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  • 七日七夜・・14 白蛇抄第4話

    その夜遅くかなえは馬屋に足を運んだ。思った通り黒影の番の為に青波は馬屋に泊まり込んでいた。人の入ってくる気配に馬達が脅えた様であったがその主が誰か判ると馬も静まり返ってしまう。「遅うに・・・誰であろう」歩んでくるものの静かで、身体の軽い足音がかなえでは無かろうかと思うと青波の胸が高鳴るのである。「青波」「あ」想う人である。青波は居住まいを正しながら「どうなさいました?黒は、大丈夫で御座いますに。こんなに遅うに御外へ脱け出すと乳母やが心配なさいましょう?」「はい。それでも、かなえも城の外に抜けられぬ様になって、逢う事も叶わぬ人が、おると判れば・・・」「え」「童子」「は、はい?」「お会いしとう御座いました」「な、何の事やら」「おとぼけなさりますな。先ほど、影が映りましたに。鬼の影でしたに」「し、しもうた」かな...七日七夜・・14白蛇抄第4話

  • -時には乙女のようにー1

    「ひさしぶり!!」って、なんだか、よく、きやがる。ボーマンは調剤の手をやすめて、声の主をまじまじと見つめた。『なんだよ・・いい女じゃないか・・?久しぶりって、俺、こんなべっぴん・・誰だか・・・思い出せない・・・・』ボーマンたるものが、こんな初歩的な記憶ミッシングなぞ、ありえるわけが無い。女、いや、べっぴんの顔をみつめたのは、ボーマンの記憶の中の「特徴」と相似形のものがないか・・だったが。「あ?・・おまえ~~~~~~!!」大学で一緒だった。がりがりで、ひっつめ髪で・・めがねかけてて、色気もなければ、笑顔も無い。そいつだ!!べっぴんと一言で表現するが、べっぴんにもいろいろある。文字通り容姿端麗ってのは、わかりやすいが、顔だけ見りゃそうでもないのに、な~~んか、ぐっと来るものがあって、美人に見える。いわゆる、雰...-時には乙女のようにー1

  • -時には乙女のようにー2

    なんだか、ボーマンはセリーヌに似ていると想っている。(イッツ・オンリー・ユアマインドシリーズ参照)セリーヌは本当の自分を見せられないとクリスを諦めようとした。綺麗じゃないままに自分でも愛されたいという思いと受け止めてもらえるわけがないと逃げ出そうとする心と・・・。キャッシーの科白がセリーヌの相似形にみえて、ボーマンはいっそう、キャッシーの薬指にリングの跡さえないのが気になった。「で?どこのどいつ様があんたをこんなにべっぴんにしちまったんだい?」女を「綺麗」に、かえちまう方法なんてのは、たったひとつしかない。どこのどなた様がキャッシーが女でしかないことをおしえてやったか?その意味がふくまれてることをキャッシーも充分に承知しているのだろう。「うふふ」と、妙に鼻にかかった声がでるばかりで、肝心なことには答えよう...-時には乙女のようにー2

  • -時には乙女のようにー3

    コーヒーを立てに行くニーネにボーマンはかすかに首をふった。察しのよいニーネというべきか、ボーマンの問題解決の手腕をしんじているというべきか、ニーネはその意味を悟る。「まあ、お店かたづけてないで、しめちゃったの?」とってつけた言い訳をいってみせる。もちろん、ボーマンもニーネの意図する事がわかっている。「あ・・ん?すまねえな。ちょっと、かたづけちまってくれよ」いいながら、ボーマンはキャシーの前に座り込んだ。やがてコーヒーが目の前に置かれるとニーネはキャシーにお店をかたづけてくるとつげ、キャシーもどこか、ほっとした顔をみせていた。ー見ろ。やっぱ俺じゃなきゃだめだって顔にかいてあらあーニーネが店に入っていくのを見届けるとボーマンが口火をきった。泣いちまったあとってのは、けっこう、冷静になるもんだし、醜態を見せた以...-時には乙女のようにー3

  • -時には乙女のようにー4

    「ねえ、ツルゲーネフの初恋って本よんだことある?」へ?読んだことはないけど、内容は知ってる。そんなことをいいだした、キャッシーは何をいいたいんだろう?と、ボーマンはストーリーをなぞりながら、キャッシーのなぞかけを考えていた。で、その話ってのが、どいうことだというとだな。「それさ、どっかのぼくちんが、年上の幼馴染かなんかを好きになったけど、そのねえちゃんが、自分の親父とできてたって・・え?まさか・・おまえ?」上司の女房が5年前から、ねたきりで、そのあと、キャッシーが7年ほどつきあっている?つまり、その上司の子供が、それなりの年齢になっていて?「親父とのことを知らずにおまえにのぼせあがった・・・?いや・・それなら・・」キャッシーがぴ~ぴ~泣くことじゃないよな?「ボーマン・・・その逆・・」キャッシーが一番口にだ...-時には乙女のようにー4

  • -時には乙女のようにー5

    「私・・彼を掴んでも良いってこと・・?でも、なにもかも、黙って・・彼をだましてしまうことになる。せめて、こんなぼろな女でも、そんなことだけはしたくない・・」わずか、希望を見出したかと思ったキャッシーだったけど、相手がセイントであればあるほど、自分がせめて、そこの部分だけは同じものでありたいとおもったんだろう。ーけっこう・けっこうーキャッシーの気持ちもやっぱり、まじなものでしかない。「あん?だれが、黙ってろって、いったよ?」「え?は・・はなせ・・っていうこと?話してしまえって?そんなこと、できるわけないじゃない」「な~~んでさ?」「なんでって、考えなくってもわかることじゃない」きっと、ボーマンは又、かすかに笑ってるにちがいない。「わかんねえよ。わかるように説明してくれねえか?」「説明って・・?」そんな事がわ...-時には乙女のようにー5

  • -時には乙女のようにー6

    ボーマンはキャッシーの泣き声をききながら、まだ、考えている。ーとは、いうものの、ぼうずのほうは、なんとかなるとして、問題は親父のきもちだよな。10年近く一緒に居て、結婚まで考えてる。まあ、キャッシーの心変わりだけなら、自分の年齢もあるだろうから、あきらめもつこうってなもんだろうけど・・相手が自分の息子。う~~~~~~ん。俺だったら、わりきれねえよな。どう、考えたら納得できる?ーひとえにボーマンの問題解決の手腕ってのは、「自分だったら、どうだろう」って、考えるところにあるんだろう。ー判らねえーこんな時に頼りになるのは、あいつしかいない。考え方がでっかいつ~のか、ある意味、野放図というのか、とんでもないことを、さらりといってのけるのが、ステラだ・・・。だいたい、俺とわかれてから、俺を待つのに、ソープなんてとん...-時には乙女のようにー6

  • -時には乙女のようにー終

    「私・・・・」決心したはずなのに、覚悟したはずなのに彼を目の前にすると、心がゆらぐ。失くしたくないに決まってる。さけて通りたいに決まってる。彼のショックを見たくない。ましてや、それを与えるのは自分・・・。「なに?」キャッシーの呼び出しに心弾ませてやってきた彼にちがいない。彼が・・同じ職場に配属されてこなかったら・・・。出張講義、デモンストレーションのワークグループで、なかったらもう少し、日を延ばすこともできたかもしれない。「私・・これ以上・・貴方に黙っていちゃいけないって、思うの。私は、貴方が思ってるような女じゃないし・・これから、喋ることで貴方をきずつける・・なのに、平気で喋ろう・・ってしてる・・そんな女よ」途切れとぎれになる言葉は涙をこらえるせい。キャッシーの告白はむしろ、彼よりも、キャッシーをくるし...-時には乙女のようにー終

  • 白峰大神・・1 白蛇抄第3話

    白銅が鏑木の部屋にいると、伝えられて澄明は部屋の戸を開いた。そこに白銅が、じっと立っていた。が、その足元に黒い醜い者がいるのが見えた。「白銅!餓鬼ではないか?」思わず澄明は叫んだ。「見えるか・・・・鼎だ」澄明の言葉にふりむいた白銅の袴の裾を掴んでいた餓鬼の姿がふっと消えた。「なんと?我気道に落ちやったか?」「うむ。それよりも、不知火が白峰よりあふりがたったと、言霊を寄せてきよったわ」「そうか・・・」「澄明。直、齢十九の役であろう?」はっとした顔を見せた澄明である。承知の事であろうが十九の役と言えば、当然女子の役である。「知っておったのか?」「随分、前からの。幾ら、男の造りで誤魔化してみても、障りの血の臭いは消せぬ」「麝香も無駄か」白足袋から、髪を括る紙縒り紐まで麝香を焚き染めて居たのも、障りは元より女には...白峰大神・・1白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・2 白蛇抄第3話

    「嫁にくれと?そう申すのか?そちが、か?澄明をか?正気か?知っておろう?」白銅は澄明が女子である事もしっている。が、問題はそれだけではない。正眼の声が震えている。「勿論です。だからこそ・・・白峰なぞに・・・・」白峰の名前が白銅の口からでた。白峰の目論見をしっているということである。「無理じゃ。勝てる相手でない。加護を与えるどころか、むしろ、澄明の足手まといになる。澄明の方が法力は上だ。その力をもってしても、相成らん事だのに・・・」「みすみす・・・」「沙少に触れても、あのざまであったろうに。潤房に及ぶまでに命がはつるわ」先程の白銅の挙動を既に正眼は知っていた。「・・・・」「あれも、好いた男がおったようだが、そう考えたのであろう。両極、想い揃うてなんとか、なろうかもしれぬが、好いた男の命を賭けることなぞ、でき...白峰大神・・2白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・3 白蛇抄第3話

    白銅は項を垂れたまま、正眼の部屋を出るとそのまますぐに不知火の庵に向かった。先ずはこの目で白峰のあふりがどれほどのものか見定めたかった。扉を開けてぬっと入ってきた白銅にさして驚きもしなかった所を見ると、不知火も白銅のくるのを予期していたのであろう。「早くも来たか?」「おお」振り向きもせず不知火は声をかけるとそのまま茶を立てつづけた。風流な男である。床の間に飾られた花もこの男が手ずから活けている。白銅にも花瓶の中で咲きかけている花が桃の花だという事だけは判る。白銅が不知火の側に座りこむと不知火は立て終えた茶の湯を白銅の前に押しやった。それを無造作に掴み上げると白銅はぐびっと飲んだ。作法も何もあったもので無かったが、不知火はこだわりのない男でもある。澄明が白峰のあふりを抑えようと予見したのはこの男である。かの...白峰大神・・3白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・4 白蛇抄第3話

    「白峰の事もか?」「判らぬのう。澄明の事を読むお前の気持ちは気がついたが、何に左程に白峰が気に障る」「澄明を読んではおらぬのか?」「するものか?御主ではないわ」「・・・・・」「いうてみろ」「初めはわしも、判らなんだ。御主の言う通り、澄明の心を透かして見とうてな。都度、都度、読む内に白峰の名前がよう過った。その内、かのとが政勝の嫁に行く頃に、『妻には成れぬ』といいおる。深い悲しみがある中に『この身、白峰のものか。などか、くじられねばならぬ』と、呟くように聞えてきた」「何?」とうとうとしゃべる白銅の言葉の中の一言であった。が、くじられるとは?ただごとではない。「そういうことだ」「ま、待て。では、あの、あふりは?」「そうだというておろう」澄明をよこせという白峰の発動だという。「あのあふりを受ければ周りの者が異変...白峰大神・・4白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・5 白蛇抄第3話

    「巫女様!!」息を切らして半蔵が駆け込んで来た。「どうした?」巫女は半蔵をじっと見た。「それが、嗚呼。白峰様がいかってらしゃるのだ」「訳が判らぬ。きちんと聞かせや」齢を七拾を超え様かという老いさらばえた巫女である。少しの事では、驚きはしないのだが、白峰の怒りという言葉に膝を正し、幾ばくか、背筋を伸ばした。「昨日の雨の後、雨に打たれた者は身体が痺れると言い、草を突付く鳥もしばらくすると地べたにじたじたと這い回り、何よりも白峰様の大きな杉が残らず、枯れ果てたように茶色に」「判った」あふりだということはおぼろげに判るが何故、白峰様があふりをお上げになるのかまで巫女にも判らなかった。「まあ。よい。祈ってみるわ」祈祷の祭壇に額ずくと、しばらくして巫女の長い祈祷の声が流れ出した。「はああああ。はっ。はっ。はああああ」...白峰大神・・5白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・6 白蛇抄第3話

    『雨が降ってしもうた』白銅と同じ思いが今、ひのえの胸に去来する。『この、雨をどんな顔で見ているのやら・・・』白銅はひのえへの溢れる思いをどうする事もできず、只、白峰の物に成るのを指を咥えて見ているしかない。それを、ひのえが望んでいる事なら白銅も諦める事もできる。が、ひのえはもはや諦念している。その諦念を託つものはせめて村人達にこれ以上白峰のあふりを受けさせないですむという事だけであろう。次の日は雨が嘘のように、晴れ上がった空が顔を覗かせた。白峰の麓の村人達が大勢で父の元の詰め寄って来るのは、目に見えている。行かせたくないものを無理やり承諾させられて、ひのえに、どう言えば良いか、苦渋に満ちた顔でひのえの前に座る父を見たくもない。ひのえは墨をすると正眼への置手紙を書き始めた。――村人たちが来る前に、先に行きま...白峰大神・・6白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・7 白蛇抄第3話

    重たい社の扉を開け放つと、予期していたかのように白峰が待っていた。「きやったか」つと、立ち上がると見えたら、もう白峰の姿はひのえの側に寄り添う様に立っていた。「さて・・・ひのえ・・・・いかがなす?」「・・・・・・」「この白峰。ひのえが七の年より十二年、この時の来るのをどんなに待ち受けた事か」「好きになさるが良い」「ひのえ・・・良いのだな?」「ほっ。嫌だと申せば、おやめ下さると?」美しい白峰の顔がひのえを覗き込んだ。「ひのえは、この白峰が欲しくないか?」ぐううと瞳をねめつけられると、ひのえの身体が痺れる様に陶酔してゆく。余りに美しい白峰に口説かれると、さしもの、ひのえとて女である。呆然とした顔の真中。瞳がほだされる様に潤んだ。「よいな」ひのえの顔をよせ来ると、白峰が口を啜った。「よくも、白銅が如きに口吸いを...白峰大神・・7白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・8 白蛇抄第3話

    五十四夜白峰がくすりと笑った。「ひのえ。」「はい」「昨日、人の物を触った事が無いと言うておったの?」「あ、はい?」何を言い出すのかと訝しげなひのえの返事である。「が、鬼の物には、触れたの?よう、掴んだの?」「あっ、ああ。そうでありましたな。が、よう知っておいでである」「お前の成す事は、全て見ておった。危なげな事を平気でしおる。が、時折、よう判らぬ事をする」「判らぬ事?」白峰がひのえを抱きこみながら答えた。「おお。そうじゃの、例えば、なんで悪童丸の舌をしゃいた?悪童丸の韻なぞ、お前なら跳ね帰せように?」「ああ。舌に情念が逃げ込みます故」「知っておるか。ふむ。下の物に情念を詰め込んで勢を孕ませてやろうとその折に決めよったか?」「それもありました。が、情念が舌に逃げこめば陽の物を断ち切られては悪童丸がほたえ苦し...白峰大神・・8白蛇抄第3話

  • 白峰大神・・9 白蛇抄第3話

    今は静かな佇まいを見せているが、ご開帳の日ともなると弁財天を信奉する者の人の波でごった返す境内を不知火は突っ切っていった。「あいすまぬ」不知火が呼ばわる声に住職が出てきた。「はい。いらさりませや」「御くつろぎの所、あいすまぬの。ちと、御知恵を拝借しとうてな」通り一遍の挨拶をすると、住職の方が「陰陽道の不知火様の御力になれるやらどうやら・・・」と、ひどく慎まし気な返事を返して来た。が、そんな事で引くような不知火でもない。海千山千の人擦れをしている男である。気の付かぬ振りでけろっとした顔をして「おおう。わしを知っておるなら、話が早いわ」言う顔が瞬時に引きつめられるとさすがに住職も何事かは察したのであろう。低く、くぐもった声で「なにぞ?」と、尋ねると、居住まいを正した。物腰の柔らかさと腰の低さが逆にこの住職の徳...白峰大神・・9白蛇抄第3話

  • 白峰大神・10 白蛇抄第3話

    「何者じゃ?」その声と共にぬっと、現れた男は背が高く、いかつい顔で年の頃は三十半ばを越していようか、すこし、剣のある目付きをしていた。「なんだ?陰陽師風情が何の用だ?」一目でそれと見ぬくと高飛車な言葉を投げ掛けた。不知火はその男がくりくりの磨髪であるのが判ると、「堂を守るのは、御主であるかな?」と、問い正した。男からはむっとした返事が返って来た。「俺が守っておってはいかぬか?もそっと、高尚なやつばらがおると思っておったか?」自らの品のないのを認めているらしく、よく自分を心得た口のききようである。「なに、御主に用があってきたわけではない。まともな口さえきければよいわ」いがみ合いになるかと思うような口を返すと不知火はにやりと笑って見せた。不知火が妙に落ちつきはらしているのと、なんの用事か気になったのであろう。...白峰大神・10白蛇抄第3話

  • 白峰大神・16 白蛇抄第3話

    ところが、「や?澄明がおらぬ」不知火の声に白銅もはっと振り返った。その場所にひのえの姿は無かった。ひのえは白峰の所に行ったに違いない。「しまった。行かせるでなかったに」「そうじゃの。ひのえを留め置いてほんにあふりがこぬか、確かめれば良かったかの?」確かめるには交情を持とうとすればすぐ判る。ひどく皮肉った言葉を投げ掛ける不知火である。「なにぞ、思いがあるのだろう。ひのえを信じてやれ。戻ったのではないわ。帰ってくる」「そう、思うか」「ああ、白峰の姿であれば来ると言うたのだろう?」「ああ」帰って来るのであろうか?いや、帰ってくる。来ぬものならすでに白峰の元に留まっておろうに。あれも、己の気持ちが見定めきれずにおるに、迷うたまま白峰の元には留まらぬ。そうだと思うと白銅はやっと鼎の事に気がついた。「鼎?」「ああ・・...白峰大神・16白蛇抄第3話

  • 白峰大神・17 白蛇抄第3話

    「かのと・・・かのと」呼び起こされる声に、かのとは目を覚ました。が、夫てある政勝は今宵のかのとにおおいに満足したのであろう。かのとの中で果つるとそのまま深い眠りの中に落ち込んでいた。「はい?」うろんげに政勝を見やりながら小さく返事を返したがやはり、政勝はぐっすりと眠っている。「かのと・・政勝を起こすでない」潜めた声が響くと、かのとの目の前に男が現れた。ぐっと後退りをしながらかのとは、男を見た。が、こんな夜中に夫婦の部屋に忍び入った男であるのに不思議と恐ろしくない。むしろ、なにか温かく、懐かしい感じさえする。「かのと。覚えておるのだの。わしじゃ。黒龍じゃ」「はい?」懐かしげに語りかける男に面識などない。が、男の口振同様、ひどく懐かしい気がするのはかのとも同じであった。「案ずるな。伝えおきたい事があってな。人...白峰大神・17白蛇抄第3話

  • 白峰大神・18 白蛇抄第3話

    次の日。かのとは白銅の所へ急いだ。「白胴様」息を切らして玄関先にしゃがみ込むかのとを驚いた様に白銅が見た。「なんで、教えてくれませなんだ」「・・・・」やっと、ひのえの事に気がついたのだと判ると、白銅は何も言えなかった。「白峰が荒らぶっておるだけかと、思うておったのに」やはり、そうだと判ると「すまなんだ。がの、ひのえがかのと殿に知らせとうなかった気持ち、わしにはよう判る」「すみませなんだ。恨み言を言いに来たのではありませぬのに、つい」「どうなされた」「実は、私の元に黒龍が現れましてな」「え?」「事の次第は黒龍から、聞かされました。ひのえは、やがて、蛇を産みます」一気に言ってしまってからかのとは、は、と気がついて白銅の顔を見た。恐る恐る「孕んでおる事は・・・知っておいででしたか?」「ああ。知っておる。蛇を産む...白峰大神・18白蛇抄第3話

  • 白峰大神・19 白蛇抄第3話

    かのとが白銅と話しおる同じ頃にひのえは父、正眼と話し合っていた。「父上」何も言わずとも、正眼は察したとみえて「白銅は得心したか?」と、尋ねた。「いえ。断り損ねました。」「そうか」「蛇を産み足れば行くというてしまいました」ひのえは白峰の言葉を疑ってはいない。百夜の満願成就で白峰がひのえを解いて天空界に上がるのだとそう考えている。身体も弱り果てても、子を見たい一心で生き長らえ様としている故にあふりなぞ挙げたくないのだけは判っている。が、白峰が天空界に上がれば、あふりはもう無い。生まれくる子が人の姿でないのならば、白銅が思いを受けても良いのかもしれぬ。そう考えて白峰に告げに言った筈であるのに今度は己から白峰に抱かれて帰って来る事になれば、さすがにひのえも白銅が元へは行かぬと心に決めざるを得なかった。「心は白峰の...白峰大神・19白蛇抄第3話

  • 白峰大神・20 白蛇抄第3話

    かのとが急に高笑いで正眼の言葉を跳ね返した。父は、白峰が寿命を迎えているせいであふりを上げずにいるとは気が着いてない。が、それはどうやら、ひのえがいおうとしていないせいである。「ほほほほほほ。ああ、おかしい。それがどうしました?九十九が見ゆるのは前世でしょう?後世を見ゆるのなら、私も納得いたします。何もかも前世の因に縛られるのなら、こんな、父上の陰陽道も成立ちますまい?」厳しい目付きである。日頃はひのえの翳に隠れて判らないが、かのとのほうが性も根もひのえよりもっと男勝りを凌ぐ。勝気な娘であった。「宜しゅう御座います。こうなれば白銅どのにも直々の談判。いかにひのえを思うておるか、父上自からお聞きあそばれるがよい」言捨てて、つと、立ち上がると怒りが心頭から発するのであろう。凡そ普段のかのととは信じられない勢い...白峰大神・20白蛇抄第3話

  • 白峰大神・21 白蛇抄第3話

    ぷいと立つとかのとは家に急ぎ帰った。家にたどり着くとかのとは慌てて黒龍を呼んだ。ふと、件の男が現れた。「何をあふりを上げおる」「聞いて下され。ひのえの強情にもほとほと手を焼きます」どちらも似たような者なのであるが。「仕方なかろう。きのえがそうだったに。あれは、おまえによう似ておった。普段は大人しいが、ここぞとなったらきつうてな。言出したらきかなんだ」「良い方に言出して聞かぬならよう御座います」始まったなと思いながら黒龍は黙って聞いている。「情にひかかりおってからに。果てには白峰に溺れさせられた事に負けてそれを引け目にして白銅をば断わると言うてききませぬ。白銅はそれでも良いと言うておるのに。何故あのように強情を張らねばならないかが判らない」「良い男がおるというのか?」「あ、はい。ひのえが事なら命を掛けましょ...白峰大神・21白蛇抄第3話

  • 白峰大神・22 白蛇抄第3話

    正眼の仕事が一つ増えた。さそくに、家に帰ってひのえを呼ばわる。「ひのえ」「はい」「わしも断れなんだわ」「やはり・・・」「そう。思うておったか?」「はい」「ならばいうが。おまけにひのえが良いと言うたら婚儀を許すと言うた」「え?」「あれは、どうにもならん。いっそ、共に死んでやれ」「父上?」「と、言いたくなるほど深い思いじゃ。後はお前が断りたければ、断われ」「あ」詰まる所、父は白銅との縁組を望んでいると言う事であった。正眼はちらりとひのえの顔を見た。厭ではないらしいの。そう見える。後は、白銅が胸中で封じている事で、通り越しができる勝算があるのだろう。それに委ねてみよう。と、思うと自室に引篭もった。「あふりが無いか」呟いた正眼は直ぐに白峰が、そんな落ち度をする訳が無いとおもう。齢千年を生き長らえた蛇神がそんな落ち...白峰大神・22白蛇抄第3話

  • 白峰大神・23 白蛇抄第3話

    かのとは生気の戻った正眼の顔を見ながら「が、まだまだすることがあります。先ずは産所を考えてやらねばなりませぬ。私の所では白峰が邪魔だてしてきましょう。龍が子孫には深き因縁が御座います故。八葉が所はどうかと思うております」「ここでは?」「男手で産ますのですか?白峰は杉を切らせております。産所を建てさす算段でございましょう。さすれば、白峰が我が手で取り上ぐると言いましょう」「ふむ」「八葉なら、ひのえには母のようなもの。そう言えば、白峰も厭とは言いますまい。白峰の聖域に入り足れば白銅も行く事も叶いませぬ」「それ・・・では」正眼は、又、白峰の所にその事をひのえをして伝えに行かせねばならない事を考えている。産屋まで立てさす白峰に負けて今度こそ、ひのえが帰って来ぬのではないかと、思う。よしんば、帰って来るとしても、只...白峰大神・23白蛇抄第3話

  • 白峰大神・24 白蛇抄第3話

    冬の朝。八葉のくどには湯を沸かす白い靄が立ち込めている。「やはり、産湯を遣わすのであろうな」独り言を呟いている所に白銅が来た。「ああ、聞いておりますに。先程聞かされて驚きましたが、何、それが一番よう御座います」戸の影に白銅を座らせると「出でくればお声を掛けますに、よろしゅうに・・・」と、言うと、部屋に入って行った。「うむ」子蛇を討つことをかのとはこの朝になって、陣痛が来たのを知らせに来た八葉に告げた。「御前様はてつないに来ないのかや」「はい。行く所が御座います」「気を付けて」引き詰った顔のかのとの様子で何事かを察したのであろう。八葉は、家に戻って行った。かのとはそのまま白峰神社に上がって行った。白峰は冬の寒さで身体が思うように動き難くなっている。死期も近い。思った通り結界ももろかった。ずううと、奥に入ると...白峰大神・24白蛇抄第3話

  • 白峰大神・終 白蛇抄第3話

    一人、己の発した言葉を聞くと、かのとは静かに頭を垂れた。命を断たれた者への鎮魂を呟くとかのとは社を後にした。誰もすむ者のなくなる社殿の新しさがひどく目に痛かった。ひのえの腹より、ま白な小さな蛇の姿が現れると八葉は白銅を呼んだ。産まれたばかりの子蛇は、もう、小さな赤い舌を出して外の空気を嗅ぎ取る様にひららと蠢かした。己の生を確かめる様にずうううとくねるとするりと身体を動かしてみた。そしてじっと、動きを止めた。やがて鎌首を擡げて上を見るとその赤い目が白銅の姿を捉えた。白銅の手に持った草薙の剣で、ひのえは白胴がここに現れた理由を悟ると、「白銅。どうぞ。見逃がしてやって下さりませ」と、大声で叫んだ。その声に子蛇はひのえを振向いた。じいいと、ひのえを見ていた小さな頭がもう、一度白銅の方に向けられると、軽く頭が上に上...白峰大神・終白蛇抄第3話

  • 懐の銭・・・1

    いつまでも、のんだくれていたって、しょうがねえ。そうは、おもうものの、つい、酒に手が出る。酒に手がでらりゃ、がんらい、気の小さい男だから、なおさら、からいばりでつっぱしってしまう。「つけがたまってんだよ」女将のいやな小言も今日は平気でききながせる。「なに、いってやがんでえ、ほらよ」懐からさっきかせいだばかりのばくち銭をとりだすと、女将になげわたす。「ふ~~ん」女将はしたり顔でうなづく。「なんだよ・・」「いやあ、別にさ。はらってもらえるんだから、文句はいえないんだけどさ・・」「なんだよ・・」言い含めたい事があるのは、女将の顔つきでわかる。「あんたさ・・もう、そろそろ、まっとうに銭をかせがないとたいへんなことになっちまうよ。元々、いい腕してたんだもの、そのまま、ねむらしちゃああんたがおしい。それにさ、あんた、...懐の銭・・・1

  • 懐の銭・・・2

    そして、次の日になれば、男は賭場のあがりを懐にのみに来る。ちょいと、いい目がでたものだから、たんまり懐が厚い。傍目のうろんの目が逆に男の心を逆なでする。けばだった心をなでおろすかのように、男は懐の銭をはたく。「ええ、たんまり、のませてやってくれよ。つけ払いだなんて、けちなことはいいやしない」つれてきたか、さそったか、たかられているのか、三人ばかりの風采の悪い男が男を取り囲む。「いやあ、ごちになりますよ」「しかし、まあ、あの賽の目のよみよう・・神技としかいいようがねえ」「ここはおやっさんの、これかい?」小指をたててみせた男の言葉にてんでかってをいっていた男たちが一様にだまりこむと、女将を上から下までなめまわす。「へへっ・・・いい女じゃないですかあ」「賽の目も見る目があるけど、こっちも見る目ありで・・」女将の...懐の銭・・・2

  • 懐の銭・・・3

    こんなことがいつまでも続くはずがない。女将の思ったとおり、男の賽の目に狂いが生じ始めていた。今日はつけでたのむよと、殊勝な小声でたのむことが、ふえてきた。勝てば、いつもの与太者がついてくる。まけても、付けですますものだから、やはり与太者がついてくる。三度に一度の付け払いが五度に一度になりながらも「かったら、きれいにはらってるじゃねえか」が、男の言い分だったが、男一人でのんでるならまだしも、懐の銭をあてこんだ与太者があたりまえのように男にくっついてくる。はじめのしおらしい態度もとうにどこかにきえうせて、ひどいときには、男より先に店にきて、のみくいする。男の顔をみれば、口だけはかわいらしい。「さきにごちになってますよ」うむをいわせぬ強請りをいえるところが、よたものがよたものである由縁でしかない。席にすわりはじ...懐の銭・・・3

  • 懐の銭・・・4

    女将の覚悟は男の末路をおもうだけのものなら、簡単につけられたものかもしれない。どんな意地があるのかわからないが、自分の生き様が自分のままならずにどこで、おっちんでしまおうが、そりゃあ、自業自得、覚悟の上、男にゃあそれで本望かもしれない。だけど、修造の奴が、そのまま、ひきさがるわけがない。たとえ1文の銭だってかえせなきゃ、それで、大義名分ってものができる。借金をたてに、お里ちゃんをかたにとって、女郎屋にうっぱらって、甘い汁を吸おうってのがはじめからの目論見に違いないんだ。だから、男に賭場銭をかして、最初はいいめをみせて、そのうち負けがこんでくれば、愛想のよいしなをつくって、また賭場銭をかしてやる。かてば、男も律儀なもんだ。しっかり、賭場銭は返す。そして、しばらくすりゃあ、また、負けがこむ。賭場銭を貸し与える...懐の銭・・・4

  • 懐の銭・・・5

    ちょいと、早すぎる刻限だとおもいながら、女将は白銀町まで足をのばした。どうせ、まゆつば。酔客の戯言をまにうけるなんざ、いかに商いなれしてないか、自分のおぼこさぶりをまんまみせつけられるだけになるだろうと思いはする。だけど、ひょっとして、ひょっとすると、本当に白銀町の大橋屋の隠居なるものかもしれない。ちょいと、眉のつばがかわかないうちに、ほんのちょっと、たしかめてみたって、かまわないじゃないかとも思う。だから、無駄足にならないために、店の仕入れに足をのばすだけにした。そうすりゃ、酔客のたわごとだったとしても、たばかれた気分をあじあわずにはすもう。そんな理由で女将は朝早くから、白銀町の乾物屋をのぞきこんでいる。「大橋屋?なんだい?ご隠居をたずねなさるのか」乾物屋の親父は一元の客にも愛想がよい。「いえ、そうじゃ...懐の銭・・・5

  • 懐の銭・・・6

    ここだねと大橋屋の前にたちどまってみたものの、思案六法、なんと言って入っていけばいいんだろう。ちょっと考えあぐねて、暖簾のすきまから中をのぞいてみたものだから、店の中の人間と目があってしまった。ばつの悪さを笑みでごまかしてちょいと頭をさげたのが、よけいいけなかったんだろう。店の中の目をあわせた男がのれんをわけて、女将の前によってきていた。こうなればしかたがない。「あのう・・」男は40がらみ。乾物屋のいう息子なるものか、はたまた、手代か番頭か?女将の言葉がつまったままをながめていた男だったが、はたして、その口から出てきた言葉が女将を安堵させることになる。「人違いでしたらもうしわけございませんが、もしや、お多福の女将さんではございませんでしょうか?」女将はその言葉が何を表すか、すでにさとっていた。「さようでご...懐の銭・・・6

  • 懐の銭・・・7

    「事のおこりなんてのは、実にたあいのないもんでしかない。だけど、どういうんだろうねえ。性格が禍するというかなあ」丁稚が茶をもってくると、隠居は煙管に煙草をつめはじめた。たてとおしにしゃべってしまいたくないと隠居の指先が煙草をほぐしゆっくりと火打ちをはじめる。白煙をすっぱり吸うとまあ、あんたも一服と茶を促す。湯飲みの端に口をつけながら、隠居を伺うとわずか、ぼんやり遠くをみつめる目つきになる。それは、どういう風に話そうかをかんがえているようにもみえた。「あんたが、いってたよねえ。殿中ご用達ってね。事のおこりはそれだよ。うちのご領主ってのは、まあ、質実剛健っていうんだろう。きらびやかに見栄えがいいものだけじゃなくてなあ、実用性ってのを慮られる。何軒かの棟梁をよんで、その腕を評するのでも、本当に良いものを私らの生...懐の銭・・・7

  • 懐の銭・・・8

    女将が大橋屋からかえってきてから、その心境は複雑なものになっていた。確かに修造においつめられて、煮え湯をのまされれば、男の目がさめるだろう。だけど、その己の馬鹿さかげんにどんなにうちのめされるか。今の女将はその機会がめぐってくるほうがよいと考えている・・だろうか?できれば、そんなみじめな思いをくぐりぬけずに、賭場通いをやめてくれればよい。そんな風に考えていた女将だったが、その考え自体すでに甘い了見でしかなかったとしらされることになる。賭場通いをやめたら、それで、すむなんてものじゃない。人の暮らしをつぶしてでも、甘い汁をすするのは、女将だって同じだと自分せめさいなんだように、修造だって、覚悟の上で人を落としこんでたっきの道にしている。女将はいくばくか、自分を責めてみたが、修造はそんなあまっちょろい罪悪感なん...懐の銭・・・8

  • 懐の銭・・・9

    「そりゃあ、確かに付けってものに、いちいち、証文をかいてもらうわけにはいきませんけどね。取立てをするには、順序ってのものがあって、まず、いくらのつけがございます、って、おしらせして、いついつまでにはらってくださいって、きちんと話をもっていく・・」女将の話ぶりが男を庇うとみてとると、修造の若い衆は、やおら、袖をまくってみせた。二の腕に、波模様の刺青があるというのは、背中に背負うは昇竜か昇り鯉というところだろう。もちろん、若い衆が刺青をみせびらかすために二の腕をまくってみせたわけじゃない。女将の口を封じさせようとの脅しでしかない。有無をいわせぬ脅しにはいはいとへいつくばってしまっては、男を窮地からすくいだせない。「おや、この柄は昇竜かい?」と、女将はすっとぼけてみせた。女将のいちかばちかの捨て身の策でしかない...懐の銭・・・9

  • 懐の銭・・10

    女の平手打ちなど、たいしたものでもないのだろう。男はほほをさすりあげると、ひどく、悲しげな目つきで女将をみつめかえしていた。「俺は・・」なにかいいかけたが、男は黙った。「事情はきいたよ。文次郎親方がよかれと思ってしたことが、かえって仇になっちまったってね。でも、あたしは、あんたが、文次郎親方をどういうふうに誤解してるかを懇切丁寧にはなそうなんて、おもっちゃいないよ。ただね、あんたの生き方、あんたの弱さにむしょうに腹がたつんだ。いいかい、自分の娘が身売りされるかどうかって瀬戸際なんだよ。あんたの意固地をとおしている場合じゃないだろう?親ならね、文次郎親方に頭をさげてわびをいれて、金を算段してもらえないかって、いうのが本当じゃないか?そういう親らしくない心立てが、あんたの弱さだ。文次郎親方に子飼いの時からしこ...懐の銭・・10

  • 懐の銭・・21

    有難うございますと何度も頭を下げる池の男、いや、桔梗屋の手代にさあ、さっさと、銭をもっていけと男がいうと、「どこのどなた様か、お名前とお住まいをおきかせください」と、尋ねられる。「まあ、いいってことよ。俺もわすれてなきゃあ、節季にでもちょいと、顔をだすから、銭がありゃあ、ちっと、かえしてくれりゃあいい」はなから、かえせる金がさじゃないんだ。へたにかえさねばといらぬ心労をもちゃあ、この男のことだ身体をめがしちまう。あくまでも、どうでも良い金であるふりを繕うと男は笑った。「あんまし、遅くなるとな、かかあの奴が悋気をおこしやがる。刀が売れたんで、色里にいっちまったにちがいないってな。だから、おりゃあ、もう、けえるぜ」言い捨てると男は池をあとにした。もうふりかえることなく、峠をめざし、のぼりきってしまわないと、桔...懐の銭・・21

  • 懐の銭・・22

    「けえったぞ・・」声をかけてみても、家の中はしずまりかえっている。かかぁの奴は洗濯女だ。また、宗右衛門町にいってるに違いない。ため息がでる。お里に告げることもつらいが、、お木与の落胆を想うと・・。戸口をあけて、中にはいると座敷の淵に腰をかけた。お里は手のいい針子になった。大店からあつらえがくるようになっていたから、できあがったものを届けにいっているのだろう。その腕もなんの役にもたたなくなる。伝い落ちる涙をぬぐうと、宣告の刻がいっとき、引き伸ばされたにすぎない今をただ、うすらぼんやりとすごすだけになる。なにも考えたくない。と、想うのに、ちいさな頃のお里がうかぶ。手まりをわたしてやったら、そいつをしっかり胸に抱いて、寝るときも、布団のなかに抱いてねやがった。お里には、なぁんにも良い目をみせてやれず、あげく・・...懐の銭・・22

  • 懐の銭・・23

    自分がかたにとられるとしっても、それでもまだ、親の心配をするお里にそこだけは、はなしてやりたかった。せめても、借金のかたでなく、人助けになったんだと、それが、せめてもの・・お里への慰めになるか・・もしれない。「いいや・・なくしたんじゃねえんだ。おとっつあんがな、銭を懐にいれてな・・大池の道すじをかえってきたらな・・桔梗屋の手代がな、池にとびこもうとしてたんだ。ききゃあ、呉服屋からの払いの金をぬすまれちまった・・って・・言うからよぉ・・」「おとっつあん?それで、桔梗屋の清吉さんに金をわたしてやったんだ?」「ああ」と、返事をすると、お里の顔がやわらいでみえた。「ああ。おとっつあん、そりゃあ、いいことをしてあげなすったんだ」お里が顔色がかすかに微笑みをうかべているようにみえた。「ああ。ああ。そうだよ。あたしは死...懐の銭・・23

  • 懐の銭・・終

    男の目の中でお里が涙をこらえていた。男がお里をみつめるあまりに、お里は精一杯、気丈にふるまうしかないのかもしれない。泣くことさえ、儘にさせてやれねえのか。男はそっと、立ち上がって家の外にしばらく、でていようとお里に背をむけ、戸口にむかいかけた。その時、男の背中でお里がわっと声をあげた。堰をきったお里の泣き声がもれてくる・・・耳を塞いでしまいたい思いをこらえ、男はその場に立ち尽くすしかなかった。ところが、案に相違して、お里の声がすっとんきょうに男の背を叩いた。「お?お・・おとっつあん、これ?これ?なんだろう」あまりにも吃驚すぎた声音に男はお里をふりむいた。お里の手の上で、ふくさが開かれ、開かれたふくさの上に、三封の包みがあった。「え?」30両に違いない。狐につままれたおももちで、男は30両をみつめていた。「...懐の銭・・終

  • -ジンクスー 1

    「3年っていうだろ・・」やってきたハロルドはボーマンの顔をみるなりそういう。ボーマンはじろりとにらみすえると本音のままを口に出す。「俺はおまえが嫌いなんだ。なにが、一番、嫌いかっていったら、そういうジンクスを引っ張り出してきてそいつのせいにするってとこだ。ていのいい、言い訳で自分を慰めてるような男はくずだ」「おいおい、ひさしぶりにたずねてきたっていうのに、いきなりそれかよ?」ボーマンのつっけんどんはいつものこと、馴れてはいるがあっさり、ボーマンに話そうと思っていたことをみぬかれてしまい、ご丁寧に出鼻をくじかれるとハロルドも話の糸口をつかめなくなる。「で、なんだよ?そのジンクスがあたっていたって、俺にわざわざ、報告しにきただけじゃないだろう?」そう、口ではしっちゃかめっちゃかにいわれるけど、ボーマンはハロル...-ジンクスー1

  • -ジンクスー 2

    『はああ?』ボーマンはボーマンで、「呆れた思い」がまんま口からとびださないようにすることと、顔色を変えないでおくのに必死だったったうえに、胸の中は煮えたぎっている。我ながらポーカーフェイスをよくつくれるとも、ぶんなぐってしまいそうな手をおさえるのも上出来だとも、おもいながら、ボーマンはリサの胸中を思っていた。「で、それ、もう、リサに話したのかよ?」「いや・・」ハロルドが小さく首を振った不幸中の幸いっていえるかどうかわからないが、まだ、リサになにもはなしてないってことは、ケイトって女からハロルドを引き離せるチャンスが残っているってことかもしれない。「おまえさあ・・リサとも長い春だったわけじゃんか・・。その間あっちにふらふら、こっちにふらふらしながら、結局、続いてたのはリサだけだった。まあ、俺から見れば続けて...-ジンクスー2

  • -ジンクスー 3

    ーなにが、可愛いケイトだよ。ようは、ケイトって女のレベルがひくいだけじゃねえかよ。お前で慰められるような、程度・・ってことじゃねえかよ。え?リサが一人でやっていける?馬鹿いうな。だったら、おまえなんかと結婚するかよ。リサだって、おまえに頼りたいし、あまえたいにきまってるじゃねえかよ。なのに、おまえのほうがリサにあまえちまってる。だから、リサは気丈に自分をこらえていってるだけじゃねえかよ。そんなことさえ、判らない男にリサが甘えられるか?必死で自分をささえてるんじゃないか?ハロルドをわずらわせちゃいけない。心配かけちゃいけない。いやな話を聞かせちゃいけない。どんなにか、さびしいか・・だけど、それをほかの男にぶつけたり、ほかの男にもとめちゃいけないってリサはわかっている。受け止められないハロルドだとしても、ぶつ...-ジンクスー3

  • -ジンクスー 4

    「どちらさま?」どうも、相手の顔が見えないのはやりにくいもんだけど、ボーマンはホーンに向かって「俺だよ」って、言ってしまってから気がついた。判るわけねえなってさ。あわてて、ボーマンだってつけたそうとおもったら、ホーンの向こうのリサがボーマンの声をおぼえていたらしい。「ボーマン?」確認するためか、小走りに玄関にむかう音がきこえ、まもなしにドアが開いた。「よお・・。ひさしぶり・・よく、俺だってわかったな・・」ドアを開いてくれたリサの顔をまじまじのぞきこむ。「ボーマンくらいでしょ・・ハロルドの友達っていったら・・」リサはなにか、感ずいてるってことだろう。ハロルドがボーマンのところに相談しにいったから、ボーマンが尋ねてきたと察しがついてるっていうことだ。「だな。いいか?」中に入ってもいいかって尋ねるのもハロルドは...-ジンクスー4

  • -ジンクスー 5

    「問題はそこさ。俺はその言葉どおりの意味にしか、考えてなかった。だけどな、ハロルドが言ってる意味は違う。お前はハロルドが居なくても、一人になってもハロルドを思いながら生きていかれる女だって意味さ。多分な、今の女はハロルドがいなくなったら、ほかの男をさがす。だけど、お前はほうっておいても、ハロルドを思ってる。ほかの男にとられるかもしれない。ほかの男にひかれるかもしれない。そういう心配をしないでおける女はもう手放したってかまわないわけさ。ほうっておいたって、お前はハロルドのものでしかない。ハロルドはそこに安心しきっている。そして、ほかの男じゃだめな、お前を熟知してる。だから、お前がほかの男にたよったり、よりかかることはない。そういう風におまえのことをなめてんだよ」「そ・・そんなことないわよ・・・・。ううん・・...-ジンクスー5

  • -ジンクスー 6

    「なんだよな・・俺がおまえをかまってやれたらいいなって俺はおもってる。だけどな、俺にはニーネがいるから・・だから・・どうにもしてやれないけど、俺だって充分おまえをかまいたい男のひとりなんだぜ」場合によっては、不謹慎なくどき文句かもしれない。だけど、リサはボーマンの言葉に光をみた。それは、「俺だって充分おまえをかまいたい男のひとりなんだぜ」って、ところでなく、「俺がおまえをかまってやれたらいいなって俺はおもってる。だけどな、俺にはニーネがいるから・・」と、いう言葉からだった。リサは行動と思いをひとつにしようと、自分を縛っていたと思う。ボーマンの言う「ニーネがいるから」はリサの言う「ハロルドしかいない」とは、全然質が違う。ボーマンがいう、ほかの男に頼ってもいいということは、ボーマンの科白でいえば、「俺がおまえ...-ジンクスー6

  • -ジンクスー 7

    夕食をたべおえて、もう、いい頃だなとボーマンは店の鍵を落とす。まあ、こんな遅くに調剤を頼みに来る客なんてこないのだけど、それでも、ボーマンは8時までは店をあけておく。8時閉店をまちかねるかのように、電話がはいってきた。案の定、ハロルドだ。「俺だけどさ・・」「なんだよ?」逢ってもなかなか本題をいいださないやつだけど、電話でも同じだ。「今から・・いっていいか?」「かまわねえけど・・」ボーマンの返事の続きを聞かないうちにあわてて電話を切るハロルドが今、どういう状態かボーマンには手にとるようにわかる。ケイトのところにも、泊まれなくなってしまった。リサのところにかえるしかないが、ボーマンがもう、離婚手続きをすませてるのなら、リサのところにも帰れない。行く当てがなくなっちまったハロルドはボーマンの店先にでも仮眠するし...-ジンクスー7

  • -ジンクスー 8

    「なんだって?もっと、おおきな声でしゃべれよ。まあ、おまえら、長かったから、愁嘆場になりゃしねえかと心配してたんだけどさ。ちっと、あっけなさすぎたけどさ、まあ、良かったよな。なあ、ハロルド。これで、ケイトも納得してくれるんじゃねえかな?早く帰って、ご機嫌なおしてもらえよ・・」ボーマンのくったくないエールは今のハロルドにはあまりにも、痛かった。「ボーマン・・・」一言つぶやいたかと思ったらハロルドはテーブルにつっぷして、大声で泣き始めた。「俺は・・ばかだよう・・・」そうそう、その通り。そこを自覚してもらわなきゃはじまんねえ。「なにもかもなくしてから・・きがつく・おおばかだ・・」やっと、本当のことをもらしやがったな。ボーマンはハロルドの頭の上から声をかけた。「いいかげん。見栄をはってないで、さらけだしちまったら...-ジンクスー8

  • -ジンクスー 9

    「のぼせ上がっていたって、頭、が~~んってなぐられた気がしたよ。目の前、まっくらになって、俺、どうしようって・・どこにいけばいいんだって・・たった今から、もうケイトのとこにいるわけにいかない・・寝るところもない・・ホテル暮らしなんかした日にゃ、金がいくらあってもたりない。で、俺はずるいと思ったよ。でも、ケイトにいわれて、俺も目がさめた。リサのところにかえるべきだよなって・・。リサは俺を赦してくれるかなって思いとさ、いまさらどのつらさげて、のこのこ、帰れるかってのとさ、リサはまっていてくれるって、俺は心のどこかで計算してたなって・・でも、そんなこともなにもかも、さらけだして、リサの気持ちに甘えちまおうって、まだ、あまっちょろい考えで・・・ここにきた・・」両手で顔を覆い、涙をぬぐいとると、ハロルドはかすかに笑...-ジンクスー9

  • -ジンクスー 10

    おそらく、リサのところへいったんだろう。玄関先でリサに頭をさげ、それこそ土下座をしてでもわびているかもしれない。そのハロルドを、リサがどうするか、もう、その先はリサの問題でしかない。リサに書類を届けに行った日。最後にリサはボーマンの胸の中で思いっきり泣いた。そして、泣き終えるとボーマンに告げたっけ。「私、ハロルドに自分の理想を求めていたと思う。こうあってほしいハロルドになれるハロルドだって、ずっと、偶像のハロルドを好きでいたんだと思う。ボーマンの言うとおり、ハロルド教の信者よ。でも、もう、偶像崇拝はやめる。そして、ありのままのハロルドと向かい合ってみる」それで、どうするか、自分の気持ちが見えてくるだろう。リサは、ひとつ、ステップをあがったなって、ボーマンは思った。本当に必要なのは相手をそのまま、うけとめら...-ジンクスー10

  • オオナモチとぬながわひめ 奴奈宣破姫・・1

    やってきた男は・・。自分をおおなもち、だと名乗った。多くの名を持つ男だという。それは、また、多くの国をおさめている証である。「出雲では、なんとよばれていることでしょう」女、奴奈宣破姫の問いに男はにまりと笑ったように見えた。「ここでの名前があればよろしいでしょう」すなわち、この国もおおなもちが治めるということであり、奴奈宣破姫、自らが統括する国の首長になるということは、奴奈宣破姫に男との因を結べという意味になる。身の丈、5尺2寸。どちらかというと背は低い。だが、盛り上がった肩と厚い胸板が男を屈強の士にみせていた。オオナモチとぬながわひめ奴奈宣破姫・・1

  • 日食を操るアマテラス 奴奈宣破姫・・2

    ーと、いうことは・・・ースサノオの、思ったとおりだった。あの日、アマテラスは、機を逃さなかっただけにすぎない。日食を予測し、アマテラスは、祠にこもった。まもなしに日食がはじまり、アマテラスが祠にこもったせいだと周りのものは、騒ぎ立てる。ー確固たる、君臨と、人心の統治ーあるいは、目くらましにすぎない。ー本当の君臨は、民の生活に根をおろすーとにかくは、人々の生活を豊かにしてやらねばならない。たたら製鉄のため、良質の砂鉄を求め、スサノオは各地を平定していった。更迭の見返りに、治水・製鉄技術・医術・鍛冶・・あらゆる技術が伝承され、どこの部族も、スサノオの行為を侵略とは、受け止めていなかった。むしろ、神のごとく、あがめ祀られた。ーだが、ぬながわひめ・・・・・-アマテラスのもちだした太陽神信仰は、脅威だった。翡翠の霊...日食を操るアマテラス奴奈宣破姫・・2

  • あおによし・・から・・ 奴奈宣破姫・・3

    「根の国をおさめよ」そういわれたスサノオを思う。根の国・・・。この世に存在しない黄泉の国をおさめよとは、ひいては、死ねという事でしかない。憤怒がそのまま、声になる。「いかほどに・・。ならば、根の国にどういけばよろしいですかな」スサノオはたっぷりの皮肉で応戦したはずだった。炒った豆から芽が出ぬようにひねった鶏が朝を告げないようにスサノオがいきながらえたまま、どうやって、黄泉の国へいけようか?スサノオの問いに用意される答えがまさか愛馬の死姿とは思いもしなかった。話し合いがものわかれのまま、スサノオは席をたった。扉の向こうに馬をつないである。それにまたがり、球磨をめざすか、出雲をめざすか、いずれ、どちらをさきにとて・・・。軽い失笑の笑みが瞬時、こわばる無残が目の前に広がっていた。丸裸に皮をはがれた馬がもがきくる...あおによし・・から・・奴奈宣破姫・・3

  • オオナモチへの進言 奴奈宣破姫・・4

    ー行くが良いー義父、スサノオの言葉にオオナモチは、目を見開いた。ーそれは・・・つまり・・-多くは語るまいと、スサノオは、懐に手をくむと、黙ってうなづいてみせた。ー確かに・・・-今、スサノオの娘である、すせり姫の私心をはばかっている時ではない。間違いなく、アマテラスは、奴奈川一帯を掌握する。ぬながわひめが、翡翠により、民の信頼と崇拝を集めていることがアマテラスには、一番目障りである。ただの掌握でおさまらない。アマテラスは人心を掌握できないのなら、ぬながわひめごと、それを信奉する存在をにぎりつぶそうとするだろう。ひいては、スサノオとオオナモチへのアマテラスの対処をぬながわひめにあてはめたにすぎない。いずれ、動き出すだろう、アマテラスの動きを一時、延ばすだけの布石にしかならないかもしれない。ー出来うる限り早く、...オオナモチへの進言奴奈宣破姫・・4

  • 美穂須々美の岐路 奴奈宣破姫・・5

    「つまるところ、翡翠の呪力は、太陽信仰に勝てないとおっしゃるわけですか?」ぬながわひめの苦渋を思い量り大国主命は返事を濁した。「精神力の問題であるとおもいます」精神力とは、術を使うものの能力をいうのではない。民衆の信仰心をさす。大きな根源力が、術者の能力を増幅させる。仮に成らぬ予測であっても、根源力が集結すれば、ならぬ筈のものが成る。「アマテラスのほうが、民の心をつかんでいるということですか?」やむなく、大国主命はうなずくしかなかった。「せんだっての、日食に、乗じたのです」「・・・・・・」翡翠の呪力による、宣命より、如実な現象が目の前で起きたのだ。アマテラスに対する反逆心をもってしても、否定できない太陽神とアマテラスの合一は、民の心に可逆的な畏れを抱かせる。「それでは、私は・・・」ー貴女を信奉するものの墓...美穂須々美の岐路奴奈宣破姫・・5

  • 奴奈川姫の御子「建御名方命」 奴奈宣破姫・・6

    ぬながわひめが出雲にいったあと、建御名方命がぬながわひめにかわり、奴奈川いったいをおさめていた。翡翠の宣託をうけられぬ民衆は一抹の不安をだかえていたが、くわえて、おおなもちへの信頼も厚かったのであろう。出雲の立国がゆるまぬものになればよいと、身を呈しおおなもちにつきしたがい、出雲の地にでむいたぬながわひめの出雲への思いを解してもいた。そのぬながわひめが奴奈川にもどってきた。民、一族は巫である、ぬながわひめの帰還にわきかえった。しばらくは、安泰の日々が続いていた。が、それもつかの間、凶事を告げる使者がよせられてきた。「アマテラスが・・・」使者の言葉をただ、くりかえすだけになる。国をゆずれといった。夫、おおなもちの生死が、きにかかるが、それ以上に、三保の地に残した娘みほすすみがきにかかる。「おおなもちさまは、...奴奈川姫の御子「建御名方命」奴奈宣破姫・・6

  • 天に届く社 奴奈宣破姫・・7

    建御名方命に追討の命が下されたころには、すでに、スサノオもおおなもち(大国主命)も惨殺に処されていた。天にも届く社をたてるということが、出雲明け渡しの交換条件だったという。ーめくらましでしかないースサノオの諸国平定の中身といえばたたら製鉄の功、治水灌漑と諸国の民の生活の礎になった物事ばかりである。スサノオへの信頼はすでに、信奉の域にたっしていた。ーアマテラスめが・・・-なによりも、民衆の心を恐れたアマテラスはスサノオをほうむったことを隠し通そうときめた。また、スサノオという存在はアマテラスにとって、一番、邪魔な存在でもあった。殺さぬわけがない。だが、殺したともれてはいけない。だが、事実、アマテラスはスサノオを惨殺している。ー夫をスサノオのかわりにしたてあげたのだーー社をたてるを交換条件?強奪でなくゆずられ...天に届く社奴奈宣破姫・・7

  • 天津神の血筋 奴奈宣破姫・・8

    スサノオの命をうばいさると、アマテラスの軍勢が美穂の入り江におしよせ、アマテラス自ら美穂の住まいにずかずかとはいりこんだ。きりつめた顔に幼さがのこるみほすすみをみつけ、にらみすえた。そして、ふたつ、ならんだ千木の由縁におもいあたった。ひとつは、国津神の千木、すなわち地方豪族と解していい。おおなもちのことである。もうひとつは、天津神。すなわち、おおなもちは、天津神の系譜をもつ女御、姫と因を結び、そこに泰然と座る女をもうけたということになる。「名をなのるがよい」アマテラスに逆らえば命はないだろう。みほすすみはすでに覚悟をきめていた。名をなのろうが、なのるまいが、いずれ、殺される。が、敵に臆したところなどみせられぬと、みほすすみは凛と胸をはると「みほすすみ」と、だけ答えた。「ふうううむ」アマテラスにとって、スサ...天津神の血筋奴奈宣破姫・・8

  • にぎはやひ 奴奈宣破姫・・9

    「へさきに鏡をかかげよ」アマテラスの横暴に急遽かけつけたにぎはやひだったがすでに、時はおそく、スサノオはいわんや、おおなもちまでもが、死出の旅路についていた。いまは、ことしろぬしとみほすすみの住まいとなった美穂の社の目と鼻の先にある入り江にアマテラスひきいる兵が大挙していた。あまたの船に入り江にはいることもかなわぬとみたにぎはやひは、恭順のしるしになる神器のひとつ、辺津の鏡を船のへさきにとりつけさせた。まだ、ことしろぬしもみほすすみも無事であるかもしれない。アマテラスのうろこを逆撫でにしては、ならぬことであった。恭順といいかえてみたが、降伏にほかならない。にぎはやひにすれば、二度もの降伏である。兵にかこまれ、浜におりたてばそこにアマテラスがいた。「苦労であったな」かけつけてみたが、なんの役にもたたなかった...にぎはやひ奴奈宣破姫・・9

  • 真意 奴奈宣破姫・10

    「アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださるのですよ」おおなもちの願い?おおなもちがなにをねごうたのか、ことしろぬしの口からきかされるだろう。はたして「おおなもちは、天まで届く社をねがったのです。それは莫大な人力と時間がかかることでしょう。それでも、アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださる」ーなるほどーにぎはやひの胸にぬながわひめの推量とおなじ考えがわいていた。ーー天まで届く社を交換条件にだしたのはおおなもちにまちがいない。それほど、むごく、スサノオを惨殺したのだから、その怨念をしずめるに、天まで届くものにしなければおそろしいことになりますよとおおなもちは言下ににおわせたにちがいない。そして、後世、逆にその社の存在こそが、いかにスサノオをむごく死においやったかを語る。ーーーーおおなもちの...真意奴奈宣破姫・10

  • 誤算 奴奈宣破姫・11

    大きな岩を墓標にしたのは、簡単に墓をほりかえせぬようにしたともみえた。ーすると、ここにスサノオがねむっているのかー手をあわせ、スサノオにたずねてみたとて、返事などかえってくるわけがない。日御碕ちかく、平らな草原の真ん中にすえられた墓石に夕日がにじみだしてきていた。「おおなもちは・・?」スサノオの後をおったといってはいたが、別の場所で自害したということにしているのだろう。にぎはやひを案内させたアマテラスもまた、ともにやってきており、ともにスサノオの墓にぬかづいていた。「おおなもちは、天まで届く社のほうにうつしてやろうとおもうておる」ーえ?-「社はスサノオのためではないのか?」アマテラスは不思議な顔でにぎはやひをみつめた。「スサノオとともにということか?」にぎはやひは尋ねなおした。「いや」はっきりとアマテラス...誤算奴奈宣破姫・11

  • 邂逅 奴奈宣破姫・23

    何も答えられぬ男の横をすりぬけてにぎはやひは、やはり、ぬながわひめの元へ歩もうとする。「にぎはやひさま!」それでも、とめようとする男になにを言えばいいだろう。「のう、後世につたえたい。姫のお徳をきざみたいという心もわからぬではないがこの先、アマテラスがどうなるかもわからぬ。アマテラスのような男がまたもあらわれ、スサノオやおおなもちを粛清したようにアマテラスの名前なぞ、かきけされてしまうかもしれない。そのときに、おまえたちの望みがかなうものだろうか」男はうなだれたまま、にぎはやひにつぶやいた。「それでは、我らも犬死だということですか」むごいことかもしれないと思いながらにぎはやひは言葉を返した。「そのとおりだ。だからこそ、自分の思うとおりに生きるしかあるまい?」それは、男たちのことをいうのかにぎはやひ自身をい...邂逅奴奈宣破姫・23

  • 宣託 奴奈宣破姫・24

    静かに深く頭をさげる、その頭の前に二つの手がある。慇懃すぎる礼に、かける言葉をうしなう。「ありがとうございます」姫の声はいくぶんか、年をひろったかかぼそく、はりもない。ゆっくりと顔をあげる姫はにぎはやひに痛い。「くうておるのか」おもやつれしていっそう年老いてみえる。「おおなもちが悲しもうに」いわれずとも十分にわかっていることでしかない。だが、身体をいとうてくれる言葉に姫はまなじりをおさえた。「にぎはやひさまは息災で・・」「うむ」つげるべきか、つげぬべきか、迷いながらせめてもの、気持ちになる。「おおなもちに手をあわせてきたからの・・」誰にも供養されずにいるわけでないとせめて、それだけをつたえたかった。「はい・・・」おおなもちがどのように死んだか、聞こうとしないのはそのむごさをしりたくないせいにも、すでに、死...宣託奴奈宣破姫・24

  • 命 奴奈宣破姫・終

    口を結び、黙りこくり、もう3里もあるいたか。奴奈川の館をあとにして、来た道を戻るにぎはやひは、一言も発そうとしない。大和に戻る。それだけを言ったのは、もう何刻前のことだろう。・・・・・あのときのやるせない思いが今もにぎはやひに去来する。戻り道でアマテラスにでおうたら、その首、かっさばいてやると思うていた。それが、どういう戦法をとったか、アマテラスのアの字にもであわずなんなく、大和に帰り着いてしまった。なんのために、にぎはやひをおわぬか?奇妙でしかなかった。だが、半年もたたぬうちに奴奈川はアマテラスの軍勢にとりかこまれ決起せんとまちうけていたものが応戦しはじめぬながわひめは自らを戦いの場においた。ーいうてもきかぬ奴ばかりでとうとう、自ら指揮をとったか・・民を犬死にさせたくないと戦わざるを得なかった・・かー憐...命奴奈宣破姫・終

  • 思案六方

    間合いが詰められると、平助の胸先に木刀の先が止まる。平助のかまえはもうすでに後勢をしいている。原田をこれ以上近寄せ、切り込ませないための距離を保つためだけに木刀を構えている。だが、その体制から反撃に移る次の挙動がつかみとれない。護り一方になるしかないということは、相手の攻撃が読めないからだ。仮に攻撃が読めたとしても、それをかわすことができない。やっとうの腕が無い。致命的な欠点の上に、先が読めない。次の一刀をどうくりだせばよいかも頭で考えるしかない。ーこれでは、・・・間違いなく切り殺されるー敵は刀が体の一部になった、まさしく手熟れの士。ーこのままでは・・・まちがいなく・・・-脳裏の己の墓に線香がけぶる。己で己の結末がみえる平助であれば、新撰組にとってあしでまといになる自分でしかないとも判る。慟哭を禁じえない...思案六方

  • 日本丸

    届かなかった短筒を目の端にとめた竜馬の脳裏に慶喜の顔が浮ぶ。「この先の日本丸を・・・」大政奉還の進言に慶喜が返した言葉の一端であるとは、知らぬ渡辺篤であるが、その刃でついえた者の魂の所在の大きさが渡辺の胸をえぐった。とんでもない人物の命を奪い去った。その悔恨があとになるほど、深くなるとも知らない。竜馬の命が消え果て、わずか後、南州公の謀反とも思える暴挙である、西南戦争の時、渡辺篤の胸中に沸いたのはその時の竜馬の言葉であった。「この先の日本丸を・・・」渡辺の瞠目が開かれてももう、竜馬は居ない。この渡辺篤が竜馬をついえた。日本丸を思う誠の志士をこの渡辺がついえた。日本丸

  • あおによし・・

    「このくらい・・」唇をかみしめても、まだ、それでも噴出してくる悲しみと悔しさがある。太子は手をにぎりしめ、己の静観を待った。こんなときに、思い出すのは、いつも、スサノオとおおくにぬしのことである。「こんなものじゃない」己の苦しさをはかりくらべながら、太子は生き難さが角をたてないように、言い聞かせる。「根の国をおさめよ」そういわれたスサノオを思う。根の国・・・。この世に存在しない黄泉の国をおさめよとは、ひいては、死ねという事でしかない。憤怒がそのまま、声になる。「いかほどに・・。ならば、根の国にどういけばよろしいですかな」スサノオはたっぷりの皮肉で応戦したはずだった。炒った豆から芽が出ぬようにひねった鶏が朝を告げないようにスサノオがいきながらえたまま、どうやって、黄泉の国へいけようか?スサノオの問いに用意さ...あおによし・・

  • しずやしずしずのおだまきくりかえし

    怒りをあらわにする頼朝の袖をひいたのが、政子だった。「あなたもかように、ひかれて、いまにおわしましょう」おもえば、さんざんたるいきこしの袖をひいてきたのが、政子である。頼朝にとっての政子が静御膳にかさなってみえたとき、頼朝はその場所にもう一度すわりなおした。政子にとって、静御前の境遇はまた、己のものであった。血を血で洗い、義経をも、義経の子をも、この世からついえた。その繁茂のうえになりたった、政子と頼朝でしかない。泡沫か・・・。つぶやいた頼朝の胸にあの日の政子の姿がよみがえってきていた。政子だけが、頼朝の光明だった。義経の光明が頼朝に小さな光をともした。己が生きたことを照らし出す政子の姿と静御前の姿が潤む光のなかで、ひとつにかさなってみえた。しずやしずしずのおだまきくりかえし

  • 見えちまった。1

    「どうしたんだよ?」やってきた加奈子の顔色がいまいち、よくない。「ん・・・」生返事をしたあと、煙草をバックの中からひっぱりだす。「あん?」話せよと催促すると、「あんたこそ・・なんか、変だよ・・」って、いいかえしやがる。 俺も煙草をひっぱりだしてくる。「まあな・・・」俺のほうは現実問題じゃない。まあ、簡単に言えば、幽霊みたいなものだ。もちろん、俺にひっついてるわけじゃない。二次的にかぶってるといっていいかな。俺の呑み仲間だ。そいつのうしろにくっついてるやつが、俺と周波数があっちまうんだろう。やけに体がだるくて、そいつと呑むのもそうそうにひきあげてきたわけだが、まだ、すっきりしない。 こんな時はTVで映画でも見るか・・・ってなもんで、チャンネルをかえたところに加奈子から連絡がはいった。 で、先の科白さ。 あん...見えちまった。1

  • 見えちまった2

    「だいたいね。あたしもうかつだったわ。だけど、もっと、言葉をえらんでほしかったわ」いきなりの加奈子の電話にでたとたん、矢の様な文句が俺にふりそそいでくる。「なんだよ。わかるようにいえよ・・」かなり興奮気味の加奈子に俺は期待していない。ただ、おぼろげに加奈子のいいたいことがなにかわかるかもしれないって、それだけだった。「だからね、あたしと付き合いたいなら、ちゃんと、言葉を選んでくれればよかったのよ」此処で加奈子にさからっちゃ、面倒だと思うがいささか、おっかぶせた言い方がシャクにさわる。「俺がおまえにどういったってんだよ。それに、おまえのほうもまんざらじゃないから・・」付き合いだしたのはお互い様で、加奈子に泣き付いてー付き合ってーもらったわけじゃない。と俺はいいたかった。「そうじゃないのよ。あんたが、タッグく...見えちまった2

  • 見たくねえ・・よ。1 《見えちまった 3》

    理恵ちゃんの件でますます俺は加奈子にぞっこんになっちまったわけだけど、肝心の浩次と里美がまだ、修復できていない。加奈子もあんな性分だから、俺とのことも進展する気になれないってえか、妙に気がそぞろってとこだろう。俺は神様に祈るみてえに、浩次と里美がまるく納まることを願ってみた。そこに電話だ。だいたい、俺が加奈子のことを見直すきっかけになったのが、電話がはじまりなわけだけど、だいたい、いつもいつも、「怒りまくった加奈子」か「なにか気がかりがある加奈子」しか、電話口に現れない。 だから、俺はついつい、*加奈子*の名前をみながら、かまえてしまう。また、なにかあったのか?この俺の読みはまさに先見の明だったといえる。「剛司・・ちょっと、きてくれないかな?」な~~んか、声がやけに神妙。俺はさっき仕事から帰ってきたところ...見たくねえ・・よ。1《見えちまった3》

  • 見たくねえ・・よ。終《見えちまった 3》

    俺の疑問というか「すねお」を加奈子はまたもよみとったんだろう。「あのね・・あたしが、里美に言ったんだよ。相談にのったげるから、おいでってね」わざとえらそうな口調でいうのは、加奈子の優しさだ。頼りがいのある加奈子さんだから気にせず気楽にはなしなよ。って、わざとえらそうにいって、みせる。「だってねえ。あたしも約束したしぃ~~~~」里美が首をかしげた。「約束って?」うふふと笑うと加奈子は以下の科白だ。「里美と浩次がハッピーになったら、剛司とつきあってあげるって!!」おいおい、その言い方は俺が泣きついたみたいじゃないかよ。だけど、俺は判ってる。「だからね。剛司のためにも、まあ・・私の為にも・・貴方たちは幸せになる義務があるわけよ」自分たちだけの問題じゃないのよ。私たちの幸せもかかってるの。だから、頑張ってほしいの...見たくねえ・・よ。終《見えちまった3》

  • 葵・・・1それは、いつごろからだったろう。彼という存在がこれ以上無いというほど、重く大きな存在になったのは・・・・ミッシング無くして判るという言葉もあるが、私もそうだったと思っていた。長い時を重ね合わせ、人生の半分以上に彼の存在があった。それが、当たり前になりすぎていたといっていいかもしれない。ときめきやら激情が平らになってしまい私という小さな泉はただ、彼の姿をぼんやりと映していただけだったのだろう。ただ、彼が水を掬うのを待っていただけでもなかった。流れる雲やら生い茂る木立を揺らす風やら私は私で、彼以外の存在も十分に感じ取りながらこのまま生きていくことにかすかな疑問を感じ始めていた。けして、彼への気持ちがさめたわけでもなく別の人があらわれるなんてことも考えることすらなかった。あの日まで・・・・葵・・・2仕...葵

  • ー悪童丸ー 1 白蛇抄第2話

    政勝が城の門を潜ると、白河澄明(とうみょう)が居た。政勝に気が付くと、澄明はずううっと側に寄って来た。「妖かしの者なぞに情をかけて・・・かのと様と百日は交わりをなさらぬように」と、声を潜めた。政勝は内心澄明を疎んじている。陰陽師である事も一つであったが、かのととの婚礼の席で見せた澄明の目付き。かのとに寄せる想いが尋常のもので無い事が手に取る様に伝わってきた。故に、更に気に入らないのである。澄明に答えようとせず、政勝は引き結んだ口を更に、堅く閉めると澄明の横を黙って通り過ぎようとした。「なにとぞ、お忘れなき様に、心に御念じ下さいませ」政勝はそっぽ向くと、足を早めて通り過ぎた。『忌ま忌ましい。陰陽師風情とこんな所で顔を合わせるとは』出達の命が下り出向いた先で、あろうことか、政勝は蟷螂の化身に誑かされた。それを...ー悪童丸ー1白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 2 白蛇抄第2話

    主膳の沙汰を待って、報告をせねばならない。『しかし、何故、澄明が城へ?』訝気な陰陽師の存在などを、朝から見掛けるのも妙な事だった。詰め所に入り、どかりと座ると、櫻井が妙な顔つきで政勝を見ている。「如何した?浮かぬ顔だの?」「政勝殿・・」「いかがいたした?」「それが・・・」言い渋るが、櫻井の顔付きは、とても己が胸に留め置けそうもないと白状している。「話してしまえ。言わざるは、腹ふくるる業なり。古から伝わるとおり、櫻井。顔色が悪いわ」「実は、」宥めすかすように、櫻井の口を割らせてみると、――勢姫の寝所に夜な夜な男が忍んで来るのだという――「なんと?」幼い頃から、美貌を謳われた姫である。婚儀の話しもいくつか舞い込んで来ていたが、父親である主膳が如何しても、云、と言わないので、今以ってまだ嫁ぐ事無く齢を重ねている...ー悪童丸ー2白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 3 白蛇抄第2話

    「澄明様が?」櫻井の顔に微かな安堵が浮かんだ。澄明が動いたとなるなら間違いなく海老名は事の大事を殿に告げている。解決への糸口が開かれた事に櫻井はほっと胸を撫で下ろす様であった。「うむ、先程すれ違った。しかし、男のくせに妙になよけた感じがしてどうも、いけ好かない」「見た目はともかく陰陽の術では古の安部清明の右に出るかという程らしいです」「某は好かん。法術、加持、祈祷の類はあくまでも自力ではない。剣あってこそ加護がある。何らかの神に縋ってそれを己の力と過信して居るような輩は好かぬ」櫻井には澄明の法力が神の類に縋った物かどうかも判らない。仮に己の力による法力だとしても、そんな仮初の推量で政勝と論議するのもつまらぬ事だった。「とにかくはそれで姫の件が落着するならば、それはそれで良いではありませぬか」たしかに櫻井の...ー悪童丸ー3白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 4 白蛇抄第2話

    主膳に御目見えする様に言い伝えると政勝の来るのを待ち受けるようにして前を歩き出した。政勝が主膳の前に額ずくと「政勝、苦労であった。先ほど早馬がきて委任状の一件、万事承知仕りましたの花印だった。大儀であったの」労をねぎらう言葉を掛けた主膳の声が、止まると静かな調子で「ところで、政勝。先ほど、白河澄明との話の中でな・・・うむ」主膳は、そこまで言うとまたも押し黙った。やがて、意を決すると「実はの、勢姫の元に夜な夜な物の怪があらわれておる。それで澄明を呼んで見透かさせたのだが、その物の怪の正体は鬼であるというのだ」「えっ。はっ、鬼?と」櫻井から既に聞き及んでいた事であったが、その正体が鬼といわれると政勝も聞き直した。「衣意山に巣食っておる悪童丸とだけは、判ったのだが人に化身した姿を誰に映しているのか判らぬ。海老名...ー悪童丸ー4白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 5 白蛇抄第2話

    澄明が帰るのを見送るとかのとは膳を下げ、かた付けを始めだした。軽い酔いに政勝はごろりとその辺りに寝転がりながらかのとを見ていた。かぞえの十八。政勝と七つ、歳が離れている、気端がよく効いて、手先も器用だが、なによりも性がいい。明るい日溜りに居るように温かく和やかな女で、芯に強いものが見え隠れするのだが硬い感じを与えず、おとなしく政勝を慕ってくる。「かのと。澄明とは乳のと兄弟だったのか?」「あ、はい」膳をふき上げる手を休めずかのとは答えた。「そんな話は・・・」「だんな様にいつか澄明様の事を話しかけた時、陰陽師風情の話はするな。と、あの・・・」「私がかのとを叱った、と、いうわけか」「あ。はい」政勝は、そんな事などすっかり忘れている。今、考えても定かな記憶がない。だが、有り得る話しであった。「すまなかった」「あ、...ー悪童丸ー5白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 6 白蛇抄第2話

    城へ入ると本丸の前の広い庭に緋毛氈が敷き詰められ男衆は、かがり火を焚く為の薪を運び、要所要所に要具を立てこんでいた。女たちは蔵から取り出した膳を柔らかな布で拭き込んでは台所に運び込んでいる。器も加賀の金箔をあしらった漆黒の上等な品である。それを、横目で眺めながら政勝は庭を突っ切ると海老名と何か話しこんでいる澄明の元に向かった。政勝に気がつくと澄明の方も歩み寄ってきた。「思ったとおりです」澄明はくぐもった顔で政勝に「無駄かもしれませぬ。いえ、無駄でしょう」と、言う。政勝にはさっぱり道理が得ない。「とにかくは映し身が誰であるか判らぬと、鬼がきたのも知らぬ存ぜぬでは相すむまい」「そうですね」澄明は深い溜息を付く。「いったい、何だ?」だが、澄明は尋ねられたため息のわけをすぐには語ろうとはしなかった。「いずれ」澄明...ー悪童丸ー6白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 7 白蛇抄第2話

    宴の席からそっと抜け出て自室に戻り臥せりこむ海老名の元に勢姫がやってきた。「気分がすぐれませぬので」そう、言い分けをしながら海老名が起き上がると勢姫が詰め寄った。「何ゆえ、父上に話しやった。父上が勢を見る目が違いおる。おまけに澄明までよんで」「姫様。なにとぞ、御許しを。海老名も姫様の身を案ずるが故。悪童丸様の事はなにも話しておりませぬ。されど、姫」「言わぬでよい」「姫。なりませぬ。成ってはならないのです」「悪童丸が鬼故か?」そうである。が、それだけではない。「・・・」いえぬ言葉を出せるわけも無く海老名が黙る。「海老名。勢ははじめ鬼を恋しと思うは母の鬼恋の情念が勢につがれたものじゃとおもうておった」勢は主膳に嫁ぐ前のかなえの恋を知っていた。「あ」「だから、姫も鬼である」だから、という言葉の意味合いの深さは海...ー悪童丸ー7白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 8 白蛇抄第2話

    十日を過ぐる頃。使者が来た。思った通り三条からの勢姫との婚儀の申込みであった。主膳の腹は当に定まっていた。このまま勢姫を鬼の陵辱に晒しておくぐらいなら、三条の元に嫁がせた方が良いに決っている。婚姻の因を結べば悪童丸ももう、勢姫の元に現れる事は叶わなくなる。揺るがせない産土神の神前での契りを立てれば守護を得られる。主膳は惟、一つの気懸りを振り払うと墨書をしたため始めた。若し、勢姫が悪童丸の子を孕んでいたら産土の神は子の護り神でもある。悪童丸の因を封じ込める事は、おろか、父親か夫君かどちらに守護を与えることになるかさえ判らない。つまり、子を孕んでいれば契りは無かったに等しい事になる。が、哀れな親は一縷の望みに掛けて見るしかない。婚姻の儀を承知する由を書くと一刻も早く勢姫を娶る様に書こうにもその由縁をどうするか...ー悪童丸ー8白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 9 白蛇抄第2話

    「何を考えおる」「政勝殿・・・」「厭な相手におうたような顔をするな」「あ、いえ」政勝の問題もある。主膳の為にも、なんとしても鬼を討ちたいのが、この政勝である。が、この半月、手のうちようがなくてこれといった事一つも出来ずにいるのに痺れを切らし、「叩ききる」凄まじい形相でいうのを説き伏せた。叩ききるのも容易な事ではないが、政勝の腕なら澄明が先んじて縁者の印を唱えればその首を刎ねられる。その後は、胴と繋がる事はない。血の一滴残らず出しつくすを待って神酒をしませた塩にその首を付け込めば三十日は生き長らえるだろうが、それで悪童丸の命は果てる。が、勢姫の本意も、勢姫が鬼であることも判っている澄明である。勢姫が悪童丸を己の為に討たれて今更に、三条の所へ行く訳がない。かなえのように、その身を儚んで命を絶つやもしれぬし、何...ー悪童丸ー9白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 10 白蛇抄第2話

    さすがに鬼もその日は現れなかった。八日を過ぎた。「いつまで、こうしている?」「弥生ひいなの祭りまで。が、このまま、悪童丸が現れないわけがありませぬ」「元より、承知の上じゃ」「討っては成りませぬぞ、追い払うだけ、心に念じ下さりませ」「う、」「ご返事を?」「あい判った」三条の姿と見破られておれば昼最中には、現れぬという澄明の読みを信じて、昼になると、うつらうつらと眠り、この八日の間、昼と夜が逆転しているが、寝ずの番にさすがに二人が、うとうとと眠り込んだ。はっとして目を覚ましたのは、姫のやんごとなき声が漏れているのを、夢、現で聞いたからである。澄明を揺り起こして見れば政勝の気配ですぐに感じ取ったのであろう。「現れましたか」と、呟いた。が、澄明もやはり、姫の声に気が付くと政勝の顔を窺った。房事の最中である。そうな...ー悪童丸ー10白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 11 白蛇抄第2話

    衣居の麓から馬で上がれる所まで上がると二人は馬を降りた。帰りは姫を連れ返る手筈でいる。政勝は頭陀袋に鞍や鐙をひと揃え押しこんで来ている。それを木に括り付けると馬も繋いだ。「判るか?」政勝が悪童丸の棲家を尋ねると澄明が先に立って歩き出した。「しかし、機敏な奴だ」澄明は黙って聞いている。「しかし、思うたほど、背いは高くなかったの。身体も小振りに思える」「悪童丸の父の光来童子もそう、大きくない鬼ときいております」「光来童子?あの、大台ケ原の光来童子?それがてて親か?」「はい」「ふううむ。しかし、あの姿が本物か?三条殿の姿ではなかったのは、判ったが、ひどく美しゅう見えたが?」「はい。光来童子もかなり美しいときいております。(その上に加えてかなえの美貌である)無理なかりましょう。一説に光来童子は外つ国の女御との間に...ー悪童丸ー11白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 12 白蛇抄第2話

    「どういうことだ!」「かくなる上は、隠し立ても相成りませぬな。御亡くなりになられた勢姫の母君をご存知ですね?」「うむ無残な死に様よう覚えておる」「かなえ様は、主膳殿の元に嫁し越す前より先にご懐妊あそばしておりました」「馬鹿な!めったな事を申すでないぞ」「ならば、もう、それ以上のことを御ききなさいますな」「・・・」「どう、なされます?」「聞こう」「海老名は、かなえ様ご幼少の砌からお側に仕え、嫁し越す時も自ずから願いでて、そのままついてきやったものです。その、海老名を詠み透かしたものですから、間違いは御座いません。かなえ様は、大台ケ原の鬼に魅入られておったのです。嫁ぐ前の七夜、光来童子に大台ケ原に攫われて・・・」「勢姫と同じではないか」「ええ。そして、鬼の子を孕んでいるやも知れぬかなえ様を一番案じた故に海老名...ー悪童丸ー12白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 13 白蛇抄第2話

    百日の間、澄明は明け六つ、暮れ六つの二度、祭壇のまえに現われて縁者の印を結ぶと護摩を炊いた。榊を四方に飾ると、榊を御神酒に浸し込め、悪童丸の陽根に直垂さすと、口の中で何か唱え出していた。九十九日は何事もおこらなかった。百日めの夜。政勝はかのとを相手に酒を飲んでいた。かのとはむろん酒は飲まない。飲める口でもなかったが仮に飲めたとしても腹の子を慮って口をつけることはないのである。月の物が途絶えると政勝の方が先に気がついた。三日もあけず、情を交わしておればいかに疎い男でも障りが来ないのに気が付かぬわけもない。遅れているのかも知れぬと思うと政勝は黙っていたが、どうやらそうであるらしいと判ると「かのと。留まったの」と、呟いた。むろん政勝の胤が留まった事を言うのである。悪阻が来ぬ性なのか、政勝の血がかのとに馴染むのか...ー悪童丸ー13白蛇抄第2話

  • ー悪童丸ー 14 白蛇抄第2話

    去って行く、勢姫の姿を目で追いきると政勝は無念の声を上げ始めた。「おぬし、こうなる事が判っておった筈だ。なのに、何ゆえに」蘇生された様を政勝に見届けさせると、澄明は政勝にかけられた因を解いた。とたん、政勝が澄明にせめ寄った。あの有様からも澄明がこの日、縁者の印を切らなかったのが政勝にも判った。「あれでは、貴様が先ほど申していた。主膳殿の因縁、繰返すだけではないか」「因縁は避けられませぬ。因縁からの解方はそれを通り、通り越すより他ありませぬ」「通り越すとな?」「そうです」「因縁を避けれぬというのか、通らねば成らぬというのか?ならば、ならば、初めから、無駄事だったではないか」「さようです。此度に事は只、只主膳殿の気を晴らすが為。そして貴方様に、みていてだく為。それと、因縁は陰陽の術を持ってしても換えれない事の...ー悪童丸ー14白蛇抄第2話

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 序

    プロト「遅かったのね」先に床についていた私を起こしにきた夫の用事をしながらたずねてみる。「ああ、部長、おいおい、なきだしてさあ」「ああ・・・・。無理ないかもね。40年勤めてきたんだものね」誕生日で定年退職になった部長の送別会を部長宅に招かれてのことだった。「部長のとこにはよくご馳走になりにいったけどさ。もう、これで最後だなあって、みんなもらい泣きさ」「うん・・・で?」「ああ、帰りに奥さんがな」剥き終えた柿にフォークをそえて夫の前においたから「で?」が、この柿はどうしたのとたずねられたと夫にはわかった。軽い酔いに柿の甘さがちょうどいいのか夫の食べっぷりにあわてて次の柿をむきはじめた。小さなため息をついて、夫は柿をまっていた。「もう、あんな人はいないなあ」公私にわたって部下を慮る。人情家というのだろう。「俺な...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児序

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 1

    1がんちゃんはとても、いじわるだ。私とは、家が近いから学校へのいきかえりでも、しょっちゅう、いじわるをしてくる。私の三つ編みをひっぱるのは挨拶がわりだし教室にはいれば、私の机の上に芋虫とか蛇とかおいてくれる。新しい定規もがんちゃんが最初に定規でなくちゃんばらごっこでつかってくれた。もちろん、そんないじわるも私だけでなく同じ教室の女の子全員被害にあってる。ほかの男子はというとがんちゃんをあおって、意地悪をたきつけてるようにもみえる。なんだかんだいって、女の子にちょっかいをだせるがんちゃんがうらやましいのが本音かもしれない。がんちゃんは毎日誰かにいじわるをしているけどさっちゃんだけには、ひどいことはしない。と、いうのも、さっちゃんの手に芋虫をおいて大声でなかれてしまってから、こりたようだ。こりたのは、さっちゃ...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児1

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 2

    2こんな片田舎にまでは空襲はやってこなかったけど都市部は壊滅的な被害をうけやがて、戦争は終結した。家は百姓だったから、無茶に食うに困った覚えもなく戦争が終わった。日本が負けた。赤紙がきた出征兵士の家にはやっぱり、兵士は帰ってこなかった。ほんの少しだけ変化した村の人員は戦争が始まったころの変化のまま変わったことはなかった。どこかでは、無事帰還した兵士もいたんだろうけど、大人たちの話にはのぼらなかった。きっと、帰ってこない家族をもつ人たちをおもいはかって、とくに親しくない限り、帰還兵のうわさを封じたのだと思う。そんなふうに、子供だった私は、敗戦も戦争もどこか遠くにあったように受け止めていたと思う。だけど・・・。敗北という戦いの傷跡を無残にみせつけてくる出来事が重なっていった。村の東側に大きな水路があって、水路...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児2

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 3

    3ジープをみかけたら、がんちゃんを探す。そんなことが10回以上あったろうか。あるときから、ジープがとおりすぎるのに、がんちゃんを探しても、どこにもがんちゃんの姿をみつけることができなかった。それどころか、学校からの帰り道、いつもなら追い抜きざまに私の三つ編みをおもいきりひっぱりさげるのにわきめもふらず、そう、その言葉そのもので私の横を走りぬけていく。途中まで一緒に帰ろうと並んで歩いてたさっちゃんがポツリとつぶやいた。「おかしいよね。へんだよ」「うん。きがついてた?」「うん、がんちゃんらしくないもん」手をださなければ、口だけでもでてくるのががんちゃんだった。「ば~~か」「さっさとあるけよ。のろま」「みっちゃんみちみち、んこたれた。おまえらも、んこたれた」と、あざけりの言葉をかけておいぬいていきそうなものだっ...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児3

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 4

    4さっちゃんと帰るのは、いつものことだけど今朝、さっちゃんにつげられた事実を確かめにいきたいと授業がおわるのを、まだか、まだかと、待っていた。朝、開口一番。さっちゃんが告げてきたことはがんちゃんの行き先だった。「あのね、黒岩さんってしってるよね?」知ってる。村のはずれの一軒家だけど、きっと知らない人は誰もいない。黒岩さんは村一番のエリートで大学も卒業していた。この黒岩さんが専行していたのが、英語だった。そのせいなのだろう、軍部から特別な任務を与えられていたようで、しょっちゅう、日本、軍部のとても偉そうな上官が黒岩さんの家の前に車を乗り付けてきていた。「がんちゃん、黒岩さんに英語を教えてもらっているみたいなんだ」「英語????」「うちのしんせきのおばさんが黒岩さんとこのむこうにすんでるのよ。昨日の夕方にそこ...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児4

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 5

    5放課後になると、がんちゃんは掃除もそこそこに教室を飛び出していった。私たちはがんちゃんがかたづけていかなかった雑巾をあらい、雑巾バケツも洗い、用具置きにいれなおして、塵箱のごみを焼却炉にすてにいってからがんちゃんのあとをおった。黒岩さんの家は大きな道を渡ったむこうにある。いつもなら、大きな道に沿った土手の小道をあるいて帰る。大きな道を横切るなんてことはない。ましてや、進駐軍のジープが通るようになってから土手からおりて大きな道にちかづくなんておおそろしいことでしかなかった。進駐軍のジープがきはしないかとさっちゃんとのびあがって道のむこうを確かめてからでも、おそるおそる足をふみだしていった。「紘ちゃん、こわくなかった?」さっちゃんは昨日の夕方のお使いのことをおもいだすらしい。「夕方に通ることはないってきいて...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児5

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 6

    6次の日の朝、がんちゃんは柿を新聞紙にくるんで肩掛けのかばんにつっこんでいるようにみえた。鞄の胴がいくつかのいびつな丸みをなぞらえて異様にふくらんでいた。最近は学校の帰り道に進駐軍と遭遇することがなくなっていた。がんちゃんは進駐軍に会えるまで毎日柿を鞄につめてくるのだろうか?日にちがたったら、熟して、鞄の中でつぶれてしまって教科書も筆箱も柿の汁でべたべたになってしまうだろう。考えなしともいえるけど思い立ったら即実行はがんちゃんらしいともいえる。その行動の目的がつまらないのも、考えようによってはわるさをするがんちゃんとなんのかわりもない。途中から一緒にあるきだしたさっちゃんに「がんちゃん、柿、もってきてた」そうつげた。「やっぱり、やるんだねえ。まあ、じゃなきゃ、黒岩さんのとこに行った意味ないもんね」「うん」...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児6

  • 柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児 終

    終わりジープをとめると、がんちゃんは荷台の横にまわりこんでいった。私たちも土手からジープの近くの道のきわまで、はしりおりていった。おいついてきた浮浪児たちは、ジープをとめてしまったがんちゃんに目をみはりながらじっと、たちすくんで、なおも、がんちゃんの一挙手一投足をみつめていた。「え~~と、エクスキューズ・ミー」自分たちと同じ子供が英語をしゃべる。がんちゃんを見守る浮浪児たちは、こいつは、なにをするつもりなんだと思いつつも畏敬の念を禁じえないというところなんだと思う。「プリーズ、ギブ、ミー。チョコレート。アイハブジャパニーズフルーツ。ベーリー・・・・えっと・・」緊張しているんだろう、がんちゃんの覚えたての英語がとぎれる。「え・・と・・デリシャス・フルーツ。チェンジイズあ?えっと・・ユア・チョコレート・・う・...柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児終

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