**************** 「馬鹿なことしてるよね」 はあはあと息を弾ませがら、京介は駐車場の方へ回る。伊吹はたぶんまっすぐ玄関へ向かっただろうから、それ以外のところは一通り押さえておこう。「
ツンデレ姫と美貌の付き人などの恋愛ファンタジー毎日連載。『アルファポリス』『小説家になろう』参加。
男勝り姫君ユーノと美貌の付き人アシャのハーレクインロマンス的なファンジー小説『ラズーン』毎日連載。『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』は出戻り姫シャルンと腹黒王レダンのラブコメディ、時々連載。
**************** 「……シャ様、これで準備は十分に……アシャ様?」「ん? あ、ああ、すまない」 不審そうに尋ねられて我に返る。「『氷の双宮』に何か?」「いや…」 準備万端整え、アシャに付
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 28.『水晶亭』の主人(3)
**************** 奥の間仕切りをした一角で、バラディオスは面白そうな顔をしながら、レダン達を眺めた。「話はおおよそわかった。ステルン王が、大量の宝飾を手放しているのは俺も知ってい
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 28.『水晶亭』の主人(2)
**************** 『水晶亭』はまだまだ賑わっている。宵の口だからだが、貧しいハイオルトの感覚でいるシャルンにとっては、夜になっても赤々と灯されている明かりや、ひっきりなしに訪れる
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 28.『水晶亭』の主人(1)
**************** 夜になり、レダンとシャルンが泊まった宿にガストが疲れ切って戻ってきた。「強行軍でしたねえ」 溜め息をつきつつ、衝立の向こうで、宿の者に申しつけた水で汚れを落とし
**************** 長い旅だった。セレドに戻るのも、うんと長い旅になるだろう。ずっとアシャと居て、それほど長く居て、ユーノの気持ちのどこかでは、アシャはもうずっと側に居てくれるよう
**************** 「傷の方はほとんど大丈夫なはずだ」「…うん」「そっちに服がある。『氷の双宮』からミダス公の屋敷へ行く道は知ってるな?」「わかってる。……あなたはこれからどうするの?」
**************** 「…」 がさりと熱に灰が被さる。思わず両腕を降ろして、ユーノを凝視する。「失いたくないよ、アシャ」 切なげに声が続いた。「いつも助けてくれた、支えてくれた、守って、
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 27.潜入(3)
**************** 「どう言う、ことですか」 門から入ってバーン伯、トライステ伯あたりが治めている領地内、カースウェルとは違い荒地が目立つ土地だったが、整備された道なりに進んで初めて
**************** ユーノが真っ青になった。「…」 答えを待ちつつ、アシャは座り込みたくなる気持ちを堪える。(聞いてしまった) アシャの気持ちは伝えていない。『泉の狩人』(オーミノ)
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 27.潜入(2)
**************** フードを外され、シャルンはそろそろと顔を上げた。冷たい風が頭に直に当たって寒いし、薄い服が凍えるし、きっと顔色も悪いだろう。そこへもって、右頬を引きつらせる感触
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 27.潜入(1)
**************** 泣かれてしまった。 揺れる馬車の中、レダンは溜め息混じりに短髪を撫でる。 レダンの黒髪は印象的で、諸国訪問を繰り返したから、長髪をなびかせる姿も目立つようになっ
**************** 「……………ふぅ」「……?」 ようやくわかったのかと叱り飛ばされるか、今更そんなことを言っても聞いてやらんと詰られるか、そのどちらかだと思っていたのに、沈黙の後零れた、ど
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 26.ハイオルトの真実(3)
**************** あれほど民が飢えているのに、シャルンはなぜ馬車などで見回っていたのだろう。 幽かに幽かに違和感が広がってくる。 今日の食べ物がない者を目にして、自分達が潤す財力
**************** 溢れ零れ落ちる涙をユーノは堪えなかった。 泣かなくてはならない。 泣いて刻まなければならない。 己の未熟が一つの命を奪ったのだ。 ユーノはまだまだ未熟だろう。こ
**************** (やっぱりあれは、夢じゃなかったんだ) ユーノは自分を切り刻むように想う。(私を助けに、来てくれたんだ) 暴走するアシャを止めなくてはならないとわかっていた。けれ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 26.ハイオルトの真実(2)
**************** 『変身はね、成り切ることが肝心だからね』 カースウェルの自室の鏡の前で、シャルンはサリストアのことばを思い返す。『その者の真似をするというよりは、その者が暮らして
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 26.ハイオルトの真実(1)
**************** 「悪い顔をしてますね」 茶を運んできたガストが冷ややかに指摘した。「そうか?」 書類を確認しながらレダンは薄く笑う。「いかにも悪そうです」「懐かしいだろ」「…ただで
**************** ユーノの傷をレアナに見せた、その後しばらく、アシャはユーノに避け続けられていた。予想はしていたが、喪失感がひどすぎて、何とかようやく会話を交わしてみても距離を置
**************** 「ふぅ…」「っ」 『氷の双宮』の一室、真っ白に洗い立てられたシーツの上で、ユーノが小さく息を吐いた。ぎくりとして振り返り、相手がまだ昏々と眠っているのを確かめ、アシ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 25.サリストア下克上(3)
**************** 提案と変身を手伝おうと申し出てくれたのはサリストアだった。「これほど丁寧に手入れされている髪を捨てるのは勿体無いな」 サリストアが一人ごちる。「鬘にするよう手配
**************** 「アシャの頭の中では」 セシ公はもう一度地図に目を向けた。「この戦いが終わった後の世界が見えているのかも知れない。おさまるべき形はもう見えているけれど、そのどこな
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 25.サリストア下克上(2)
**************** 「これは何事か!」 どよめきかけた場内を制する大音声、視線はまっすぐミラルシアに向いている。「レダン」 目を光らせて構えかけたガストに頷き、うろたえるなと命じる。
**************** 「その手立てがまた憎らしいだろう?」 まず動かしたのがテッツェというあたりが笑えない。確かにジーフォ公は短気で知られた男だが、彼が唯一意見を求め案に従うのがテッツ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 25.サリストア下克上(1)
**************** 足りない。 レダンは苛つきムカつき不快さを増している。 何もかも足りない、この怒りを昇華するためにも、この苛立ちから目を逸らすにも、この不安を押し潰すにも。「も
**************** 「サマルカンド!」「クェッ!!」 額に紅の十字を戴いたクフィラは、セシ公が自分を一目で見分けたのに満足したのか、一声鋭く鳴くと部屋の中で体を捻り、ふわりと舞い戻った
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 24.剣と剣、そして剣(4)
**************** 「どうしたの、ルッカ」「ガストが間に合えばいいのですが」 ルッカが険しい顔で囁いた。「それとも、この場を離れる準備をすべきか」「どういうこと?」「あれは、本物の、
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 24.剣と剣、そして剣(3)
**************** 「今日は出なくていい」「何をおかしなことを、姉上」 レダンが派手にアルシアの遣い手を叩きのめすばかりか、手軽くあしらうのが繰り返されて、闘技場の雰囲気はやや強張っ
**************** 「けどさ、兄貴」 訝しげにリヒャルティが眉を上げる。「あいつを突くったって」「『子ども』にはわからんだろうが、ジーフォ公には最愛の婚約者がいる」「それぐらい、オレ
**************** 「ふうむ」 公宮の作戦会議室で、セシ公は机の上に広げられている地図を見つめている。とん、とん、とん、とん、と拍子を取るかのように机を叩き続ける白く細い指先が、ふ、
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 24.剣と剣、そして剣(2)
**************** 「遊んでますね」 ぼそりと隣に居たガストが唸って、シャルンは相手を振り仰いだ。細めた目の色はひんやりしている。「遊んでる?」「遊んでいらっしゃいますね」「ええっ?
**************** 「…そうして、水鏡(カーフィ)を覗き込み、我らが聖女王(シグラトル)の危機を知ったセールは、止める間もなく宙道(シノイ)に飛び込み、そのまま…」「もうよい」 『狩人
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 24.剣と剣、そして剣(1)
**************** 「そこまで!」 日差し照りつける闘技場にアルシア国の審判の声が響き渡る。肩を大きく喘がせ、吹き出すような汗に体を波打たせて地面に転がっていた兵士が低く唸る。「…参っ
**************** 「……?!」 驚愕に息を止めるアシャを嘲笑い、『信じるも信じぬも勝手だ、私も言わずともいいことを言う……だがな』 私はこれでお前とやり合うのが最後などとは思っておらぬぞ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 23.シャルンの決意(3)
**************** ああ、言われてしまった。 脱力感に打ちひしがれながら、レダンはぼんやりと窓から外を眺めている。 夜は深く、さっきまで泣いていたシャルンは、いまは静かに眠りについ
**************** 頭上を振り仰ぐ。そこにもここにも亀裂は走っている。見ている間に破砕音をたてながら、裂け目を広がらせ、天井一面に網のように巡らされていく、崩壊の模様。(全てをエネ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 23.シャルンの決意(2)
**************** 「…美味しゅうございます」「そうか、よかった」 ちゅ、とレダンは髪にキスした。そのまま、「俺は失ってしまうのかな」 不安げに響いた声に首を振る。「私は、変わりません
**************** 『アシャ殿!!』 セールの声なき大音声は、洞窟の中を満たして響き渡り、さすがにアシャの鼓膜を貫いた。はっとして我に返り、振り返って洞窟の入り口から飛び込んできたセー
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 23.シャルンの決意(1)
**************** 「本当にあなたは無茶をする」 二人に与えられた居室に戻って、レダンはしみじみと嘆息する。「申し訳ありません…」「こんなに大胆な女性だとは思わなかったな」「申し訳…」
**************** 「あ…しゃ……っ…」 必死に絞り出した声は掠れて呻き声にしかならなかった。紡いだ名前を聞き取ろうとする気配はアシャにはない。彼は敵を屠るのに夢中だ。だが、「あ……しゃ……
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 22.武闘会的な舞踏会(4)
**************** 「っ」 腕の中で剣が滑り、ひやりとして力を込める。 いつまで持っていればいいのだろう。誰がもういいよとこの重さを取り除いてくれるのだろう。 ガストが『コルン』を見
**************** (これ…は) 霞んだ視界は数回の瞬きですぐに明らかになった、だが、視野を埋めた光景に、今度は見開いた目をもっと剥くしかなかった。 三つの塊がある。 一つの塊は黄金の
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 22.武闘会的な舞踏会(3)
**************** 痛い。重い。冷たい。 シャルンは腕の中の剣を抱きしめながら考えている。 まるでハイオルトの玉座のようだ。 レダンにドレスを褒められながら、武闘会はおそらく明日以
**************** (!) どさりと固いものの上に投げ出され、鋭い痛みが左肩を貫いて、ユーノは我に返った。 薄目を開ける。揺らめく視界は陽炎の海のようで、目眩がして再び眼を閉じる。
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 22.武闘会的な舞踏会(2)
**************** アルシア王国に古くから伝わる『薔薇の大剣』をサリドが戻るまで掲げていてもらいたい。 容易いことと引き受けたシャルンが抱えてよろめいた。手を貸そうとすると制されて
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 22.武闘会的な舞踏会(1)
**************** 「武闘会、だと言わなかったか」「武闘会だが」 周囲でこそこそ囁き交わす着飾った男女にレダンは目を細めながら、隣に立つ美姫に再確認する。「どこに剣が用意されている」
**************** 『太皇』(スーグ)がゆっくり振り返る。その顔を正面から見据えながら、『これ以上「狩人」を率いていくのは耐えられないのです』 口に出してしまえば、想いは一層はっき
**************** 窓から入る風は柔らかく穏やかだ。ラフィンニの長い髪が揺れ、仮面に当たり、さらさらと音をたてた。『挙げ句の果てがこの有様…』 指先で白い仮面に触れる。『女王は帰らず
**************** 「……そうか……伝説の聖女王(シグラトル)に…な」 『氷の双宮』の奥まった一隅、小さな一室で窓辺に立っていた『太皇』(スーグ)はゆっくりと振り返った。その視線の先には、
**************** 「は…!」 罠だ、とアシャの叫びが届くのは遅過ぎた。今の今までユーノの力を試すかのようにひっぱり続けていた『穴の老人』(ディスティヤト)が、ユーノの手が震えるほど力
**************** (おいおい) ユーノは『穴の老人』(ディスティヤト)の話は知っていても、彼らが肉食、特に人間の肉を好むということは知らないはずだ。知っていれば、さきほど少年を庇っ
『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー』第2話 砂糖菓子姫とケダモノ王 21.恋心は暴走する(3)
**************** 「お前の方だぞ、自覚がないのは」「はい?」「シャルンが来てから、よく笑うようになった」「…誰が?」「お前だ」「……はいい?」 今度はレダンが苦笑いした。「そう言う所な
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**************** 「馬鹿なことしてるよね」 はあはあと息を弾ませがら、京介は駐車場の方へ回る。伊吹はたぶんまっすぐ玄関へ向かっただろうから、それ以外のところは一通り押さえておこう。「
**************** 伊吹が訝しそうに眉を寄せて、ふいに気付いた。『相手は納得しなかった。状況が悪化して、私のせいだと言われた。私は手を引いて……』 ひょっとして、あの話の。 尋ねてみる
**************** 「ふぅん……そうなんだ?」 伊吹が首を傾げて何か言った。「今でも好きなんだ」 自分の声もうまく聞こえない。「今でも伊吹さんは大石のことが好きなんだ」 悲しくて辛くて、
**************** どこまで頑張っても無駄なんだ。 京介はぼんやりと思った。 気持ちを話して、過去を打ち明けて、自分を晒してみたけれど、結局こうやって拒まれるんだ。 きっと大輔と同じよ
**************** 「あの、今なんて?」 まさか、でも、本当に? まさか、でも、ならどうして一体? すぐにそれにすがって喜ぼうとしている気持ちと、だって大石圭吾を知っているじゃないか
**************** 「すみません」 開口一番、伊吹は頭を下げた。「なんで謝るの」「いや、何かとんでもないミスしたのかなと」 本当に? 京介の胸の中で不安がどろどろと渦を巻く。 本当は
**************** 大石と別れていささか落ち込みながら部屋に戻った京介は、データ入力に勤しんでるはずの伊吹が、何度もぼうっと手を止めるのに気付いた。 さりげなく近寄って、見つけた名前
**************** 「……ということだと考えています」 大石は細田と京介を前に澱みなく説明を終えた。「もし、データが曖昧なら改めて説明させて頂きますが」 細田がちら、ちら、と神経質な視線
**************** 伊吹と実家に戻ったのが週末。「真崎君はいるかっ」「はぁい」 週明け一番に響き渡った聞き覚えのある声に、京介はやれやれと顔を上げる。「あれ、細田課長、おはようございま
**************** 「圭吾!」 走りながら、上がりそうな息で必死に叫ぶ。周囲を見回して、胸の底でずっと忘れなかった後ろ姿を探す。「圭吾!」 美並の声が響くのに、会社のホールを通る人々が
**************** 「ふぅん」 真崎が目を細めて振り向く。「そうなんだ?」「あの、ずっと前のことです、それに」「今でも好きなんだ」「はい…?」 もう一度繰り返されて、ようやく一連の会話
**************** 「あの、今なんて?」「……聞こえなかったならいいよ」 真崎はむつっとした顔で呟き、また窓の外をじっと見ている。「どうせ、僕とは違うタイプだし」「……はい……??」 またわ
**************** 「何…っ」 いつの間に戻ってきたのか、声に真崎が身を引いた。「す、すみません」「課長、おかしなことしないでくださいよ」 石塚が睨む。「おかしなことなんかしていないよ、
**************** 新年一週間たって、ようやく美並の気持ちが決まった。 大石となら頑張っていけるかもしれない、温かな笑顔を思い出しながら、そう思った。 年末から連絡はずっとなかったけれ
**************** それが、週末、のこと。「手、動いてないわよ」「あ、はい」 石塚に指摘されて、美並は慌てて資料を捲った。 真崎に耳元で囁かれてぼうっとしていたのかと思われるのは恥ずか
**************** 「やあ、おはよう」「……お、はようございます」 翌朝、大あくびをしていたところをまともに大輔に見られて、美並は引きつった。 夕べの衝撃的な真崎の告白がまだ頭に残っている
**************** 旅先で、夜中に入ってきた真崎はまっすぐ美並の枕元にやってきた。「……伊吹さん」 何かをしかけてくるようなら、力の限り抵抗してやる。 布団の中でこぶしを握り締めていた
**************** 夜中にまた夢を見た。 押し倒されて首を押さえられる。息ができなくてもがいたとたん、目が覚めた。「は…っ…はっ」 喘ぎながら汗に塗れて目を開けると、見上げたすぐ目の前
**************** 意外な応えが返って目を見開くと、生真面目な顔で尋ねられた。「イブキは誰の猫なんですか?」 いぶき、は誰のものなんですか。 一瞬そう聞こえて、ことばにならなかった。
**************** 近付いてくる唇を拒めなかった。 伸び上がって吸いついてくるべったり濡れたそれは強い化粧品の匂いがして、押し倒されてのしかかられて、ぼんやり見上げていたら繰り返し吸
**************** 何を考えているのか。「私が聞きたいところだ」 冷ややかに嗤いながら、リヒャルティを置き去りに、セシ公は自室から持ち出した紫の布包みを手に、パディスへ馬を走らせ