高校の3年間、私は父の運転する高級社用車で途中まで送ってもらおうと常に狙っていた。 1,2年生のころは部活の朝練があり、父とは時間が合わなかった。狙いは定期試験1週間前。部活が休みになる期間のみだった。 学校は8時40分までに登校なので、本来なら7時半に家を出れば十分間に合う。起床時刻は6時半で十分だ。しかし、私は6時には起床し、父の様子を窺っていた。 某自動車メーカーで役員付のドライバーをしている父が家を出る時間は、基本は2パターンだった。ゴルフ場などの遠方送迎で早朝に家を出るか、近場送迎で7時に家を出るか。私は、父が家を7時に出る日を狙っていた。 父が7時に家を出ると分かると、私も身支度を…
高1の冬のある日曜日、朝から母と私は揉めた。原因は覚えていないが、私はそのとき初めて母に暴言を吐いた。母の仕返しが怖かったり、中学受験の失敗を引け目に感じたりしていた私の初の暴動だった。 私がいきなり激しく言い返し、反抗期(遅 ! )丸出しで怒鳴り散らしたので、母は少したじろいだ。母は急ぎの用で外出せねばならず、言い返す間もなく慌てて出かけていった。 (ついに言ってやった……) 私は気分が高揚した。 「海でも行くか?」突然父が言った。 「え? あ、うん……」 大抵前夜に声を掛けてくるが、その日は急に言うので少し驚いた。 いつも通り車の中は、AMラジオの音だけが鳴っている。車はコンビニの前で止ま…
高3の夏は、父との海岸堤防散歩に頻繁に行った。部活も引退し、付属短大志望予定の私は、のんびり日々を過ごしていた。その後、急に気が変わって他短大を受験することになり、慌てることになるのだけれど…… 5時過ぎに出発し、6時前には到着。1時間半ほど散歩し、8時半前には帰宅。毎回だいたい同じ時刻だったが、週を追うごとに季節の移り変わりを感じた。気温だけでなく、海と空の色や様子、風の匂い、季節の花。小さな移り変わりを見逃すまいと、全身で感じながら、ただ黙って歩く。父とは、この黙って歩くという贅沢な時間を心地よく過ごせるところがいい。 水平線の少し手前に貨物船が見えた。 「双眼鏡で見てみたいな」 「こうす…
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