者あとがき」にもあるように「『災いある世界』を照らす、ぼくたちの灯台だ」(ギルバートがアンに語る言葉)になるように思う、と書きました。では、『炉辺荘のアン』はどう表現すれば良いでしょうか。『アンの夢の家』では、子どもは一人も登場しませんでしたが、『炉辺荘のアン』には多くの子どもたちが登場します。それもそのはず、アンはギルバートとの新婚時代を脱し、6人の子どもの母親として登場します。それに伴って、多くの人たちが、...平凡な「日常」こそ幸福―『炉辺荘のアン』

  • 人間を映す鏡としてのAI 「共感」のすすめ―『AIの時代を生きる』

    ☆『AIの時代を生きる』(美馬のゆり・著、岩波ジュニア新書)☆本書『AIの時代を生きる』は『理系女子的生き方のススメ』以来、久しぶりに読んだ美馬のゆりさんの著書。実はAI(人工知能)そのものに関する本を読むのはたぶん初めてである。AIに関する本といえば、AIで世の中はますます便利になるといったバラ色の夢を語るものか、AIで仕事が奪われたり個人情報の監視や漏洩といった不安を煽るものに二分化されているような印象を持っていた。そのどちらにもついて行けない気持ちだった。本当はそのどちらでもないというか、そのどちらの可能性もあるので、中庸の道を探るのが本筋だろうとは思っていた。しかし、自分の身近に直接AIを感じさせるモノがないこと、AIについての認識も不足していたことなどで、これまでAIについて考える必要性はあまり感じて...人間を映す鏡としてのAI「共感」のすすめ―『AIの時代を生きる』

  • 科学理論が架橋した平和―『アインシュタインの戦争』

    ☆『アインシュタインの戦争』(マシュー・スタンレー・著、水谷淳・訳、新潮社)☆本書に登場するアインシュタインは、われわれがよく知っている功成り名を上げたアインシュタインではなく、そこに至るまでの無名の(少なくとも世間一般に名前が知れ渡る前の)アインシュタインである。本書は物理学の本としてよりも歴史の書として読むべきだろう。たしかに相対性理論(ここではとくに一般相対性理論のことを指すが、以後「相対性理論」としておく)成立前後の物理学について、かなり専門的な議論、いきさつも描かれている。数式は使われていないものの、正確に理解しようとすると容易ではないだろう。わたし自身、大学で物理を専攻したとはいえ、正確に理解できたとはとても言いがたい。しかし、それを理解できなくても、いっこうに差し支えない。むしろ本書の主眼の一つは...科学理論が架橋した平和―『アインシュタインの戦争』

  • 「災いある世界」を照らす灯台―『アンの夢の家』

    ☆『アンの夢の家』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・新訳、文春文庫、2020年)☆本書『アンの夢の家』は松本侑子さんによる新訳「赤毛のアン」シリーズ(文春文庫版)の第5巻になります。文春文庫版の新訳「赤毛のアン」シリーズについては、ちょうど1年前、昨年(2020年)の元旦にも書いています(さらにその2年前の元旦には松本侑子さんの著作『みすゞと雅輔』についても書いています)。さて、『アンの夢の家』を一言で表現すれば、「訳者あとがき」にもあるように「『災いある世界』を照らす、ぼくたちの灯台だ」(ギルバートがアンに語る言葉)になるように思います。まったくプライベートなことですが、わたしは昨年(2020年)の年賀状で「皆様にとって安寧な一年となりますよう」にと書きました。ところが、それから2ヶ月もしないうちに新型コロ...「災いある世界」を照らす灯台―『アンの夢の家』

  • 『コスモス』再来―『宇宙に命はあるのか』、『宇宙を目指して海を渡る』

    ☆『宇宙に命はあるのか』(小野雅裕・著、SB新書、2018年)、『宇宙を目指して海を渡る』(小野雅裕・著、東洋経済新報社、2014年)☆天文や宇宙に興味を持つ人たちは、大きく2つに分けることができるのではないかと、わたしはかねがね思っています。1つは「天文学」に興味を持つ人たちで、もう1つは「宇宙開発」に興味を持つ人たちです。実際にはどちらにも興味を持っている人が多いとは思いますが、どちらかと言えば「天文学」、あるいは「宇宙開発」に、もう片方よりも興味を持っているという傾向があるのではないでしょうか。大学の学部学科に例えれば、理学部の天文学科や宇宙物理学科に進みたいか、あるいは工学部の航空宇宙工学科などに進みたいのかのちがいとも言えるでしょう。わたしも両方の分野に興味を持っていますが、いまからあらためて大学へ進...『コスモス』再来―『宇宙に命はあるのか』、『宇宙を目指して海を渡る』

  • 「数楽者」の素顔―『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』

    ☆『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』(友兼清治・編著、太郎次郎社エディタス)☆ツンデアッタ本読了。400ページ近い大著。集中して読んだりパラパラ読んだりしていたら1ヶ月ほどかかってしまった。遠山啓さん(1909-1979)は著名な数学者であり、とりわけ数学教育の分野では非常に有名な方である。「水道方式」と呼ばれる数学教育法を開発し、数学教育に大きな足跡を残した。もう数十年も前になるが岩波新書『数学入門』(上・下)を読んだ。当時どのような気持ちで読んだのかは覚えていない。数とは何かから微分方程式まで扱っているが、いまちょっと見直してみると、根気さえあれば中学生でも十分読めそうである。さて本書『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』は遠山啓さんの素晴らしい評伝である。いましがた「数学教育の分野では非常に有名」と書...「数楽者」の素顔―『遠山啓―行動する数楽者の思想と仕事』

  • 海図の入手―『カント 純粋理性批判』

    ☆『カント純粋理性批判』(西研・著、NHK100分de名著)、『カント純粋理性批判』(佐藤文香・著、近藤たかし・まんが、講談社まんが学術文庫)☆これまで何度も挫折してきたカントの『純粋理性批判』。感性、悟性、理性そして理性の暴走から自由や道徳をめぐる議論への展開、その道筋がひとまず理解できたような気がする。まんが版の方は、ロボット(というよりはアンドロイド)との恋を題材にしたストーリーで、これまたとてもわかりやすくおもしろかった。この二冊で海図は入手できた。いよいよ原作への航海に出てみたくなった。たとえ難破したとしても、それだけの価値はあるにちがいない。海図の入手―『カント純粋理性批判』

  • 文明の皮肉―『プラスチック汚染とは何か』

    ☆『プラスチック汚染とは何か』(枝廣淳子・著、岩波ブックレット)☆「岩波ブックレット」は100ページにも満たない小冊子のような体裁だが、読者が得たいと思っている情報が過不足なく整理されていて、見た目以上に内容の濃いものが多い。本書もまさにそのような一冊だった。第1章は物質としてのプラスチックの解説から始まるが、化学的な(高分子化学のテキストのような)説明よりも種類と用途、生産・消費・廃棄に焦点が当てられている。いま最も注目を集めていると思われるマイクロプラスチックについてもかなり詳しく書かれている。もともと5㎜以下のものを「一次マイクロプラスチック」と言い、5㎜以上のものが破砕や劣化によって5㎜以下になったものを「二次マイクロプラスチック」と呼ばれることを本書で初めて知った。洗顔料・化粧品・歯磨き粉・紙おむつな...文明の皮肉―『プラスチック汚染とは何か』

  • (ブクログ)―『宇宙にとって人間とは何か』

    ☆『宇宙にとって人間とは何か』(小松左京・PHP新書)☆(ブクログ)―『宇宙にとって人間とは何か』(ブクログ)―『宇宙にとって人間とは何か』

  • 知的体力を試す―『運命論を哲学する』

    ☆『運命論を哲学する』(入不二基義・森岡正博・著、明石書店)☆昨年、出版と同時に買ったがツンドク状態だった。予想どおり、この本はおもしろかった。そして何より日本語が読みやすい。カントだのヘーゲルだのというビッグネーム哲学者の著書(翻訳書)に比べればはるかに読みやすいと思う。しかし、読みやすいからといって議論のレベルが低いことにはならない。二人の日本人哲学者が日本語を用いて自らの思考を展開し、お互いの思考をさらに深化させていく。海外からの輸入物ではない哲学を日本語で語ることは意義深いことである。二人の日本人哲学者、すなわち入不二基義さんと森岡正博さんによる実際の対談(まず入不二さんが講演し、それに対して森岡さんが質問する)を軸として、その後の応答などを含めて再構成されている。そのため、読者からすれば哲学的議論の応...知的体力を試す―『運命論を哲学する』

  • 気楽な「社会運動」のすすめ―『みんなの「わがまま」入門』

    ☆『みんなの「わがまま」入門』(富永京子・著、左右社)☆昨年夏に購入しツンドク状態になっていたが、一気に読了。読んでいてとてもおもしろかったし、得たものも多かった。自分のような内部障害(自分の場合は先天性心疾患)を抱えている者は、なかなか口に出しにくい悩みを持っている人が多いと思う。例えば仕事である事を頼まれたとき、これは心臓に負担がかかりそうだからイヤだなと思っても断りづらいことがよくある。内部障害者は見た目が健常者とあまり変わらないことが多いので、楽をしようとしているのではないか、わがままを言っているのではないか、そう思われるのが怖くて躊躇してしまう。前もって障害のことを伝えてあったとしても、断ることで「やはり障害者はダメだ」と思われるのではないか、そういったことが何回も続けば雇用の継続にも影響が出るのでは...気楽な「社会運動」のすすめ―『みんなの「わがまま」入門』

  • 星好き垂涎の名作コミック―『宙のまにまに』

    ☆『宙のまにまに』(柏原麻実・著、講談社)☆『宙のまにまに』全10巻読了。2017年末にアマゾンマーケットプレイスで「中古品(良い)」の10巻セットを2000円で購入し、1巻か2巻を読んだだけでツンドク状態になっていた。1ヶ月ほど前から、あらためて最初の巻から読み始め、ようやく読み終えた。マンガ雑誌に6年間(2005年~2011年)掲載されたものを順次単行本化したもので、内容を一言で表わせば、廃部寸前の高校天文部を舞台にした青春グラフィティ、といったところだろうか。泣けるし、笑えるし、考えさせられるしで、個人的には感動もののマンガだった。戻れるものならば、もう一度高校時代に戻りたくなってきた。もっとも、我が高校には天文部はおろか地学部も、確か科学部さえなかったけれど…。出てくる「天文」知識もマンガだからといって...星好き垂涎の名作コミック―『宙のまにまに』

  • 落ち込んだときにこそ読もう!―『放浪記』

    ☆『放浪記』(林芙美子・著、新潮文庫)☆今年の1月2月頃、落ち込んでいたとき、何かのきっかけで林芙美子の『放浪記』を知った。とりあえずと思って青空文庫で読み始めたら止まらなくなった。時の経つのを忘れて読み耽った。全文は相当長い。そのうちに勤務先でも休憩時間に読んでいた。こんなとき青空文庫は便利だ。読み終えるのに1ヶ月以上かかった。それからあらためて新潮文庫版をマーケットプレイスで買った。『放浪記』は林芙美子の自伝的小説といわれている。日記のかたちを取っていて、その成り立ちについては文庫本の解説に詳しい。小説の舞台は大正末期頃で、昭和の初め頃に出版されたようだ。戦争(第二次世界大戦)中は絶版状態になっていたという。戦争で検閲が強化され発禁になる可能性があったからだ。『放浪記』の何が問題なのかは知るよしもないが、言...落ち込んだときにこそ読もう!―『放浪記』

  • 【編集後再掲載】―『せいめいのれきし 改訂版』、『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』

    【編集後再掲載】☆『せいめいのれきし改訂版』(バージニア・リー・バートン・著、いしいももこ・訳、まなべまこと・監修、岩波書店)、『深読み!絵本『せいめいのれきし』』(真鍋真・著、岩波書店)☆タイトルどおり「生命の歴史」を描いた絵本である。太陽の誕生から始まり、地球の誕生を経て生命の誕生へとつながっていく。ページは見開きで、左が解説、右に絵が載っている。絵は芝居の舞台に見立てた構成になっていて、ページを繰るごとに「生命の歴史」のものがたりが語られていく。太陽の誕生から生命が誕生する前までの地球の進化は「プロローグ」の「1ば」から「6ば」までで、生命の誕生からは「1まく1ば」といった感じで舞台が進んでいく。最後は人類の誕生で終わるのかと思うと、そうではない。人類そのものの進化についてはあまり触れていないのだが、農耕...【編集後再掲載】―『せいめいのれきし改訂版』、『深読み!絵本『せいめいのれきし』』

  • 「ノミ」から「宇宙」への驚愕の道程―『宇宙』

    ☆『宇宙』(加古里子・著、福音館書店)☆「すごい!」の一言に尽きる絵本である。タイトルは「宇宙」。何とも漠然としていて、捉えどころがないというか、味も素っ気もない感じがしてくる。表紙には電波望遠級やはくちょう座などが描かれているが、表紙の白さにばかり目が行ってしまう。よく見るとサブタイトルとして「そのひろがりをしろう」と書かれている。それから推測すると、良くも悪くもありがちな、地球に始まって、太陽系、銀河系、宇宙へと視点を広げていく絵本なのかなと思ってしまう。確かに後半はそのような構成になっている。では、前半には何が描かれているのだろうか。最初のページをめくると、ノミ(蚤)の話と1978年当時の超高層ビルの絵が出てくる。最初見たとき「えっ、何これ?」と思った。しかし、順にページを追っていくとわかるのだが、ノミの...「ノミ」から「宇宙」への驚愕の道程―『宇宙』

  • 親子で学ぶ「月」の楽しさ―『月の満ちかけ絵本』

    ☆『月の満ちかけ絵本』(大枝史郎・文、佐藤みき・絵、あすなろ書房)☆絵本は何のために読むのだろうか。自分自身を振り返ってみると、子どもの頃あまり絵本を読んだ記憶がない。そもそも、あまり絵本を買ってもらったこともなかった。たぶん親のせいでというわけではなく、生まれ育った田舎町には小さな本屋しかなく、1時間ほどで行ける大きな街のそれなりに大きな書店でも、いまのように選ぶのに困るほど絵本があふれている時代ではなかったからかもしれない。さらに言えば、わたし自身が絵本にあまり興味を示さなかったような気もする。時代は変わって、「読み聞かせ」や「親子で学ぶ」など絵本の効用が説かれるようになった。何らかの誘導や強制的でなければ、親(大人)にとっても子どもにとっても良い経験になるのかもしれない。絵本は絵を楽しんだり感性を育んだり...親子で学ぶ「月」の楽しさ―『月の満ちかけ絵本』

  • 【編集後再掲載】―『天動説の絵本』

    【編集後再掲載】☆『天動説の絵本』(安野光雅・著、福音館書店)☆「地動説」ではなく「天動説」の絵本である。ちょっと考えてみると、地球が太陽の周りを回っていることをわれわれが知っているのは、学校などで習ったからにすぎない。日常の生活では太陽が地球の周りを回っていると思うのが普通の感覚ではないだろうか。われわれは「地動説」を「知っている(理解している)」のではなく「信じている」にすぎないレベルなのかもしれない。地球が太陽の周りを回っていることを、子どもにうまく説明できる人は果たしてどれだけいるだろうか。この絵本は、「天動説」が信じられていた頃の人たちが、世界をどのように考えていたのかを描いている。天動説だけでなく占星術や魔法使いや錬金術なども出てくる。いまでは迷信や非科学的だとして退けられていることばかりである。し...【編集後再掲載】―『天動説の絵本』

  • 星の歌を聴く―『ほしがうたっている』

    ☆『ほしがうたっている』(寮美千子・作、高橋常政・絵、思索社)☆プロの天文学者の方々は、子どもの頃から星を見るのが大好きで天文学者になった、とは限らないようである。もともとは物理学や数学が好きで、そこから図らずも天文学の分野に足を踏み入れた人も少なくないように思う。とくに宇宙論の研究者などはそうなのかもしれない。しかし、市井のアマチュア天文ファンは、子どもの頃から(大人になってからでも良いのだが)星を見るのが何よりも好き、という人が大多数なのではないだろうか。つまり「天文」は「星を見る」こととほぼイコールと言って良い。長い間プロの天文学者たちにとっても観測といえば「星を見る」ことが主な仕事であった。しかしやがて専門的な天文学は、光(可視光)で星を見る時代から電波で星を観測する時代へと移っていった。電波天文学の誕...星の歌を聴く―『ほしがうたっている』

  • 【編集後再掲載】―『星の使者』

    【編集後再掲載】☆『星の使者』(ピーター・シス・文・絵、原田勝・訳、徳間書店)☆ガリレオ・ガリレイの生涯を描いた絵本である。ガリレオは望遠鏡を自作し、月面のクレーターや太陽の黒点、さらには木星の四大衛星を発見した。コペルニクスの唱えた地動説を擁護し、最後は宗教裁判にかけられ有罪となったこともよく知られている。とくに「それでも地球は回っている」とつぶやいたとされるエピソードは、多くの人が知っているにちがいない。このエピソードの真偽はともかく、ガリレオという人物が語られるとき、そこにどんな意味が込められているのかがよくわかるように思う。それは、自らの目で科学的な真理を発見し、その信念を時の権力におもねることなく貫いたということである。さて、表表紙の見返しにはどこかの国の中世の都市と思われるようなシルエットが描かれて...【編集後再掲載】―『星の使者』

  • 読書備忘録―002

    ★読書備忘録―002ー20191103~20191231★☆20191103☆書物のある風景:美術で辿る本と人との物語☆20191104☆宇宙はなぜ「暗い」のか?☆20191104☆おそらにはてはあるの?☆20191110☆本当の夜をさがして☆20191116☆夜は暗くてはいけないか☆20191116☆陰翳礼賛☆20191117☆山の星月夜☆20191122☆新・陰翳礼賛☆20191124☆日本の美しい色と言葉☆20191201☆上野千鶴子のサバイバル語録☆20191215☆ルポ人は科学が苦手☆20191231☆ナショナルジオグラフィック日本版2019年7月号☆20191231☆ナショナルジオグラフィック日本版2019年11月号読書備忘録―002

  • 松本侑子訳「赤毛のアン」新シリーズ―『赤毛のアン』~~~

    ☆『赤毛のアン』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・訳、集英社)~~~☆いつのまにか長い付き合いになってしまった。たしか以前にも書いたことだが、松本侑子さんのデビュー作『巨食症の明けない夜明け』以来のファンとしては、初めて『赤毛のアン』の翻訳本の出版を知ったとき、正直なぜ『赤毛のアン』なのかと思ったものだった。しかし実際に松本侑子訳の『赤毛のアン』(集英社版の単行本)を読み(「赤毛のアン」の名前は知っていても読んだのはその時が初めてだった)、その詳細な訳注や「訳者あとがき」を読み、松本侑子さんの手によるオリジナルな『赤毛のアン』の解説本も読んで、その疑問が氷解するのに時間はかからなかった。松本侑子さんは『赤毛のアン』に出会うべくして出会い、訳すべくして訳したのであり、『赤毛のアン』は松本侑子さんによって新たな訳...松本侑子訳「赤毛のアン」新シリーズ―『赤毛のアン』~~~

  • 読書備忘録―001

    ★読書備忘録―001―20181100~20190105★(日付の00は不確定)☆『西洋占星術』(中山茂・著、講談社現代新書)☆20181100読了科学史の立場から西洋占星術とりわけ宿命占星術について詳しく紹介されている。占星術を頭ごなしに否定していないところは好感が持てる。☆『科学者はなぜ神を信じるのか』(三田一郎・著、講談社ブルーバックス)☆20181200読了宇宙論の科学史がコンパクトにまとめられていて秀逸。コペルニクスからホーキングまで科学者たちの宗教観も興味深い。☆『せいめいのれきし改訂版』(バージニア・リー・バートン・著、いしいももこ・訳、まなべまこと・監修、岩波書店)、『深読み!絵本『せいめいのれきし』』(真鍋真・著、岩波書店)☆20181231読了☆『玄冬の門』(五木寛之・著、ベスト新書)☆20...読書備忘録―001

  • 科学者のこころの内を照らす光―『短歌を詠む科学者たち』

    ☆『短歌を詠む科学者たち』(松村由利子・著、春秋社)☆短歌はわずか三十一文字の芸術である。三十一文字の短さだからこそ、歌を詠む人の想いがそこに凝縮され、歌人の人生さえも端的に表現され、こころの内が見えてくることがある。本書は7人の科学者が詠んだ短歌を紹介しながら、7人の歩んだ人生や研究の軌跡を追っている。取り上げられている科学者は、掲載順に湯川秀樹(理論物理学)、斎藤茂吉(精神医学)、柳澤桂子(生命科学)、石原純(理論物理学)、永田和宏(細胞生物学)、湯浅年子(実験物理学)、坂井修一(情報工学)の7人であり、柳澤、永田、坂井の3名は存命の方々である。以下、各人毎こころに残った一首を紹介してみたい。湯川秀樹(1907-1981)は言わずと知れた日本人として初めてノーベル賞(物理学賞)の栄誉に輝いた理論物理学者であ...科学者のこころの内を照らす光―『短歌を詠む科学者たち』

  • 「次元」と「ひも」の謎―『超ひも理論をパパに習ってみた』

    ☆『超ひも理論をパパに習ってみた』(橋本幸士・著、講談社)☆「70分講義」と銘打ってあるが、さすがに70分では読めなかったものの、ゆっくりと読んでも3時間はかからなかった。多くの読者も同様だと思う。ただし「超ひも理論」にそれなりの興味があり、少し詳しいことを知りたいという動機が必要だ。読者が文系か理系かは問わないが、高校での入門程度の物理や数学の知識があった方が理解も進むし、楽しく読めるのではないかと思う。各章ごとに、理論物理学者のパパと女子高校生の娘との会話の部分と、「おまけの異次元」という中級的な解説の部分が対になっている。会話の部分だけを読んでも十分おもしろいが、解説の部分も読むことでより理解が深まる。解説の部分には高校では習わない偏微分方程式なども少し出てくるが、式の導入や展開などには触れず、物理的なイ...「次元」と「ひも」の謎―『超ひも理論をパパに習ってみた』

  • 絵本で生命のリレー―『せいめいのれきし 改訂版』、『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』

    ☆『せいめいのれきし改訂版』(バージニア・リー・バートン・著、いしいももこ・訳、まなべまこと・監修、岩波書店)、『深読み!絵本『せいめいのれきし』』(真鍋真・著、岩波書店)☆二回り以上も年下の畏友に教えてもらった絵本『せいめいのれきし』。その後、その解説本『深読み!絵本『せいめいのれきし』』があることも知り、先月アマゾンでまとめて購入。最近何かと多忙で本を読むヒマがなかったが、ようやくこの年末3日間かけて約40億年の「生命の歴史」を読み終えた。『せいめいのれきし』は1964年初版(原著は1962年初版)というロングセラーの絵本で、この絵本を読んで恐竜や生命の進化に興味を持ち、専門の科学者になった人も少なくないらしい。刊行から半世紀が経ち、新たな研究成果も増えてきたため、2009年にアメリカで出版された改訂版を元...絵本で生命のリレー―『せいめいのれきし改訂版』、『深読み!絵本『せいめいのれきし』』

  • 医学生と、俳優たちの「青春の肖像」―『ヒポクラテスたち』

    ☆『ヒポクラテスたち』(大森一樹・監督、古尾谷雅人・主演)☆京都府立医科大学出身の大森一樹監督が描いた青春グラフティ。舞台は京都の医大「洛北医科大学」。「ヒポクラテス」になりきれない医学生たちの青春の日々が綴られいく。1980年の封切り時、たしか金沢の映画館で見たように思う。懐かしいの一言。懐かしすぎて何から書けば良いのかわからない。当時どのような気持ちで見たのか覚えがないが、もう一度見てみたいとずっと思っていた。今回マーケットプレイスで運良く廉価で購入できた。主演は今は亡き古尾谷雅人。準主役を演じた伊藤蘭は、キャンディーズが解散した後、「普通の女の子」からの復帰後、女優としてのデビュー作。その意味でも当時は話題となったはずだ。脇をかためる役者たちも、いまとなってみればすごいメンバーである。柄本明、内藤剛、斉藤...医学生と、俳優たちの「青春の肖像」―『ヒポクラテスたち』

  • Evening landscape 20180622

    Eveninglandscape.Takenon22June,2018.Eveninglandscape20180622

  • ホーキングが「創り上げたもの」―『博士と彼女のセオリー』

    ☆『博士と彼女のセオリー』(ジェームズ・マーシュ・監督、エディ・レッドメイン&フェリシティ・ジョーンズ・主演)☆シーザーの「来た、見た、勝った」ではないが、買った、見た、良かった!今年(2018年)3月14日(奇しくもアインシュタインの誕生日!)にこの世を去ったスティーブン・ホーキング博士。彼の半生を描いた映画『博士と彼女のセオリー』をDVDで視聴(少し前アマゾンにて927円也で購入)。原題は『TheTheoryofEverything』(2014年イギリス制作、2015年日本公開)。直訳すれば「万物の理論」だが、このままのタイトルでは科学や哲学を扱った小難しい映画と誤解されてしまうと思ったのだろうか、日本でありがちな邦題に変わっている。とはいっても、科学と神の相克がちょっとしたモチーフになっていて、哲学っぽい...ホーキングが「創り上げたもの」―『博士と彼女のセオリー』

  • 当事者による倫理学の再構築―『「共倒れ」社会を超えて』

    ☆『「共倒れ」社会を超えて』(野崎泰伸・著、筑摩書房)☆ジョディとマリーというシャム双生児がいた。「一卵性双生児のジョディとマリーは生まれつき体が腰と尻のあたりで結合している。マリーの心臓が十分に機能していないため、そのまま成長すればジョディの心臓に二人分の負担がかかって死ぬ。しかし、仮に二人を分離する手術をすると、ジョディは生きられる可能性が高いが、心臓などの臓器が十分に機能していないマリーは確実に死ぬ」。あなたが両親ならば、医師ならば、裁判官ならばどう判断するか。どのような「選択」をしたとしてもマリーは死ぬしかない。そして、どのような「選択」をしたとしても両親は自責の念に駆られるにちがいない。ちなみに、こういった自責の感情をくくり抜けずに倫理的であろうとすることは不可能であろう。多くの倫理学は、このような「...当事者による倫理学の再構築―『「共倒れ」社会を超えて』

  • 「木火月土水」

    木星→火星→(アンタレス)→月→土星→水星。↓2018年1月14日午前5時54分撮影。↓2018年1月14日午前6時5分撮影。「木火月土水」

  • 「ものがたり」との出会い―『家庭のような病院を』、『ナラティブホームの物語』

    ☆『家庭のような病院を』(佐藤伸彦・著、文藝春秋)、『ナラティブホームの物語』(佐藤伸彦・著、医学書院)☆『家庭のような病院を』を知ったときのことはよく覚えている。当時ある私立大学の学生用PCルームでアルバイトをしていた。学生が不正なアクセスをしていないか監視し、ワードやエクセルなどの基本的ソフトの使い方やトラブルについての相談を受け、解決するのが主な仕事だった。学生から相談が来ない限り非常にヒマな仕事で、アルバイトとは無関係な自分の仕事をしたりネットを見て遊んでいることが多かった。そんなある日、いつも見ていた森岡正博さんのブログで『家庭のような病院を』の書評を読んだ。遠距離介護をはじめたばかりの頃で、まだまだ深刻な状況ではなかったが、この本の内容に興味をもった。数日後、池袋のジュンク堂で本書を見つけ、著者の略...「ものがたり」との出会い―『家庭のような病院を』、『ナラティブホームの物語』

  • 2018年1月12日午前6時7分

    月と火星と木星と。地平線近くには水星と土星も見えているはずなのだが。2018年1月12日午前6時7分

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