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2009/08/09

  • 統計学的人間観の隘路―『他者と生きる』

    ☆『他者と生きる』(磯野真穂・著、集英社新書、2022年)☆>本書は昨年(2022年)の今頃アマゾンで購入し読み終えていたのだが、当時メモってあった感想を文章化して掲載してみた。一見、語り口は平易で、例示も日常的で身近なものが多いが、その思索は深い印象を与える。「序論」で著者の問題意識が書かれているにもかかわらず、読み始めると、(文化)人類学的なエピソードが問題意識とどのように関わってくるのか、いまひとつ見通せなくなる。しかし、先を急ぐことなく著者の筆運びに沿って読み進めていくと、抗血栓療法とレトリック、HIV(エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス)やBSE(牛海綿状脳症)に関わる情報経験の不気味さの指摘、新型コロナによる志村けんさん・岡江久美子さんの「痛ましい死」報道の「消費」など、思索の輪郭が徐々に...統計学的人間観の隘路―『他者と生きる』

  • 『生きる歓び』を読む―『生きる歓び』

    ☆『生きる歓び』(ヴァンダナ・シヴァ・著、熊崎実・訳、築地書館)☆以下の記事は2008年5月16日付けで本ブログに別ブログへのリンクとして掲載していたものだが、すでにリンクが切れていて長らくアクセスできない状態になっていたため、あらためて本ブログに掲載した。当時は書影なしだったが、これを機会に書影も掲載した。なお、本記事は当時エコフェミニズムに強い関心を抱いていたことが色濃く反映している。現在もエコロジーやフェミニズムに対する関心は薄れていないつもりだが、ある種の意気込みが感じられて懐かしい。ヴァンダナ・シヴァはインドでエコ・フェミニズムを実践している女性であり、その取り組みに対して「もう一つのノーベル賞」といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞している。1952年インド北部のヒマラヤ山麓に生まれたシ...『生きる歓び』を読む―『生きる歓び』

  • 平和を願う「前戦争文学」―『虹の谷のアン』

    ☆『虹の谷のアン』(L・M・モンゴメリ・著、松本侑子・新訳、文春文庫、2022年)☆小説を読んでいて不思議な符合を感じることがあります。現代の小説を読んでいるときならば、その舞台が過去であれ未来であれ、いまわたしたちが生きている時代の映し鏡のように感じるのは、さほど不思議なことではないでしょう。作者はまさにそれを意図しているのかもしれないし、そうでなかったとしても、書き手がいま生きているその社会の雰囲気や風向きが、知らず知らずのうちに作品に反映しても何の不思議もないように思います。モンゴメリが『虹の谷のアン』(『赤毛のアン』シリーズ第7巻)を執筆したのは第1次世界大戦(1914年~1918年)中で、出版されたのは終戦後の1919年とのこと。いまのわたしたちは第2次世界大戦を歴史として知っているので、当時の...平和を願う「前戦争文学」―『虹の谷のアン』

  • キミといっしょに普通に暮らせる社会をめざして―『キミがいるから私は』

    ☆『キミがいるから私は』(近藤姫花・著、幻冬舎、2022年)☆近藤姫花さんは生まれたとき「二十歳までは生きられないかもしれない」と父親に告げられたという。わたしも同じ言葉を両親に告げられた。ちがうのは、わたしが十歳くらいのときで、手術(フォンタン手術やそれに近い手術だったのかはわからないが)を受けるつもりで3ヶ月以上も入院していた東京の大学病院を、手術をキャンセルして退院したときのことだった。両親は、同じ病棟に入院していた、先天性の心疾患を持った同じ年齢くらいの子どもが手術を受けても亡くなるのを見たらしい。さらに当時の若い担当医が「いまはまだ手術を受けない方が良い」と告げたことで、両親は苦渋の選択をした。教授などの“偉い”先生方は手術を勧めていたが、その若い担当医は当時の手術の成功率の低さを鑑みて、未来に...キミといっしょに普通に暮らせる社会をめざして―『キミがいるから私は』

  • 星月夜に照らされた山々の風貌―『山の星月夜』

    ☆『山の星月夜』(菊池哲男・著、小学館、2008年)☆※この記事は、2019年11月17日付けで「ブクログ」に掲載してあった記事を本ブログに移行した上で若干修正加筆し、新規投稿しました。北アルプスの山々と雲海、月、星、街の灯り(さらには雷光まで)が織りなす見事な写真の数々。星空に的を絞った、いわゆる「星景写真」とはまたちがった感動を覚える。残念ながら身体障害の事情で登山の経験はまったくないが、山々から見上げる星空やパノラマのような風景(とくに夜景)に憧れてきた。この写真集はその想いに応えてくれる希有な宝物となりそうだ。たまたまアマゾンで知り、マーケットプレイスで定価の約1/4(送料込み)という廉価で購入したが、新品で買っても後悔はしなかっただろう。著者の菊池哲男さんは立教大学で物理学を専攻した異色の経歴を...星月夜に照らされた山々の風貌―『山の星月夜』

  • 男性性を省みる辛い試金石―『限界から始まる』

    ☆『限界から始まる』(上野千鶴子、鈴木涼美・共著、幻冬舎、2021年)☆こんなにおもしろい本はめったにない。年齢差35歳の女性社会学者と女性作家による往復書簡。著者たちのことを何も知らずに読んでもおもしろいかもしれないが、書簡のやり取りに伴うスリリングな展開は、お二人の経歴や仕事を知っているか否かに左右されそうに思う。幸いにもお二人の著作は、そのデビュー作から読んでいたので、おもしろさが倍加したのはまちがいない。もちろんお二人の著作のすべてを読んできたわけではないし、とくに上野さんの著作は膨大である。思えば、上野さんのデビュー作『セクシィ・ギャルの大研究』(カッパブックス、1982年、現在は岩波現代文庫、2009年)を買ったのは、そのタイトルと掲載画像が当時まだ二十代だった男にとって刺激的だったことと、当...男性性を省みる辛い試金石―『限界から始まる』

  • 六十年安保から50年、樺美智子の問いかけに想う―『樺美智子 聖少女伝説』

    ☆『樺美智子聖少女伝説』(江刺昭子・著、文藝春秋、2010年)☆※この記事は、2020年1月12日付けで「ブクログ」に掲載してあった記事を本ブログに移行した上で若干修正加筆し、新規投稿しました。1960年6月15日、日米安全保障条約改定をめぐる反対運動の最中、国会議事堂へ突入した学生たちの中にいた樺美智子さんが亡くなった。当時東大文学部国史学科在学中で22歳だった。彼女の死の数日後、安保条約は自然承認され、それを機に岸信介内閣は総辞職した。彼女の死は岸首相退陣の一因になったとされ、「樺美智子」の名前は六十年安保闘争の象徴として祭り上げられた。その後さらに過剰な美化や「伝説」が生まれ、いまで言うフェイクニュースも流布したという。本書は、1960年当時、早稲田大学に入ったばかりだった著者が「彼女が死んだあの日...六十年安保から50年、樺美智子の問いかけに想う―『樺美智子聖少女伝説』

  • 津田梅子の新たな「肖像」が呼ぶ感動―『津田梅子 科学への道、大学の夢』

    ☆『津田梅子科学への道、大学の夢』(古川安・著、東京大学出版会、2022年)☆政府の発表によると2024年度上半期をめどに新しい紙幣が発行されることになっており、新五千円札の肖像には津田梅子が選ばれた。その選定理由について、財務省のホームページには以下のように記されている。「新しい紙幣の肖像になる渋沢栄一氏、津田梅子氏、北里柴三郎氏は、それぞれの分野で傑出した業績を残すとともに、長い時を経た現在でも私たちが課題としている新たな産業の育成、女性活躍、科学の発展といった面からも日本の近代化をリードし、大きく貢献した方々です。三者ともに、日々の生活に欠かせず、私たちが毎日のように手に取り、目にする紙幣の肖像としてふさわしいと考えています。」津田梅子については、文脈から見て「女性活躍」に関して日本の近代化をリード...津田梅子の新たな「肖像」が呼ぶ感動―『津田梅子科学への道、大学の夢』

  • 壮大な文明論の試みにして反「文系不要論」―『<自己完結社会>の成立』

    ☆『<自己完結社会>の成立』(上柿崇英・著、農林統計出版)☆一言で表現すれば壮大な文明論の試みである。それは、日々、科学技術の恩恵や利便性にあふれた社会システムに取り囲まれ、安楽な生活を送っている「われわれ」に向けての根源的な問題提起のようにも思える。それはまた、一種の欲望の連鎖なのかもしれない。それにもかかわらず、いや、そうだからこそと言うべきかもしれないが、われわれは不安を払拭できず、どこか救いを求めているようにも思われる。日々報道される、個人から国家に至るまでの様々な「歪み」はその現れのように思える。その原因を求め「原理」を著者なりの視座から解明しようとした試みが本書である。そのメインコンセプトを<自己完結社会>と著者は表現している。<自己完結社会>とは、<環境>(言うまでもないことだが、<環境>とは「自...壮大な文明論の試みにして反「文系不要論」―『<自己完結社会>の成立』

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