中原中也ファンのブログです。
およそ80年前の東京の街を孤独な魂は歩いた。その日の魂に見合う詩(うた)を探して…。その歌は2013年の今、数々の文庫として書店の棚にある。ポケットに歌を! さあ、中原中也の魂と会いに出かけよう!
間奏曲いとけない顔のうえに、降りはじめの雨が、ぽたっと落ちた……百合(ゆり)の少女の眼瞼(まぶた)の縁(ふち)に、露の玉が一つ、あらわれた……春の祭の街の上に空から石が降って来た人がみんなとび退(の)いた!いとけない顔の上に、雨が一つ、落ちた……(「新編中原中也全集」第2巻・詩Ⅱより。新か...
春の雨昨日は喜び、今日は死に、明日は戦い?……ほの紅の胸ぬちはあまりに清く、道に踏まれて消えてゆく。歌いしほどに心地よく、聞かせしほどにわれ喘(あえ)ぐ。春わが心をつき裂きぬ、たれか来りてわを愛せ。ああ喜びはともにせん、わが恋人よはらからよ。われの心の幼くて、われの心に怒りあり。さてもこの...
梅雨と弟毎日々々雨が降ります去年の今頃梅の実を持って遊んだ弟は去年の秋に亡くなって今年の梅雨(つゆ)にはいませんのですお母さまが おっしゃいましたまた今年も梅酒をこさおうねそしたらまた来年の夏も飲物(のみもの)があるからねあたしはお答えしませんでした弟のことを思い出していましたので去年梅酒をこ...
雨の朝⦅麦湯(むぎゆ)は麦を、よく焦(こ)がした方がいいよ。⦆⦅毎日々々、よく降りますですねえ。⦆⦅インキはインキを、使ったらあと、栓(せん)をしとかなきゃいけない。⦆⦅ハイ、皆さん大きい声で、一々(いんいち)が一……⦆ 上草履(うわぞうり)は冷え、 バケツは雀...
秋を呼ぶ雨 1畳の上に、灰は撒(ま)き散らされてあったのです。僕はその中に、蹲(うずく)まったり、坐(すわ)ったり、寝ころんだりしていたのです。秋を告げる雨は、夜明け前に降り出して、窓が白む頃、鶏の声はそのどしゃぶりの中に起ったのです。僕は遠い海の上で、警笛(けいてき)を鳴らしている船...
雨の降るのに雨の降るのに肩が凝るてもまあいやみな風景よ顔はしらんであぶらぎりあばたも少しはあろうものチェッ、お豆腐屋(とうふや)の笛の声――風に揺られる炊煙(すいえん)よ炊煙に降る雨の脚雨の降るのに肩が凝る(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。) ...
雨の日通りに雨は降りしきり、家々の腰板古(こしいたふる)い。もろもろの愚弄(ぐろう)の眼(まなこ)は淑(しと)やかとなり、わたくしは、花弁(かべん)の夢をみながら目を覚ます。 *鳶色(とびいろ)の古刀(ことう)の鞘(さや)よ、舌あまりの幼な友達、おまえの額(ひたい)は四角張ってた。わたしは...
六月の雨またひとしきり 午前の雨が菖蒲(しょうぶ)のいろの みどりいろ眼(まなこ)うるめる 面長(おもなが)き女(ひと)たちあらわれて 消えてゆくたちあらわれて 消えゆけばうれいに沈み しとしとと畠(はたけ)の上に 落ちているはてしもしれず 落ちている お太鼓(たいこ)叩(たた...
夜更の雨 ――ヴェルレーヌの面影――雨は 今宵(こよい)も 昔 ながらに、 昔 ながらの 唄を うたってる。だらだら だらだら しつこい 程だ。 と、見る ヴェル氏の あの図体(ずうたい)が、倉庫の 間の 路次(ろじ)を ゆくのだ。倉庫の 間にゃ 護謨合羽(かっぱ)の 反射(ひかり)...
冬の雨の夜 冬の黒い夜をこめてどしゃぶりの雨が降っていた。――夕明下(ゆうあかりか)に投げいだされた、萎(しお)れ大根(だいこ)の陰惨さ、あれはまだしも結構だった――今や黒い冬の夜をこめどしゃぶりの雨が降っている。亡き乙女達(おとめたち)の声さえがしてaé ao, aé ao, éo, aéo é...
風 雨雨の音のはげしきことよ風吹けばひとしおまさり風やめば つと和(なご)みつつ雨風のあわただしさよ、――悲しみに呆(ほう)けし我に、雨風のあわただし音(ね)よ悲しみに呆けし我の思い出のかそけきことよそれににて巷(ちまた)も家も雨風にかすみてみゆるそがかすむ風情(ふぜい)の中に、ふと浮むわが...
雨と風雨の音のはげしきことよ風吹けば ひとしおまさり風やめばつと和(なご)みつつ雨風のさわがしき音よ――悲しみに呆(ほう)けし我に、雨風のさわがしき音よ!悲しみに呆けし我の思い出はかそけきものよそれに似て巷(ちまた)も家も雨風にかすんでみえるそがかすむ風情(ふぜい)の中に、ちらと浮むわがあり...
(南無 ダダ)南無 ダダ足駄(あしだ)なく、傘なく 青春は、降り込められて、 水溜(たま)り、泡(あぶく)は のがれ、のがれゆく。人よ、人生は、騒然たる沛雨(はいう)に似ている 線香を、焚(た)いて 部屋にはいるべきこと。色町(いろまち)の女は愛嬌(あいきょう)、 この雨...
中原中也/秋の詩名作コレクション58/道化の臨終(Etude Dadaistique)
道化の臨終(Etude Dadaistique) 序 曲君ら想(おも)わないか、夜毎(よごと)何処(どこ)かの海の沖に、火を吹く龍(りゅう)がいるかもしれぬと。君ら想わないか、曠野(こうや)の果(はて)に、夜毎姉妹の灯ともしていると。君等想わないか、永遠の夜(よる)の浪、其処(そこ)に泣く...
秋を呼ぶ雨 1畳の上に、灰は撒(ま)き散らされてあったのです。僕はその中に、蹲(うずく)まったり、坐(すわ)ったり、寝ころんだりしていたのです。秋を告げる雨は、夜明け前に降り出して、窓が白む頃、鶏の声はそのどしゃぶりの中に起ったのです。僕は遠い海の上で、警笛(けいてき)を鳴らしている船を思...
暗い天候(二・三)二こんなにフケが落ちる、 秋の夜に、雨の音はトタン屋根の上でしている…… お道化(どけ)ているな――しかしあんまり哀しすぎる。犬が吠える、虫が鳴く、 畜生(ちくしょう)! おまえ達には社交界も世間も、ないだろ。着物一枚持たずに、 俺も生きてみたいんだよ。吠え...
米 子二十八歳のその処女(むすめ)は、肺病やみで、腓(ひ)は細かった。ポプラのように、人も通らぬ歩道に沿(そ)って、立っていた。処女(むすめ)の名前は、米子(よねこ)と云(い)った。夏には、顔が、汚れてみえたが、冬だの秋には、きれいであった。――かぼそい声をしておった。二十八歳のその処女(むす...
一つのメルヘン秋の夜(よ)は、はるかの彼方(かなた)に、小石ばかりの、河原があって、それに陽は、さらさらとさらさらと射しているのでありました。陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、非常な個体の粉末のようで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立ててもいるのでした。さて小石の上に、今...
蜻蛉に寄すあんまり晴れてる 秋の空赤い蜻蛉(とんぼ)が 飛んでいる淡(あわ)い夕陽を 浴びながら僕は野原に 立っている遠くに工場の 煙突(えんとつ)が夕陽にかすんで みえている大きな溜息(ためいき) 一つついて僕は蹲(しゃが)んで 石を拾うその石くれの 冷たさが漸(ようや)く手中(しゅちゅう)...
独身者石鹸箱(せっけんばこ)には秋風が吹き郊外と、市街を限る路(みち)の上には大原女(おはらめ)が一人歩いていた――彼は独身者(どくしんもの)であった彼は極度の近眼であった彼は‘よそゆき’を普段に着ていた判屋奉公(はんやぼうこう)したこともあった今しも彼が湯屋(ゆや)から出て来る薄日(うすび)...
お道化うた月の光のそのことを、盲目少女(めくらむすめ)に教えたは、ベートーヴェンか、シューバート?俺の記憶の錯覚が、今夜とちれているけれど、ベトちゃんだとは思うけど、シュバちゃんではなかったろうか?霧の降ったる秋の夜に、庭・石段に腰掛けて、月の光を浴びながら、二人、黙っていたけれど、やがてピアノ...
朝鮮女朝鮮女(おんな)の服の紐(ひも)秋の風にや縒(よ)れたらん街道(かいどう)を往(ゆ)くおりおりは子供の手をば無理に引き額顰(ひたいしか)めし汝(な)が面(おも)ぞ肌赤銅(はだしゃくどう)の乾物(ひもの)にてなにを思えるその顔ぞ――まことやわれもうらぶれしこころに呆(ほう)け見いたりけんわれを...
秋日狂乱僕にはもはや何もないのだ僕は空手空拳(くうしゅくうけん)だおまけにそれを嘆(なげ)きもしない僕はいよいよの無一物(むいちもつ)だそれにしても今日は好いお天気でさっきから沢山の飛行機が飛んでいる――欧羅巴(ヨーロッパ)は戦争を起(おこ)すのか起さないのか誰がそんなこと分るものか今日はほん...
秋の消息麻(あさ)は朝、人の肌(はだえ)に追い縋(すが)り雀(すずめ)らの、声も硬(かと)うはなりました煙突の、煙は風に乱れ散り火山灰(かざんばい)掘れば氷のある如(ごと)くけざやけき顥気(こうき)の底に青空は冷たく沈み、しみじみと教会堂の石段に日向(ひなた)ぼっこをしてあれば陽光(ひかり)に...
老いたる者をして ――「空しき秋」第十二―― 老(お)いたる者をして静謐(せいひつ)の裡(うち)にあらしめよそは彼等(かれら)こころゆくまで悔(く)いんためなり吾(われ)は悔いんことを欲(ほっ)すこころゆくまで悔ゆるは洵(まこと)に魂(たま)を休むればなりああ はてしもなく涕(な)かんこと...
秋の日 磧(かわら)づたいの 竝樹(なみき)の 蔭(かげ)に秋は 美し 女の 瞼(まぶた) 泣きも いでなん 空の 潤(うる)み昔の 馬の 蹄(ひづめ)の 音よ 長(なが)の 年月 疲れの ために国道 いゆけば 秋は 身に沁(し)む なんでも ないてば なんでも ないに木履(きぐつ)の 音さえ ...
含 羞(はじらい) ――在りし日の歌―― なにゆえに こころかくは羞(は)じらう秋 風白き日の山かげなりき椎(しい)の枯葉の落窪(おちくぼ)に幹々(みきみき)は いやにおとなび彳(た)ちいたり枝々の 拱(く)みあわすあたりかなしげの空は死児等(しじら)の亡霊にみち まばたきぬおり...
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