ポレンの向こう側あの夜、月は異様に低く、椰子の葉の影が海に刺さっていた。グヌン・アグンに沈む太陽を見送り、私たちはサヌールのはずれにある小さな村の寺院へと向かった。カレンダーにはない、村人だけが知る密やかな儀式があると、アユが言ったのだ。アユは、正確に言えば女だったのかどうか、今となってはわからない。名前も本名かどうか怪しかった。ただ確かに、あの夜、彼女は存在していた──ポレンの布に包まれたガジュマルの前で、白いサロンをまとい、裸足で。「ねえ、夢って、終わりがあると思う?」アユがそう聞いたのは、儀式が始まる直前だった。踊り子たちの目には黒い塗料が縁どられ、どこか死人のような気配を纏っていた。「夢?」私はたしか、そう問い返したと思う。「うん。誰かが終わらせなければ、ずっと続くのよ。たとえば、あの人H。彼、死...ポレンの向こう側文字数:834