大仰に名乗った甲冑男の全身から蒸気が湧き上がる。「暑くないんですか?」戦闘の最中ではあったが、先ほどからの疑問がつい口に出てしまった。「暑い!暑いとも、少年!だが、暑さは気の持ちようでどうとでもなる!いまはこの戦いを楽しもうじゃないか!フェン・ルイム!」ざわっと皮膚の下を何かが這いずり回るような悪寒。なぜこの男は自分の名前を知っているのだろうか?浮かび上がった疑問は、ランスローの振り上げた大剣の唸りにより霧散した。とっさに後ろに飛び退る、と同時に大量の砂が巻き上げられる。(これだけの重量の剣を軽々と・・・)地に向かって降り注ぐ砂とは対照的に、高速の鋼が振り上げられる。そして、まるで生き物のように上から、横からフェンの急所に飛びついてくる。あたりの砂塵がおさまったとき、息一つ乱していないランスローと、急所こそはず...竜の末裔112話
地面を転がって銃弾を避けたフェンは、鉄と砂の擦れあうわずかな音に身をよじった。身体の真横の地面が砂ごと消失する。視界の端に先ほどの甲冑の男と、振り上げた巨大な剣が映った。頭が思考を始める前に、両手を地面に叩きつけ、反動で起き上がる。そこへ狂気を孕んだ横薙ぎの斬撃が襲う。回避は不可能と一瞬での判断、起き上がりの勢いを利用し、右足を高く蹴り上げる。重い衝撃と共に大剣の軌道がずれた。間一髪、頭上すれすれを大質量の刃が通過する。・・・危なかった、刃が水平で助かった・・・「おもしろい!おもしろいぞ、銀髪少年!」甲冑をまとった男が大剣を地面に突き刺した。「私は“七つの牙”が1人!ランスロー・クラブ!少年!私と戦ってもらうぞ!」竜の末裔第111話
「呪術!?そんなもんが存在しているなんてにわかには信じられないな。」「別に信じてもらえなくてもいいよ。お前がどう考えたって僕の呪いには影響しない。お前はここで死ぬしかないのさ。」淡々と語る少女が、今度は藁人形の左手を思い切り両足の間に打ちつける。「はぐあっ!!!」馬に蹴られたような声をあげ、サーガは砂の中にうずくまった。遠くに懐かしい声が聞こえる。それは幼いころの両親の優しい声であり、悪戯をしたときの村長の厳しい声であり、声をかけてきた女の子たちの冷ややかな声であり、自らと同じ秘密を持っている大切な友人の声であった。涙と鼻水にまみれながら、サーガの意識は遠ざかっていった。竜の末裔第110話
「そんなことお前にいわれるまでも無い!俺の幸せ度はススキツグミの一家よりも高いと評判なことこの上なし!」胸を張って言い張るサーガには関心を示さず、少女は懐から何かを取り出した。藁でできた手のひらより少し大きなそれは、人の形にこしらえてある。「藁の人形・・・?」「お前が死ねば、僕の“全世界幸せ度ランキング”の順位が一つ上がる。」先ほど大鋏で切り裂いたサーガの前髪を藁人形の中に押し入れた。「おいおい、何だ俺のファンか。言ってくれれば髪の毛だけじゃなく色々あげるのに。サイン色紙は持っているのかい?」「いらない。これでいい。」少女は持っていた藁人形の右手に当たる部分を持ち上げた。「うわっ!」すると、サーガの右腕も同じように持ち上がった。「な、なんだこれ!」次に、持ち上げた藁人形の右手を、顔に当たる部分に思い切りぶつけた...竜の末裔第109話
飛んできた弾丸をサーガは真後ろに飛んで回避した。舞い上がる砂塵。飛んできた砂が口や目に容赦なく進入してくる。「ぺっ!」周囲を覆う砂のカーテンと目の痛みに視界を奪われたサーガがフェンとブランの無事を確かめようと首を回したときだった。視界の隅に黒い影。嫌な予感そのままにのけぞったサーガの残像が切り裂かれた。ジャギン!金属の擦れ合う音が響く。見知ったシルエットと共にサーガの前髪の一部を奪っていったのは、巨大なハサミだった。「今のを避けたって事は、ただのお気楽ヤロウではなさそうだね。」徐々にひらけて来た視界の先に先ほどの少女が立っていた。手には少女の背丈の半分もあろうかという鉄鋏を抱えている。「おじょうちゃん、いきなり何するのかな?おいたが過ぎるとグレマ橋より気の長い俺様も怒っちゃうよ。」精一杯の優しい声を出したサーガ...竜の末裔第108話
「気づいてるんでショ?僕らがわざと逃げ道を残してやっているということに。」スネークの甲高い声が銃声とあいまって聞こえてくる。「ひゃはははは!ただ討ち取るだけじゃつまらねぇからな。これが俺たちのハンティングスタイルだ!」下卑た笑い声と共に絶え間なく銃弾が襲い来る。寸での事で避けつつ、ブランは次第に路地へと誘導されていった。降りしきる弾丸は次第に数を増していく。しかし、その先には常に誘うような道が残されていた。「皇国の最強戦士といっても昔のことだね!なんて狩り甲斐のない!」だんだんと道が狭くなる。それにつれ、下卑た笑い声と鉄の球が左右の壁に跳ね返る。左足に鈍い痛みを感じ、飛び込んだ先には高い壁が聳えていた。「ひゃはは!絶体絶命だな、おい!」「所詮は過去の人間、かつての栄光は何処へやらだね。それともかつての栄光なんて...竜の末裔第107話
弾を避ける際、体制を崩したブランに雨のような銃弾が降りかかった。右手を地面に突き、地面をけった反動で後方へと飛ぶ。それを見透かしていたかのように殺到する弾丸。ブランはオアシス特有の多肉植物の枝を掴み、さらに真横へと飛び退る。スコルピオとスネークの2人から同時に放たれる狂気に、回避のみを余儀なくされていた。「彼らは大丈夫か?」二人の安否が頭をよぎった刹那、更なる銃撃が襲い来る。「・・・この弾道・・・、誘っているな。」二点からの同時砲火により、回避する方向は自ずと限られてくる。先ほどから、回避方向が一点に絞られるような撃ち方をしてくることに気がつく。真横からの銃撃を、地面に転がりながら避けた先には人工的な建物が並んでいた。「ここは、かつて砂漠越えの要所として栄えた街の成れの果てだ。五百年前の戦争で廃れちまったって話...竜の末裔第106話
劇団というと、劇団四季、劇団ひまわり、劇団ひとりくらいしか知らない僕ですが、先輩からの頂き物ということで、劇団物の小説を読んでみました。図書館戦争(未読)で有名な有川浩さんの著作ということで、かなり期待できますよね。春川巧が主宰を務める劇団シアターフラッグはそこそこ集客力もある地方劇団だ。ところが、ある事件をきっかけに劇団員が半分以上減ってしまった。と、その中の一人、会計を担当していた団員が、劇団の赤字分を肩代わりしていた事実が発覚。しかも、返済してくれないと訴えると言い出している。その額なんと300万円!赤字劇団にそんなお金があるわけもなく、巧が泣きついた相手は実の兄司だった。以前から、不安定な劇団という弟の職業に危惧を抱いていた司は、300万円を貸す代わりにある条件を突きつけた。それは、シアターフラッグが興...推薦図書~シアター!有川浩
知ってるなら話が早い!一番手柄となるブランは俺たちがいただくぞ!」スコルピオが一番左端の男に話しかけた。砂漠のど真ん中で軽装とはいえ甲冑を身につけた戦士風の男が、これに応じる。とはいっても首から上はさわやかな好青年である。イェンロンで流行している球技、シューキューの格好でもしたらさぞかし女性人気があることだろう。「好きにしろよ。俺はあの銀髪の少年に用がある。」そういうと背から馬鹿でかい剣を引き抜き、フェンのほうを指し示した。「えー、じゃあ僕はあの黒いやつなの?」真ん中で目深にフードを被っていた人物が不満そうに声を上げる。高い声、男のものではない。フードを煩わしげに後ろにやると、年端も行かぬ少女の顔がそこにはあった。漆黒の闇を思わせる髪は全体的に短くまとまっているが、前髪だけは瞳の上で真一文字に切っている。「やっ...竜の末裔第105話
耳をつんざく様な咆哮、同時に銃声。一拍遅れて巨体が奥の茂みから躍り上がった。蒼い光沢をたたえた美しいフォルム。空の芸術と讃えられるその生物は、腹部よりの出血で朱に染まったまま上昇していく。「ヤマト!」ブランの叫びに被せるように、再び銃声が響く。今度はサーガの足元の礫が弾け飛んだ。「!」怯えたシパックが逃げ出し、舞い上がった砂が視界を奪った。更に追い討ちをかける銃声、サーガとフェンは身体が中に放り出される感覚を味わった。「むぅっ。」視界が晴れると、ブランの足元の砂が血を吸っているのが目に飛び込んできた。とっさにブランが二人を突き飛ばしたのだ。「大丈夫ですか!?」「かすり傷だ。」どうやらブランの右肩をかすめたらしい。「そろそろ出て来い!私が相手になってやろう!」ブランの怒声が響くと、茂みを掻き分けて四つの人影が現れ...竜の末裔第104話
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