弘徽殿の女御様があたし達の前に現れた。さすがは鷹男の母君さま。堂々とされて若々しく豪快な方だった。沢山の女性達の視線を一手に引きうけられているのに気後れもなく堂々とされていた。周囲をぐるりと眺められた時、あたしと一瞬視線が合った様な気がした。そして微笑みをかけられたあたしはドキッとしたわ。まさか微笑を受けるなんて思いもよらなかったから。でもそれは周りには気が付かれない様な一瞬の笑みだった。だから一体なんだったのかあたしには理解が出来なかったの。弘徽殿の女御様の真意があたしには掴めなかった。それでも愛する鷹男の母上さまだから嫌われたくはない。そうあたしは思っていたの。「皆揃ってますね。梨壺の女御…
あたしは女御になった当初はとても幸せだったと思う。 鷹男は毎日のように麗景殿に渡ってくれたし御文も欠かさず私に贈ってくれた。 あたしに凄く気を使ってくれていたんだと思う。 最初だったからなのか、他の女御様からの嫌がらせもなく あたしは後宮生活を満喫することが出来た。 そして絶対に体験できないと思っていたお忍びまで誘ってくれた。 あの頃が凄く幸せだったんだと今なら思う。 どうしてあの頃のあたしはまだ無知だったんだろう~ 後宮の恐ろしさというものを物語などで知っているだけで 実際の体験とは大きく違うことに あたしは気がついていなかった。 後宮でのいろいろな思惑。 さまざまな女の妄執、そして鷹男から…
あたしが麗景殿の女御になって2ヶ月が経った。 後宮ではあたしを迎える宴が毎日続いたの。 いろいろな女御様方からの歓迎の宴が開かれ、 そのお礼の宴をあたしからも開かなければならなかった。 だからこの2ヶ月の間宴の毎日であたしはくたくただったの。 本来あたしはお姫様らしいことはしない性質だったからこの宴は苦痛で仕方がなかった。 話なれない敬語で色々な女御様方と言葉を交わさないとならないし 十二単は物凄く重くて肩が凝るし~ 小萩からすればこれが本来の姫君方の暮らしぶりだからあたしがおかしいんだとか。 まあ~あたしはその辺の姫様と全然違うから仕方がないんだけどね。 数々の宴をこなさないとならないあたし…
好きなのにシリーズ第二弾です。 好きなのに~揺れ動く恋心の続編です。 僕の心はどこへ行くんだろう~ 愛する瑠璃さんは僕を選ばず他の方を選んでしまった。 ずっとずっと瑠璃さんと結婚するのを夢見たのに破れてしまったんだ。 僕はそれでいいのか? そう、自分の気持ちを問いただす。 否 僕はこのままでは終われない。 だから、僕は僕の気持ちのままに向かって進んでみよう。 それが周りに迷惑をかけようとも それでも僕は瑠璃さんを愛しているのだから。 瑠璃さん、僕は瑠璃さんを諦めないからね・・・・・・・あたしは自分が愛した人とついに結ばれることになった。 裏切られたのにそれでもやっぱり傍にいたかった人。 今、と…
私の心の中は嵐のように激情にもまれていた。 瑠璃姫を信じたい気持ちもあるのだが、あの訴えかけるような視線が脳裏を掠める。 思わず内大臣に真相を瑠璃姫に聞いて来るようになどとつい言ってしまった。 本来なら私がじかに瑠璃姫に聞けばいいものを本当のことを聞くのが私は怖いのだ。 そしてすぐに内大臣から瑠璃姫が気を失ったことを聞くことになった。 あの瑠璃姫が気を失うとは、私はそこまで追い詰めてしまったのか、 私はしばらく呆然としてしまった。 このままでいい訳がない。 私は決心を強め、高彬に本心を聞く事に決めたのだ。 「右近の少将高彬、御前のおよびで参上つかまつりました。」 「高彬、そなたは噂を耳にしてお…
あたしは親王さまを御生みした後やっと後宮に戻ったの。 長い事ここを離れたので案外懐かしく思えたの。 そんなに長い事ここにいたわけじゃないくせに ここでは辛い思い出ばかり・・・ でもあたしは意地を張るのは止めたのよ。 だからあたしの気持ちを伝えようと思う。 そうしてあたしは一番初めに鷹男の帝に御挨拶をしたの。 ここでは本当の話など出来ないから形式ばった挨拶しか出来なかったけど 久しぶりに鷹男を見ることができたの。 鷹男は相変わらずかっこよかったわ。 胸がドキドキする。 今度はちゃんと本当のことを鷹男に話すわ。 意地も張らずにきちんと話す。 もしかしたら怒って許してくれないかもしれない。 それでも…
私は前に進むことができず、どうしたものかと思い悩んでいた。 周りは喜びに包まれてはいたが私の心はあまり上を向いていなかった。 確かに世継ぎの次期東宮となる親王が産まれたのだ。 そして唯一愛している瑠璃姫が御産みされた御子だ。 嬉しいのだが、あの瑠璃姫の訴えるような視線が気になって仕方がないのだ。 本来なら瑠璃姫を清涼殿に召せばいいことなのだが 私は未だに姫を召すことができないで居た。 瑠璃姫は念願の親王を産んでくれた。 そして私に正式な挨拶をなさり、そして藤壺に戻った。 もちろんわが子である親王は見せてもらった。 周りの喜びようは凄かった。 なにしろ後見がしっかりとした姫君が御産みした親王であ…
結局あたしはどれだけ考えてもどれだけ考えても高彬への恋心はどこにもなかった。 高彬と燃える様な情熱の恋だったわけじゃない。 たまたまあたしが既成事実を作られそうになった所を 高彬が助けてくれて、そしてその時吉野の里から帰った時 筒井筒の仲になったことを思いだしたんだもの。 あたしはすっかり忘れていてあのときから高彬を意識するようになった。 高彬と結婚すると覚悟を決めたのに なかなか邪魔が入って結局結婚できなかったのよね。 でもあたしさえ本当に高彬を好きなのだとしたら なにがあっても早く結婚できたはず。 でもできなくていろいろな事件に巻き込まれたというか、自分で突っ込んだだけ。 結局吉野の君と再…
私は帝としか私をみない瑠璃姫を見るのは耐えがたかった。 しかし瑠璃姫への愛情がどれだけ経っても消えないのだ。 あんなに欲した相手は瑠璃姫ただ一人なのだ。 だからこそ瑠璃姫を手放すことなどできなかったのだ。 私は瑠璃姫が藤壺として入内してからほぼ毎日のように体を抱いた。 体を合わせている時だけは何故か瑠璃姫の心が見えるような気がするのだ。 しかしどれだけ体をあわせたとしても あくる日目が覚めたときにはいつものように帝としか扱ってくれない。 私の心はどんどん心が落ちていくことしかできないのだ。 そうしていく内に瑠璃姫は私の御子を出産するために三条邸に里下がりしてしまった。 瑠璃姫と会わないことで気…
私はどこで間違ってしまったのだろうか。 いやもう分かっていた事ではないか、初めから私は間違っていたのだ。 しかし、仕方がなかったのだ。 私を選ばずに高彬を選ばれてしまったのだから。 私はどうしても瑠璃姫が欲しかった。 だからこそ、無理やり瑠璃姫の体を蹂躙して 帝の立場を使って信頼のある部下である高彬から瑠璃姫を奪ったのだ。 立場を利用して無理やり瑠璃姫を女御として入内させた。 入内させることを決めた時はすぐに瑠璃姫を迎えようといろいろ動いた。 しかし、右大臣の娘を入内させたことで 私の後見人となってくれた右大臣家を無視することも出来ず その上、瑠璃姫は内大臣家の総領姫。 右大臣家の最大の敵にな…
瑠璃姫から高彬と結婚なさると、 もう会わないという言葉が書かれた手紙が届いた。 瑠璃姫があの唯恵の事件の時二人が筒井筒の仲で 唯恵を待つために吉野の里に瑠璃姫が行ってから 時は随分経った。 そのため私は自分の身分を隠して使いのものを吉野に送っていた。 瑠璃姫からの返事は一度もなかった。 しかし、今日唯一届いた返事がお別れの返事だとは予想もつかなかった。 瑠璃姫あなたはどうして私を受け入れてくれないのですか? 私の心はあなただけのものなのに、それでもあなたは私を拒否なさるのですね。 私への返事がこれとはどうしてそうなってしまうのです。 私が納得するわけを聞かせてください 待っていてください。 あ…
18禁です。 苦手な方はご遠慮ください。 瑠璃姫は気を失っていた。 先ほどまで楽しく笑っていた瑠璃姫は目を瞑り夢の中にいるのだろう。 その姿に私は興奮を押さえきれなかった。 「瑠璃姫!?」 私は瑠璃姫の唇に私の唇を押し当てた。 ただそれだけでどれだけ私の心の中が晴れ渡るというのだろうか。 そして貪っていくうちに強引に 唇をこじ開け瑠璃姫に液体が流れ込んでいく。 甘くそして甘美でこれがなければ私はもう生きていけない。 そう思う程愛おしく離れられない気持ちだけが大きくなる一方だった。 しかしさすがに唇を貪ったことにより瑠璃姫は意識を取り戻してしまった。 「うう~ん????何?・・・鷹男?・・何で・…
私は後悔はけしてしていない・・・・ やっとあなたを手に入れる事ができたのだから・・・・・自分の身を滅ぼそうとそれでもあなたを手に入れる事ができた。私は幸せなのだから・・・・・・・・・・身を滅ぼそうとも私は今まで皆の評価から歴代の帝の中でも一番の賢帝だと 呼ばれていたことを聞いていた。それが私にとっては一番しなければいけないことだとそう思っていたからだ。自分の幸せよりも帝としての責務を果たすことが やらなければならないこと、そう幼い頃から教えられてきたことだった。さまざまな陰謀の影によって私は帝になった。どれだけの人を犠牲にしながら私は帝になってしまったのだろう。だからこそ私は罪の意識を少しは感…
本当なら吉野の君を吉野の里に連れて行くこと自体 もしかしたら追っ手に見つかる危険がある。 だからこの地を訪れることを鷹男はよしとしなかったの。 でも吉野の君は通法寺で炎上した折 遺体で見つかることになっているからそう早くここに追っ手が 現れることはないとそう思ったの。 だってこのまま吉野の君と会うことができなくなること自体寂しいじゃない。 だからあたしは無理を言って想い出の吉野の里に降り立ったの。 さすがに吉野の君が幼き頃から住んでいたお寺には行かずに 内の別荘に吉野の君を連れてきたのよ。 ゆっくり吉野にいることもできないから休まずここに無事にくることができた。 「吉野の君、大丈夫?結構無理を…
あたしは動くことが出来ずにただ固まっていたの。 でもあたしの体は自然にどう動きたいのか分かるように この部屋を抜けだそうとしたその時、力強い体に抱きしめられ唇を奪われた。 「う~ん。ちょっと・・・離してよ!」 「ダメだ!瑠璃お前はどこに向かおうとするんだ!」 「そんなの決まっているでしょうが!通法寺よ!吉野の君を助けなくちゃ! 吉野の君に本当のことを、聞いてこの陰謀には加担してないことを証明してみせる!」 「瑠璃!お前はやっぱり・・・・絶対に行かせないからな瑠璃!」 「何でよ!鷹男だって吉野の君がこんなことを企んだとはそう思わないでしょう。 なのになんで!」 「俺だって吉野は大事な奴だ!なのに…
あたしは無事に保護をされて今は御車に乗っているの。 でもあたしは今何が起こっているのか一刻も聞きたいというのに 検非違使はあたしに詳しいことは全く教えてくれなかったの。 ただ今からあたしを安全な場所に連れて行く。 そういうだけ。 あたしはとにかく早く止まったら 飛び出してでもいいから詳しいことが知りたくてしょうがない。 そうしてしばらくしたら周りがざわつきはじめたの。 御車の速さもゆっくりになり止ったから目的地についた様子。 あたしは早速誰かが入ってくる前に御車の中から飛び出したの。 ところがこの場所は全く知らない場所ではなかったのよ。 だってここは鷹男が住まう東宮御所だったんだから。 まさか…
吉野の君がいなくなってからあたしはここからどうにかしてでようと考えたの。 でもいろいろこの塗籠を調べても外に出る方法が見つからなかった。 それからそんなにたたないうちに見たこともない女房が食事を持ってきてくれたの。 この女房を自分の味方につけようとしても女房が中に入ったとき、 女房の行動を見計らって外に出ようとしても 女房の他に外には護衛の者があたしの姿を出さないように威嚇をしていた。 だからその女房に話しかけることもできず、 全然外に出れなくてどうしようもなかったの。 あれからどれだけたったかはわからなかった。 食事も実際のところ朝、昼、夜でもってきてくれているのかもわからずに あたしはただ…
あたしが気を失ってからどれだけ経ったのか全然分からなかった。 ここは窓もない塗籠だったの。 気付いてからとにかくここをでようと思って戸を開けようとしたけど 鍵がかかっているみたいであかなかったの。 仕方がないからあたしはまずどうしてここに居るのか思いだすことにしたのよ。 確か吉野の君があのお寺に来て欲しいと頼んだからあたしは行っただけ。 そこに吉野の君が現れてそしてあたしは 吉野の君が近づいてきたけどどうしてなのかと思いながら 急に口を何かの布で塞がれて気を失ったのよ。 だったら吉野の君にここに閉じ込められたということになるわ。 でもどうして・・・・ 左大臣達の身分が高い協力者はまさか吉野の君…
鷹男から本当のことが聞けてとても嬉しかった。 でもあたしが知らない間にこんなに大変な事件が始まっていたなんて 全然知らなかった。 なんでこんな大事な事をあたしに黙っていたのか、 あたしを仲間はずれにしたという思いもなくはないけど 今度こそはあたしが鷹男に協力して、鷹男と一緒に暮らせるようにしたい。 そう決意を新たにしたんだけど あたしは吉野の君の元に行く準備をしていたところだったから 一旦吉野の君に連絡をしないといけない。 そう思い小萩に文を書く準備を頼んだ。 そしてあたしは吉野の君の元に行くことができないこと、 鷹男に真実を聞いたため鷹男に協力することを 文に収めそれを至急届けられるように頼…
あたしを抱き締めてくれる人がまさか鷹男だなんてあたしはあまりにも吃驚して しばらくは動けなかった。 鷹男に抱き締められてやっぱりあたしには吉野の君じゃなくて鷹男が好き! そんな強い感情に支配されていた。もし鷹男があたしを好きじゃなくて ただ東宮としての地位を固めるためにあたしに近づいてきたとしても それでも全然構わない。 そういう想いも芽生えてきたの。 でも真実をはっきりとさせたい。 あたしは思いきって鷹男に話しかけたの 「鷹男あんたなんでこんなところにいるのよ」 「それはこちらの台詞だ、瑠璃お前はなんて危険なことをしでかしたんだ! なんのために高彬を護衛に付けたと思っているんだ!」 「やっぱ…
どれくらい時間がたったのかは分からない。 あたしは気を失ったまま何処かに寝かせられていたの。 目が開いて気づいた時、周りには知らない女性達が数人いて あたしの目が醒めたことに気付いて一人は 何処かに行ってしまったの。 残った女性達は甲斐甲斐しくあたしを介抱してくれて お粥をくれたりしてあたしはお腹に食べ物を入れて満足だったわ。 だってお腹がすいていたんだもの。 でもここはどこなの?分からないわ。 「ここはどこ?」 あたしはこの部屋に残っていた女房らしき者達に聞いて見たの。 そうしたらとんでもない言葉が返ってきたのよ。 「こちらは恐れ多くも前の帝さまの第八皇女であられ女八の宮さまのお邸です。」 …
高彬が何を知っているのか探るためにあたしは右大臣家の家人に協力を仰いで 高彬の動きを探った。 さすがに右近の少将といわれる高彬だから、簡単には動きを捉えられない。 それに慎重にしないと 高彬にばれることもあるため時間がかかったの。 それでも心はせかされてもじっくり動かないといけないと思っていたら やっと高彬が動き始めた。 高彬がお忍びで使う貧素な普通の御車に乗って何処かに出かけたという情報を貰い あたしはその御車を追うことにしたの。 近づきすぎると見つかってしまうのである程度離れた距離を保ちながら跡をつけたの。 ところが三条、四条をすぎて東に折れたあたりまでは分かったんだけど そこから見失って…
女房からの知らせを受けたあたしはまたかと思ってしまったの。 最近よく高彬がこの三条邸にくるのよね。 前から弟の融と仲が良かったから遊びには来てくれてはいたけど、 そう頻回にくることはなかったのにどうしたのかしら。 それに吉野の里で鷹男と吉野の君のことは高彬は知ってるの。 二人が全然私のとこに来てくれないからついね、高彬には相談していたの。 それもあってなのか高彬は結構ずけずけ言ってくるのよね。 あたしはそんなことを考えながら 高彬をいつもどおりに迎えることにしたのよ。 「瑠璃さん、ご機嫌はどうかな?」 「ご機嫌は全然よくないわよ。 あんた最近毎日ここに来るんだからあたしの表情を見て分かるでしょ…
東宮御所から出てきてあたしは吉野の君の文を貰っても なかなか自分の気持ちが落ち着かない日々が続いたの。 鷹男に告白される前からずっと吉野の君が 迎えに来てくれるとそう信じて待っていたはずなのに 今では何故か吉野の君と一緒に暮らすイメ―ジが浮かばない。 あんなに吉野の君を待ち望んでいたはずなのに それなのに嬉しいという気持ちが全く思わなくなっていた。 だってあたしは鷹男が好きだと言う気持ちに気付いてしまったのだから。 その時あたしは吉野の君が迎えに来てくれるのを待ってはいたけど恋じゃなかった。 いつも優しくあたしを見守ってくれていた吉野の君は あたしにとっておにいちゃんだったんだもの。 吉野の里…
吉野の君からやっと連絡が入った。 あたしは本当のことが知りたかったの。 胸はドキドキする。 もし、面と向かってあたしのことなんて好きじゃない、そういわれたらあたしは どうなってしまうのかしら・・・・・・ ある一室まで案内されてあたしは鷹男を待つことにしたの。 この部屋は何故だか少し暗かった。 燭台は一室にしては数が少なく変りに几帳が多く飾られていた。 まるであたしの姿を隠すかのように感じていたの。 そんな時、足音がこちらに近づいてくるような気がして息を潜めたの。 そうして誰かがあたしに気付かずに入ってきたのよ。 「よろしいのですか?兄上、瑠璃姫に会わなくても」 「会っても仕方がないじゃないか。…
別れを告げられてから数日がたったの。 どうして鷹男はあたしにあんなことを言ったのかずっと考え続けていた。 それでも、別れの理由は分からなかった。 そんなある日、あたしは階でまた考え事をしていたの。 しばらくしたら人影が見えたからあたしは思わず叫んでしまった。 「鷹男!」 でもあたしが望んだ相手ではなかったの。 あたしの知らない殿方だった。 蒼白く浮かんだそれはもう美しい顔の人だったの。 「瑠璃姫、やがてわたしが父上に認められ 都に呼ばれ官位を授かることが出来たら迎えに来てもいいですか?」 「まさか吉野の君なの?」 「はい、瑠璃姫、お久しぶりです。あなたを待たせすぎてしまって本当にすみません。 …
お互い告白を済ませ、自分達の想いを確かめあって あたしたちはそれから吉野の里を離れたの。 でも今度はちゃんと鷹男の身分も聞いて以前のように音信不通ではなく 頻繁に非公式ではあるけど 鷹男から何度も御文をもらってあたしも贈ってと 中々あえないけどそれでも気持ちが通じていると そう思っていたのよ。 鷹男は本当ならすぐにでもあたしを東宮妃にしたいと言ってくれてたけど 実際はあたしと吉野の里で再会する前から 右大臣家の姫君が鷹男の女御さまになる話は決まっていたみたいで、 だから右大臣家の姫君がまず東宮妃として入内なさってから あたしに宣旨がくだされるってわけなの。 吉野の里で別れる前にすでにその話は鷹…
驚いた告白を受けたあたしは物凄く悩んでしまった。 今まで鷹男は小憎らしい嫌な奴で、 あたしのことなんて好意をもっていたそぶりなんて感じられなかったのに、爆弾発言! どうしようか悩んでしまった。 その上返事はすぐに出してだなんてあんまりよ。 あたしは鷹男への気持ちでいっぱいだった。 でもあたしは初めは吉野の君が好きだったはず。 吉野の君があたしを迎えにきてくれる そう言ってくれたから、だから待っていたのよ。 吉野の里にいたときからあたしは優しい吉野の君が大好きだった。 なのにあたしが鷹男を選んだら吉野の君を裏切ることになる・・・ でも吉野の君は何年もあたしをほったらかしにしていた。 だから吉野の…
吉野の里でまた鷹男と過ごすことが出来るとは思いもよらなかったけど それでもやっぱり楽しくて仕方がなかった。 幼き頃と違って体も大きくなり、 あの頃とは違ってさまざまな発見もすることが出来た。 でも後少しで鷹男は吉野の里からまた離れていく。 そんな寂しさが胸にささる。 そんな時に鷹男はとんでもない事をあたしに聞いてきたのよ。 「瑠璃、お前は何で誰とも結婚しないんだ?」 「なんで、鷹男はあたしがまだ独身なの知っているのよ。」 「当たり前だろう。これでも身分は高いんだ。 瑠璃はこれでも大納言家の姫君だからな~ 未だに独身だというのは噂で聞いているよ。」 「噂ですって!どうせくだらない噂なんでしょう」…
あたしは泣き続けていて鷹男はずっと戸惑ったまま なんとかあたしを宥めようと必死だったの。 だからあたしは段々そんな鷹男の姿をみて笑えるようになってしまった。 初めは本当の涙だったけど段々涙も止まり、 笑うのを必死でこらえていたんだけど さっきと様子が違うあたしに気付いた鷹男は怒り出したの。 「こら、瑠璃。さっきまで泣いていたのに今は笑っているじゃないか。 俺はどうしたらいいかと凄く焦ったんだぞ!」 「ふん、焦って当然じゃない。 あんなにあたしをほったらかしにしてたんだからいい気味」 「お前は全然変ってないよ。可愛くない」 「別に鷹男に可愛いと思われたくないもの。」 「そうだったな」 急に元気が…
あたしは男になんて興味がない。 初恋の吉野の君はあれから何年もたっているのに連絡さえしてくれない。 そして鷹男も・・・本名を言ってくれなかった。 だから一生独身を貫き通してやる。 そう思っているのに父さまは全然あたしのいうことを聞かずに いつもいろいろな貴族の息子を勧めてくるのよね。 まだ13,4の頃はよかった。 あの頃はまだあたしも裳着を済ませて間がないときだったし あたしはあの頃吉野の君が迎えに来てくれるのだけを夢見ていたんだから。 父さまも吉野の君の身分を知りはしなかったけど、 あたしが誰か身分の高いものと約束していると 信じてくれたから何も言わなかったのに、 待てども待てども吉野の君か…
あたしたちはあれから仲良く3人で吉野の里を駆け回った。 会えば口げんかばかりしていたあたしと鷹男を いつも吉野の君が上手く中に入って収めてくれるから あたしたちの関係は上手くいっていたように思う。 どちらかというとすぐに行動に移るあたしを からかってばかりいる鷹男に怒り狂うあたしを 宥めてくれる吉野の君。 鷹男が一番年上なのに吉野の君が周りを良く見てあたしたちを守ってくれるんだから 鷹男は全然役には立たないのよね。 鷹男は悪餓鬼大将で、吉野の君は優しいお兄さん。そんな対照的な二人だったけど やっぱり吉野の君はいつもあたしのことを考えてくれるし優しい素敵な人。 変りに鷹男みたいに我儘で我が強くて…
あたしが9歳の頃、母上が弟の融を産んだ後体調を崩したままだったから あたしは吉野に住む祖母に預けられそこで暮らしていた。 そこには一人の童がいたの お祖母さまの話ではその童は高貴な身分の方の御落胤らしいんだけど 母上の身分が低いから認知もされていなくて 本妻に迫害されてここ吉野の里に逃れてきたらしいの だから本名はしらなかった。 あたしはその童を吉野の君と呼んでいたのよ。 彼は11歳でやたら綺麗な顔をしていた。 いつも二人で1日中花摘みやかけっこ、かくれんぼをして遊んでいたわ そんなある日、吉野の君があたしにこういったの。 「瑠璃姫、やがて私が父上に認められ都に呼ばれ官位を授かることが出来たら…
あたしたちは吉野まで来ていた。 初めての外出にワクワクしてきた。 それもあたしの子供時代に育った吉野ですもの。 感慨深いは~ こうして京から時間をかけて吉野についたんだけれど さすがにくたくたで吉野の里を見るのは次の日になった。 そうしてやっと外に出れた。 満開の桜のその美しさと言ったら言葉に出ないほどだった。 天気がすごくよくて雲一つない絶好の景色! 子供たちはあっという間に外を駆け出していく。 家人たちが慌てて後を追っていく姿に私は笑ってしまう。 これほどの美しさにじっとすることなんてできないでしょう~ 「瑠璃姫」 「鷹男」 あたしの隣には鷹男がいる。 その時だった。 「瑠璃姫」 吉野の君…
あれから数年がたちあたしは三人の母親になっていた。 難産だった一人目の子供は今は東宮になりそのあと二宮と姫宮を授かった。 「「母宮」」 二宮と姫宮があたしに抱き着いてくる。 あ~~~可愛い! あたしは今では中宮となっていた。 今でも信じられないけれど中宮になったからと言って 何か変わったことがあるわけでもない。 でも、子供たちを授かり子供の笑顔を見るだけで幸せになってくるわ。 「母宮様」 「あら、東宮あなたも来たの?」 「「兄上!」」 東宮になった宗鷹は鷹男に顔も性格もそっくりで自慢の子供よ。 二宮と姫宮はあたしと同じ顔で性格もそっくりで女房達を困らせてばかりいるわ。 そんな三人はすごく仲が良…
夏は意識を失っていたため心配になったわ。 何か大変な病でも患っているのかしら。 それよりも高彬の表情が真っ青で驚いた。 夏の手を握りなかなか手を離そうとしないから大変だった。 医師が現れ何とか離れたけれど医師の言う言葉に皆が驚きの表情を表した。 「おめでとうございます。彼女はご懐妊されています。」 「まあ~」 あたしはびっくりしたわ。 夏もあたしと同じく懐妊だなんて! でも誰の子を授かったのだろうか? そう思っていたら高彬が号泣しだした。 「夏!」 「高彬様?」 夏は目を覚ましたみたい。 高彬の号泣に周囲は目が点だったわ。 それから高彬はいきなりこう発言したの。 「夏!結婚してください!もう待…
あたしは今後宮ではなく三条邸に戻っていた。 あれから恙なく平和な日が続きやっと里下がりして三条邸に来ることができた。 あたしの懐妊に鷹男はじめ父さまや融や大皇の宮様、様々な人から お祝いの文を頂いたり直接感謝の言葉を頂いたり 懐妊が分かった時はすごく忙しかった。 妊娠初期は何があるかわからないからと小萩たちがすごくピリピリしていて 何もしてないのに動いたら駄目だとかちょっと散歩に行くのさえ制限されて ストレス全開よ! でもご飯がなかなか口に入らなくて苦労したわ。 妊娠していると皆食べるものが変わるのね。 あたしは柑橘類しか食べられなくなってこってりしたものは匂いを嗅ぐだけで 吐いてしまって大変…
後宮も落ち着き始め、今上帝の寵愛をご存分に堪能された藤壺の女御。 今一番ときめきされている女御様であらせられます。 数々の事件を乗り越えさらにお二人の絆も強くなっていったのでございます。 今日は藤宮様が参内して会いに来ることになっているの。 短い間で後宮はめまぐるしく変わってしまったから 藤宮様は心配なさっていてわざわざご機嫌伺にいらっしゃるのよ。 後宮は今女御様が二人だけで寂しくなってしまい 藤宮様の参内は久々に華やかな宴が催されることになるわ。 そうそう、新しい女御様の入内は保留のままよ。 まだ、新たな女御様をお迎えできるほどの余裕はないって 鷹男が貴族たちに宣言してくれて今は私と丞香殿の…
最近蔵人、近衛府などである人物の噂が持ちきりなのだ。 いったい誰なのか気になってはいたが、それは私には関係がなかったから あえて蔵人頭に聞くことはしなかった。 でも、こうも噂が長引きそしてその中の中心人物である方が ただの女房だということが分かって驚いたのだ。 若い公達たちの片恋人の噂なら沢山あるだろうに多くの若者たちが 彼女に思いを寄せるだなんて。 私の愛する姫みたいな人だな~っと初めはそれだけの興味でしかなかった。 すぐに男たちはその女房に飽きるだろうとそう思っていたのに どんどんその女房に好意を持つ者たちは増える一方。 ついつい、いらぬ好奇心にかられ別当に聞いたのだが彼はさすがに地位が高…
そんなある日のこと、こんな話題になってしまったのよ。 「ねえ~そういえば三条さんはどこの出身なの?」 「ああ~そういえばきいたことがなかったなあ~」 「あのう、内大臣様にここを紹介されたんですけど。」 「へえ~内大臣様といえば藤壺の女御様だよなあ~」 「そうだよなあ~」 あたしの噂かあ~変な噂しかないだろうけどどんなのだろう。 公達たちと女房の噂は違うのかしら? 「何か藤壺の女御様にあるんですか?」 「いやあ全然。たださ、藤壺の女御様に今は寵愛が続いているだろう? 周りがかなり不思議がっているんだよなあ~」 「そうそう、藤壺の女御様の容姿は十人並みらしいしさ~ なんで寵愛が高いのか分からないん…
あれから左近中将と梅壺の女御様の陰謀が終わり事件は落ち着きを見せた。 でも、あたしたち後宮はのんびりしているけれど 役人たちはその後の処理に追われていたの。 あたしはそれを知ってはいたけど何もできない自分に歯がゆい思いを覚えたの。 鷹男はまだまだ忙しいんだもの。 あたしが何かできることを見つけて鷹男を助けたい。 そんな思いを胸に秘めて早速行動に移したの。 「三条さん、悪いけど今お茶を持ってきてくれないか?」 「はい、ただいまお待ちします。」 「あっ、こっちも」 「はい、行きますのでお待ちください」 ぱたぱたぱた あたしは目まぐるしく役人たちのお手伝いをしているの。 ここは行書殿、蔵人頭、蔵人な…
私は計画が順調すぎて笑みが隠し切れず扇で顔を隠す。 目の前ではお主上が裏切られたと表情を変えて真っ蒼になっていた。 だが私はけしてお主上を裏切ることはない。 彼は私を帥の宮として忘れられていた境遇から引き揚げてくれた存在であるから。 私は一生お主上に忠誠を誓うつもりだ。 だがお主上の思惑と私の思惑が一致しないこともある。 それは今回のこと。 梅壺の女御の入内である。 お主上にはご寵愛なさる藤壺の女御がいる。 噂では大して美しくもなく、猿のような気性で鄙びていて女御としては ふさわしい方ではない。 だが内大臣家の惣領姫。 内大臣の後見はお主上にとっては必要な方。 だからこそ私の願いに近づくと思っ…
あれからあたしはどれだけ日が経ったのか分からない。 そんなに時間は経ってないのかもしれない。 「にゃあ~」 猫? 何でここにいるの? それよりもここはさっきの塗籠と変わらないわ。 変わらず力が抜けていたけれど、人の気配に気づきあたしは睨みつけた。 そこにはやはり男が笑みを浮かべあたしの前にいたの。 「何も知らずにいれば命まで取るつもりなどなかったのに あなたは変なところで賢いようですね。」 「あんたは左近中将よね!あんた何をしているのか分かっているの? あたしはこれでも女御よ。そんなあたしを閉じ込めるだなんて大罪人よ!」 「いいえ、大罪人はあなたの方ですよ。あなたはこの麻薬である香を 梅壺の女…
なんと、あの融が行方不明! あたしは鷹男がいなかったら倒れていたかもしれない。 でも鷹男に励まされてあたしはすぐに立ち直った。 この情報は融付きの夏から至急連絡が入ったことなんだけど 融が式部の卿の宮様邸に行ったらしいんだけど いつもと融の様子がおかしかったようよ。 夏は融についてこないように言われ傍にいることができなかったの。 不審に思った夏が式部卿の宮様邸を張っていたら それからしばらくして気を失った姿で融がどこかに連れ出されたようなの。 だからすぐにあたしに知らせてくれたみたい。 あたしは夏にすぐ梅壺の女御様が見える源大納言の邸に向かうよう指示をした。 胸が苦しい、いやな予感がする。 あ…
「ねえ鷹男、聞きたいことがあるんだけど少し聞きずらくて・・・」 「瑠璃姫にしては珍しいですね。言葉に言いよどむだなんて」 「仕方がないじゃない、本当なら聞きたくないもの。でも・・・」 「そうですか、ではいったいなんなのですか?」 「あのね、梅壺の女御様がご懐妊される前に一度日が昇ってから 梅壺に戻られた時があったじゃない? その時の香の匂いなんて覚えてるわけないわよね。ごめんなさい、 変なことを聞いたわ。」 「いいのですよ。あのときのことですか・・・そうですね。 あの日のことは私にとっても不思議なことだったのですよ。 それはね、彼女の体に触れた覚えがないからなのです。」 「え!そんな馬鹿な。だ…
「左近の中将様のことですか?」 「ええ、なんでもいいから知っていることを聞きたいんだけど」 「そうですわね、とても美男子で男らしくてああ~女御様には言えないわ~」 「あのね、小夜、そんなことを聞いているんじゃなくて どんな家柄とか性格とかそういうことよ。」 「まあ~藤壺の女御様は相変わらずせっかちでございますね。 ふふふっ、まあ~よろしいですわ。左近の中将様は梅壺の女御様の母方の弟君の子で 梅壺の女御様からしたら従姉妹にあたりますわ。 能力は高くてあの年で中将の地位を獲得なさったのですわ。」 「もしかして、左近の中将は式部の卿の宮様の子息なの?」 「ええ~そうでございますが実は実子ではないので…
それから幾日か経ってあたしの耳に吃驚なことが入ったのよ。 なんとあの融が通う貴族の姫君がいるというのよ。 一度も浮名を流したことがない弟の融が、もう姫君に通うだなんて。 あの子はあれでも内大臣家の長男だしあたしはすでに女御として 後宮に納まっているでしょう。 そりゃあ~性格が頼りないとはいえ高彬ほどでもなくても 出世は約束されているようなもの。 だから融が誰かの姫君に通うのは仕方がない話なのよね。 でも一体どんな姫君に通っているのかしら。 姉としては少し心配だわね。 あの子は優しいところがあって結構騙されそうだもの。 でもやっぱり応援するべきよね。 ああ~だれか気になるなあ~ そうだ、小萩に聞…
瑠璃姫と梅壺の女御の騒動は帝によって喧嘩両成敗ですぐに後宮は 落ち着き始めておりました。 けれど、帝の後継者が決まらぬ今、女御たちの諍いはとどまるところを 知らないほど深刻な話ではあったのです。 はあ~この日が一番嫌い。 今日はあたしの元に鷹男がこないこと それは何を意味するのか。 鷹男があたし以外の女御様をお召しになること。 だからあたしは一人寝をしないといけないの。 最近は鷹男と一緒に寝ることになれてしまって 夜を過ごすことが怖くなってしまったから。 あたしは幸せ者なのにそれでも今日召される女御様に嫉妬してしまう。 あたしが殆ど鷹男を独り占めしているくせにこんなわがまま馬鹿よね。 鷹男はあ…
たった一人の弟である融が藤壺にご機嫌伺にやってきていた。 あたしは元から堅苦しい挨拶が嫌いだから 早々に信頼する女房たち以外引き下げ談笑をしていた。 融にはあることを頼もうと思っていたから丁度良かったから・・・ 弟だから几帳も外して面と向かって話をしていた。 「融、久しぶりね。元気してた?」 「うん、僕は元気だよ。それにしても姉さんは女御様になっても姉さんだよね。 色々なこと起こしてさ、僕は後で話を聞くばかり、びっくりさせないでよ。」 「何よ!あたしは何もしてないわ、いつも悪さをしてくる人に言ってよ。」 安易にあたしと梅壺の女御様とのことを言ってくる融。 もう、やっと落ち着いてきたんだからほっ…
「瑠璃姫、怖い顔をしてどうされたのですか?」 「鷹男!何よ吃驚するじゃないの。」 「こちらに伺うことは知らせてますが私が来てはいけませんでしたか?」 「そんなことないわ、それより鷹男、あたしの悪い噂を聞いてるわよね。 まさかその噂は信じてないわよね。」 「もちろんですよ。瑠璃姫の体には 私以外の殿方をあなたが受け付けることができないほどに植え付けてますからね。」 「ちょっと馬鹿!あんたは何を恥ずかしいことを言うのよ。」 「ふふふっこれは本心なんですがね。でも瑠璃姫への悪意ある噂は さすがに私の耳にも届いていますよ。 私の寵愛している藤壺の女御が私以外の殿方と恋文を交わしていると・・・」 「そん…
「藤壺の女御様、お主上から御文が届いております。」 「あらっそう、ふふふ」 「瑠璃様は羨ましいですわ。お主上から御文が届くなんて。毎日のように こちらにお渡りになるのに夜だけではなく日中でさえ独り占めなさるなんて。」 「ちょっとやだ小萩。からかわないでよ。恥ずかしいじゃない」 「ふふ瑠璃様。よいではありませんか。前まではそんな余裕もなかったのですから やはり瑠璃様には笑顔が一番でございますわ。」 「そうでございますわ。藤壺の女御様は元気が一番ですわ。」 「もう早苗までそんなことを言って!」 あたしの一番の女房はもちろん小萩だけどこの早苗もあたしは信用しているの。 若くはあるけれどあたしを信用し…
私の目の前では様々な意見が飛び交っていた。 うんざりするような話題だが、貴族たちにとっては必至な話題。 そう、後継者問題の話であった。 まだ瑠璃姫が入内して半年しか経っていないのに もう新たな女御を迎えよと貴族たちが私に迫ってきていた。 何故女御を迎えなくてはならぬのだ。 私には愛する瑠璃姫がいるではないか。 だが、帝である私が一人の女御の名前を出すことは許されない。 ぐっと我慢するしかできずただただ会議がそっと終了するのを待っていた。 何故こんな話になってしまったのだろうか? 未だに親王が生まれないことで貴族たちが議論している中 私は思い更けていた。 どうせ、新たな女御を迎えるには早いし 右…
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