ハダカデバネズミ(nakedmole-rat;Heterocephalusglaber)は女王が君臨する階層社会に暮らす極めて社会的な動物ですが、長鎖ヒアルロン酸を産生することで癌に抵抗性であり(Tianetal.,Nature499,346–349,2013)、老化の兆候をほとんど示さないことも知られており、ルックスはアレですが「生まれ変わったらハダカデバネズミになりたい」と常々思っておりました。ハダカデバネズミは“chirp”という鳴き声によって仲間に情報を伝えることが知られていますが、この論文で著者らはchirpの中でも一般的であり、仲間の確認に使用されているsoftchirpには方言(dialect)があり、この方言は女王によって決定されており、女王が変わるとsoftchirpの方言も変わっていくことを...ハダカデバネズミは大阪弁を話すか?
骨軟部悪性腫瘍は癌と比べればきわめて頻度が少ないため、癌で行われているようなゲノム情報の蓄積を困難にしています。滑膜肉腫は悪性軟部肉腫の10~20%を占める腫瘍ですが、化学療法やチェックポイント阻害薬などの免疫療法に抵抗性を示すことが多く、予後が悪いことが知られています。またcancer-testisantigens(CTAs)の発現がみられ、これは患者のT細胞によって認識されるのですが、腫瘍自体にはT細胞の浸潤がきわめて低いことが知られています。このことが免疫療法が無効である原因と考えられていますが、そのメカニズムはよくわかっていません。ほとんどの症例で18番染色体上のSS18(synovialsarcomatranslocation,chromosome18)遺伝子とX染色体上のSSX(synovialsa...滑膜肉腫治療法開発に対する新たなアプローチ
大学生時代に、飲み屋の与太話で究極の選択と銘打って「カレー味のウ◯コとウン◯味のカレー、食べるならどっち?」というようなアホな話題で盛り上がったことがあります。レベルは大違いですが、この論文を読んでそのような昔話を思い出してしまいました。。(;^ω^)筋萎縮性側索硬化症amyotraphiclateralsclerosis(ALS)および前頭側頭型認知症frontotemporaldementia(FTD)は病態は異なりますが、いずれも神経細胞の障害が生じ、重篤な症状を示す難病です。多くのALSおよびFTD患者の神経細胞内にはRNA結合タンパクTPD-43の封入体が見られることが報告されています。また2011年にはこれらの疾患患者でC9orf72という遺伝子の翻訳領域の5’側にGGGGCCリピート配列の著しい延...ALSになるか?癌になるか?それが問題だ
WALANT(WideAwakeLocalAnesthesiawithNoTourniquet)techniqueはターニケットを使わず血腫内局所麻酔注入などによってターニケットなしで手術を行う手法で、手外科領域で用いられる手技です。この論文はWALANTtechniqueを足関節骨折に応用したというパキスタンからの報告です。骨折型としてはtype-44Bおよびtype-44Cに限定して58例に行い(44B1:4例、44B2:11例,44C1:7例,44C2:36例)、良好な成績であったことを示しています。まず血腫内に3-5mLのリドカイン注射を行い整復し、シーネ固定。WALANTtenchiqueに同意した患者に対して手術を行いました。腫脹がない場合は24時間以内に手術を行いますが、平均すると受傷から5日目に...WALANTtechniqueの足関節骨折手術への応用
新型コロナウイルスに対する抗体製剤カクテル(REGN-COV2)の有効性
新型コロナウイルスに対する抗体製剤カクテル(REGN-COV2)の有効性Weinreichetal.REGN-COV2,aNeutralizingAntibodyCocktail,inOutpatientswithCovid-19.NEnglJMed.2021Jan21;384(3):238-251.doi:10.1056/NEJMoa2035002.Epub2020Dec17.新型コロナウイルス感染症対策の切札としてワクチンに期待が集まっており、現在接種する順番や段取りなど具体的な流れをどうするかが懸案になっています。一方で感染した患者に対する治療薬としてはステロイド、レムデシビルなどが正式に使用可能ですが(英国では抗IL-6受容体抗体も)、中々決め手に欠ける感は拭えません。ウイルスを排除するという点では中和...新型コロナウイルスに対する抗体製剤カクテル(REGN-COV2)の有効性
SARS-CoV-2が細胞への侵入にACEIIを受容体として利用することから、ACE阻害薬やARBを使用している患者が感染した場合にはこれらを中止すべきかどうかという議論は、感染拡大の当初から話題になっていました。この論文は入院前にACE阻害薬あるいはARBを内服していた軽症から中等症のCOVID-19患者に対して、これらの薬剤を中止(n=334)あるいは継続(n=325)の2群にランダムに割り付けて入院後の予後を調べたブラジルの研究です。生存患者の入院日数(21.9日vs22.9日)、死亡率(2.7%vs2.8%)、心血管障害死(0.6%vs0.3%)、COVID-19の悪化(38.3%vs32.4%)に有意差は無かったという結果です。Lopesetal.,JAMA.2021;325(3):254-264.d...ACE阻害薬、ARBはCOVID-19患者で中止すべきか?
進化医学(evolutionarymedicine)に関するこの総説は、進化の過程がいかにしてヒトの形質や疾患に関与するかを解説しています。ダーウィンが「種の起原」の中で述べた自然淘汰(naturalselection)という有名な概念があります。これは様々な形質を有する多くの個体の中で、環境に最も適した形質を有するものが選択されてdominantになっていくということで、どのような形質がdominantになるかは環境に大きく左右されます(従って「優れたヤツが残る」という事ではありません)。形質の差は主として遺伝子によって規定されているので、「形質の選択」とはすなわち「遺伝子の選択」ということになります。ヒトは進化の過程で様々な遺伝子を選択してきましたが、このような遺伝子選択にはtrade-offが存在すること...進化医学からみた遺伝子の選択と疾患
米国OsteoarthritisInitiative(OAI)のパブリックデータベースに登録されている変形性膝関節症25,049例のXpおよりKOOSpainscoreをを用いてconvolutionalneuralnetworkを利用したディープラーニングを行い、疼痛と関連するXp上の領域を可視化するとともに痛みと関連するXp画像上の特徴の要約統計量algorithmicpainprediction(ALG-P)を算出するシステムを構築した。ALG-PのほうがKellgren-Lawrence分類よりも疼痛の予見に有用であることを示しました。人種格差や経済格差についてもこのアルゴリズムを使用するとある程度補正できることも示しており、専門医でなくてもXp画像のみから治療が必要な症例の抽出が可能であるとしています...AIを用いた変形性膝関節症疼痛の検出法開発
切除不能な叢状神経線維種に対するcabozantinibの有効性
切除不能な叢状神経線維種(plexiformneurofibroma)を有するNeurofibromatosistype1小児患者に対してMEK阻害薬Selumetinibが有効であるという報告が昨年のNEJMに出ましたが(Grossetal.,NEnglJMed.2020Apr9;382(15):1430-1442)、この論文では多種チロシンキナーゼに対する阻害効果を有するcabozantinibのマウスモデルでの有効性、そして第2相臨床試験の結果を示しています。外科切除不能な叢状神経線維種を有する16歳以上の患者にたいしてcabozantinibを投与したところ、19人中8人(42%)でpartialresponseを示し、腫瘍サイズの縮小は中央値で15.2%(range,+2.2%to−36.9%)で、進...切除不能な叢状神経線維種に対するcabozantinibの有効性
過敏性腸症候群(irritablebowensyndrome,IBS)は比較的よく見られる病態ですが、17%程度は胃腸感染症の後に生じることが知られています。その病態メカニズムを明らかにするために、著者らはマウスにCitrobacterrodentiumを感染させ、その後にovalbumin(OVA)を摂取させるというモデルを作成しました。正常なマウスにOVAを摂取させても問題はないのですが、感染から回復したマウスはOVA摂取によって下痢を生じ、IBS様症状を呈していると考えられました。IgE欠損マウスや抗IgE抗体を投与するとIBS様症状は改善し、逆に正常マウスにOVA特異的IgEを投与するとOVA摂取によってIBS様症状が出現しました。つまりこのような病態は、感染によって腸管上皮のバリアが消失し、OVAに対...過敏性腸症候群における腸内免疫の役割
「医療崩壊の真実」というタイトルはアレなのですが、内容はDPCデータなどを参考にして、主として2020年春の新型コロナウイルス感染症第1波で医療崩壊の危機が叫ばれた原因を分析しており、大変腑に落ちるものです。繰り返しが多いことや、最後の鼎談は蛇足気味だったりという欠点もあるのですが、わが国の医療体制が包含する重要な問題点を指摘しています。特に下記のような指摘は興味深いものです。①東京都のデータでは医療逼迫が叫ばれていた4月、5月において一般病床およびICUの稼働率は低下していた。②一般病床稼働率低下の原因は、うがいや手洗い、マスクなどの衛生要因による感染症減少、コロナによる受診控え、不急の手術延期、検診控えによる癌などの発見減少などが考えられる。元々日本は急性期病床が諸外国と比べて突出して多く、コロナのために不...「医療崩壊の真実」を読んで
頭部神経堤細胞におけるBMPシグナル活性化はautophagy抑制を介して軟骨分化を促進する
進行性に異所性骨化が進行する進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasiaossificansprogressiva,FOP)はBMP受容体であるALK2/ACVR1の変異が病因であることが明らかになっており、変異型受容体はBMPのみならずActivinAによっても活性化されることが疾患進行に重要であるとされています。京都大学の戸口田先生らはFOPの疾患特異的iPS細胞を用いた研究から、mTOR阻害薬であるrapamycinが骨化の進行に有効であることを報告されていますが(Hinoetal.,JClinInvest.2017Sep1;127(9):3339-3352)、rapamycinがどのようにしてACVR1シグナルに影響するのかという作用機序については不明な点も残っています。さてFOP患者では下顎...頭部神経堤細胞におけるBMPシグナル活性化はautophagy抑制を介して軟骨分化を促進する
英国でTocilizumab, SarilumabがCOVID-19に承認された
最近のニュースで少し意外だったのはtocilizumab,sarilumabという抗IL-6受容体抗体がCOVID-19患者の死亡率を低下させ、英国治療薬として承認されそうだ(された)というニュースです(1)。これまで、色々な観察研究では有効性を示す結果が報告されていたのですが、Bostonの7病院で行われたRCT(BACCBayTocilizumabtrial)では挿管または死亡率に差はなく(入院28日後までのhazardratioは0.83,95%CI0.38to1.81;P=0.64)(2)、それ以外にもCOVACTAtrial(3),RCT-TCZ-COVID-19trial(4),CORIMUNO-TOCI-1trial(5)などのRCTで、やはり死亡率や重症化率に有意差がないことが報告されていました...英国でTocilizumab,SarilumabがCOVID-19に承認された
頭蓋縫合早期癒合症はまれな先天性疾患ですが、FGF受容体シグナルの恒常活性化が見られるCrouzon病やApert病などが有名です。放置すると早期癒合の結果として頭蓋内圧が上昇し、脳の発達障害による精神発達遅延を生じることが知られています。Saethre-Chotzen症候群は頭蓋骨縫合早期癒合を示す疾患ですが、ヘリックス-ループ-ヘリックス型の転写因子であるTWIST1遺伝子に変異があることが報告されています。この論文で著者らはTwist1のヘテロ欠損マウス(Twist+/-マウス)が頭蓋縫合早期癒合を示し、頭蓋内圧上昇および認知障害を示し、Saethre-Chotzen症候群モデルとなることを示しています。またこのマウスの頭蓋骨縫合部を外科的に切離し、切離部にGli1+mesenchymalstemcell...頭蓋縫合早期癒合症モデルにおけるGli1+細胞移植
リウマチ性疾患を有するCOVID-19患者の予後の時間的変化
リウマチ性疾患および筋骨格系疾患を有しているCOVID-19患者について、その予後が時期によって変化しているかを米国データベースを用いて検討した論文です。Earlycohortを2020年1月20日から4月19日までの90日間、latecohortとしては4月20日から7月19日までの90日間と設定し、それぞれの期間にICD-10でCOVID-19と診断された患者が対象です。Earlycohortには2811人、latecohortには5729人が含まれ、PCR検査で診断された患者の割合はearlycohortで43.3%、latecohortで39.5%です。解析に含まれる疾患としては関節リウマチ、脊椎関節炎、SLE、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発筋炎、Sjögren症候群、その他の全身性結合織疾患、全身性の血...リウマチ性疾患を有するCOVID-19患者の予後の時間的変化
ワクチンによって天然痘が根絶されたという歴史的な成功例を考えれば、ワクチンは集団レベルでは疾患予防において切り札ともなりうる存在であり、有効なワクチンがあるのにそれを拒否する人々に対して、医療従事者としては「科学リテラシーに欠ける」と批判したい気持ちはよくわかります。しかし最近日本語訳が出版された「ワクチンレース(MeredithWadman著羊土社)」を読むと、かつての狂犬病ワクチンのように、かなりな高頻度で致死的な副作用が出た例や、逆にワクチンに疾患予防効果が見られないケースがしばしばあったことも記されています。有効なワクチンであっても100%の有効性を示すことはありませんし、少ないとはいえ重篤な有害事象が出現した本人にとってみれば「ワクチンを投与していなければ」と悔やむのはやむを得ないでしょう。少なくとも...新型コロナウイルスワクチン投与によるアナフィラキシー反応
2020年は新型コロナウイルスに翻弄された1年でした。無症状・未発症者から感染が広がるというこの感染症の特徴は、疾患の危険度の何倍もの恐怖を社会に与え、人と人の繋がりをズタズタに引き裂きました。また報道のみならずインターネットやSNSを介した不確実な情報の拡散は、国によってはそれを利用しようとする政治力学も働いて、社会の分断に輪をかけることになりました。過去に経験のない未知の感染症の登場は、科学者や医療関係者の間にも戸惑いや不安を広げ、専門家の中にさえも分断を引き起こしました。このコラムのタイトル"Adivisivedisease(分断の疾患)"は、このような新型コロナウイルス感染症の特徴を過不足なく表しています。しかしその一方でウイルスゲノムの解読、感染の分子機構や免疫反応、ウイルスタンパクの構造解明、そして...分断の疾患
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