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穢銀杏
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2019/02/02

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  • おそるべき子供たち

    開戦から二十ヶ月で、二万九千八百人の教員が諸学校から姿を消した。 召集され、教壇から引っぺがされて、戎衣を着せられ兵隊として戦地に送り込まれたのである。 むろんこの、二万九千八百人の先生は、例外なく男子であった。 彼らは長らく親しんだ白墨(チョーク)や教鞭にとって代わるに、ずっと無骨で重たい銃を抱かされて、血と硝煙と汚物の臭気の混じり満ちたる塹壕で、来る日も来る日もドイツ人らと殺し合う、栄誉ある処遇にあずかった。 これがため、教育機構が大変化。フランス全土の学校中で、なんと一万二千もが、今やまったく悉く女教師のみの手で運営(うご)かされている状態、と。 1916年、時のブリアン内閣が発表したデ…

  • 世界を包む狂い火よ

    ブツがあってもそいつを運ぶアシがない。 伝家の宝刀、親方日の丸「政府御用」の大旆をこれみよがしに振るってみても、今度ばかりは効果が薄い。それほどまでに国内の海上輸送能力は全力稼働しきっていたようである。 事は大正五年の話、大戦景気に湧く日本に、同盟国たる大英帝国政府から思いもかけない要請が来た。 石炭の大口注文である。 ──何かの間違いではないか。 耳を疑い狼狽える担当官の有り様が眼前に髣髴たるようだ。 イギリスと言えば世界に名だたる産炭国ではなかったか。ご自慢のウェールズ炭はどうした。こんな地の涯て惑星(ほし)の裏側、極東からまで遥々と、燃料資源の調達に齷齪せねばならぬとは、連合国の窮迫はそ…

  • 大国主に賽銭を

    絢子が棚橋の家に嫁したは齢十九の折である。 夫である大作は、もう五、六年も以前から眼病に患わされており、既にほとんど全盲に近い有り様で婚儀の席に臨んだという。 第二の人生、景気が良いとは世辞にもちょっと言い難いようなスタートだ。 しかし絢子に失望はない。 少女の頃から読書が好きで、経書の類を読み漁っては父親に「変物」扱いされ続けて来た人である。 ──塙保己一の例もあるから。 この際腕によりをかけ、夫の智能を磨きに磨き、そうしていずれは一廉の学者様よと仰がれるに至るまで、我が手で仕立ててくれようず、と。 夢のような展望に、却って湧き立つものを覚えたとのことだ。 それで始まった棚橋絢子の読み聞かせ…

  • 沸騰撰集 ─不義密通は死するべし─

    ジェームズ・フレイザーの調査によると、北ローデシアの原住民族・アエンバ人の間では、もしその亭主が不義密通の現場に踏み込み得た場合、彼はそのまま姦婦・間男両名を怒りに任せてぶち殺しても、何ら罪には問われぬことになっていた。 「重ねて四つ」──江戸時代の日本社会とそっくりそのまま瓜二つ、同型同種のシキタリが敷かれていたといっていい。 (Wikipediaより、ジェームズ・フレイザー) もしも亭主が殺意を引っ込め、離縁を言い渡しもせずに、女房の罪を赦しても。想像したくもない事態だが、夫の慈悲にも拘らず、妻が再び彼を裏切り、不貞に走ったとしたら。……その時はもう、どんな弁明も役に立たない。問題は夫婦の…

  • 異国の統治は至難なり

    二十世紀前半期、インドが未だ英国の薬籠中であった頃。 当然そこには志士が居た。現状に大なる不満を抱き、変革のため手段を選ばず努力する、極めて過激な政治分子の集団が。 彼らの言辞に目をやると、実に激しい。 野獅子の血に猛ると言うか、舌鋒雷火を散らすと言うか。兎にも角にも当たるべからざる勢いを、随所に於いて見出せる。 この上なく切実に独立を希求するゆえに、彼らは英国の行ったあらゆる施策を罵り倒さずいられない。そんな習性を持っていた。たとえ相手が女王陛下であろうとも、分け隔てなく噛みついてゆく恐れ知らずな蛮勇が、その形影に宿るのだ。 「ヴィクトリア女王の『インド人の繁栄は即ち英国の勢力であり、インド…

  • 生薬復興 ─アスピリンからミミズへと─

    第一次世界大戦の勃発と、それに伴う輸入の遮断、俗に所謂「舶来品」の欠乏は、日本社会のあらゆる面に深甚なる波紋を描いた。 薬価全般の高騰により、生薬の価値が見直され、代用品たるべしと持て囃され出したのも、一つの顕著な例だろう。 京都・大阪──上方地方一部ではアスピリンの代用としてミミズに着目、風邪程度の熱ならばコレで充分解消可能と謳われて、使用を推奨されたとか。 嘘ではない。 信ずるに足る証言がある。 この道一筋二十年、ミミズ採集で生計を立てる人物が、淀川西岸、南長柄の地に在った。 姓は田阪、名は菊松。彼の口から、 ──ミミズの需要が今日ほど高く盛り上がったことはない。 との嘆声が、大正五年、漏…

  • 丹羽と片山 ─国産カフェイン製造奇譚─

    税関に勤務しているとちょくちょく妙なモノを見る。 神戸のとある貿易商から使い物にならない茶葉を、そのくせかなりの頻度で以って輸出している不思議さが、片山兵次郎の興味を惹いた。この興味こそ、一介の税関職員だった彼をして、国産カフェイン製造業者の嚆矢という思いもかけない運命へ至らしめたる発端だった。 (Wikipediaより、神戸税関) 順序よく、先ずは茶葉から論じてゆこう。 どう使い物にならないか。 石灰塗れなのである。 これではとても飲用に堪えない。にも拘らずいったい何処に需要があるのか、送り出される茶葉の量、年々増加しこそすれ、減少する兆しさえ見えてこない不自然さ。 (誰が、何にあんなモノを…

  • デモクラシーの宿痾たる

    選挙のたびに政治家は自分が当選したならば──ひいては自党が政権を一度(ひとたび)掌握さえすれば──、もうたちどころに未来はバラ色、天使がラッパを吹き鳴らしつつ降臨(おり)て来て、「地上の楽園」創始相成る如き言辞を弄ぶ。 有権者を眩惑(くら)まして、一票でも多くを掻き集めんがため、実現不能な公約をせいぜい華麗にぶち上げるのだ。 刹那、人目を悦ばせ、まばたきしては跡形もない、儚く消えるばかりなり。そうした意味では、花火にどこか似てもいる。 政党政治が齎す弊害、その窮極たるモノとして。尾崎行雄や犬養毅ら「神様」どもの手によって、それこそ百年以前から何度も何度も繰り返して指摘され、警告されて来たという…

  • 京成王と総選挙 ─老躯ひっさげなにゆえに─

    「こんな老人が出る幕ぢゃないといふ人もあるかも知れませんが、私は大いに異論がある、例へば料理にも甘味と辛味を旨く調和せぬといゝ料理が出来ぬやうに丁度政治もそれと同じで、老人の辛味と、若い人の甘味とを旨く調和して行くところに本当の政治が成立すると信じてゐます」 第一回普通選挙に出馬を表明するにあたって、本多貞次郎が世に与えたる演説である。 御年、実に七十一歳。 千葉一区からの出馬であった。 (Wikipediaより、本多貞次郎) 彼の背景をざっと述べれば、名うての、希代の、敏腕の、実業家ということになる。 京成電気軌道をはじめ、武州鉄道、北総鉄道、大同電機、葛飾瓦斯等、数多企業の社長として君臨し…

  • ビタ一文とて負けやせぬ

    論外。 無理だ。 支払えぬ。 正気の沙汰とは思えない、冗談も休み休み言え──。 天文学的賠償金の請求を連合国から突き付けられた当時のドイツ国民は、ほとんど悩乱の態でわめいた。 孫子の代まで借金漬けにする気かと。 人の心はないのかと。 こんなことなら降伏などせず、最後の一人に至るまで討ち死にすればよかったと。 一九一八年の選択を、歯噛みして後悔したものだ。 (Wikipediaより、ドイツからフランスへ送られる物納賠償) 政府は民意を確(しか)と汲み取り、いっそ哀願に近い調子で国際社会に賠償金の減額を、どうかどうかと訴える。 それに対して、ロイド・ジョージの放った言葉が凄まじい。 「ドイツ国民は…

  • 道具悪用論

    言葉の誤用に異様に厳しい人がいる。 「役不足」と「役者不足」を混用したり、「すべからく」を「ことごとく」的なニュアンスで使ったりなどした場合、何処からともなく湧いて来て、誤用者の無智を嘲り、罵り。過酷なること秋霜烈日の指弾を辞さない、厄介至極な連中が。 (viprpg『シェイディの葡萄踏み』より) まるでそういう生態の妖怪でも扱うみたいな言い草になってしまったが。──実際問題、どうにもこうにも自治厨的ないやらしさが立ち込めて、この種の手合いに対しては、蓋し好意が持ちにくい。 細けえことはいいんだよ、重箱の隅をつつきまわすな。そんな風に一蹴したい衝動こそが筆者(わたし)の中で上回る。 否、筆者独…

  • 遥かなる公主嶺

    大豆は、大豆が、大豆こそ。 満蒙富源の筆頭として、世界に鳴らした作物だ。事と次第によりけりで、「象徴」の威厳さえ有す。鮎川義介とヒトラーが顔を合わせた瞬間を、1940年3月5日、猛吹雪の日のベルリンを思い返してみるがいい。総統閣下の腹を探る意図も兼ね、日産自動車創業の雄が半分懐(ふところ)から出して、チラつかせて見せたのも、やはりマメ科の、この一年草でなかったか。 (Wikipediaより、大豆) 実に大したものである。 しかし、やっぱり、案の定。 圧倒的な声価の裏には血を吐くような苦難苦闘、多年に亙る努力の犠牲が不可欠だ。独り満洲大豆のみ、例外たるは許されぬ。満人漢人、土着農家の筋肉労働はも…

  • 吉村冬彦・名の由来

    「名付け」は願いと共にある。 「斯く在るべし」との祈りを籠めて、親が子供に贈るモノ。──「こんな大人になって欲しい」という希望、絢爛たる未来を望む真情を、集めて煮詰めて純化して、結晶化した成果こそ、即ち名前に相違ない。 ただ、しかし。自分で自分に与える場合はどうだろう。 ペンネームを考える時、果たして作家はいちいちそんな大層な、仰々しい理屈なぞ介在させているであろうか。 そのあたりの機微につき、寺田寅彦に訊いてみる。 彼の好んで用いた筆名、「吉村冬彦」は何に由来したモノか。曰く、彼の血筋に長く伝わる「家系伝説」に拠るのだと。本人の口吻をそのまま引こう。 「僕の家は土佐藩士だが、始め吉村といふ名…

  • 朝日新聞お家芸

    印象操作と世論誘導、これこそ朝日新聞の真骨頂といっていい。 百十年も以前から、あるいはいっそ旗揚げ当初の時点から、彼らはずっとそう(・・)だった。明治・大正の昔時から、大衆を瞞着することに全知全能を傾け続けた集団である。 以下に証拠の一つを示す。 「大正二年、桂内閣に対する護憲運動が白熱して帝都に焼打ちが勃発した時だ、当時全国の大多数の新聞はその運動を極力声援してゐた、その結果焼打ちとまで激成したのだが、かくのごとき場合、いつでも新聞は『暴徒』といふ字を使ふことになってゐる、だが、きのふまで志士あつかひにした人々を、俄に『暴徒』はひどい、といって暴挙は暴挙だ、義士とも名づけかねる、何かないかと…

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