空の穴ふと見上げると空に穴があいていたその向こうに不思議な街のようなものが見えたすぐに穴はかき消えたそれは一瞬の幻覚けれど私のこころにはひとつの確信が残った世界は見えない穴だらけなのだ決して閉じた世界ではない穴の向こうとこちらはいつも交流しているともし穴が見えるようになったら素晴らしい世界なのだろうかそれとも恐怖の世界なのだろうか第580日空の穴
美美は私を救いはしないそれどころか絶望へと突き落とす私はそれを握りしめることができない私はそれと同化することができない美は私をせせら笑う鈍きもの輝かぬものとしてそして冷たく突き放す醜悪なその肉の中で腐っていけとそれでも私は美を求めるその強烈な力の中に束の間の酔いを求めてこのストーキングは続くのだろうかいつか私が美の創造者になったとしても美は変わらず逃げていくのだろうか第579日美
襞脳に襞があるように心にも襞がなくちゃあね痛みや悲しみを包み込んでそれを熟成させる闇がつるっつるっの心じゃないかと疑いたくなる人もいるね痛みや悲しみなんて知らないようなそれとも天使か宇宙人なのかな痛みや悲しみをがなり立てずそれを内に留めて謙遜や優しさを香り立たせる人は素晴らしい失意や悔恨を刻んだ襞からその魂の色合いが生まれる他にはないその魂独自の色が第578日襞
拡がり心はどこまで拡がっていけるかトレーニングしないといけないね心も体と同じ放っておくと縮こまってしまうこたつに入って手の届くところのものを食べあたりにゴミを撒き散らすそんな安楽を心は求める大陸の大地溝帯のかすかな軋みに密林で撃ち倒される野生動物の熱い血に不思議な地上絵が奏でる天空への歌にいやもっと大事なことは隣にいる大切な人の魂の深みにそっと潜っていくことかもしれない第577日拡がり
自重クジラは陸に打ち上げられると自分の体重で潰れて死ぬというあの重い水の中でこそ帝王の勇姿は誇示されるのだそういう人間もいるかもしれない激動の世なら英雄になれたのに平和で凡庸な時代に腐っている他人事ながらご同情申し上げる重力は重く空気は薄く軽すぎ巨大な存在は自ら潰れてしまうそれは何となく暗示的だ大きく軽やかになればよいのだ地上を睥睨して天空を翔る大鷲のようにそのためには自重を捨てねばならぬ第576日自重
布置直接関係ないいくつかのものが何か一つの方向を指し示しているそれを感じ取った時心は何とわくわくすることか何かがサインを出しているのだ受け取る人は受け取りなさいとやがてその方向から出来事がやって来るそしてやはりねと納得する知恵というのもそういうものだばらばらな事柄から一つの模様を読み取るそして世の流れや法則を理解する小さな模様はもっと大きな模様を描くそうやって探っていくとその先にはさてどんな絵が浮かんでくるのか第575日布置
悪魔のブロック思いついて五分後に書こうとすると思い出せないこの心の不思議この言葉を忘れるわけがないそう思っていても何かがブロックするまさぐる先は砂の壁回路の配線ミスではなくどうも誰かがやっているらしい誰が?私自身のもう一つの心なのか私自身を躓かせようとする悪魔なのか忌々しい仕組みにいらいらする第574日悪魔のブロック
不気味な神日本の土着の神々は異物っぽい得体の知れぬ不気味さがある人間の延長ではない人間の秩序とは無関係それでも人間に恵みを与えあるいは災厄をもたらす動植物の霊でもなく大地の精気でもないもっともっと大きな存在超越存在には人間とは別系統のものもいる超高級な存在も人間とは別だろう第573日不気味な神
小さな武器運命に抗うために考えがあり言葉があるどんな泥沼の中でも考えることはできる言葉を発することはできる考えや言葉によって人は自身を変えられるほんのわずかだけでも考えや言葉は自分を害するためのものではない運命に抗うためにあり運命を超えた場所を探るためにある第572日小さな武器
非明証明証的なものは不毛だそれは死確定されたものは何も生み出さない謎の中に不確実の中に危険の中に生は動く真理は明証的でない明証的であれば軛だ精神はそこで窒息する真理は謎の中に不確実と危険の中に生を励起して存在する第571日非明証
虫もぞもぞと這い回る虫にはなりたくないとはいえ人間もまたもぞもぞと這い回っているだけだ目の前にある葉が食べられるものかそうでないか空から降ってくる嘴に突然虐殺されないか鳥の目を持つことは人間にも難しい身の回りの地図を描くことさえわれらは仕方なく仮想の地図を作るけれどもそれはしばしば歪んでいて深い溝の中に落ちたりもする第570日虫
管胃腸は管である食べ物がそこを流れていくけれどちゃっかりと栄養を吸い取るこの不思議で理解困難な構造われらもまた出来事を自分の中に流していくそしてなにがしかの何かを獲得するその仕組みをわれらは知らぬ下痢をしてはいかんのだ便秘をしてはいかんのだゆっくりと着実に出来事を流していかねばならぬ栄養の貯まる場所をわれらは知らないたぶんわれらの中のどこかにある第569日管
魔が通る昔会った山小屋の主は言った独りでいることは恐くないだが時たま変なものが来る夜があるそんな夜は祝詞を唱え早々と寝床に就くと山のような神聖な場所でもそんなものが来ることもあるのかだったら巷のわれらの家ならしょっちゅう変なものが通ることだろうまあ仕方がない向こうには向こうの理屈があるだろう関わらないようにするしかない一度目覚まし時計を狂わされてえらい目にあったことがあるがつむじ風のようなものと諦めるしかない第568日魔が通る
呪いを解く掛けられた呪いを解くことは難しいどんな呪いが掛けられているか知ることさえ難しい自分の望みなのかどこかから吹き込まれたものか一つ一つ吟味しなければならないそれでも呪いはすり抜ける自己が壊れ望みも理想も死に絶える時ようやく呪いは消えるだろう何度も呪いを受けそれを解くそのために人は何度も死ななければならぬその果てに真実の願いが生まれる第567日呪いを解く
飽きる飽きることがなければ留まり続けてしまう飽きることは進むために大切なこと恋も美食も栄華もやがて飽きなければならない飽きっぽいのは精神の未熟だが飽きないのもまた未熟だ充分堪能して手放さねばならない老人になったらすべてに飽きなければならないそうしてこそ次に進める第566日飽きる
夢私の夢とは何だったのだろう私の魂は何を願っていたのだろう今の私には思い出せないそれは煙のような儚い夢想だったからか夢を内にしっかりと持ちそれを実現する人もいるそれは祝福された魂だそう思うほかはないさて神様がもしもう一度お前に人生をやろうと言ってくれたら私はどんな夢を持って生まれようかこの人生の最期に答えが見つかるだろうかそれとも夢も人生ももういいと言うだろうか第565日夢
北の顔南の顔北の顔があるその向こうには深い森が拡がる南の顔があるその向こうには海原が拡がる色濃く出ている顔はその奥の心も想像したくなるどんな嗜好が織り込まれているのか森や海への愛がまだあるのかと人が混じり合うとやがては平均的な顔になるのか隔世遺伝のような蘇りがあるのか遠い来歴を持つ血の上にそれぞれの魂は新たな絵を描くその複雑な色模様が世を彩る第564日北の顔南の顔
働く今日も明日も働く仕事に喘ぎながら人に苦しみながら人は働くことを愛するけれど心の天の邪鬼があれこれとケチをつける幸福にならないようにと労働は罰労働は恵みどちらも正しいさあ働こうケチをつけながら苦しみながらこの恵みを受け止めよう第563日働く
粒と波光は一つの粒でも二つのスリットを同時に通り抜けそして二つの波の干渉波を作るという何という神秘だが私という存在も一つの粒でありながら同時にいくつかの門を通りそしてまた合体して干渉波を生じるわれらは単線として生きていない意識の上でもその下でも私は同時にいくつもの門を通っているそして出来上がった干渉波は美しかったり歪んでいたり神秘で独特な輝きを放つ第562日粒と波
非合理うつし世の私にとって魂の私は私ではない魂の私にとってうつし世の私は私であるこの非合理はこの世では解けない世の私は魂の私を求めて虚しく彷徨う偽りの姿が私を迷わせ私の足は泥の中にはまる私は私に向けて悲痛な叫びを上げる疲弊して座り込む私の背中にかすかに私の気配が揺らめく第561日非合理
時代の罠注目されたい賞賛されたいという現代人の願いは悪魔の新たな罠かもしれないスマートフォンとSNSが人の欲望に火を付けた物の所有に取って代わったその欲は進化の証なのかそうでないのか悪魔は時代時代に罠を仕掛ける自分の願いなのか罠なのか見分けることは難しい誑かされないためにはへそ曲がりでいることだへそ曲がりが多い社会は健全だ第560日時代の罠
ナルシスの群ナルシシストなのに自分を愛せない好きで仕方ないのに肯定できない人はだいたいそんなもの姿形に不満があるのか能力に不満があるのかそれとも自分を賞賛しない世に憤っているのか人を愛し仕事を愛すればこの病は軽くなるだろうけれどそれでも自己愛の毒は消えない自己を嫌って貶めるのは危険だがほどよく愛するその案配はいつまで経っても会得できない第559日ナルシスの群
ニヒリズムニヒリズムという言葉を聞かなくなったそれだけニヒリズムは当たり前のことになった「富や栄誉や快楽や安楽それが価値でありわれらは熱烈にそれを追求しているニヒル呼ばわりされる謂われはない」ニヒリズムは価値の不在ではない死と永遠と超越の不在だそんなものはなくて当然と現代人は言う現代人が勝利したのか何かが私の中で叫び続けるしかしそれは言葉にならない第558日ニヒリズム
内的体験内的体験は深ければ深いほど存在から隔絶し人に伝わることもない知を超え言葉を超え想像すらも超え流出そのものとなるその後に生まれる表現は残映に過ぎないこの世ならぬ光沢を放つとしても内的体験は世のものにならない人は虚しく残映をまさぐるだが内的体験への道はそこにしかない第557日内的体験
用済み後男は消耗品であると誰かが言ったまあそうだ使えなくなったらお払い箱ぼろぼろになった男はどうすればいいのか山に籠もって好きなように生きるか釣りだろうが畑作りだろうが念仏だろうが詩作だろうが世と切り離されているのだから何でもいいそうやって世から捨てられて男は初めて自分を生きられるのかもしれない第556日用済み後
崩壊それまでの世界ががらがらと音を立てて崩れるそんな体験を何度かした幸福なことだったそれまでの夢がすべて潰えるそういうこともあった悲しいことだった幸福であれ悲しみであれそれらは濃密な生の体験だった私は死に新たに生まれた老いていく私にはもうそんな出来事はないのかこの世を離れるということ以外には第555日崩壊
色のない営み白い画面に黒い文字だけが並ぶ殺風景だが厳粛でもある本というのものはそういうものだった至高の知恵も永遠の物語も色のない世界が記号だけの世界が拡がりの源だった粘土の板に傷を付ける人の知の始源の営みその色のない営みは絶えることはない第554日色のない営み
雑食サルの時に食い過ぎたのか果物はあまり好きでない木の実が好きなのはリスの時に不遇だったからか進化系統樹を認めるなら果物や木の実がわれらの正統食葉っぱや穀物は邪道肉食なんてもってのほか人は途方もない雑食を身につけた楽しみであり延命の道でもあるけれど食い意地という煩悩も背負ってしまった数種類の食べ物で生きていけるならなんと幸福なことだろう摂食というのはそういうものではないか第553日雑食
不如意他人は意のままにならぬけれど自分の体も心も意のままにならぬ体も心も他人だ意のままになるのは手足と頭の一部それらを必死に駆使して人はわずかばかりの領土を築く他人は従属しない体や心すら反乱を起こす領土は常に崩壊の危機にある意のままになる世界ができたら人は歓喜するだろうがそこはかなりグロテスクな世界だろう第552日不如意
彼方究極の真理に辿り着いたらすべての表現はなくなる表現は探索でありまた迷いでもある沈黙と静謐の中にすべてが含み込まれている宇宙の外であり宇宙そのものである地点神様などはそこにいないあらゆる存在を生じさせる流出の源泉だけがあるこれは天からの教え理を詰めていってもそこにしか行かない私はそう信じるしかない第551日彼方
三つの星真か善か美かどれかを選べ余のことはどうでもよい三つの星に向かうしかないみじめな生存の中でもそれを見つめることはできるわずかでもそれに進むことはできるそれが生存の意味だそれを拒絶すれば滅亡するしかない第550日三つの星
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