あたしは決心が付いた。 あたしの表情に気が付いたのか、高彬はあたしに向かって手を差し出す。 そしてあたしはゆっくりとその手を掴もうと 前に出したとき きゃあ! 反対側のほうに引っ張られあたしは力いっぱい抱きしめられる。 一瞬何が起こったのかわからなかった。 でも抱きしめられて分かった。 「鷹男!」 どうして!?どうして鷹男がここにいるの? 久しぶりの温もりだった。 もう何ヶ月も鷹男から離れていた。 話すこともせず鷹男の気持ちが分からなかった。 信じることができなかった。 そんな鷹男が今あたしの体を抱きしめている。 「東宮様!瑠璃さんを離してください!あなたに瑠璃さんを幸せにすることなんてできな…
あたしの予想通りに後宮が混乱している中、隙を抜けて出るのは難しいことではなかったの。 そしてあたしは右大臣邸へと向かっていった。 当然右大臣邸は警備の者達が物凄い数で見張っているため入るのは容易ではない。 しかし伊達にあたしは普通の姫じゃないわ。 幼い頃から何度も高彬の家である右大臣邸には訪れていた。 そして子供だからこそ見つけれた秘密の抜け道がある。 あたしと高彬と融しか知らない秘密の抜け道。 あたしはその道を使いながら高彬の部屋へと向かった。 床下を潜り抜け下から高彬の部屋へと入れる場所がある。 幼い頃は高彬の元に行くのに抜け道を使って外で隠れて何度遊んだことか。 この道を使えば誰にも見つ…
結局元に戻った状態であたしは自分の部屋に戻った。 もう既に遅かったことに気が付いたのはそれからすぐのことだった。 夕餉が終わり一息がついたころ周りが物凄く騒がしくなっていったの。 沢山の足音が行ったりきたり。 そして警備のものたちが後宮にまで厳戒態勢で張り巡らされ急にピリピリし始めたの。 一体何が起こったのかもわからずにあたし達は部屋を出ることもかなわずにじっとしていることしか できなかった。 そして様子を伺いに行った小萩が大慌てで部屋に飛び込んできたのよ。 「瑠、瑠、瑠璃さま~~~~~~~~~~~~」 女御という尊称も忘れて小萩は大声を上げて中に入ってきたのよ。 「小萩落ち着きなさい。一体何…
一体あの文は何なのか?そして楓さんが言った私達って一体誰なのか? 色々考えそして次に自分がどう動けばいいのか悩み続けた。 楓さんが言った私達って言うのが誰なのかはそう難しいことではなかった。 多分あの小百合という女房のことだと思う。 彼女も鷹男の女房だし楓さんとは同僚だわ。 小百合と楓さんが繋がっているからこそあの文を楓さんがあたしから取り戻そうとしたんだと思う。 だったらどうして? 鷹男を今上帝暗殺者に仕立て上げるとても恐ろしい文なのよ。 あの文の意味を知っていてどうしてあんなに冷静な態度で入られるの? あの文が一体誰が書いたのかそしてその意味を知っているとでもいうの? 考えれば考えるだけ訳…
唐突に自分の目の前に現れた一枚の文。 そこに書かれていたのはとんでもないものだった。 どうすればいいのか分からずあたしはただそれを何度も何度も読み直すことしか出来なかったの。 そして気が付いた。 あれ!? 初めはパニックになっていたため気が付かなかったけどよくよく目を凝らしてみると 鷹男の筆跡にしては少し違う文字が目に映る。 まさか!? もう一度最初から最後までじっくり読んだあたしは気が付いた。 これは鷹男が書いたものじゃないということに。 これは偽物よ! ということは誰かが鷹男に陰謀をかぶせようとしているということなの? でも・・・・一体誰がそんなことを? それよりもこれを早く鷹男に見せない…
重陽の宴が終わり一段落終わった感じがした。 それと同時にずっと心の奥に隠し持っていた気持ちが急速に大きくなっていく。 あたしはあの眼差しを感じたのに、あたしが愛した人の視線を感じたのに無視をしたの。 重陽の宴では沢山の方たちが集まる。 当然鷹男の席もあったわ。 もう何ヶ月も姿を見ていなかった鷹男を見ることが出来て胸がドキドキした。 けしてあたしの方をずっと鷹男が見ていたわけじゃない。 でもあたしに無言の視線がまとわり付く。 それでもあたしは楽曲の演奏を成功させることで必死でしょう。 絶対に鷹男の方は見ない。 そして必死になって演奏をした。 あたしは演奏が成功したことで気持ちも昂ぶっていたけど結…
楓さんからの挑戦を受けたあたしは必死になってさまざまなことを吸収していった。 昔だったらサボって後宮のメンドクサイ仕来りや貴族の仕組みなんて覚えようとも思わなかったはず。 でも今は違う。 楓さんに喧嘩を売られたから買った。それもあるけど勉強をしていくうちにドンドンあたしは のめりこんでいったの。 あんなに大嫌いな勉強が好きになるなんて昔のあたしだったら考えられない。 でも凄く面白いのよ。 楓さんはあたしに後宮で生活するための知識をすごい速さであたしに教えてくれる。 でもいろいろな歴史を楓さん流にアレンジして物語のように話してくれる。 長い長い歴史の中で女たちがどれだけこの京を、後宮を支えてきた…
ずっとずっと瑠璃さんの隣にいるのは僕だと思っていた。 瑠璃さんと結婚をしてそして尊敬する東宮様に一生を仕え 京のために一生を捧げるつもりだった。 それが、僕は愛する人と仕える人を両方ともなくしてしまったんだ。 僕は瑠璃さんを東宮様の手から奪うことを誓った。 そのためには僕の力だけではどうしようもない。 だから右大臣邸で父である右大臣とそして兄である春日大納言を呼び僕がこれから行うことを 話したんだ。 その日は丁度雨が降り続いた夜だった。 静かな夜が雨の音によって僕らの声はかき消されていく。 僕の話を聞いた時意外にも父上は保守的な考えだった。 まだ東宮様から梨壺の女御様への寵愛はなくなってはいな…
売り言葉に買い言葉。 あたしはとんでもないことを口にしていた。 後宮での常識や仕来りをあたしが変えて見せる。 後宮は何百年と続いた古い格式もある。 さまざまな常識や仕来りをこの新参者の女御であるあたしが変えるなんて出来るわけがない。 でも、こんな窮屈な後宮生活をもしあたしの手で変えることが出来るのならやってみたい。 そんな気持ちが沸き起こっていたの。 あたしのとんでもない発言に呆気に取られていた楓さんもすぐに元に戻り一瞬だけ 笑みを浮かべる。 そしてあたしにこう話した。 「さすがは普通の姫君ではない女御様でございますわ。ただし女御様はどうやって そして何を変えるおつもりなのですか?」 「えっ!…
楓さんはただ黙ってあたしを見つめる。 何故何も言わずにあたしをただ見つめるだけなのか分からなかった。 でもあたしも楓さんを見つめはじめて気が付いたことがあった。 それは、あたしを見つめるだけじゃなくてあたしがどんな人間なのか探るような視線を感じたから。 その視線に気が付いた途端あたしは楓さんから目をそらすことなんて絶対に出来なかった。 これはあたしに喧嘩を吹っかけていると思っていいはずでしょう~? あたしは鷹男の女御。 そして楓さんは鷹男の乳母の子でただの女房。 あたしとは全く立場が違う。 自分の立場を傘にする態度は自分は嫌なことだけど喧嘩を売られるようならあたしは買うわ! 最近ではずっと悩み…
あたしは苦しくて苦しくて救いの手を探し握り締めてしまった。 この時、後のことなど全然気にしていなかった。 今の苦しみを取り去って欲しかったから。 でももしあの時あの手を握り締めなかったら あんなことにならなかったかもしれない。 沢山の人たちの人生を狂わさなくても良かったかもしれない。 それでもあの時はこうすることしか出来なかった。 自分のことで精一杯だった。 あたしは愛する人を信じることが出来なかったの。 愛する人と決別してもいいくらい あたしは狂っていたのかもしれない・・・・・愛する人と尊敬する人との間で揺れ動いていた僕は 忠誠心ではなく愛情を選んだ。 ずっとずっと好きだった人の苦しんでいる…
あまりにも過酷の中にいたあたしはもう自分ではどうにも出来ないところにまで 追い詰められていた。 苦しすぎて苦しすぎて誰かに助けてもらいたくて仕方がなかった。 あたしは夜の帳が落ち真っ暗な中階を降りてある場所へと向かって行った。 あの時はただ鷹男のことが分からなくてどうしようかとそう思っていた。 どうすれば鷹男と前と同じ関係に戻れるのか。 そうひたすら鷹男のことを思うだけだった。 でも今は全然違う。 あたしは誰かに助けてもらいたかった。 自分がどれだけ愚かでもそれでもこの苦しみを誰かに助けてもらいたかったの。 この先にあたしを助けてくれる人がいる。 心臓がドキドキしていた。 そこに行ったとしても…
僕は最初その噂を耳にした時嘘だと疑った。 瑠璃さんと東宮様は二人とも本当に愛し合って結ばれたのだから。 だから二人の恋のために僕は瑠璃さんを諦めたんだ。 それなのにどうしてもう瑠璃さん以外に東宮様と噂される女性がいるだなんて くだらない噂があるんだ! 僕は信じられなかった。 その話を僕に教えてくれた公達は特に東宮様の女性関係に疑いは抱かなかった。 元々東宮様は色々な女性を渡り歩いたプレイボーイだし この貴族の世界では女性の噂が多いのは常識のことだったから。 でも・・・・・でも僕にはそれが許せない事だったんだ。 瑠璃さんを愛し幸せにしてくれる。 そう信じていたからこそ東宮様に瑠璃さんを渡したとい…
あたしは高彬から逃げる形で麗景殿に戻った。 いつもだったら鷹男が自分の部屋に戻るまで庭を眺めていたのに 今日は無理だった。 あたしは自分の部屋に戻ることに躊躇していた。 この麗景殿にはまだ鷹男と楓さんの二人が一緒に夜を過ごしている。 それが頭に浮かぶとどうしても同じ麗景殿に居る事が出来ないでいたから。 皆寝静まり、静かな夜。 なんであたしはここに一人で居るんだろう~ どうして今鷹男の隣に居るのがあたしじゃないのだろう~ 沸々と悲しい気持ちが押し寄せてくる。 駄目。 麗景殿になんていられない。 でも戻ったらまた高彬に見つかってしまうかもしれない。 そうした方がいいの? 高彬に縋ったほうがあたしは…
毎夜毎夜鷹男は麗景殿にやってきて泊まって行く。 本来鷹男を独占しているのは麗景殿の主であるあたしのはずが 実は別の人の元で夜を過ごされている事実をもう今では知らない者がいないくらい 後宮内に知れ渡ってしまっていた。 女御の元に寵のある女性を客人として預かるように命令した帝も東宮も 前例がないほど異例のことだった。 なのにその上その主を素通りして他の女性の元に通う鷹男の神経を疑いたくなる。 小萩も内の女房達もさすがのこの仕打ちに鷹男への批判が強まってきてしまっていたの。 後宮内では鷹男とそして楓さんの評判はドンドン下がっていき変わりに あたしへの同情が大半を締めていたの。 今まであたしに嫌味を言…
招かれざる客を預かってから半月が経っていた。 鷹男の寵がある女性だということから麗景殿ではかなり神経質になっていた。 楓という女性が乗り込んできたのですもの。 女房達は警戒してピリピリしていたわ。 けれど彼女は大きな動きを見せることなくずっと静かにしていたの。 出しゃばらずかえってあたしを立ててくれるし女房達の仕事も手伝ってくれる。 あたし達は後宮生活が長い訳じゃない。 だから後宮の行事や応対、人間関係。 分からないことだらけ。 それをゆっくりあたし達に教えてくれるのよ。 段々楓さんはこの麗景殿に素直に迎え入れられるようになっていたのよ。 そのおかげで後宮で生きるための術を修得することが出来た…
あまりにも非常識のお願いにあたしの頭の中は思考停止した状態になっていた。 数秒経ってから小萩の驚きの声、悲鳴、そして鷹男に噛みつくような批難の嵐。 こういう時って不思議ね~ 周りのものが大騒ぎをするとかえって自分は冷静になるみたいで鷹男を問い詰めることもせず 必死に小萩を止めることに夢中になっていたの。 このままでは小萩が何をするかわからない。 一女房であるだけなのにここまで東宮に批難するのは罪に問いかねないことになる。 鷹男はこんなに小萩に罵倒されているのに少し困った顔をしているだけで小萩を 咎めようとはしていない見たい。 あたしはそんなことを思いながら鷹男にどうして楓さんを預からないといけ…
後宮内のあの噂をあたしはまだ信じていなかった。 自分で確かめることもせず噂だけに踊らされるなんてそんなことあたしの性分じゃないわ。 いえ、それだけではなくあたしは鷹男を信じることにしたのだもの。 それから小萩に頼んで硯を用意してもらい鷹男に聞きたいことがあるから今日麗景殿に 来て欲しい。そのような内容を鷹男に送ったの。 しばらくして鷹男から今夜麗景殿に来るという返事をもらった。 まさかくるとは思わなくて少し拍子のけしたわ。 この文を送ったとき実は不安でいっぱいだった。 もしかしたらその楓という女性の元に行くことが忙しくて来れないため上手い理由を付けて こないかも知れない。 そんな思いもあったか…
東宮御所では人払いをして一人自分の思いに耽る一人の男が居た。 東宮御所の主である東宮こと鷹男。 これから起すことに自分の感情が揺れ動き踏ん切りが付かなかったからだ。 私はこのままどこに向かっていくのだろうか? いや、これから起こる事に自分が責任を負わなければならない。 それは自分勝手な思いを実行するにあたった罪なのだから。 瑠璃姫・・・・・今あなたは何を想っているのだろうか? わざとあなたから離れていることに気が付いているのだろうか? もうそろそろ、あの噂があなたの耳に入ってしまっているのだろうかと その噂を聞いたあなたはさぞ嘆いていることだろう。 しかし、あなたは私を信じてくれる。そうおっし…
萩の花の宴が終わりいつもの生活に戻った。 あれから他の女御様からの嫌がらせは殆どなく静かな生活だった。 あたしはあの宴のおかげで他の女御さま達から反感をくらったと危惧していたため 何も起こらないことにホッとしていたの。 まさか、嫌がらせがなかった裏にはあたしを苦しめる大きな原因があろうとは その時は全く気がつきもしなかったの。 最近鷹男は政務が忙しいらしく麗景殿に来ることが少なくなっていた。 ここにこれないと言う文はいつも送られているためあたしはそれを疑いもしなかった。 まさかそれが嘘だとは気がつきもしなかったの。 それが嘘だったっと気が付いたのは内の女房達の会話からだった。 あたしは麗景殿に…
他の女御様がこの部屋を出て行きあたし達だけになったの。 それを確認した後更に弘徽殿の女御様は扇をパチンとならした。 その合図で弘徽殿の女御様つきの女房達とあたしつきの女房達が一斉に部屋を出て行く。 その姿を見た弘徽殿の女御様は小萩と弘徽殿の女御さまの筆頭女房だけ残るように 指示を出した。 そうしてこの部屋には4人以外誰もいなくなってしまったのよ。 先ほどまでは宴で賑わっていたのに今では4人しか残っていないせいか凄く静かに感じた。 あたしは弘徽殿の女御さまの反応がどうなのか分からなくて緊張をしていたのよ。 「ようやく私達だけになりましたね。では改めて麗景殿の女御、私が弘徽殿の女御であり 東宮の母…
弘徽殿の女御様があたし達の前に現れた。さすがは鷹男の母君さま。堂々とされて若々しく豪快な方だった。沢山の女性達の視線を一手に引きうけられているのに気後れもなく堂々とされていた。周囲をぐるりと眺められた時、あたしと一瞬視線が合った様な気がした。そして微笑みをかけられたあたしはドキッとしたわ。まさか微笑を受けるなんて思いもよらなかったから。でもそれは周りには気が付かれない様な一瞬の笑みだった。だから一体なんだったのかあたしには理解が出来なかったの。弘徽殿の女御様の真意があたしには掴めなかった。それでも愛する鷹男の母上さまだから嫌われたくはない。そうあたしは思っていたの。「皆揃ってますね。梨壺の女御…
あたしは女御になった当初はとても幸せだったと思う。 鷹男は毎日のように麗景殿に渡ってくれたし御文も欠かさず私に贈ってくれた。 あたしに凄く気を使ってくれていたんだと思う。 最初だったからなのか、他の女御様からの嫌がらせもなく あたしは後宮生活を満喫することが出来た。 そして絶対に体験できないと思っていたお忍びまで誘ってくれた。 あの頃が凄く幸せだったんだと今なら思う。 どうしてあの頃のあたしはまだ無知だったんだろう~ 後宮の恐ろしさというものを物語などで知っているだけで 実際の体験とは大きく違うことに あたしは気がついていなかった。 後宮でのいろいろな思惑。 さまざまな女の妄執、そして鷹男から…
あたしが麗景殿の女御になって2ヶ月が経った。 後宮ではあたしを迎える宴が毎日続いたの。 いろいろな女御様方からの歓迎の宴が開かれ、 そのお礼の宴をあたしからも開かなければならなかった。 だからこの2ヶ月の間宴の毎日であたしはくたくただったの。 本来あたしはお姫様らしいことはしない性質だったからこの宴は苦痛で仕方がなかった。 話なれない敬語で色々な女御様方と言葉を交わさないとならないし 十二単は物凄く重くて肩が凝るし~ 小萩からすればこれが本来の姫君方の暮らしぶりだからあたしがおかしいんだとか。 まあ~あたしはその辺の姫様と全然違うから仕方がないんだけどね。 数々の宴をこなさないとならないあたし…
好きなのにシリーズ第二弾です。 好きなのに~揺れ動く恋心の続編です。 僕の心はどこへ行くんだろう~ 愛する瑠璃さんは僕を選ばず他の方を選んでしまった。 ずっとずっと瑠璃さんと結婚するのを夢見たのに破れてしまったんだ。 僕はそれでいいのか? そう、自分の気持ちを問いただす。 否 僕はこのままでは終われない。 だから、僕は僕の気持ちのままに向かって進んでみよう。 それが周りに迷惑をかけようとも それでも僕は瑠璃さんを愛しているのだから。 瑠璃さん、僕は瑠璃さんを諦めないからね・・・・・・・あたしは自分が愛した人とついに結ばれることになった。 裏切られたのにそれでもやっぱり傍にいたかった人。 今、と…
私の心の中は嵐のように激情にもまれていた。 瑠璃姫を信じたい気持ちもあるのだが、あの訴えかけるような視線が脳裏を掠める。 思わず内大臣に真相を瑠璃姫に聞いて来るようになどとつい言ってしまった。 本来なら私がじかに瑠璃姫に聞けばいいものを本当のことを聞くのが私は怖いのだ。 そしてすぐに内大臣から瑠璃姫が気を失ったことを聞くことになった。 あの瑠璃姫が気を失うとは、私はそこまで追い詰めてしまったのか、 私はしばらく呆然としてしまった。 このままでいい訳がない。 私は決心を強め、高彬に本心を聞く事に決めたのだ。 「右近の少将高彬、御前のおよびで参上つかまつりました。」 「高彬、そなたは噂を耳にしてお…
あたしは親王さまを御生みした後やっと後宮に戻ったの。 長い事ここを離れたので案外懐かしく思えたの。 そんなに長い事ここにいたわけじゃないくせに ここでは辛い思い出ばかり・・・ でもあたしは意地を張るのは止めたのよ。 だからあたしの気持ちを伝えようと思う。 そうしてあたしは一番初めに鷹男の帝に御挨拶をしたの。 ここでは本当の話など出来ないから形式ばった挨拶しか出来なかったけど 久しぶりに鷹男を見ることができたの。 鷹男は相変わらずかっこよかったわ。 胸がドキドキする。 今度はちゃんと本当のことを鷹男に話すわ。 意地も張らずにきちんと話す。 もしかしたら怒って許してくれないかもしれない。 それでも…
私は前に進むことができず、どうしたものかと思い悩んでいた。 周りは喜びに包まれてはいたが私の心はあまり上を向いていなかった。 確かに世継ぎの次期東宮となる親王が産まれたのだ。 そして唯一愛している瑠璃姫が御産みされた御子だ。 嬉しいのだが、あの瑠璃姫の訴えるような視線が気になって仕方がないのだ。 本来なら瑠璃姫を清涼殿に召せばいいことなのだが 私は未だに姫を召すことができないで居た。 瑠璃姫は念願の親王を産んでくれた。 そして私に正式な挨拶をなさり、そして藤壺に戻った。 もちろんわが子である親王は見せてもらった。 周りの喜びようは凄かった。 なにしろ後見がしっかりとした姫君が御産みした親王であ…
結局あたしはどれだけ考えてもどれだけ考えても高彬への恋心はどこにもなかった。 高彬と燃える様な情熱の恋だったわけじゃない。 たまたまあたしが既成事実を作られそうになった所を 高彬が助けてくれて、そしてその時吉野の里から帰った時 筒井筒の仲になったことを思いだしたんだもの。 あたしはすっかり忘れていてあのときから高彬を意識するようになった。 高彬と結婚すると覚悟を決めたのに なかなか邪魔が入って結局結婚できなかったのよね。 でもあたしさえ本当に高彬を好きなのだとしたら なにがあっても早く結婚できたはず。 でもできなくていろいろな事件に巻き込まれたというか、自分で突っ込んだだけ。 結局吉野の君と再…
私は帝としか私をみない瑠璃姫を見るのは耐えがたかった。 しかし瑠璃姫への愛情がどれだけ経っても消えないのだ。 あんなに欲した相手は瑠璃姫ただ一人なのだ。 だからこそ瑠璃姫を手放すことなどできなかったのだ。 私は瑠璃姫が藤壺として入内してからほぼ毎日のように体を抱いた。 体を合わせている時だけは何故か瑠璃姫の心が見えるような気がするのだ。 しかしどれだけ体をあわせたとしても あくる日目が覚めたときにはいつものように帝としか扱ってくれない。 私の心はどんどん心が落ちていくことしかできないのだ。 そうしていく内に瑠璃姫は私の御子を出産するために三条邸に里下がりしてしまった。 瑠璃姫と会わないことで気…
私はどこで間違ってしまったのだろうか。 いやもう分かっていた事ではないか、初めから私は間違っていたのだ。 しかし、仕方がなかったのだ。 私を選ばずに高彬を選ばれてしまったのだから。 私はどうしても瑠璃姫が欲しかった。 だからこそ、無理やり瑠璃姫の体を蹂躙して 帝の立場を使って信頼のある部下である高彬から瑠璃姫を奪ったのだ。 立場を利用して無理やり瑠璃姫を女御として入内させた。 入内させることを決めた時はすぐに瑠璃姫を迎えようといろいろ動いた。 しかし、右大臣の娘を入内させたことで 私の後見人となってくれた右大臣家を無視することも出来ず その上、瑠璃姫は内大臣家の総領姫。 右大臣家の最大の敵にな…
瑠璃姫から高彬と結婚なさると、 もう会わないという言葉が書かれた手紙が届いた。 瑠璃姫があの唯恵の事件の時二人が筒井筒の仲で 唯恵を待つために吉野の里に瑠璃姫が行ってから 時は随分経った。 そのため私は自分の身分を隠して使いのものを吉野に送っていた。 瑠璃姫からの返事は一度もなかった。 しかし、今日唯一届いた返事がお別れの返事だとは予想もつかなかった。 瑠璃姫あなたはどうして私を受け入れてくれないのですか? 私の心はあなただけのものなのに、それでもあなたは私を拒否なさるのですね。 私への返事がこれとはどうしてそうなってしまうのです。 私が納得するわけを聞かせてください 待っていてください。 あ…
18禁です。 苦手な方はご遠慮ください。 瑠璃姫は気を失っていた。 先ほどまで楽しく笑っていた瑠璃姫は目を瞑り夢の中にいるのだろう。 その姿に私は興奮を押さえきれなかった。 「瑠璃姫!?」 私は瑠璃姫の唇に私の唇を押し当てた。 ただそれだけでどれだけ私の心の中が晴れ渡るというのだろうか。 そして貪っていくうちに強引に 唇をこじ開け瑠璃姫に液体が流れ込んでいく。 甘くそして甘美でこれがなければ私はもう生きていけない。 そう思う程愛おしく離れられない気持ちだけが大きくなる一方だった。 しかしさすがに唇を貪ったことにより瑠璃姫は意識を取り戻してしまった。 「うう~ん????何?・・・鷹男?・・何で・…
私は後悔はけしてしていない・・・・ やっとあなたを手に入れる事ができたのだから・・・・・自分の身を滅ぼそうとそれでもあなたを手に入れる事ができた。私は幸せなのだから・・・・・・・・・・身を滅ぼそうとも私は今まで皆の評価から歴代の帝の中でも一番の賢帝だと 呼ばれていたことを聞いていた。それが私にとっては一番しなければいけないことだとそう思っていたからだ。自分の幸せよりも帝としての責務を果たすことが やらなければならないこと、そう幼い頃から教えられてきたことだった。さまざまな陰謀の影によって私は帝になった。どれだけの人を犠牲にしながら私は帝になってしまったのだろう。だからこそ私は罪の意識を少しは感…
本当なら吉野の君を吉野の里に連れて行くこと自体 もしかしたら追っ手に見つかる危険がある。 だからこの地を訪れることを鷹男はよしとしなかったの。 でも吉野の君は通法寺で炎上した折 遺体で見つかることになっているからそう早くここに追っ手が 現れることはないとそう思ったの。 だってこのまま吉野の君と会うことができなくなること自体寂しいじゃない。 だからあたしは無理を言って想い出の吉野の里に降り立ったの。 さすがに吉野の君が幼き頃から住んでいたお寺には行かずに 内の別荘に吉野の君を連れてきたのよ。 ゆっくり吉野にいることもできないから休まずここに無事にくることができた。 「吉野の君、大丈夫?結構無理を…
あたしは動くことが出来ずにただ固まっていたの。 でもあたしの体は自然にどう動きたいのか分かるように この部屋を抜けだそうとしたその時、力強い体に抱きしめられ唇を奪われた。 「う~ん。ちょっと・・・離してよ!」 「ダメだ!瑠璃お前はどこに向かおうとするんだ!」 「そんなの決まっているでしょうが!通法寺よ!吉野の君を助けなくちゃ! 吉野の君に本当のことを、聞いてこの陰謀には加担してないことを証明してみせる!」 「瑠璃!お前はやっぱり・・・・絶対に行かせないからな瑠璃!」 「何でよ!鷹男だって吉野の君がこんなことを企んだとはそう思わないでしょう。 なのになんで!」 「俺だって吉野は大事な奴だ!なのに…
あたしは無事に保護をされて今は御車に乗っているの。 でもあたしは今何が起こっているのか一刻も聞きたいというのに 検非違使はあたしに詳しいことは全く教えてくれなかったの。 ただ今からあたしを安全な場所に連れて行く。 そういうだけ。 あたしはとにかく早く止まったら 飛び出してでもいいから詳しいことが知りたくてしょうがない。 そうしてしばらくしたら周りがざわつきはじめたの。 御車の速さもゆっくりになり止ったから目的地についた様子。 あたしは早速誰かが入ってくる前に御車の中から飛び出したの。 ところがこの場所は全く知らない場所ではなかったのよ。 だってここは鷹男が住まう東宮御所だったんだから。 まさか…
吉野の君がいなくなってからあたしはここからどうにかしてでようと考えたの。 でもいろいろこの塗籠を調べても外に出る方法が見つからなかった。 それからそんなにたたないうちに見たこともない女房が食事を持ってきてくれたの。 この女房を自分の味方につけようとしても女房が中に入ったとき、 女房の行動を見計らって外に出ようとしても 女房の他に外には護衛の者があたしの姿を出さないように威嚇をしていた。 だからその女房に話しかけることもできず、 全然外に出れなくてどうしようもなかったの。 あれからどれだけたったかはわからなかった。 食事も実際のところ朝、昼、夜でもってきてくれているのかもわからずに あたしはただ…
あたしが気を失ってからどれだけ経ったのか全然分からなかった。 ここは窓もない塗籠だったの。 気付いてからとにかくここをでようと思って戸を開けようとしたけど 鍵がかかっているみたいであかなかったの。 仕方がないからあたしはまずどうしてここに居るのか思いだすことにしたのよ。 確か吉野の君があのお寺に来て欲しいと頼んだからあたしは行っただけ。 そこに吉野の君が現れてそしてあたしは 吉野の君が近づいてきたけどどうしてなのかと思いながら 急に口を何かの布で塞がれて気を失ったのよ。 だったら吉野の君にここに閉じ込められたということになるわ。 でもどうして・・・・ 左大臣達の身分が高い協力者はまさか吉野の君…
鷹男から本当のことが聞けてとても嬉しかった。 でもあたしが知らない間にこんなに大変な事件が始まっていたなんて 全然知らなかった。 なんでこんな大事な事をあたしに黙っていたのか、 あたしを仲間はずれにしたという思いもなくはないけど 今度こそはあたしが鷹男に協力して、鷹男と一緒に暮らせるようにしたい。 そう決意を新たにしたんだけど あたしは吉野の君の元に行く準備をしていたところだったから 一旦吉野の君に連絡をしないといけない。 そう思い小萩に文を書く準備を頼んだ。 そしてあたしは吉野の君の元に行くことができないこと、 鷹男に真実を聞いたため鷹男に協力することを 文に収めそれを至急届けられるように頼…
あたしを抱き締めてくれる人がまさか鷹男だなんてあたしはあまりにも吃驚して しばらくは動けなかった。 鷹男に抱き締められてやっぱりあたしには吉野の君じゃなくて鷹男が好き! そんな強い感情に支配されていた。もし鷹男があたしを好きじゃなくて ただ東宮としての地位を固めるためにあたしに近づいてきたとしても それでも全然構わない。 そういう想いも芽生えてきたの。 でも真実をはっきりとさせたい。 あたしは思いきって鷹男に話しかけたの 「鷹男あんたなんでこんなところにいるのよ」 「それはこちらの台詞だ、瑠璃お前はなんて危険なことをしでかしたんだ! なんのために高彬を護衛に付けたと思っているんだ!」 「やっぱ…
どれくらい時間がたったのかは分からない。 あたしは気を失ったまま何処かに寝かせられていたの。 目が開いて気づいた時、周りには知らない女性達が数人いて あたしの目が醒めたことに気付いて一人は 何処かに行ってしまったの。 残った女性達は甲斐甲斐しくあたしを介抱してくれて お粥をくれたりしてあたしはお腹に食べ物を入れて満足だったわ。 だってお腹がすいていたんだもの。 でもここはどこなの?分からないわ。 「ここはどこ?」 あたしはこの部屋に残っていた女房らしき者達に聞いて見たの。 そうしたらとんでもない言葉が返ってきたのよ。 「こちらは恐れ多くも前の帝さまの第八皇女であられ女八の宮さまのお邸です。」 …
高彬が何を知っているのか探るためにあたしは右大臣家の家人に協力を仰いで 高彬の動きを探った。 さすがに右近の少将といわれる高彬だから、簡単には動きを捉えられない。 それに慎重にしないと 高彬にばれることもあるため時間がかかったの。 それでも心はせかされてもじっくり動かないといけないと思っていたら やっと高彬が動き始めた。 高彬がお忍びで使う貧素な普通の御車に乗って何処かに出かけたという情報を貰い あたしはその御車を追うことにしたの。 近づきすぎると見つかってしまうのである程度離れた距離を保ちながら跡をつけたの。 ところが三条、四条をすぎて東に折れたあたりまでは分かったんだけど そこから見失って…
女房からの知らせを受けたあたしはまたかと思ってしまったの。 最近よく高彬がこの三条邸にくるのよね。 前から弟の融と仲が良かったから遊びには来てくれてはいたけど、 そう頻回にくることはなかったのにどうしたのかしら。 それに吉野の里で鷹男と吉野の君のことは高彬は知ってるの。 二人が全然私のとこに来てくれないからついね、高彬には相談していたの。 それもあってなのか高彬は結構ずけずけ言ってくるのよね。 あたしはそんなことを考えながら 高彬をいつもどおりに迎えることにしたのよ。 「瑠璃さん、ご機嫌はどうかな?」 「ご機嫌は全然よくないわよ。 あんた最近毎日ここに来るんだからあたしの表情を見て分かるでしょ…
東宮御所から出てきてあたしは吉野の君の文を貰っても なかなか自分の気持ちが落ち着かない日々が続いたの。 鷹男に告白される前からずっと吉野の君が 迎えに来てくれるとそう信じて待っていたはずなのに 今では何故か吉野の君と一緒に暮らすイメ―ジが浮かばない。 あんなに吉野の君を待ち望んでいたはずなのに それなのに嬉しいという気持ちが全く思わなくなっていた。 だってあたしは鷹男が好きだと言う気持ちに気付いてしまったのだから。 その時あたしは吉野の君が迎えに来てくれるのを待ってはいたけど恋じゃなかった。 いつも優しくあたしを見守ってくれていた吉野の君は あたしにとっておにいちゃんだったんだもの。 吉野の里…
吉野の君からやっと連絡が入った。 あたしは本当のことが知りたかったの。 胸はドキドキする。 もし、面と向かってあたしのことなんて好きじゃない、そういわれたらあたしは どうなってしまうのかしら・・・・・・ ある一室まで案内されてあたしは鷹男を待つことにしたの。 この部屋は何故だか少し暗かった。 燭台は一室にしては数が少なく変りに几帳が多く飾られていた。 まるであたしの姿を隠すかのように感じていたの。 そんな時、足音がこちらに近づいてくるような気がして息を潜めたの。 そうして誰かがあたしに気付かずに入ってきたのよ。 「よろしいのですか?兄上、瑠璃姫に会わなくても」 「会っても仕方がないじゃないか。…
別れを告げられてから数日がたったの。 どうして鷹男はあたしにあんなことを言ったのかずっと考え続けていた。 それでも、別れの理由は分からなかった。 そんなある日、あたしは階でまた考え事をしていたの。 しばらくしたら人影が見えたからあたしは思わず叫んでしまった。 「鷹男!」 でもあたしが望んだ相手ではなかったの。 あたしの知らない殿方だった。 蒼白く浮かんだそれはもう美しい顔の人だったの。 「瑠璃姫、やがてわたしが父上に認められ 都に呼ばれ官位を授かることが出来たら迎えに来てもいいですか?」 「まさか吉野の君なの?」 「はい、瑠璃姫、お久しぶりです。あなたを待たせすぎてしまって本当にすみません。 …
お互い告白を済ませ、自分達の想いを確かめあって あたしたちはそれから吉野の里を離れたの。 でも今度はちゃんと鷹男の身分も聞いて以前のように音信不通ではなく 頻繁に非公式ではあるけど 鷹男から何度も御文をもらってあたしも贈ってと 中々あえないけどそれでも気持ちが通じていると そう思っていたのよ。 鷹男は本当ならすぐにでもあたしを東宮妃にしたいと言ってくれてたけど 実際はあたしと吉野の里で再会する前から 右大臣家の姫君が鷹男の女御さまになる話は決まっていたみたいで、 だから右大臣家の姫君がまず東宮妃として入内なさってから あたしに宣旨がくだされるってわけなの。 吉野の里で別れる前にすでにその話は鷹…
驚いた告白を受けたあたしは物凄く悩んでしまった。 今まで鷹男は小憎らしい嫌な奴で、 あたしのことなんて好意をもっていたそぶりなんて感じられなかったのに、爆弾発言! どうしようか悩んでしまった。 その上返事はすぐに出してだなんてあんまりよ。 あたしは鷹男への気持ちでいっぱいだった。 でもあたしは初めは吉野の君が好きだったはず。 吉野の君があたしを迎えにきてくれる そう言ってくれたから、だから待っていたのよ。 吉野の里にいたときからあたしは優しい吉野の君が大好きだった。 なのにあたしが鷹男を選んだら吉野の君を裏切ることになる・・・ でも吉野の君は何年もあたしをほったらかしにしていた。 だから吉野の…
吉野の里でまた鷹男と過ごすことが出来るとは思いもよらなかったけど それでもやっぱり楽しくて仕方がなかった。 幼き頃と違って体も大きくなり、 あの頃とは違ってさまざまな発見もすることが出来た。 でも後少しで鷹男は吉野の里からまた離れていく。 そんな寂しさが胸にささる。 そんな時に鷹男はとんでもない事をあたしに聞いてきたのよ。 「瑠璃、お前は何で誰とも結婚しないんだ?」 「なんで、鷹男はあたしがまだ独身なの知っているのよ。」 「当たり前だろう。これでも身分は高いんだ。 瑠璃はこれでも大納言家の姫君だからな~ 未だに独身だというのは噂で聞いているよ。」 「噂ですって!どうせくだらない噂なんでしょう」…
あたしは泣き続けていて鷹男はずっと戸惑ったまま なんとかあたしを宥めようと必死だったの。 だからあたしは段々そんな鷹男の姿をみて笑えるようになってしまった。 初めは本当の涙だったけど段々涙も止まり、 笑うのを必死でこらえていたんだけど さっきと様子が違うあたしに気付いた鷹男は怒り出したの。 「こら、瑠璃。さっきまで泣いていたのに今は笑っているじゃないか。 俺はどうしたらいいかと凄く焦ったんだぞ!」 「ふん、焦って当然じゃない。 あんなにあたしをほったらかしにしてたんだからいい気味」 「お前は全然変ってないよ。可愛くない」 「別に鷹男に可愛いと思われたくないもの。」 「そうだったな」 急に元気が…
あたしは男になんて興味がない。 初恋の吉野の君はあれから何年もたっているのに連絡さえしてくれない。 そして鷹男も・・・本名を言ってくれなかった。 だから一生独身を貫き通してやる。 そう思っているのに父さまは全然あたしのいうことを聞かずに いつもいろいろな貴族の息子を勧めてくるのよね。 まだ13,4の頃はよかった。 あの頃はまだあたしも裳着を済ませて間がないときだったし あたしはあの頃吉野の君が迎えに来てくれるのだけを夢見ていたんだから。 父さまも吉野の君の身分を知りはしなかったけど、 あたしが誰か身分の高いものと約束していると 信じてくれたから何も言わなかったのに、 待てども待てども吉野の君か…
あたしたちはあれから仲良く3人で吉野の里を駆け回った。 会えば口げんかばかりしていたあたしと鷹男を いつも吉野の君が上手く中に入って収めてくれるから あたしたちの関係は上手くいっていたように思う。 どちらかというとすぐに行動に移るあたしを からかってばかりいる鷹男に怒り狂うあたしを 宥めてくれる吉野の君。 鷹男が一番年上なのに吉野の君が周りを良く見てあたしたちを守ってくれるんだから 鷹男は全然役には立たないのよね。 鷹男は悪餓鬼大将で、吉野の君は優しいお兄さん。そんな対照的な二人だったけど やっぱり吉野の君はいつもあたしのことを考えてくれるし優しい素敵な人。 変りに鷹男みたいに我儘で我が強くて…
あたしが9歳の頃、母上が弟の融を産んだ後体調を崩したままだったから あたしは吉野に住む祖母に預けられそこで暮らしていた。 そこには一人の童がいたの お祖母さまの話ではその童は高貴な身分の方の御落胤らしいんだけど 母上の身分が低いから認知もされていなくて 本妻に迫害されてここ吉野の里に逃れてきたらしいの だから本名はしらなかった。 あたしはその童を吉野の君と呼んでいたのよ。 彼は11歳でやたら綺麗な顔をしていた。 いつも二人で1日中花摘みやかけっこ、かくれんぼをして遊んでいたわ そんなある日、吉野の君があたしにこういったの。 「瑠璃姫、やがて私が父上に認められ都に呼ばれ官位を授かることが出来たら…
あたしたちは吉野まで来ていた。 初めての外出にワクワクしてきた。 それもあたしの子供時代に育った吉野ですもの。 感慨深いは~ こうして京から時間をかけて吉野についたんだけれど さすがにくたくたで吉野の里を見るのは次の日になった。 そうしてやっと外に出れた。 満開の桜のその美しさと言ったら言葉に出ないほどだった。 天気がすごくよくて雲一つない絶好の景色! 子供たちはあっという間に外を駆け出していく。 家人たちが慌てて後を追っていく姿に私は笑ってしまう。 これほどの美しさにじっとすることなんてできないでしょう~ 「瑠璃姫」 「鷹男」 あたしの隣には鷹男がいる。 その時だった。 「瑠璃姫」 吉野の君…
あれから数年がたちあたしは三人の母親になっていた。 難産だった一人目の子供は今は東宮になりそのあと二宮と姫宮を授かった。 「「母宮」」 二宮と姫宮があたしに抱き着いてくる。 あ~~~可愛い! あたしは今では中宮となっていた。 今でも信じられないけれど中宮になったからと言って 何か変わったことがあるわけでもない。 でも、子供たちを授かり子供の笑顔を見るだけで幸せになってくるわ。 「母宮様」 「あら、東宮あなたも来たの?」 「「兄上!」」 東宮になった宗鷹は鷹男に顔も性格もそっくりで自慢の子供よ。 二宮と姫宮はあたしと同じ顔で性格もそっくりで女房達を困らせてばかりいるわ。 そんな三人はすごく仲が良…
夏は意識を失っていたため心配になったわ。 何か大変な病でも患っているのかしら。 それよりも高彬の表情が真っ青で驚いた。 夏の手を握りなかなか手を離そうとしないから大変だった。 医師が現れ何とか離れたけれど医師の言う言葉に皆が驚きの表情を表した。 「おめでとうございます。彼女はご懐妊されています。」 「まあ~」 あたしはびっくりしたわ。 夏もあたしと同じく懐妊だなんて! でも誰の子を授かったのだろうか? そう思っていたら高彬が号泣しだした。 「夏!」 「高彬様?」 夏は目を覚ましたみたい。 高彬の号泣に周囲は目が点だったわ。 それから高彬はいきなりこう発言したの。 「夏!結婚してください!もう待…
あたしは今後宮ではなく三条邸に戻っていた。 あれから恙なく平和な日が続きやっと里下がりして三条邸に来ることができた。 あたしの懐妊に鷹男はじめ父さまや融や大皇の宮様、様々な人から お祝いの文を頂いたり直接感謝の言葉を頂いたり 懐妊が分かった時はすごく忙しかった。 妊娠初期は何があるかわからないからと小萩たちがすごくピリピリしていて 何もしてないのに動いたら駄目だとかちょっと散歩に行くのさえ制限されて ストレス全開よ! でもご飯がなかなか口に入らなくて苦労したわ。 妊娠していると皆食べるものが変わるのね。 あたしは柑橘類しか食べられなくなってこってりしたものは匂いを嗅ぐだけで 吐いてしまって大変…
後宮も落ち着き始め、今上帝の寵愛をご存分に堪能された藤壺の女御。 今一番ときめきされている女御様であらせられます。 数々の事件を乗り越えさらにお二人の絆も強くなっていったのでございます。 今日は藤宮様が参内して会いに来ることになっているの。 短い間で後宮はめまぐるしく変わってしまったから 藤宮様は心配なさっていてわざわざご機嫌伺にいらっしゃるのよ。 後宮は今女御様が二人だけで寂しくなってしまい 藤宮様の参内は久々に華やかな宴が催されることになるわ。 そうそう、新しい女御様の入内は保留のままよ。 まだ、新たな女御様をお迎えできるほどの余裕はないって 鷹男が貴族たちに宣言してくれて今は私と丞香殿の…
最近蔵人、近衛府などである人物の噂が持ちきりなのだ。 いったい誰なのか気になってはいたが、それは私には関係がなかったから あえて蔵人頭に聞くことはしなかった。 でも、こうも噂が長引きそしてその中の中心人物である方が ただの女房だということが分かって驚いたのだ。 若い公達たちの片恋人の噂なら沢山あるだろうに多くの若者たちが 彼女に思いを寄せるだなんて。 私の愛する姫みたいな人だな~っと初めはそれだけの興味でしかなかった。 すぐに男たちはその女房に飽きるだろうとそう思っていたのに どんどんその女房に好意を持つ者たちは増える一方。 ついつい、いらぬ好奇心にかられ別当に聞いたのだが彼はさすがに地位が高…
そんなある日のこと、こんな話題になってしまったのよ。 「ねえ~そういえば三条さんはどこの出身なの?」 「ああ~そういえばきいたことがなかったなあ~」 「あのう、内大臣様にここを紹介されたんですけど。」 「へえ~内大臣様といえば藤壺の女御様だよなあ~」 「そうだよなあ~」 あたしの噂かあ~変な噂しかないだろうけどどんなのだろう。 公達たちと女房の噂は違うのかしら? 「何か藤壺の女御様にあるんですか?」 「いやあ全然。たださ、藤壺の女御様に今は寵愛が続いているだろう? 周りがかなり不思議がっているんだよなあ~」 「そうそう、藤壺の女御様の容姿は十人並みらしいしさ~ なんで寵愛が高いのか分からないん…
あれから左近中将と梅壺の女御様の陰謀が終わり事件は落ち着きを見せた。 でも、あたしたち後宮はのんびりしているけれど 役人たちはその後の処理に追われていたの。 あたしはそれを知ってはいたけど何もできない自分に歯がゆい思いを覚えたの。 鷹男はまだまだ忙しいんだもの。 あたしが何かできることを見つけて鷹男を助けたい。 そんな思いを胸に秘めて早速行動に移したの。 「三条さん、悪いけど今お茶を持ってきてくれないか?」 「はい、ただいまお待ちします。」 「あっ、こっちも」 「はい、行きますのでお待ちください」 ぱたぱたぱた あたしは目まぐるしく役人たちのお手伝いをしているの。 ここは行書殿、蔵人頭、蔵人な…
私は計画が順調すぎて笑みが隠し切れず扇で顔を隠す。 目の前ではお主上が裏切られたと表情を変えて真っ蒼になっていた。 だが私はけしてお主上を裏切ることはない。 彼は私を帥の宮として忘れられていた境遇から引き揚げてくれた存在であるから。 私は一生お主上に忠誠を誓うつもりだ。 だがお主上の思惑と私の思惑が一致しないこともある。 それは今回のこと。 梅壺の女御の入内である。 お主上にはご寵愛なさる藤壺の女御がいる。 噂では大して美しくもなく、猿のような気性で鄙びていて女御としては ふさわしい方ではない。 だが内大臣家の惣領姫。 内大臣の後見はお主上にとっては必要な方。 だからこそ私の願いに近づくと思っ…
あれからあたしはどれだけ日が経ったのか分からない。 そんなに時間は経ってないのかもしれない。 「にゃあ~」 猫? 何でここにいるの? それよりもここはさっきの塗籠と変わらないわ。 変わらず力が抜けていたけれど、人の気配に気づきあたしは睨みつけた。 そこにはやはり男が笑みを浮かべあたしの前にいたの。 「何も知らずにいれば命まで取るつもりなどなかったのに あなたは変なところで賢いようですね。」 「あんたは左近中将よね!あんた何をしているのか分かっているの? あたしはこれでも女御よ。そんなあたしを閉じ込めるだなんて大罪人よ!」 「いいえ、大罪人はあなたの方ですよ。あなたはこの麻薬である香を 梅壺の女…
なんと、あの融が行方不明! あたしは鷹男がいなかったら倒れていたかもしれない。 でも鷹男に励まされてあたしはすぐに立ち直った。 この情報は融付きの夏から至急連絡が入ったことなんだけど 融が式部の卿の宮様邸に行ったらしいんだけど いつもと融の様子がおかしかったようよ。 夏は融についてこないように言われ傍にいることができなかったの。 不審に思った夏が式部卿の宮様邸を張っていたら それからしばらくして気を失った姿で融がどこかに連れ出されたようなの。 だからすぐにあたしに知らせてくれたみたい。 あたしは夏にすぐ梅壺の女御様が見える源大納言の邸に向かうよう指示をした。 胸が苦しい、いやな予感がする。 あ…
「ねえ鷹男、聞きたいことがあるんだけど少し聞きずらくて・・・」 「瑠璃姫にしては珍しいですね。言葉に言いよどむだなんて」 「仕方がないじゃない、本当なら聞きたくないもの。でも・・・」 「そうですか、ではいったいなんなのですか?」 「あのね、梅壺の女御様がご懐妊される前に一度日が昇ってから 梅壺に戻られた時があったじゃない? その時の香の匂いなんて覚えてるわけないわよね。ごめんなさい、 変なことを聞いたわ。」 「いいのですよ。あのときのことですか・・・そうですね。 あの日のことは私にとっても不思議なことだったのですよ。 それはね、彼女の体に触れた覚えがないからなのです。」 「え!そんな馬鹿な。だ…
「左近の中将様のことですか?」 「ええ、なんでもいいから知っていることを聞きたいんだけど」 「そうですわね、とても美男子で男らしくてああ~女御様には言えないわ~」 「あのね、小夜、そんなことを聞いているんじゃなくて どんな家柄とか性格とかそういうことよ。」 「まあ~藤壺の女御様は相変わらずせっかちでございますね。 ふふふっ、まあ~よろしいですわ。左近の中将様は梅壺の女御様の母方の弟君の子で 梅壺の女御様からしたら従姉妹にあたりますわ。 能力は高くてあの年で中将の地位を獲得なさったのですわ。」 「もしかして、左近の中将は式部の卿の宮様の子息なの?」 「ええ~そうでございますが実は実子ではないので…
それから幾日か経ってあたしの耳に吃驚なことが入ったのよ。 なんとあの融が通う貴族の姫君がいるというのよ。 一度も浮名を流したことがない弟の融が、もう姫君に通うだなんて。 あの子はあれでも内大臣家の長男だしあたしはすでに女御として 後宮に納まっているでしょう。 そりゃあ~性格が頼りないとはいえ高彬ほどでもなくても 出世は約束されているようなもの。 だから融が誰かの姫君に通うのは仕方がない話なのよね。 でも一体どんな姫君に通っているのかしら。 姉としては少し心配だわね。 あの子は優しいところがあって結構騙されそうだもの。 でもやっぱり応援するべきよね。 ああ~だれか気になるなあ~ そうだ、小萩に聞…
瑠璃姫と梅壺の女御の騒動は帝によって喧嘩両成敗ですぐに後宮は 落ち着き始めておりました。 けれど、帝の後継者が決まらぬ今、女御たちの諍いはとどまるところを 知らないほど深刻な話ではあったのです。 はあ~この日が一番嫌い。 今日はあたしの元に鷹男がこないこと それは何を意味するのか。 鷹男があたし以外の女御様をお召しになること。 だからあたしは一人寝をしないといけないの。 最近は鷹男と一緒に寝ることになれてしまって 夜を過ごすことが怖くなってしまったから。 あたしは幸せ者なのにそれでも今日召される女御様に嫉妬してしまう。 あたしが殆ど鷹男を独り占めしているくせにこんなわがまま馬鹿よね。 鷹男はあ…
たった一人の弟である融が藤壺にご機嫌伺にやってきていた。 あたしは元から堅苦しい挨拶が嫌いだから 早々に信頼する女房たち以外引き下げ談笑をしていた。 融にはあることを頼もうと思っていたから丁度良かったから・・・ 弟だから几帳も外して面と向かって話をしていた。 「融、久しぶりね。元気してた?」 「うん、僕は元気だよ。それにしても姉さんは女御様になっても姉さんだよね。 色々なこと起こしてさ、僕は後で話を聞くばかり、びっくりさせないでよ。」 「何よ!あたしは何もしてないわ、いつも悪さをしてくる人に言ってよ。」 安易にあたしと梅壺の女御様とのことを言ってくる融。 もう、やっと落ち着いてきたんだからほっ…
「瑠璃姫、怖い顔をしてどうされたのですか?」 「鷹男!何よ吃驚するじゃないの。」 「こちらに伺うことは知らせてますが私が来てはいけませんでしたか?」 「そんなことないわ、それより鷹男、あたしの悪い噂を聞いてるわよね。 まさかその噂は信じてないわよね。」 「もちろんですよ。瑠璃姫の体には 私以外の殿方をあなたが受け付けることができないほどに植え付けてますからね。」 「ちょっと馬鹿!あんたは何を恥ずかしいことを言うのよ。」 「ふふふっこれは本心なんですがね。でも瑠璃姫への悪意ある噂は さすがに私の耳にも届いていますよ。 私の寵愛している藤壺の女御が私以外の殿方と恋文を交わしていると・・・」 「そん…
「藤壺の女御様、お主上から御文が届いております。」 「あらっそう、ふふふ」 「瑠璃様は羨ましいですわ。お主上から御文が届くなんて。毎日のように こちらにお渡りになるのに夜だけではなく日中でさえ独り占めなさるなんて。」 「ちょっとやだ小萩。からかわないでよ。恥ずかしいじゃない」 「ふふ瑠璃様。よいではありませんか。前まではそんな余裕もなかったのですから やはり瑠璃様には笑顔が一番でございますわ。」 「そうでございますわ。藤壺の女御様は元気が一番ですわ。」 「もう早苗までそんなことを言って!」 あたしの一番の女房はもちろん小萩だけどこの早苗もあたしは信用しているの。 若くはあるけれどあたしを信用し…
私の目の前では様々な意見が飛び交っていた。 うんざりするような話題だが、貴族たちにとっては必至な話題。 そう、後継者問題の話であった。 まだ瑠璃姫が入内して半年しか経っていないのに もう新たな女御を迎えよと貴族たちが私に迫ってきていた。 何故女御を迎えなくてはならぬのだ。 私には愛する瑠璃姫がいるではないか。 だが、帝である私が一人の女御の名前を出すことは許されない。 ぐっと我慢するしかできずただただ会議がそっと終了するのを待っていた。 何故こんな話になってしまったのだろうか? 未だに親王が生まれないことで貴族たちが議論している中 私は思い更けていた。 どうせ、新たな女御を迎えるには早いし 右…
でもあれからこれといったことは見つからず八方塞がりが続いていた。 そんなある日、あたしは眠れなくて藤壺の前の庭先に降りて庭を眺めていたの。 そしてどれくらい経ったのか分からないけどあたしは気になる蝋燭の灯に気づいたの。 こんな時間についている蝋燭の灯。 今は寅の刻、皆が静まっても仕方がない刻。 それなのに、その蠟燭の光がゆらゆらと動いていたの。 誰か起きているんだろうけどこの時間に起きてるなんて気になるじゃない。 その灯に導かれるように近づいたの。 そうしたら一人の女房がいるだけだった。 それだけならあたしはそっと離れたと思ったわ。 でもその女房がしている行為に目が疑ったの。 それはあたしの桂…
丞香殿の女房の小夜という女が梅壺の女御様と組んで あたしを罠に嵌めようとしている。 でも、その証拠はない。 あたしが床下で聞いていたと言っても却って悪い噂が付きまとうだけですものね。 床下に潜る変人女御様! だなんて噂になったら父さまは当分寝床から出てこれなくなるわね。 それはそれで面白いけど、それでは梅壺の女御様を喜ばせることになってしまうわ。 そんなあたしが物思いをしていた矢先、他の女房があたしに話しかけたの。 「藤壺の女御様、大皇の宮様がお主上のご機嫌伺いに参内なさったおり 藤壺の女御様のお体までご心配なさり、 今からこちらに伺いたいと申し立てて見えますがいかがなさいますか?」 「えっ?…
どうしようかな~ あんなに後ろ向きだったのに鷹男に励まされたら元気が出ちゃった。 案外気分がいいものよね。 「瑠璃様、なんだか今日は機嫌がいいですね。何かございましたか?」 「ううん、何もないけど、このままのあたしじゃだめだな~って思って。」 「そうでしたらよいのですが。最近の瑠璃様は大人しかったですものね。」 「大人しいとは何よ、あの梅壺の女御様はあたしの行動をなぜか知っていて 痛いところを突いてくるんですもの。だから意味のない当てこすりならいいけど 芯を突いてくるからこそ憂鬱度も増したんじゃないの・・・?」 「どうなさったのですか?」 「待って、あれっ、何かひかかる・・・」 そうよ、なんで…
あれから大きな動きはないけど、あたしと梅壺の女御様との仲が 悪いという噂はすぐに後宮内を駆け巡っていった。 あれから毎日の様な嫌味の応酬にあたしでさえだんだん気が滅入っていったの。 あたしのバックには内大臣の父さまもいることだから表立っては何もない。 血筋は向こうのほうが上だけど、財力はうちのほうが上だし 両方兼ね備えたうちはどう見ても格は上よ。 でも今は親王様が御生まれではない分、誰にでも中宮の地位に就く可能性は高い。 でも丞香殿の女御様は病で臥せて見えることがおおいし、桐壺の女御様は バックが弱いうえ、気弱な方。 そうなるとやっぱり恐れながら次期東宮様を御産みすることを 望まれているのはあ…
梅壺の女御様と初めてお会いした時、お姿は他の二人の女御様たちに比べて お美しくはないけど、あたしよりは綺麗だな~と感じたわ。 勝気な性格で、はっきりとした物言いではあったけど 先にあたしが入内したこともあってきちんとしたご挨拶をなさったの。 「はじめましてお目にかかります、藤壺の女御様。 何分新参者ですので後宮での暮らしかたは分かりません。 ですからいろいろご迷惑を、おかけすることもあると思いますが 何卒よろしくお願いいたします。」 そういい、あたしに向かって丁寧にお辞儀をなさったの。 だからあたしも慌てて挨拶したわ。 「そんなにかしこまらないでください。あたしもまだ後宮に来たばかり まだ後宮…
なんなのあの人、むかつくわね~ イライライライラ あたしは新しい女御様から数々の嫌がらせを受けていた。 嫉妬は仕方がないけれど、あたしをターゲットにするっていうのは おかしいじゃないの。 あたしが鷹男の帝の寵姫なのが嫌なんだろうけどさ。 こうも毎日毎日嫌味の応酬も相手するのにはめんどくさいのに ただの嫌味を毎日言いに来るくらい余ほど暇なのかしら。 また今日も来るのだろうな。 いつ来るのか分からないから困るわよ。 「藤壺の女御様!大変です。今から梅壺の女御様がお見えですよ。」 「ちょっと先ぶれがないじゃないの」 「そうなんですけど、あっ、もうすぐお姿が見えますわ。」 「いいわ、小萩。とりあえず、…
瑠璃姫と鷹男の想いは、吉野の君が思いをつなげてくれたことにより ついに結ばれることになりました。 けれど、鷹男は主上であり、瑠璃姫は女御の一人で他ならなかったのです。 お互い思いあっていようが、一人の姫君に 情を注ぎこむことは許されないはずでございました。 あたしの名前は瑠璃姫、内大臣家の惣領姫であり、 なんと今を時めく今上帝の藤壺の女御として寵愛を受けているの。 でも、あたしが入内する前から、二人の女御様方がいらっしゃり あたしは新参者の女御でしかなかったの。 最初、お主上とは体裁だけの女御としての扱いだった。 あたしも父さまに言われて無理やり女御として入ったから 藤壺にはお渡りも少なく、あ…
夜の闇の中しずかに、静かに時間が経っていく。 夜の薄っすらと灯る蠟燭の灯が二人を映し出している。 あたしは緊張をしていた。 ついに夜御殿に呼ばれていたの。 以前から滅多にないお召しであったけれど、 あたしと帝の間では体を許したこともない。 ただ本当に隣同士で背中合わせに並んで寝ていただけ。 けれど、今日は違う。 あたしはついに愛する鷹男と夜を共にする。 「瑠璃姫」 お互い単衣姿であたしは少し恥ずかしかった。 鷹男は優しく声をかけてくれる。 両手であたしの顔を挟み込んでそのまま触れ合うだけのキス。 啄むだけでもあたしは真っ赤になってしまう。 あたしの初めてのキスは心臓がどきどきしてどうしたらいい…
吉野の里にて 「吉野の宮様、朝餉をお持ちしました。」 「ありがとう」 私のほかに部屋から誰もいなくなった。 私は吉野の里に拠点を移し数少ない下人を連れて 吉野の里に移るようになった。 私の出現は京では衝撃的な事実だったようで一時期私は 時の人となっていた。 律師だった僧が院の落胤だとは殆どのものに知られていなかったため 貴族たちは我先にと私の後見に就こうとする者たちであふれかえっていた。 私の後見をすることで次代の東宮につけようとするものや 今上帝を廃して私を帝につけようとするもの。 そんな思惑さえ漂う中、院の一言と私の言葉で誰もが私から離れていった。 親王の位を返して臣籍に降りると宣言したの…
吉野の君はなんて言ったの? 兄宮? えっ? だって吉野の君の兄宮といえば今上帝ただ一人のみ。 鷹男がそうだったなんて・・・信じられないわ。 どうしてあたしに黙っていたのよ。 あたしの気持ちが整理しきれていない中 初めて兄弟対決が始まる。 「お主上、私の出自についてはもうお聞きだと存じます。 ですから私の筒井筒の仲の愛おしい姫君をお返しください。」 「駄目だ唯恵!それだけは許さない。 瑠璃姫は私の女御なのだから無理だ。」 「兄宮は藤壺の女御様を大事に扱っていないとお聞きしております。 だからいいのではありませんか?」 「それは・・・」 「兄宮は私が今までどれだけのものを犠牲にしてきたのか分かって…
なんということなのだ・・・ 数日前、私の母宮が急に参内されたことから私の葛藤が始まる。 母宮は驚愕的の事実をわたしに言い放った。 それは唯恵が私の弟宮だということ、 そして院は唯恵を自分の子としてお認めになること。 それだけなら私の心はざわつくことがない、しかし、母宮は さらに私が驚くことを口に出した。 それは私が愛してやまない瑠璃姫を唯恵の手に委ねるということだった。 母宮は私と藤壺の女御の心ないうわさをお聞きになっているようだった。 実際の私は瑠璃姫に自分が帝だということを教えていない。 本当なら瑠璃姫に話してもいいはずなのにだ。 でも私はどうしても帝だということを教えることができなかった…
亥一刻 また急に鷹男が藤壺にやってきた。 あたしは今自分の気持ちが鷹男と吉野の君の間で揺れていることに気づいていた。 でも、自分はどちらを選べばいいのか、どうしたいのかまだ結論をだせずにいたの。 それに今日はいつもの鷹男と雰囲気が違うように感じる。 「瑠璃姫ご機嫌はいかかですか?」 「いつもと一緒だわよ鷹男。」 「そうですか・・・」 「・・・」 「・・・」 会話が続かない・・・どうしたのかしら? いつもなら気障な話をぺらぺら話すのに鷹男の様子が違う・・・ 「鷹男?今日はどうしたの?なにかあった?」 「・・・なにもありませんよ・・・」 「・・・」 「・・・」 「話がないのにどうして来たのよ」 つ…
吉野の里で暮らしていたあたしは、あの頃幼すぎた。 毎日のように大好きな人と遊べて、永遠にこれが続くと思っていたの。 「瑠璃姫、、やがて私が父上に認められ都に呼ばれ官位を授かることになったら お迎えに行ってもいいですか?」 「うん、いいよ!」 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 「吉野の君!瑠璃だよ!遊んでたもうれ!」 「・・・・しくしくるりちゃま、ごめんなさい、あの子は・・・ あのこは・・・修羅の道に進んでしまったのです。」 「え?嘘!だって吉野の君は瑠璃を迎えに来てくれるって 言ってくれたもの。 吉野の君の母上、吉野の君が死んじゃったって嘘だよね!」 「ああ…
もうすぐ唯恵いえ、吉野の君が来られる。 どんなことが起こるのかしら。 「律師唯恵お召により参上いたしました。」 「唯恵わざわざここまでよびつけてすまない」 「いえ、そのようなお言葉を頂けただけて誠に嬉しく思います。」 「して、唯恵」 「はい」 「そなたには昔から苦労ばかりかけた。済まないと思っておる。 今まで辛かったであろう。 いろんな政治の思惑により、そなたのことを我が子と認めるわけにはあの頃、 けしてゆるされないことだったのです。」 「光徳院、私はあの頃あなたに拒まれそして絶望感に酔いしれたこともありました。 しかし今ではあの頃の幼き子供ではありません。 年を重ねるごとに院の考えることも理…
大皇の宮様はあれから何もおっしゃられない、 ただ何か考え事をなさっているようだった。 「大皇の宮様、院御所が山科にあることは伺っておりましたけど 山科は墓所が多いところ。 院は変わった場所にお住まいなのですね。」 「それも院の思し召しなのですよ。院は・・・瑠璃姫よくお聞きになってね。 あなたに朝霧のことを教えた殿方・・・ その方は院の御子。私のお産み申し上げたお主上の弟宮となるお方なのですわ。」 ああ、やっぱり、吉野の君は佐子姫の、大皇の宮様の妹姫の子供だったんだ。 あれから大皇の宮様から昔の話を伺った。 そして八年前に、今上帝が病に伏した折に、先の左大臣と右大臣が あわやのつかみ合いに発展し…
そして大皇の宮様との対面が現実になることになった。 唯恵の正体とは誰なのだろうか。 あたしの運命はどうなるのだろうか? ドキドキ ここは麗景殿 大皇の宮様がついに参内なさったの。 帝の女御だからといってすぐにはご対面できるわけではない。 大皇の宮様を歓迎する宴の後に直接ご対面できるよう、お主上に頼んだのよ。 滅多にお願いしないあたしが大皇の宮様に直接会って話をしたいというものだから、 びっくりなさったみたいだけど、そんなの関係ないわ。 だって吉野の君の父君が誰なのか、はっきりするかもしれないもの。 あ~早くこの宴はおわらないかしら。 つつがなく宴は終わり、ついにあたしは大皇の宮様と二人きりで対…
あれからあたしは、吉野の君、唯恵が気になって仕方がなかった。 それに、呪詛状の件も気になる。 これ以上唯恵が何も起こさなくてはいいのだけど。 あの時気になることがあった。 それは父君のことを尋ねた時のこと。 唯恵の顔、・・・あれは憎しみに染まっていた。 今あたしにできることといえば、もうすぐ参内なさる大皇の宮様に 話しを聞くこと。 ただそれだけしか今はできなかった。 ある日の亥一刻 「瑠璃姫、ふふっ怖い顔をなさって何を考えて見えたのですか? 私のことを考えてくれたのなら嬉しいのですがね。」 パチッ!ウィンク! 「もう吃驚させないでよ、鷹男。」 床下で出会って以来何度か鷹男と語り合うことが多くな…
寝所であたしは唯恵のことを考えすぎたせいか、中々寝付けないでいた。 階に降りて、少し夜風でも浴びようかな? その時だった。 「どこへ行くのですか?」 「誰?」 それは冴え氷る君の異名を持つ美僧唯恵だった。 あまりにも美しいかんばしに、あたしはつい見とれてしまった。 なんであたしの寝所に入れるの? 「声を出しても無駄ですよ。皆眠り薬で女御様を守る人間はいません。」 声を上げようにも唯恵がすぐにあたしの首に手をかける。 まさか、あたしを殺すつもりなの? 「あたしを殺す気?」 手に力は入っていないけれど、あの時、あたしに気が付いていたのね。 目撃者を殺すつもりなのだろう。 「私はあなたをどうしたいの…
今女房の間では噂になっている僧がいる。 あたしは、今その方のことで頭がいっぱいだった。 だってあの人は… 「小萩、最近特に思うんだけど、内の女房達が凄い噂してない?」 「噂と申しあげますと、なんのことでしょうか?」 「なんか素敵な殿方がいるって言いながら、女房達が見に行っちゃったんだけど」 「まあ、それは本当でございますか?なんていうこと。女御様をほおっておいて、噂の君を見に行くだなんてなんて恐れ多い。私、若い女房達を注意しに行ってきますわね。」 「ちょっと小萩、あたしは気にならないから別にいいよ。」 「まあ、瑠璃様!そういう訳には参りません。」 「いいから小萩、それより噂になっている方はどな…
この二人ってどんな関係なんだろう? 最初は権の中将様のほうが上司かと思たけれど、話を聞くと 権の中将様が鷹男を立ててる節がある。だとすると、鷹男は左大将? でも若すぎる。雰囲気や言葉を見ても身分があるのはわかるんだけど、謎だわ。 「藤壺の女御様!」 「はっ、はい!」 うっかり自分の考えに没頭してしまったわ。 鷹男は少し緊張した面持ちで話し始めた。 「それでは本題に入らせていただきます。 実は今上帝が即位して間もなくの頃、今は国母となられた 大皇の宮様のご寝室の枕辺に、 ある朝、「新帝怨参候」と書かれた呪詛状が、 小刀で突き刺されておかれていたのです。 その為、今上帝のお命を狙うものが現れたと思…
かぁ・・・なに、すごいかっこいい人じゃないの。 一体誰なの? あまりのかっこよさに、笑われたことさえ忘れてしまっていた。 「藤壺の女御様、どうかなさいましたか?考え事をなさっているご様子ですが」 「あっごめんなさい、なんでもないわ。」 「そうですか?早速本題に入らせていただいてよろしいですか?」 「あら、いったい何のことかしら?」 あたしは何も知らないふりをしてやった。 この男、顔はいいけど何か怪しい。 あたしの口をふさいだ男と同じじゃないの? 鷹男の右手には布がまかれており、あの手の中にあたしの歯形が残っていたら あたしを襲った人間と同じことになる。 こいつがもし呪詛を置いた犯人であれば、猫…
あれ、生きてるの、あたし… 「藤壺の女御様、藤壺の女御様!」 「あれ、?小萩!」 「あれ?じゃございません、瑠璃さま!」 「まあ興奮しないでよ、小萩」 「もう、瑠璃様は女御様になっても瑠璃様なんですわね。」 「嫌味はいいからあたし・・・どうしてここにいるの?」 「瑠璃様は清涼殿近くでお倒れになっているところを、秋篠権の中将様が 瑠璃様をこの藤壺まで連れてきてくださったのですよ。 高貴な女御様が、清涼殿で倒れられていたので、 何か事件に巻き込まれたんじゃないかと吃驚されましたのよ。 本当なら大事件になるところを、権の中将様が緘口令を敷かれて 大事にはなっていませんが、後でどうしてあそこにいたのか…
藤壺後宮物語2 あれから、長く患っていた今上帝が、ついに東宮に、御譲位をあそばされ、 光徳院と名乗り、ついに新しい帝が誕生なさったの。 新帝の御世になったので、人事も大きく変わって、父さまは、大納言から内大臣に、 幼馴染の高彬は、衛門佐から近衛少将に出世して、右衛少将と呼ばれる身となった。 そして、ついにあたしも、新帝の女御に相応しいように、 父さま、義母さまのおかげで、煌びやかに、 そして豪勢な支度を用意してくださったので、 周りからは、内大臣家の繁栄を羨まれながら、入内することになってしまった。 のちに飛香舎に部屋を賜り、藤壺の女御と言われるようになる。 もちろん、断固拒否したいのは山々だ…
フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com) 藤壺後宮物語1 第一章 あるところに、瑠璃姫という名の姫がおりました。 摂関家の流れをくむ惣領姫。格式高い家柄に育った姫でございます。 しかし、一般的な姫とは大きくかけ離れた感性をおもちでした。 姫君というなれば、邸の奥深くに隠され、人前には家族や夫となる男性以外 姿を見せず、普段であるなら扇で顔を隠し慎ましくあれと育てられるもの。 ですがこの姫君は御簾越しを嫌い他人がいなければ御簾を上げて庭におりて 木に登ったり、池の鯉を釣ったりと男君のような振る舞いをしておりました。 瑠璃姫には、一人の弟君がおりましたがその弟君は、雛遊びや、歌合せ、…
皆様方、お久しぶりです。 コロナ渦中いかがお過ごしでしょうか? 以前ブログに投稿したものをかなり編集してオフ本にした小説を ゆっくり投稿しようかと思います。 もう2年以上たちますが買っていただいた方ありがとうございました!
私は自分の心が満ち足りたような気がした。 その傍には安らかに眠る愛する瑠璃姫がいた。 私にこんな気持ちがあることに驚く。 これが、私にとっての初恋。 そうなのだろう~ 寝顔を見るだけで心が温かく感じる。 瑠璃姫が行動してくれなければ 私は一生この気持ちと出会う事はなかっただろう。 そう感慨深く思っていると 誰かが近づいてくる音に気がつく。 この足音は・・・・・・・・ 「東宮様・・・・・・・・もうそろそろ夜が明けます。 このままでは大変なことになりますがいかが致しますか?」 「小百合か?」 「はい。」 「お前のことだ。もう既に手立てを考えているのだろう~ だったらお前の良いように動くように」 「…
瑠璃さんが行動することは分かっていた。 何としてでも東宮様に真実を聞くため動こうとするのは・・・。 妨害しようと思っていた。 絶対に二人を会わせるものかって・・・・・・ なのにどうして目を瞑ってしまったんだろう~ ずっと恋こがれた瑠璃さんを僕のものにすることは出来たはずなのに それなのに結局僕は瑠璃さんの手助けをしてしまったんだ。 東宮様と瑠璃さんが出会う確率なんて 本当だったら100%ありえないはずだった。 なのに二人は僕が知らないところで出会いそして恋をした。 その時は東宮様から瑠璃さんを手ひどく振ったから 僕は悲しんでいる瑠璃さんを 強引に自分の方にむけてそのまま瑠璃さんと結婚できるはず…
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