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2018/02/15

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  • 取り急ぎ、お礼を。

    先日の「お知らせ」では、コメントにてアドバイスをいただきまして、本当にありがとうございました。コメントを読んですぐ、引っ越し業者さんに連絡いたしました。実は、ブログには書きませんでしたが、廊下も傷ついていたので写真を提出、補償やら修繕やらと、話が進んでいきそうです。これもみなさんのアドバイスがあったからこそ。本当にありがとうございます。個別にも返答していきたいのですが、昨日から熱を出しまして⋯⋯。夜...

  • お知らせ

    まだまだ残暑が厳しい中、皆様いかがお過ごしでしょうか。すっかりお話が停滞している私の方はといえば、実は18日に引っ越しをしまして、お話に割く時間が取れない程バタバタしておりました。引っ越しを見据えて、可能な限りお話の更新をしようと一時はスピードアップしたのですが、ギリギリまで執筆に取り掛かっていたものの、遂にその余裕もなくなり更新が止まっております。大変申し訳ございません。それもこれも、引っ越し業者...

  • Lover vol.53

    「つくしも、覚悟しておいてね。いざ何があっても、決して動じないように⋯⋯」いつになく硬質な母の声が、これが現実なんだと知らしめる。祖母の命の灯火は細く、儚く、とても危うい状態であるのだと⋯⋯。祖母が入院して、今日で10日。祖母が再び脳梗塞で倒れたのは、鮎を食べた日から、わずか5日後のことだった。 Lover vol.53「つくし⋯⋯」帰宅して真っ先に私の部屋に訪れた司は、気遣うような眼差しで私を見た。「お帰りなさい」...

  • Lover vol.52

    Lover vol.52「ただいまー!」実家のインターフォンを鳴らし、開けられた玄関を潜って威勢良く言えば、「⋯⋯あら? 肝心な道明寺さまは?」迎える側の第一声が、何とも失礼なこれ。私の背後ばかりを気にかける母親は、肝心(・・)な娘の夫の姿ばかりを探している。私が重そうに荷物を抱えているのが目に入らないのか、相も変わらず娘に酷い。どんだけ司贔屓なんだと、呆れ塗れに半目で母を見た。「司なら、急遽確認しなきゃなら...

  • lover vol.51

    「司さま、お待ちしておりました。遅ればせながら、この度はご結婚、誠におめでとうございます」「ああ。今日は世話になる。妻のつくしだ。これからよろしく頼むな」出迎えてくれたのは、この別荘の管理をしている川村さんという男性で、年の頃は50代半ばだろうか。噂の蕎麦打ち名人という方だ。その後ろには、使用人の方たちもいるけれど、そう多くはない。石張りと木で造られたモダンな別荘は、南側部分が緩やかな曲線を描き、贅...

  • Lover vol.50

    「魚のエサがイクラ? あの高級品のイクラ? 贅沢すぎるでしょ!」真っ先に抱いた感想がそれで。「イクラって高級品か?」人の感想に疑念を抱き、価値観レベルが天と地ほど違うと見せつけた司に連れられやって来たのは、軽井沢にある管理釣り場だった。 Lover vol.50肌を撫でるような優しい風が吹き、葉擦れが囁く木々の下では、耳心地の良いせせらぎを奏でる清らかな水が流れている。その清流が眺められるすぐ近くに管理釣り場...

  • Lover vol.49

    Lover vol.49「司ーっ! 何なのよ、アレはっ!」今日も今日とて、朝っぱらから道明寺邸を震わすのは、腹の底から放出された私の声。ここに住むようになってから、やたら叫んでいるような気がする。それもこれも元を辿ればこの男が発端。今日の叫びも勿論、この男へのクレームだ。それは、例のアレ。突如と姿を現した、例のアレ!正体が明らかになった昨日。司が帰宅するなり不満を爆発させてやろうと思っていたのに、こんな時に...

  • Lover vol.48

    Lover vol.48「つきたてのお餅がこんなに美味しいなんて知らなかったよ。つくし、またやろうね!」男性陣がぐったりする中、際立って元気な滋さんは、美味しいを連呼しては顔を綻ばせ、一体、幾つのお餅を食べたことか。お餅の旨さだけではなく、餅つき自体をすっかり気に入ってしまった滋さんは、実は自分でもお餅をついてみたかったと言う。「今回は、折角つくしが仕返ししようって頑張ってたからさ、成功させてあげたくて遠慮...

  • Lover vol.47

    Lover vol.47お義父さまの存在をチラつかせるなり沈黙した三人。女性陣には『お義母さま』の名を借りたのだから、男性陣には『お義父さま』の名を。ちゃんと平等を図る私は優しいと思う。誰も褒めてくれないから自画自賛してみる。それに嘘は言っていない。お義父さまには今朝、『友人たちと餅をついて草餅作りますから、楽しみにしていてくださいね』と、伝えてある。お義父さまは、それはそれは喜ばれて、出来上がりの連絡が来...

  • Lover vol.46

    「桜子⋯⋯、おまえ、一体何があってそんな姿に⋯⋯」美作さんが愕然とした表情で桜子を見る。美作さんだけじゃない。庭に引っ張り出してきた男性陣の誰しもが、唖然と立ち尽くしている。みんなが向かう視線の先は、主に桜子。抜きん出て桜子の姿がボロボロだからだ。ジャージー姿の桜子は、髪がほつれ、肩は落ち、いつものシャンとした姿はどこにもない。「⋯⋯どうもこうもありませんよ。先輩に嫌がらせされたんです。この私が畑仕事と...

  • Lover vol.45

    Lover vol.45「改めて先輩、ご結婚おめでとうございます!」「つくし、おめでとう!」「おめでとう、つくし」私の部屋に集合した女四人。それぞれがソファーに腰を落ち着かせるなり、桜子、滋さん、優紀、と輪唱のように祝いの言葉が続く。――――全く以て、めでたいとは程遠い結婚なのに、何がぬけぬけとおめでとう、よ。元はと言えば、美作さんを始めとする友人たちが余計なことをしたせいで、司と再会する羽目になったし、延いて...

  • Lover vol.44

    Lover.vol.44「やーっとご招待かよ。数段飛ばしでサクっと結婚しやがって。世話焼いた俺たちには事後報告で、今日まで顔も見せねぇとか、随分と薄情なんじゃねぇの、司くんよ」初っ端から喧しくイチャモンをつけてくるのは、総二郎だ。進と協力してスピード買収を仕掛けたもんだから余計な時間はなく、結婚前にこいつらに説明する暇もなかった。それが面白くないらしい。「うっせぇな。暇がなかったんだ」つくしが急に思い立った...

  • Lover vol.43

    Lover vol.43「なっ、なによ、これはっ!」婚姻を世間に公表した今日。与えられた部屋でひとり、ワイドショーを観ていた私は、愕然とした。道明寺司の妻として紹介され、画面いっぱいに映し出された写真。コメンテーターの人たちが一斉に笑い出したそれは、大口を開けて、今まさにラーメンを啜ろうとしている、私の顔だった。ラーメンを前にして、幸福に満ち溢れた嬉しそうな顔。己の顔ながら締まりがなく⋯⋯、これはいくらなんで...

  • Lover vol.42

    「明後日、マスコミに俺たちの結婚を発表する。マスコミには、おまえへの過剰な取材はしないよう牽制かけるから、発表後はSP付きなら外出してもいいぞ。ま、多少は付き纏われるかもしんねぇけど、そこはSPが何とかするから心配すんな」司がそう切り出したのは、悪妻の宴が失敗した翌日、帰ってきてからのことだった。「それと世間が騒がしくなる前に明日、おまえンとこの実家に顔出そうぜ。ちゃんと結婚の報告しねぇとな」昨日は何...

  • Lover vol.41

    Lover vol.41「つ、つ、つか、つか、つか――――つかっち!」叫びのあとに広がるのは、時が止まったような静寂。色を失くした道明寺の顔からは、表情というものがゴッソリと抜け落ちている。しかし⋯⋯。幾許かの沈黙のあと、それは一気に爆ぜた。「ふ、ふ、ふざけんなーーっ! 仮にも夫に変なあだ名付けんじゃねぇっ!」「煩いわね! 良いから司は黙って食べなさいよね!」「てめっ⋯⋯ぉ?⋯⋯お、おぅ!」怒鳴り声に混ぜ込み名前を呼...

  • Lover vol.40

    道明寺もお義母さまも食べるとなると、用意した焼き鳥だけじゃ到底足らない。そう思っていたところに、道明寺家のシェフがトレーを持ってきた。トレーの上には、串打ちされた鶏肉が並ぶ。ざっと見る限り30本以上はあるんじゃないだろうか。しかも、もも肉だけじゃなく他の部位まである。⋯⋯準備が良すぎるんですけど。それだけじゃない。厨房のスタッフがわらわらと現れ、あれよあれよと言う間にプロパンのボンベなどを運んできて、...

  • Lover vol.39

    日がまだ完全に暮れていない、道明寺邸の庭に面したテラスにて。私の右手には焼き鳥、左手には生ビールのジョッキ。そう、私は今、ひとりで宴を開いている。道明寺も道明寺の両親も、まだ仕事で帰宅していないというのに、夕方から酒を飲んでいるなんぞ、嫁としてあるまじき行為。常識的に考えて、これはない。私自身そう思う。付き纏うのは、そこはかとない背徳感で――――。しかし、これぞ体たらく。まさしく、悪妻。新橋のおじさん...

  • Lover vol.38

    『道明寺つくし』になって早10日。早速私は、結婚生活に厭きていた。それもこれも――――。「外に出られないってどういうことよーっ!」だから、こうして今日も私は――――屋敷の中心で愚痴を叫ぶ。 Lover vol.38どうして外に出られないのか。それは完全に道明寺の都合による。道明寺は仕事上、必要な関係各所に、事前に結婚報告を兼ねての根回しをしなくちゃならないらしく、離婚が世間にバレたのが最近なだけに、事情含みで説明に回っ...

  • Lover vol.37

    Lover vol.37道明寺の足を、これでもかってほどグリグリ踏んづけちゃったけど、これこそチャンス。自分は気に入られようと思って、ここに来ているわけじゃない。寧ろ、逆。ならば、浅はかな行為を生かさない手はない。「すみません。うっかり息子さんの足を踏みつけてしまいまして。でも、ご覧のとおりです。育ちが悪いものですから、息子さんを見ると、ついつい手も足も出したくなるんですよね」結婚話を白紙にするためならば、...

  • Lover vol.36

    「はぁぁ」隠す気など毛頭ない不機嫌な息を吐き出す。前の人はおずおずと窺うように振り返り、右隣の人は、申し訳なさそうに首を竦める。なんら悪いことをしたわけでもないのに、犯罪者の如し連行される気分である私は――――そう。日曜日の午前中から、道明寺家のSPたちに押しかけられ連れ出され、最後の戦いと言うべきラスボスと対峙するために、道明寺邸へと向かう黒塗りの車の中にいる。運転手も助手席の人も右隣の人も、道明寺家...

  • Lover vol.35

    8年前、私たちは為す術がなく行き詰まっていた。そんな時だ。息子である司にも内緒で、私にコンタクトを取ってきたのは。『司の政略結婚がどうしても避けられないのであれば、予め離婚を望んでいる相手と結婚させてみては?』そう言って、とある大企業の社長令嬢を紹介してくれたのが、やっと笑いの発作が治まり目の前に座る彼――――花沢物産の一人息子だった。 Lover vol.35彼から話を聞いたときは、そんな都合の良い相手などいる...

  • Lover vol.34

    「し、仕方なかったんです! だって、私の人生がかかった非常事態なんですよ?」対面は呼吸が整わないうちに、いきなり言い訳から始まった。入室するや待ち受けていたのは眉を顰めた顔で。それは社会人としてあるまじき行為に対し、苦言を呈したい表情だと直ぐに悟る。確かに文句を言われても仕方がないところはある。人様の会社を、礼儀も何もあったもんじゃないダッシュという行為で駆け抜け、飛び込むように執務室へと押しかけ...

  • Lover vol.33

    「牧野が売りに出てるっていうから買いに来た」衝撃の余韻を払拭できずに、男を唖然と見ること⋯⋯1、2、3、4秒。きっかり5秒めで声を張り上げた。「人を物扱いしてんじゃないわよ! ふざけたこと言わないで!」「違うのかよ、弟」私を通り越し唐突に問われた進は、どうしてだか笑み崩れていて⋯⋯。「違いません! 本日、特売日、大安売りです!」鮮やかな手のひら返しを披露した愚弟に、くらくらと眩暈がしてくる。手にしていたペ...

  • Lover vol.32

    ――――あの男、何かしでかす気じゃないでしょうね。最初こそ身を震わせながら警戒していたものの、ふざけたネーミングの『宝物探し』旅行から、早一ヶ月。予想に反して、奴から何の音沙汰もない。冷静になってよくよく考えてみれば、立場のある男だ。何を仄めかしての発言だかは知りたくもないが、『――俺は全力で行くからな』と宣(のたま)っていたバカ男に、好き勝手ができる自由などあるはずがない。それに、発言自体が、お坊ちゃ...

  • Lover vol.31

    組んでいた長い足を解き、立ち上がった司が吐き出したのは、「決まってんだろ。そこにいるバカ女の態度にだ」聞く者を怯えさせる声に乗せた、悪罵。バカ女って⋯⋯牧野のことか?愛する女の間違いじゃなくて!?決して小心者ではなく、ただ心配性なだけである俺は、雲行きの怪しさに、ぶるっと身を震わせた。 Lover vol.31ゆっくりと牧野に近づく司。その気配に気づいた牧野は、食事こそ止めたが、コーヒーを飲む余裕はあるらしい。テ...

  • Lover vol.30

    「おっ、帰ってきたぜ! でもよ、何で別々なんだ?」総二郎が2階の窓にへばりつきながら首を傾げる。総二郎や類と共に一日遅れで合流した俺たちは、無人島にひっそりと建つ屋敷の中、司や牧野の関係がどう変化したのか、二人の帰りを今か今かと待ちわびていた。『牧野がどうにもこうにも⋯⋯』と、プラス思考の滋すら苦笑するあたり、限りなく司の一方通行ってとこか。まぁ、頑固者の牧野が、そう簡単に気持ちを翻したりはしないだ...

  • Lover vol.29

    ――なっ、何を言い出した、この男は!自分から別れを告げた女に、しかもこの8年、会ったこともなければ、会話ひとつしたことのなかったこのあたしに⋯⋯「好きだ」そう言ったの?ぷつり、ぷつり、と自分の中の何かが焼き切れ、腹の底に怒りが溜まっていく。荒れ狂う感情は今にも内臓を突き破らんばかりで、『ふざけるなーっ!』と咄嗟に叫びそうになる。と同時に心を占めるのは、捨てられた女の矜持。それが理性を掻き集め、爆ぜそう...

  • Lover vol.28

    「つーかーさーーっ!」まるで光の届かぬ海底にでも落ちたような、酸素を取り込むのも難しく苦しい時間は、遠い向こう、浜辺から手を振る滋の甲高い声によって一瞬にして引き裂かれた。「帰ってきましたね」そう言ってクスリと笑う牧野のダチは、もう顔に困惑を滲ませちゃいない。寧ろ、清々しいようにも見える。多分、松岡は、敢えて滋たちと行動を共ににしなかったんだろう。言い難い話だろうとも俺に全てを打ち明けるために、自...

  • Lover vol.27

    Lover vol.27「つべこべ言っててもしょうがないでしょ。何か私たちのことを勘違いしてるみたいだけど、こんなことしても意味ないってわかってもらうには、丁度良いかもしれないし?」あっさりと牧野言われ言葉に詰まる。俺への気持ちが微塵も残っちゃいねぇってわかってはいても、いざ言葉にされりゃ気持ちが怯んで。そうして声を失っていた一瞬の隙。牧野は止める間もなくドレスを着たままプールに飛び込んだ。「牧野っ!」名前...

  • Lover vol.26

    私たちが降り立った場所は、かつて道明寺と二人で訪れた水上コテージ。まさか、こんな所に連れて来られるとは⋯⋯。小さな溜息を吐く道明寺もまた、行き先がどこかは知らされていなかったようで、「⋯⋯西田もグルだったか」と呟き、舌打ちをしている。にしても滋さん⋯⋯、何でここ!? Lover vol.26水上コテージに着いてもまだ、二人の間に会話はない。こちらを気にする道明寺の視線は感じても、話題もないし口を開くのも億劫で、結局、...

  • Lover vol.25

    人を威圧するのに慣れた声。振り返ってその人を見れば、邪悪なオーラを醸し出し、鋭く冷酷な眼差しは、凶器にも見えた。二人で話していたときのように物憂げな雰囲気は跡形もなく、昔ながらの姿がそこにある。いや、たった一言発しただけで見るものを怯ませ、場を制圧してしまう姿は、昔以上の迫力だった。 Lover vol.25「っ、道明寺⋯⋯司」道明寺がいることに驚いたのか、それとも、凄まじい威圧感に呑み込まれたのか。恐らく後者...

  • Lover vol.24

    「そういえば、昨夜は姉がお世話になったようですね。ところで、今日は姉に何か? それとも私に用があって、こんな所までいらしたのですか?」普段は物腰の柔らかい進が、相手を牽制するように低い声を崩さない。「そんな怖い顔しないでくださいよ、牧野社長」進の背中に隠れている私には見えないけれど、どうやら進は、表情にも険しさを滲ませているようだった。 Lover vol.24「まさか、牧野社長までこちらにいるとは思ってもみ...

  • Lover vol.23

    「悪かった」重みある低音を道明寺が発したのは、二人並んで潮風に晒され、暫く経ってからだった。道明寺の謝罪が何を意味するのか、わかっているのに、「何の謝罪?」私は確かめるように、静かに聞き返した。 Lover vol.23「8年前、勝手に別れを告げ、おまえを傷つけた。悪かったと思ってる」白い気泡が混じった黒い海面を眺める私を、道明寺がそっと窺っているのを感じる。私は、視線を海に置いたまま何拍か刻んだのち、さっき...

  • Lover vol.22

    Lover vol,22桜子らしさとはかけ離れた弱い声に触れ、グラスを持ったまま狼狽えた私が繋ぐ言葉を探しているときだった。楽器の調整の音出しが始まり、会場が静まりかえる。「いよいよ、始まりますね」さっきのは何だったの? と思うくらい声も弾み、表情も輝きだした桜子に、ホッと胸を撫で下ろす。不意打ちで弱くなるのは勘弁してよ。焦るじゃないのよ。あんたが遠慮なくぽんぽん言うから、私だって気兼ねなく何でも返せるのに...

  • Lover vol.21

    Lover vol.21「ご馳走の前では、折角決めたクールな女も台なしですね」豪華な料理を満喫しているところに現れたのは桜子で、私の向かいに腰を下ろす。「で、先輩? 元カレと再会したご感想は?」いきなり真っ向勝負で切り出してくるとは、恐るべし。だけど、今はそれどころじゃない。目の前に並ぶ料理が、私を今か今かと待っている。友人との会話より、堪能したい欲と、堪能してやるって意地の方が上回って、桜子をチラッと見た...

  • Lover vol.20

    固唾を飲んで見守っていた俺たちの耳に聞こえてきたのは――――「道明寺、久しぶり。じゃあ、また」って、おい!!牧野、それだけかよっ! Lover vol,20通りすがりの邂逅。度を過ぎた淡泊さを以ての短い挨拶に、自然と口があんぐりと開く。怒っているわけでもなく、かといって特別感じが良いわけでもなく。抑揚がないと言ってもいい声で迎えた8年ぶりの再会は、俺が想像していたものとは全く異なるものだった。「あきら?⋯⋯牧野が司に...

  • Lover vol.19

    Lover vol.19類と牧野が、話ながらこちらへと向かって歩いて来る。司を煽ってしまった身としては、どんな再会になるかと気が気じゃない。牧野からは死角になっているのか、司の存在にはまだ気づいてないようだ。というより、類との話に夢中で、俺たちの存在にも気づいていないと思われる。背筋を伸ばして歩いてくる牧野が纏うのは、ビスチェタイプのAラインドレス。ドレスの色のコバルトブルーが肌の白さを一段と際立たせ、とて...

  • Lover vol.18

    ――腫れてねぇか?先に船に乗り込んでいた俺は、優紀ちゃんを連れ向こうから歩いてくる大男二人の顔に、殴り合いの形跡はないかと、目を凝らす。⋯⋯おっと、これは意外。腫れてもなければ、切れた箇所もなさそうな二つの顔。何より二人からは、険悪な雰囲気を感じない。笑顔で優紀ちゃんと話す総二郎と、愛想が良いとはいえないが、険しい顔でもない司。捕獲役を総二郎に押しつけておいてなんだけど、まだ迷いのありそうな司と、司に...

  • Lover vol.17

    Lover vol.17短く息を吐き出し、開き直りの心境で口を開く。「あんな? 情けねぇつーなら、司だけじゃねぇから。俺の話訊いたら、少しは気も楽になんじゃねぇか」「あ?」「俺はな⋯⋯。好きな女を想って、他の女の前でボロボロ泣いたことがある」「ぶほっ!⋯⋯っ!」煙を吐き出しながら咽せた司は、ギョッとした顔で俺を見た。目が合ったと思ったら、今度は訊かなかったことにしようとでも思ったのか、気まずげに視線外しやがって...

  • Lover vol.16

    今日からまた更新して参ります。どうぞ今年もよろしくお願いいたします! Lover vol.16「滋に頼まれて来たのか」久々に会うっつーのに、愛想がないとこだけは相変わらずか。「まぁな。猛獣を捕獲しろって命令が出されてよ、こうして迎えに来てやったってわけだ。それに、俺だけまだ司に会ってなかったしな」滋から直接頼まれたってより、あきらに泣き付かれた、って方が正しいけど。何でも司は、本来の姿からは程遠いくせに、ダチ...

  • 2022年最後のご挨拶

    皆様、今年も拙いお話にお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました。個人的には、悲しい別れが幾度となくあり、心情的に辛い時もあった一年なのですが、書くことで、またそれを読んでくださる皆様がいたことで、気持ちの安定に繋がったと思っています。本当にありがとうございました!そして、来年こそは良い年にするぞ!と意気込みながら過ごしていた12月半ば。今年の災はまだ終わっていなかったのか、師走の忙しい...

  • Lover vol.15

    Lover vol.15大学で知り合ったダチのように、早くから跡継ぎとしての自覚を持っていれば、多分、こんなことにはならなかった。そんなダチも、欲に蠢く人間たちに翻弄され厳しい状況下に置かれはしたが、ヤツの人間性を慕って守る味方がいた。恋人を手放すこともなかった。好き放題やってきた俺とは何もかもが違う。もう少し俺も、真っ当な生き方をしていれば⋯⋯、そう悔やんだところで、全ては後の祭り。俺が散々しでかしてきた悪...

  • Lover vol.14

    「本日の予定は以上です。それと、今夜のパーティーが終われば、明日は一日お休みとなりますので、そのおつもりで」「は? 休み? んなの取ってる場合じゃねぇだろ」「いいえ。帰国前も帰国後も多忙な日が続いておりましたので、休息が必要かと。滅多に取れないのですから、明日の休みは有意義にお過ごしください。では、30分後に出発となりますので、また呼びに参ります」世間を騒がせている今。急なパーティーに行くのだって困...

  • 冬に舞い散る花びら《後編》

    「うわぁー、すごぉーい! おおきいのできたね!」「やったぁー!」全身一杯で喜びを表す男の子と、男の子よりも少し小さい女の子。男の子の妹だ。真っ白な世界は寒いはずなのに、夢中で子供たちと遊んでいたら、背中がしっとり汗ばむほど身体は熱くなっていた。「良かったね、大きな雪だるまができて」「うん! おねえちゃんありがとう!」「いいえ。お姉ちゃんこそ、遊んでくれてありがとね」目線を合わせて前屈みで言ってみた...

  • 冬に舞い散る花びら《前編》

    「うっ、寒い」駅を出るなり冷たい風が頬を切り、反射で肩を窄める。「天気予報当たるかも⋯⋯」一人呟いて見上げた空は、見渡す限りの雪模様だった。❅高層ビルが屹立した街の中を歩く。普段は、駅から吐き出された人たちでごった返すビジネス街も、土曜日である今日は、いつもの雰囲気と少し違っていた。スーツを脱ぎ捨てた人たちの方が多く、家族連れもチラホラ見える。世間では束の間の休息日。だけどそんなもの、私には必要ない...

  • 告知です

    こんにちは。本日はタイトルどおり告知になります。でも先ずは、大雪に見舞われている地域にお住まいの皆様。大変な中で過ごされていることと思いますが、ご無事でしょうか。やむにやまれず出掛けなくてはならない方もいるでしょうし、出掛けられず不便を強いられている方もいると思います。寒さも厳しいのに電気代は高騰。雪かき等の労力だって必要でしょうし、その他を含めどれ一つとってみても大変なことばかりで、特に年末の忙...

  • Lover vol.13

    Lover vol.13「どう? 気に入ってくれたかな?」テーブルの上で輝くダイヤ。唖然とする私に、瀧本さんは笑みを湛えて訊いてくる。普通の女性なら、甘い艶を含んだ笑みに顔を染めるかもしれないけれど、生憎とイケメン抗体のある私には通じない。何より、この奇っ怪な言動は人を不愉快にさせる。詰めていた息を逃し、目に強い意思を乗っけて、真っすぐに瀧本さんを見据えた。「瀧本さん、お気持ちはお伝えしたとおりです。指輪は...

  • Lover vol.12

    金曜の夜のせいか、人も車も普段より多い気がする。けれど、幸いにも大きな渋滞には巻き込まれず車はスムーズに流れ、何とか時間には間に合いそうで、ふぅ、と安堵の息を吐いた。落ち着いた途端に考えてしまうのは、進のこと。実は本当にシスコンだった、ってことはないだろうけど、一体なにがあってあんなに口うるさくなったのか。思い当たる節はない。かつては、自宅に泥棒が入り、私の後ろに隠れて怯えるような子だったのに、今...

  • Lover vol.11

    Lover vol.11強張った顔のまま、進が真っ直ぐな視線を向けてくる。「姉ちゃん。念の為に訊くけど、その相手って、道――」「違うからっ!」進が固有名詞を出す前に即座に否定する。「なんで今更、道――」「じゃ、誰? 姉ちゃん誰と会うの?」私に負けず劣らず電光石火の早業で、今度は進が私の言葉を打ち払う。普段は人の話を良く訊くタイプなのに、珍しい。しかも、表情は依然ニコリともしない。進の態度を訝しく思いつつ、隣から...

  • Lover vol.10

    えーっ、ちょっと何よ、これ!明日って、いくら何でも急すぎるでしょうがっ!押し捲ったミーティングが終わって席に戻ってみれば、進からの伝言と共に白い封筒が置いてあって、中身を確認した私は目を丸くした。時計に目を遣ると、時刻はもうすぐ18時になろうしている。18時半の約束を思えば、直ぐにでも会社を出るべきだろうけど、どうしても一言文句だけは言っておきたくて、鞄とコートをひったくるなり社長である進の元へと急い...

  • Lover vol.9

    幻覚でも見間違いでもなく、今まさに考えていた人物――牧野が、路肩に寄せた俺の車の脇を通り過ぎていく。まさか偶然にも牧野に遭遇するとは⋯⋯。しかし、今しがたの出来事を思えば、安易に牧野に声をかけるのは躊躇われた。したくてそうしたわけではないにせよ、結果として司を煽ってしまったのは、他ならぬ俺。牧野の知らぬところで、話を急展開させてしまった張本人としては、どうしたって負い目を感じてしまう。だけど、今は夜だ...

  • Lover vol.8

    Lover vol.8不意に浮かんだ疑問を、口にせずにはいられなくなった。「なぁ。類はいつから司の離婚を知ってたんだろうな」「さぁ、私もそこまでは。でも、道明寺さんが離婚していたのは4年も前ですから、花沢さんは、かなり前から知っていたのかもしれません。恐らくですが、色々と探っていたような気がします」「なんでそう思う?」「どうしても私、腑に落ちないんですよ。美作さん、覚えてます? 道明寺さんと別れてからの先輩...

  • Lover vol.7

    Lover vol.7メープルの地下駐車場。類を見送り、滋が車に乗り込んだのも見届けてから、隣に佇む桜子に問い掛ける。「桜子、おまえ何か知ってるのか?」「知ってるというよりは、気づいたって感じでしょうか」類に対して、さっき桜子が漏らした一言。――敵に回したくない相手ですよねぇ、花沢さんって。それがどうにも引っかかる。『お疲れさま』を言うためにだけ引き返してきた、別れ際の類の不可解な言動に頭を捻る俺とは違って...

  • Lover vol.6

    Lover vol.6「おばあちゃん」お祖母ちゃんの部屋である和室の襖を開けて、ニコッと笑う。「おや、つくしちゃんかい」部屋の真ん中に置かれてある電動式ベッド。それを起き上がらせた状態で身を預けている祖母は、いつだって目を細めて嬉しそうに私を出迎えてくれる。「起きてたんだ」「あぁ。ニュースを観てたんだよ」リビングで流れていた番組とは違うことにホッとし、耳が遠いせいで大音量となっているテレビに負けじと声を張...

  • Lover vol.5

    「ただいまー」「どう? 今日こそは運命の男性と出会えたぁ?」玄関に入るなり私を出迎えるのは、奥のリビングから届けられた、もう何度訊いたかしれないお決まりの科白。3日前にも一言一句違わずに訊いたそれは、言うまでもなく、母親から発せられた無神経な言葉だ。毎度毎度、芸もなく同じことばかり言ってくるけれど、数日で簡単に出会えるくらいなら、誰も苦労はしない。頻繁に顔を合わせているだけに、満面の笑みで迎えてほ...

  • Lover vol.4

    Lover vol.4黙り込む司を俺がじっと見ている中、挑発するように口を開いたのは桜子だった。「滋さん? しょうがないですよ。あれから何年経ってると思います? かつてあれだけ愛した人でも、所詮、心は移ろうもの。人の気持ちは変わるんです。先輩だってそうじゃないですか」司ではなく、滋を相手に話し始めた桜子が、人の気持ちは変わる、牧野もそうだ、と皮肉るなり、司の眉がピクピクと動いたのを俺は見逃さなかった。それ...

  • Lover vol.3

    Lover vol.3スマホが鳴り、画面に映し出された名を目にしたときから、嫌な予感はしたんだ。だからって、相手は久々の幼なじみ。無視できるほど冷たい男になれない俺は、おずおずと電話に出たのだが⋯⋯。『あきらか。今直ぐこっちに来い。こいつらを何とかしろ』ある意味期待を裏切らない相手――司は、口を開くなり偉そうに命令してきやがった。俺だってそうそう暇じゃねぇ。仕事だってある。それを少しは考えろ!そう言ったところ...

  • Lover vol.2

    く Lover vol.2「ただいまー」返事をしてくれる人はいないと知りつつも、ついつい口に出してしまうのは、もう習慣だ。けれど⋯⋯あれ?⋯⋯いる?廊下の先、ドアの向こうに人の気配を感じ、スリッパに履き替えパタパタと廊下を駆けた。「姉ちゃん、お帰り」やっぱりいた。リビングのドアを開けるなり迎えてくれたのは、笑顔の弟。このマンションで一緒に暮らしているのだから、いてもおかしくはないけれど、日が暮れるにはまだ早い時...

  • Lover vol.1

    スマホを耳に当て電話対応している私の前には、好奇心に満ちたキラキラと輝く二組の瞳。――そんなガッツリこっちを見なくても。「いえ、本当に遠慮とかじゃないんで⋯⋯」相手が誰かも確認をせず、二人の前で電話を取った私にも落ち度はあるけれど、何でそんなに人の電話を気にするんだか。喋りづらいったらない。だけど、かかってきた電話を取ってしまった以上、無言を貫くわけにはいかないわけで。「ええっと、その⋯⋯、自分のサイズ...

  • 次のお話は⋯⋯

    こんにちは!本日は、次のお話の報告に上がらせていただきました。次は、長編のお話を書き進めていきたいと思います。これはリメイクであり、書き下ろしでもあり⋯⋯。と言いますのも、このお話。前サイトにて未完だったものなんです。今度こそは完結させたく、書こうと思うに至りました。タイトルは『Lover』。途中まではリメイク、途中からは書き下ろしとなり、かなりハラハラドキドキの作業となりそうです。なんせ、かつてのプロ...

  • 感謝

    先日『手を伸ばせば⋯⋯ The Final』が、無事に最終話を迎えました。最後まで読んでくださいました皆様、本当にありがとうございました。また、大変な時には優しいお言葉だったり、励ましのお言葉だったり、支えてくださいました皆様がいたからこそ、こうして終えることができたと、心より感謝しております。今はホッと一息つきながら、次は何を書こうかと考えておりまして、候補3本まで絞ったところです。ちゃんと決まりましたら、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 14.【最終話】

    ――――あれから時は経ち、皆の前で愛を誓い、人知れず『脱淡泊!』を決意した日から、二年の歳月が流れた。 手を伸ばせば…… The Final 14.『脱淡泊』を決意してからというもの、時折、桜子に「しつこい」と叱られることはあっても、俺は今も幸せだ。幸せの真っ只中にいると言っても良い。隣には俺に肩を抱かれた最愛の妻がいて、その妻の細い腕の中では、小さな天使が気持ちよさそうにスヤスヤと眠っている。柔らかな表情で天使を見...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 13.

    「美作さん、やっぱり気づかなかった?」「何をだ?」思惑含みな二人を眺めていれば、牧野からふいに話を振られ、益々意味がわからず首を捻る。そんな俺を見て、桜子が言った。「あきらさん。滋さんの相手ならちゃんといますよ。正確には、これからできるだろうと、私たちは睨んでいるんですけどね。ね、先輩!」「そういうこと。だから、美作さん心配しないで。じゃ、私もう行くからまた後でね!」「えっ、あの滋に!?」幾つになっ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 12.

    ――この男、一体どれだけの割合で、一晩に何回やってるんだ!?思わず背も態度も糞デカイ男をマジマジと見る。「あ? 何ジロジロ見てんだよ」「いやー⋯⋯その、なんだ。アレ、なんだけどな――――」一年持ちそうか? と直球を投げ掛け淡白疑惑を払拭したかったのだが、タイミング悪くドアがノックされるや否や、他の奴らが雪崩のように押し入ってきて、最後までは言わせてもらえなかった。 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 12.「よっ! あき...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 11.

    新緑が眩しい季節。爽やかな風がそよぎ、梢の葉擦れは、さざ波のように音を奏でている。澄んだ空を見上げれば、大空を自由に舞う鳥たちの謡うような鳴き声。どれもが心地よく、俺の耳に優しく届く。まるで、全てのものたちが俺たちを祝福するかのように……。そう。今日は、俺と最愛の女との結婚式。神聖なる晴れ舞台の日だ。 手を伸ばせば…… The Final 11.純白なドレスに身を包んだ最愛にして最高の女を前に、美しさに当てられ言葉...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 10.

    ⋯⋯俺たちがいるってこと、忘れてないよな?⋯⋯つーか、苦しそうだぞ?⋯⋯おいっ、流石にヤバいだろ、死ぬぞ!!「司、いい加減止めろ! 離してやれっ!」牧野に飛びかかり押し倒した司は、俺たちがいるのにも関わらず牧野の唇を強引に奪った。見せられているこっちが胸焼けするほど、ねっとりと、しつこく、濃厚に⋯⋯。息継ぎが追いつかずの牧野は、酸素不足に陥って血が昇り、顔は勿論、耳も首までも赤い。類によって牧野が顔を赤らめ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 9.

    「牧野、一人で悩まないで? それに司が原因ってこともあるしね」類が差し向けた笑顔にやられ頬をほんのりと染める牧野と、それを見て爆発寸前、牧野とは別の意味で顔を真っ赤にする猛獣。それを知ってか知らずか、「牧野が一人で抱え込まなくて良いんだよ」更に優しい笑みの追加で、茹でダコ牧野の一丁上がり。「てめぇ、つくしに笑いかけんじゃねぇーっ!」遂に発狂した司を横目に、溜め息を吐き出し心で嘆く。――――何で俺、まだ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 8.

    おっ?帰ってきたか?玄関から訊こえてくる、あいつらの声。動きを止めて、廊下の向こうへ一点集中、耳を澄ます。これは――――明るい声、だよな?なら、ようやっと問題解決か?牧野はちゃんと笑ってるのか?胸に期待が立ち昇り、妹よ、一刻も早く兄に安心させる笑顔を見せてくれ! とその時を待った。 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 7.「おぅ、遅かったな。司、牧野お帰り! その顔は……大丈夫だよな?」二人がリビングのドアを開ける...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 7.

    街灯に彩られた煌びやかな街中を、俺たちを乗せた車はスムーズに走る。戸惑うつくしを引き摺るようにして車に押し込めたが、しかしつくしは、繋いだ手を決して離そうとはしなかった。その手を見て改めて思う。────この小さな手があれば、他には何にも要らねぇ、と。 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 7.「緊張すんな、大丈夫だから。腕の良いって評判の医者だ」少しだけ汗ばむつくしの掌。緊張が伝わってくるようで、小さな手の甲を、慰...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 6.

    ※こちらの回と次話には、不妊に関しての記述がございます。とてもデリケートな問題です。読まれるのがお辛い方もいらっしゃるかもしれません。私自身、過去に悩み通院した経験がある身ですから、ご自身のお心を守るのが第一優先だと考えております。こちらの6話と次話の7話は読み飛ばし、8話から読まれても何となく話は分かるかと思いますので、どうぞご無理をなさりませんよう、ご注意くださいませ。以上をご理解の上で、この先に...

  • ご無沙汰しております。

    皆様、お久しぶりです。何の音沙汰もなく、申し訳ありませんでした。また、コメントを送ってくださいました皆様にも、返信すらせずに、本当にすみませんでした。先程、全て返信させていただきましたので、お目通しいただければ幸いです。前回、と申しましてもかなり前ですが、ブログで叔母がコロナに感染したお話をさせてもらったと思います。その後、退院の日程が決まるまでに回復。しかし容態は急変し、願いも虚しく永眠いたしま...

  • 遅ればせながらご挨拶を。

    約1ヶ月ぶりです。本来なら新年のご挨拶をすべきはずが、気づけはもう2月。ご挨拶もせず更新もせず、すっかりご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした。あまり暗い話はしたくないので事情をサラッと説明しますと、年末に続き先月も不幸がありまして⋯⋯。更には同時期、施設に入所している叔母がコロナに感染。救急搬送を要請しても受け入れ先が見つからず、入院できるまでに8時間も時間を要するという、気ばかりが焦る状況下に...

  • ご挨拶

    こんにちは!先ずは、『愛のカタチ』にお付き合いくださいました皆様、どうもありがとうございました。後半に行くにつれ長くなってしまったお話を見届けてもらえて、大変有り難く思っております。25日に無事に完結した後には、『手を伸ばせば』の方を一本、年内に更新する予定でいたのですが、最終話を上げました、その日。想像もしていなかった知人の訃報に接しまして、お話に向き合う気持ちの余裕がありませんでした。申し訳ござ...

  • 愛のカタチ 7.(最終話)

    降り立った神戸の街。教えてもらってやって来たのは、繁華街からほど近い場所にある、五階建てのマンションだった。見上げたマンションの前、居ない相手に向かって、心中で嘆きに喚く。あきらのヤツ、部屋番書いてねぇじゃねぇかよ!どうすんだよ。連絡先だって分かんねぇのによ。舌打ちしてから、「仕方ねぇ」不審者扱いされようが構わず、エントランスに足を踏み入れた。こうなったら、ポスト一つ一つを確かめ歩き、名前を見つけ...

  • 愛のカタチ 6.

    男だけになったところで、あきらが俺を呼ぶ。「司、いつまでそこに座ってんだよ。こっち来いって」ベッドで上半身を起こした格好の身体は鉛のように重く、身動き一つ取れずにいた。記憶さえ戻れば、不安も焦りも何もかもが消え失せ晴れ晴れすると思ってたのに。晴れるどころか苦しくて、以前より酷く胸が締め付けられている。俺を苦しめるのは失くした記憶だけ。そう思ってきた独りよがりだった自分は、一体どれだけの奴らを巻き込...

  • 愛のカタチ 5.

    「全部、思い出したんだよね?」確かめるように俺を見入る滋に、これ以上は隠し通せねぇと降参し、俺は黙って頷いた。「やっぱりね。司、分かりやすいんだもん。私、さっきもわざと『司』って呼んだんだよ? 道明寺って呼び続けてた私がね。なのに、特別驚くでもないし、私が大河原滋だって思い出したのなら、呼び捨てにされても違和感ないはずでしょ?だから、あぁ、記憶取り戻したんだなぁ、って直ぐに気付いたよ。それだけじゃ...

  • 愛のカタチ 4.

    「道明寺? 気が付いた?」現実と夢の狭間を揺蕩った果て────。重い瞼をゆっくりと開けると、黒髪が頬に触れるくらいの距離から、俺を覗き込む心配そうな目とぶつかる。続けて辺りを見回せば、見慣れた男たちの姿もあって、寝てるこの場所が自分の部屋だと分かった。「司、分かるか? おまえ、俺のオフィスで倒れたんだよ。覚えてるか?」足元に近寄って来たあきらに頷けば、今度は類と並んでソファーに座っている総二郎が口を開...

  • 愛のカタチ 3.

    「彼女を傷付けてるのは、道明寺さん⋯⋯、あなたでしょ?」松崎の指摘に胸の奥にチクッと痛みが走る。この痛みの原因が何なのかは分かってる。それは記憶を失くしちまった、あいつへの負い目。けど、「分かったようなこと言うな!」そんなことは、おまえに言われるまでもなく俺が一番分かってる。十年間ずっと記憶を失くし、今も尚、あいつを思い出せずに苦しめてるってことは。だからこそ、あいつに言われるがまま診察だって受けた...

  • 愛のカタチ 2.

    「最悪な女だな。あんなんで秘書が務まんのかよ」翌日、俺はあきらのオフィスに来ていた。「おいおい、アポなしで突然現れたと思ったら、いきなりうちの社員の悪口かよ。勘弁してくれよ、俺だってそう暇じゃねーんだぞ?」あきらは、書類の上を走らせていたペンを置くと、ソファーで踏ん反り返る俺を見て肩をすくめた。俺が来た以上、仕事の継続は無理だと諦めたのか、内線でコーヒーを二つ頼むと、俺と向い合せのソファーに腰を落...

  • 愛のカタチ 1.

    ──── 一体何が足りねぇんだよ。心にぽっかり穴が空いたような虚無感。どこまで歩いても果てのない闇夜に迷い込んだみたいに、光が差し込まない世界に閉じ込められた感覚から齎されるのは、絶望的な孤独。時折、焦燥も合わさって、何かが足りないと、どうしようもない苦しみに藻掻きたくなる。長い間俺は、この得たいの知れない感覚に苛まれ続けている。記憶障害だと告げられた、十年前のあの日から、ずっと。だから、戻ってきた。...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 5.

    司と牧野に何の進展もなく、寧ろ後退したとも言える中、やっと夕飯となり牧野の手料理をご馳走になる。精神的疲労が蓄積された俺は普段より食欲はなかったものの、素朴な家庭料理の味わいは、心をほんのりと温かくさせ、ささくれ立った気分も少しだけ緩和されるようだった。そんな束の間の休息も、総二郎が話を蒸し返したのをきっかけに、敢えなく終了する。せっかく、お気に入りの肉じゃがをつついていたのに⋯⋯。 手を伸ばせば⋯⋯...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 4.

    早まるなよ、牧野!話せば分かる、きっと分かるはずだ!届いた試しがないテレパシーを幾ら送ってみても、やはり牧野からは何ら反応もない。焦りだけが加速し、硬直する身体に鞭打って『どうすんだよ、これ』と、助けを求めて画策した張本人に目を向けた。それを受けた総二郎も、流石に不味いと思ったのか、「⋯⋯牧野」重い口を開いた。あとは任せたぞ、総二郎!!何とか切り抜けろよ! 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 4.「牧野⋯⋯、た、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 3.

    静かに停車した車から降ろされ、両脇をがっちりホールドされ連行された先は、二日前までは、間違いなく司と牧野にとっての愛の巣。そして、今の俺にとっては恐怖の館だった。 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 3.玄関前に着くなり内側から開いたドア。牧野が顔を覗かせると、俺を連行してきた男どもは、潮が引くようにササーッと消えていった。⋯⋯素早い。「美作さん、ご愁傷様」玄関の中に俺を招き入れたところでの、牧野の第一声が、こ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 2.

    いつもは慌ただしいであろうこの部屋は、今は恐ろしいくらいに静まりかえっている。司が夫婦仲が拗れた原因としていたものを、あっさりと翻した牧野の発言は、俺たちから声を奪った。誰よりも声が大きく態度まででかい司は、今は鳴りを潜め、心当たりを必死に探しているのか、眉をぐっと寄せた難しい顔で口を閉じている。何を考えているのか読めないポーカーフェイスの妻も、喋りたくもないのか何も発しようとはしない。時間が経つ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The Final 1.

    いつもお付き合い下さいまして、ありがとうございます。今日から『手を伸ばせば⋯⋯』の続々編『手を伸ばせば⋯⋯ The Final』を更新いたします。途中、注意事項を挟まなければならない回もありますので、ご理解いただきました上でお進みになられますよう、お気をつけ下さいませ。一話が無駄に長い回もありますが、三度見届けてもらえたなら嬉しいです。それでは、どうぞ。「お疲れさまです、美作副社長」綺麗な身のこなしで俺の前に...

  • お礼&あとがき

    こんばんは!まずは、先日完結しました『手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd』、最後まで読んで下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました!今は、最終話を更新出来て、ホッと一息ついているところです。というのもあの最終話。実は更新する15分前に、やっと仕上がったものなんです。リメイクするからには、以前のものより少しでも良いものにしたいと、前半のあきらと桜子のシーンから意気込んでいたのですが、心理...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 11.【最終話】

    振り返った先を視界に映すなり、声を張り上げた。「さ、桜子!」あのバカップルめ!桜子がここに居るってことは、無理やり拉致ってきたのかよ!窓辺に置かれたロッキングチェアに座っている桜子は、昔の俺たちが司にしたように拘束こそされてはいないものの、今の現状があの当時を真似ているとなれば、無理やり連れてこられてここに閉じ込められた可能性が高い。「桜子、大丈夫か? 無理やり連れて来られたんだろ? 全く何を考え...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 10.

    「今日は、付き合わせて悪かったな」「いいえ。予定もありませんでしたし、先輩と美作さんのお役に立てるなら、これくらいお安いご用です」パーティーも無事に終わり桜子をワインバーへ誘った俺は、今夜、同伴してくれたお礼を込めて、ヴィンテージもののオーパス・ワンを開け、二人でグラスを合わせたところだ。例のご令嬢も問題ない。桜子が二言三言、彼女の耳元で何かを囁いただけであっさり退散。それはもう、肩すかしを食うほ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 9.

    「失礼します。わぁー、牧野さん! お久しぶりですぅ! 秘書課に移られてから全然会えなくて、まだまだ教えてもらいたいことが沢山あったのに、本当に────」「松野くん? まさかくだらない話をするためにここにきたわけじゃないわよね? 要件を早く言いなさい」副社長室にやって来たのは、以前、牧野と一緒に仕事をしていた松野だ。牧野を見るなり喜びを全身で表すとは、相変わらず学習能力が低い松野らしい。早々に牧野から、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 8.

    悪夢のパーティーから二週間が経った。司にとってあの一夜は、生きながらにして味わった地獄であったろう。地獄に招待したのは、何を隠そう婚約者。自らが招いた種とはいえ、司は膚で、心で、嫌と言うほど婚約者の恐ろしさを知ったはずだ。だが、恐怖をいとも簡単に作り出す婚約者ではあっても、司の愛は微塵とも変わらないらしい。あの日、あの晩、俺たちが帰った後。シャワーを浴びた司が寝室で見たものは、目を赤く染めた牧野の...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 7.

    今夜のパーティーには、杉崎とはまた別の過去女がいたと話す牧野に、誰も口を挟もうとはしなかった。それは、今までの様子から一変した牧野のか細くなった口調だったり、瞳に悲しみが浮かんで見える表情だったり。無闇にからかって良い話の類いではないと察せられ、お調子者たちの口を噤ませた。「彼女のこと、全く覚えてないみたいね」牧野から探るような眼差しを向けられている司は、牧野の言葉通りなのだろう。心当たりがないよ...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 6.

    牧野の謎発言により発生した沈黙から、いち早く抜け出したのは腹黒王子だ。歳が30にもなるというのに、首をコテっと倒す仕草が不思議と様になる類が牧野に訊く。「牧野、ファイルナンバーってどういうこと? 11番って?」「彼女は11番。司と関係あった女性に番号を付けてみたの」付けてみたって、どうしてそんな発想になった! と全力で牧野に問いたい。それが通じたのか、俺の心中に応えるように牧野が言う。「だって、その方が...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 5.

    「もう喉カラカラ!」たった今。女同士による苛烈な戦いに幕を閉じたばかりの牧野は、その余韻すら見せず、テーブルに並んだカクテルの一つを手に取り、喉を潤している。その横顔は、品が漂い美しく、愛憎が生み出した修羅場を演じた女だとは、目撃者でなければ誰も信じまい。まるで何事もなかったような牧野の態度。端から見ても分かるほど恐怖に凍りついている司は、言葉も見つからないのか、牧野を目で追うのみ。気持ちは、よー...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 4.

    「道明寺さんの趣味が変わった? 女性の好みについて言ってらっしゃるのかしら?」首を傾げた牧野は、笑みを保ったままで女に訊く。「えぇ、そうよ。事実、司さんはこの身体に溺れてましたもの」⋯⋯溺れてたのか。司を除いた仲間全員が、心に同じ呟きを落としたに違いない。顔を引き攣らせる司にダチ達が白い目を向ける中、自信ありげに女は続けた。「これでお分かりでしょ? 司さんの好みの女性というものが。だから私、心配して...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 3.

    色気を無闇矢鱈に振りまき司へと近づいてきた女。直ぐさま敵認定したと思われる滋と桜子は既に警戒態勢で、女を睨めつけ威嚇している。しかし、女は涼やかな一瞥をくれただけでさらりと流し、司の右腕にそっと手を添えた。「私、ずっと連絡をお待ちしておりましたのよ?」司を見上げて女が艶やかに笑う。目尻にある黒子が、余計に濃艶を醸し出している。そんな女を見下ろす司は、初めこそ「誰だ?」と理解していないようだったが、...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 2.

    新たな性格が誕生した、という突飛な誤算はあったが、完全に病気を克服した牧野と彼女を支えた司は、間もなく婚約を発表した。とは言っても、ビジネスにおいては過ぎるほどの有能さを発揮する牧野ではあるが、普通の一般人だ。元から派手派手しい騒ぎを好まない牧野に配慮し、また、騒がれて嫌な思いをさせないためにも、司は一人で婚約会見を行い、無事に結婚式を迎えるまで、世間には牧野の名を伏せたままにしてある。司の考えと...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ The 2nd 1.

    こちらは、『手を伸ばせば⋯⋯』の続編になります。但し、本編とは趣が異なりますますので、それでも大丈夫な方様のみお進みになられますよう、宜しくお願い致します。少しでも楽しんで貰えたなら幸いです。それではどうぞ!司と牧野の間に横たわった12年にも及ぶ溝は、一体何だったんだ。これが、今の俺の頭に常時ある疑問である。マンションから牧野が姿を消したあの日。野生の勘を存分に発揮し牧野の居場所を突き止めた司は、見事...

  • お知らせ

    お久しぶりです。ご無沙汰してすみません。漸く、疲労回復のドリンクに頼ってばかりだった超多忙の状態から脱しつつあり、お話に向き合える時間も間もなく訪れそうです。完全な余裕ができましたら、更新すべく書き綴っていきたいと思っております。そして、次のお話ですが、迷いに迷いましたが『手を伸ばせば⋯⋯』の続編にしようと思います。前回、有り難いお言葉を沢山頂戴し、「よし、続編も加筆修正してアップしよう」と決めまし...

  • 御礼&あとがき

    こんばんは!数日、間が空いてしまいましたが、リメイク版『手を伸ばせば⋯⋯』を最後まで読んで下さいました皆様に、改めてお礼申し上げます。どうもありがとうございました!このお話は、私が二次として初めて書いたものでして、何かと思い入れの強いお話です。それを新たに書き改め、長い年月が経った今、またこうして多くの皆様に読んで頂き受け入れて貰えたことに、昔に書き上げた当時と同じく、嬉しさが込み上げてきました。有...

  • 手を伸ばせば⋯⋯ 52【最終話】

    「西田っ! 直ぐにでも日本に帰れるよう手配しろ!」「支社長、こちらに着いてまだ三時間です。直ぐにと言うのは流石に無理があります。こちらでの仕事も外せないものもありますし」「煩せぇーっ! 今、俺を自由にしなきゃ、この先の俺は使いもんになんなくなんぞっ! それでもいいのか! とにかく、一刻も早く帰れるように動けっ!」一人で結論を出した牧野に苛立ち、同時に気ばかりが焦る。あいつは一度決めたとなると、それ...

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