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穢銀杏
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2019/02/02

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  • 餅缶小話

    大正時代の日本に、「餅缶」なる奇妙な商品を確認できる。 餅の缶詰、その名の通りな代物だ。 ジャーナリストの加藤朝鳥が大正十年、コレを用いて、遥か南洋、ジャワ島で、日本式の正月料理を楽しんだ。「元旦の朝は缶詰を開いて正月らしいものを卓の上に並べた。餅の缶詰は始めて此処に来て食ったのであったが、丁度信州あたりで出来る凍餅のやうな味がして、鶏肉を入れた雑煮の香は故国を忍ぶことが出来」たということである。 まあ、だから何だよ、その情報が何になるというお話ではあるのだが。 のんべんだらりと書見中、つらつらページを捲る手が、この一節で止められた。抗い難い引力で、視線がそこに吸いつけられてしまったとしか言い…

  • 駅弁ロマン

    大連、鉄嶺、瓦房店、大石橋、遼陽、奉天、昌図、公主嶺、長春、安東縣、鶏冠山、橋頭。 大正四年、日本人の経営に依る南満州鉄道で駅弁を売っていた駅は、なんとたったの十二ヶ所。上に列(なら)べた十二の駅で、金輪際全部であった。 (あゝ満鉄) 何故そんなことが分かるのか。 単純明解、調べた奴が居たからである。 南満州鉄道の駅弁を片っ端から食べ比べ、ランキングを作ろうと――。妙な情熱に取り憑かれ、現に実行に移してのけた物好きが。 一月三日から二十一日に至るまで。――三週間弱を費やし、彼はその挙を成就した。 駅弁ロマン、あるいは大正時代の孤独のグルメ。「食」に対する日本人の関心は、ときに偏執の鬼相を帯びる…

  • 平塚らいてうディストピア

    「死が全てを解決する。人間が存在しなければ、問題も存在しないのだ」 「私の理想社会は何よりも人間の多過ぎないことです。劣悪な人間がいき苦しいほど詰込まれてゐる大都市などは造らないことです」 前者がヨシフ・スターリン、後者が平塚らいてう女史の御託宣である。 (Wikipediaより、ヨシフ・スターリン) いけしゃあしゃあと、顔色を変えることもなく、物騒な意見を吐いて述べる人達だ。 ソヴィエト最高指導者と、大日本帝国の女権活動家の泰斗。 その肩書にある意味で、相応しいとも取れようが。まあ何にせよ、あまり身近に居て欲しい種類の人では有り得ない。 平塚女史が夢に見る「理想社会」の設計図、丹精込めて彼女…

  • 滅びに見えた男たち

    「第三共和国政治は即ちうそつき政治。剣を抜き放ったのは殆ど戦備のないフランスであった。新国家が遺産相続した防空壕はペンペン草の生えるに任せ、一対十か、一対二十か、あまりにかけはなれた仏独空軍の比率を語り顔である」 死者に鞭打つ発言だった。 上の文章が物されたとき、フランス第三共和政は既に地上に存在しない。ナチス・ドイツの軍靴によって、朽木よろしく蹴倒され、蹂躙された後である。 (Wikipediaより、パリをパレードする独軍) いっそのことフランスを「第二の故郷」と呼べるほど久しく彼の地に棲息し、 フランスの飯を喰い、 フランスの水に慣れ、 フランスの風を浴び、 フランスで子を育て、 フランス…

  • 敗れた痛みはどう癒す

    1940年、腐ったドアを蹴飛ばすような容易さで、フランス第三共和政は鉤十字の軍勢に圧倒、崩壊、陥落し、城下の盟を結ばされた次第であるが。かかる無様を招き寄せた一因に、先んじて展開されていたポーランド戦線の戦訓を何一つとして有効活用できなかったことがある。 (ポーランドへ侵攻するソ連兵) フォウニー・ウォーの期間中、そうする機会はいくらでもあった筈にも拘らず。 フランス人は「時」という、戦(いくさ)に於いて他の何にも換え難い、貴重な貴重な資源について、半分以上痴呆的になっていた。 結果、独軍の戦術やら新兵器やらにいちいち白目を剥かされて、乱離骨灰、国土を守れず、敵の軍靴に蹂躙される屈辱を、世界と…

  • 夢をみる国

    君主制なき合衆国にて鉄道王こそ実質的な専制君主、彼らの威光を前にしたらば例え各州知事であろうと即座に米搗きバッタと化して膝を折らずにいられない、圧倒的な優者であったということは、『アメリカン・コモンウェルス』を通してとっくに既知の情報だ。 しかるにこの王者ども、素直にかしずく「下々の者」に対しては、その忠良さに免じてか、随分とまた気前いい、「よき領主様」の役割を演じていたモノらしい。 (ユニオン・パシフィック鉄道所有、ディーゼル動車) 線路沿いの農家に対して彼らが与えた恵沢は、畢竟「膨大」の一語に尽きる。「低利資金の供給、灌漑設備の助成、農業用品の割引輸送等は言ふに及ばず、気象の観測予報、農事…

  • 九月一日の独断専行

    「各々やるべきことをやれ、責任はすべて俺がとる」 なんとも格好いいセリフ、男らしいことこの上もない、生涯一度は言いたいセリフ。 だがしかし、当たり前だが夢想を現実に移すとなると、利害得失諸々の、夢も希望もありゃしない、ただひたすらに塩辛い、数多要素がそこに付き纏ってくる。 安全第一、寄らば大樹、長い物には巻かれまくって保身々々で世を渡る「利口な大人」でなるならば、やはり言えない、機会が来てもスルーする、まあせいぜいがモニタの向こうの架空の登場人物に代弁させて慰藉を得る、そんなところが関の山であるだろう。 (フリーゲーム『××』より) 逆に言うならリアルでこんな大見えを切れるようなやつばら(・・…

  • 泥濘を征く

    馬の背からトラックへ。 動物力から機械力の全面的な活用へ。 第一次世界大戦を機に列強諸国の軍隊は、この転換の必要性を厭というほど思い知り、目的達成の為の努力を死に物狂いで開始した。 (ドイツの軍馬) 輜重部隊も、むろん例外たりえない。 星条旗のお国では一九一八年にニュージャージーの沼沢地を選定し、機械化済みの輸送部隊の演習を派手に執り行っている。 足回りの最悪な土地を態々採ったその理由(ワケ)は、どうせ戦争ともなればインフラ破壊は当然のこと、およそ作戦行動中にまともな道路を走れるなどと、期待するだに愚かな贅沢だろうがよ──と、割り切っていたからではないか。 とまれ演習の一部始終を、幸運にも目撃…

  • 鉄道往生いざさらば

    愛し合ってる男女があった。 だがしかし、家の都合に世間のしがらみ云々と、七面倒な事情によって仲を裂かれる憂き目にあった。 今生での「添い遂げ」はもはや到底不可能と、愛しい彼との結婚が全き絶望に帰したと悟り、女は人生自体を悲観。極(・)から極(・)へと容易く振れる娘らしさを発揮して、脈打つ己が心臓を、停止させんと決意する。 縄を携え走り出て、海岸沿いの枝ぶりのいい松の木に、若い躰をぶら下げた。首をくくって死んだのだ。 彼女の遺体は現地で荼毘に付せられて、遺骨だけが故郷に帰る。 骨壺を乗せ、行く列車。やがて、ふと。線路の上に、さっと飛び込む影一つ。 ここは「勿論」と書くべきか。影の素性は娘と生前、…

  • 野良犬始末

    警視庁の記録によれば、昭和二年度、東京都内で捕まえられた野犬の数は三万四千六百十頭であるという。 全国ではない、東京一都。 警視庁の管轄内に限定してすら、かかる始末であったのだ。 蓋し瞠目に値する。なんたる夥しさだろう。野犬に噛まれて怪我をして、狂犬病にかかってくたばる世にも不幸な人々も、大勢居たに違いない。 捕獲された三万頭強のうち、四千頭は「実験動物」の名目で各医科大学、伝染病研究所、あるいは北里研究所等に渡された。本邦医学の発達の「尊い犠牲」となったのだ。 残る全部は三河島の化製場に送られて、殺処分の後、皮は三味線、ガマ口に。骨、肉、臓腑は肥料や薬に加工され、売買されたそうである。 その…

  • 甘い話

    昭和の初頭(あたま)ごろである。 日本人の体質改善策として、もっと砂糖を摂るべしと、おかしな事を主張しだした奴がいた。 (Wikipediaより、様々な種類の砂糖) 砂糖を摂って、エネルギーを補給して、脳と筋肉、双方の力を養って、もっとしっかり文明人にならなくちゃあならない、と。 その証拠に見よ、日本に於ける一人当たり砂糖消費量14㎏に対照し、目下世界を牽引しているアングロサクソン民族の砂糖消費量たるや、イギリス49㎏に、アメリカ48㎏と、三倍以上の大差でないか。 バンバン砂糖を舐めてこそ、彼らに追随するだけの馬力も湧かせられるのだ、と。 妙ちくりんな小理屈を、さる研究者が捏ね上げた。 (Wi…

  • 日本の覚悟 ─桃介的世界観─

    福澤さんちの桃介くんがおよそ三十年ぶりにニューヨークの地を踏んだ。 かつては留学生として、そして今度は電力会社の長として。 学業からビジネスへ、装い、目的、一切を蓋し華麗に改めて、威風堂々、乗り込んだ。 (Wikipediaより、若き日の福澤桃介) 摩天楼の立ち並ぶ彼の地に於いて外債交渉にいそしむ傍ら、ふとした余暇を利用して、学生時代の友人と会ったりなぞもしたらしい。 そこでの会話が面白い。なんでも曰く、 「…三十年前の旧友が『ニューヨークは非常に大変化したらう』と云ふから私は『何が変化だ恐らく女の化粧が変った位のことで高い家は前から在ったし殆ど変化はない、変化のあったのは日本だ、今から三十何…

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