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  • 第457日 タオル

    タオル洗い立てのタオルは幸せだやさしく包み込みながら水も汚れも吸い取ってくれるこんな恋人がいないかなあなどと言ってはいけません恋人はタオルではありませんむしろあなたがタオルになりなさい相手の汚れを吸い取るためにタオルは洗濯乾燥という苦行を続ける人の汚れを吸い取ったら人はどうやってきれいに戻れるのかいつもふわふわのタオルでいる方法はないのか第457日タオル

  • 第456日 父の息子

    父の息子父の家を忘れた放蕩息子はもう帰ることすら覚えていない場末の女郎宿で排泄物にまみれて野垂れ死ぬだけ悪魔は囁くお前は俺の子だとこの温かく爛れた家がお前の棲み家なのだとかすかに心の奥に囁くものがあるがもうそれが何なのかわからないそうして父の息子は誰もいなくなったここにいるのは誰なのだろう第456日父の息子

  • 第455日 聖科学者

    聖科学者物質宇宙がその宇宙自身を観察し探究する大いなる知性を生み出したそれが奇跡だと科学者は言うそして科学者こそが物質から生まれながらそれを研究する宇宙究極の存在なのだそう彼らは自己賞賛する彼らの聡明と情熱は確かに賞賛に値するけれどその自惚れはちょっとね生命や知性は物質から生まれるそれを疑わない知性というのは私にはどうも疑わしく思われる第455日聖科学者

  • 第454日 一週十日でどうだい

    一週十日でどうだい一週間が十日だったら週で仕事をしている人々はどれほど楽か月四回が三回になるだけで人生はもっと楽になるだろうに三日働いて二日休みまた三日働いて二日休む年間百四五十日の休日そのくらいだったら楽だろうに世の中は不便になるだろうけどそのくらいゆったりでも馴れれば十分じゃなかろうか五日連続で働くのはきついんだよ四日とか三日だったら何とかなるなどと怠け者が言っても笑われるだけか第454日一週十日でどうだい

  • 第453日 純粋点

    純粋点純粋空虚な私とは数学的点のごとく実在するが実在しない何かと結んで糸を引く糸と糸で囲んで面を作るそうしてようやく私が存在する純粋空虚な点は実在の壁を超えるのか無限の自由を獲得するのかそれは一瞬の奇跡存在になり得ぬが存在を救済するものか第453日純粋点

  • 第452日 お返し

    お返したくさんのものをもらったお返ししたいでも非力な私には何もできない人から世から生存も文明も人生の最もよいことどもも私は何かを与えたかそう思うと悲しくなる非力と怠惰を詫びねばならぬだがすべてを与えてくれているものがその向こうにあるそれにお返しなどできるのか私は知らない第452日お返し

  • 第451日 売薬

    売薬何の病気でもない人にそれは病気ですよと脅し薬を売りつける輩の多いこと地獄へ行け多少ガタピシ言おうが走りゃいいんだよ七十年の寿命が九十年になったところでそう大した問題でもなかろう富を潰えさせ不安を撒き散らし老人ばかりの社会を作るこりゃどう見たって悪魔の奸計だろう悪魔の手先は地獄へ行け第451日売薬

  • 第450日 獲得

    獲得求めていたある真実を私は得た私の人生はそれだけでいいのだろう小さいが重い呪いは解け深みにあった不安は消えた生きることのつらさや私の愚かさは変わらぬが誰にも重大な真実ではない伝えようとしても難しい世俗的な役に立つわけでもない長い長い時が必要だったのかこの先にも長い時があるのか私は茫洋とした心で立ち尽くす第450日獲得

  • 第449日 悪魔の手口

    悪魔の手口克服したことをふいに蘇らせて挫こうとするそれも悪魔の手口もう私にはかつての不安はないけれどもその残響がふいに足下をすくう幼子の震える声で私は叫びを上げるそしてあわててその幼子を抱きしめる悪魔は哄笑するが私は奴の手口をもう知っている奴は勝利することはない第449日悪魔の手口

  • 第448日 真愛

    真愛心底愛される一人にだけでもごくわずかな時間だけでもそれは至上の宝この至上の宝を誰かに与えることは誰にでもできる資格も元手も要らないわずかな時間でも相手が応えなくても現実に現れることすらなくても祈りにも似たその愛は確実に相手を高めるそして自分を豊かにする第448日真愛

  • 第447日 魂質

    魂質体質というものがあるなら心質とか魂質というのも当然あるだろう心は誰もが似た仕組みだとか魂は単純な内容しかないとかそんなふうに思われてはいないかユング先生はタイプ論で心の質が千差万別と明らかにした内向型と外向型は理解し合えないとさて魂の質はどうかおそらくもっと千差万別だろう果たして理解し合えるのかどうか第447日魂質

  • 第446日 心嫌い

    心嫌い肉体よりも心が嫌いだ余計なものを抱え込み私を右往左往させる肉体の死が迫ってくる時人を苦しめるのは肉体の悲鳴ではなく心の大騒ぎのほうだろう貪欲でうるさくてそのくせ喜びはほとんどもたらさないこの怪物はいったい何だろうこの世に生きねばならぬのなら魂と肉体だけで生きられぬものかもしかして求道者たちはそれを求めたのか第446日心嫌い

  • 第445日 異端

    異端切り立った岩山の頂に聖堂の白壁が輝くそここそが世界の中心悪の世から隔絶した聖園それは遠い夢痛痒い情熱魂の底に居凝って私を時折朦朧とさせるその意味も今は解けた私は異端今も昔も好んで異端なのではない私が繋がっている真実はこの世からは常に攻撃される第445日異端

  • 第444日 不安

    不安失くす不安迷子になる不安間違えて責められる不安幼い心は不安ばかりだった何かをなすどころではなく不安と闘うことで精一杯だった体質なのか心の性向なのかそれとも何か魂の傷か一種の宿命だったのか世となじむことなく生きろとけれどそれが何になったのか今はもうほとんど不安を覚えないけれど時折昔の感覚が蘇ってうろたえることはある第444日不安

  • 第443日 肉体好き

    肉体好き西洋人は肉体がお好きセックス大好き格闘大好き死んだ後も固執するハリウッド映画では主人公は最後に悪人と素手で格闘し勝たねばならないアホか日本人はそんなに肉体に執着しないむしろ厭うべきものセックスも格闘もそれほど好きでない現実で闘えば負けるさでもどちらが霊的かと言えば答えは明白なような気がする第443日肉体好き

  • 第442日 思想家

    思想家世が求めているのは思想家ではなく株の指南役のようなものこれ買うといいですよこれからはこういう傾向になりますよ従って儲ける人もいるし損する人もいる思想家は役に立たないもの彼らは探究し格闘していればいい答えを出す必要はないし出してはいけない思想家の役割は問題のありかを示すこと一歩進ませること思想家によって領土は拡がるいくら儲けたところで狭い所で窒息しては死ぬだけだ第442日思想家

  • 第441日 天狗

    天狗少し前まで山には天狗が住んでいた験力を求めて修行する天狗と死してなお修行を続ける天狗が彼らの熱望は自らの力を強くすること物の制約を克服し物を自由に操ること今の世にも似たような魂がいる生きている間も死してからも力を熱望し続ける魂が彼らは一群となって活動し力を求める新たな魂を引き寄せるそしてその力で世に君臨することを企む第441日天狗

  • 第440日 いらっ

    いらっいらっというのはただ気にくわないということかもちろんいらっとしたからといって反撃をしてはいけませんがいらっの中には何かしら重大な意味がある聖人はいらっとしなくなるのかそれは突き放しているだけではないか世はそんな程度のものだと第440日いらっ

  • 第439日 子を抱く女

    子を抱く女幼な子を抱いた若い母親は奇妙な存在だ男をそそる女ではなくたくましいかあちゃんでもない無条件で絶対の愛情の光暈に包まれて束の間の天国が顕われる私はそれを切なく見つめるあの胸で私も眠りたいけれどそれでは彼女に恋することはできなくなる天国とは失われているもの私は幼な子ではなく彼女は若い女ではないその喪失が眩しい第439日子を抱く女

  • 第438日 戦いの宗教

    戦いの宗教戦いの宗教は神の思惟の奇形われらには癌のようなものその増長を阻止しねばならぬ戦いによってではなく自らの生命を強くすることによって戦いの宗教は共存など認めぬわれらがいくらそれを唱えても迎合も敵対もするな凛として無縁でいろ自らを豊かにすることだけを求めよ第438日戦いの宗教

  • 第437日 苦味

    苦味豪奢な洋風食事の後はパイプ煙草と深煎りブラックコーヒーやっぱりこれじゃないと落ち着かない冗談じゃないと思う人も多いだろうけどあちこち飛び回った味覚を鎮めるのだ膨満した胃袋を縮めるのだ強烈な味覚が後を引くのはよろしくない否定することでそれは立つ人生の最期も苦い煙草とコーヒーで締めたい後のすべてをほのかに香り立たせるために第437日苦味

  • 第436日 老人

    老人老人たちは何を思っているのだろうか私も老人の仲間に入ったがどうもよくわからないあちこちで反乱を起こす体のことか死に至る病への不安か減っていく貯金への恐怖か若い者たちへの憤懣か過ごしてきた人生をどう見ているのかこの先の時間をどう夢想しているのかそういうことは考えまいとしているのかもう人生の達人となって気ままにふわりと漂っているのかそれにしては小うるさい人が多い第436日老人

  • 第435日 あはれあはれ

    あはれあはれ自分が死んでも偲んでくれる人など誰もいないと内親王様は嘆かれたけれどすっきりしていていいのかもああだこうだと論評されたり赤飯を炊く人がいたりするのはえぐいあ、そう、ふうんと五秒くらい考えてそれで忘れてもらえればいい世の中には失踪届すら出されずに消えていなくなる人も多いこの世は行く川の流れ何もかもは流れていく残るものは魂の中に残る第435日あはれあはれ

  • 第434日 感情サウナ

    感情サウナ老いと単純作業の仕事で感情はほぼ用無しになったのを補ってくれるかのように夢は感情を激しく撒き散らす別れた恋人たちとの幸福な場面ばかりを見せられるとさすがに心はぐちゃぐちゃになるよいプレゼントなのか逆なのか醒めた頭で過去を改めて思い出し苦い解釈を組み立て直すのは心地よい作業ではないけれど夢の感情サウナは有り難い死にかけた私の大切な半身を何とか蘇らせてくれるから第434日感情サウナ

  • 第433日 空間

    空間椅子はいかにも人を待つように端正な空間を創っている女性の顎と胸の間にも美しい空間がある頭を埋めて眠りたくなるような満たされることを待つ空間は美しい空虚ではない私の心の空間は何が満たすだろうかもう満たされているだろうか第433日空間

  • 第432日 毒をもって

    毒をもって言葉はそもそも毒である緑と言った時にすべての緑は失われ愛と言った時にすべての愛は失われるわれらは死骸の迷路に迷うそれでもわれらは言葉を発する死から生を引き剥がすために緑や愛を奪い返すためにその逆説がわれらの宿命私はあなたに言葉で呼び掛けたくない言葉は私の思いもあなたの思いも殺すから毒や棘で傷つけるからそれでもわれらは言葉を発する脅えながら切なく願いながら第432日毒をもって

  • 第431日 物置

    物置暇を嫌い退屈を嫌い何でもかんでも手当たり次第詰め込むガラクタの詰め込まれた物置のように何も生み出さず朽ちていくガラクタでないものはないのか暇つぶしでないものはないのかそれに対する答えはないいっそがらんどうにしておけば何かがそこに降りてくるかもしれない天使か悪魔かは知らないけれど第431日物置

  • 第430日 走る

    走る子供は狂喜して走る体がこんなふうに動かせるそれに驚き喜びこの感覚を覚えている足がどんどん前に行って風景が飛んでいくのが不思議だったこんなこともできるんだと人は体を操って喜ぶ素晴らしいものを授かったとそのうちろくでもないことに使い出しそして段々重荷になってくるそれでも体は不思議ですごいもの第430日走る

  • 第429日 敵

    敵敵は薄ら笑いを浮かべた資本家なのか目を血走らせた軍人なのかそれとも善意溢れる大衆なのか敵は敵意をむき出しにしてくる一群か甘言で丸め込もうとする少数かすぐ隣にいる誰かの中にあるのか敵なぞいないと言いたいけれども守りたいものがあればそうも行かぬ戦うか否かは別の話人の姿の奥にある何が敵なのかを慎重に見極めなくてはならぬ第429日敵

  • 第428日 自殺

    自殺細く揺れる吊り橋を渡る恐怖を終えるには渡り切るしかない途中で橋から身を投げたら大けがをする自殺というのはそういうことだおやめなさい地獄へ行くわけではないけど魂が大けがをする恐怖を耐えて渡り切ったらご褒美がもらえるらしいから前に進むしかないんだな第428日自殺

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