でもあれからこれといったことは見つからず八方塞がりが続いていた。 そんなある日、あたしは眠れなくて藤壺の前の庭先に降りて庭を眺めていたの。 そしてどれくらい経ったのか分からないけどあたしは気になる蝋燭の灯に気づいたの。 こんな時間についている蝋燭の灯。 今は寅の刻、皆が静まっても仕方がない刻。 それなのに、その蠟燭の光がゆらゆらと動いていたの。 誰か起きているんだろうけどこの時間に起きてるなんて気になるじゃない。 その灯に導かれるように近づいたの。 そうしたら一人の女房がいるだけだった。 それだけならあたしはそっと離れたと思ったわ。 でもその女房がしている行為に目が疑ったの。 それはあたしの桂…
丞香殿の女房の小夜という女が梅壺の女御様と組んで あたしを罠に嵌めようとしている。 でも、その証拠はない。 あたしが床下で聞いていたと言っても却って悪い噂が付きまとうだけですものね。 床下に潜る変人女御様! だなんて噂になったら父さまは当分寝床から出てこれなくなるわね。 それはそれで面白いけど、それでは梅壺の女御様を喜ばせることになってしまうわ。 そんなあたしが物思いをしていた矢先、他の女房があたしに話しかけたの。 「藤壺の女御様、大皇の宮様がお主上のご機嫌伺いに参内なさったおり 藤壺の女御様のお体までご心配なさり、 今からこちらに伺いたいと申し立てて見えますがいかがなさいますか?」 「えっ?…
どうしようかな~ あんなに後ろ向きだったのに鷹男に励まされたら元気が出ちゃった。 案外気分がいいものよね。 「瑠璃様、なんだか今日は機嫌がいいですね。何かございましたか?」 「ううん、何もないけど、このままのあたしじゃだめだな~って思って。」 「そうでしたらよいのですが。最近の瑠璃様は大人しかったですものね。」 「大人しいとは何よ、あの梅壺の女御様はあたしの行動をなぜか知っていて 痛いところを突いてくるんですもの。だから意味のない当てこすりならいいけど 芯を突いてくるからこそ憂鬱度も増したんじゃないの・・・?」 「どうなさったのですか?」 「待って、あれっ、何かひかかる・・・」 そうよ、なんで…
あれから大きな動きはないけど、あたしと梅壺の女御様との仲が 悪いという噂はすぐに後宮内を駆け巡っていった。 あれから毎日の様な嫌味の応酬にあたしでさえだんだん気が滅入っていったの。 あたしのバックには内大臣の父さまもいることだから表立っては何もない。 血筋は向こうのほうが上だけど、財力はうちのほうが上だし 両方兼ね備えたうちはどう見ても格は上よ。 でも今は親王様が御生まれではない分、誰にでも中宮の地位に就く可能性は高い。 でも丞香殿の女御様は病で臥せて見えることがおおいし、桐壺の女御様は バックが弱いうえ、気弱な方。 そうなるとやっぱり恐れながら次期東宮様を御産みすることを 望まれているのはあ…
梅壺の女御様と初めてお会いした時、お姿は他の二人の女御様たちに比べて お美しくはないけど、あたしよりは綺麗だな~と感じたわ。 勝気な性格で、はっきりとした物言いではあったけど 先にあたしが入内したこともあってきちんとしたご挨拶をなさったの。 「はじめましてお目にかかります、藤壺の女御様。 何分新参者ですので後宮での暮らしかたは分かりません。 ですからいろいろご迷惑を、おかけすることもあると思いますが 何卒よろしくお願いいたします。」 そういい、あたしに向かって丁寧にお辞儀をなさったの。 だからあたしも慌てて挨拶したわ。 「そんなにかしこまらないでください。あたしもまだ後宮に来たばかり まだ後宮…
なんなのあの人、むかつくわね~ イライライライラ あたしは新しい女御様から数々の嫌がらせを受けていた。 嫉妬は仕方がないけれど、あたしをターゲットにするっていうのは おかしいじゃないの。 あたしが鷹男の帝の寵姫なのが嫌なんだろうけどさ。 こうも毎日毎日嫌味の応酬も相手するのにはめんどくさいのに ただの嫌味を毎日言いに来るくらい余ほど暇なのかしら。 また今日も来るのだろうな。 いつ来るのか分からないから困るわよ。 「藤壺の女御様!大変です。今から梅壺の女御様がお見えですよ。」 「ちょっと先ぶれがないじゃないの」 「そうなんですけど、あっ、もうすぐお姿が見えますわ。」 「いいわ、小萩。とりあえず、…
瑠璃姫と鷹男の想いは、吉野の君が思いをつなげてくれたことにより ついに結ばれることになりました。 けれど、鷹男は主上であり、瑠璃姫は女御の一人で他ならなかったのです。 お互い思いあっていようが、一人の姫君に 情を注ぎこむことは許されないはずでございました。 あたしの名前は瑠璃姫、内大臣家の惣領姫であり、 なんと今を時めく今上帝の藤壺の女御として寵愛を受けているの。 でも、あたしが入内する前から、二人の女御様方がいらっしゃり あたしは新参者の女御でしかなかったの。 最初、お主上とは体裁だけの女御としての扱いだった。 あたしも父さまに言われて無理やり女御として入ったから 藤壺にはお渡りも少なく、あ…
夜の闇の中しずかに、静かに時間が経っていく。 夜の薄っすらと灯る蠟燭の灯が二人を映し出している。 あたしは緊張をしていた。 ついに夜御殿に呼ばれていたの。 以前から滅多にないお召しであったけれど、 あたしと帝の間では体を許したこともない。 ただ本当に隣同士で背中合わせに並んで寝ていただけ。 けれど、今日は違う。 あたしはついに愛する鷹男と夜を共にする。 「瑠璃姫」 お互い単衣姿であたしは少し恥ずかしかった。 鷹男は優しく声をかけてくれる。 両手であたしの顔を挟み込んでそのまま触れ合うだけのキス。 啄むだけでもあたしは真っ赤になってしまう。 あたしの初めてのキスは心臓がどきどきしてどうしたらいい…
吉野の里にて 「吉野の宮様、朝餉をお持ちしました。」 「ありがとう」 私のほかに部屋から誰もいなくなった。 私は吉野の里に拠点を移し数少ない下人を連れて 吉野の里に移るようになった。 私の出現は京では衝撃的な事実だったようで一時期私は 時の人となっていた。 律師だった僧が院の落胤だとは殆どのものに知られていなかったため 貴族たちは我先にと私の後見に就こうとする者たちであふれかえっていた。 私の後見をすることで次代の東宮につけようとするものや 今上帝を廃して私を帝につけようとするもの。 そんな思惑さえ漂う中、院の一言と私の言葉で誰もが私から離れていった。 親王の位を返して臣籍に降りると宣言したの…
吉野の君はなんて言ったの? 兄宮? えっ? だって吉野の君の兄宮といえば今上帝ただ一人のみ。 鷹男がそうだったなんて・・・信じられないわ。 どうしてあたしに黙っていたのよ。 あたしの気持ちが整理しきれていない中 初めて兄弟対決が始まる。 「お主上、私の出自についてはもうお聞きだと存じます。 ですから私の筒井筒の仲の愛おしい姫君をお返しください。」 「駄目だ唯恵!それだけは許さない。 瑠璃姫は私の女御なのだから無理だ。」 「兄宮は藤壺の女御様を大事に扱っていないとお聞きしております。 だからいいのではありませんか?」 「それは・・・」 「兄宮は私が今までどれだけのものを犠牲にしてきたのか分かって…
なんということなのだ・・・ 数日前、私の母宮が急に参内されたことから私の葛藤が始まる。 母宮は驚愕的の事実をわたしに言い放った。 それは唯恵が私の弟宮だということ、 そして院は唯恵を自分の子としてお認めになること。 それだけなら私の心はざわつくことがない、しかし、母宮は さらに私が驚くことを口に出した。 それは私が愛してやまない瑠璃姫を唯恵の手に委ねるということだった。 母宮は私と藤壺の女御の心ないうわさをお聞きになっているようだった。 実際の私は瑠璃姫に自分が帝だということを教えていない。 本当なら瑠璃姫に話してもいいはずなのにだ。 でも私はどうしても帝だということを教えることができなかった…
亥一刻 また急に鷹男が藤壺にやってきた。 あたしは今自分の気持ちが鷹男と吉野の君の間で揺れていることに気づいていた。 でも、自分はどちらを選べばいいのか、どうしたいのかまだ結論をだせずにいたの。 それに今日はいつもの鷹男と雰囲気が違うように感じる。 「瑠璃姫ご機嫌はいかかですか?」 「いつもと一緒だわよ鷹男。」 「そうですか・・・」 「・・・」 「・・・」 会話が続かない・・・どうしたのかしら? いつもなら気障な話をぺらぺら話すのに鷹男の様子が違う・・・ 「鷹男?今日はどうしたの?なにかあった?」 「・・・なにもありませんよ・・・」 「・・・」 「・・・」 「話がないのにどうして来たのよ」 つ…
吉野の里で暮らしていたあたしは、あの頃幼すぎた。 毎日のように大好きな人と遊べて、永遠にこれが続くと思っていたの。 「瑠璃姫、、やがて私が父上に認められ都に呼ばれ官位を授かることになったら お迎えに行ってもいいですか?」 「うん、いいよ!」 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 「吉野の君!瑠璃だよ!遊んでたもうれ!」 「・・・・しくしくるりちゃま、ごめんなさい、あの子は・・・ あのこは・・・修羅の道に進んでしまったのです。」 「え?嘘!だって吉野の君は瑠璃を迎えに来てくれるって 言ってくれたもの。 吉野の君の母上、吉野の君が死んじゃったって嘘だよね!」 「ああ…
もうすぐ唯恵いえ、吉野の君が来られる。 どんなことが起こるのかしら。 「律師唯恵お召により参上いたしました。」 「唯恵わざわざここまでよびつけてすまない」 「いえ、そのようなお言葉を頂けただけて誠に嬉しく思います。」 「して、唯恵」 「はい」 「そなたには昔から苦労ばかりかけた。済まないと思っておる。 今まで辛かったであろう。 いろんな政治の思惑により、そなたのことを我が子と認めるわけにはあの頃、 けしてゆるされないことだったのです。」 「光徳院、私はあの頃あなたに拒まれそして絶望感に酔いしれたこともありました。 しかし今ではあの頃の幼き子供ではありません。 年を重ねるごとに院の考えることも理…
大皇の宮様はあれから何もおっしゃられない、 ただ何か考え事をなさっているようだった。 「大皇の宮様、院御所が山科にあることは伺っておりましたけど 山科は墓所が多いところ。 院は変わった場所にお住まいなのですね。」 「それも院の思し召しなのですよ。院は・・・瑠璃姫よくお聞きになってね。 あなたに朝霧のことを教えた殿方・・・ その方は院の御子。私のお産み申し上げたお主上の弟宮となるお方なのですわ。」 ああ、やっぱり、吉野の君は佐子姫の、大皇の宮様の妹姫の子供だったんだ。 あれから大皇の宮様から昔の話を伺った。 そして八年前に、今上帝が病に伏した折に、先の左大臣と右大臣が あわやのつかみ合いに発展し…
そして大皇の宮様との対面が現実になることになった。 唯恵の正体とは誰なのだろうか。 あたしの運命はどうなるのだろうか? ドキドキ ここは麗景殿 大皇の宮様がついに参内なさったの。 帝の女御だからといってすぐにはご対面できるわけではない。 大皇の宮様を歓迎する宴の後に直接ご対面できるよう、お主上に頼んだのよ。 滅多にお願いしないあたしが大皇の宮様に直接会って話をしたいというものだから、 びっくりなさったみたいだけど、そんなの関係ないわ。 だって吉野の君の父君が誰なのか、はっきりするかもしれないもの。 あ~早くこの宴はおわらないかしら。 つつがなく宴は終わり、ついにあたしは大皇の宮様と二人きりで対…
あれからあたしは、吉野の君、唯恵が気になって仕方がなかった。 それに、呪詛状の件も気になる。 これ以上唯恵が何も起こさなくてはいいのだけど。 あの時気になることがあった。 それは父君のことを尋ねた時のこと。 唯恵の顔、・・・あれは憎しみに染まっていた。 今あたしにできることといえば、もうすぐ参内なさる大皇の宮様に 話しを聞くこと。 ただそれだけしか今はできなかった。 ある日の亥一刻 「瑠璃姫、ふふっ怖い顔をなさって何を考えて見えたのですか? 私のことを考えてくれたのなら嬉しいのですがね。」 パチッ!ウィンク! 「もう吃驚させないでよ、鷹男。」 床下で出会って以来何度か鷹男と語り合うことが多くな…
寝所であたしは唯恵のことを考えすぎたせいか、中々寝付けないでいた。 階に降りて、少し夜風でも浴びようかな? その時だった。 「どこへ行くのですか?」 「誰?」 それは冴え氷る君の異名を持つ美僧唯恵だった。 あまりにも美しいかんばしに、あたしはつい見とれてしまった。 なんであたしの寝所に入れるの? 「声を出しても無駄ですよ。皆眠り薬で女御様を守る人間はいません。」 声を上げようにも唯恵がすぐにあたしの首に手をかける。 まさか、あたしを殺すつもりなの? 「あたしを殺す気?」 手に力は入っていないけれど、あの時、あたしに気が付いていたのね。 目撃者を殺すつもりなのだろう。 「私はあなたをどうしたいの…
今女房の間では噂になっている僧がいる。 あたしは、今その方のことで頭がいっぱいだった。 だってあの人は… 「小萩、最近特に思うんだけど、内の女房達が凄い噂してない?」 「噂と申しあげますと、なんのことでしょうか?」 「なんか素敵な殿方がいるって言いながら、女房達が見に行っちゃったんだけど」 「まあ、それは本当でございますか?なんていうこと。女御様をほおっておいて、噂の君を見に行くだなんてなんて恐れ多い。私、若い女房達を注意しに行ってきますわね。」 「ちょっと小萩、あたしは気にならないから別にいいよ。」 「まあ、瑠璃様!そういう訳には参りません。」 「いいから小萩、それより噂になっている方はどな…
この二人ってどんな関係なんだろう? 最初は権の中将様のほうが上司かと思たけれど、話を聞くと 権の中将様が鷹男を立ててる節がある。だとすると、鷹男は左大将? でも若すぎる。雰囲気や言葉を見ても身分があるのはわかるんだけど、謎だわ。 「藤壺の女御様!」 「はっ、はい!」 うっかり自分の考えに没頭してしまったわ。 鷹男は少し緊張した面持ちで話し始めた。 「それでは本題に入らせていただきます。 実は今上帝が即位して間もなくの頃、今は国母となられた 大皇の宮様のご寝室の枕辺に、 ある朝、「新帝怨参候」と書かれた呪詛状が、 小刀で突き刺されておかれていたのです。 その為、今上帝のお命を狙うものが現れたと思…
かぁ・・・なに、すごいかっこいい人じゃないの。 一体誰なの? あまりのかっこよさに、笑われたことさえ忘れてしまっていた。 「藤壺の女御様、どうかなさいましたか?考え事をなさっているご様子ですが」 「あっごめんなさい、なんでもないわ。」 「そうですか?早速本題に入らせていただいてよろしいですか?」 「あら、いったい何のことかしら?」 あたしは何も知らないふりをしてやった。 この男、顔はいいけど何か怪しい。 あたしの口をふさいだ男と同じじゃないの? 鷹男の右手には布がまかれており、あの手の中にあたしの歯形が残っていたら あたしを襲った人間と同じことになる。 こいつがもし呪詛を置いた犯人であれば、猫…
あれ、生きてるの、あたし… 「藤壺の女御様、藤壺の女御様!」 「あれ、?小萩!」 「あれ?じゃございません、瑠璃さま!」 「まあ興奮しないでよ、小萩」 「もう、瑠璃様は女御様になっても瑠璃様なんですわね。」 「嫌味はいいからあたし・・・どうしてここにいるの?」 「瑠璃様は清涼殿近くでお倒れになっているところを、秋篠権の中将様が 瑠璃様をこの藤壺まで連れてきてくださったのですよ。 高貴な女御様が、清涼殿で倒れられていたので、 何か事件に巻き込まれたんじゃないかと吃驚されましたのよ。 本当なら大事件になるところを、権の中将様が緘口令を敷かれて 大事にはなっていませんが、後でどうしてあそこにいたのか…
藤壺後宮物語2 あれから、長く患っていた今上帝が、ついに東宮に、御譲位をあそばされ、 光徳院と名乗り、ついに新しい帝が誕生なさったの。 新帝の御世になったので、人事も大きく変わって、父さまは、大納言から内大臣に、 幼馴染の高彬は、衛門佐から近衛少将に出世して、右衛少将と呼ばれる身となった。 そして、ついにあたしも、新帝の女御に相応しいように、 父さま、義母さまのおかげで、煌びやかに、 そして豪勢な支度を用意してくださったので、 周りからは、内大臣家の繁栄を羨まれながら、入内することになってしまった。 のちに飛香舎に部屋を賜り、藤壺の女御と言われるようになる。 もちろん、断固拒否したいのは山々だ…
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com) 藤壺後宮物語1 第一章 あるところに、瑠璃姫という名の姫がおりました。 摂関家の流れをくむ惣領姫。格式高い家柄に育った姫でございます。 しかし、一般的な姫とは大きくかけ離れた感性をおもちでした。 姫君というなれば、邸の奥深くに隠され、人前には家族や夫となる男性以外 姿を見せず、普段であるなら扇で顔を隠し慎ましくあれと育てられるもの。 ですがこの姫君は御簾越しを嫌い他人がいなければ御簾を上げて庭におりて 木に登ったり、池の鯉を釣ったりと男君のような振る舞いをしておりました。 瑠璃姫には、一人の弟君がおりましたがその弟君は、雛遊びや、歌合せ、…
皆様方、お久しぶりです。 コロナ渦中いかがお過ごしでしょうか? 以前ブログに投稿したものをかなり編集してオフ本にした小説を ゆっくり投稿しようかと思います。 もう2年以上たちますが買っていただいた方ありがとうございました!
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